万葉集巻一・8番歌は、額田王の熟にき田津たつの船出の歌としてよく知られている。 後岡本宮のちのをかもとのみやに天の下知らしめしし天皇の代〈天豊あめとよ財重たからいかし日ひ足姫天皇たらしひめのすめらみこと、後に後岡本…More
万葉集3223番歌の「日香天之」と1807番歌の「帰香具礼」の解釈
万葉集3223番歌の「日香天之」と1807番歌の「帰香具礼」について、その語義を明らかにする。 霹靂かむとけの 日香天之 九月ながつきの 時雨しぐれの降れば 雁かりがねも いまだ来鳴かぬ 神かむ南備なびの 清き御田屋…More
枕詞「たたなづく」、「たたなはる」について
枕詞に「たたなづく」、また、「たたなはる」という語がある。上代の用例は次のとおりである(注1)。 倭やまとは 国の真秀まほろば たたなづく 青垣あをかき 山籠ごもれる 倭しうるはし(記歌謡30) 倭は 国の真秀らま …More
万1895の「幸命在」の訓―垂仁記の沙本毘売命と天皇との問答における「命」字を参照しながら―
一 万1895番歌は、次のように訓まれて解されている。 春去れば まづ三枝さきくさの 幸さきくあらば 後のちにも逢はむ な恋ひそ吾わぎ妹も〔春去先三枝幸命在後相莫戀吾妹〕(万1895) 春になればまず咲く、サキクサ…More
万葉集における洗濯の歌について
万葉集で洗濯の解とき洗あらいを言い表した歌に、次のようなものがある(注1)。全解の訳を添えて示す。 A橡つるばみの 解とき濯あらひ衣ぎぬの あやしくも 殊ことに着き欲ほしき この夕ゆふへかも〔橡解濯衣之恠殊欲服此暮可聞…More
令和の出典、万葉集巻五「梅花歌三十二首」の「序」について─「令」が「零」を含意することを中心に─
新元号「令和」の出典として、万葉集巻五「梅花歌三十二首」の「序」の「于レ時初春令月、気淑風和。」があげられている。本稿では、その「序」を記した大伴旅人の真意について検討し、元号の出典秘話を紹介する。 梅の花の歌三十…More
万葉集2433番歌「如数書吾命」とウケヒについて
万葉集2433番歌は原文に「水上如數書吾命妹相受日鶴鴨」とある。多くの注釈書に次のように訓んでいるが異説もある。 水の上に 数書く如き 吾が命 妹いもに逢はむと 祈うけひつるかも(万2433) 二~三句目については…More
万葉集のウケヒと夢
ウケヒについての現在の通説は次のようなものである。 ウケヒは、本来、神意を判断する呪術・占いをいう。その動詞形がウケフ。 あらかじめ「Aという事態が生ずれば、神意はaにある。Bが生ずれば、神意はbにある」というように…More
万1682番歌の「仙人」=コウモリ説
万葉集1682番歌は次のように訓まれている。 忍壁皇おさかべのみ子こに献たてまつる歌一首〈仙人やまびとの形すがたを詠めり〉〔献忍壁皇子歌一首〈詠仙人形〉〕 とこしへに 夏冬行けや 裘かはごろも 扇あふぎ放はなたぬ …More
万葉集1357番歌「足乳根乃母之其業桑尚願者衣尓着常云物乎」について
万1357番歌は難訓歌と呼ばれるほどではないがよくわかっていない。 足乳根乃母之其業桑尚願者衣尓着常云物乎 先行研究として比較的近年の注釈書からいくつか訓読文と現代語訳を拾う。 たらちねの 母ははがその業なる 桑…More
「弓食」(万2638)をユヅルと訓む理由
巻十一の「寄物陳思」歌に次のような歌がある。 梓あづさ弓ゆみ 末すゑの腹はら野のに 鷹鳥と狩がりする 君が弓ゆ弦づるの 絶えむと念おもへや〔梓弓末之腹野尓鷹田為君之弓食之将絶跡念甕屋〕(万2638) 「弓食」と書い…More
万葉集における「船装ひ」と「船飾り」について
万葉集中に、「船飾ふなかざり」、「船装ふなよそひ」と関係する歌は四首指摘されている。 八十やそ国くには 難なに波はに集ひ 船飾り〔布奈可射里〕 我あがせむ日ろを 見も人もがも(万4329) 右の一首は、足下郡あしが…More
万葉集における「足柄」の船表現について
万葉集巻十四に「足柄小舟」の歌がある。 百ももつ嶋 足柄あしがら小を舟ぶね 歩行あるき多おほみ 目こそ離かるらめ 心は思もへど(万3367) 一般に、「足柄小舟」は多くの島をあちこち漕ぎ廻る意と解されている。顕昭・…More
万葉集942番歌の「鵜にしもあれや 家念はざらむ」について
万葉集942番歌の「鵜うにしもあれや 家念おもはざらむ」については、諸説乱れ、なかなか要領を得ていない。 玉たま藻苅もかる 辛から荷にの嶋に 嶋しま廻みする 鵜うにしもあれや 家念おもはざらむ(万943)(注1)〔玉…More
万葉集3617番歌の「蝉」はツクツクボウシである説
万葉集中に「蝉せみ」という言葉を歌中に詠みこんでいるのは、遣新羅使の一行の道中の万3617番歌一首に限られる。 安あ芸国きのくにの長なが門との島にして礒いそ辺へに舶泊ふなはてして作る歌五首 石走いはばしる 滝もとど…More
万葉集の「幄」について(大伴家持作歌)─万3965・4089番歌─
大伴家持には「幄」字を使った前文、題詞の歌がある。 掾じょう大伴宿禰池主いけぬしに贈れる悲しびの歌二首〔贈掾大伴宿祢池主悲歌二首〕 忽たちまちに枉疾わうしつに沈み、旬を累かさねて痛み苦しむ。百神を祷のみ恃たのみて且…More
力士舞の歌
万葉集で鷺を直接歌った歌は一首である。 白鷺の木を啄くひて飛ぶを詠める歌 池神いけがみの 力りき士じ舞まひかも 白鷺の 桙ほこ啄くひ持ちて 飛び渡るらむ(万3831) この歌は、伎楽の一つの美女の呉女を追う外道の…More
十月(かむなづき)について
今日、十月の古語、カムナヅキ(カミナヅキ)については、神無月のことという中世の俗解が流布している。平安後期の藤原清輔・奥義抄に、「天下のもろもろの神、出雲国にゆきて、こと国に神なきが故にかみなし月といふをあやまれり」(…More
万葉集の鞘の歌について
万葉集に「鞘さや」という言葉の出てくる歌は三首、長歌、旋頭歌、短歌にそれぞれある。 大君おほきみの 命みこと畏かしこみ 見れど飽かぬ 平城なら山やま越えて 真木まき積む 泉の河の 速き瀬を 竿さをさし渡り ちはやぶる…More
枕詞「隠(こも)りくの」と「泊瀬(長谷)」の伝えるところ
「隠こもりくの」は泊はつ瀬せ(長谷、初瀬)を導く枕詞とされている。万葉集に、「隠りくの」が「泊瀬」にかかる例が十八例あるほか、「隠りくの 豊泊とよはつ瀬道せぢは〔隠口乃豊泊瀬道者〕」(万2511)が一例ある。コモリクノ…More
「石上(いそのかみ) 布留(ふる)」の修飾と「墫(もたひ)」のこと
万葉集で「石上いそのかみ(ソ・ミは甲類、ノは乙類) 振ふる」と続く歌は次のとおりである。 ➀石上いそのかみ 振ふるの山なる〔石上振乃山有〕 杉群すぎむらの 思ひ過ぐべき 君にあらなくに(万422) ➁石上 振の神杉か…More
三輪で杉の木を「斎(いは)ふ」のは、甑(こしき)による
万葉歌に「杉すぎ(ギは乙類)」が登場するのは以下の十二例で、神木(注1)と目されるのは➀~➈である。 ➀味酒うまさけを 三輪の祝はふりが 忌いはふ杉〔忌杉〕 手触てふれし罪か 君に逢ひ難き(万712) ➁御幣帛みぬさ…More
ヤマトコトバを学ぶ人のために
ヤマトコトバを学ぶ人がどのように学んだらよいか、参考文献や研究方法について述べてみたいと思います。 まず第一に、言葉とは何か? について考えなくてはなりません。そのために、 ウィトゲンシュタイン『哲学探究』 が良いので…More