和名類聚抄データベース(私訓付)

〈はしがき〉
 和名類聚抄は辞書研究の対象となっている。狩谷棭斎が箋注を施し、文字の校勘、引書の正誤等くまなく調査している。研究者によって今日まで折に触れ再検証が行われている(注1)。中古に成った辞書がいかに成ったか、また、狩谷棭斎の足跡についても多く語られる。
 一方、和語の研究上からは、どのような言葉がどのような理解のもとで使われていたかという点で和名類聚抄の資料的価値は高く、個別具体的に一語一語についてが焦点となっている。言語とは使用である(ウィトゲンシュタイン)から、和名類聚抄に記載されている言葉をそのままに受け取って検討の助けとしたい。また、言語は体系である(ソシュール)から、なるべく多くの領域をカバーして見渡すことが望ましい(注2)。よく知られる掛詞で言えば、マツという言葉は wait と pinetree を両用している。「待つ」という語しか知らず「松」という語を知らなければ、歌の修辞はわからず、歌とは縁のない人生を送ることになる。
 源順は万葉集の訓を模索していたと伝えられる。「左右」とあるのを何と訓んだらいいのか悩んでいて、馬を操る人が左右の手を馬の体に当てて動かないように指示しているところを目にし、マデ(待て)と訓むのだと気づいたという(石山寺縁起)。言葉と文字との間の不思議な関係を深慮していた。自ら編んだ和名類聚抄にもその影を落とさないはずはなかろう。記載語の全体像を把握しようと努めることは、当時の言葉がどのようなものであったか、源順の目を通してではあるが理解することにつながり、多くの示唆が得られるに違いない(注3)

〈凡例〉
 和名類聚抄の底本は箋注本とした。活字については可能な限り箋注本に近い字体を探した(注4)。箋注本に付されている読点、返り点にも多く依っているが、私に改めたところもある。
 割注は〈 〉で囲み、棭斎が二十巻本から補っている部分の四角囲みは[ ]で囲んだ。
 文字の校訂箇所には「*原本○」と傍書した。ここでいう「原本」は箋注本のことである。
 訓読については書入本ほか諸書を参照した。和名の清濁は古い段階の訓みに従う傾向をとった。
 「○○に云はく、……といふ」形式の大系本日本書紀の訓読スタイルを採用したところが多い。音読み、訓読みの選択については有意の場合もあればそうでないこともある。割注部分がすぐ上の語を説明していると判断されるときには訓読文に挿入する形のままにし、和書による注釈となっているところではそれが上の語の注釈であることを反映させるべく訳出した。いずれ前述の説明を補強する形で綴っているところが多い。
(例1)
食指 左傳云、食指、楊氏漢語抄云、頭指、比斗佐之乃於與比、野王案、第二指也、
とあるのは、
食指 『左傳』云、「食指 楊氏漢語抄云「頭指比斗佐之乃於與比」、野王『案』、「第二指也」、
のことで、
食指 左伝に云はく、食指〈楊氏漢語抄に云ふ頭指、比斗佐之乃於与比ひとさしのおよび〉といふ。野王案ずるに、第二指なりとす。
と訳した。
 親字「食指」について説明する形で pointer finger について述べている(注5)。それは、楊氏漢語抄では「頭指」と示されていて、ヒトサシノオヨビと言うのだと書いてある。また、野王のかんがえるところでは、第二指なのだと定めている。源順は以上のことをここで記していると考え、訳出した。
(例2)
淺甕 日本紀私記云、淺甕、佐良介、本朝式云、瓼、和名上同、今案所󠄁出未詳、
とあるのは、
淺甕 『日本紀私記』云、「淺甕佐良介」、『本朝式』云、「瓼 和名上同、今案所󠄁出未」、
のことで、
浅甕 日本紀私記に云ふ浅甕〈佐良介さらけ〉。本朝式に云ふ瓼〈和名は上に同じ、今案ふるに出づる所未だ詳かならず〉。
と訳した。
 親字「淺甕」について説明するのに漢書が見当たらなかったか和書を列挙している。和書のため訓のみで説明が完結する。すべては訓みの問題に行き着いており、書名は引用元を提示しているにすぎない。そこで、「○○に云はく、……といふ」形式を約して「○○に云ふ……」とした。しかも、後者の本朝式では「瓼」に訓が付せられていたのではなく口伝でサラケと訓むとされていたようで、出所は未詳と断るために「今案」と指定している。「今案」以降は「和名上同」に限っての補足で、「和名は上に同じなのは今案ふるに……」という構造であるが、そう訳すとその説明文だけで完結してしまい、「瓼」字のルビの義を示す階層にあった本来が忘れられかねないため簡素なつくりのままとした。

(注)
(注1)近年では、『箋注倭名類聚抄』研究会による注釈研究の一部が『水門─言葉と歴史─』に掲載されている。
(注2)源順の和名類聚抄には、文字や引書等に多くの誤りがあることが指摘されている。しかし、それを問うて糺すことは、この国の中古に現れてしまっている和名類聚抄という書物の存在にとってはあまり意味のない、あるいは、無関係な検討に当たるものである。それらをひっくるめてすべてを明らかにするために、箋注倭名類聚抄の全注全訳を施そうとした試みとして、不破『箋注倭名類聚抄の研究』が挙げられる。
(注3)AIではないのですべて理解し切ることはできない。訓読文にはAIの機械学習に苦手なルビを多用している。和名類聚抄において仮名はルビであった。ヤマトコトバや日本語の素性については、これらの点を熟々考えるだけでも導かれることは多いだろう。
(注4)狩谷棭斎・箋注倭名類聚抄は国立国会図書館デジタルコレクションに収蔵がある(http://id.ndl.go.jp/bib/000000547640)。和名類聚抄のデータベースは、国立国語研究所「二十巻本和名類聚抄〈古活字版〉」(日本語史研究用テキストデータ集https://www2.ninjal.ac.jp/textdb_dataset/kwrs/、2017年11月9日公開)、劉冠偉・武倩・申雄哲・韓一・藤本灯「本草和名と古活字版和名類聚抄の全文テキストデータ (附:和名索引)」『デジタル・ヒューマニティーズ』第4巻第1号、2025年(京都大学学術情報リポジトリhttp://hdl.handle.net/2433/292626、Unicode 3.1(拡張漢字B)まで対応という)。十巻本の校勘翻刻の例としては、林2002.がある。
 インターネットで閲覧可能な写本としては、尾州大須宝生院蔵倭名抄残篇(国立国会図書館デジタルコレクションhttps://dl.ndl.go.jp/pid/2536071)、大須本摸刻零本(早稲田大学古典籍総合データベースhttps://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ho02/ho02_00256/index.html)、京本(国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2545186)、下総本(早稲田大学古典籍総合データベースhttps://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ho02/ho02_00399/index.html)がある。
 その他刊行本としては、馬渕和夫編著『古写本和名類聚抄集成 第二部 十巻本系古写本の影印対照』(勉誠出版、2008年)、館蔵史料編集会『国立歴史民俗博物館蔵 貴重典籍叢書 文学篇 第二十二巻〈辞書〉』(臨川書店、1999年)などがあり、現存主要諸本と複製状況は、山田2017.に解説されている。
(注5)和漢で異なる対象に当てられている漢字が同一項目のなかで説明されることもある。漢文本文は標目の注釈説明ではなく、漢字表記の本文であると考えられている(不破1997.25頁)。筆者が「標目」と呼ばず、「親字」(見出し語)とした理由もそこにある。事典ではなく字典に近い性質の辞典ということになる。次の例の場合、親字は本文に再現されない。
蔔子 本草云、蔔藤、上音福、一名烏𧄏、音伏、阿介比、崔禹食經云、附通󠄁子、
 親字の「蔔子」は前の「茄子」「郁子」等と合わせる形で語として抽出されている。和名抄は表記の規範となることも目指していたようである(不破『巻一ー三』900頁)。この「蔔子」は本草の「蔔藤」から採ったと考えられるのでこれを中心的な本文と見据え、同じものは崔禹食経では附通子と呼んでいると付け加えられていると見た。割注としていないのはそれが漢籍ゆえのことと考える。
蔔子 本草に云はく、蔔藤〈上の音は福〉、一名は烏𧄏〈音は伏、〉といふ。崔禹食経に云ふ附通子。

(文中に詳細記載以外の文献)
不破『箋注倭名類聚抄の研究』 不破浩子『箋注倭名類聚抄の研究』(巻一ー序、巻一ー一、巻一ー二、巻一ー三、巻一ー四、巻二ー一、巻二ー二、巻二ー三、巻三ー一、巻三ー二)(?、巻二ー一以降は奈良女子大学文学部国語国文学科遠藤研究室発行(1990年8月、1991年2月、同年8月、1992年2月)、巻三ー二は長崎大学教養部発行(1993年8月))
不破1997. 不破浩子「古辞書で調べる━『和名類聚抄』を中心として━」『日本語学』第16巻第12号、1997年11月。
林2002. 林忠鵬『和名類聚抄の文献学的研究』勉誠出版、平成14年。
山田2017. 山田健三「『和名類聚抄 高山寺本』解題」『新天理図書館善本叢書 第七巻 和名類聚抄 高山寺本』天理図書館出版部、2017年。
『水門─言葉と歴史─』第30・31・32号、2021年11月・2024年3月・2025年3月。



竊以、延長第四公主󠄁、柔德早樹、淑姿如花、呑湖陽於〓〔月偏に匋〕陂、籠山陰於氣岸、年纔七歲、初謁先帝、先帝以其姿貌言笑、毎事都雅、特鐘愛焉、即賜御府箏、手教授其譜、公主󠄁天然聰高、學不再問、一二年間、能究妙曲、十三絃上更奏新聲、自醍醐山陵、雲愁水咽、永辭魏闕之月、不秦箏之塵、時々慰幽閑者、書畫之戱而己、於是因點成蠅之妙、殆上屛風、以筆廻鸞之能、𡖋巧垂露、漸辨八軆之字、豫訪万物之名、其教曰、我聞思拾芥者、好探義實、期折桂者、競採󠄁文華、至于和名、弃而不屑、是故雖一百帙文舘詞林、三十卷白氏事類、而徒偹風月之興、難世俗之疑、適󠄁可其疑者、辨色立成、楊氏漢語抄、大醫博󠄁士深根輔仁、奉勅撰集和名本草、山州員外刺史田公望、日本紀私記等也、然猶養老所傳、楊說纔十部、延喜所撰、藥種只一端、田氏私記一部三卷、古語多載、和名希存、辨色立成十有八章、與楊家說、名異實同、編󠄁錄之間、頗有長短、其餘漢語抄不何人撰、世謂之甲書、或呼爲業書、甲則開口裒揚之名、業是服膺誦習之義、俗說兩端、未其一矣、又其所撰錄名、音義不見、浮󠄁僞相交、海峭爲䖣、河魚爲𫚄、祭樹爲榊、澡器爲楾等是也、汝集彼數家之善說、令我臨文無疑焉、㒒之先人、幸忝公主󠄁之外戚、故㒒得其草隷之神妙、㒒之老母、𡖋陪公主󠄁之下風、故㒒得其松容之教命、固辭不許、遂󠄂用修撰、或漢語抄之文、或流俗人之說、先舉本文、正說各附出於其注󠄁、若本文未詳、則直舉辨色立成、楊氏漢語抄、日本紀私記、或舉類聚國史、萬葉集、三代式等所用之假字、水獸有葦鹿之名、山鳥有稻𧴥之號、野草之中女郎花、海苔之屬於期菜等是也、至於期菜、所謂六書法、其五曰假借、本無其字、依聲託事者乎、內典、梵語、𡖋復如是、非據、故以取之、或復有其音于俗、雖和名、既是要用、石名之礠石、礬石、香名之沉香、淺香、法師具󠄁之香爐、錫杖、畫師具󠄁之燕脂、胡粉等是也、或復有俗人知其訛謬、不改易、鮏訛爲鮭、榲讀如杉、鍛冶之音、誤󠄁渉鍜治、蝙𧍗之名、僞用蝛蛦等是也、若此之類、注󠄁加今案、聊明故老之說、略述󠄁閭巷之談、摠而謂之、欲近󠄁於俗、便於事、臨忽忘掌、不異名、別號、義深旨廣、有于披覽焉、上舉天地、中次人物、下至草木、勒成十卷、々中分部、々中分門、廿四部百廿八門、名曰和名類聚抄、古人有言、街談巷說、猶有採󠄁、㒒雖誠淺學、而所注󠄁緝、皆出前󠄁經、舊史、倭漢之書、但刊謬補闕、非才分所__及、內慙公主󠄁之照覽、外愧賢智之盧胡耳、
ひそかにおもひみれば、延長の第四公主は柔徳早くち、淑姿花のごとし。湖陽を胸陂に呑み、山陰を気岸にむ。年かに七歳にして初めて先帝にまみゆ。先帝、其の姿貌言笑の、事ごとに都雅なるを以てことに鍾愛したまふ。即ち御府のしやうのことを賜ひ、手づから其の譜を教授したまふ。公主、天然に聡高にして、学ぶに再問せず。一、二年の間に能く妙曲を究め、十三絃の上に更に新声を奏す。醍醐山陵、雲愁水咽より、永く魏闕の月を辞し、秦箏の塵を払はず。時々よりよりに幽閑を慰むるは書画の戯のみ。是に於いて点に因りて蠅と成すの妙、ほとほと屏風にのぼり、筆を以て廻鸞の能も亦、垂露に巧みなり。やうやく八体の字をわきまへ、予め万物の名をひたまふ。其の教にはく、「我聞く、拾芥を思ふ者は好みて義の実を探り、折桂を期する者は競ひて文の華を採るといふ。和名に至りては棄てて不屑もののかずともせず。是の故に、一百帙の文館詞林、三十巻の白氏事類と雖も、ただに風月の興に備へて世俗の疑ひを決し難し。たまたま其の疑ひを決すべき者は、弁色立成、楊氏漢語抄、大医博士深根輔仁の勅を奉じて撰集せる和名本草、山州員外刺史田公望の日本紀私記等なり。然れども猶ほ養老の伝ふる所の楊説は纔かに十部、延喜に撰する所の薬種は只一端のみ。田氏私記一部三巻は古語多く載せ、和名希に存す。弁色立成十有八章は楊家説と名は異なれど実は同じ。編録の間に頗る長短有り。其の余の漢語抄は何人の撰なるか知らず。世に之れを甲書と謂ひ、或は呼びて業書とす。甲は則ち開口褒揚するの名、業は是れ服膺誦習するの義なり。俗説両端にして、未だ其の一を詳かにせず。又、其の撰録する所の名に音義見えず、浮偽相交はれり。海蛸に䖣と為し、河魚に𫚄と為し、祭樹を榊と為し、澡器を楾と為す等是れなり。汝、彼の数家の善説を集め、我をして文に臨みて疑ふ所無からしめよ」といふ。僕の先人、幸ひに公主の外戚たるをかたじけなくす、故に僕、其の草隷の神妙なるを見るを得たり。僕の老母も亦、公主の下風にはべり。故に僕、其の松容の教命を蒙ることを。固辞するも許されず、遂に用て修撰す。或は漢話抄の文、或は流俗人の説は、先づ本文を挙げ、正説をおのおの其の注に付出す。し本文、未だ詳かならざるときには直ちに弁色立成、楊氏漢語抄、日本紀私記を挙げ、或は類聚国史、万葉集、三代式等に用ゐる所の仮字を挙ぐ。水獣には葦鹿の名有り、山鳥には稲負いなおほせどりの号有り、野草の中の女郎花、海苔のたぐひの於期菜等是れなり。於期菜のごとき者に至りては、所謂いはゆる六書の法に其の五を仮借と曰ひ、もと、其の字無く声に依りて事をくる者か。内典の梵語も亦、またくのごとく拠る所無きには非ず。故に以て之れを取る。或は復、其の音を以て俗に用ゐる者有り。和名に非ずと雖も既に是れ用ゐるを要す。石の名の磁石、礬石、香の名の沈香、浅香、法師の具の香炉、錫杖、画師の具の燕脂、胡粉等是れなり。或は復、俗人其の訛謬を知りても改めふること能はざる者有り。鮏をあやまりて鮭と為し、榲を読みて杉のごとく、鍛冶の音を誤りて鍜治にわたり、蝙𧍗の名に偽りて蝛蛦を用ゐる等是れなり。此くのごときの類は、注に「今案」を加へ、聊か故老の説を明らかにし、ほぼ、閭巷の談を述ぶ。摠じて之れを謂へば、俗に近く、事に便にせんと欲して、忽忘に臨みてたなごころを指すがごとし。異名、別号、義深く旨広くして、披覧に煩ひ有ることを欲せず。かみに天地を挙げ、中に人物を次ぎ、下に草木に至る。勒して十巻と成す。巻の中を部に分ち、部の中を門に分ち、二十四部百二十八門、名けて和名類聚抄とまをす。古人いにしへのひと、言へること有り、街談巷説も猶ほ採るべき有りと。僕、誠に浅学と雖も、注緝する所、皆、前経、旧史の倭漢の書より出づ。但しあやまりをけづけたるを補ふは、才分の及ぶ所に非ず。内に公主の照覧を慙ぢ、外に賢智の盧胡を愧づるのみ。

卷第一
巻第一
 天地部第一 人倫部第二
 天地部第一 人倫部第二
天地部第一
天地部第一
 景宿類一 風雨類二 神靈類三〈有天神地神故取於此部、〉 水土類四 山石類五 田野類六
 景宿類一 風雨類二 神霊類三〈天神、地神有り、故に此の部に取る〉 水土類四 山石類五 田野類六

景宿類一〈宿音秀、夜宿之處、息逐󠄁反、〉
景宿類一〈宿の音は秀、夜宿の処、息逐反〉
日 造󠄁天地經云、佛令寳應聲菩薩造󠄁__日、
日 造天地経に云はく、仏、宝応声菩薩をして日を造らしむといふ。
陽烏 歷天記云、日中有三足烏、赤色、〈今案文選󠄁謂之陽烏、日本紀謂之頭八咫烏、田氏私記云、夜太加良須、〉
陽烏 歴天記に云はく、日の中に三足の烏有りて赤き色といふ〈今案ふるに文選に之れを陽烏と謂ひ、日本紀に之れを頭八咫烏やあたがらすと謂ふ、田氏私記に云ふ夜太加良須やたがらす〉。
月 造󠄁天地經云、佛令吉祥菩薩造󠄁__月、
月 造天地経に云はく、仏、吉祥菩薩をして月を造らしむといふ。
弦月 劉熈釋名云、弦、〈此間云、由美波利、有上弦下弦、〉月半󠄁之名也、言其形一旁曲一旁直、若弓弦也、
弦月 劉煕釈名に云はく、弦〈此間ここに云ふ由美波利ゆみはり、上弦、下弦有り〉は月半ばの名なりといふ。言ふは其の形、一旁は曲、一旁は直にして、弓弦を張るがごときなればなり。
望月 釋名云、望、〈此間云、望月、毛知豆歧、〉月大十六日、小十五日、日在東、月在西、遙相望也、
望月 釈名に云はく、望〈此間に云ふ望月、毛知豆岐もちづき〉は、月の大なるは十六日、小なるは十五日、日は東に在り月は西に在り、遥かにあひ望むなりといふ。
暈 郭知玄切韻云、暈、〈音運、此間云、日月賀佐、弁色立成云、月院、〉氣繞日月也、
暈 郭知玄切韻に云はく、暈〈音は運、此間に云ふつき賀佐かさ、弁色立成に云ふ月院〉は気の日月をめぐるなりといふ。
蝕 釋名云、日月虧曰蝕、〈音食、〉稍小浸虧、如虫食草木葉、故字從虫食也、
蝕 釈名に云はく、日月のくるを蝕〈音は食〉と曰ひ、稍小しく浸虧すること、虫の、草木の葉を食するがごとし、故に字は虫、食に従ふなりといふ。
星 說文云、星、〈桑經反、保之、〉萬物精上所󠄁生也、
星 説文に云はく、星〈桑経反、保之ほし〉は万物の精、かみに生ずる所なりといふ。
明星 兼名菀云、歲星、一名明星、〈此間云、阿加保之、〉
明星 兼名苑に云はく、歳星、一名は明星〈此間に云ふ阿加保之あかぼし〉といふ。
長庚 兼名苑云、大白星、一名長庚、〈此間云、由布都々、〉暮見於西方長庚耳、
長庚 兼名苑に云はく、大白星、一名は長庚といふ〈此間に云ふ由布都々ゆふづつ〉。暮に西方に見ゆるを長庚とすのみ。
牽牛 爾雅注󠄁云、牽牛、一名河皷、〈和名比古保之、一云以奴加比保之、〉
牽牛 爾雅注に云はく、牽牛、一名は河皷といふ〈和名は比古保之ひこぼし、一に云ふ以奴加比保之いぬかひぼし〉。
織女 兼名菀注󠄁云、織女、〈和名多奈波太豆女、〉牽牛疋也、
織女 兼名苑注に云はく、織女〈和名は多奈波太豆女たなばたつめ〉は牽牛のつれあひなりといふ。
流星 兼名菀注󠄁云、流星一名奔星、〈和名與波比保之、〉
流星 兼名苑注に云はく、流星、一名は奔星といふ〈和名は与波比保之よばひぼし〉。
彗星 兼名菀注󠄁云、彗星、〈彗音遂󠄂、一音歲、和名波々歧保之、〉言其形如箒篲也、
彗星 兼名苑注に云はく、彗星〈彗の音は遂、一音に歳、和名は波々岐保之ははきぼし〉といふ。言ふは其の形、箒篲のごときなればなり。
昴星 宿耀經云、昴、〈音與卯同、和名須波流、〉六星火神也、
昴星 宿耀経に云はく、昴〈音は卯と同じ、和名は須波流すばる〉は六星、火神なりといふ。
天河 兼名菀云、天河、一名天漢、〈今案又一名漢河、一名銀河、和名阿萬乃加波、〉
天河 兼名苑に云はく、天河、一名は天漢といふ〈今案ふるに、又、一名は漢河、一名は銀河、和名は阿万乃加波あまのがは〉。

風雨類二

風雨類二
風 春秋元命苞云、陰陽怒而爲風、
風 春秋元命苞に云はく、陰陽いかりて風と為るといふ。
飊 文選󠄁詩云、廻飊卷高樹、〈飊音焱、和名豆无之加世、〉兼名菀注󠄁云、飊者暴風從下而上也、
飈 文選詩に云はく、廻飈、高樹を巻くといふ〈飈の音は炎、和名は豆無之加世つむじかぜ〉。兼名苑注に云はく、飈なる者は暴風のしもよりのぼるなりといふ。
嵐 孫愐切韻云、嵐〈盧含反、和名阿良之、〉山下出風也、
嵐 孫愐切韻に云はく、嵐〈盧含反、和名は阿良之あらし〉は山下、風を出すなりといふ。
暴風 史記云、暴風雷雨、〈漢語抄云、暴風、波夜知、又能和歧乃加世、〉
暴風 史記に云はく、暴風雷雨すといふ〈漢語抄に云ふ暴風、波夜知はやち、又、能和岐乃加世のわきのかぜ〉。
大風 漢書云、大風吹兮雲飛揚、〈大風、此間云、於保加世、〉
大風 漢書に云はく、大風吹きたり、雲飛揚すといふ〈大風は此間に云ふ於保加世おほかぜ〉。
微風 崔豹古今注󠄁云、柳微風大搖、〈微風、此間云、古加世、〉
微風 崔豹古今注に云はく、柳、微風ふきて大いに揺るといふ〈微風は此間に云ふ古加世こかぜ〉。
雲 說文云、雲、〈王分反、和名久毛、〉山川出氣也、
雲 説文に云はく、雲〈王分反、和名は久毛くも〉は、山川、気を出だすなりといふ。
霞 唐韻云、霞、〈胡加反、和名加須美、〉赤氣雲也、
霞 唐韻に云はく、霞〈胡加反、和名は加須美かすみ〉は赤気の雲なりといふ。
霧 爾雅云、地氣上天曰霧、〈亡遇󠄁反、與務同、和名歧利、今案又水氣也、老子經云、在天為霧露、在地爲泉源、是也、〉兼名菀云、一名雺、〈音蒙、〉一名雰、〈音分、〉水氣着樹木雰也、
霧 爾雅に云はく、地気の、天に上るを霧〈亡遇反、務と同じ、和名は岐利きり、今案ふるに、又、水気なり。老子経に云はく、天に在りて霧露と為り、地に在りて泉源と為るといふは是れなり〉と曰ふといふ。兼名苑に云はく、一名は雺〈音は蒙〉、一名は雰〈音は分〉、水気の、樹木に着きて雰と為るなりといふ。
虹 毛詩注󠄁云、螮蝀、〈帝董二音、螮𡖋作蝃、和名爾之、〉虹也、兼名菀云、虹一名蜺、〈五稽反、與鯢同、又五結、五擊二反、今案雄曰虹、雌曰蜺也、〉
虹 毛詩注に云はく、螮蝀〈帝董の二音、螮は亦、蝃に作る、和名は爾之にじ〉は虹なりといふ。兼名苑に云はく、虹、一名は蜺〈五稽反、鯢と同じ、又、五結、五撃二反、今案ふるに、雄を虹と曰ひ、雌を蜺と曰ふなり〉といふ。
雨 說文云、雨、〈音禹、阿女、〉水從雲中而下也、
雨 説文に云はく、雨〈音は禹、阿女あめ〉は水の雲中より下るなりといふ。
霡霂 兼名菀云、細雨一名霡霂、〈小雨也、麥木二音、〈已上本注󠄁、〉和名古佐女、〉
霡霂 兼名苑に云はく、細雨、一名は霡霂といふ〈小雨なり、麦木の二音〈已上は本注〉、和名は古佐女こさめ〉。
霖 兼名菀注󠄁云、霖、〈音林、和名奈加阿女、今案一名連雨、一名苦雨、〉三日以上雨也、爾雅注󠄁云、霖一名霪、〈音淫、〉久雨也、
霖 兼名苑注に云はく、霖〈音は林、和名は奈加阿女ながあめ。今案ふるに、一名は連雨、一名は苦雨〉は三日以上の雨なりといふ。爾雅注に云はく、霖、一名は霪〈音は淫〉、ひさしき雨なりといふ。
霈 文字集略云、霈、〈音沛、〉大雨也、日本紀私記云、大雨、〈比佐女、〉雨氷、〈上同、今案俗云比布留、〉
霈 文字集略に云はく、霈〈音は沛〉は大雨なりといふ。日本紀私記に云ふ大雨〈比佐女ひさめ〉、雨氷〈上に同じ、今案ふるに俗に云ふ比布留ひふる〉。
暴雨 楊氏漢語抄云、白雨、〈和名无良佐女、弁色立成說同、〉暴雨一種也、
暴雨 楊氏漢語抄に云はく、白雨〈和名は無良佐女むらさめ、弁色立成の説同じ〉は暴雨の一種なりといふ。
霤〈潦等附、〉 說文云、霤、〈音與溜同、和名阿末之太利、〉屋簷前󠄁雨水流下也、唐韻云、潦、〈音老、和名尒波太豆美、〉雨水也、淮南子注󠄁云、沫雨、〈和名宇太加太、〉雨潦上沫起󠄁若盆也、
霤〈潦等付〉 説文に云はく、霤〈音は溜と同じ、和名は阿末之太利あましだり〉は屋ののきの前の雨水流れ下るなりといふ。唐韻に云はく、潦〈音は老、和名は爾波太豆美にはたづみ〉は雨水なりといふ。淮南子注に云はく、沫雨〈和名は宇太加太うたかた〉は雨ふりて潦上に沫起ること、盆を覆すがごときなりといふ。
𩅧雨 孫愐曰、𩅧〈音與終同、漢語抄云、之久禮、〉小雨也、
𩅧雨 孫愐曰はく、𩅧〈音は終と同じ、漢語抄に云ふ之久礼しぐれ〉は小雨なりといふ。
霜〈𩅀附〉 陸詞曰、霜〈音蒼、和名之毛、〉凝露也、說文云、𩅀、〈丁念反、和名波豆之毛、〉早霜也、
霜〈𩅀付〉 陸詞曰はく、霜〈音は蒼、和名は之毛しも〉は凝る露なりといふ。説文に云はく、𩅀〈丁念反、和名は波豆之毛はつしも〉は早霜なりといふ。
雪󠄁󠄁 陸詞曰、雪󠄁󠄁、〈音切、字亦作䨮、和名由歧、日本紀私記云、沫雪󠄁阿和由歧、其弱󠄁如水沫、故云沫雪󠄁也、〉冬雨也、五經通󠄁義云、陽則散爲雨水、寒則凝爲霜雪󠄁、皆從地而昇者也、
雪 陸詞曰はく、雪〈音は切、字は亦、䨮に作る、和名は由岐ゆき、日本紀私記に云はく、沫雪は阿和由岐あわゆき、其の弱きこと水の沫のごとし、故に沫雪と云ふなりといふ〉は冬の雨なりといふ。五経通義に云はく、陽なるときには散じて雨水と為り、寒なるときには凝りて霜雪と為る、皆、地よりして昇る者なりといふ。
雹 陸詞曰、雹、〈蒲角反、和名阿良禮、〉雨氷也、
雹 陸詞曰はく、雹〈蒲角反、和名は阿良礼あられ〉は雨氷なりといふ。
霰 爾雅注󠄁云、霰、〈七見反、字𡖋作𩆵、和名美曾禮、〉氷雪󠄁󠄁雜下也、
霰 爾雅注に云はく、霰〈七見反、字は亦、𩆵に作る、和名は美曽礼みぞれ〉は氷雪のまじり下るなりといふ。
[霙 孫愐云、霙、〈音於驚反、文選󠄁雪󠄁賦、師說曰三曾禮、〉雨雪󠄁相雜也、]
[霙 孫愐云はく、霙〈音は於驚反、文選雪賦の師説に曰ふ三曽礼みぞれ〉は雨雪相雑るなりといふ。]
露〈甘露附〉 三禮義宗云、白露八月節、寒露九月節、〈露音路、和名都由、〉白虎通󠄁云、甘露美露也、降則物無美盛矣、
露〈甘露付〉 三礼義宗に云はく、白露は八月の節、寒露は九月の節といふ〈露の音は路、和名は都由つゆ〉。白虎通に云はく、甘露は美しき露なり、降るときには物、美盛ならざること無きなりといふ。

神靈類三

神霊類三
天神 周󠄀易云、天神曰神、〈食隣反、和名賀美、日本紀私記云、安末豆夜之呂、〉
天神 周易に云はく、天神を神〈食隣反、和名は賀美かみ、日本紀私記に云ふ安末豆夜之呂あまつやしろ〉と曰ふといふ。
地神 周󠄀易云、地神曰祗、〈巨支反、日本紀私記云、久邇豆夜之路、〉
地神 周易に云はく、地神を祗〈巨支反、日本紀私記に云ふ久邇豆夜之路くにつやしろ〉と曰ふといふ。
人神 周󠄀易云、人神曰鬼、〈居偉反、和名於邇、或說云、於邇者隱音之訛也、鬼物隱而不形、故以稱也、〉唐韻云、吳人曰鬼、越人曰𩴆、〈音蟣、又音祈、〉四聲字菀云、鬼人死神魂也、
人神 周易に云はく、人神を鬼〈居偉反、和名は於邇おに、或説に云はく、於邇おになる者は隠の音の訛りなり、鬼物は隠れて形を顕すを欲せず、故に以て称するなりといふ〉と曰ふといふ。唐韻に云はく、呉人は鬼と曰ひ、越人は𩴆〈音は蟣、又、音は祈〉と曰ふといふ。四声字苑に云はく、鬼は人の死にたる神魂なりといふ。
靈 四聲字菀云、靈、〈郎丁反、日本紀私記云美太万、一云美加介、又用魂魄二字、〉通󠄁神也、
霊 四声字苑に云はく、霊〈郎丁反、日本紀私記に云ふ美太万みたま、一に云ふ美加介みかげ、又、魂魄の二字を用ゐる〉は通神なりといふ。
天一神 百忌經云、天一神、〈和名奈加々美、〉天女化󠄁身也、
天一神 百忌経に云はく、天一神〈和名は奈加々美なかがみ〉は天女の化身なりといふ。
太白神 新撰陰陽書云、太白神、〈和名比度比米久利、〉
太白神 新撰陰陽書に云はく、太白神〈和名は比度比米久利ひとひめぐり〉といふ。
雷公〈霹靂電附〉 兼名苑云、雷公、一名雷師、〈雷音力回反、和名奈流加美、一云以加豆知、〉釋名云、霹靂、〈辟歷二音、和名加美渡計、〉霹析也、靂歷也、所󠄁歷皆破析也、玉篇云、電、〈音甸、和名以奈比加利、一云以奈豆流比、又云以奈豆末、〉雷之光也、
雷公〈霹靂電付〉 兼名苑に云はく、雷公、一名は雷師といふ〈雷の音は力回反、和名は奈流加美なるかみ、一に云ふ以加豆知いかづち〉。釈名に云はく、霹靂〈辟歴の二音、和名は加美渡計かみとけ〉の霹はくるなり、靂はるなり、歴る所、皆破り析くるなりといふ。玉篇に云はく、電〈音は甸、和名は以奈比加利いなびかり、一に云ふ以奈豆流比いなつるび、又云ふ以奈豆末いなづま〉は雷の光なりといふ。
山神 內典云、山神、〈和名山乃賀美、〉日本紀私記云、山祇、〈師說夜万都美、〉
山神 内典に云ふ山神〈和名はやま乃賀美のかみ〉、日本紀私記に云ふ山祇〈師説に夜万都美やまつみ〉。
海神 文選󠄁海賦云、海童於是宴語、〈海童即海神也、〉日本紀私記云海神、〈和名和多豆美、〉
海神 文選海賦に云はく、海童はここに宴語すといふ〈海童は即ち海神なり〉。日本紀私記に云ふ海神〈和名は和多豆美わたつみ〉。
河伯神 兼名菀云、河伯、一名水伯、〈河神也〈已上本注󠄁、〉和名加波乃加美、〉
河伯神 兼名苑に云はく、河伯、一名は水伯といふ〈河神なり〈已上は本注〉、和名は加波乃加美かはのかみ〉。
[旱魃 孫愐切韻云、魃、〈步末反、和名比天利乃加美、〉旱神也、]
[旱魃 孫愐切韻に云はく、魃〈歩末反、和名は比天利乃加美ひでりのかみ〉は旱神なり。]
土公 董仲舒書云、土公、[〈駑空二反、〉]春三月在竃、夏三月在門、秋三月在井、冬三月在庭、
土公 董仲舒書に云はく、土公[〈駑空二反〉]は、春つきは竈にり、夏三月は門に在り、秋三月は井に在り、冬三月は庭に在りといふ。
產靈 日本紀私記云、產靈、〈无湏比乃賀美、〉
産霊 日本紀私記に云ふ産霊〈無須比乃賀美むすひのかみ〉。
道祖 風俗通󠄁云、共工氏之子好遠󠄁遊󠄁、故其死後、祀以爲祖神、〈漢語抄云、道祖、佐部乃加美、〉
道祖 風俗通に云はく、共工氏の子、遠遊を好む、故に其の死後、まつりて以て祖神〈漢語抄に云ふ道祖、佐部乃加美さへのかみ〉と為すといふ。
歧神 日本紀私記云、歧神、〈布奈止乃加美、〉
岐神 日本紀私記に云ふ岐神〈布奈止乃加美ふなとのかみ〉。
道神 唐韻云、禓、〈音揚、一音傷、漢語抄云、太无介乃賀美、〉道上祭、一曰道神也、
道神 唐韻に云はく、禓〈音は揚、一音に傷、漢語抄に云ふ太無介乃賀美たむけのかみ〉は道上の祭、一に曰ふ道神なりといふ。
保食神 日本紀私記云、保食神、〈宇介毛知乃加美、〉師說、保猶保持也、宇氣者食之義也、言是保持食物之神也、
保食神 日本紀私記に云はく、保食神〈宇介毛知乃加美うけもちのかみ〉は、師説に保はほ保持するがごときなり、宇気うけは食の義なりといふ。言ふは是れ食物を保持するの神なればなり。
稻魂 日本紀私記云、稻魂、〈宇介乃美太万、俗云宇加乃美太万、〉
稲魂 日本紀私記に云ふ稲魂〈宇介乃美太万うけのみたま、俗に云ふ宇加乃美太万うかのみたま〉。
幸魂 日本紀私記云、幸魂、〈佐枳美太万、俗云佐歧太万、〉
幸魂 日本紀私記に云ふ幸魂〈佐枳美太万さきみたま、俗に云ふ佐岐太万さきたま〉。
現人神 日本紀私記云、現人神、〈阿良比度加美、〉
現人神 日本紀私記に云ふ現人神〈阿良比度加美あらひとがみ〉。
[餓鬼 孫愐切韻云、餓、〈五箇反、訓與飢同、〉久飢也、內典云、餓鬼、〈和名加歧、〉其喉如針、不水、見水則變成火、孫愐切韻云、餓鬼鬼也、]
[餓鬼 孫愐切韻に云はく、餓〈五箇反、訓は飢と同じ〉は久しく飢うるなりといふ。内典に云はく、餓鬼〈和名は加岐がき〉は其の喉、針のごとし、水を飲むこと得ず、水を見れば則ち変じて火と成るといふ。孫愐切韻に云はく、餓鬼は鬼なりといふ。]
邪鬼 日本紀私記云、邪鬼、〈安之歧毛能、〉
邪鬼 日本紀私記に云ふ邪鬼〈安之岐毛能あしきもの〉。
窮鬼 遊󠄁仙窟云窮鬼、〈師說伊歧須太萬、〉
窮鬼 遊仙窟に云ふ窮鬼〈師説に伊岐須太万いきすだま〉。
魔鬼 內典云、邪魔外道、〈魔音磨、此間音麻、〉
魔鬼 内典に云ふ邪魔外道〈魔の音は磨、此間に音は麻〉。
瘧鬼 蔡邕獨斷云、昔顓頊有三子、亡去而爲疫鬼、其一者居江水、是爲瘧鬼、〈和名衣夜美乃加美、〉
瘧鬼 蔡邕独断に云はく、昔、顓頊に三子有り、亡去して疫鬼とる、其の一なる者は江水に居り、是れを瘧鬼〈和名は衣夜美乃加美えやみのかみ〉とすといふ。
樹神 內典云、樹神、〈和名古多万、〉文選󠄁蕪城賦云、木魅山鬼、〈魅見下文、今案木魅即樹神也、〉
樹神 内典に云はく、樹神〈和名は古多万こだま〉といふ。文選蕪城賦に云ふ木魅山鬼〈魅は下文に見ゆ、今案ふるに木魅は即ち樹神なり〉。
水神 左傳注󠄁云、魍魎、〈罔兩二音、日本紀私記云、水神、美豆波、〉水神也、
水神 左伝注に云はく、魍魎〈罔両の二音、日本紀私記に云ふ水神、美豆波みつは〉は水神なりといふ。
魑魅 山海經云、魑、〈刃󠄁知反、和名須多万、〉鬼類也、唐韻云、魑魅也、玉篇云、魅〈音未、〉老物精也、
魑魅 山海経に云はく、魑〈刃知反、和名は須多万すだま〉は鬼類なりといふ。唐韻に云はく、魑は魅なりといふ。玉篇に云はく、魅〈音は未〉は老いたる物の精なりといふ。
醜女 日本紀私記云、醜女、〈志古女、〉或説、黃泉之鬼也、今世人爲小兒、稱許々女者、此語之訛也、
醜女 日本紀私記に云はく、醜女〈志古女しこめ〉、或説に黄泉の鬼なりといふ。今、世の人、小児をおそれさするに許々女こごめと称するは此の語のあやまりなり。
天探女 日本紀私記云、天探女、〈阿万乃佐久女、俗云阿万佐久女、〉
天探女 日本紀私記に云ふ天探女〈阿万乃佐久女あまのさぐめ、俗に云ふ阿万佐久女あまさぐめ〉。

水土類四

水土類四
水波 釋名云、風吹水、波成文曰漣、〈音連、和名奈美、又用波浪濤漪等字、〉波體轉相連及也、
水波 釈名に云はく、風、水を吹き、波、文を成すを漣〈音は連、和名は奈美なみ、又、波、浪、濤、漪等の字を用ゐる〉と曰ひ、波の体、転じてあひつらなりくなりといふ。
泊湘 唐韻云、泊湘、〈白柏二音、文選󠄁師說佐々良奈美、〉淺水貌也、
泊湘 唐韻に云はく、泊湘〈白柏の二音、文選の師説に佐々良奈美ささらなみ〉は浅き水のかたちなりといふ。
氷 四聲字苑云、氷、〈筆陵反、和名比、一云古保利、〉水寒凍結也、凍、〈音東、又去聲、〉寒水結氷也、
氷 四声字苑に云はく、氷〈筆凌反、和名は、一に云ふ古保利こほり〉は水寒く凍結したるなり、凍〈音は東、又、去声〉は、寒く、水の氷を結ぶなりといふ。
潮 四聲字苑云、潮、〈直遙反、字亦作淖、和名宇之保、〉海水朝夕來去波涌也、[周󠄀處風土記云、海神上朝於天、鰌鯨迎󠄁送󠄁海神、出入於穴、令水進󠄁退󠄁爲__潮、又抱朴子云、天河與地河、海水相搏擊、五水相盪、激涌而成潮、]
潮 四声字苑に云はく、潮〈直遥反、字は亦、淖に作る、和名は宇之保うしほ〉は海水、朝夕に来去し波涌くなりといふ。[周処風土記に云はく、海神上りて天に朝す、鰌鯨、海神を迎送し、穴より出入りすれば、水をして進退させ潮とさしむといふ。又、抱朴子に云はく、天河と地河と、海水とあひ搏撃し、五水相き、激しく涌きて潮と成るといふ。]
江 唐韻云、江、〈古雙反、和名衣、〉江海也、
江 唐韻に云はく、江〈古双反、和名は〉は江海なりといふ。
海 四聲字苑云、海、〈音改、和名宇美、〉百川所󠄁歸也、日本紀私記云、溟渤、〈冥勃二音、於保歧宇美、〉滄溟、〈滄音蒼、阿乎宇奈波良、〉
海 四声字苑に云はく、海〈音は改、和名は宇美うみ〉は百川の帰する所なりといふ。日本紀私記に云ふ溟渤〈冥勃の二音、於保岐宇美おほきうみ〉、滄溟〈滄の音は蒼、阿乎宇奈波良あをうなはら〉。
湖 廣雅云、湖、〈音胡、和名美豆宇美、〉大池也、
湖 広雅に云はく、湖〈音は胡、和名は美豆宇美みづうみ〉は大なる池なりといふ。
池〈楲附〉 玉篇云、池、〈直離反、和名伊介、〉蓄水也、淮南子云、决塘𤼲楲、〈音威、和名以飛、〉許愼曰、楲所󠄁以通󠄁陂竇也、
池〈楲付〉 玉篇に云はく、池〈直離反、和名は伊介いけ〉は水を蓄ふるなりといふ。淮南子に云はく、つつみを决し楲〈音は威、和名は以飛いひ〉を発すといふ。許慎曰はく、楲は陂竇を通ずる所以なりといふ。
沼 唐韻云、沼、〈之少反、和名奴、〉池沼也、
沼 唐韻に云はく、沼〈之少反、和名は〉は池沼なりといふ。
陂堤 禮記注󠄁云、蓄水曰陂、〈音碑、和名都々美、下同、〉纂要云、築土遏水曰塘、〈音唐、〉亦謂之堤、〈音低、字亦作隄、〉
陂堤 礼記注に云はく、水を蓄ふるを陂〈音は碑、和名は都々美つつみ、下同じ〉と曰ふといふ。纂要に云はく、土をき水をむるを塘〈音は唐〉と曰ひ、亦、之れを堤〈音は低、字は亦、隄に作る〉と謂ふといふ。
堰埭 唐韻云、堰、〈音*原本堰、和名井勢歧、〉堰埭壅水也、埭、〈徒耐反、與代同、〉以土遏水也、
堰埭 唐韻に云はく、堰〈音は偃、和名は井勢岐ゐせき〉は堰埭、水をふさぐなり、埭〈徒耐反、代と同じ〉は土を以て水を遏むるなりといふ。
川 爾雅云、衆流注󠄁海曰川、〈昌緣反、和名加波、又用河字、〉
川 爾雅に云はく、衆流の海に注ぐを川〈昌縁反、和名は加波かは、又、河の字を用ゐる〉と曰ふといふ。
潭 唐韻云、潭、〈徒含反、和名布知、又用淵字、〉深水也、
潭 唐韻に云はく、潭〈徒含反、和名は布知ふち、又、淵の字を用ゐる〉は深き水なりといふ。
瀨 唐韻云、湍、〈他端反、一音専、和名世、〉急瀨也、說文云、瀨、〈音賴、〉水流於砂上也、
瀬 唐韻に云はく、湍〈他端反、一音に専、和名は〉は急なる瀬なりといふ。説文に云はく、瀬〈音は頼〉は水、砂上に流るるなりといふ。
瀧 唐韻云、南人名湍曰瀧、〈呂江反、和名多歧、〉兼名苑云、飛泉、一名飛湍、〈曝布也、〉遊󠄁名山志云、城門山、兩巖間有水、形如曝布
瀧 唐韻に云はく、南人、湍を名けて瀧〈呂江反、和名は多岐たぎ〉と曰ふといふ。兼名苑に云はく、飛泉、一名は飛湍といふ〈曝布なり〉。遊名山志に云はく、城門山は両巌の間に水有り、形は曝布のごとしといふ。
温泉〈流黃附〉 宜都山川記云、佷山縣有温泉、〈一云湯泉、和名由、〉百疾久病、入此水多愈矣、本草疏云、石流黃、〈和名由乃阿和、俗云由王、〉礬石液也、又有石流丹、蓋石流黃類也、
温泉〈流黄付〉 宜都山川記に云はく、佷山県に温泉〈一に云ふ湯泉、和名は〉有り、百疾久病、此の水に入れば多くえたりといふ。本草疏に云はく、石流黄〈和名は由乃阿和ゆのあわ、俗に云ふわう〉は礬石のしるなり、又、石流丹有り、蓋し石流黄の類ならんといふ。
[淀 文選󠄁江賦注󠄁云、澱、〈當練反、訓與止美、俗用淀字、云與止、所󠄁謂淀渡也、〉與淀古字通󠄁、如淵而淺處也、]
[淀 文選江賦注に云はく、澱〈当練反、訓は与止美よどみ、俗に淀の字を用ゐ与止よどと云ふ、所謂いはゆ淀渡よどのわたりなり〉は淀と古字通じ、淵のごとくして浅き処なりといふ。]
井〈桔槹附〉 四聲字苑云、井、〈子郢反、和名爲、〉鑿地取泉也、辨色立成云、桔槹、〈加奈都奈爲、吉高二音、〉䥫索井也、
井〈桔槹付〉 四声字苑に云はく、井〈子郢反、和名は〉は地をり泉を取るなりといふ。弁色立成に云ふ桔槹〈加奈都奈為かなづなゐ、吉高の二音〉、鉄索井なり。
妙美井 日本紀私記云、妙美井〈之三豆、〉
妙美井 日本紀私記に云ふ妙美井〈之三豆しみづ〉。
溝 釋名云、田間之水曰溝、〈古侯反、和名美曾、又用渠字、〉縱橫相交構也、
溝 釈名に云はく、田の間の水を溝〈古侯反、和名は美曽みぞ、又、渠の字を用ゐる〉と曰ふ、縦横に相まじり構ふるなりといふ。
壍 四聲字苑云、壍、〈七贍反、和名保利歧、〉遶城長水坑也、
壍 四声字苑に云はく、壍〈七贍反、和名は保利岐ほりき〉は城にめぐる長き水坑なりといふ。
谿谷〈澗附〉 爾雅注󠄁云、水出山入川曰谿、〈古奚反、字亦作溪、和名太爾、下同、〉水與谿相屬曰谷、〈音穀、一音欲、見唐韵、〉野王案、壑、〈呼各反、〉猶谿谷也、釋名云、澗、〈古晏反、〉言在兩山間也、
谿谷〈澗付〉 爾雅注に云はく、水、山を出で川に入るを谿〈古奚反、字は亦、溪に作る、和名は太邇たに、下同じ〉と曰ひ、水の谿と相くを谷〈音は穀、一音に欲、唐韻に見ゆ〉と曰ふといふ。野王案ずるに、壑〈呼各反〉は猶ほ谿谷のごときなりとす。釈名に云はく、澗〈古晏反〉、言ふは両山の間に在ればなりといふ。
涯岸 爾雅集註云、水邊曰涯、〈五佳反、和名歧之、下同、〉涯陗而高曰岸、
涯岸 爾雅集注に云はく、水辺を涯〈五佳反、和名は岐之きし、下同じ〉と曰ひ、涯のけはしくして高きを岸と曰ふといふ。
浦 四聲字苑云、浦、〈傍古反、和名宇良、〉大川旁曲渚、船隱風所󠄁也、
浦 四声字苑に云はく、浦〈傍古反、和名は宇良うら〉は大川のかたはらの曲渚にして、船の風をくる所なりといふ。
渚 韓詩注󠄁云、一溢一否曰渚、〈昌與反、和名奈歧佐、〉
渚 韓詩注に云はく、一たびは溢れ一たびはしからざるを渚〈昌与反、和名は奈岐佐なぎさ〉と曰ふといふ。
濵 唐韻云、濵、〈音賓、和名波万、〉水際也、
浜 唐韻に云はく、浜〈音は賓、和名は波万はま〉は水際なりといふ。
洲 爾雅云、水中可居者曰洲、〈音州、和名湏、〉李巡󠄁曰、四方皆有水也、
洲 爾雅に云はく、水中に居すべき者を洲〈音は州、和名は〉と曰ふといふ。李巡曰はく、四方、皆水有るなりといふ。
汀 唐韵云、汀、〈他丁反、和名美歧波、〉水際平󠄁沙也、
汀 唐韻に云はく、汀〈他丁反、和名は美岐波みぎは〉は水際の平沙なりといふ。
潟 文選󠄁海賦云、海濱廣潟、〈思積反、與昔同、師說加太、〉
潟 文選海賦に云はく、海浜広潟〈思積反、昔と同じ、師説に加太かた〉といふ。
湊 說文云、湊、〈音奏、和名美奈度、〉水上人所󠄁會也、
湊 説文に云はく、湊〈音は奏、和名は美奈度みなと〉は、水上に人の会する所なりといふ。
土塊 說文云、塊、〈音會、和名豆知久禮、〉土片也、
土塊 説文に云はく、塊〈音は会、和名は豆知久礼つちくれ〉は土片なりといふ。
埴 釋名云、土黃而細密曰埴、〈常職反、和名波爾、〉
埴 釈名に云はく、土の黄にして細密なるを埴〈常職反、和名は波爾はに〉と曰ふといふ。
堊 唐韻云、堊、〈音惡、和名之良豆知、〉白土也、
堊 唐韻に云はく、堊〈音は悪、和名は之良豆知しらつち〉は白き土なりといふ。
壚 釋名云、土色黑曰壚〈音盧、和名久路豆知、〉
壚 釈名に云はく、土の色の黒きを壚〈音は盧、和名は久路豆知くろつち〉と曰ふといふ。
涅 唐韵云、涅、〈奴結反、和名久理、〉水中黑土也、
涅 唐韻に云はく、涅〈奴結反、和名は久理くり〉は水中の黒き土なりといふ。
泥 孫愐曰、泥、〈奴低反、和名比知利古、一云古比知、〉土和水也、
泥 孫愐曰はく、泥〈奴低反、和名は比知利古ひぢりこ、一に云ふ古比知こひぢ〉は土、水に和するなりといふ。
塵埃 兼名菀云、塳〓〔土偏に思〕、〈逢思二音、〉塵埃也、孫愐曰、塵埃、〈陳哀二音、和名知利、〉揚土也、
塵埃 兼名苑に云はく、塳〓〔土偏に思〕〈逢思の二音〉は塵埃なりといふ。孫愐曰はく、塵埃〈陳哀の二音、和名は知利ちり〉は土を揚ぐるなりといふ。
糞堆 辨色立成云、糞堆、〈阿久太布、上付問反、下都回反、〉
糞堆 弁色立成に云ふ糞堆〈阿久太布あくたふ、上は付問反、下は都回反〉。

山石類五

山石類五
山嶽 蔣魴曰、嶽、〈五角反、字亦作岳、訓與丘同、未詳、漢語抄云、美多介、〉高山名也、
山嶽 蒋魴曰はく、嶽〈五角反、字は亦、岳に作る、訓は丘と同じこと未だつばひらかならず、漢語抄に云ふ美多介みたけ〉は高き山の名なりといふ。
丘 周󠄀禮注󠄁云、土高曰丘、〈音鳩、和名乎加、又用岡字、正作崗、〉
丘 周礼注に云はく、土高きを丘〈音は鳩、和名は乎加をか、又、岡の字を用ゐる、正しくは崗に作る〉と曰ふといふ。
峯 祝尙丘曰、峯、〈敷容反、和名美禰、又用岑嶺二字、岑音尋󠄁、嶺音領、〉山尖高處也、
峯 祝尚丘曰はく、峯〈敷容反、和名は美禰みね、又、岑嶺の二字を用ゐる、岑の音は尋、嶺の音は領〉は、山の尖り高き処なりといふ。
巓 孫愐曰、巓、〈都年反、和名伊太々歧、〉山頂也、
巓 孫愐曰はく、巓〈都年反、和名は伊太々岐いただき〉は山頂なりといふ。
峽 考聲切韻云、峽、〈咸夾反、俗云山乃加比、〉山間陜處也、
峡 考声切韻に云はく、峡〈咸夾反、俗に云ふやま乃加比のかひ〉は山間のせばき処なりといふ。
岫 陸詞曰、岫、〈似祐反、和名久歧、〉山穴似袖也、
岫 陸詞曰はく、岫〈似祐反、和名は久岐くき〉は山の穴の袖に似るなりといふ。
洞 說文曰、洞、〈徒貢反、和名保良、〉深𨗉之貌也、
洞 説文に曰はく、洞〈徒貢反、和名は保良ほら〉は深𨗉のかたちなりといふ。
坂嶝 唐韵云、坂、〈音反、和名佐加、〉地險也、嶝、〈都鄧反、〉小坂也、
坂嶝 唐韻に云はく、坂〈音は反、和名は佐加さか〉は地のけはしきなり、嶝〈都鄧反〉は小さき坂なりといふ。
麓 說文云、麓、〈音祿、和名布毛度、〉山足也、
麓 説文に云はく、麓〈音は禄、和名は布毛度ふもと〉は山の足なりといふ。
嶋嶼 說文云、嶋、〈都皓反、一音鳥、和名之万、〉海中山可依止也、唐韵云、嶼、〈徐呂反、上聲之重、與序同、和名上同、〉海中洲也、
嶋嶼 説文に云はく、嶋〈都皓反、一音に鳥、和名は之万しま〉は海中の山、依りて止るべきなりといふ。唐韻に云はく、嶼〈徐呂反、上声の重、序と同じ、和名は上に同じ〉は海中の洲なりといふ。
岬 唐韵云岬、〈古狎反、日本紀私記云、三佐木、〉山側也、
岬 唐韻に云はく、岬〈古狎反、日本紀私記に云ふ三佐木みさき〉は山のかたはらなりといふ。
杣 功程式云、甲賀杣、田上杣、〈杣讀曾万、所󠄁出未詳、但功程式者、修理𥫫師山田福吉等、弘仁十四年所󠄁撰上也、〉
杣 功程式くぢやうしきに云はく、甲賀杣、田上杣といふ〈杣の読みは曽万そま、出づる所未だ詳かならず、但し功程式は、修理𥫫師山田福吉等、弘仁十四年に撰したてまつる所なりとす〉。
巖 唐韵云、巖、〈五銜反、字亦作礹、和名伊波保、〉峯也、險也、
巌 唐韻に云はく、巌〈五銜反、字は亦、礹に作る、和名は伊波保いはほ〉は峯なり、険なりといふ。
磐 陸詞曰、磐、〈音盤、和名以波、〉大石也、日本紀私記云、千人所󠄁引磐石、〈知比歧乃以之、〉
磐 陸詞曰はく、磐〈音は盤、和名は以波いは〉は大石なりといふ。日本紀私記に云はく、千人引く所の磐石〈知比岐乃以之ちびきのいし〉といふ。
石〈鍾乳附〉 陸詞曰、石、〈常尺反、和名以之、〉凝土也、新抄本草云、石鍾乳、〈出備中國英賀郡、和名以之乃知、〉
石〈鍾乳付〉 陸詞曰はく、石〈常尺反、和名は以之いし〉は凝る土なりといふ。新抄本草に云はく、石鍾乳〈備中国英賀郡より出づ、和名は以之乃知いしのち〉といふ。
消󠄁石〈朴消󠄁附〉 丹口决云、消󠄁石一名芒消󠄁、藥决云、朴消󠄁一名消󠄁石朴、〈今案消󠄁石朴消󠄁是一物也、要方云朴消󠄁者芒消󠄁之大者也、消󠄁石者芒消󠄁之根盤者、練之成芒消󠄁、是也、〉
消石〈朴消付〉 丹口决に云はく、消石、一名は芒消といふ。薬决に云はく、朴消、一名は消石朴といふ〈今案ふるに消石、朴消は是れ一物なり、要方に云はく、朴消は芒消の大なる者なり、消石は芒消の根盤なる者、之れを練りて芒消と成すといふは是れなり〉。
礜石 唐韵云、礜、〈音譽、本草云、一名澤乳、〉礜石、藥名也、蠶食之肥、鼠食之死、〈今案又有特生礜石、見吳氏本草、〉
礜石 唐韻に云はく、礜〈音は誉、本草に云ふ一名は沢乳〉は礜石、薬の名なり、蚕は之れを食ひて肥え、鼠は之れを食ひて死ぬ〈今案ふるに、又、特生礜石有り、呉氏本草に見ゆ〉。
礬石 蘇敬曰、礬石、〈礬音繁、此間云、悶尺、〉有靑礬白礬黑礬絳礬黃礬五種矣、
礬石 蘇敬曰はく、礬石〈礬の音は繁、此間に云ふもんじやく〉に青礬、白礬、黒礬、絳礬、黄礬の五種有るなりといふ。
〓〔氵+⻣〕石 本草云、〓〔氵+⻣〕石、一名脆石、〈蘇敬曰、極軟滑、故以名之、〉
滑石 本草に云はく、滑石、一名は脆石といふ〈蘇敬曰はく、極めて軟滑なり、故に以て之れをなづくといふ〉。
陽起󠄁石 本草云、陽起󠄁石、一名羊起󠄁石、
陽起石 本草に云はく、陽起石、一名は羊起石といふ。
凝水石 本草云、凝水石、一名寒水石、此石末置水中、夏月能爲氷、或云、縱理爲寒水、橫理爲凝水
凝水石 本草に云はく、凝水石、一名は寒水石、此の石の末を水中に置けば、夏月に能く氷をすといふ。或は云はく、縦理を寒水と為し、横理を凝水と為すといふ。
慈石 本草云、慈石吸針、〈慈石、此間云、之虵久、慈正從石作礠、見唐韵、〉
慈石 本草に云はく、慈石は針を吸ふといふ〈慈石は此間に云ふじや、慈は正しくは石に従ひ礠に作る、唐韻に見ゆ〉。
玄石 本草云、玄石、一名玄水石、〈今案慈石、又有玄石之名、〉
玄石 本草に云はく、玄石、一名は玄水石といふ〈今案ふるに慈石、又、玄石の名有り〉。
理石 本草云、理石、一名立制石、〈今案礜石又有立制之名、〉
理石 本草に云はく、理石、一名は立制石といふ〈今案ふるに礜石、又、立制の名有り〉。
長石 本草云、長石、一名方石、
長石 本草に云はく、長石、一名は方石といふ。
桃花石 本草云、桃花石、〈此間音道卦尺、〉色如桃花、故以名之、
桃花石 本草に云はく、桃花石〈此間に音は道卦尺だうけしやく〉は、色、桃花のごとし、故に以て之れを名くといふ。
方解石 本草云、方解石、一名黃石、
方解石 本草に云はく、方解石、一名は黄石といふ。
[温石 方言要目云、温石、〈今案本文未詳、但俗用之、温音如運、〉成爲温器者也、]
[温石 方言要目に云はく、温石〈今案ふるに本文は未だ詳かならず、但し俗に之れを用ゐる、温の音は運のごとし〉は成して温器と為す者なりといふ。]
浮󠄁石 交州記云、浮󠄁石、體虛而輕、〈和名加留以之、〉
浮石 交州記に云はく、浮石は、体、虚にして軽しといふ〈和名は加留以之かるいし〉。
細石 說文云、礫、〈音歷、和名佐々禮以之、〉水中細石也、
細石 説文に云はく、礫〈音は歴、和名は佐々礼以之さざれいし〉は水中の細石なりといふ。
砂〈纎砂附〉 聲類云、砂、〈所󠄁加反、和名以佐古、一云湏奈古、〉水中細礫也、日本紀私記云、纎砂、〈万奈古、纎、細也、〉
砂〈纎砂付〉 声類に云はく、砂〈所加反、和名は以佐古いさご、一に云ふ須奈古すなご〉は水中の細礫なりといふ。日本紀私記に云ふ纎砂〈万奈古まなご、纎は細なり〉。

田野類六
田野類六
田 釋名云、土已耕󠄁者爲田、〈徒年反、和名太、漢語抄云、水田、古奈太、〉田、塡也、五糓塡滿其中也、
田 釈名に云はく、土、已に耕せる者を田〈徒年反、和名は、漢語抄に云ふ水田、古奈太こなた〉と為す、田は填なり、五穀は其の中に填満すればなりといふ。。
佃 唐韻云、佃、〈音與田同、和名豆久利太、〉作田也、
佃 唐韻に云はく、佃〈音は田と同じ、和名は豆久利太つくりた〉は作田なりといふ。
火田 唐韵云、疁、〈力求反、漢語抄云、火田、夜歧波太、今案野老傳云、橫截山作畠、謂之截幡、其田先燒後耕󠄁、謂之燒幡、既謂田疇何不耕󠄁作、漢語抄之說、唐韵之義、頗爲相違耳、〉田不耕󠄁而火種也、
火田 唐韻に云はく、疁〈力求反、漢語抄に云ふ火田、夜岐波太やきはた、今案ふるに、野老伝に云はく、横に山を截り畠を作るは之れを截幡と謂ひ、其の田、先に焼き後に耕すは之れを焼幡と謂ふといふ。既に田疇と謂ひて何ぞ耕作せざらん、漢語抄の説、唐韻の義、すこぶる相違しるのみ〉田は耕さずして火をうるなりといふ。
白田 續捜神記云、江南之白田種豆、〈白田、一曰陸田、和名波太介、或以白田二字一字者訛也、日本紀云、陸田種子、波多介豆毛乃、今案延喜內膳式、營瓜一段、種子四合五勺、位三百六十、糞人壅人、師云、位訓久良比、糞訓古江、壅訓豆知加布、〉
白田 続捜神記に云はく、江南の白田に豆を種うといふ〈白田は一に曰ふ陸田、和名は波太介はたけ、或に白田の二字を以て一字に作るはあやまりなり。日本紀に云ふ陸田種子、波多介豆毛乃はたけつもの。今案ふるに、延喜内膳式に、瓜をつくる一段につき種子四合五勺、位三百六十、糞人、壅人とあり、師云はく、位の訓は久良比くらゐ、糞の訓は古江こえ、壅の訓は豆知加布つちかふ〉。
[𤳉 玉篇云、𤳉、〈呼但反、〉耕󠄁麥地也、唐韻云、𤳉、耕󠄁田壠、〈日本紀師說八太介、〉]
[𤳉 玉篇に云はく、𤳉〈呼但反〉は麦を耕す地なりといふ。唐韻に云はく、𤳉は田を耕す壠といふ〈日本紀師說に八太介はたけ〉。]
粟田 日本紀私記云、粟田、〈阿波布、〉
粟田 日本紀私記に云ふ粟田〈阿波布あはふ〉。
豆田 日本紀私記云、豆田、〈末女布、〉
豆田 日本紀私記に云ふ豆田〈末女布まめふ〉。
町 蒼頡篇云、町、〈他丁反、和名末知、〉田區也、
町 蒼頡篇に云はく、町〈他丁反、和名は末知まち〉は田の区なりといふ。
畔󠄁 陸詞曰、畔󠄁、〈音半󠄁、和名久路、一云阿、〉田界也、唐韵云、塍、〈食陵反、字亦作塖、和名上同、〉稻田畦也、畦、〈音携、〉菜畔也、
畔 陸詞曰はく、畔〈音は半、和名は久路くろ、一に云ふ〉は田の界なりといふ。唐韻に云はく、塍〈食陵反、字は亦、塖に作る、和名は上に同じ〉は稲田の畦なり、畦〈音は携〉は菜の畔なりといふ。
畒 陸詞曰、畒、〈音牡、和名宇禰、〉田數也、唐令云、諸田、廣一步長二百卌步爲畒、畒百爲頃、〈去頴反、今案頃者、今之法六町六段二百四十步也、〉
畝 陸詞曰はく、畝〈音は牡、和名は宇禰うね〉は田の数なりといふ。唐令に云はく、諸田、広さ一歩、長さ二百四十歩を畝と為し、畝百を頃〈去頴反、今案ふるに、頃は今の法の六町六段二百四十歩なり〉と為すといふ。
畷 四聲字苑云、畷〈昌雪󠄁反、漢語抄云、奈波天、〉田間道也、
畷 四声字苑に云はく、畷〈昌雪反、漢語抄に云ふ奈波天なはて〉は田の間の道なりといふ。
培塿 風俗通󠄁云、培塿、〈上音部、下力㺃反、漢語抄云、豆无禮、〉田中小高者也、
培塿 風俗通に云はく、培塿〈上の音は部、下は力㺃反、漢語抄に云ふ豆無礼つむれ〉は田中の小高き者なりといふ。
畎 陸詞曰、畎、〈音犬、和名太三曾、〉田中渠也、
畎 陸詞曰はく、畎〈音は犬、和名は太三曽たみぞ〉は田中の渠なりといふ。
園圃 四聲字苑云、園圃、〈猨浦二音、和名曾乃、一云曾乃布、〉所󠄁以種蔬菜也、
園圃 四声字苑に云はく、園圃〈猨浦の二音、和名は曽乃その、一に云ふ曽乃布そのふ〉は蔬菜をうる所以なりといふ。
苑囿 周󠄀禮注󠄁云、囿今之苑、〈苑囿二音遠󠄁宥、囿又音育、和名上同、〉所󠄁以城養禽獸也、
苑囿 周礼注に云はく、囿は今の苑〈苑囿の二音は遠宥、囿は又、音は育、和名は上に同じ〉、禽獣を城養する所以なりといふ。
野〈曠野附〉 四聲字苑云、野、〈以者反、字亦作墅、和名能、〉郊牧外地也、日本紀私記云曠野、〈阿良乃良、〉
野〈曠野付〉 四声字苑に云はく、野〈以者反、字は亦、墅に作る、和名は〉は郊牧の外の地なりといふ。日本紀私記に云ふ曠野〈阿良乃良あらのら〉。
林 說文云、平󠄁地有藂木林、〈力尋󠄁反、和名波夜之、〉
林 説文に云はく、平地に藂木有るを林〈力尋反、和名は波夜之はやし〉と曰ふといふ。
藪 呂氏春秋云、澤無水曰藪、〈蘇后反、和名夜布、〉
薮 呂氏春秋に云はく、沢に水無きを薮〈蘇后反、和名は夜布やぶ〉と曰ふといふ。
澤 風土記云、水草交曰澤、〈音宅、和名佐波、〉
沢 風土記に云はく、水、草、まじはるを沢〈音は宅、和名は佐波さは〉と曰ふといふ。
原 毛詩注󠄁云、高平󠄁曰原、〈音源、和名波良、〉
原 毛詩注に云はく、高平なるを原〈音は源、和名は波良はら〉と曰ふといふ。
塞 野王案塞、〈先代反、和名曾古、〉險要之處、所󠄁以隔內外也、
塞 野王案ずるに、塞〈先代反、和名は曽古そこ〉は険要の処、内外をへだつる所以なりとす。
牧 尙書云、萊夷爲牧、〈音目、和名无万歧、〉孔安國曰、萊夷地名、可以放牧
牧 尚書に云はく、莱夷を牧〈音は目、和名は無万岐むまき〉と為すといふ。孔安国曰はく、莱夷は地の名、以て放ちふべしといふ。

人倫部第二
人倫部第二
 男女類七 父母類八 兄弟類九 子孫類十 婚姻類十一 夫妻類十二
 男女類七 父母類八 兄弟類九 子孫類十 婚姻類十一 夫妻類十二

男女類七
男女類七
人 白虎通󠄁云、人者男女之總名也、
人 白虎通に云はく、人は男女の総名なりといふ。
男子 說文云、男、〈音南、和名乎能古、〉丈夫也、白虎通󠄁云、男謂之士、〈音四、〉孝經注󠄁云、子者男子之通󠄁稱也、
男子 説文に云はく、男〈音は南、和名は乎能古をのこ〉は丈夫なりといふ。白虎通に云はく、男は之れを士〈音は四〉と謂ふといふ。孝経注に云はく、子は男子の通称なりといふ。
丈夫 公羊傳注󠄁云、丈夫、〈上直兩反、下音扶、萬葉集云、末湏良乎、日本紀私記男子、讀上同、〉大人之稱也、
丈夫 公羊伝注に云はく、丈夫〈上は直両反、下の音は扶、万葉集に云ふ末須良乎ますらを、日本紀私記の男子、読みは上に同じ〉は大人の称なりといふ。
壮士 日本紀私記云、壯士、〈太計歧比都、〉
壮士 日本紀私記に云はく、壮士〈太計岐比都たけきひと〉といふ。
婦󠄁人 日本紀私記云、手弱󠄁女人、〈太乎夜女、〉婦󠄁人、〈上同、〉
婦人 日本紀私記に云はく、手弱女人〈多乎夜女たをやめ〉、婦人〈上に同じ〉といふ。
娘 說文云、娘、〈女良反、和名无須女、〉少女之稱也、
娘 説文に云はく、娘〈女良反、和名は無須女むすめ〉は少女の称なりといふ。
少女 日本紀私記云、少女、〈乎度米、〉童女、〈上同、〉
少女 日本紀私記に云はく、少女〈乎度米をとめ〉、童女〈上に同じ〉といふ。
姬 文字集略云、姬、〈音基、和名比女、〉衆妾之稱也、
姫 文字集略に云はく、姫〈音は基、和名は比女ひめ〉は衆妾の称なりといふ。
半󠄁月 內典云、五種不男、其五曰半󠄁月、〈俗訛云波邇和利、或說云、一月卅日、其十五日爲男、十五日爲女之義也、〉
半月 内典に云はく、五種の不男あり、其の五を半月〈俗になまりて云ふ波邇和利はにわり、或説に云ふ、一月三十日、其の十五日は男り、十五日は女為るの義なり〉と曰ふといふ。
赤子 老子經云、赤子不物、〈赤子、和名知古、今案含乳之義也、〉
赤子 老子経に云はく、赤子は物をそこなはずといふ〈赤子、和名は知古ちご、今案ふるに乳を含むの義なり〉。
嬰兒 唐韻云、孩、〈戶來反、弁色立成云、嬰兒、美都利古、〉始生小兒也、[蒼頡篇云、女曰嬰、]〈於盈反、知古、〉[男曰兒、]〈汝移反、〉顔氏家訓云、嬰孩、〈師說、阿歧度布、〉
嬰児 唐韻に云はく、孩〈戸来反、弁色立成に云ふ嬰児、美都利古みどりこ〉は始めて生るる小児なりといふ。[蒼頡篇に云はく、女を嬰]〈於盈反、知古ちご〉[と曰ひ]、[男を児]〈汝移反〉[と曰ふといふ]。顔氏家訓に云ふ嬰孩〈師説に阿岐度布あぎとふ〉。
童〈侲子附〉 禮記注󠄁云、童、〈徒紅反、和名和良波、〉未冠之稱也、文選󠄁東京賦注󠄁云、侲子、〈侲音之忍󠄁反、師說和良波閇、〉童男童女也、
童〈侲子付〉 礼記注に云はく、童〈徒紅反、和名は和良波わらは〉は未だ冠せざるの称なりといふ。文選東京賦注に云はく、侲子〈侲の音は之忍反、師説に和良波閉わらはべ〉は童男、童女なりといふ。
髫髮 後漢書注󠄁云、髫髮、〈上音迢、字亦作〓〔髟冠に𠮦〕、和名宇奈井、俗用垂髮二字、〉謂童子垂__髮也、
髫髪 後漢書注に云はく、髫髪〈上の音は迢、字は亦、〓〔髟冠に𠮦〕に作る、和名は宇奈井うなゐ、俗に垂髪の二字を用ゐる〉は童子の髪を垂るるを謂ふなりといふ。
總角 毛詩注󠄁云、總角、〈弁色立成云、阿介萬歧、〉結髮也、
総角 毛詩注に云はく、総角〈弁色立成に云ふ阿介万岐あげまき〉は結髪なりといふ。
鱞夫 釋名云、無妻曰鱞、〈古頑反、和名也毛乎、〉[言鱞々然不寐如魚目、恒不閉者也、]
鱞夫 釈名に云はく、妻無きを鱞〈古頑反、和名は也毛乎やもを〉と曰ふといふ。[言ふは鱞々然として寐ねざること魚の目のごとく、恒に閉ぢざる者なればなり。]
寡婦󠄁 釋名云、無夫曰寡、〈和名夜毛女、〉玉篋云、寡婦󠄁或曰孀妻、或曰𡠉婦󠄁、〈孀音霜、𡠉音狸、〉
寡婦 釈名に云はく、夫無きを寡〈和名は夜毛女やもめ〉と曰ふといふ。玉篋に云はく、寡婦は或は孀妻と曰ひ、或は𡠉婦と曰ふといふ〈孀の音は霜、𡠉の音は狸〉。
孤子 四聲字苑云、孤、〈古胡反、美奈之古、〉少無父母也、
孤子 四声字苑に云はく、孤〈古胡反、美奈之古みなしご〉はをさなくして父母無きなりといふ。
叟 唐韵云、叟、〈蘇后反、上聲、和名於歧奈、又用翁字、〉老人稱也、日本紀私記云、老公、〈和名上同、〉耆宿、〈布流於歧奈、〉[孫愐切韻云、翁、〈烏紅反、〉老人也、遊󠄁仙窟云古老、〈和名於岐奈比止、今案古老、又一云老舊、〉]
叟 唐韻に云はく、叟〈蘇后反、上声、和名は於岐奈おきな、又、翁の字を用ゐる〉は老人の称なりといふ。日本紀私記に云ふ老公〈和名は上に同じ〉、耆宿〈布流於岐奈ふるおきな〉。[孫愐切韻に云はく、翁〈烏紅反〉は老人なりといふ。遊仙窟に云ふ古老〈和名は於岐奈比止おきなびと、今案ふるに古老は又、一に云ふ老旧〉。]
嫗 說文云、嫗、〈於屢反、和名於無奈、〉老女稱也、
嫗 説文に云はく、嫗〈於屢反、和名は於無奈おむな〉は老女の称なりといふ。
𧴥 劉向列女傳云、古語謂老母𧴥、〈今案和名度之、俗用刀自二字者訛也、〉
負 劉向列女伝に云はく、古語に老母を謂ひて負〈今案ふるに和名は度之とじ、俗に刀自の二字を用ゐるはあやまりなり〉と為すといふ。
専 日本紀私記云、専領、〈多宇女乎佐女、今案俗呼老女専、故繼於𧴥耳、〉
専 日本紀私記に云はく、専領〈多宇女乎佐女たうめをさめ、今案ふるに、俗に老女を呼びて専と為す、故に負に継ぐのみ〉といふ。
孕婦󠄁 尙書云、孕婦󠄁、〈孕音用、和名波良女、〉
孕婦 尚書に云はく、孕婦といふ〈孕の音は用、和名は波良女はらめ〉。
產婦󠄁 食療經云、產婦󠄁不梨子、〈產婦󠄁、和名宇布女、〉
産婦 食療経に云はく、産婦は梨子なしのみを食ふべからずといふ〈産婦の和名は宇布女うぶめ〉。
乳母 文字集略云、嬭、〈乃禮反、字亦作妳、弁色立成云、嬭母、知於毛、〉乳人母也、唐式云、皇子乳母、皇孫乳母、〈和名女乃度、[日本紀師說、女乃於止、言、妻妹也、事見彼書、]〉
乳母 文字集略に云はく、嬭〈乃礼反、字は亦、妳に作る、弁色立成に云ふ嬭母、知於毛ちおも〉は人に乳する母なりといふ。唐式に云はく、皇子の乳母、皇孫の乳母といふ〈和名は女乃度めのと[、日本紀師説に女乃於止めのおと、言ふは妻の妹なればなり、事は彼書に見ゆ]〉。
君 文字集略云、君、〈音軍、和名歧美、〉在上之稱也、
君 文字集略に云はく、君〈音は軍、和名は岐美きみ〉はかみに在るの称なりといふ。
臣僕 文字集略云、臣、〈音辰、日本紀私記云、夜都加禮、〉在下之稱也、唐韻云、僕、〈蒲木反、和名上同、〉侍從人也、
臣僕 文字集略に云はく、臣〈音は辰、日本紀私記に云ふ夜都加礼やつかれ〉はしもに在るの称なりといふ。唐韻に云はく、僕〈蒲木反、和名は上に同じ〉は侍従の人なりといふ。
人民 日本紀私記云、人民、〈比止久佐、或說云、於保无太加良、〉
人民 日本紀私記に云はく、人民〈比止久佐ひとくさ、或説に云ふ於保無太加良おほむたから〉といふ。
師 徐廣雜記云、人有三尊、非父不生、非師不學、非君不仕、故曰三尊也、
師 徐広雑記に云はく、人に三尊有り、父に非ざれば生れず、師に非ざれば学ばず、君に非ざれば仕へず、故に三尊と曰ふなりといふ。
弟子 孝經序云、門徒三千人、又云、貫首弟子、
弟子 孝経序に云はく、門徒は三千人といふ。又云はく、貫首のていといふ。
賓客 玉篋云、大曰賓、小曰客、〈濱各二音、和名末良比止、〉左傳注󠄁云、客一座之所󠄁尊、野王案、羇旅寄他國、亦謂之客、〈旅客、和名太比々止、〉
賓客 玉篋に云はく、大を賓と曰ひ、小を客と曰ふといふ〈浜各の二音、和名は末良比止まらひと〉。左伝注に云はく、客は一座の尊ぶ所といふ。野王案ずるに、羇旅に他国に寄るも亦、之れを客と謂ふとす〈旅客、和名は太比々止たびびと〉。
朋友 論語注󠄁云、同門曰朋、〈步崩反、〉尙書注󠄁云、同志曰友、〈云久反、上聲之重、和名止毛太知、〉文塲秀句云、知音得意、〈朋友篇事對也、故附出、〉
朋友 論語注に云はく、門を同じくするを朋〈歩崩反〉と曰ふといふ。尚書注に云はく、志を同じくするを友〈云久反、上声の重、和名は止毛太知ともだち〉と曰ふといふ。文場秀句に云ふ知音、得意〈朋友篇の事対なり、故に付出す〉。
故人 史記云、寧逢惡賓、不故人
故人 史記に云はく、むしろ悪賓に逢ふも故人に逢はざらんといふ。
醫 說文云醫〈音伊、字亦作毉、和名久湏之、〉治病工也、
醫 説文に云はく、醫〈音は伊、字は亦、毉に作る、和名は久須之くすし〉は病を治むるたくみなりといふ。
[相工 史記云、長安中、有相工田文者、〈相工、俗云相人、相音去聲、〉丙丞相、韋丞相、魏丞相、微賤時會於客宇、田文曰、此君皆丞相也、其後三人竟爲丞相也、]
[相工 史記に云はく、長安中に相工、田文といふ者有り〈相工は俗に云ふ相人、相の音は去声〉。丙丞相、韋丞相、魏丞相、微賤の時、客宇に会ふ。田文曰はく、此の君は皆、丞相なりといふ。其の後、三人、つひには丞相と為るなりといふ。]
[工匠 糓梁傳云、古者有工人、有商人、四聲字苑云、工、〈功反、和名太久美、〉匠也、匠〈上反、〉巧人也、]
[工匠 穀梁伝に云はく、古者いにしへ、工人有り、商人有りといふ。四声字苑に云はく、工〈功反、和名は太久美たくみ〉は匠なり、匠〈上反〉は巧人なりといふ。]
[鍛冶 四聲字苑云、鍛、〈段反、〉打金䥫器也、冶〈夜反、俗云鍛治訛也、〉燒*原本鎖鑠也、]
[鍛冶 四声字苑に云はく、鍛〈段反〉は金鉄を打ち器と為すなり、冶〈夜反、俗に鍛治と云ふはあやまりなり〉は鉄を焼き銷鑠するなりといふ。]
[陶者 荘子云、陶者曰、我治埴、〈陶、桃反、訓須惠毛乃豆久流、黏埴爲器者、俗云呼爲造󠄁手、陶者是乎、〉]
[陶者 荘子に云はく、陶者曰はく、我は埴を治むといふといふ〈陶は桃反、訓は須恵毛乃豆久流すゑものつくる、黏埴を器と為す者、俗に呼びて造手と為すと云ふ、陶者は是れか〉。]
巫覡〈祝附〉 說文云、巫、〈音無、和名加无奈歧、〉祝女也、文字集略云、覡、〈下激反、[乎乃古加牟奈歧、]〉男祝也、祝、〈之育反、和名波布利、〉祭主󠄁讀詞也、
巫覡〈祝付〉 説文に云はく、巫〈音は無、和名は加無奈岐かむなき〉は祝女なりといふ。文字集略に云はく、覡〈下激反[、乎乃古加牟奈歧をのこかむなき]〉は男祝なり、祝〈之育反、和名は波布利はふり〉は祭主の詞を読むなりといふ。
獵師〈列卒附〉 內典云、譬如群鹿怖畏獵師、〈和名加利比止、〉文選󠄁云、列卒滿山、〈列卒讀師說加利古、〉
獵師〈列卒付〉 内典に云はく、譬へば群鹿の獵師〈和名は加利比止かりびと〉を怖畏するがごとしといふ。文選に云はく、列卒、山に満つといふ〈列卒の読みは師説に加利古かりこ〉。
[漁子 文選󠄁江賦云、蘆人漁子、〈和名伊乎止利、漁與魚同、〉採󠄁蘆捕魚者也、]
[漁子 文選江賦に云はく、蘆人漁子〈和名は伊乎止利いをとり、漁は魚と同じ〉は蘆を採り魚を捕る者なりといふ。]
[漁父 楚辞云、漁父鼓栧而去、〈漁父一名漁翁、無良歧美、〉皷栧叩船也、]
[漁父 楚辞に云はく、漁父、かいを鼓して去るといふ〈漁父、一名は漁翁、無良岐美むらぎみ〉。栧を皷すは船を叩くなり。]
泉郎 日本紀私記云漁人、〈阿万、〉辨色立成云泉郎、〈和名同上、楊氏漢語抄說又同、〉万葉集云海人、
泉郎 日本紀私記に云ふ漁人〈阿万あま〉、弁色立成に云ふ泉郎〈和名は上に同じ、楊氏漢語抄の説も又同じ〉、万葉集に云ふ海人。
[潜女 本朝式云、伊𫝑國等潜女、〈和名加豆歧米、〉]
[潜女 本朝式に云ふ伊勢国等の潜女〈和名は加豆岐米かづきめ〉。]
渡子 [文選󠄁江賦云、渉人於是檥榜、〈檥正也、和名佐乎、〉]日本紀私記云、渡子、〈和太利毛利、今案俗云和太之毛利、〉
渡子 [文選江賦に云はく、渉人、是に於いてさをただすといふ〈檥は正すなり、和名は佐乎さを〉。]日本紀私記に云ふ渡子〈和太利毛利わたりもり、今案ふるに俗に云ふ和太之毛利わたしもり〉。
水手 [文選󠄁江賦云、舟子〈和名布奈古、〉於是搦棹、〈搦捉也、女角反、止流、〉]日本紀私記云、水手、〈加古、今案加古者鹿子之義、見于本書注󠄁矣、〉
水手 [文選江賦に云はく、舟子〈和名は布奈古ふなこ〉、是に於いてさをるといふ〈搦は捉るなり、女角反、止流とる〉。]日本紀私記に云ふ水手〈加古かこ、今案ふるに加古は鹿子の義、本書の注に見ゆ〉。
挾杪 唐令云、挾杪、〈和名加知度利、〉文選󠄁吳都賦云、㰏工檝師、〈㰏檝二字見舟具󠄁、和名同上、〉
挟杪 唐令に云ふ挟杪〈和名は加知度利かぢとり〉、文選呉都賦に云ふ㰏工檝師〈㰏、檝の二字は舟具に見ゆ、和名は上に同じ〉。
市人 楊氏漢語抄云、市郭兒、〈和名伊知比止、[一名市人、]〉
市人 楊氏漢語抄に云ふ市郭児〈和名は伊知比止いちびと[、一名に市人]〉。
商賈 [糓梁傳云、商人、]文選󠄁西京賦云、商賈、〈賈音古、師說阿歧比斗、〉裨販百族、〈師說裨販比佐歧比止、百族毛々夜加良、[俗云販婦󠄁比佐岐女、裨販也、]〉
商賈 [穀梁伝に云ふ商人。]文選西京賦に云ふ商賈〈賈の音は古、師説に阿岐比斗あきびと〉、裨販百族〈師説に裨販は比佐岐比止ひさぎびと、百族は毛々夜加良ももやから、[俗に云ふ販婦は比佐岐女ひさぎめ、裨販なり]〉。
田舍人 楊氏漢語抄云、田舍兒〈偉那迦比斗、〉
田舎人 楊氏漢語抄に云ふ田舎児〈偉那迦比斗いなかびと〉。
邊鄙 文選󠄁云、蚩眩邊鄙、〈師說、邊鄙阿豆万豆、蚩眩阿佐无歧加々夜加須、〉世說注󠄁云、東野之鄙語也、〈今案俗用東人二字、其義近󠄁矣、〉
辺鄙 文選に云はく、辺鄙を蚩眩すといふ〈師説に辺鄙は阿豆万豆あづまづ、蚩眩は阿佐無岐あざむき加々夜加須かがやかす〉。世説注に云はく、東野の鄙語なりといふ〈今案ふるに俗に東人の二字を用ゐる、其の義近きかな〉。
蕩子 文選󠄁詩云、蕩子行不歸、〈漢語抄云、蕩子、太波禮乎、〉
蕩子 文選詩に云はく、蕩子行きて帰らずといふ〈漢語抄に云ふ蕩子、太波礼乎たはれを〉。
遊󠄁女〈夜𤼲附〉 楊氏漢語抄云、遊󠄁行女兒、〈宇加禮女、〈已上本注󠄁、〉一云阿曾比、今案又有夜𤼲之名、俗云也保知、本文未詳、但或說、白晝遊󠄁行謂之遊󠄁女、待夜而𤼲其淫奔、謂之夜𤼲也、〉
遊女〈夜発付〉 楊氏漢語抄に云ふ遊行女児〈宇加礼女うかれめ〈已上は本注〉、一に云ふ阿曽比あそび。今案ふるに、又、夜発の名有り、俗に也保知やほちと云ふ、本文は未だ詳かならず。但し或説に、白昼に遊行するは之れを遊女と謂ひ、夜を待ちて其の淫奔を発するは之れを夜発と謂ふなりとす〉。
閽人 文字集略云、閽、〈音昏、閽人、和名三加止毛利、〉守門者也、
閽人 文字集略に云はく、閽〈音は昏、閽人の和名は三加止毛利みかどもり〉は門を守る者なりといふ。
龓人 唐韵云、龓、〈盧紅反、楊氏漢語抄云、龓馬人、久知止利、〉乘馬又牽也、
龓人 唐韻に云はく、龓〈盧紅反、楊氏漢語抄に云ふ龓馬人、久知止利くちとり〉は馬に乗る、又、牽くなりといふ。
圉人 文字集略云、圉、〈音語、圉人无末加比、日本紀私記云、典馬、弁色立成云馬子、和名並上同、〉養馬者也、
圉人 文字集略に云はく、圉〈音は語、圉人は無末加比むまかひ、日本紀私記に云ふ典馬、弁色立成に云ふ馬子、和名は並びに上に同じ〉は馬をふ者なりといふ。
奴 唐韻云、奴、〈乃都反、和名豆布禰、〉人之下也、
奴 唐韻に云はく、奴〈乃都反、和名は豆布禰つぶね〉は人の下なりといふ。
婢 說文云、婢〈便俾反、上聲之重、和名也豆古、〉女之卑稱也、
婢 説文に云はく、婢〈便俾反、上声の重、和名は也豆古やつこ〉は女の卑称なりといふ。
客作兒 楊氏漢語抄云、客作兒、〈都久乃比々止、〉
客作児 楊氏漢語抄に云ふ客作児〈都久乃比々止つぐのひびと〉。
屠兒 楊氏漢語抄云、屠兒、〈屠音徒、[訓保布流、屠兒]和名惠止利、〉殺生、及屠牛馬肉販賣者也、
屠児 楊氏漢語抄に云はく、屠児〈屠の音は徒、[訓は保布流ほふる、屠児の]和名は恵止利ゑとり〉は生けるを殺し、及び牛馬の肉をほふりて販ぎ売る者なりといふ。
乞兒 列子云、齊有貧者、常乞於城市、乞兒曰、天下之辱莫過󠄁於乞、〈楊氏漢語抄云、乞索兒、保加比々斗、今案乞索兒即乞兒也、和名加多井、〉
乞児 列子に云はく、斉に貧者有り、常に城市に於いて乞ふ、乞児曰はく、天下の辱は乞に過ぎたるは莫しといふといふ〈楊氏漢語抄に云ふ乞索児、保加比々斗ほかひびと、今案ふるに乞索児は即ち乞児なり、和名は加多井かたゐ〉。
偸兒 [世說云、園中夜叫云偸兒、]楊氏漢語抄云、偸兒、〈沼湏比斗、上他侯反、〉[竊盗、〈和名美曾加奴湏比止、〉]辨色立成云、不良人、
偸児 [世説に云はく、園中に夜叫びて偸児有りと云ふといふ。]楊氏漢語抄に云ふ偸児〈沼須比斗ぬすびと、上は他侯反〉[、竊盗〈和名は美曽加奴須比止みそかぬすびと〉]、弁色立成に云ふ不良人。
群盗 漢書云、群盗滿山、[〈羣盗一云强盗、見唐律、〉]
群盗 漢書に云はく、群盗、山に満つといふ[〈群盗は一に云ふ強盗、唐律に見ゆ〉]。
海賊 後漢書云、海賊張伯路、寇畧緣海九郡
海賊 後漢書に云はく、海賊の張伯路、縁海九郡を寇略すといふ。
囚人 東宮切韻云、囚、〈似由反、和名度良部比斗、〉繫禁罪人也、又云、人固在獄也、
囚人 東宮切韻に云はく、囚〈似由反、和名は度良部比斗とらへびと〉は罪人を繋禁するなりといふ。又云はく、人とどめ獄に在るなりといふ。

父母類八
父母類八
高祖父 尒雅云、曾祖父之考爲高祖父、〈日本紀私記云、上祖、止保豆於夜、〉文字集略云、五世祖也、
高祖父 爾雅に云はく、曽祖父の考を高祖父〈日本紀私記に云ふ上祖、止保豆於夜とほつおや〉とすといふ。文字集略に云はく、五世の祖なりといふ。
高祖母 尒雅云、曽祖父之妣爲高祖母
高祖母 爾雅に云はく、曽祖父の妣を高祖母と為すといふ。
高祖姑 尒雅云、高祖父之姉妹爲高祖姑
高祖姑 爾雅に云はく、高祖父の姉妹を高祖姑と為すといふ。
曾祖父 尒雅云、祖父之父爲曾祖父、〈和名於保於保知、〉文字集略云、曾重也、四世祖也、
曽祖父 爾雅に云はく、祖父の父を曽祖父〈和名は於保於保知おほおほぢ〉と為すといふ。文字集略に云はく、曽は重ぬなり、四世の祖なりといふ。
曾祖母 尒雅云、祖父之母爲曾祖母、〈和名於保於波、〉
曽祖母 爾雅に云はく、祖父の母を曽祖母〈和名は於保於波おほおば〉と為すといふ。
曾祖姑 尒雅云、曾祖父之姉妹爲曾祖姑
曽祖姑 爾雅に云はく、曽祖父の姉妹を曽祖姑と為すといふ。
族父 尒雅云、父之從祖昆弟爲族父、〈和名於保於奉知乎知、〉
族父 爾雅に云はく、父の従祖昆弟を族父〈和名は於保於奉知乎知おほおほぢをぢ〉と為すといふ。
族昆弟 尒雅云、族父之子相謂族昆弟
族昆弟 爾雅に云はく、族父の子を族昆弟とあひ謂ふといふ。
祖父 尒雅云、父之考爲王父、〈九族圖云、祖父和名於保知、〉
祖父 爾雅に云はく、父の考を王父と為すといふ〈九族図に云はく、祖父の和名は於保知おほぢといふ〉。
祖母 尒雅云、父之妣爲王母、〈九族圖云、祖母和名於波、〉孫炎曰、人之尊祖若天王、故曰王父王母也、
祖母 爾雅に云はく、父の妣を王母と為すといふ〈九族図に云はく、祖母の和名は於波おばといふ〉。孫炎曰はく、人の祖を尊ぶこと天王のごとし、故に王父、王母と曰ふなりといふ。
祖姑 尒雅云、王父之姉妹爲王姑、〈九族圖云、祖姑和名於保乎波、〉
祖姑 爾雅に云はく、王父の姉妹を王姑と為すといふ〈九族図に云はく、祖姑の和名は於保乎波おほをばといふ〉。
從祖父 尒雅云、父之世父叔父爲從祖父、〈和名於保知乎遲、〉
従祖父 爾雅に云はく、父の世父の叔父を従祖父〈和名は於保知乎遅おほちをぢ〉と為すといふ。
從祖母 爾雅云、父之世母叔母爲從祖母、〈和名於保乎波、〉
従祖母 爾雅に云はく、父の世母の叔母を従祖母〈和名は於保乎波おほをば〉と為すといふ。
伯父 釋名云、父之兄曰世父、又曰伯父、〈弁色立成云、阿伯者父之兄也、睿乎遲、〉
伯父 釈名に云はく、父の兄を世父と曰ひ、又、伯父と曰ふといふ〈弁色立成に云はく、阿伯は父の兄なり、睿乎遅えをぢといふ〉。
仲父 釋名云、父之弟曰仲父、〈漢語抄云、奈賀都乎遲、〉
仲父 釈名に云はく、父の弟を仲父〈漢語抄に云ふ奈賀都乎遅なかつをぢ〉と曰ふといふ。
叔父 釋名云、仲父之弟曰叔父、叔父之弟曰季父、〈弁色立成云、阿叔者父之弟也、於止乎知、〉
叔父 釈名に云はく、仲父の弟を叔父と曰ひ、叔父の弟を季父と曰ふといふ〈弁色立成に云はく、阿叔は父の弟なり、於止乎知おとをぢといふ〉。
伯母 九族圖云、伯母〈和名乎波、今案父之姊也、〉
伯母 九族図に云ふ伯母〈和名は乎波をば、今案ふるに父の姉なり〉。
叔母 九族圖云、叔母、〈和名與伯母同、今案父之妹也、〉尒雅云、父之姉妹爲、〈弁色立成云阿姑、和名上同、今案伯叔母之惣名也、〉
叔母 九族図に云ふ叔母〈和名は伯母と同じ、今案ふるに父の妹なり〉。爾雅に云はく、父の姉妹を姑〈弁色立成に云ふ阿叔、和名は上に同じ、今案ふるに伯叔母の惣名なり〉と為すといふ。
父 [孝經云、身體髮膚、受于父母、]尒雅云、父爲考、〈和名知々、日本紀私記云、加曾、〉楊氏漢語抄云、阿耶、〈和名上同、〉
父 [孝経に云はく、身体髪膚は父母に受くといふ。]爾雅に云はく、父を考〈和名は知々ちち、日本紀私記に云ふ加曽かそ〉と為すといふ。楊氏漢語抄に云ふ阿耶〈和名は上に同じ〉。
母 尒雅云、母爲妣、〈卑履反、去聲之重、和名波々、日本紀私記云、母、以路波、〉舍人曰、生稱父母、死稱考妣、郭璞曰、公羊傳、惠公者隱公之考也、仲子者桓公之母也、明死生之異稱矣、楊氏漢語抄云阿孃、〈孃音如羊反、和名上同、〉
母 爾雅に云はく、母を妣〈卑履反、去声の重、和名は波々はは、日本紀私記に云ふ母、以路波いろは〉と為すといふ。舎人曰はく、生けるを父母と称し、死せるを考妣と称すといふ。郭璞曰はく、公羊伝に恵公は隠公の考なり、仲子は桓公の母なり、死生の異称に非ざること明らけしといふ。楊氏漢語抄に云ふ阿嬢〈嬢の音は如羊反、和名は上に同じ〉。
[繼父母 世說云、諸葛宏、爲繼母族黨所󠄁讒、又云、王祥事後母甚謹、〈後母即繼母也、謂母則可父、但和名、繼父、萬々知々、繼母、萬々波々、繼父母各謂其子古、我不生義也、〉]
[継父母 世説に云はく、諸葛宏、継母の族党の為にそしらるといふ。又云はく、王祥は後母につかふるに甚だつつしむといふ〈後母は即ち継母なり、母を謂ふときは父を知るべし、但し和名に継父は万々知々ままちち、継母は万々波々ままはは、継父母は各、其の子をと謂ふ、にはかに生ぜざる義なり〉。]
外祖父 尒雅云、母之父爲外王父、〈和名毋方乃於保知、〉九族圖云外祖父
外祖父 爾雅に云はく、母の父を外王父〈和名は毋方ははかた乃於保知のおほぢ〉と為すといふ。九族図に外祖父と云ふ。
外祖母 尒雅云、母之妣爲外王母、〈和名母方乃於波、〉九族圖云外祖母、
外祖母 爾雅に云はく、母の妣を外王母〈和名は母方ははかた乃於波のおば〉と為すといふ。九族図に云ふ外祖母。
舅 尒雅云、母之昆弟爲舅、〈其九反、上聲之重、和名母方乃乎知、〉楊氏漢語抄云、大舅、〈母之兄也、〉少舅、〈母之弟也、〉
舅 爾雅に云はく、母の昆弟を舅〈其九反、上声の重、和名は母方ははかた乃乎知のをぢ〉と為すといふ。楊氏漢語抄に云ふ大舅〈母の兄なり〉、少舅〈母の弟なり〉。
從母 尒雅云、母之姊妹曰從母、〈和名母方乃乎波、〉
従母 爾雅に云はく、母の姉妹を従母〈和名は母方ははかた乃乎波のをば〉と曰ふといふ。
[姨 唐韻云、姨、〈音夷、〉母之姊妹也、]
[姨 唐韻に云はく、姨〈音は夷〉は母の姉妹なりといふ。]
從舅 尒雅云、母之從父昆弟爲從舅、〈和名母方乃於保知乎遲、〉
従舅 爾雅に云はく、母の従父の昆弟を従舅〈和名は母方ははかた乃於保知乎遅のおほちをぢ〉と為すといふ。

兄弟類九
兄弟類九
兄 尒雅云、男子先生爲兄、〈許榮反、一云昆、和名古乃加美、日本紀私記云、伊呂禰、〉
兄 爾雅に云はく、男子の先に生るるを兄〈許栄反、一に云ふ昆、和名は古乃加美このかみ、日本紀私記に云ふ伊呂禰いろね〉と為すといふ。
弟 尒雅云、男子後生爲弟、〈特計反、和名於止宇度、〉
弟 爾雅に云はく、男子の後に生るるを弟〈特計反、和名は於止宇度おとうと〉と為すといふ。
姉 尒雅云、女子先生爲姉〈音止、一云女兄、和名阿禰、日本紀私記云兄同、〉
姉 爾雅に云はく、女子の先に生るるを姉〈音は止、一に云ふ女兄、和名は阿禰あね、日本紀私記に兄と同じと云ふ〉と為すといふ。
妹 尒雅云、女子後生爲妹、〈音昧、和名以毛宇止、日本紀私記云、以呂止、〉
妹 爾雅に云はく、女子の後に生るるを妹〈音は昧、和名は以毛宇止いもうと、日本紀私記に云ふ以呂止いろど〉と為すといふ。
母兄 文選󠄁注󠄁云、母兄、[〈俗云波良比度豆乃古乃加美、同胞之義也、〉]同母兄也、
母兄 文選注に云はく、母兄[〈俗に云ふ波良比度豆乃古乃加美はらひとつのこのかみ、同胞の義なり〉]は同母の兄なりといふ。
母弟 尙書注󠄁云、母弟、同母弟也、
母弟 尚書注に云はく、母弟は同母弟なりといふ。
甥 尒雅云、兄弟之子爲甥、〈音生、和名乎比、今案又用姪字、爾雅所󠄁謂昆弟之子爲姪、是也、〉
甥 爾雅に云はく、兄弟の子を甥〈音は生、和名は乎比をひ、今案ふるに、又、姪の字を用ゐる、爾雅に所謂る昆弟の子を姪とするは是れなり〉と為すといふ。
姪 釋名云、兄弟之女爲姪、〈徒結反、和名米飛、〉
姪 釈名に云はく、兄弟の女を姪〈徒結反、和名は米飛めひ〉と為すといふ。
外姪 釋名云、姉妹之子爲出、〈楊氏漢語抄云、外姪、〉出嫁於異姓而所󠄁生也、
外姪 釈名に云はく、姉妹の子を出〈楊氏漢語抄に云ふ外姪〉と為すといふ。出でて異姓に嫁ぎて生ずる所なり。
從父兄弟 尒雅云、兄之子弟之子、相謂爲從父昆弟姉妹、〈和名以斗古、但兄之子、男爲從父兄、女爲從父姊、弟之子、男爲從父弟、女爲從父妹也、〉
従父兄弟 爾雅に云はく、兄の子、弟の子、相謂ひて従父昆弟姉妹と為すといふ〈和名は以斗古いとこ、但し兄の子、男を従父兄と為し、女を従父姉と為し、弟の子、男を従父弟と為し、女を従父妹と為すなり〉。
再從兄弟 九族圖云、再從兄弟、〈和名以夜伊斗古、〉
再従兄弟 九族図に云ふ再従兄弟〈和名は以夜伊斗古いやいとこ〉。
三從兄弟 九族圖云、三從兄弟、〈和名万太伊止古、〉
三従兄弟 九族図に云ふ三従兄弟〈和名は万太伊止古またいとこ〉。
從母兄弟 尒雅云、從母之男子爲從母昆弟、女子爲從母姉妹、〈和名與內戚同、〉
従母兄弟 爾雅に云はく、従母の男子を従母昆弟と為し、女子を従母姉妹と為すといふ〈和名は内戚と同じ〉。

子孫類十
子孫類十
子 孫愐切韻云、子、〈即里反、〉息也、高祖本紀云、呂公曰、臣有息女、願爲箕箒妾
子 孫愐切韻に云はく、子〈即里反〉は息なりといふ。高祖本紀に云はく、呂公曰はく、臣に息女有り、願はくは箕箒の妾と為さんことをといふといふ。
孫 尒雅云、子之子爲孫、〈音尊、和名无麻古、[一云比古、]〉
孫 爾雅に云はく、子の子を孫〈音は尊、和名は無麻古むまご[、一に云ふ比古ひこ]〉と為すといふ。
曾孫 尒雅云、孫之子爲曾孫、〈曾、踈也、和名比々古、〉
曽孫 爾雅に云はく、孫の子を曽孫と為すといふ〈曽は疎なり、和名は比々古ひひこ〉。
玄孫 尒雅云、曾孫之子爲玄孫、〈玄、遠󠄁也、言益踈遠󠄁也、和名夜之波古、〉
玄孫 爾雅に云はく、曽孫の子を玄孫と為すといふ〈玄は遠なり、言ふはますます疎遠なればなり、和名は夜之波古やしはご〉。
來孫 尒雅云、玄孫之子爲來孫、〈言只有往來之親耳、今案五代孫也、〉
来孫 爾雅に云はく、玄孫の子を来孫と為すといふ〈言ふは只だ往来の親有るのみなればなり、今案ふるに五代の孫なり〉。
昆孫 尒雅云、來孫之子爲昆孫、〈昆、後也、今案六代孫也、〉
昆孫 爾雅に云はく、来孫の子を昆孫と為すといふ〈昆は後なり、今案ふるに六代の孫なり〉。
仍孫 尒雅云、昆孫之子爲仍孫、〈仍、重也、今案七代孫也〉漢書注󠄁云、耳孫、仍耳聲相近󠄁、盖一號也、
仍孫 爾雅に云はく、昆孫の子を仍孫と為すといふ〈仍は重なり、今案ふるに七代の孫なり〉。漢書注に云はく、耳孫、仍孫、声相近し、蓋し一つのなりといふ。
雲孫 尒雅云、仍孫之子爲雲孫、〈言輕遠󠄁如浮󠄁雲也、今案八代孫也、〉
雲孫 爾雅に云はく、仍孫の子を雲孫と為すといふ〈言ふは軽く遠きこと浮雲のごときなればなり。今案ふるに八代の孫なり〉。
外孫 尒雅云、女子之子爲外孫
外孫 爾雅に云はく、女子の子を外孫と為すといふ。
離孫 釋名云、出之子爲離孫、〈和名、男云无末古乎比、女云无末古米比、〉言離己遠󠄁也、
離孫 釈名に云はく、出の子を離孫〈和名は男を無末古乎比むまごをひと云ひ、女を無末古米比むまごめひと云ふ〉と為すといふ。言ふは己を離るること遠ければなり。
歸孫 釋名云、姪之子爲歸孫、〈和名與離孫同、〉婦󠄁人謂嫁爲歸、姪子列、故其所󠄁生曰歸也、
帰孫 釈名に云はく、姪の子を帰孫と為すといふ〈和名は離孫と同じ〉。婦人の嫁ぐを謂ひて帰と為し、姪の子も列たり。故に其の生む所を帰と曰ふなり。

婚姻類十一
婚姻類十一
婚姻 尒雅云、聟之父爲姻、〈音因、〉婦󠄁之父爲婚、〈音昏、〉婦󠄁之父母、聟之父母、相謂爲婚姻
婚姻 爾雅に云はく、聟の父を姻〈音は因〉と為し、婦の父を婚〈音は昏〉と為し、婦の父母、聟の父母は相謂ひて婚姻と為すといふ。
婚兄弟 尒雅云、婦󠄁之黨爲婚兄弟
婚兄弟 爾雅に云はく、婦のともがらを婚兄弟と為すといふ。
姻兄弟 尒雅云、聟之黨爲姻兄弟
姻兄弟 爾雅に云はく、聟の党を姻兄弟と為すといふ。
聟 尒雅云、子之夫爲聟、〈音細、字亦作𰭸、和名无古、〉
聟 爾雅に云はく、子の夫を聟〈音は細、字は亦、𰭸に作る、和名は無古むこ〉と為すといふ。
婭 釋名云、兩聟相謂爲婭、〈音亞、和名阿比无古、〉言一人取姊、一人取妹、相亞次也、又曰友聟、言相親友也、
婭 釈名に云はく、両聟、相謂ひて婭〈音は亞、和名は阿比無古あひむこ〉と為すといふ。言ふは一人は姉を取り、一人は妹を取り、相亜次すればなり。又、友聟と曰ふ。言ふは相親友なればなり。
私 爾雅云、女子謂姉妹之夫私、〈今案公私之私字也、和名與聟同、〉孫炎曰、謂無正親也、
私 爾雅に云はく、女子は姉妹の夫を謂ひて私と為すといふ〈今案ふるに公私の私の字なり、和名は聟と同じ〉。孫炎曰はく、謂ふは正親に無ければなりといふ。
婦󠄁 尒雅云、子之妻爲婦󠄁、〈和名與女、又夫婦󠄁之婦󠄁也、〉
婦 爾雅に云はく、子の妻を婦〈和名は与女よめ、又、夫婦の婦なり〉と為すといふ。
娣婦󠄁 尒雅云、長婦󠄁謂幼婦󠄁娣婦󠄁、〈娣音弟、和名於斗與女、〉
娣婦 爾雅に云はく、長婦は幼婦を謂ひて娣婦〈娣の音は弟、和名は於斗与女おとよめ〉と為すといふ。
姒婦󠄁 尒雅云、稚婦󠄁謂長婦󠄁姒婦󠄁、〈姒音似、和名於保與女、〉
姒婦 爾雅に云はく、稚婦は長婦を謂ひて姒婦〈姒の音は似、和名は於保与女おほよめ〉と為すといふ。
嫂婦󠄁 尒雅云、女子謂兄之妻嫂、〈音早、字亦作㛐、〉謂弟之妻婦󠄁、〈和名並與父母之呼子妻同、〉
嫂婦 爾雅に云はく、女子は兄の妻を謂ひて嫂〈音は早、字は亦、㛐に作る〉と為し、弟の妻を謂ひて婦と為すといふ〈和名は並びに父母の子妻を呼ぶと同じ〉。
妯娌 尒雅注󠄁云、關西、兄弟之妻、相呼爲妯娌、〈逐󠄁理二音、和名阿比與女、〉
妯娌 爾雅注に云はく、関西に兄弟の妻を相呼びて妯娌〈逐理の二音、和名は阿比与女あひよめ〉と為すといふ。

夫妻類十二
夫妻類十二
夫 白虎通󠄁云、夫猶扶也、以道扶接也、[〈乎布度、一云乎度古、〉]
夫 白虎通に云はく、夫は猶ほ扶のごときなり、道を以て扶接するなりといふ[〈乎布度をふと、一に云ふ乎度古をとこ〉]。
[後夫 顔氏家訓云、後夫多寵前󠄁夫之子、〈後夫、和名宇波乎、一云伊万乃乎宇止、〉]
[後夫 顔氏家訓に云はく、後夫、多くは前夫の子を寵すといふ〈後夫、和名は宇波乎うはを、一に云ふ伊万乃乎宇止いまのをうと〉]。
[前󠄁夫 顔氏云、前󠄁夫、〈和名之太乎、一云毛止乃乎止古、〉]
[前夫 顔氏に云ふ前夫〈和名は之太乎したを、一に云ふ毛止乃乎止古もとのをとこ〉。]
舅 尒雅云、夫之父曰舅、〈弁色立成云、阿翁之宇斗、〉在則曰君舅、沒則曰先舅
舅 爾雅に云はく、夫の父を舅〈弁色立成に云ふ阿翁、之宇止しうと〉と曰ひ、在するときには君舅と曰ひ、没するときには先舅と曰ふといふ。
姑 尒雅云、夫之母曰姑、〈古胡反、和名之宇斗女〉在則曰君姑、沒則曰先姑
姑 爾雅に云はく、夫の母を姑〈古胡反、和名は之宇斗女しうとめ〉と曰ひ、在するときには君姑と曰ひ、没するときには先姑と曰ふといふ。
兄公 尒雅云、夫之兄曰兄公、〈和名古之宇斗、〉
兄公 爾雅に云はく、夫の兄を兄公〈和名は古之宇斗こじうと〉と曰ふといふ。
叔 尒雅云、夫之弟曰叔、〈和名與兄公同、〉
叔 爾雅に云はく、夫の弟を叔〈和名は兄公と同じ〉と曰ふといふ。
女公 尒雅云、夫之姉曰女公、〈和名古之宇止女、〉
女公 爾雅に云はく、夫の姉を女公〈和名は古之宇止女こじうとめ〉と曰ふといふ。
妹 尒雅云、夫之女弟曰妹、〈和名與女公同、又姊妹之妹見上文、〉
妹 爾雅に云はく、夫の女弟を妹〈和名は女公と同じ。又、姉妹の妹は上文に見ゆ〉と曰ふといふ。
妻 白虎通󠄁云、妻、[〈音西、和名米、又用夫婦󠄁之婦󠄁、一音去、妻訓米阿波湏、〉]齊也、與夫齊躰也、
妻 白虎通に云はく、妻[〈音は西、和名は、又、夫婦の婦を用ゐる、一音に去、妻の訓は米阿波須めあはす〉]は斉なり、夫と体をひとしくするなりといふ。
妾 文字集略云、妾、〈音接、和名乎无奈女、今案又有枉嫡之名、本文未詳、但或說言非正嫡、故以枉爲稱也、〉小妻也、
妾 文字集略に云はく、妾〈音は接、和名は乎無奈女をむなめ、今案ふるに、又、枉嫡の名有り、本文は未だ詳かならず。但し或説に、言ふは正嫡に非ざる故に枉を以て称と為せばなり〉は小妻なりといふ。
前󠄁後妻 顔氏家訓云、後妻多惡前󠄁妻之子、〈和名前󠄁妻古奈美、後妻宇波奈利、前󠄁妻之子後妻所󠄁稱、前󠄁夫之子後夫所󠄁稱、並麻々古也、世稱後子、本文未詳也、〉
前後妻 顔氏家訓に云はく、後妻は多く前妻の子をにくむといふ〈和名は前妻を古奈美こなみ、後妻を宇波奈利うはなり、前妻の子を後妻の称する所、前夫の子を後夫の称する所、並びに麻々古ままこなり、世に後子と称す、本文は未だ詳かならず〉。
外舅 尒雅云、妻之父曰外舅、〈弁色立成云婦󠄁翁、〉
外舅 爾雅に云はく、妻の父を外舅と曰ふといふ〈弁色立成に云ふ婦翁〉。
外姑 尒雅云、妻之母曰外姑、〈辨色立成云婦󠄁母、今俗人所󠄁稱外舅姑與舅姑同、〉孫炎曰、夫之敬妻之父母、如妻之尊敬舅姑、故同其名外字也、
外姑 爾雅に云はく、妻の母を外姑と曰ふといふ〈弁色立成に云ふ婦母、今、俗人の称する所の外舅姑は舅姑と同じ〉。孫炎曰はく、夫の、妻の父母を敬ふは、妻の、舅姑を尊敬するがごとし、故に其の名を同じくして外の字を加ふるなりといふ。
婦󠄁兄弟 辨色立成云、婦󠄁兄、〈婦󠄁之兄也、〉婦󠄁弟、〈婦󠄁之弟也、和名並與兄公同、〉
婦兄弟 弁色立成に云ふ婦兄〈婦の兄なり〉、婦弟〈婦の弟なり、和名は並びに兄公と同じ〉。
姨 尒雅云、妻之姉妹曰姨、〈音夷、和名與女公同、一云以毛之宇斗女、〉
姨 爾雅に云はく、妻の姉妹を姨〈音は夷、和名は女公と同じ、一に云ふ以毛之宇斗女いもしうとめ〉と曰ふといふ。
甥 尒雅云、妻之昆弟曰甥、〈音生、和名古之宇斗、〉
甥 爾雅に云はく、妻の昆弟を甥〈音は生、和名は古之宇斗こじうと〉と曰ふといふ。

卷第二
巻第二
 形體部第三 疾病部第四 術藝部第五
 形体部第三 疾病部第四 術芸部第五
形體部第三
形体部第三
 頭面類十三 耳目類十四 鼻口類十五 毛髮類十六 身體類十七 臓腑類十八 手足類十九 莖垂類二十
 頭面類十三 耳目類十四 鼻口類十五 毛髪類十六 身体類十七 臓腑類十八 手足類十九 茎垂類二十

頭面類十三
頭面類十三
首頭 釋名云、首、〈加宇倍、〉始也、頭、〈度侯反、訓上同、一云賀之良、〉獨也、言處體而獨貴也、
首頭 釈名に曰はく、首〈加宇倍かうべ〉は始めなり、頭〈度侯反、訓は上に同じ、一に云ふ賀之良かしら〉は独なり、言ふは体にりて独りたふとければなり。
顱〈髑髏附〉 文字集略云、顱〈落胡反、字亦作髗、加之良乃加波良、〉𦛁蓋也、玉篇云、髑髏、〈獨婁二音、俗云比度加之良、〉頭骨也、
顱〈髑髏付〉 文字集略に云はく、顱〈落胡反、字は亦、髗に作る、加之良乃加波良かしらのかはら〉はなづきおほひなりといふ。玉篇に云はく、髑髏〈独婁の二音、俗に云ふ比度加之良ひとがしら〉は頭の骨なりといふ。
𦛁 說文云、𦛁、〈奴道反、字亦作𦠊、和名奈都歧、〉頭中髓也、
脳 説文に云はく、脳〈奴道反、字は亦、𦠊に作る、和名は奈都岐なづき〉は頭中の髄なりといふ。
顖會 針灸經云、顖會、一名天窓、〈顖音信、字亦作囱、和名阿太万、〉楊氏漢語抄云、䫜、〈訓上同、音於交反、〉
顖会 針灸経に云はく、顖会、一名は天窓といふ〈顖の音は信、字は亦、囱に作る、和名は阿太万あたま〉。楊氏漢語抄に云ふ䫜〈訓は上に同じ、音は於交反〉。
頂𩕳 陸詞曰、顚、〈音天、訓以太々歧、〉頂也、頂𩕳、〈丁寧之上聲、〉頭上也、
頂𩕳 陸詞曰はく、顚〈音は天、訓は以太々岐いただき〉は頂なり、頂𩕳〈丁寧の上声〉は頭上なりといふ。
䫦 文字集略云、䫦、〈古盍反、加波知、〉䫦車也、
䫦 文字集略に云はく、䫦〈古盍反、加波知かばち〉は䫦車なりといふ。
蟀谷〈髮際附〉 針灸經云、耳以上入髮際一寸半󠄁、有二穴、應嚼而動、謂之蟀谷、〈和名古米賀美、髮際、加美歧波、〉
蟀谷〈髪際付〉 針灸経に云はく、耳以上の髪際に入ること一寸半に二穴有り、嚼むに応じて動く、之れを蟀谷〈和名は古米賀美こめかみ、髪際は加美岐波かみぎは〉と謂ふといふ。
雲脂 墨子五行記云、頭垢謂之雲脂、〈和名加之良乃阿加、一云以路古、〉
雲脂 墨子五行記に云はく、頭垢は之れを雲脂〈和名は加之良乃阿加かしらのあか、一に云ふ以路古いろこ〉と謂ふといふ。
顔面 四聲字苑云、顔、〈五姦反、訓與面同、〉眉目間也、遊󠄁仙窟云、面子、〈師說云加保波世、一云保々都歧、〉
顔面 四声字苑に云はく、顔〈五姦反、訓は面と同じ〉は眉目の間なりといふ。遊仙窟に云ふ面子〈師説に云ふ加保波世かほばせ、一に云ふ保々都岐ほほづき〉。
額 楊雄方言云、額、〈五陌反、比太比、〉東齊謂之顙、〈蘇朗反、〉幽州謂之顎、〈五各反、〉
額 楊雄方言に云はく、額〈五陌反、比太比ひたひ〉は東斉に之れを顙〈蘇朗反〉と謂ひ、幽州に之れを顎〈五各反〉と謂ふといふ。
頰〈頰骨附〉 野王案、頰、〈音挾、都良、一云保々、〉面旁目下也、師古漢書注󠄁云、頰肉曰胲、〈音改、〉玉篇云、顴、〈音權、今案字或通󠄁用、都良保禰、〉頰骨也、或曰輔車
頬〈頬骨付〉 野王案ずるに、頬〈音は挟、都良つら、一に云ふ保々ほほ〉は面のかたはらの目の下なりとす。師古漢書注に云はく、頬骨を胲〈音は改〉と曰ふといふ。玉篇に云はく、顴〈音は権、今案ふるに字は或に通用す、都良保禰つらぼね〉は頬骨なりといふ。或は輔車と曰ふ。
靨 淮南子注󠄁云、靨、〈音葉、惠久保、〉面小下也、
靨 淮南子注に云はく、靨〈音は葉、恵久保ゑくぼ〉は面のすこしく下なりといふ。
頷〈頷骨附〉 方言云、頥、〈音怡、〉謂之頷、〈胡感反、上聲之重、字亦作顄、於度加比、〉野王案、顄車、〈歧保禰、〉頷骨也、
頷〈頷骨付〉 方言に云はく、頤〈音は怡〉は之れを頷〈胡感反、上声の重、字は亦、顄に作る、於度加比おとがひ〉と謂ふといふ。野王案ずるに、顄車〈岐保禰きぼね〉は頷骨なりとす。
頸 陸詞切韵云、領、〈音冷、〉頸也、頸、〈居井反、久比、〉頭莖也、
頸 陸詞切韻に云はく、領〈音は冷〉は頸なり、頸〈居井反、久比くび〉は頭茎なりといふ。
胡 釋名云、咽下垂曰胡、〈之太久比、〉
胡 釈名に云はく、咽の下垂するを胡〈之太久比したくび〉と曰ふといふ。
項 陸詞切韵云、項、〈胡講反、上聲之重、宇奈之、〉頸後也、公羊傳注󠄁云、齊人項謂之脰、〈田候反、〉
項 陸詞切韻に云はく、項〈胡講反、上声の重、宇奈之うなじ〉は頸の後ろなりといふ。公羊伝注に云はく、斉人、項は之れを脰〈田候反〉と謂ふといふ。

耳目類十四
耳目類十四
耳 孫愐切韻云、耳、〈美々、〉聽聲者也、
耳 孫愐切韻に云はく、耳〈美々みみ〉は声を聴く者なりといふ。
耳埵 辨色立成云、耳埵、〈美々太比、下丁果反、〉
耳埵 弁色立成に云はく、耳埵〈美々太比みみたび、下は丁果反〉といふ。
完骨 針灸經云、完骨、〈美々世々乃保禰、〉耳後大骨也、
完骨 針灸経に云はく、完骨〈美々世々乃保禰みみせせのほね〉は耳の後ろの大骨なりといふ。
目 釋名云、目、默也、默而內識也、
目 釈名に云はく、目は黙なり、黙して内にるなりといふ。
眼〈眼皮附〉 廣雅云、眼、〈五簡反、万奈古、〉目子也、唐韻云、瞳、〈音童、訓上同、〉目童也、遊󠄁仙窟云、眼皮、〈師說萬比歧、一說萬奈古井、〉
眼〈眼皮付〉 広雅に云はく、眼〈五簡反、万奈古まなこ〉は目子なりといふ。唐韻に云はく、瞳〈音は童、訓は上に同じ〉は目童なりといふ。遊仙窟に云ふ眼皮〈師説に万比岐まびき、一説に万奈古井まなこゐ〉。
矊 文字集畧云、矊、〈音綿、久路萬奈古、〉瞳子黒也、
矊 文字集略に云はく、矊〈音は綿、久路万奈古くろまなこ〉は瞳子の黒きなりといふ。
眸 廣雅云、眸、〈莫侯反、比度美、一訓與眼同、〉目珠子也、
眸 広雅に云はく、眸〈莫侯反、比度美ひとみ、一訓は眼と同じ〉は目の珠子なりといふ。
瞼 唐韻云、瞼、〈巨險反、又居儼反、末奈布太、〉目瞼也、
瞼 唐韻に云はく、瞼〈巨険反、又、居儼反、末奈布太まなぶた〉は目の瞼なりといふ。
眶 唐韻云、眶、〈音匡、萬奈加布良、〉目眶也、
眶 唐韻に云はく、眶〈音は匡、万奈加布良まなかぶら〉は目眶なりといふ。
眦 廣雅云、眦、〈在詣反、又才賜反、萬奈之利、〉目裂也、遊󠄁仙窟云、眼尾、〈師說、訓同上、〉
眦 広雅に云はく、眦〈在詣反、又、才賜反、万奈之利まなじり〉は目の裂なりといふ。遊仙窟に云ふ眼尾〈師説に訓は上に同じ〉。
眵 唐韻云、眵、〈音支、米久曾、〉目汁凝也、
眵 唐韻に云はく、眵〈音は支、米久曽めくそ〉は目の汁のれるなりといふ。
涕淚〈承泣附〉 說文云、涕淚、〈體類二音、奈美太、〉目汁也、黄帝內經云、目下謂之承泣、〈音急、奈美太々利、〉
涕涙〈承泣付〉 説文に云はく、涕涙〈体類の二音、奈美太なみだ〉は目の汁なりといふ。黄帝内経に云はく、目の下は之れを承泣〈音は急、奈美太々利なみだたり〉と謂ふといふ。

鼻口類十五
鼻口類十五
鼻〈嚏附〉 陸詞切韻云、鼻、〈音美、波奈、〉面中岳也、漢書注󠄁云、高祖爲人隆凖、〈音准、〉應劭曰、隆高也、李斐曰、準鼻也、玉篇云、嚏、〈丁計反、波奈比流、〉噴鼻也、
鼻〈嚏付〉 陸詞切韻に云はく、鼻〈音は美、波奈はな〉は面中の岳なりといふ。漢書注に云はく、高祖は人とり隆準〈音は准〉といふは、応劭曰はく、隆は高なりといひ、李斐曰はく、凖は鼻なりといふ。玉篇に云はく、嚏〈丁計反、波奈比流はなひる〉は噴鼻なりといふ。
齃 說文云、齃、〈烏曷反、字亦作頞、波奈久歧、〉鼻莖也、
齃 説文に云はく、齃〈烏曷反、字は亦、頞に作る。波奈久岐はなぐき〉は鼻茎なりといふ。
鼻柱 黃帝內經云、水溝在鼻柱下、〈鼻柱、波奈波之良、〉
鼻柱 黄帝内経に云はく、水溝は鼻柱の下に在りといふ〈鼻柱は波奈波之良はなばしら〉。
䘐 說文云、䘐、〈女菊反、波奈知、〉鼻出血也、
衂 説文に云はく、衂〈女菊反、波奈知はなぢ〉は鼻より血出づるなりといふ。
洟〈挮附〉 字書云、洟、〈音夷、湏々波奈、〉鼻液也、文字集畧云、挮、〈他禮反、又他細反、俗云波奈加无、〉以手去鼻洟也、
洟〈挮付〉 字書に云はく、洟〈音は夷、須々波奈すすはな〉は鼻のしるなりといふ。文字集略に云はく、挮〈他礼反、又、他細反、俗に云ふ波奈加無はなかむ〉は手を以て鼻洟を去るなりといふ。
口 野王案、口、〈苦后反、〉所󠄁以言食也、
口 野王案ずるに、口〈苦后反〉はものいくらふ所以なりとす。
舌 四聲字苑云、舌、〈音切、之多、〉
舌 四声字苑に云はく、舌〈音は切、之多した〉といふ。
人中 黃帝內經云、水溝、即人中也、
人中 黄帝内経に云はく、水溝は即ち人中なりといふ。
脣吻 說文云、脣吻、〈上音旬、久知比留、下音粉、久知佐歧良、〉
脣吻 説文に云はく、脣吻〈上の音は旬、久知比留くちびる、下の音は粉、久知佐岐良くちさきら〉といふ。
縱理 史記云、縱理、〈縱音如松反、〉入口、餓死法也、
縦理 史記に云はく、縦理〈縦の音は如松反〉、口に入るは餓死するの法なりといふ。
齒〈齔附〉 說文云、齒、〈音始、波、〉口中齗骨者也、齔、〈初覲反、去聲、訓波加久〉毀齒也、
歯〈齔付〉 説文に云はく、歯〈音は始、〉は口中の齗骨なる者なり、齔〈初覲反、去声、訓は波加久はかく〉は歯をくなりといふ。
板齒 辨色立成云、板齒、〈奴可波、楊氏說同、〉
板歯 弁色立成に云はく、板歯〈奴可波ぬかば、楊氏の説同じ〉といふ。
牙 廣雅云、機、謂之牙、〈魚加反、歧波、〉野王案、牙在齒後、㝡近󠄁輔車者也、
牙 広雅に云はく、機は之れを牙〈魚加反、岐波きば〉と謂ふといふ。野王案ずるに、牙は歯の後ろに在り、最も輔車に近き者なりとす。
齨 說文云、齨、〈音舅、上聲之重、宇湏波、〉老人齒如臼也、
齨 説文に云はく、齨〈音は舅、上声の重、宇須波うすば〉は、老人の歯の臼のごときなりといふ。
齗 玉篇云、齗、〈音銀、波之々、〉齒之肉也、
齗 玉篇に云はく、齗〈音は銀、波之々はじし〉は歯の肉なりといふ。
腭 唐韻云、腭、〈音萼、字亦作㗁、阿歧、〉口中上腭也、
腭 唐韻に云はく、腭〈音は萼、字は亦、㗁に作る、阿岐あぎ〉は口中の上腭なりといふ。
咽喉 說文云、咽、〈於前󠄁反、哽咽之處、音悅、〉謂之嗌、〈音益、〉爾雅注󠄁云、喉、〈音侯、〉謂之嚨、〈音籠、能无度、〉
咽喉 説文に云はく、咽〈於前反、哽咽の処の音は悦〉は之れを嗌〈音は益〉と謂ふといふ。爾雅注に云はく、喉〈音は侯〉は之れを嚨〈音は籠、能无度のむど〉と謂ふといふ。
吭 史記云、絕亢而死、〈亢音胡郎反、又去聲、唐韵從口作吭、訓上同、俗云能无度布江、〉
吭 史記に云はく、亢を絶ちて死すといふ〈亢の音は胡郎反、又、去声、唐韻に口に従ひ吭に作る、訓は上に同じ、俗に云ふ能無度布江のむどぶえ〉。
唾 考聲切韵云、唾、〈湯臥反、都波歧、〉口中津也、
唾 考声切韻に云はく、唾〈湯臥反、都波岐つはき〉は口中の津なりといふ。

毛髮類十六
毛髪類十六
毫毛 陸詞曰、毛、〈音旄、〉膚毫也、毫、〈胡高反、〉長毛也、
毫毛 陸詞曰はく、毛〈音は旄〉は膚のなり、毫〈胡高反〉は長き毛なりといふ。
𩯭髮〈髮根附〉 說文云、𩯭、〈卑𠫤反、〉頰髮也、野王案、髮、〈音發、加美、〉首上長毛也、蘇敬本草注󠄁云、髲、〈仁𧩑音義云音被、楊玄操作髮、走孔反、又私閏反、和名加美乃禰、今案楊說是也、髲者頭髲、見容飾󠄁具󠄁、〉
鬢髪〈髪根付〉 説文に云はく、鬢〈卑吝反〉は頬の髪なりといふ。野王案ずるに、髪〈音は発、加美かみ〉は首上の長き毛なりとす。蘇敬本草注に云はく、髲〈仁諝音義に音は被と云ひ、楊玄操は髪に作り、走孔反、又、私閏反、和名は加美乃禰かみのね、今案ふるに楊説は是れなり、髲は頭髲、容飾具に見ゆ〉といふ。
䭮 唐韵云、䭮〈音拂、沼加々美、〉額前󠄁髮也、
䭮 唐韻に云はく、䭮〈音は払、沼加々美ぬかがみ〉は額の前の髪なりといふ。
髻〈鬟附〉 唐韵云、髻〈音計、毛斗々利、〉鬟也、四聲字苑云、鬟、〈音還󠄁、和名美都良、一訓上同、〉屈髮也、
髻〈鬟付〉 唐韻に云はく、髻〈音は計、毛斗々利もとどり〉は鬟なりといふ。四声字苑に云はく、鬟〈音は還、和名は美都良みづら、一訓は上に同じ〉は髪を屈するなりといふ。
鬌 文字集畧云、鬌、〈丁果反、須々之路、〉小兒剪髮所󠄁餘也、
鬌 文字集略に云はく、鬌〈丁果反、須々之路すずしろ〉は小児の剪り髪の余る所なりといふ。
髭鬚 說文云、髭、〈子移反、加美豆比介、〉口上鬚也、鬚髯、〈上音須、下如廉反、之毛都比介、〉頤下毛也、
髭鬚 説文に云はく、髭〈子移反、加美豆比介かみつひげ〉は口の上の鬚なり、鬚髯〈上の音は須、下は如廉反、之毛都比介しもつひげ〉はおとがひの下の毛なりといふ。
眉 說文云、眉、〈音麋、万由、〉目上毛也、
眉 説文に云はく、眉〈音は麋、万由まゆ〉は目の上の毛なりといふ。
睫 四聲字苑云、睫、〈音接、字亦作䀹、麻都介、〉目瞼毛也、
睫 四声字苑に云はく、睫〈音は接、字は亦、䀹に作る、麻都介まつげ〉は目瞼の毛なりといふ。

身體類十七
身体類十七
身 唐韻云、身、〈式神反、〉躬、〈音弓、又作躳、〉軀、〈音區、訓與身同、〉
身 唐韻に云はく、身〈式神反〉、躬〈音は弓、又、躳に作る〉、躯〈音は区、訓は身と同じ〉といふ。
肢躰 野王案、肢、〈章移反、字亦作𨈛、衣太、〉四躰也、體、〈他禮反、字亦作躰、〉猶形也、有形之摠稱也、
肢躰 野王案ずるに、肢〈章移反、字は亦、𨈛に作る、衣太えだ〉は四躰なり、體〈他礼反、字は亦、躰に作る〉は猶ほ形のごときなり、形有るの摠称なりとす。
𩩲𩨗 廣雅云、𩩲𩨗、〈二音曷亐、針灸經云、缺盆骨肩骨也、加太乃保禰〉、
𩩲𩨗 広雅に云はく、𩩲𩨗〈二音で曷亐、針灸経に云ふ欠盆骨は肩骨なり、加太乃保禰かたのほね〉といふ。
肩 陸詞曰、肩、〈音堅、加太、〉髆也、髆、〈音博󠄁、字亦作膊、〉肩也、
肩 陸詞曰はく、肩〈音は堅、加太かた〉は髆なり、髆〈音は博、字は亦、膊に作る〉は肩なりといふ。
胛 四聲字苑云、胛、〈音甲、加以加禰、〉肩之下也、
胛 四声字苑に云はく、胛〈音は甲、加以加禰かいがね〉は肩の下なりといふ。
腋 唐韻云、腋、〈音液、和歧、〉肘腋也、四聲字苑云、脇、〈虛業反、字亦作胠、又與脅同、〉腋下也、
腋 唐韻に云はく、腋〈音は液、和岐わき〉は肘腋なりといふ。四声字苑に云はく、脇〈虚業反、字は亦、胠に作る、又、脅と同じ〉は腋の下なりといふ。
背 玉篇云、脊〈音跡、世奈加、〉背也、
背 玉篇に云はく、脊〈音は跡、世奈加せなか〉は背なりといふ。
胷臆 唐韻云、胷、〈許容反、〉膺、〈於陵反、〉臆、〈於力反、无禰、〉也、
胸臆 唐韻に云はく、胸〈許容反〉、膺〈於陵反〉は臆〈於力反、無禰むね〉なりといふ。
乳 考聲切韻云、乳、〈而主󠄁反、上聲之重、智、〉母所󠄁以飮__子之汁也、
乳 考声切韻に云はく、乳〈而主反、上声の重、〉は母の子に飲ます所以の汁なりといふ。
腹 野王案、腹、〈音複、波良、〉所以容裹五藏者也、
腹 野王案ずるに、腹〈音は複、波良はら〉は五蔵をつつむ所以の者なりとす。
膍臍 四聲字苑云、膍臍、〈鼙齊二音、保曾、俗云倍曾〉腹孔也、
膍臍 四声字苑に云はく、膍臍〈鼙斉の二音、保曽ほそ、俗に云ふ倍曽へそ〉は腹の孔なりといふ。
水腹 釋名云、自臍以下謂之水腹、或曰小腹、〈古能加美、〉
水腹 釈名に云はく、臍より以下しもつかたは之れを水腹と謂ひ、或は小腹〈古能加美このかみ〉と曰ふといふ。
脅肋 四聲字苑云、脅〈虛業反、加太波良保禰、〉身傍、脅肋間也、文字集畧云、肋、〈音勒、太須介乃保禰、〉幹骨也、
脇肋 四声字苑に云はく、脇〈虚業反、加太波良保禰かたはらぼね〉は身のかたはら、脇肋の間なりといふ。文字集略に云はく、肋〈音は勒、太須介乃保禰たすけのほね〉は幹骨なりといふ。
[髂 唐韻云、髂、〈枯賀反、和名古之保禰、〉腰骨也、髖、〈寛反、〉兩髂間也、]
[髂 唐韻に云はく、髂〈枯賀反、和名は古之保禰こしぼね〉は腰骨なり、髖〈寛の反〉は両髂の間なりといふ。]
𦝫〈𦝫支附〉 說文云、𦝫、〈於霄反、字或作腰、古之、〉身中也、遊󠄁仙窟云細々腰支、〈師說、古之波勢、〉
𦝫〈𦝫支付〉 説文に云はく、𦝫〈於霄反、字は或に腰に作る、古之こし〉は身の中なりといふ。遊仙窟に、細々たる腰支〈師説に古之波勢こしばせ〉と云ふ。
膁 唐韻云、膁、〈苦簟反、上聲、於比之波利、〉腰左右虛肉處也、
膁 唐韻に云はく、膁〈苦簟反、上声、於比之波利おびしばり〉は腰の左右の虚肉の処なりといふ。
胯 唐韻云、胯、〈音袴、万太、〉兩股間也、
胯 唐韻に云はく、胯〈音は袴、万太また〉は両股の間なりといふ。
腿 宿曜經云、左右腿股、〈腿音退󠄁、宇智阿波勢、〉
腿 宿曜経に云はく、左右の腿股といふ〈腿の音は退、宇智阿波勢うちあはせ〉。
臀〈𡰪片附〉 唐韻云、尻〈苦刀反、之利、〉臀也、臀、〈徒渾反、俗云井佐良比、〉坐處也、𡱰、〈音竺、字亦作𡰪、辨色立成云、𡰪片、之利太无良、今案鳥獸之尻也、〉尾下孔也、
臀〈𡰪片付〉 唐韻に云はく、尻〈苦刀反、之利しり〉は臀なり、臀〈徒渾反、俗に云ふ井佐良比ゐざらひ〉は坐する処なり、𡱰〈音は竺、字は亦、𡰪に作る、弁色立成に云ふ𡰪片、之利太無良しりたむら、今案ふるに鳥獣の尻なり〉は尾の下の孔なりといふ。
骨 野王案、骨、〈音忽、保禰、〉肉之核也、針灸經注󠄁云、缺盆骨肩骨也、鳩尾骨臆前󠄁骨也、
骨 野王案ずるに、骨〈音は忽、保禰ほね〉は肉の核なりとす。針灸経注に云はく、欠盆骨は肩の骨なり、鳩尾骨は臆の前の骨なりといふ。
髓 野王案、髓、〈先累反、須禰、〉骨中脂也、
髄 野王案ずるに、髄〈先累反、須禰すね〉は骨の中の脂なりとす。
筋力 陸詞曰、筋、〈音斤、須知、〉骨、筋字從竹肉力也、周󠄀禮注󠄁云、力、〈呂職反、〉筋骸之强者也、
筋力 陸詞曰はく、筋〈音は斤、須知すぢ〉骨といふ。筋の字は竹、肉、力に従ふなり。周礼注に云はく、力〈呂職反〉は筋骸の強き者なりといふ。
肉〈腠理附〉 玉篇云、肉、〈如陸反、字亦作完、之々、〉肌膚之肉也、淮南子云、解必中腠、〈音奏、之々和歧、〉
肉〈腠理付〉 玉篇に云はく、肉〈如陸反、字は亦、完に作る、之々しし〉は肌膚の肉なりといふ。淮南子に云はく、解けば必ず腠〈音は奏、之々和岐ししわき〉にあたるといふ。
[膜 孫愐云、膜、〈音與莫同、和名太奈之々、〉肉內薄皮也、]
[膜 孫愐云はく、膜〈音は莫と同じ、和名は太奈之々たなしし〉は肉の内の薄き皮なりといふ。]
脂膏 唐韵云、膏、〈音高、〉肪、〈音方、〉脂、〈之夷反、阿布良、〉
脂膏 唐韻に云はく、膏〈音は高〉、肪〈音は方〉は脂〈之夷反、阿布良あぶら〉といふ。
血脉 野王案、血、〈音决、知、〉肉中赤汁也、脉、〈音麥、知乃美知、〉肉中血理也、
血脈 野王案ずるに血〈音は決、〉は肉の中の赤き汁なり、脈〈音は麦、知乃美知ちのみち〉は肉の中の血の理なりとす。
孔竅 唐韻云、竅、〈苦吊反、去聲、孔竅並阿奈、〉穴也、
孔竅 唐韻に云はく、竅〈苦吊反、去声、孔、竅は並びに阿奈あな〉は穴なりといふ。
皮〈皴附〉 釋名云、皮、〈音疲、加波、〉被躰也、唐韵云、皴、〈七倫也、之和、〉皮細起󠄁也、
皮〈皴付〉 釈名に云はく、皮〈音は疲、加波かは〉は体をおほふなりといふ。唐韻に云はく、皴〈七倫反、之和しわ〉は皮のこまかく起つなりといふ。
肌膚 陸詞切韻云、膚、〈音夫、字亦作肤、波太倍、〉體肌也、肌、〈音飢、賀波倍、〉膚肉也、
肌膚 陸詞切韻に云はく、膚〈音は夫、字は亦、肤に作る、波太倍はだへ〉は体の肌なり、肌〈音は飢、賀波倍かはべ〉は膚の肉なりといふ。
汗 蔣魴切韵云、汗、〈音寒、一音翰、阿勢、〉人身上𤍠汁也、
汗 蒋魴切韻に云はく、汗〈音は寒、一音に翰、阿勢あせ〉は人の身の上の熱き汁なりといふ。

臟腑類十八
臓腑類十八
五藏 中黃子云、五藏、〈去聲、〉肝心脾肺腎也、
五蔵 中黄子に云はく、五蔵〈去声〉は肝、心、脾、肺、腎なりといふ。
肝 白虎通󠄁云、肝、〈音干、歧毛、〉木之精也、色靑、
肝 白虎通に云はく、肝〈音は干、岐毛きも〉は木の精なり、色青しといふ。
心 白虎通󠄁云、心、〈息林反、〉火之精也、色赤、
心 白虎通に云はく、心〈息林反〉は火の精なり、色赤しといふ。
脾 白虎通󠄁云、脾、〈俾移反、與古之、〉土之精也、色黃、
脾 白虎通に云はく、脾〈俾移反、与古之よこし〉は土の精なり、色黄なりといふ。
肺 白虎通󠄁云、肺、〈音廢、布久布久之、〉金之精也、色白、
肺 白虎通に云はく、肺〈音は廃、布久布久之ふくぶくし〉は金の精なり、色白しといふ。
腎 白虎通󠄁云、腎、〈時忍󠄁反、上聲之重、无良度、〉水之精也、色黑、
腎 白虎通に云はく、腎〈時忍反、上声の重、無良度むらと〉は水の精なり、色黒しといふ。
六府 中黃子云、六府、大腸小腸膽胃三膲膀胱也、
六府 中黄子に云はく、六府は大腸、小腸、胆、胃、三膲、膀胱なりといふ。
大腸 中黃子云、大腸、〈音長、波良和太、〉爲傳送󠄁之府
大腸 中黄子に云はく、大腸〈音は長、波良和太はらわた〉は伝送の府と為すといふ。
小腸 中黃子云、小腸、〈楊氏漢語抄云、保曾和太、〉爲受盛之府
小腸 中黄子に云はく、小腸〈楊氏漢語抄に云ふ保曽和太ほそわた〉は受盛の府と為すといふ。
膽 中黃子云、膽、〈都敢反、以、〉爲中精之府
胆 中黄子に云はく、胆〈都敢反、〉は中精の府と為すといふ。
胃 中黃子云、胃、〈音渭、久曾布久路、〉爲五糓之府
胃 中黄子に云はく、胃〈音は渭、久曽布久呂くそぶくろ〉は五穀の府と為すといふ。
三膲 中黃子云、三膲、〈音焦、楊氏漢語抄云、美能和太、〉孤立爲中瀆之府、野王案、上中下謂之三膲也、
三膲 中黄子に云はく、三膲〈音は焦、楊氏漢語抄に云ふ美能和太みのわた〉は孤立して中涜の府と為すといふ。野王案ずるに、上中下、之れを三膲と謂ふなりとす。
膀胱 廣雅云、膀胱、〈旁光二音、楊氏漢語抄云、由波利布久路、〉脬也、唐韻云、脬、〈音胞、〉腹中水府也、
膀胱 広雅に云はく、膀胱〈旁光の二光、楊氏漢語抄に云ふ由波利布久路ゆばりぶくろ〉は脬なりといふ。唐韻に云はく、脬〈音は胞〉は腹中の水府なりといふ。
魂神 淮南子云、天氣為魂、〈多末之比、〉許愼曰、魄、陰神也、魂、陽神也、
魂神 淮南子に云はく、天気を魂〈多末之比たましひ〉と為すといふ。許愼曰はく、魄は陰神なり、魂は陽神なりといふ。

手足類十九
手足類十九
手子 遊󠄁仙窟云、手子、〈師說、太奈須惠、〉
手子 遊仙窟に云はく、手子〈師説に太奈須恵たなすゑ〉といふ。
掌 四聲字苑云、掌、〈音賞、太那古々路、日本紀私記云、手掌、太奈曾古、〉手心也、
掌 四声字苑に云はく、掌〈音は賞、太那古々路たなごころ、日本紀私記に云ふ手掌、太奈曽古たなぞこ〉は手心なりといふ。
拳 唐韻云、拳、〈音權、古布之、〉屈手也、
拳 唐韻に云はく、拳〈音は権、古布之こぶし〉は手を屈するなりといふ。
指 唐韵云、指、〈音旨、由比、俗云於與比、〉手指也、扐、〈音勒、於與比乃萬太、〉指間也、
指 唐韻に云はく、指〈音は旨、由比ゆび、俗に云ふ於与比および〉は手の指なり、扐〈音は勒、於与比乃万太およびのまた〉は指の間なりといふ。
腡 四聲字苑云、腡、〈落戈反、天乃阿夜、〉手指文也、
腡 四声字苑に云はく、腡〈落戈反、天乃阿夜てのあや〉は手の指の文なりといふ。
拇 國語注󠄁云、拇、〈音母、於保於與比、〉大指也、
拇 国語注に云はく、拇〈音は母、於保於与比おほおよび〉は大指なりといふ。
食指 左傳云、食指、〈楊氏漢語抄云、頭指、比斗佐之乃於與比、〉野王案、第二指也、
食指 左伝に云はく、食指〈楊氏漢語抄に云ふ頭指、比斗佐之乃於与比ひとさしのおよび〉といふ。野王案ずるに、第二指なりとす。
中指 儀禮云、中指、〈奈賀乃於與比、〉野王案、第三指也、
中指 儀礼に云はく、中指〈奈賀乃於与比なかのおよび〉といふ。野王案ずるに、第三指なりとす。
無名指 孟子云、無名指、〈奈々之乃於與比、〉野王案、第四指也、
無名指 孟子に云はく、無名指〈奈々之乃於与比ななしのおよび〉といふ。野王案ずるに、第四指なりとす。
季指 儀禮云、季指、〈古於與比、〉野王案、小指、第五指也、
季指 儀礼に云はく、季指〈古於与比こおよび〉といふ。野王案ずるに、小指、第五指なりとす。
腕 陸詞切韻云、腕、〈烏段反、太々无歧、俗云宇天、〉手腕也、
腕 陸詞切韻に云はく、腕〈烏段反、太々無岐ただむき、俗に云ふ宇天うで〉は手腕なりといふ。
臂 廣雅云、臂、〈音祕、〉謂之肱、〈古弘反、〉四聲字苑云、肘、〈陟柳反、或作䏔、比知、〉臂節也、
臂 広雅に云はく、臂〈音は秘〉は之れを肱〈古弘反〉と謂ふといふ。四声字苑に云はく、肘〈陟柳反、或は䏔に作る、比知ひぢ〉は臂の節なりといふ。
股 唐韻云、髀、〈傍禮反、上聲之重、與陛同、辨色立成云、圍髀、毛々、〉股也、𦙶、〈公戶反、上聲、〉古文股字也、
股 唐韻に云はく、髀〈傍礼反、上声の重、陛と同じ、弁色立成に云ふ囲髀、毛々もも〉は股なり、𦙶〈公戸反、上声〉は古文に股の字なりといふ。
膝 野王案、膝、〈音悉、比佐、〉脛頭也、
膝 野王案ずるに、膝〈音は悉、比佐ひざ〉は脛頭なりとす。
膝䯊 宿曜經云、膝珂、〈師說比佐乃加波良、今案珂宜䯊、音苦何反、見唐韵、〉野王案、𩪯、〈蒲忍󠄁反、上聲之重、字亦作臏、阿波太古、俗云阿波太、今案、𩪯與膝䯊名異實同、〉膝骨也、
膝䯊 宿曜経に云はく、膝珂〈師説に比佐乃加波良ひざのかはら、今案ふるに珂は宜しく䯊に作るべし、音は苦何反、唐韻に見ゆ〉といふ。野王案ずるに、髕〈蒲忍反、上声の重、字は亦、臏に作る。阿波太古あはたこ、俗に云ふ阿波太あはた、今案ふるに髕は膝䯊と名異なるも実は同じ〉は膝の骨なりとす。
膕 太素經注󠄁云、膕、〈戈麥反、與保路、〉曲脚中也、
膕 太素経注に云はく、膕〈戈麦反、与保路よほろ〉は曲脚の中なりといふ。
腓 陸詞曰、腓、〈音肥、訓古无良、見周易、〉脚腓也、
腓 陸詞に云はく、腓〈音は肥、訓は古無良こむら、周易に見ゆ〉は脚腓なりといふ。
胻 說文云、胻、〈胡郎反、波歧、〉脛也、釋名云、脛、〈胡定反、〉莖也、似物莖也、
胻 説文に云はく、胻〈胡郎反、波岐はぎ〉は脛なりといふ。釈名に云はく、脛〈胡定反〉は茎なり、物の茎に似るなりといふ。
脚足 釋名云、脚、〈居灼反、〉言坐時却在後也、足、〈即玉反、字從口止、〉言踵續也、趾、〈音止、訓並阿之、〉言行一進󠄁一止也、
脚足 釈名に云はく、脚〈居灼反〉と言ふは坐する時、却して後ろに在ればなり、足〈即玉反、字は口止に従ふ〉と言ふはくびすの続すればなり、趾〈音は止、訓は並びに阿之あし〉と言ふは行くに一進一止すればなりといふ。
踝 唐韻云、踝、〈胡瓦反、上聲之重、豆不奈歧、俗云豆不々之、〉足骨也、
踝 唐韻に云はく、踝〈胡瓦反、上声の重、豆不奈岐つぶなき、俗に云ふ豆不々之つぶふし〉は足の骨なりといふ。
踵 唐韻云、跟、〈音根、久比須、俗云歧比須、〉足踵也、踵、〈之隴反、〉足後也、
踵 唐韻に云はく、跟〈音は根、久比須くびす、俗に云ふ岐比須きびす〉は足の踵なり、踵〈之隴反〉は足の後ろなりといふ。
跗 儀禮注󠄁云、趺、〈方倶反、字亦作跗、阿奈比良、〉足上也、
跗 儀礼注に云はく、趺〈方倶反、字は亦、跗に作る、阿奈比良あなびら〉は足の上なりといふ。
蹠 說文云、跖、〈音尺、字亦作蹠、阿奈宇良、〉足下也、
蹠 説文に云はく、跖〈音は尺、字は亦、蹠に作る、阿奈宇良あなうら〉は足の下なりといふ。
爪甲 四聲字苑云、爪、〈音早、豆米、〉手足指上甲也、
爪甲 四声字苑に云はく、爪〈音は早、豆米つめ〉は手足の指の上の甲なりといふ。

莖垂類二十
茎垂類二十
陰 釋名云、陰、〈今案玉莖玉門等通󠄁偁也、〉䕃也、言其所󠄁在䕃翳也、
陰 釈名に云はく、陰〈今案ふるに玉茎、玉門等の通称なり〉は蔭なりといふ。言ふは其の在る所、蔭翳なればなり。
玉莖 房󠄁內經云、玉莖、〈男陰名也、〉楊氏漢語抄云、𡱼、〈破前󠄁、一云麻良、今案玉篇等、𡱼臀骨也、音課、可玉莖義不見、〉日本靈異記云、紀伊國伊都郡、有一凶人、不三寳、死時蟻着其𨳯、〈今案是閉字也、俗人或以此字男陰、以開字女陰、其說未詳、〉
玉茎 房内経に云はく、玉茎〈男陰の名なり〉といふ。楊氏漢語抄に云はく、𡱼〈破前はぜ、一に云ふ麻良まら、今案ふるに玉篇等に𡱼は臀骨なり、音は課、玉茎と為すべき義見えず〉といふ。日本霊異記に云はく、紀伊国伊都郡にひとりの凶人有り、三宝を信ぜず、死ぬ時、蟻、其の𨳯〈今案ふるに是れは閉の字なり、俗人、或に此の字を以て男陰と為し、開の字を以て女陰と為す、其の説、未だ詳かならず〉に着くといふ。
陰囊 針灸經云、陰囊、〈俗云布久利、其義見疾病部陰頽下、〉太素經云、天有十日、人手有十指、辰有十二、足有十指、莖垂之二、以應之、〈今案莖者玉莖、垂者陰囊也、〉女子有陰而不二節、故得__子也、
陰囊 針灸経に云はく、陰囊〈俗に云ふ布久利ふぐり、其の義は疾病部の陰頽の下に見ゆ〉といふ。太素経に云はく、天に十日有り、人の手に十指有り、しんに十二有り、足に十指と莖、垂の二有り、以て之れに応ず〈今案ふるに、茎は玉茎、垂は陰囊なり〉、女子に陰有りて二節足らず、故に子をはらむをるなりといふ。
陰核 食療經云、食蓼及生魚、或令陰核疼、〈陰核、俗云篇乃古、〉刑德放云、丈夫淫亂割其𫝑、〈勢即陰核也、〉
陰核 食療経に云はく、蓼と生魚を食へば、或は陰核をひひらかしむといふ〈陰核は俗に云ふ篇乃古へのこ〉。刑徳放に云はく、丈夫、淫乱なれば其の勢〈勢は則ち陰核なり〉をくといふ。
玉門 房󠄁內經云、玉門、〈女陰名也、〉楊氏漢語抄云、𡱖、〈通󠄁鼻、今案俗人或曰朱門、並未詳、〉
玉門 房内経に云はく、玉門〈女陰の名なり〉といふ。楊氏漢語抄に云はく、𡱖〈通鼻つび、今案ふるに俗人、或に朱門と曰ふ。並びに未だ詳かならず〉といふ。
吉舌 楊氏漢語抄云、吉舌、〈比奈佐歧、〉
吉舌 楊氏漢語抄に云はく、吉舌〈比奈佐岐ひなさき〉といふ。
月水 針灸經云、月水不通󠄁、則灸氣穴、〈月水、俗云佐波利、〉
月水 針灸経に云はく、月水通ぜざるときには気穴を灸せよといふ〈月水は俗に云ふ佐波利さはり〉。
精液 房󠄁內經云、交接之時、精液流𣻌、[〈俗云淫、〉]
精液 房内経に云はく、交接するの時、精液流𣻌すといふ[〈俗に云ふ淫〉]。
尿 說文云、尿、〈奴吊反、由波利、〉小便也、
尿 説文に云はく、尿〈奴吊反、由波利ゆばり〉は小便なりといふ。
屁 四聲字苑云、屁䊧𥥘、〈匹鼻反、三字通󠄁、楊氏漢語抄云、放屁、倍比流〉下部出氣也、
屁 四声字苑に云はく、屁、䊧、𥥘〈匹鼻反、三字通ず、楊氏漢語抄に云ふ放屁、倍比流へひる〉は下部、気を出づるなりといふ。
屎 野王案、糞、〈府間反、久曾、又糞土、見塵土類、〉屎也、說文云、屎、〈音矢、字亦作𡱁、今案俗人呼牛馬犬等糞如弓矢之矢、是𡱁之訛也、〉大便也、
屎 野王案ずるに、糞〈府間反、久曽くそ、又、糞土は塵土類に見ゆ〉は屎なりとす。説文に云はく、屎〈音は矢、字は亦、𡱁に作る、今案ふるに俗人、牛馬犬等の糞を弓矢の矢のごとく呼ぶは、是れ𡱁の訛れるなり〉は大便なりといふ。

疾病部第四
疾病部第四
 病類廿一 瘡類廿二
 病類二十一 瘡類二十二

病類廿一
病類二十一
[灸 岐伯黃帝、善灸人疾患、]
[灸 岐伯、黄帝は善く人の疾患に灸す。]
頭風 魏志云、大祖苦頭風、[〈加之良以太木也万比、俗云豆封、〉]
頭風 魏志に云はく、大祖は頭風に苦しむといふ[〈加之良以太木也万比かしらいたきやまひ、俗に云ふふう〉]。
聾 四聲字苑云、聾、〈音籠、美々之比、〉耳不聲也、
聾 四声字苑に云はく、聾〈音は籠、美々之比みみしひ〉は、耳、声を聞かざるなりといふ。
聤耳 病源論云、聤耳、〈上音亭、美々太利、〉風𤍠耳生膿汁也、
聤耳 病源論に云はく、聤耳〈上の音は亭、美々太利みみだり〉は風熱にて耳に膿汁を生ずるなりといふ。
盲 唐韻云、盲、〈音亡、米之比、〉目无眸子也、
盲 唐韻に云はく、盲〈音は亡、米之比めしひ〉は目に眸子無きなりといふ。
淸盲 七卷食經云、凡麋幷梅李之、任身使子淸盲、〈俗云阿歧之比、〉
清盲 七巻食経に云はく、凡そ麋に梅李を并せて之れを食ひ、任身すれば子をして清盲〈俗に云ふ阿岐之比あきしひ〉ならしむといふ。
近󠄁目 食療經云、婦󠄁人任身、勿驢馬肉、令子近󠄁目、〈俗云智賀米、〉
近目 食療経に云はく、婦人、任身すれば驢馬の肉を食ふこと勿れ、子をして近目〈俗に云ふ智賀米ちかめ〉ならしむといふ。
眇 周󠄀易云、眇能視、蹇能行、〈師說眇讀須加女、蹇見下文、〉
眇 周易に云はく、眇、能く視、あしなへ、能く行くといふ〈師説に眇の読みは須加女すがめ、蹇は下文に見ゆ〉。
䁾  文選󠄁風賦云、得目爲䁾、〈亡結反、師說多々良女、〉
䁾  文選風賦に云はく、目に得れば䁾〈亡結反、師説に多々良女ただらめ〉を為すといふ。
目翳 病源論云、目膚翳、〈於麗反、俗云比、〉眼精上有物如蠅翅是也、
目翳 病源論に云はく、目膚翳〈於麗反、俗に云ふ〉は、眼精の上に物有ること蠅の翅のごときは是れなりといふ。
雀盲 病源論云、人至暮不物、世謂之雀盲、〈俗云度利女、〉謂如鳥雀暝則無__所󠄁󠄁見也、
雀盲 病源論に云はく、人、くれに至りて物を見ず、世に之れを雀盲〈俗に云ふ度利女とりめ〉と謂ふといふ。謂ふは鳥雀のくらきときには見る所無きがごときなればなり。
眩 釋名云、眩〈音懸、女久流米久夜万比、〉懸也、目所󠄁󠄁󠄁󠄁視動亂如物、搖々然不定也、
眩 釈名に云はく、眩〈音は懸、女久流米久夜万比めくるめくやまひ〉は懸くるなり、目の視る所、動乱し物を懸くるがごとく、揺揺然として定まらざるなりといふ。
塞鼻 釋名云、鼻塞曰齆、〈一共反、波奈比世、〉洟久不通󠄁󠄁󠄁󠄁󠄁、遂󠄂至窒塞也、
塞鼻 釈名に云はく、鼻塞がるを齆〈一共反、波奈比世はなびせ〉と曰ふ。はなじる久しく通ぜず、遂に窒塞するに至るなりといふ。
瘖瘂 說文云、瘖瘂、〈音鵶二音、於布之、〉不言也、
瘖瘂 説文に云はく、瘖瘂〈音鵶の二音、於布之おふし〉は言ふこと能はざるなりといふ。
吃 聲類云、吃、〈居乞反、古度々毛利、〉重言也、說文云、言語難也、
吃 声類に云はく、吃〈居乞反、古度々毛利ことどもり〉は重言なりといふ。説文に云はく、言語かたきなりといふ。
兎缺 續晉陽秋云、魏詠之生而兎缺、〈俗云宇久知、弁色立成云缺脣〉
兎欠 続晋陽秋に云はく、魏詠之は生れながらにして兎欠といふ〈俗に云ふ宇久知うぐち、弁色立成に云ふ欠脣〉。
喎僻 說文云、咼、〈口蛙反、或作喎、久知由賀无、〉口戾也、病源論云、喎僻則言語不正、
喎僻 説文に云はく、咼〈口蛙反、或は喎に作る、久知由賀無くちゆがむ〉は、口のもとるなりといふ。病源論に云はく、喎僻するときには言語正しからずといふ。
失聲〈嘶咽附〉 食療經云、食𤍠膩物、勿冷酢漿、失聲嘶咽、〈師說、失聲比古惠、嘶咽古路々久、〉
失声〈嘶咽付〉 食療経に云はく、熱膩の物を食ひて冷たき酢漿を飲むこと勿れ、失声嘶咽すといふ〈師説に失声は比古恵ひごゑ、嘶咽は古路々久ころろく〉。
哽咽 唐韻云、哽噎、〈綆悅二音、噎亦作咽、无須、〉食塞也、
哽咽 唐韻に云はく、哽噎〈綆悦の二音、噎は亦、咽に作る、无須むす〉は食ふたがるなりといふ。
噦噎 唐韵云、噦噎、〈上乙劣反、楊氏漢語抄云、噦噎、佐久利、上於越反、〉逆󠄁氣也、
噦噎 唐韻に云はく、噦噎〈上は乙劣反、楊氏漢語抄に云ふ噦噎、佐久利さくり、上は於越反〉は逆気なりといふ。
喘息 唐韵云、歂、〈昌兗反、字亦作喘、阿倍歧、〉口氣引貌也、
喘息 唐韻に云はく、歂〈昌兗反、字は亦、喘に作る、阿倍岐あへぎ〉は口気引くかたちなりといふ。
欬𠲿 病源論云、欬欶、〈亥束二音、字亦作咳𠲿、之波不歧、〉肺寒則成之、
欬𠲿 病源論に云はく、欬欶〈亥束の二音、字は亦、咳𠲿に作る、之波不岐しはぶき〉は、肺、寒するときには之れを成すといふ。
歐吐 病源論云、胃氣逆󠄁則歐吐、〈上於后反、字亦作嘔、倍止都久、又太万比、〉
欧吐 病源論に云はく、胃気、逆するときには欧吐すといふ〈上は於后反、字は亦、嘔に作る、倍止都久へどつく、又、太万比たまひ〉。
唾血 極要方云、唾血、〈知波久、唾已出上文、〉一緣內傷、一緣積𤍠、有此病矣、
唾血 極要方に云はく、唾血〈知波久ちはく、唾は已に上文に出づ〉、あるは内傷にり、一は積熱に縁りて此の病有りなむといふ。
津頤 病源論云、津頤、〈與太利、〉小兒多涎唾、流出於頤下也、
津頤 病源論に云はく、津頤〈与太利よだり〉は、小児の、涎唾多く、頤の下に流れ出づるなりといふ。
哯吐 病源論云、哯吐、〈上音見、豆太美、〉小兒由哺乳冷𤍠不__調所󠄁致也、
哯吐 病源論に云はく、哯吐〈上の音は見、豆太美つだみ〉は、小児の、哺乳に冷熱調ととのはざるにりて致す所なりといふ。
喉痺 病源論云、喉痺、〈侯婢二音、俗訛云古比、〉喉裏腫塞痺痛、水漿不入、是也、
喉痺 病源論に云はく、喉痺〈侯婢の二音、俗に訛りて云ふ古比こひ〉、喉のうち、腫れ塞がりしびれ痛み、水漿すらるを得ず、是れなりといふ。
齞脣 說文云、齞、〈牛善反、文選󠄁云齞脣、師說阿以久知、〉口張齒見也、
齞脣 説文に云はく、齞〈牛善反、文選に云ふ齞脣、師説に阿以久知あいくち〉は口張りて歯のあらはるるなりといふ。
重舌 病源論云、舌本血脉脹然、變生舌之狀、謂之重舌也、[〈俗云古之太、〉]
重舌 病源論に云はく、舌の本、血脈脹然として変じて舌のごときかたちを生ず、之れを重舌と謂ふなりといふ[〈俗に云ふ古之太こじた〉]。
𦧴𦧝 張揖曰、𦧴𦧝、〈灘天二音、之多都歧、〉舌不正也、
𦧴𦧝 張揖曰はく、𦧴𦧝〈灘天の二音、之多都岐したつき〉は、舌の正しからざるなりといふ。
齵齒 蒼頡篇云、齵、〈五溝反、又音隅、齵齒、於曾波〉齒重生也、
齵歯 蒼頡篇に云はく、齵〈五溝反、又の音は隅、齵歯は於曽波おそは〉は歯の重なり生ずるなりといふ。
歷齒 文選󠄁好色賦云、歷齒、〈師說波和加禮、〉
歴歯 文選好色賦に云はく、歴歯〈師説に波和加礼はわかれ〉といふ。
齲齒 釋名云、齲、〈倶禹反、齲齒、无之加女波、〉朽也、蟲齧之、齒缺朽也、
齲歯 釈名に云はく、齲〈倶禹反、齲歯は無之加女波むしかめは〉は朽つるなり、虫、之れをみて、歯欠け朽つるなりといふ。
齘齒 錄驗方云、齘齒、〈上胡戒反、波賀美、〉睡眠而齒相切有聲也、令人取其席下土口中使知則止矣、
齘歯 録験方に云はく、齘歯〈上は胡戒反、波賀美はがみ〉は睡眠して歯相切して声有るなり、人をして其の席の下の土を取り、口中にれしめ、知らしむることければ止みぬといふ。
[㦣 孫愐云、㦣〈子例反、〉寐言也、〈今案、和名禰古止、〉]
[㦣 孫愐云はく、㦣〈子例反〉は寐言なり〈今案ふるに和名は禰古止ねごと〉。]
齭 說文云、齭、〈音所󠄁、此間云、波井留、〉齒傷酢也、
齭 説文に云はく、齭〈音は所、此間ここに云ふ波井留はゐる〉は、歯の酢にやぶるるなりといふ。
䫴齘 孫愐云、䫴齘、切齒怒也、〈上音渠飮反、〉
䫴齘 孫愐に云はく、䫴齘は歯をくひしばりていかるなりといふ。〈上の音は渠飲反〉
胡臭 病源論云、胡臭、〈和歧久曾、〉人腋下臭如葱豉之氣也、亦謂之狐臭、如狐狸之氣也、
胡臭 病源論に云はく、胡臭〈和岐久曽わきくそ〉は、人の腋の下くさきこと葱豉の気のごときなりといふ。亦、之れを狐臰と謂ふは、狐狸の気のごとくなればなり。
脚氣 毉家書有脚氣論、〈脚氣、一云脚病、俗云阿之乃介、〉
脚気 医家書に脚気論有り〈脚気は一に云ふ脚病、俗に云ふ阿之乃介あしのけ〉。
痿痺 蒼頡篇云、痿痺、〈萎婢二音、比留无夜末比、〉不行也、
痿痺 蒼頡篇に云はく、痿痺〈萎婢の二音、比留無夜末比ひるむやまひ〉は行くこと能はざるなりといふ。
轉筋 脚氣論云、轉筋、〈古无良加倍利、一云加良湏奈米理、〉由脚弱󠄁所󠄁生也、
転筋 脚気論に云はく、転筋〈古無良加倍利こむらがへり、一に云ふ加良須奈米理からすなめり〉は脚弱きに由りて生ずる所なりといふ。
尰 毛詩注󠄁云、腫足曰尰、〈唐韵時穴反、足病也、弁色立成云、於賣阿志、此間云、古比、〉又卑濕之地、其人多尰、
尰 毛詩注に云はく、足腫るるを尰〈唐韻に時穴反、足の病なり、弁色立成に云ふ於売阿志おめあし、此間に云ふ古比こひ〉と曰ひ、又、卑湿の地、其の人に尰多しといふ。
蹇 說文云、蹇、〈音犬、訓阿之奈閇、此間云、那閇久、〉行不正也、
蹇 説文に云はく、蹇〈音は犬、訓は阿之奈閉あしなへ、此間に云ふ那閉久なへぐ〉は行くこと正しからざるなりといふ。
騈拇 荘子云、騈拇枝指、〈騈音薄堅反、騈拇、此間云、无豆於與非、〉
駢拇 荘子に云はく、駢拇、枝指といふ〈駢の音は薄堅反、駢拇は此間に云ふ無豆於与非むつおよび〉。
癥瘕 蒼頡篇云、癥瘕、〈徴嫁二音、今案醫家書有魚瘕蛇瘕等、師傳云加女波良、此類也〉腹中病也、
癥瘕 蒼頡篇に云はく、癥瘕〈徴嫁の二音、今案ふるに医家の書に魚瘕、蛇瘕等有り、師伝に云ふ加女波良かめばらは此の類なり〉は腹中の病なりといふ。
痞 錄驗方云、痞〈符鄙反、上聲之重、衣賀波良、〉小兒腹病也、唐韻云、腹內結病也、
痞 録験方に云はく、痞〈符鄙反、上声の重、衣賀波良えがはら〉は小児の腹の病なりといふ。唐韻に云はく、腹内の結病なりといふ。
疝 釋名云、疝、〈音山、阿太波良、一云之良太美、〉腹急痛也、
疝 釈名に云はく、疝〈音は山、阿太波良あたばら、一に云ふ之良太美しらたみ〉は、腹の急に痛むなりといふ。
蚘虫 唐韵云、蚘、〈音與廻同、〉人腹中長虫也、病源論云、蚘虫、〈今案一名寸白、俗云加以、又云阿久太、〉飮白酒生栗等所󠄁成也、
蚘虫 唐韻に云はく、蚘〈音は廻と同じ〉は人の腹中の長虫なりといふ。病源論に云はく、蚘虫〈今案ふるに一名にばく、俗に云ふ加以かい、又云ふ阿久太あくた〉は白酒を飲み、生栗を食ふ等して成す所なりといふ。
痮 字書云、痮、〈音悵、亦作脹、波良不久流、〉腹滿也、
痮 字書に云はく、痮〈音は悵、亦、脹に作る、波良不久流はらふくる〉は腹満つるなりといふ。
痔 說文云、痔、〈治里反、上聲之重、智乃夜万比、〉後病也、四聲字苑云、痔、〈今案俗云、之利乃夜万比、〉虫食下部病也、
痔 説文に云はく、痔〈治里反、上声の重、智乃夜万比ぢのやまひ〉はしりへの病なりといふ。四声字苑に云はく、痔〈今案ふるに、俗に云ふ之利乃夜万比しりのやまひ〉は虫、下部を食ふ病なりといふ。
脫疘 病源論云、脫疘、〈疘音古、字亦作肛、之利以豆流夜万比、〉肛門脫出也、久痢則大腸虛冷所󠄁爲也、
脱疘 病源論に云はく、脱疘〈疘の音は古、字は亦、肛に作る、之利以豆流夜万比しりいづるやまひ〉は、肛門脱け出づるなりといふ。久しく痢するときには大腸虚冷して為す所なりといふ。
痢 釋名云、痢、〈音利、久曾比理乃夜万比、〉言出漏之利也、
痢 釈名に云はく、痢〈音は利、久曽比理乃夜万比くそひりのやまひ〉、言ふは出漏するやまひなればなりといふ。
㿃 釋名云、痢赤白曰㿃、〈音帶、赤痢知久曾、白痢奈女、〉言滯而難出也、葛氏方云、重下、〈俗云之利於毛、〉今所󠄁謂赤白痢也、言令下部疼重、故以名之、
㿃 釈名に云はく、痢の赤白なるを㿃〈音は帯、赤痢は知久曽ちくそ、白痢は奈女なめ〉と曰ふといふ。言ふは滞りて出で難きなればなり。葛氏方に云はく、重下〈俗に云ふ之利於毛しりおも〉は今の所謂る赤白痢なりといふ。言ふは下部をして疼重ならしむればなり。故に以て之れを名く。
淋病 聲類云、淋、〈音林、字亦作痳、之波由波利、〉小便數也、
淋病 声類に云はく、淋〈音は林、字は亦、痳に作る、之波由波利しばゆばり〉は、小便しばしばなりといふ。
臨瀝 病源論云、臨瀝、〈音歷、之太天由波利、〉小便滴瀝也、
臨瀝 病源論に云はく、臨瀝〈音は歴、之太天由波利したでゆばり〉は、小便滴瀝しただるなりといふ。
長血 小品方云、婦󠄁人長血、〈奈賀知、又有白血、〉
長血 小品方に云はく、婦人に長血〈奈賀知ながち、又、しら有り〉といふ。
產後腹 新撰要方云、婦󠄁人產後腹痛、〈俗云之利波良、〉取大豆二七枚之、
産後腹 新撰要方に云はく、婦人の産後の腹痛〈俗に云ふ之利波良しりばら〉に大豆二七枚を取りて之れを呑むといふ。
陰頽 針灸經云、治陰頽方、〈頽音杜回反、一名下重、俗云曾比、〉令莖頭下、向陰囊縫、當頭所󠄁着處、灸其縫上七、即有驗矣、
陰頽 針灸経に云はく、陰頽を治する方〈頽の音は杜回反、一名は下重、俗に云ふ曽比そび〉は茎頭を下げ、陰囊縫に向はしめ、頭の着くる処に当り、其の縫の上に灸すること七たびすれば、即ちしるし有りなむといふ。
疫 說文云、疫、〈音役、衣夜美、一云度歧乃介、〉民皆病也、
疫 説文に云はく、疫〈音は役、衣夜美えやみ、一に云ふ度岐乃介ときのけ〉は、民、皆病むなりといふ。
癘 說文云、癘、〈音例、阿之歧夜万比、〉惡疾也、
癘 説文に云はく、癘〈音は例、阿之岐夜万比あしきやまひ〉は悪しき疾なりといふ。
癲狂 唐令云、癲狂酗酒、皆不侍衞之官、〈癲音天、狂訓太布流、俗云毛乃久流比、〉本朝令義解云、癲發時仆地吐涎沫、無所󠄁覺也、狂或自欲走、或自高偁聖賢者也、
癲狂 唐令に云はく、癲狂、酗酒は皆、侍衛の官に居ること得じといふ〈癲の音は天、狂の訓は太布流たふる、俗に云ふ毛乃久流比ものぐるひ〉。本朝令義解に云はく、癲あらはるる時、地にたふれ涎沫を吐き、覚ゆる所無きなり。狂は、或は自ら走らんと欲し、或は自ら高くし聖賢と称する者なりといふ。
失意 日本紀私記云、失意、〈古々路万都比、〉
失意 日本紀私記に云はく、失意〈古々路万都比こころまどひ〉といふ。
酗酒 唐韻云、酗、〈香句反、一云酒狂、俗云佐加々理、〉醉怒也、
酗酒 唐韻に云はく、酗〈香句反、一に云ふ酒狂、俗に云ふ佐加々理さかかり〉は酔ひ怒るなりといふ。
痟𤸎 病源論云、消󠄁渴、〈今案四聲字苑作痟𤸎、音與消󠄁渴同、俗云加知乃夜万比、〉渴而不小便也、
痟𤸎 病源論に云はく、消渇〈今案ふるに四声字苑に痟𤸎に作り、音は消渇と同じ、俗に云ふ加知乃夜万比かちのやまひ〉は渇して小便せざるなりといふ。
黃疸 病源論云、黃疸、〈音旦、一云黃病、歧波无夜万比、〉身體面目爪甲及小便盡黃之病也、
黄疸 病源論に云はく、黄疸〈音は旦、一に云ふ黄病、岐波無夜万比きばむやまひ〉は身体、面目、爪甲、及び小便、ことごとく黄ばむの病なりといふ。
霍亂 漢書云、南越多霍亂之病、〈霍亂、俗云之利與理久智與理古久夜万比、〉
霍乱 漢書に云はく、南越に霍乱の病多しといふ〈霍乱は俗に云ふ之利与理久智与理古久夜万比しりよりくちよりこくやまひ〉。
瘧病 說文云、瘧、〈音虐、俗云衣夜美、一云和良波夜美、〉𤍠寒並作、二日一發之病也、
瘧病 説文に云はく、瘧〈音は虐、俗に云ふ衣夜美えやみ、一に云ふ和良波夜美わらはやみ〉は熱寒、並びにおこり、二日に一たびおこるの病なりといふ。
苦船 辨色立成云、苦船、〈布奈夜毛非、〉
苦船 弁色立成に云はく、苦船〈布奈夜毛非ふなやもひ〉といふ。
瘼臥 日本紀私記云、瘼臥、〈乎江不世理、瘼音莫、〉
瘼臥 日本紀私記に云はく、瘼臥〈乎江不世理をえふせり、瘼の音は莫〉といふ。
擇食 辨色立成云、擇食、〈豆波利、楊氏說同、〉
択食 弁色立成に云はく、択食〈豆波利つはり、楊氏の説同じ〉といふ。

瘡類廿二
瘡類二十二
瘡 唐韻云、瘡、〈音倉、加佐、〉痍也、痍、〈音夷、歧須、〉瘡也、瘢、〈音般、加佐度古路、〉瘡痕也、四聲字苑云、痕、〈戶恩反、訓上同、一訓歧波、〉故瘡處也、廣雅云、痂、〈音家、加佐布太、〉瘡上甲也、
瘡 唐韻に云はく、瘡〈音は倉、加佐かさ〉は痍なり、痍〈音は夷、岐須きず〉は瘡なり、瘢〈音は般、加佐度古路かさどころ〉は瘡痕なりといふ。四声字苑に云はく、痕〈戸恩反、訓は上に同じ、一訓に岐波きは〉は故き瘡の処なりといふ。広雅に云はく、痂〈音は家、加佐布太かさぶた〉は瘡の上の甲なりといふ。
丁瘡 千金方云、治丁瘡方云、丁、〈或本丁作疔、未詳、〉
瘡 千金方に云はく、丁瘡を治する方に丁〈或本に丁は疔に作る、未だ詳かならず〉と云ふといふ。
丹毒瘡 掌中要方云、丹、〈或本作𰣤、未詳、〉惡毒之氣、其色無常、
丹毒瘡 掌中要方に云はく、丹〈或本に𰣤に作る、未だ詳かならず〉は悪毒の気、其の色に常無しといふ。
疽 說文云、疽、〈七余反、俗云去聲、一名發背、〉久癰也、
疽 説文に云はく、疽〈七余反、俗に云ふ去声、一名に発背〉は久しき癰なりといふ。
癰 釋名云、癰、〈於容反、俗云去聲、〉氣壅結而不潰也、
癰 釈名に云はく、癰〈於容反、俗に云ふ去声〉は気、壅結してつぶれざるなりといふ。
瘭疽 集驗方云、瘭疽、〈瘭音標、俗云倍宇曾、〉血氣否澁而所󠄁生也、
瘭疽 集験方に云はく、瘭疽〈瘭の音は標、俗に云ふ倍宇曽へうそ〉は血気、否渋して生ずる所なりといふ。
乳癰 四聲字苑云、𤴱、〈當故反、與妬同、俗云知布、〉婦󠄁人乳腫也、釋名云、乳癰曰妬、〈今案妬宜𤴱、見上文、〉妬貯也、積不通󠄁也、言氣貯積不通󠄁也、
乳癰 四声字苑に云はく、𤴱〈当故反、妬と同じ、俗に云ふ知布ちぶ〉は、婦人、乳腫るるなりといふ。釈名に云はく、乳癰を妬〈今案ふるに妬は宜しく𤴱に作るべし、上文に見ゆ〉と曰ひ、妬は貯なり、積して通ぜざるなりといふ。言ふは気、貯積して通ぜざればなり。
痤 唐韻云、痤、〈昨禾反、邇歧美、〉小癤也、
痤 唐韻に云はく、痤〈昨禾反、邇岐美にきみ〉は小癤なりといふ。
癤 病源論云、癰癤、〈音節、字亦作𤻛、賀太禰、〉血結聚所󠄁生也、
癤 病源論に云はく、癰癤〈音は節、字は亦、𤻛に作る、賀太禰かたね〉は、血、結聚して生ずる所なりといふ。
浸淫瘡 病源論云、浸淫瘡、〈俗云心美佐宇、〉風𤍠發於肌膚也、
浸淫瘡 病源論に云はく、浸淫瘡〈俗に云ふしん美佐宇みさう〉は風熱、肌膚におこるなりといふ。
皰瘡 唐韻云、皰、〈防敎反、〉面瘡也、類聚國史云、仁壽二年皰瘡流行、人民疫死、〈皰瘡、此間云、毛加佐、〉
皰瘡 唐韻に云はく、皰〈防教反〉は面瘡なりといふ。類聚国史に云はく、仁寿二年に皰瘡流行し人民疫死すといふ〈皰瘡は此間に云ふ毛加佐もがさ〉。
癭瘻 說文云、癭瘻、〈郢漏二音、俗云路、〉頸腫也、
癭瘻 説文に云はく、癭瘻〈郢漏の二音、俗に云ふ〉は頸腫るるなりといふ。
瘤 病源論云、瘤、〈音留、之比禰、〉皮肉急腫起󠄁、初如梅李、漸長大不癢不痛又不堅强者也、
瘤 病源論に云はく、瘤〈音は留、之比禰しひね〉は皮肉、急に腫起す、初めは梅李のごとし、やうやく長大なり、かゆからず、痛からず、又、堅強ならざる者なりといふ。
瘜肉 說文云、瘜、〈音息、又作𦞜、瘜肉、阿末之々、又古久美、〉寄肉也、
瘜肉 説文に云はく、瘜〈音は息、又、𦞜に作る、瘜肉は阿末之々あまじし、又、古久美こくみ〉は寄肉なりといふ。
附贅 莊子云、附贅、懸疣、〈贅音制、俗云布須倍、〉
附贅 荘子に云はく、贅懸疣ぜいけんゆう〈贅の音は制、俗に云ふ布須倍ふすべ〉といふ。
懸疣 釋名云、疣、〈音尤、又音宥、懸疣、佐賀利布須倍、〉丘也、出皮上聚高如地之有__丘也、
懸疣 釈名に云はく、疣〈音は尤、又の音は宥、懸疣は佐賀利布須倍さがりふすべ〉は丘なり、皮の上に出でて聚り高まり、地の丘有るがごときなりといふ。
肬目 病源論云、肬目、〈今案肬即疣字也、以比保、又以乎女、〉手足邊忽生如豆、麁强於肉者也、
肬目 病源論に云はく、肬目〈今案ふるに肬は即ち疣の字なり、以比保いひぼ、又、以乎女いをめ〉は、手足の辺にたちまちに生じて豆のごとし、あらくして肉より強き者なりといふ。
耵聹 孫愐曰、耵聹〈丁寧二音、美々久曾、〉耳垢也、
耵聹 孫愐曰はく、耵聹〈丁寧の二音、美々久曽みみくそ〉は耳垢なりといふ。
疥癩 內典云、疥癩〈介賴二音、波太介、〉
疥癩 内典に云はく、疥癩〈介頼の二音、波太介はだけ〉といふ。
癬 說文云、癬〈音淺、俗云錢加佐、〉乾瘍也、
癬 説文に云はく、癬〈音は浅、俗に云ふぜに加佐がさ〉は乾瘍なりといふ。
瘍〈禿附〉 說文云、瘍、〈音楊、賀之良加佐、〉頭瘡也、周󠄀禮注󠄁云、禿、〈土木反、加不路、〉頭瘡也、野王案、無髮也、
瘍〈禿付〉 説文に云はく、瘍〈音は楊、賀之良加佐かしらがさ〉は頭瘡なりといふ。周礼注に云はく、禿〈土木反、加不路かぶろ〉は頭瘡なりといふ。野王案ずるに髪無きなりとす。
鬼舐頭 病源論云、鬼舐頭、〈師說云、爲天狗下食所󠄁__舐是、〉人頭或如錢大、或如指大、髮不生也、
鬼舐頭 病源論に云はく、鬼舐頭〈師説に云はく、天狗じきして舐むる所と為すは是れ〉は人の頭、或は銭の大きさのごとく、或は指の大きさのごとくに髪えざるなりといふ。
皯 玉篇云、皯、〈古但反、久路久佐、〉面黑氣也、
皯 玉篇に云はく、皯〈古但反、久路久佐くろくさ〉は面の黒気なりといふ。
䵴 唐韻云、䵴、〈音孕、於毛波々久曾、〉面黑子也、
䵴 唐韻に云はく、䵴〈音は孕、於毛波々久曽おもははくそ〉は面の黒子なりといふ。
漆瘡 病源論云、漆瘡、〈宇流之加不禮、〉人見漆中其毒而腫是也、
漆瘡 病源論に云はく、漆瘡〈宇流之加不礼うるしかぶれ〉は、人、漆を見て其の毒にあたりて腫る、是れなりといふ。
𤍠沸瘡 四聲字苑云、疿、〈音佛、〉𤍠時細瘡也、新錄方云、治夏月𤍠沸瘡、〈阿世毛、今案沸宜疿乎、〉
熱沸瘡 四声字苑に云はく、疿〈音は仏〉は熱き時の細瘡なりといふ。新録方に云はく、夏月に熱沸瘡〈阿世毛あせも、今案ふるに沸は宜しく疿に作るべきか〉を治すといふ。
飼面 病源論云、飼面、〈加須毛、〉面皮上有滓也、
飼面 病源論に云はく、飼面〈加須毛かすも〉は面皮の上に滓有るなりといふ。
皶鼻 野王案、皶、〈音砂、邇歧美波奈、〉鼻上皰也、
皶鼻 野王案ずるに、皶〈音は砂、邇岐美波奈にきみはな〉は鼻の上の皰なりとす。
胗 唐韻云、胗、〈音軫、久智比々、〉脣瘡也、
胗 唐韻に云はく、胗〈音は軫、久智比々くちひび〉は脣の瘡なりといふ。
白癜 病源論云、白癜、〈一云白電、之良波太、〉人面及身頸皮肉色變白亦不痛癢者也、
白癜 病源論に云はく、白癜〈一に云ふ白電、之良波太しらはだ〉は、人、面及び身、頸の皮肉、色白く変じ、亦、痛癢せざる者なりといふ。
歷易 病源論云、歷易、〈奈末豆波太、〉人頸及胸前󠄁掖下、自然斑點相連不痛不癢者也、
歴易 病源論に云はく、歴易〈奈末豆波太なまづはだ〉は、人、頸及び胸の前、掖の下、自然と斑点相連なり、痛からず、癢からざる者なりといふ。
疵 晋書云、趙孟面有二疵、〈疾移反、師說阿佐、〉
疵 晋書に云はく、趙孟の面に二疵有りといふ〈疾移反、師説に阿佐あざ〉。
黑子 漢書注󠄁云、黑子、〈波々久曾、〉今中國呼黶子、〈黶音烏蕇反、〉吳楚俗謂之誌、〈音志、〉誌者記也、
黒子 漢書注に云はく、黒子〈波々久曽ははくそ〉は今、中国に黶子〈黶の音は烏蕇反〉と呼び、呉楚の俗に之れを誌〈音は志〉と謂ふ、誌は記すなりといふ。
代指 集驗方云、代指、〈豆万波良米、〉無毒、由筋骨中𤍠盛所󠄁生也、
代指 集験方に云はく、代指〈豆万波良米つまばらめ〉は毒無し、筋骨中、熱盛んなるに由り生ずる所なりといふ。
瘃 漢書音義云、瘃、〈陟玉反、比美、弁色立成云、之毛久知、〉手足中寒作瘡也、
瘃 漢書音義に云はく、瘃〈陟玉反、比美ひみ、弁色立成に云ふ之毛久知しもくち〉は手足、寒に中りて瘡とすなりといふ。
皹 漢書注󠄁云、皹、〈音軍、阿加々利、〉手足坼裂也、
皹 漢書注に云はく、皹〈音は軍、阿加々利あかがり〉は手足、坼裂するなりといふ。
肉剌 病源論云、肉剌、〈乃以須美、〉脚指間生肉如剌、由靴小、相揩而所󠄁生也、
肉刺 病源論に云はく、肉刺〈乃以須美のいずみ〉は脚指の間に肉を生じとげのごとし、靴の小なるを着けるに由り、相りて生ずる所なりといふ。
癮胗 四聲字苑云、癮胗、〈隱軫二音、知々保无、一云知々波久留、〉皮外小起󠄁也、
癮胗 四声字苑に云はく、癮胗〈隠軫の二音、知々保無ちちほむ、一に云ふ知々波久留ちちはくる〉は皮の外に小さく起るなりといふ。
風癮胗 病源論云、風癮胗、〈加佐保路之、〉人皮膚虛爲風寒所󠄁__折則起󠄁也、
風癮胗 病源論に云はく、風癮胗〈加佐保路之かざほろし〉は、人、皮膚虚して風寒の折る所とれば則ち起るなりといふ。
㿺 聲類云、㿺、〈北角反、又薄駿反、布久流、〉肉憤起󠄁也、
㿺 声類に云はく、㿺〈北角反、又、薄駿反、布久流ふくる〉は肉のいきつなりといふ。
腫 山海經云、㾈、〈音符、一音府、今案俗人所󠄁謂乳㾈齒㾈、宜此字、〉腫也、野王案、瘇〈之勇反、字亦作腫、波留、〉身體㿺起󠄁虛滿也、
腫 山海経に云はく、㾈〈音は符、一音に府、今案ふるに俗人の所謂る乳㾈、歯㾈は宜しく此の字を用ゐるべし〉は腫なりといふ。野王案ずるに、𤺄〈之勇反、字は亦、腫に作る、波留はる〉は、身体、㿺起し虚満するなりとす。
膿 四聲字苑云、膿、〈音農、訓宇无、又云宇美之留、〉瘡汁也、說文云、膿腫血也、
膿 四声字苑に云はく、膿〈音は農、訓は宇無うむ、又云ふ宇美之留うみじる〉は瘡の汁なりといふ。説文に云はく、膿は腫の血なりといふ。
疻 漢書音義云、疻、〈音脂、訓宇流无、〉以杖擊人、其膚皮起󠄁靑黑也、
疻 漢書音義に云はく、疻〈音は脂、訓は宇流無うるむ〉といふ。杖を以て人を撃てば、其の膚皮に起りて青黒きなり。
疼 說文云、疼、〈徒冬反、訓比々良久、〉動痛也、
疼 説文に云はく、疼〈徒冬反、訓は比々良久ひひらく〉は動痛なりといふ。
痛 釋名云、痛、〈音洞、訓伊太之、〉通󠄁也、通󠄁在膚脉中也、
痛 釈名に云はく、痛〈音は洞、訓は伊太之いたし〉は通るなり、通りて膚脈中に在るなりといふ。
癢 釋名云、癢、〈餘兩反、與養同、加由之、〉揚也、其氣在皮中、欲發揚、使人搔發而揚出也、
癢 釈名に云はく、癢〈余両反、養と同じ、加由之かゆし〉は揚るなり、其の気、皮の中に在り、発揚せむと欲し、人をして搔発して揚出せしむるなりといふ。
痂 廣雅云、痂、〈音加、訓加佐不太、〉瘡上甲也、
痂 広雅に云はく、痂〈音は加、訓は加佐不太かさぶた〉は瘡上の甲なりといふ。
痕 四聲字苑云、痕、〈戶恩反、加佐度古呂、一訓與痍同、一訓歧波、浪痕、涙痕等是也、〉
痕 四声字苑に云はく、痕〈戸恩反、加佐度古呂かさどころ、一訓は痍と同じ、一訓は岐波きは、浪痕、涙痕等は是れなり〉といふ。

術藝部第五〈文字集略術藝部云、術法也、藝能也、〉
術芸部第五〈文字集略術芸部に云はく、術は法なり、芸は能なりといふ〉
 射藝類廿三 射藝具󠄁廿四 雜藝類廿五 雜藝具󠄁廿六
 射芸類二十三 射芸具二十四 雑芸類二十五 雑芸具二十六

射藝類廿三〈射音謝、一音石、又作䠶、訓由美以留、又云弓弩發於身於遠󠄁、故字從身矢也、〉
射芸類二十三〈射の音は謝、一音に石、又、䠶に作る、訓は由美以留ゆみいる、又云はく、弓弩は身より発し遠につ。故に字は身、矢に従ふなりといふ〉
騎射 漢書云、甘延壽、以良家子騎射、楊氏漢語抄云、馬射、〈宇末由美、今案馬射即騎射也、〉
騎射 漢書に云はく、甘延寿、良家のを以て騎射を善くすといふ。楊氏漢語抄に云ふ馬射〈宇末由美うまゆみ、今案ふるに馬射は即ち騎射なり〉。
步射 李太尉步射法云、夫步射、以目先領其特心之、〈步射、和名加知由美、今案特心者的異名乎、〉
歩射 李太尉歩射法に云はく、夫れ歩射は目を以てづ其の特心を領し、之れを射るといふ〈歩射の和名は加知由美かちゆみ、今案ふるに特心なる者は的の異名か〉。
細射 唐鹵簿令云、細射弓箭、〈今案此間云、末々歧由美、是也、〉
細射 唐鹵簿令に云はく、細射弓箭といふ〈今案ふるに此間に云ふ末々岐由美ままきゆみは是れなり〉。
遠󠄁射 淮南子云、越人學遠󠄁射、參天而發、楊氏漢語抄云、射遠󠄁、〈止保奈計、今案遠󠄁射即射遠󠄁也、〉
遠射 淮南子に云はく、越人、遠射を学び、天にいたりて発すといふ。楊氏漢語抄に云ふ射遠〈土保奈計とほなげ、今案ふるに遠射は即ち射遠なり〉。
六射 諸葛亮六射教云、射或山林樹木皆以爲的、〈今案本朝式云、五月五日左右近󠄁衞府射六的、是也〉
六射 諸葛亮六射教に云はく、射るに或は山林の樹木、皆以て的と為すといふ〈今案ふるに本朝式に云ふ、五月五日に左右近衛府、六的を射るは是れなり〉。
馳射 後漢書云、馳射、〈今案俗云、於无毛乃以流、〉
馳射 後漢書に云はく、馳射〈今案ふるに俗に云ふ於無毛乃以流おむものいる〉といふ。
弋射 唐韻云、弋、〈與軄反、以豆留、〉弋射也、四聲字苑云、矰、〈蘇曾反、〉弋射矢也、繳、〈之藥反、〉矰繳所󠄁以加飛鳥也、
弋射 唐韻に云はく、弋〈与職反、以豆留いづる〉は弋射なりといふ。四声字苑に云はく、矰〈蘇曽反〉は弋射の矢なり、繳〈之薬反〉は矰繳、飛ぶ鳥にする所以なりといふ。
照射〈蹤血附〉 續搜神記云、聶友、少時家貧、常照射、見一白鹿、射中之、明晨尋󠄁蹤血、〈今案此間云照射、止毛之、蹤血、波加利、〉
照射〈蹤血付〉 続搜神記に云はく、聶友、をさなき時、家貧しく常に照射す、一の白鹿を見、射て之れにて、明晨に蹤血を尋ぬといふ〈今案ふるに此間に照射を土毛之ともし、蹤血を波加利はかりと云ふ〉。
戱射 郭璞方言注󠄁云、平󠄁題者今之戱射箭也、〈今案戱射、此間云、佐以多天、是乎、平󠄁題見征戰具󠄁、〉
戯射 郭璞方言注に云はく、平題は今の戯射の箭なりといふ〈今案ふるに戯射、此間に云ふ佐以多天さいだては是れか、平題は征戦具に見ゆ〉。

射藝具󠄁廿四
射芸具二十四
射韝 說文云、韝、〈古侯反、多末歧、一云小手、又見鷹具󠄁、〉射臂沓也、
射韝 説文に云はく、韝〈古侯反、多末岐たまき、一に云ふ小手、又、鷹具に見ゆ〉は射る臂の沓なりといふ。
弽 毛詩注󠄁云、弽、〈音攝、和名由美加介、〉抉也、能射馭則佩之、周󠄀禮注󠄁云、抉、〈音決、〉挾矢時、所󠄁以持__弦之飾󠄁也、
弽 毛詩注に云はく、弽〈音は摂、和名は由美加介ゆみかけ〉は抉なり、能く射馭せんときには之れをぶといふ。周礼注に云はく、抉〈音は決〉は矢を挟む時、弦を持する所以の飾りなりといふ。
𤿧 蔣魴切韵云、𤿧、〈音旱、和名止毛、楊氏漢語抄日本紀等用鞆字、俗亦用之、本文未詳、〉在臂避󠄁弦具󠄁也、毛詩注󠄁云、拾、〈今案即裙拾之拾也、見玉篇、〉禮弓矢圖云、襚、〈音遂󠄂、〉臂𤿧以朱韋之、
𤿧 蒋魴切韻に云はく、𤿧〈音は旱、和名は止毛とも、楊氏漢語抄、日本紀等に鞆の字を用ゐ、俗に亦、之れを用ゐる、本文は未だ詳かならず〉は臂に在りて弦を避くる具なりといふ。毛詩注に云ふ拾〈今案ふるに即ち裙拾の拾なり、玉篇に見ゆ〉。礼弓矢図に云はく、襚〈音は遂〉は臂𤿧、朱韋を以て之れをつくるといふ。
馬垺 四聲字苑云、垺、〈力輟反、與劣同、此間云、良智、〉戱馬道也、
馬垺 四声字苑に云はく、垺〈力輟反、劣と同じ、此間に云ふ良智らち〉は戯馬の道なりといふ。
射垛 唐韻云、垛、〈他果反、字亦作𨹃、楊氏漢語抄云、射垛、以久波止古路、此間云、阿无豆知、今案又用堋字、音朋、〉射垛也、四聲字苑云、垜、〈音上同、又都波反、〉、埾也、
射垛 唐韻に云はく、垛〈他果反、字は亦、𨹃に作る、楊氏漢語抄に云ふ射垛、以久波止古路いくはどころ、此間に云ふ阿無豆知あむつち、今案ふるに、又、堋の字を用ゐる、音は朋〉は射垛なりといふ。四声字苑に云はく、垜〈音は上に同じ、又、都波反〉は埾なりといふ。
的 說文云、臬、〈魚列反、和名万斗、俗用的字、音都歷反、〉射的也、纂要云、古者謂射的侯、〈或作堠、音與侯同、〉以皮爲的爲鵠〈今案鴻鵠之鵠射之處、古沃反、見唐韻、〉
的 説文に云はく、臬〈魚列反、和名は万斗まと、俗に的の字を用ゐる、音は都歴反〉は射る的なりといふ。纂要に云はく、いにしへは射的を謂ひて侯〈或は堠に作る、音は侯と同じ〉と為し、皮を以て的と為し鵠と為すといふ〈今案ふるに鴻鵠の鵠、射の処は古沃反、唐韻に見ゆ〉。
皮〈山形附〉 周󠄀禮云、郷射之禮五物、其三曰皮、本朝式云、山形、〈夜萬賀太、〉侯、後四許丈、張紺布矢者也、
皮〈山形付〉 周礼に云はく、郷射の礼に五物、其の三を皮と曰ふといふ。本朝式に云はく、山形〈夜万賀太やまがた〉は侯の後ろ四許丈に紺布を張り矢を禦ぐ者なりといふ。
射乏〈司旍附〉 文選󠄁東京賦注󠄁云、乏、〈今案即乏少之乏也、但射乏、和名夜布世歧、〉以革爲之、護執旍者之禦矢也、司旍、〈此間云、末止萬宇之、〉執旍司、射中當之、
射乏〈司旍付〉 文選東京賦注に云はく、乏〈今案ふるに即ち乏少の乏なり、但し射乏の和名は夜布世岐やふせぎ〉は革を以て之れを為り、旍を護り執る者の矢を禦ぐなり、司旍〈此間に云ふ末止万宇之まとまうし〉は旍を執る司、射中つれば当に之れを挙ぐべしといふ。
射翳 文選󠄁射雉賦注󠄁云、翳、〈於計反、隱也、障也、師說末布之、〉所󠄁以隱射者也、
射翳 文選射雉賦注に云はく、翳〈於計反、隠すなり、障るなり、師説に末布之まぶし〉は射者を隠す所以なりといふ。

雜藝類廿五
雑芸類二十五
投壺 投壺經云、投壺、〈內典云、豆保宇智、一云都保奈計、〉古禮也、壺長一尺二寸二分、籌長一尺二寸、〈籌卽投壷矢名也、見同經、〉
投壺 投壺経に云はく、投壺〈内典に云ふ豆保宇智つぼうち、一に云ふ都保奈計つぼなげ〉は古礼なり、壺の長さ一尺二寸二分、ちうは長さ一尺二寸といふ〈籌は即ち投壺の矢の名なり、同経に見ゆ〉。
藏鈎 三秦記云、昭帝母鈎弋夫人、手拳而國色、先帝寵之、世人爲藏鈎、亦法是也、
蔵鈎 三秦記に云はく、昭帝の母、鈎弋こうよく夫人、手かがまりて国色あり、先帝之れを寵す、世人、蔵鈎と為すは亦、是れをのつとるなり。
打毬 唐韵云、毬、〈音求、打毬、內典或謂之拍毱、云末利宇知、〉毛丸打者也、劉向別錄云、打毬昔黃帝所󠄁造󠄁、本因兵𫝑而爲之、
打毬 唐韻に云はく、毬〈音は求、打毬、内典に或は之れを拍毱と謂ひ、末利宇知まりうちと云ふ〉は毛丸、打つ者なりといふ。劉向別録に云はく、打毬は昔、黄帝の造る所、本、兵勢に因りて之れを為るといふ。
蹴鞠 傅玄彈棊賦序云、漢成帝好蹴鞠、〈此間云、末利古由、蹴音千陸反、字亦作蹵、公羊傳注󠄁云、以足逆󠄁蹈也、〉
蹴鞠 傅玄弾棊賦序に云はく、漢の成帝、蹴鞠を好むといふ〈此間に云ふ末利古由まりこゆ、蹴の音は千陸反、字は亦、蹵に作る。公羊伝注に云はく、足を以て逆に蹈むなりといふ〉。
競渡 金谷園記云、今之競渡、〈布奈久良倍、〉楚國之風也、
競渡 金谷園記に云はく、今の競渡〈布奈久良倍ふなくらべ〉は楚国の風なりといふ。
競馬 本朝式云、五月五日、競馬、〈久良閇无麻、〉立標、〈標讀師米、〉
競馬 本朝式に云はく、五月五日、競馬〈久良閉無麻くらべむま〉に標〈標は師米しめと読む〉を立つといふ。
鞦韆 古今藝術圖云、鞦韆、〈秋遷二音、由佐波利、〉以綵繩空中、以爲戱也、
鞦韆 古今芸術図に云はく、鞦韆〈秋遷の二音、由佐波利ゆさはり〉は綵縄を以て空中に懸け、以て戯を為すなりといふ。
圍碁 博󠄁󠄁物志云、堯造󠄁圍碁、〈音期、字亦作棊、此間云、五、〉一云、舜之所󠄁造󠄁也、晋中興書云、圍碁、堯舜以教愚子也、
囲碁 博物志に云はく、堯、囲碁〈音は期、字は亦、棊に作る、此間に云ふ〉を造るといふ。一に云はく、舜の造る所なりといふ。晋中興書に云はく、囲碁は堯、舜の、以て愚子を教ふるなりといふ。
彈棊 世說云、彈棊、〈此間云、如字、〉始魏宮、文帝於此技亦好矣、
弾棊 世説に云はく、弾棊〈此間に云ふは字のごとし〉は魏宮より始まり、文帝、此の技に於いても亦好しといふ。
樗蒲 兼名苑云、樗蒲一名九采󠄁、〈內典云、樗蒲、賀利宇智、〉
樗蒲 兼名苑に云はく、樗蒲は一名に九采といふ〈内典に云ふ樗蒲、賀利宇智かりうち〉。
八道行成 內典云、拍毱、擲石、投壺、牽道、八道行成、一切戱笑、悉不觀作、〈八道行成讀夜佐須賀利、〉
八道行成 内典に云はく、拍毱まりうち擲石いしなげ投壺つぼうち牽道みちくらべ、八道行成、一切の戯笑、ことごとく観作ならずといふ〈八道行成の読みは夜佐須賀利やさすがり〉。
雙六 兼名苑云、雙六一名六采󠄁、〈今案簙弈是也、簙音博󠄁、俗云須久呂久、〉
双六 兼名苑に云はく、双六、一名は六采といふ〈今案ふるに簙弈は是れなり、簙の音は博、俗に云ふ須久呂久すぐろく〉。
意錢 後漢書注󠄁云、意錢、〈此間云、世邇宇知、〉今之攤錢也、桂苑珠藂抄云、以手有所󠄁搓謂之攤、〈唐韵云、挪、音諾何反、搓挪也、字亦作攤、此間云駄、搓音七何反、手搓碎也、訓毛无、〉
意銭 後漢書注に云はく、意銭〈此間に云ふ世邇宇知ぜにうち〉は今の攤銭なりといふ。桂苑珠藂抄に云はく、手を以てむ所有り、之れを攤〈唐韻に云ふ挪、音は諾何反、搓は挪なり、字は亦、攤に作る、此間にと云ふ、搓の音は七何反、手にて搓み砕くなり、訓は毛無もむ〉と謂ふといふ。
弄槍 楊氏漢語抄云、弄槍、〈保古斗利、〈已上本注󠄁、〉槍音倉、見征戰具󠄁、〉
弄槍 楊氏漢語抄に云はく、弄槍〈保古斗利ほことり〈已上は本注〉、槍の音は倉、征戦具に見ゆ〉といふ。
弄丸 梁武帝千字文注󠄁云、宜遼者楚人也、能弄丸、〈此間云、多末斗利、〉八在空中、一在手中、今人之弄鈴是也、〈楊氏漢語抄云、弄鈴、須々止利、〉
弄丸 梁武帝千字文注に云はく、宜遼は楚人なり、能く弄丸〈此間に云ふ多末斗利たまとり〉す、八は空中に在り、一は手中に在り、今の人の弄鈴は是れなりといふ〈楊氏漢語抄に云ふ弄鈴、須々止利すずとり〉。
相撲 漢武故事云、角觝、〈丁禮反、訓與突同、〉今之相撲也、王隱晋書云、相撲、〈撲音蒲角反、和名須末比、本朝相撲記、有占手、垂髮、總角、㝡手[、助手]等之名、別亦有立合、相撲長、〉下伎也、
相撲 漢武故事に云はく、角觝〈丁礼反、訓は突と同じ〉は今の相撲なりといふ。王隠晋書に云はく、相撲〈撲の音は蒲角反、和名は須末比すまひ。本朝相撲記にうら垂髪うなゐ総角あげまき最手ほて[、すけ]等の名有り、別に亦、立合たちあはせ、相撲長有り〉は下伎なりといふ。
相搋 唐韵云、搋、〈勅皆反、在皆韵、內典云相搋、古布之宇知、〉以拳加物也、
相搋 唐韻に云はく、搋〈敕皆反、皆韻に在り、内典に云ふ相搋、古布之宇知こぶしうち〉は拳を以て物に加ふるなりといふ。
相扠 唐韵云、扠、〈丑佳反、在佳韵、內典云相扠、多加閇之、〉以拳加人也、楊氏漢語抄云、拗腕、〈訓上同、拗音於絞反、〉
相扠 唐韻に云はく、扠〈丑佳反、佳韻に在り、内典に云ふ相扠、多加閉之たがへし〉は拳を以て人に加ふるなりといふ。楊氏漢語抄に云ふ拗腕〈訓は上に同じ、拗の音は於絞反〉。
牽道 內典云、拍毱、擲石、投壺、牽道、〈內典云、牽道、美知久良閇、〉
牽道 内典に云はく、拍毱、擲石、投壺、牽道〈内典に云ふ牽道は美知久良閉みちくらべ〉といふ。
擲倒 楊氏漢語抄云、擲倒、〈賀倍利宇都、〉
擲倒 楊氏漢語抄に云はく、擲倒〈賀倍利宇都かへりうつ〉といふ。
鬪鶏 玉燭寳典云、寒食之節、城市尤多爲鬪鷄之戱、〈鬪鷄、此間云、止利阿波世、〉
闘鶏 玉燭宝典に云はく、寒食の節、城市、尤も多く闘鶏の戯を為すといふ〈闘鶏は此間に云ふ止利阿波世とりあはせ〉。
鬪草 荊楚歲時記云、五月五日、有鬪百草之戱、〈鬪草、此間云、久佐阿波世、今案鬪宜斣、何者唐韵鬪斣並都豆反、鬪競也、斣斠也、〉
闘草 荊楚歳時記に云はく、五月五日、闘百草の戯有りといふ〈闘草は此間に云ふ久佐阿波世くさあはせ、今案ふるに闘は宜しく斣に作るべし、何となれば唐韻に闘、斣は並びに都豆反、闘は競ふなり、斣ははかるなり〉。
拍浮󠄁 文選󠄁注󠄁云、拍浮󠄁、〈拍打也、普伯反、今案俗云於布須是也〉
拍浮 文選注に云はく、拍浮〈拍は打つなり、普伯反、今案ふるに俗に云ふ於布須おふすは是れなり〉といふ。

雜藝具󠄁廿六
雑芸具二十六
碁子 藝經云、白黑碁子各一百七十枚、
碁子 芸経に云はく、白黒の碁子、おのおの一百七十枚といふ。
碁局 唐韻云、枰、〈皮命反、一音平󠄁、〉按簙局也、陸詞曰、局、〈渠玉反、棊局、俗云五半󠄁、〉棊板枰也、
碁局 唐韻に云はく、枰〈皮命反、一音に平〉簿をひらく局なりといふ。陸詞曰はく、局〈渠玉反、棊局、俗に云ふばん〉は棊の板枰なりといふ。
樗蒲采󠄁 陸詞曰、𣘖、〈音軒、和名加利、〉𣘖子、樗蒲采󠄁名也、
樗蒲采 陸詞曰はく、𣘖〈音は軒、和名は加利かり〉は𣘖子、樗蒲の采の名なりといふ。
雙六采󠄁 楊氏漢語抄云、頭子、〈雙六乃佐以、今案見雜題雙六詩、〉
双六采 楊氏漢語抄に云はく、頭子〈双六すぐろく乃佐以のさい、今案ふるに雑題双六詩に見ゆ〉といふ。
鞠 考聲切韻云、鞠、〈音菊、字亦作毱、万利、〉以韋囊糠而蹴之、[孫愐云、今通󠄁謂之毬子、]
鞠 考声切韻に云はく、鞠〈音は菊、字は亦、毱に作る、万利まり〉は韋囊を以て糠をれて之れをうといふ。[孫愐云はく、今、通じて之れを毬子と謂ふといふ。]
毬杖 辨色立成云、骨撾、〈打也、竹花反、〉打毬曲杖也、[〈今案曲杖夜利万介、〉]
毬杖 弁色立成に云はく、骨撾〈打つなり、竹花反〉は打毬の曲杖なりといふ。[〈今案ふるに曲杖は夜利万介やりまげ〉]
紙老鴟 辨色立成云、紙老鴟、〈此間云、師勞之、〉以紙爲鴟形、乘風能飛、一云紙鳶、
紙老鴟 弁色立成に云はく、紙老鴟〈此間に云ふらう〉は紙を以て鴟形を為り、風に乗りて能く飛ぶといふ。一に云ふ紙鳶。
酒胡子 諸葛相如酒胡子賦云、因木成形、𧰼人立質、在掌握而可玩、遇󠄁盃盤而則出、
酒胡子 諸葛相如酒胡子賦に云はく、木に因りて形を成し、人をかたどりて質に立て、掌握に在りては玩ぶべし、盃盤に遇ひては則ち出づといふ。
傀儡子 唐韵云、傀儡、〈賄礧二音、和名久々豆、〉樂人所󠄁弄也、顔氏家訓云、俗名傀儡子、爲郭禿
傀儡子 唐韻に云はく、傀儡〈賄礧の二音、和名は久々豆くぐつ〉は楽人の弄する所なりといふ。顔氏家訓に云はく、俗に傀儡子を名づけて郭禿と為すといふ。
獨樂 辨色立成云、獨樂、〈[都无求里、此間云、]古末都玖利、〉有孔者也、
独楽 弁色立成に云はく、独楽〈[都无求里つむくり、此間に云ふ]古末都玖利こまつくり〉は孔有る者なりといふ。
輪鼓 本朝相撲記云、輪鼓二人、〈謂雜藝之中弄輪鼓者二人也、今案此物所󠄁出未詳、但其形如細腰鼓而輪轉於絲上、故以名之、〉
輪鼓 本朝相撲記に云はく、輪鼓二人といふ〈謂ふは雑芸の中に輪鼓を弄する者二人あればなり。今案ふるに此の物の出づる所、未だ詳かならず。但し其の形、細腰鼓のごとくして糸上に輪転す、故に以て之れを名く〉。
挿頭花 楊氏漢語抄云、頭花、〈賀佐之、俗用挿頭花、〉
挿頭花 楊氏漢語抄に云はく、頭花〈賀佐之かざし、俗に挿頭花を用ゐる〉といふ。

卷第三
巻第三
 居處部第六 舟車部第七 珍寳部第八 布帛部第九
 居処部第六 舟車部第七 珍宝部第八 布帛部第九
居處部第六
居処部第六
 屋宅類廿七 屋宅具󠄁廿八 墻壁具󠄁廿九 墻壁具󠄁三十 門戶類卅一 門戶具󠄁卅二 道路類卅三 道路具󠄁卅四〈關橋驛等見于此内、〉
 屋宅類二十七 屋宅具二十八 墻壁具二十九 墻壁具三十 門戸類三十一 門戸具三十二 道路類三十三 道路具三十四〈関、橋、駅等、此の内に見ゆ〉

屋宅類廿七
屋宅類二十七
屋舍 陸詞切韻云、屋、〈烏谷反、夜〉舍也、周󠄀禮注󠄁云、舍、〈音謝、和名同上〉休沐處也、
屋舎 陸詞切韻に云はく、屋〈烏谷反、〉は舎なりといふ。周礼注に云はく、舎〈音は謝、和名は上に同じ〉は休沐する処なりといふ。
四阿 唐令云、宮殿皆四阿、〈弁色立成云、四阿安都末夜、〉
四阿 唐令に云はく、宮殿は皆、四阿〈弁色立成に云ふ四阿、安都末夜あづまや〉にせよといふ。
兩下 唐令云、庶人門舍、不過󠄁一門兩下、〈弁色立成云、兩下麻夜、〉
両下 唐令に云はく、庶人の門舎は一門両下〈弁色立成に云ふ両下、麻夜まや〉に過ぐること得じといふ。
殿 唐韵云、殿、〈音電、度能、〉宮殿也、
殿 唐韻に云はく、殿〈音は電、度能との〉は宮殿なりといふ。
寢殿 四聲字苑云、寢、〈七稔反、禰夜、[方言要目云與止乃、]〉寢室也、一曰寢殿
寝殿 四声字苑に云はく、寝〈七稔反、禰夜ねや[、方言要目に云ふ与止乃よどの]〉は寝室なりといふ。一に寝殿と曰ふ。
堂 釋名云、堂、〈徒郎反、〉猶堂々、高顯貌也、
堂 釈名に云はく、堂〈徒郎反〉は猶ほ堂々のごとく、高くあらはるるかたちなりといふ。
櫓 唐韻云、櫓、〈音魯、內典云、却敵樓櫓、夜久良、舟具󠄁作艣、〉城上守禦樓也、
櫓 唐韻に云はく、櫓〈音は魯、内典に云ふ却敵の楼櫓、夜久良やぐら、舟具に艣に作る〉は城上にて守りふせぐ楼なりといふ。
樓閣 四聲字苑云、今謂臺上構屋樓、〈音婁、辨色立成云、太賀度能、〉野王案、閣、〈音各、今案俗謂朱雀門重閣、是〉重門複道也、
楼閣 四声字苑に云はく、今、台上の構屋を謂ひて楼〈音は婁、弁色立成に云ふ太賀度能たかどの〉と為すといふ。野王案ずるに閣〈音は各、今案ふるに、俗に朱雀門を謂ひて重閣と為すは是れ〉は重門複道なりとす。
觀 釋名云、觀、〈音貫、嵯峨有栖霞觀、〉於上觀望也、
観 釈名に云はく、観〈音は貫、嵯峨に栖霞観有り〉は上に於いて観望するなりといふ。
臺 尒雅注󠄁云、臺、〈徒來反、宇天奈、〉積土爲之所󠄁以觀望也、尙書注󠄁云、土高曰臺、有樹曰榭、〈和名宇天奈、〉
台 爾雅注に云はく、台〈徒来反、宇天奈うてな〉は土を積みて之れをつくり観望する所以なりといふ。尚書注に云はく、土高きを台と曰ひ、樹有るを榭〈和名は宇天奈うてな〉と曰ふといふ。
廊 唐韵云、廊、〈音郎、漢語抄云、保曾度能、〉殿下外屋也、
廊 唐韻に云はく、廊〈音は郎、漢語抄に云ふ保曽度能ほそどの〉は殿の下の外屋なりといふ。
行宮 日本紀私記云、行宮、〈賀利美夜、今案俗云頓宮、〉
行宮 日本紀私記に云はく、行宮〈賀利美夜かりみや、今案ふるに俗に云ふ頓宮〉といふ。
假床 類聚國史云、假床、〈此間云、佐受枳、今案假構屋內床之名也、〉
仮床 類聚国史に云はく、仮床〈此間ここに云ふ佐受枳さずき、今案ふるに仮に構ふる屋内の床の名なり〉といふ。
房 釋名云、房、〈音防、俗云音望、〉旁也、在室之兩方也、
房 釈名に云はく、房〈音は防、俗に云ふ、音は望〉は旁なり、室の両方に在るなりといふ。
坊〈村附〉 聲類云、坊、〈音方、又音房、末智、〉別屋也、又村坊、四聲字苑云、村、〈音尊、无良、〉野外聚居也、
坊〈村付〉 声類に云はく、坊〈音は方、又、音は房、末智まち〉は別屋なり、又、村坊といふ。四声字苑に云はく、村〈音は尊、無良むら〉は野外に聚居するなりといふ。
助鋪 辨色立成云、助鋪、〈和名古夜、一云比多歧夜、〉如衞士屋也、
助鋪 弁色立成に云はく、助鋪〈和名は古夜こや、一に云ふ比多岐夜ひたきや〉は衛士の屋のごときなりといふ。
室〈无戶室附〉 白虎通󠄁云、黃帝作室、〈音七、无路、〉以避󠄁寒暑、日本紀私記云、無戶室、〈宇都无路、〉
室〈無戸室付〉 白虎通に云はく、黄帝、室〈音は七、無路むろ〉を作り、以て寒暑を避くといふ。日本紀私記に云ふ無戸室〈宇都無路うつむろ〉。
舘 唐韻云、舘、〈音官、字亦作館、太知、日本紀私記云、无路都美、〉客舍也、
舘 唐韻に云はく、舘〈音は官、字は亦、館に作る、太知たち、日本紀私記に云ふ無路都美むろつみ〉は客舎なりといふ。
𠅘 釋名云、𠅘、〈音停、辨色立成云、客𠅘、阿波良夜、亭子、遊󠄁息處小屋也、〉人所󠄁停集也、
亭 釈名に云はく、亭〈音は停、弁色立成に云はく、客亭は阿波良夜あばらや、亭子の遊息する処の小屋なりといふ〉は人の停集する所なりといふ。
廳 四聲字苑云、廳、〈音汀、俗音長、日本紀私記云、万都利古度々乃、〉延賓屋、又衙廳也、
庁 四声字苑に云はく、庁〈音は汀、俗音は長、日本紀私記に云ふ万都利古度々乃まつりごとどの〉は賓をまねく屋、又、衙庁なりといふ。
院 蔣魴切韵云、院、〈于變反、俗音筠、〉別宅也、
院 蒋魴切韻に云はく、院〈于変反、俗音は筠〉は別宅なりといふ。
家〈第宅附〉 四聲字苑云、家、〈音嘉、與宅同、〉人所󠄁居處、漢書音義云、宅、有甲乙次第、故曰第宅也、
家〈第宅付〉 四声字苑に云はく、家〈音は嘉、宅と同じ〉は人の居する所の処といふ。漢書音義に云はく、宅に甲乙の次第有り、故に第宅と曰ふなりといふ。
宇 唐韻云、宇、〈音羽、訓夜賀須、〉宁也、宁、〈直呂反、上聲之重、〉門屛之間也、
宇 唐韻に云はく、宇〈音は羽、訓は夜賀須やかず〉は宁なり、宁〈直呂反、上声の重〉は門屏の間なりといふ。
營 唐韻云、營、〈余傾反、日本紀私記云、以保利、〉軍營也、
営 唐韻に云はく、営〈余傾反、日本紀私記に云ふ以保利いほり〉は軍営なりといふ。
倉廪 兼名苑云、囷、〈唐韻云、去倫反、又渠隕反、上聲之重、倉圓曰囷、〉一名廪、〈唐韻云、力稔反、倉有屋曰廪、[万呂久良、一云與奈久良、一云伊奈久良、]〉倉也、釋名云、倉、〈七岡反、久良、[一云甲倉古不久良、校倉阿世久良、俗用之、今案本文並未詳、]〉藏也、藏穀物也、[漢語抄云、倉㮹、〈久良乃和、今按孫愐切韻、𠊷緻㨖㮹四字、並陟利反、從人者會也、從糸者密也、從手者刺也、從木者布散也、可倉具󠄁之義、所󠄁出未詳也、〉]
倉廪 兼名苑に云はく、囷〈唐韻に云はく、去倫反、又、渠隕反、上声の重、倉の円きを囷と曰ふといふ〉、一名は廪〈唐韻に云はく、力稔反、倉に屋有るを廪と曰ふといふ[、万呂久良まろくら、一に云ふ与奈久良よなぐら、一に云ふ伊奈久良いなぐら]〉、倉なりといふ。釈名に云はく、倉〈七岡反、久良くら[、一に云ふ甲倉は古不久良こぶくら、校倉は阿世久良あぜくら、俗に之れを用ゐる、今案ふるに本文は並びに未だ詳かならず]〉は蔵なり、穀物を蔵むるなりといふ。[漢語抄に云ふ倉㮹〈久良乃和くらのわ、今按ふるに、孫愐切韻に𠊷、緻、㨖、㮹の四字、並びに陟利反、人に従ふ者は会なり、糸に従ふ者は密なり、手に従ふ者は刺なり、木に従ふ者は布散するなり、倉具と為すべきの義、出づる所未だ詳かならざるなり〉。]
窖 四聲字苑云、窖、〈音敎、漢語抄云、都知久良、〉倉窖土中藏糓也、
窖 四声字苑に云はく、窖〈音は教、漢語抄に云ふ都知久良つちくら〉は倉窖、土中に穀を蔵むるなりといふ。
庫〈棚閣附〉 唐令云、諸軍器在庫、〈音袴、漢語抄云、豆八毛能久良、〉皆造󠄁棚閣、〈朋各二音、太奈、〉安置別異、
庫〈棚閣付〉 唐令に云はく、もろもろの軍器を庫〈音は袴、漢語抄に云ふ豆八毛能久良つはものぐら〉に在らすに、皆、棚閣〈朋各の二音、太奈たな〉を造りて安置し別異せよといふ。
厨 說文云、厨、〈直誅反、厨家、久利夜、〉庖屋也、庖〈薄交反、〉食厨也、
厨 説文に云はく、厨〈直誅反、厨家、久利夜くりや〉は庖屋なり、庖〈薄交反〉は食厨なりといふ。
厩 四聲字苑云、厩、〈音救、上聲之重、无万夜、〉牛馬舍也、
厩 四声字苑に云はく、厩〈音は救、上声の重、無万夜むまや〉は牛馬の舎なりといふ。
廥 四聲字苑云、廥、〈音膾、漢語抄云、久散夜、〉蒭藁藏也、
廥 四声字苑に云はく、廥〈音は膾、漢語抄に云ふ久散夜くさや〉は蒭藁の蔵なりといふ。
肆 唐令云、諸市每肆、〈伊知久良、〉立標題、說文云、市、〈時止反、上聲之重、以知、〉賣買所󠄁也、
肆 唐令に云はく、諸市は肆〈伊知久良いちくらごとに標題を立てよといふ。説文に云はく、市〈時止反、上声の重、以知いち〉は売買する所なりといふ。
邸家 辨色立成云、邸家、〈邸音丁禮反、今案俗云津屋、此類也〉停賣物賃處也、
邸家 弁色立成に云はく、邸家〈邸の音は丁礼反、今案ふるに俗に云ふ津屋つやは此の類なり〉は売物を停め賃を取る処なりといふ。
店家 四聲字苑云、店、〈都念反、今案俗云町、此類也、〉坐賣舍也、
店家 四声字苑に云はく、店〈都念反、今案ふるに俗に云ふ町は此の類なり〉は坐して売る舎なりといふ。
窟 說文云、窟、〈音骨、以波夜、〉土屋也、野王案堀地爲窟也、
窟 説文に云はく、窟〈音は骨、以波夜いはや〉は土の屋なりといふ。野王案ずるに、地を堀りて窟と為すなりとす。
窨 辨色立成云、窨、〈於禁反、和名宇流之无路、〉地室也、一云漆屋、
窨 弁色立成に云はく、窨〈於禁反、和名は宇流之無路うるしむろ〉は地室なりといふ。一に云ふ漆屋。
窯 唐韵云、窯、〈音遙、楊氏漢語抄云、賀波良夜、〉燒瓦竃也、
窯 唐韻に云はく、窯〈音は遥、楊氏漢語抄に云ふ賀波良夜かはらや〉は瓦を焼く竃なりといふ。
庵室 唐韵云、庵、〈烏含反、庵室、俗云阿无之知、〉小草舍也、
庵室 唐韻に云はく、庵〈烏含反、庵室、俗に云ふ阿無之知あむじち〉は小さき草舎なりといふ。
廬 毛詩注󠄁云、農人作廬、〈力魚反、伊奉、〉以便田事
廬 毛詩注に云はく、農人は廬〈力魚反、伊奉いほ〉を作り、以て田事に便にすといふ。
庇 唐韵云、庇、〈必至反、比佐之、〉廕、〈於禁反、〉庇廕也、辨色立成云、庇、接簷、〈和名同上、〉
庇 唐韻に云はく、庇〈必至反、比佐之ひさし〉、廕〈於禁反〉は庇廕なりといふ。弁色立成に云はく、庇は接簷〈和名は上に同じ〉といふ。
廁 唐韻云、圂、〈胡困反、字亦作溷、〉廁也、釋名云、廁、〈音四、賀波夜、〉或謂之圊、〈音清、〉言至穢處宜常修治使潔淸也、
廁 唐韻に云はく、圂〈胡困反、字は亦、溷に作る〉は廁なりといふ。釈名に云はく、廁〈音は四、賀波夜かはや〉は或に之れを圊〈音は清〉と謂ふといふ。言ふは至りて穢き処、宜しく常に修治して潔清ならしむべければなり。

屋宅具󠄁廿八
屋宅具二十八
甍 釋名云、屋脊曰甍、〈音萌、伊良加、〉在上覆蒙屋也、兼名苑云、甍一名棟、〈多貢反、訓異故別置之、〉
甍 釈名に云はく、屋の脊を甍〈音は萌、伊良加いらか〉と曰ひ、上に在り屋を覆蒙するなりといふ。兼名苑に云はく、甍、一名は棟〈多貢反、訓異なる故に別ちて之れを置く〉といふ。
棟 尒雅云、棟謂之桴、〈音敷、一音浮󠄁、无禰、〉唐韻云、檼、〈隱之去聲、〉棟也、
棟 爾雅に云はく、棟は之れを桴〈音は敷、一音に浮、無禰むね〉と謂ふといふ。唐韻に云はく、檼〈隠の去声〉は棟なりといふ。
瓦 蔣魴切韻云、瓦、〈五寡反、加波良、〉燒泥爲之、盖屋宇上、蓬萊子造󠄁也、
瓦 蒋魴切韻に云はく、瓦〈五寡反、加波良かはら〉は泥を焼き之れをつくり、屋宇の上をおほふ、蓬莱子が造るなりといふ。
䟽瓦 辨色立成云、䟽瓦、〈都々美加波良、〉
疏瓦 弁色立成に云ふ疏瓦〈都々美加波良つつみがはら〉。
花瓦 辨色立成云、花瓦、〈鐙瓦也、阿布美加波良、〉
花瓦 弁色立成に云ふ花瓦〈鐙瓦なり、阿布美加波良あぶみがはら〉。
牝瓦 唐韻云、瓪、〈音板、女加波良、〉屋牝瓦也、
牝瓦 唐韻に云はく、瓪〈音は板、女加波良めがはら〉は屋の牝瓦なりといふ。
牡瓦 唐韻云、𤭧、〈音皆、乎加波良、〉屋牡瓦也、
牡瓦 唐韻に云はく、𤭧〈音は皆、乎加波良をがはら〉は屋の牡瓦なりといふ。
棧 楊氏漢語抄云、棧、〈瓦乃衣都利、初限反、〉日本紀私記云、蘆雚、〈和名同上、今案唐韻雚胡官反、葦也、然則以蘆葦棧、非也、〉
桟 楊氏漢語抄に云ふ桟〈かはら乃衣都利のえつり、初限反〉。日本紀私記に云ふ蘆雚〈和名は上に同じ、今案ふるに唐韻に雚は胡官反、葦なり、然らば則ち蘆葦を以て桟とるは非なり〉。
鴟尾 唐令云、宮殿皆四阿、施鴟尾〈辨色立成云、久都賀太、〉
鴟尾 唐令に云はく、宮殿は皆、四阿にして鴟尾〈弁色立成に云ふ久都賀太くつがた〉を施せといふ。
檐 唐韵云、檐、〈余廉反、字亦作簷、能歧、〉屋檐也、
檐 唐韻に云はく、檐〈余廉反、字は亦、簷に作る、能岐のき〉は屋檐なりといふ。
飛檐 文選󠄁注󠄁云、飛檐、〈此間音比衣无、〉棟頭似鳥翅舒將飛之狀也、
飛檐 文選注に云はく、飛檐〈此間に音は比衣無ひえむ〉は棟の頭、鳥のつばさべ将に飛ばんとするのかたちに似るなりといふ。
棉梠 文選󠄁云、鏤檻文㮰、〈音琵、一音篦、師說文㮰、賀佐禮留乃歧須介、〉楊氏漢語抄云棉梠、〈綿呂二音、和名同上、〉一云雀梠、
棉梠 文選に云はく、鏤檻文㮰〈音は琵、一音に篦、師説に文㮰は賀佐礼留乃岐須介かざれるのきすけ〉といふ。楊氏漢語抄に云ふ棉梠〈綿呂の二音、和名は上に同じ〉、一に云ふ雀梠。
懸魚 顔之推詩云、懸魚掩金扇󠄁、〈辨色立成云、屋脊桁端懸板名也、凡桁端有之、〉
懸魚 顔之推詩に云はく、懸魚、金扇を掩ふといふ〈弁色立成に云はく、屋の脊の桁の端に懸る板の名なり、凡そ桁端に之れ有りといふ〉。
榑風 辨色立成云、榑風板、〈比宜、上音布惡反、楊氏漢語抄同、〉
榑風 弁色立成に云ふ榑風板〈比宜ひぎ、上の音は布悪反、楊氏漢語抄に同じ〉。
桁 考聲切韻云、桁、〈音行、又去聲、計太、〉屋檁也、檁、〈林朕反、〉屋桁也、
桁 考声切韻に云はく、桁〈音は行、又、去声、計太けた〉は屋の檁なり、檁〈林朕反〉は屋の桁なりといふ。
梁 唐韻云、梁〈音良、宇都波利、〉棟梁也、尒雅注󠄁云、杗廇、〈亡霤二音、〉大梁也、
梁 唐韻に云はく、梁〈音は良、宇都波利うつはり〉は棟梁なりといふ。爾雅注に云はく、杗廇〈亡霤の二音〉は大梁なりといふ。
長押 功程式云、長押、〈奈計之、〉
長押 功程式に云ふ長押〈奈計之なげし〉。
榱 釋名云、榱、〈音衰、太流歧、楊氏云波閇歧、〉在檼旁下垂也、兼名苑云、一名橑、〈音老、〉一名椽、〈音傳、〉[榱也、]間朲、〈唐韵云音人、漢語抄云、間朲、太留木、〉
榱 釈名に云はく、榱〈音は衰、太流岐たるき、楊氏の云ふ波閉岐はへき〉はむなぎの旁に在り、下垂するなりといふ。兼名苑に云はく、一名は橑〈音は老〉、一名は椽〈音は伝〉[、榱なり]、間朲〈唐韻に音は人と云ふ、漢語抄に云ふ間朲、太留木たるき〉といふ。
璫 文選󠄁云、裁金璧、以飾󠄁璫、〈音當、師說古之利、又耳璫見服玩具󠄁、〉劉良曰、言以金璧飾󠄁椽端也、
璫 文選に云はく、金璧に裁ち、以て璫〈音は当、師説に古之利こじり、又、耳璫は服玩具に見ゆ〉を飾るといふ。劉良曰はく、言ふは金璧を以て椽端を飾ればなりといふ。
桷 尒雅注󠄁云、桷、〈音角、須美歧、〉屋四阿大榱也、
桷 爾雅注に云はく、桷〈音は角、須美岐すみき〉は屋の四阿の大榱なりといふ。
天井 風俗通󠄁云、殿舍作天井、[〈俗云殿掌、〉]菱藻水中之物、以壓火灾也、
天井 風俗通に云はく、殿舎に天井[〈俗に云ふ殿掌〉]を作るに、菱藻の水中の物にて以て火災をおさふるなりといふ。
𥴩子 通󠄁俗文云、𥴩子、〈𥴩音隔、字亦作䈷、〉竹障名也、
𥴩子 通俗文に云はく、𥴩子〈𥴩の音は隔、字は亦、䈷に作る〉は竹障の名なりといふ。
蔀 周󠄀禮注󠄁云、蔀、〈音部、字亦作篰、之度美、〉覆曖障光也、
蔀 周礼注に云はく、蔀〈音は部、字は亦、篰に作る、之度美しとみ〉は覆曖して光を障するなりといふ。
柱〈束柱附〉 說文云、柱、〈音注󠄁、波之良、功程式云束柱、豆賀波師良、〉楹也、唐韻云、楹、〈音盈、〉柱也、
柱〈束柱付〉 説文に云はく、柱〈音は注、波之良はしら、功程式に云ふ束柱、豆賀波師良つかばしら〉は楹なりといふ。唐韻に云はく、楹〈音は盈〉は柱なりといふ。
欄額 辨色立成云、欄額、〈波之良沼歧、〉柱貫也、
欄額 弁色立成に云はく、欄額〈波之良沼岐はしらぬき〉は柱貫なりといふ。
枓 唐韵云、枓、〈音斗、度賀多、〉柱上方木也、
枓 唐韻に云はく、枓〈音は斗、度賀多とがた〉は柱上の方なる木なりといふ。
枅 唐韵云、枅、〈音鷄、漢語抄云比知歧、功程式云肱木、〉承衡木也、
枅 唐韻に云はく、枅〈音は鶏、漢語抄に云ふ比知岐ひぢき、功程式に云ふ肱木〉は承衡木なりといふ。
栭 尒雅注󠄁云、梁上謂之栭、〈音而、文選󠄁師說多々利加太、〉欂櫨也、說文云、欂櫨、〈薄盧二音、〉柱上枅也、
栭 爾雅注に云はく、梁の上は之れを栭〈音は而、文選師説に多々利加太たたりがた〉と謂ひ、欂櫨なりといふ。説文に云はく、欂櫨〈薄盧の二音〉は柱上の枅なりといふ。
梲 爾雅云、梁上柱謂之梲、〈音拙、宇太知、楊氏云、蜀柱、〉孫炎曰、梁上柱侏儒也、
梲 爾雅に云はく、梁上の柱は之れを梲〈音は拙、宇太知うだち、楊氏の云ふ蜀柱〉と謂ふといふ。孫炎曰はく、梁上の柱は侏儒なりといふ。
鴨柄 功程式云、鴨柄、〈賀毛江、今案本文未詳、〉
鴨柄 功程式に云ふ鴨柄〈賀毛江かもえ、今案ふるに本文は未だ詳かならず〉。
杈首 楊氏漢語抄云、杈首〈佐須、杈初牙反、〉
杈首 楊氏漢語抄に云はく、杈首〈佐須さす、杈は初牙反〉といふ。
軒檻 漢書注󠄁云、軒、〈虛言反、〉檻上板也、檻、〈音監、文選󠄁檻讀師説於波之万、〉殿上欄也、唐韻云、欄、〈音蘭、漢語抄云、欄檻、〉階際木、勾欄亦、
軒檻 漢書注に云はく、軒〈虚言反〉檻は上板なり、檻〈音は監、文選に檻の読みは師説に於波之万おばしま〉は殿上の欄なりといふ。唐韻に云はく、欄〈音は蘭、漢語抄に云ふ欄檻〉は階際の木、勾欄も亦といふ。
簀〈板敷附〉 蔣魴切韻云、簀、〈音責、功程式板敷云々、簀子云々、須乃古、〉床上藉竹名也、
簀〈板敷付〉 蒋魴切韻に云はく、簀〈音は責、功程式に板敷云々、簀子云々、須乃古すのこ〉は床上に竹をく名なりといふ。
柱礎 唐韻云、磌、〈徒年反、都美以之、一云以之須惠、〉柱礎也、礎、〈音楚、〉柱下石也、
柱礎 唐韻に云はく、磌〈徒年反、都美以之つみいし、一に云ふ以之須恵いしずゑ〉は柱礎なり、礎〈音は楚〉は柱下の石なりといふ。
壇 考聲切韵云、壇、〈達󠄁丹反、俗云本音之濁、〉封土四方而高也、
壇 考声切韻に云はく、壇〈達丹反、俗に云ふ本の音の濁〉は、土を四方に封じて高きなりといふ。
堦 考聲切韵云、堦〈皆音、俗爲階字、波之、一訓之奈、〉登堂級也、兼名苑云、砌一名階、〈砌音細、訓美歧利、〉
堦 考声切韻に云はく、堦〈皆の音、俗に階の字と為す、波之はし、一訓に之奈しな〉は堂に登る級なりといふ。兼名苑に云はく、砌、一名は階といふ〈砌の音は細、訓は美岐利みぎり〉。
庭 考聲切韵云、庭、〈定丁反、邇波、〉屋前󠄁也、
庭 考声切韻に云はく、庭〈定丁反、邇波には〉は屋の前なりといふ。

墻壁類廿九
墻壁類二十九
垣墻 爾雅云、墻、〈音常、〉謂之墉、〈音庸、〉李巡󠄁曰、謂垣、〈音園、賀歧、〉
垣墻 爾雅に云はく、墻〈音は常〉は之れを墉〈音は庸〉と謂ふといふ。李巡曰はく、垣〈音は園、賀岐かき〉を謂ふといふ。
築墻 淮南子云、舜作築墻、〈都以加歧、一云豆以比知、〉
築墻 淮南子に云はく、舜、築墻〈都以加岐ついがき、一に云ふ豆以比知ついひぢ〉を作るといふ。
女墻 兼名苑云、女墻一名堞、〈音牒、〉城上小垣也、釋名云、城上垣曰埤堄、〈裨詣二音、字亦作陴𨺙、〉或曰女墻、言其卑小、比之城、若女子之於丈夫也、
女墻 兼名苑に云はく、女墻、一名は堞〈音は牒〉、城上の小垣なりといふ。釈名に云はく、城上の垣を埤堄〈裨詣の二音、字は亦、陴𨺙に作る〉と曰ひ、或は女墻と曰ふといふ。言ふは其の卑小なること、之れを城に比するに、女子の丈夫に於けるがごときなればなり。
屛 唐韵云、罘罳、〈浮󠄁思二音、〉屛也、爾雅注󠄁云、屛、〈音餠、〉小墻、當門中也、
屏 唐韻に云はく、罘罳〈浮思の二音〉は屏なりといふ。爾雅注に云はく、屏〈音は餅〉は小墻の門中に当るなりといふ。
𣑭 說文云、𣑭、〈音索、〉編󠄁竪木也、
柵 説文に云はく、柵〈音は索〉は竪木を編むなりといふ。
籬〈栫字附〉 釋名云、籬、〈音離、字亦作㰚、末加歧、一云末世、〉以柴作之、言踈離々也、說文云栫、〈七見反、加久布、〉以柴壅之、
籬〈栫字付〉 釈名に云はく、籬〈音は離、字は亦、㰚に作る、末加岐まがき、一に云ふ末世ませ〉は柴を以て之れを作るといふ。言ふは疎にして離々たればなり。説文に云はく、栫〈七見反、加久布かくふ〉は柴を以て之れを壅すといふ。
壁〈隙附〉 野王案、壁、〈音辟、加閇、〉室之屛蔽也、四聲字苑云、隙、〈綺㦸反、比末、〉壁際孔也、
壁〈隙付〉 野王案ずるに、壁〈音は辟、加閉かべ〉は室の屏蔽なりとす。四声字苑に云はく、隙〈綺戟反、比末ひま〉は壁際の孔なりといふ。

墻壁具󠄁三十
墻壁具三十
助枝 楊氏漢語抄云、助枝、〈之太知、功程式云、志達󠄁、〉
助枝 楊氏漢語抄に云ふ助枝〈之太知したぢ、功程式に云ふ志達〉。
牏 野王案、牏、〈音偷、又音頭、豆以比知伊太、〉築垣短板也、
牏 野王案ずるに、牏〈音は偸、又、音は頭、豆以比知伊太ついひぢいた〉は垣を築く短き板なりとす。
壁帶 漢書音義云、壁帶、〈今案末和多之、功程式云間度、〉謂壁中之橫帶也、
壁帯 漢書音義に云はく、壁帯〈今案ふるに末和多之まわたし、功程式に云ふ間度〉は壁中の横帯を謂ふなりといふ。
櫺子 四聲字苑云、櫺、〈郎丁反、字亦作欞、禮邇之、〉窓櫺子也、考聲切韻云、欄檻及窓間子也、
櫺子 四声字苑に云はく、櫺〈郎丁反、字は亦、欞に作る、礼邇之れにし〉は窓櫺子なりといふ。考声切韻に云はく、欄檻及び窓間子なりといふ。
牖 說文云、牖、〈與久反、字從片戶甫也、末度、〉穿壁以木爲交窓也、
牖 説文に云はく、牖〈与久反、字は片、戸、甫に従ふなり、末度まど〉は壁を穿ち、木を以て交窓とすなりといふ。
石灰 兼名苑云、石灰一名堊灰、〈以之波比、〉燒靑白石熟、冷竟澆之、碎成灰也、
石灰 兼名苑に云はく、石灰、一名は堊灰〈以之波比いしばひ〉といふ。青白石を焼きて成熟し、冷れば竟に之れをひたし、砕きて灰と成すなり。
白土 兼名苑云、白土、一名堊、〈已見天地部水土類、〉
白土 兼名苑に云はく、白土、一名は堊〈已に天地部水土類に見ゆ〉といふ。

門戶類卅一
門戸類三十一
門〈門舍附〉 四聲字苑云、門、〈加度、〉所󠄁以通󠄁出入也、唐令云、門舍、〈加度夜、〉三品以上五架三門、五品以上三門兩下、六品以下及庶人不過󠄁一門兩下
門〈門舎付〉 四声字苑に云はく、門〈加度かど〉は出入を通ずる所以なりといふ。唐令に云はく、門舎〈加度夜かどや〉は、三品以上は五架三門、五品以上は三門両下、六品以下及び庶人は一門両下を過ぐること得じといふ。
閭閻 說文云、閭閻、〈廬鹽二音、文選󠄁師說、佐度乃加東、〉里中門也、
閭閻 説文に云はく、閭閻〈廬塩の二音、文選師説に佐度乃加東さとのかど〉は里中の門なりといふ。
坊門 唐令云、兩京城及州縣郭下、坊別置正一人、掌坊門管鑰、督察姧非也、
坊門 唐令に云はく、両京城及び州県の郭下、坊ごとに正一人を置けといふ。坊門の管鑰をつかさどり、姧非を督察するなり。
鷄栖 考聲切韻云、𣔺、〈毛報反、〉今之門鷄栖也、辨色立成云、鷄栖〈鳥居也、楊氏說同、〉
鶏栖 考声切韻に云はく、𣔺〈毛報反〉は今の門の鶏栖なりといふ。弁色立成に云ふ鶏栖〈鳥居なり、楊氏の説同じ〉。
戶 野王案、在城郭門、在屋堂戶、[〈和名度、戸邑之處倍、〉]
戸 野王案ずるに、城郭に在るを門と曰ひ、屋堂に在るを戸と曰ふとす[〈和名は、戸邑の処は〉]。
窓 說文云、在屋曰窓、〈楚江反、字亦作牎、末度、〉在墻曰牖、〈已見墻壁具󠄁、〉兼名苑云、一名櫳、〈音籠、〉
窓 説文に云はく、屋に在るを窓〈楚江反、字は亦、牎に作る、末度まど〉と曰ひ、墻に在るを牖〈已に墻壁具に見ゆ〉と曰ふといふ。兼名苑に云はく、一名は櫳〈音は籠〉といふ。
水門 後漢書云、水門故處皆在河中、〈日本紀私記云、水門、美度、〉
水門 後漢書に云はく、水門の故処は皆、河中に在りといふ〈日本紀私記に云ふ水門、美度みと〉。

門戶具󠄁卅二
門戸具三十二
扉 說文云、扇󠄁〈式戰反、度比良、〉扉也、扉、〈音非、〉門扉也、
扉 説文に云はく、扇〈式戦反、度比良とびら〉は扉なり、扉〈音は非〉は門扉なりといふ。
樞 爾雅云、樞、〈音朱、〉謂之椳、〈音隈、度保曾、俗云度万良、〉孫炎曰、門戶之樞也、
枢 爾雅に云はく、枢〈音は朱〉は之れを椳〈音は隈、度保曽とぼそ、俗に云ふ度万良とまら〉と謂ふといふ。孫炎曰はく、門戸のくるるなりといふ。
楣 爾雅注󠄁云、楣、〈音眉、万久佐、〉門戶上橫梁也、
楣 爾雅注に云はく、楣〈音は眉、万久佐まぐさ〉は門戸の上の横梁なりといふ。
𣔺 四聲字苑云、𣔺、〈莫到反、又莫代反、漢語抄云、度加美、功程式云鼠走、〉門樞橫梁也、
𣔺 四声字苑に云はく、𣔺〈莫到反、又、莫代反、漢語抄に云ふ度加美とがみ、功程式に云ふねずばしり〉は門枢の横梁なりといふ。
靑瑣 四聲字苑云、靑瑣、〈蘇果反、字亦作璅、〉刻木爲羅文、靑而施之於戶上也、
青瑣 四声字苑に云はく、青瑣〈蘇果反、字は亦、璅に作る〉は、木を刻み羅文を為し、青くぬりて之れを戸上に施すなりといふ。
扃 野王案、扃、〈音經、度佐之、〉戶扇󠄁䥫鈕所󠄁於內以關門也、
扃 野王案ずるに、扃〈音は経、度佐之とざし〉は戸扇の、鉄鈕の内に用ゐて以て門を関する所なりとす。
鎹 功程式云、擧鎹、〈阿介賀湏加比、今案鎹字、本文未詳、〉
鎹 功程式に云ふ挙鎹〈阿介賀須加比あげかすがひ、今案ふるに鎹の字、本文未だ詳かならず〉。
鐶鈕 辨色立成云、鐶鈕、〈斗乃比歧天、楊氏說同、〉門鈎也、
鐶鈕 弁色立成に云はく、鐶鈕〈斗乃比岐天とのひきて、楊氏の説同じ〉は門の鈎なりといふ。
戶鍱 唐韵云、鍱、〈式涉反、與葉同、楊氏云、戶乃帖木、〉銅鍱也、
戸鍱 唐韻に云はく、鍱〈式渉反、葉と同じ、楊氏の云ふ戸乃とのでふ〉は銅の鍱なりといふ。
關木 說文云、關、〈古還󠄁反、字亦作関、俗云貫乃木〉以橫木門曰關、所󠄁以閉也、
關木 説文に云はく、關〈古還反、字は亦、関に作る、俗に云ふくわん乃木のき〉は、横木を以て門を持するを關と曰ひ、閉ざす所以なりといふ。
鑰 四聲字苑云、鑰、〈音藥、字亦作𨷲、今案俗人印鑰之處用鎰字、非也、鎰音溢、見唐韵、〉關具󠄁也、楊氏漢語抄云、鑰匙、〈門乃加歧〉
鑰 四声字苑に云はく、鑰〈音は薬、字は亦、𨷲に作る、今案ふるに俗人、印鑰の処に鎰の字を用ゐるは非なり。鎰の音は溢、唐韻に見ゆ〉は關する具なりといふ。楊氏漢語抄に云ふ鑰匙〈もん乃加岐のかぎ〉。
鈎匙 楊氏漢語抄云、鈎匙、〈戶乃加歧、一云加良加歧、鈎音古侯反、〉
鈎匙 楊氏漢語抄に云ふ鈎匙〈戸乃加岐とのかぎ、一に云ふ加良加岐からかぎ、鈎の音は古侯反〉。
鏁子 唐韵云、鎖、〈蘇果反、俗作鏁子、〉䥫鎖也、楊氏漢語抄云、鏁子、〈藏乃賀歧、辨色立成云藏鑰、〉
鏁子 唐韻に云はく、鎖〈蘇果反、俗に鏁子に作る〉は鉄の鎖なりといふ。楊氏漢語抄に云ふ鏁子〈くら乃賀岐のかぎ、弁色立成に云ふ蔵鑰〉。
棖 爾雅注󠄁云、棖、〈音唐、保古多知、辨色立成云、戶類、〉門兩旁木也、
棖 爾雅注に云はく、棖〈音は唐、保古多知ほこだち。弁色立成に云ふ戸の類〉は門の両旁の木なりといふ。
橛 唐韵云、橛、〈音厥、俗云巾子形、〉所󠄁以止󠄁__扇󠄁也、爾雅云、橛謂之闑、〈音蘖、〉孫炎曰、門中央杙也、
橛 唐韻に云はく、橛〈音は厥、俗に云ふ巾子こじがた〉は扇を止むる所以なりといふ。爾雅に云はく、橛は之れを闑〈音は蘖〉と謂ふといふ。孫炎曰はく、門の中央の杙なりといふ。
閾 爾雅注󠄁云、閾、〈音域、〉門限也、兼名苑云、閾一名閫、〈苦本反、之歧美、俗云度之歧美、〉
閾 爾雅注に云はく、閾〈音は域〉は門限なりといふ。兼名苑に云はく、閾、一名は閫〈苦本反、之岐美しきみ、俗に云ふ度之岐美とじきみ〉といふ。

道路類卅三
道路類三十三
馳道 漢書注󠄁云、馳道、天子所󠄁行之道也、
馳道 漢書注に云はく、馳道は天子の行く所の道なりといふ。
馬道 辨色立成云、馬道、〈俗音米多宇、〉向堂之道也、
馬道 弁色立成に云はく、馬道〈俗音は米多宇めだう〉は堂に向ふの道なりといふ。
徼道 唐韵云、徼道、〈音呌、古美知、〉小道也、
徼道 唐韻に云はく、徼道〈音は呌、古美知こみち〉は小道なりといふ。
間道 日本紀私記云、間道、〈賀久禮美知、〉
間道 日本紀私記に云はく、間道〈賀久礼美知かくれみち〉といふ。
徑路 唐韵云、徑、〈音敬、與逕同、多々知、逕近󠄁也、字或通󠄁見下〉步道也、四聲字苑云、徑、〈古定反〉容牛馬道、一云步道也、
径路 唐韻に云はく、径〈音は敬、逕と同じ、多々知ただち、逕は近きなり、字は或に通ずること下に見ゆ〉は歩道なりといふ。四声字苑に云はく、径〈古定反〉は牛馬をるる道といふ。一に云ふ歩道なり。
大路 唐韵云、道路、〈音露、毛詩有遵大路篇、大路和名於保美知、〉南北曰阡、〈音千、日本紀私記云、多知之乃美知、〉東西曰陌、〈音百、日本紀私記云、與古之乃美知、〉四聲字苑云、路阡陌摠名也、
大路 唐韻に云はく、道路〈音は露、毛詩に遵大路篇有り、大路の和名は於保美知おほみち〉は南北を阡〈音は千、日本紀私記に云ふ多知之乃美知たちしのみち〉と曰ひ、東西を陌〈音は百、日本紀私記に云ふ与古之乃美知よこしのみち〉と曰ふといふ。四声字苑に云はく、路は阡陌の摠名なりといふ。
巷 唐韵云、巷、〈胡絳反、知末太、〉里中道也、
巷 唐韻に云はく、巷〈胡絳反、知末太ちまた〉は里中の道なりといふ。
十字 吳均行路難云、縱橫十字成阡陌、〈今案十字者東西南北相分之道、其中央似十字也、俗用辻字、本文未詳、〉
十字 呉均行路難に云はく、縦横十字に阡陌を成すといふ〈今案ふるに十字なる者は東西南北相分つの道、其の中央は十の字に似るなり、俗に辻の字を用ゐる、本文は未だ詳かならず〉。
地道 日本紀私記云、地道、〈志太都美遲、〉
地道 日本紀私記に云はく、地道〈志太都美遅したつみち〉といふ。
碊道 文字集略云、碊道、〈士輦反、上聲之重、漢語抄云、夜末乃加介知、〉山路閣道也、
碊道 文字集略に云はく、碊道〈士輦反、上声の重、漢語抄に云ふ夜末乃加介知やまのかけぢ〉は山路の閣道なりといふ。
津 四聲字苑云、津、〈將隣反、豆、〉渡水處也、唐令云、諸度關津、及乘船筏上下經津者、皆當過󠄁所󠄁
津 四声字苑に云はく、津〈将隣反、〉は水を渡る処なりといふ。唐令に云はく、もろもろの關津をわたる、及び船筏に乗り、上下して津を経る者は、皆、まさ過所くわしよ有るべしといふ。
濟 爾雅注󠄁云、濟、〈子禮反、和太利、〉渡處也、
済 爾雅注に云はく、済〈子礼反、和太利わたり〉は渡る処なりといふ。
泊 唐韵云、泊、〈傍各反、度末利、〉止也、坤元錄云、雍州有百頃泊、岐州有荷池泊、〈今案播磨国大輪田泊此類也、〉
泊 唐韻に云はく、泊〈傍各反、度末利とまり〉は止るなりといふ。坤元録に云はく、雍州に百頃泊有り、岐州に荷池泊有りといふ〈今案ふるに播磨国の大輪田泊は此の類なり〉。

道路具󠄁卅四
道路具三十四
關 蔡邕月令章句云、關、〈古還󠄁反、字亦作関、日本紀私記云、關門、世歧度、〉在境所󠄁以察出禦󠄁__入也、
關 蔡邕月令章句に云はく、關〈古還反、字は亦、関に作る、日本紀私記に云ふ關門、世岐度せきど〉は境に在りて出づるを察し入るを禦ぐ所以なりといふ。
橋〈䓗臺附〉 說文云、橋、〈音喬、波之、〉水上横木、所󠄁以渡也、爾雅注󠄁云、梁、〈音良、〉即水橋也、楊氏漢語抄云、䓗臺、〈比良歧波之良、〉橋兩端所󠄁竪之柱、其頭似䓗花、故云、
橋〈葱台付〉 説文に云はく、橋〈音は喬、波之はし〉は水上に木を横にし、渡る所以なりといふ。爾雅注に云はく、梁〈音は良〉は即ち水橋なりといふ。楊氏漢語抄に云はく、葱台〈比良岐波之良ひらきばしら〉は橋の両端につる所の柱、其の頭は葱花に似る、故に云ふといふ。
石橋 爾雅注󠄁云、矼、〈音江、以之波之、〉石橋也、
石橋 爾雅注に云はく、矼〈音は江、以之波之いしばし〉は石橋なりといふ。
浮󠄁橋 魏略五行志云、洛水浮󠄁橋、〈宇歧波之、〉
浮橋 魏略五行志に云はく、洛水浮橋〈宇岐波之うきばし〉といふ。
土橋 唐韵云、圮、〈音怡、豆知波之、〉土橋也、
土橋 唐韻に云はく、圮〈音は怡、豆知波之つちばし〉は土橋なりといふ。
獨梁 淮南子云、獨梁、〈比度豆波之、今案又一名獨木橋、見翰苑等、〉從橫一木之梁也、
独梁 淮南子に云はく、独梁〈比度豆波之ひとつばし、今案ふるに又、一名は独木橋、翰苑等に見ゆ〉は従横一木の梁なりといふ。
梯 郭知玄曰、梯、〈音低、加介波之、〉木堦所󠄁以登󠄁__高也、唐韻云、棧、〈音笇一音賤、訓同上、〉板木構險爲道也、
梯 郭知玄曰はく、梯〈音は低、加介波之かけはし〉は木の堦の高きに登る所以なりといふ。唐韻に云はく、桟〈音は笇、一音に賤、訓は上に同じ〉は、板木を険しきに構へて道と為すなりといふ。
遉邏 唐韵云遉邏、〈上丑鄭反、〉漢語抄云遉邏、〈知毛利、〉
遉邏 唐韻に云ふ遉邏〈上は丑鄭反〉、漢語抄に云ふ遉邏〈知毛利ちもり〉。
雁齒 白氏文集云、鴨頭新綠水、雁齒小紅橋、
雁歯 白氏文集に云はく、鴨頭、新縁の水、雁歯、小紅橋といふ。
驛 唐令云、諸道須驛者、每卅里一驛、〈音繹、无末夜、〉若地𫝑險阻及無水草處隨緣置之、
駅 唐令に云はく、諸道にすべからく駅を置くべきは、三十里毎に一駅〈音は繹、無末夜むまや〉置け、若し地勢の険阻なる、また、水草無き処は、縁に随ひて之れを置けといふ。

舟車部第七
舟車部第七
 舟類卅五 舟具󠄁卅六 車類卅七 車具󠄁卅八
 舟類三十五 舟具三十六 車類三十七 車具三十八

舟類卅五
舟類三十五
舟船〈艘附〉 方言云、關東謂之舟、〈音周、〉關西謂之船、〈音旋、布禰、〉說文云、艘、〈蘇遭󠄁反、〉船數也、
舟船〈艘付〉 方言に云はく、関東に之れを舟〈音は周〉と謂ひ、関西に之れを船〈音は旋、布禰ふね〉と謂ふといふ。説文に云はく、艘〈蘇遭反〉は船の数なりといふ。
舶 唐韵云、舶、〈傍陌反、楊氏漢語抄云、豆具󠄁能布禰、〉海中大船也、
舶 唐韻に云はく、舶〈傍陌反、楊氏漢語抄に云ふ豆具能布禰つくのぶね〉は海中の大船なりといふ。
艇〈游艇附〉 唐韵云、艇、〈徒鼎反、上聲之重、楊氏漢語抄云、艇、乎夫禰、游艇、波師不禰、〉小船也、釋名云、二人所󠄁乘也、
艇〈游艇付〉 唐韻に云はく、艇〈徒鼎反、上声の重、楊氏漢語抄に艇は乎夫禰をぶね、游艇は波師不禰はしぶねと云ふ〉は小船なりといふ。釈名に云はく、二人の乗る所なりといふ。
舴艋 唐韵云、舴艋、〈嘖猛二音、舴艋、豆利夫禰、〉小さき漁舟也、
舴艋 唐韻に云はく、舴艋〈嘖猛の二音、舴艋は豆利夫禰つりぶね〉は小さき漁舟なりといふ。
舼 釋名云、艇小而深者曰舼、〈渠容反、字亦作〓〔舟+卭〕、今案太加世、俗用高瀨舟、〉
舼 釈名に云はく、艇の小さくして深き者を舼〈渠容反、字は亦、𦨰に作る、今案ふるに太加世たかせ、俗に高瀬舟を用ゐる〉と曰ふといふ。
艜 釋名云、艇薄而長者曰艜、〈當盖反、與帶同、今案比良太、俗用平󠄁田舟、〉
艜 釈名に云はく、艇の薄くして長き者を艜〈当盖反、帯と同じ、今案ふるに比良太ひらた、俗に平田舟を用ゐる〉と曰ふといふ。
舸 四聲字苑云、舸、〈古我反、楊氏云、波夜布禰、〉高尾舟、一云、戰士可乘輕舟也、
舸 四声字苑に云はく、舸〈古我反、楊氏の云ふ波夜布禰はやぶね〉は高尾舟といふ。一に云はく、戦士の乗るべき軽舟なりといふ。
艨艟 四聲字苑云、艨艟、〈蒙衝二音、又並去聲、漢語抄云、以久佐不禰、〉戰船也、
艨艟 四声字苑に云はく、艨艟〈蒙衝の二音、又、並びに去声、漢語抄に云ふ以久佐不禰いくさぶね〉は戦船なりといふ。
水脉船 楊氏漢語抄云、水脉船、〈美乎比歧能布禰、〉
水脈船 楊氏漢語抄に云はく、水脈船〈美乎比岐能布禰みをびきのふね〉といふ。
桴筏 論語注󠄁云、桴、編󠄁竹木、大曰筏〈音伐、字亦作𦪑、〉小曰桴、〈音浮󠄁、玉篇字亦作艀、在舟部、以賀多、〉
桴筏 論語注に云はく、桴は竹木を編み、大なるを筏〈音は伐、字は亦、𦪑に作る〉と曰ひ、小なるを桴〈音は浮、玉篇に字は亦、艀に作る、舟部に在り、以賀多いかだ〉と曰ふといふ。
査 唐韵云、楂、〈鋤加反、字亦作査槎、宇歧々、〉水中浮󠄁木也、
査 唐韻に云はく、楂〈鋤加反、字は亦、査、槎に作る、宇岐々うきき〉は水中の浮木なりといふ。
舟事類 說文云、艐、〈子紅反、俗云爲流、〉船着沙不行也、唐韻云、艤、〈魚綺反、訓不奈與曾比、〉整舟向岸也、𦨖、〈初敎反、訓加比路久、〉船不安也、
舟事類 説文に云はく、艐〈子紅反、俗に云ふ為流ゐる〉は船の沙に着き行かざるなりといふ。唐韻に云はく、艤〈魚綺反、訓は不奈与曽比ふなよそひ〉は舟を整へ岸に向ふなり、𦨖〈初教反、訓は加比路久かひろぐ〉は、船の安からざるなりといふ。

舟具󠄁卅六
舟具三十六
舳 兼名苑注󠄁云、船前󠄁頭謂之舳、〈音逐󠄁、楊氏漢語抄云、舟頭制水處、和名閇、〉
舳 兼名苑注に云はく、船の前頭は之れを舳〈音は逐、楊氏漢語抄に云ふ舟頭の水を制する処、和名は〉と謂ふといふ。
艫 兼名苑注󠄁云、船後頭謂之艫、〈音盧、楊氏曰、舟後刾櫂處、和語云度毛、〉
艫 兼名苑注に云はく、船の後頭は之れを艫〈音は盧、楊氏の曰ふ舟の後の櫂を刺す処、和語に云ふ度毛とも〉と謂ふといふ。
帆 四聲字苑云、帆、〈音凡、一音泛、保、〉風衣也、一云、船上掛檣上風進󠄁船幔也、釋名云、帆或以席爲之、故曰帆席也、
帆 四声字苑に云はく、帆〈音は凡、一音に泛、〉は風衣なりといふ。一に云はく、船上の、檣の上に掛け、風を取り船を進むる幔なりといふ。釈名に云はく、帆は或はむしろを以て之れと為す、故に帆席と曰ふなりといふ。
帆竿 楊氏漢語抄云、帆竿、〈保偈多、下古寒反、〉
帆竿 楊氏漢語抄に云はく、帆竿〈保偈多ほげた、下は古寒反〉といふ。
帆柱 文選󠄁注󠄁云、槳、〈即兩反、保波之良、〉帆柱也、又云、帆檣、〈諸檣反、〉以長木之、所󠄁以挂󠄁__帆也、
帆柱 文選注に云はく、槳〈即両反、保波之良ほばしら〉は帆柱なりといふ。又云はく、帆檣〈諸墻反〉は長き木を以て之れと為し、帆を挂くる所以なりといふ。
帆綱 文選󠄁注󠄁云、長梢、〈所󠄁交反、師說保豆奈、〉今之帆綱也、
帆綱 文選注に云はく、長梢〈所交反、師説に保豆奈ほづな〉は今の帆綱なりといふ。
舟笭 釋名云、舟中床所󠄁以薦󠄁__物曰笭、〈力丁反、布奈度古、〉言但有簀如笭床也、
舟笭 釈名に云はく、舟中の床に物をく所以を笭〈力丁反、布奈度古ふなどこ〉と曰ふといふ。言ふはただ、簀有りて笭床のごときなればなり。
苫 爾雅注󠄁云、苫、〈士廉反、止万、〉編󠄁菅茅以覆屋也、
苫 爾雅注に云はく、苫〈士廉反、止万とま〉は菅茅を編み、以て屋を覆ふなりといふ。
篷庳 唐韻云、篷庳、〈蓬婢二音、布奈夜賀太、〉船上屋也、釋名云、舟上屋謂之廬、〈力居反、〉言𧰼廬舍也、
篷庳 唐韻に云はく、篷庳〈蓬婢の二音、布奈夜賀太ふなやかた〉は船上の屋なりといふ。釈名に云はく、舟上の屋は之れを廬〈力居反〉と謂ふといふ。言ふは廬舎をかたどればなり。
枻 野王案、枻、〈音曳、字亦作栧、不奈太那、〉大船旁板也、
枻 野王案ずるに、枻〈音は曳、字は亦、栧に作る、不奈太那ふなだな〉は大船の旁の板なりとす。
棹 釋名云、在旁撥水曰櫂、〈直敎反、字亦作棹、楊氏漢語抄云、加伊、〉櫂於水中、且進󠄁櫂也、
棹 釈名に云はく、旁に在りて水を撥くを櫂〈直教反、字は亦、棹に作る、楊氏漢語抄に云ふ加伊かい〉と曰ふといふ。水中を櫂ぎ、まさに櫂を進めんとするなり。
檝 釋名云、檝、〈音接、一音集、賀遲、〉使舟捷疾也、兼名苑云、檝一名橈、〈奴効反、一音饒、〉
檝 釈名に云はく、檝〈音は接、一音に集、賀遅かぢ〉は舟をして捷疾ならしむるなりといふ。兼名苑に云はく、檝、一名は橈〈奴効反、一音に饒〉といふ。
㰏 唐韻云、㰏、〈音高、字亦作篙、佐乎、〉棹竿也、方言云、刺船竹也、
㰏 唐韻に云はく、㰏〈音は高、字は亦、篙に作る、佐乎さを〉は棹竿なりといふ。方言に云はく、船を刺す竹なりといふ。
艣 唐韻云、艣、〈郎古反、與魯同、〉所󠄁以進󠄁󠄁__船也、
艣 唐韻に云はく、艣〈郎古反、魯と同じ〉は船を進むる所以なりといふ。
舵 唐韻云、舵、〈徒可反、上聲之重、字亦作䑨、〉正船木也、漢語抄云、柁、〈舩尾也、或作柂、和語云太以之、今案舟人呼挾杪䑨師、是、〉
舵 唐韻に云はく、舵〈徒可反、上声の重、字は亦、䑨に作る〉は船を正す木なりといふ。漢語抄に云はく、柁〈船尾なり、或は柂に作る、和語に云ふ太以之たいし、今案ふるに、舟人の挟杪を呼びて舵師と為すは是れ〉といふ。
纜 考聲切韻云、纜、〈藍淡反、又音濫、度毛豆奈、〉維舟索也、
纜 考声切韻に云はく、纜〈藍淡反、又の音は濫、度毛豆奈ともづな〉は舟をつなぐ索なりといふ。
牽𥾣 唐韻云、牽𥾣、〈音支、訓豆奈天、〉挽船繩也、
牽𥾣 唐韻に云はく、牽𥾣〈音は支、訓は豆奈天つなて〉は船を挽く縄なりといふ。
牫牱 唐韻云、牫牱、〈臧柯二音、楊氏漢語抄云、加之、〉所󠄁以繫󠄁__舟也、
牫牱 唐韻に云はく、牫牱〈臧柯の二音、楊氏漢語抄に云ふ加之かし〉は舟を繋ぐ所以なりといふ。
碇 四聲字苑云、海中以石駐舟曰碇、〈丁定反、字亦作矴、伊加利、〉
碇 四声字苑に云はく、海中に石を以て舟をむるを碇〈丁定反、字は亦、矴に作る、伊加利いかり〉と曰ふといふ。
𦀌 周󠄀易注󠄁云、衣𦀌、〈女余反、又奴下反、字亦作袽、和名夫禰乃能米、〉所󠄁以塞舟漏也、
𦀌 周易注に云はく、衣𦀌〈女余反、又、奴下反、字は亦、袽に作る、和名は夫禰乃能米ふねののめ〉は舟の漏れを塞ぐ所以なりといふ。
戽〈浛附〉 蔣魴切韻云、戽、〈音故、和名由止利、〉洩舟中水之斗也、唐韵云、浛、〈故紺反、楊氏漢語抄云、布奈由、一云容水、〉水和物也、
戽〈浛付〉 蒋魴切韻に云はく、戽〈音は故、和名は由止利ゆとり〉は舟中の水をさらふの斗なりといふ。唐韻に云はく、浛〈故紺反、楊氏漢語抄に云ふ布奈由ふなゆ、一に云ふ容水〉は水、物に和するなりといふ。
𠢧 楊氏漢語抄云、𠢧、〈書證反、布奈邇〉
𠢧 楊氏漢語抄に云はく、𠢧〈書証反、布奈邇ふなに〉といふ。

車類卅七
車類三十七
車駕 古史考云、黃帝作車、〈尺遮󠄁反、一音居、久留万、〉四聲字苑云、駕、〈音賀、〉牛馬入轅軛中也、
車駕 古史考に云はく、黄帝、車〈尺遮反、一音に居、久留万くるま〉を作るといふ。四声字苑に云はく、駕〈音は賀〉は、牛馬、轅軛の中に入るなりといふ。
轝 四聲字苑云、轝、〈音餘、字或作輿、古之、〉車無輪也、
轝 四声字苑に云はく、轝〈音は余、字は或に輿に作る、古之こし〉は車に輪無きなりといふ。
腰輿 唐令云、行障六具󠄁、分左右車、其次腰輿、〈太古之〉、
腰輿 唐令に云はく、行障六具、左右に分れて車を夾め、其の次に腰輿〈太古之たごし〉といふ。
籃轝 晋書云、陶元亮所󠄁乘、乃是籃轝、〈音藍、言竹車也、〉
籃轝 晋書に云はく、陶元亮の乗る所、乃ち是れ籃轝といふ〈音は藍、言ふは竹車なればなり〉。
輦 周󠄀禮注󠄁云、后居宮中、縱容所󠄁乘、謂之輦、〈力展反、天久留万、〉爲輇輪人挽所󠄁行也、
輦 周礼注に云はく、后、宮中に居し、縦容として乗る所、之れを輦〈力展反、天久留万てぐるま〉と謂ふ、輇輪を為し、人挽きて行く所なりといふ。
靑蓋車 續漢書輿服志云、皇太子皇子、皆朱輪靑盖、故曰靑盖車
青蓋車 続漢書輿服志に云はく、皇太子、皇子は皆、朱輪、青蓋にす、故に青蓋車と曰ふといふ。
長簷車 顔氏家訓云、乘長簷車、〈今案俗云庇刺車、是乎〉
長簷車 顔氏家訓に云はく、長簷車に乗るといふ〈今案ふるに、俗に云ふさしの車は是れか〉。
四馬車 論語注󠄁云、小車四馬車也、
四馬車 論語注に云はく、小車は四馬の車なりといふ。
副車 漢書注󠄁云、副車、〈曾閇久流万、俗云比度太万比、〉後乘也、
副車 漢書注に云はく、副車〈曽閉久流万そへぐるま、俗に云ふ比度太万比ひとだまひ〉は後乗りなりといふ。
飛車 兼名苑注󠄁云、奇肱國人、〈今案國人無右臂、故名之、〉能作飛車、從風飛行、故曰飛車
飛車 兼名苑注に云はく、奇肱国人〈今案ふるに国人に右臂無し、故に之れを名く〉は能く飛車を作り、風に従ひて飛行す、故に飛車と曰ふといふ。
指南車 鬼谷子注󠄁云、周󠄀成王時、肅愼氏獻白雉還󠄁、恐惑、周󠄀公作指南車以送󠄁之、
指南車 鬼谷子注に云はく、周の成王の時、粛慎氏、白雉を献じて還る。惑ふことを恐り、周公、指南車を作りて以て之れを送るといふ。

車具󠄁卅八
車具三十八
車蓋〈轑附〉 大戴禮云、車蓋、〈俗車屋形、夜賀太、〉廿八轑以𧰼列星也、野王案、轑、〈音老、〉車盖上椽也、
車蓋〈轑付〉 大戴礼に云はく、車蓋〈俗の車屋形、夜賀太やかた〉二十八轑、以て列星を象るなりといふ。野王案ずるに、轑〈音は老〉は車蓋の上の椽なりとす。
輫 唐韵云、輫、〈音俳、〉車箱也、楊氏漢語抄云、車箱、〈車乃度古、一云車輿、〉
輫 唐韻に云はく、輫〈音は俳〉は車箱なりといふ。楊氏漢語抄に云ふ車箱〈くるま乃度古のとこ、一に云ふ車輿〉。
軾〈𨋏附〉 說文云、軾、〈音式、車乃止之歧美、〉車前󠄁也、四聲字苑云、𨋏、〈之忍󠄁反、〉車後橫木也、
軾〈軫付〉 説文に云はく、軾〈音は式、くるま乃止之岐美のとじきみ〉は車の前なりといふ。四声字苑に云はく、軫〈之忍反〉は車の後の横木なりといふ。
轅 唐韻云、輈、〈張流反、〉車轅也、轅、〈音園、奈加江、俗在前󠄁謂之轅、在後謂之鴟尾、或云小轅、〉車轅也、
轅 唐韻に云はく、輈〈張流反〉は車の轅なり、轅〈音は園、奈加江ながえ、俗に前に在るは之れを轅と謂ひ、後に在るは之れを鴟尾と謂ふ、或は云ふ小轅〉は車の轅なりといふ。
軛 釋名云、軛、〈音厄、久比歧、〉所󠄁以扼牛領也、
軛 釈名に云はく、軛〈音は厄、久比岐くびき〉は牛のくびおさふる所以なりといふ。
軸 說文云、軸、〈直六反、與古賀美、〉持輪者也、
軸 説文に云はく、軸〈直六反、与古賀美よこがみ〉は輪を持する者なりといふ。
𩌏 唐韻云、𩌏、〈音博󠄁󠄁、〉車下索也、釋名云、𩌏、〈今案度古之波利、〉在車下輿相連縛者也、
𩌏 唐韻に云はく、𩌏〈音は博〉は車の下索なりといふ。釈名に云はく、𩌏〈今案ふるに度古之波利とこしばり〉は車の下に在りて輿と相連ねて縛る者なりといふ。
輪〈網附〉 野王案、輪、〈音倫、和、〉車脚、所󠄁以轉進󠄁也、四聲字苑云、網、〈文兩反、楊氏漢語抄云、於保和、一云輪牙、〉車輪郭曲木也、
輪〈輞付〉 野王案ずるに、輪〈音は倫、〉は、車脚の転進する所以なりとす。四声字苑に云はく、輞〈文両反、楊氏漢語抄に云ふ於保和おほわ、一に云ふ輪牙〉は車輪の郭の曲木なりといふ。
轂 說文云、轂、〈古祿反、楊氏漢語抄云、車乃古之歧、俗云筒、〉輻所󠄁湊也、
轂 説文に云はく、轂〈古禄反、楊氏漢語抄に云ふくるま乃古之岐のこしき、俗に云ふどう〉は輻のあつまる所なりといふ。
輻 老子經云、古車有卅輻、〈音福、夜、〉以𧰼月數也、
輻 老子経に云はく、いにしへ車に三十の輻〈音は福、〉有り、以て月の数を象るなりといふ。
轄 野王案、轄、〈音割、久佐比、〉軸端䥫也、
轄 野王案ずるに、轄〈音は割、久佐比くさび〉は軸の端の鉄なりとす。
釭 說文云、釭、〈古紅反、又古雙反、車乃加利毛、〉轂口䥫也、
釭 説文に云はく、釭〈古紅反、又、古双反、くるま乃加利毛のかりも〉は轂の口の鉄なりといふ。
輠 唐韵云、輠、〈胡果反、上聲之重、又音果、漢語抄云、車乃阿不良豆乃、〉車脂角也、
輠 唐韻に云はく、輠〈胡果反、上声の重、又、音は果、漢語抄に云ふくるま乃阿不良豆乃のあぶらづの〉は車の脂角なりといふ。
乘泥 楊氏漢語抄云、乘泥、〈車乃豆知波良非、〉
乗泥 楊氏漢語抄に云はく、乗泥〈くるま乃豆知波良非のつちはらひ〉といふ。
罿 唐韵云、罿、〈音童、一音衝、車乃阿美、〉車上網也、
罿 唐韻に云はく、罿〈音は童、一音に衝、くるま乃阿美のあみ〉は車上の網なりといふ。
車簾 唐韵云、㡙㡘、〈篦廉二音、俗云車簾、〉車帷也、
車簾 唐韻に云はく、㡙㡘〈篦廉の二音、俗に云ふ車簾〉は車帷なりといふ。
鞇 釋名云、車中所󠄁坐者曰文鞇、〈音與茵同、車乃之度禰、〉用虎皮文綵、因輿而相連著也、
鞇 釈名に云はく、車中の坐する所の者を文鞇〈音は茵と同じ、くるま乃之度禰のしとね〉と曰ひ、虎皮を用ゐ文綵有り、輿に因りて相連ね著するなりといふ。
榻 唐韵云、榻、〈吐盍反、之知、〉牀也、
榻 唐韻に云はく、榻〈吐盍反、之知しぢ〉は牀なりといふ。
鞦 四聲字苑云、鞦、〈音秋、字亦作鞧、之利加歧、〉車鞦、所󠄁以制牛後也、
鞦 四声字苑に云はく、鞦〈音は秋、字は亦、鞧に作る、之利加岐しりがき〉は車鞦、牛後を制する所以なりといふ。
鞅 毛詩注󠄁云、靷、〈音引、〉所󠄁以引󠄁__車也、四聲字苑云、鞅、〈於兩反、漢語抄云、无奈加歧、〉軛下絆頸繩也、
鞅 毛詩注に云はく、靷〈音は引〉は車を引く所以なりといふ。四声字苑に云はく、鞅〈於両反、漢語抄に云ふ無奈加岐むながき〉は軛の下に頸をほだす縄なりといふ。
㡔䘰 唐韻云、㡔䘰、〈摸延二音、俗云久飛於保比、〉牛領上衣也、
㡔䘰 唐韻に云はく、㡔䘰〈摸延の二音、俗に云ふ久飛於保比くびおほひ〉は牛の領の上の衣なりといふ。
牛縻 蒼頡篇云、縻、〈音與糜同、波奈豆良、〉牛韁也、字書云、桊、〈音眷、楊氏漢語抄云、桊、牛乃波奈歧、〉牛鼻環也、
牛縻 蒼頡篇に云はく、縻〈音は糜と同じ、波奈豆良はなづら〉は牛のくつわづらなりといふ。字書に云はく、桊〈音は眷、楊氏漢語抄に云ふ桊、うし乃波奈岐のはなぎ〉は牛の鼻環なりといふ。

珍寳部第八
珍宝部第八
 金銀類卅九 玉石類四十
 金銀類三十九 玉石類四十

金銀類卅九
金銀類三十九
金 爾雅云、黃金曰璗、〈徒黨反、〉其美者曰鏐、〈力幽反、〉即紫磨金也、說文云、銑、〈蘇典反、古加禰、〉金之最有光澤也、
金 爾雅に云はく、黄金を璗〈徒党反〉と曰ひ、其の美しき者を鏐〈力幽反〉と曰ひ、即ち紫磨金なりといふ。説文に云はく、銑〈蘇典反、古加禰こがね〉は金の最も光沢有るなりといふ。
金屑 陶隱居曰、金屑、一名生金、〈古加禰乃須利久豆、〉
金屑 陶隠居曰はく、金屑、一名は生金といふ〈古加禰乃須利久豆こがねのすりくず〉。
銀 尒雅云、白金曰銀、〈宜珍反、〉其美者曰鐐、〈力凋力弔二反、之路加禰、〉
銀 爾雅に云はく、白金を銀〈宜珍反〉と曰ひ、其の美しき者を鐐〈力凋、力弔の二反、之路加禰しろかね〉といふ。
銀屑 陶隱居曰、銀屑、一名銀蘇、〈銀乃須利久豆、〉
銀屑 陶隠居曰はく、銀屑、一名は銀蘇といふ〈しろかね乃須利久豆のすりくず〉。
銅 說文云、銅、〈音同、阿加々禰、〉赤金也、
銅 説文に云はく、銅〈音は同、阿加々禰あかがね〉は赤金なりといふ。
半󠄁熟 唐韵云、鎚、〈直類反、〉好銅半󠄁熟也、
半熟 唐韻に云はく、鎚〈直類反〉はき銅の半ば熟するなりといふ。
鐵〈鑌附〉 說文云、鐵〈他結反、久路加禰、此間一訓禰利、〉黑金也、唐韵云、鑌、〈音賓、〉鐵、爲刀甚利、
鉄〈鑌付〉 説文に云はく、鉄〈他結反、久路加禰くろがね此間ここの一訓に禰利ねり〉は黒金なりといふ。唐韻に云はく、鑌〈音は賓〉鉄は、刀をつくるに甚だしといふ。
鐵落 本草云、鐵落、一名鐵液、〈鐵乃波太、一訓加奈久曾、〉蘇敬曰、是鍛家燒鐵赤沸、砧上鍛之、皮甲落也、
鉄落 本草に云はく、鉄落、一名は鉄液といふ〈くろがね乃波太のはだ、一訓に加奈久曽かなくそ〉。蘇敬曰はく、是れ鍛家、鉄を焼き、赤く沸かし、砧の上にて之れをてば、皮甲落つるなりといふ。
鐵精 陶隱居曰、鐵精、一名鐵漿、〈加禰乃佐比、〉鍛竈中如塵也、
鉄精 陶隠居曰はく、鉄精、一名は鉄漿〈加禰乃佐比かねのさび〉、鍛竃の中の塵のごときなりといふ。
鉛 說文云、鉛、〈音延、奈万利、〉靑金也、
鉛 説文に云はく、鉛〈音は延、奈万利なまり〉は青金なりといふ。
錫 唐韵云、錫、〈先擊反、〉鉛錫、爾雅云、錫謂之鈏、〈常𠫤反、〉兼名苑云、一名白鑞、〈盧盍反、之路奈万利、〉
錫 唐韻に云はく、錫〈先撃反〉は鉛錫といふ。爾雅に云はく、錫は之れを鈏〈常吝反〉と謂ふといふ。兼名苑に云はく、一名は白鑞〈盧盍反、之路奈万利しろなまり〉といふ。
水銀 蔣魴切韵云、汞、〈胡孔反、上聲之重、美豆加禰、〉水銀別名也、唐韵云、澒、〈今案汞澒或通󠄁、〉水銀滓也、
水銀 蒋魴切韻に云はく、汞〈胡孔反、上声の重、美豆加禰みづかね〉は水銀の別名なりといふ。唐韻に云はく、澒〈今案ふるに汞、澒、或に通ず〉は水銀の滓なりといふ。
汞粉 陶隱居曰、汞粉、〈美豆加禰乃賀須、〉燒時飛著釜上之名也、俗名之水銀灰
汞粉 陶隠居曰はく、汞粉〈美豆加禰乃賀須みづかねのかす〉は、焼く時に釜の上に飛び著くの名なり、俗に之れを水銀灰と名くといふ。
鎭粉 小品方云、鎭粉、〈美豆賀禰乃介布利、〉燒朱砂水銀、其上黑煙󠄁名也、
鎮粉 小品方に云はく、鎮粉〈美豆賀禰乃介布利みづかねのけぶり〉は、朱砂を焼きて水銀と為す、其の上の黒煙の名なりといふ。
錢 唐韻云、鎈、〈初牙反、與差同、〉錢異名也、漢書志云、鏹、〈居兩反、訓世邇豆良、〉錢貫也、音義云、鎔、〈音容、世邇乃波太毛能、〉錢摸也、
銭 唐韻に云はく、鎈〈初牙反、差と同じ〉は銭の異名なりといふ。漢書志に云はく、鏹〈居両反、訓は世邇豆良ぜにづら〉は銭貫なりといふ。音義に云はく、鎔〈音は容、世邇乃波太毛能ぜにのはたもの〉は銭摸なりといふ。

玉石類四十
玉石類四十
珠 白虎通󠄁云、海出明珠、〈日本紀私記云、眞珠、之良太万、〉
珠 白虎通に云はく、海、明珠〈日本紀私記に云ふ真珠、之良太万しらたま〉を出だすといふ。
玉 四聲字苑云、玉、〈語欲反、白玉、和名同上、〉寳石也、兼名苑云、球琳、〈求林二音、〉琅玕、〈郎干二音、〉琨瑤、〈昆遙二音、〉琬琰、〈遠󠄁掩二音、〉皆美玉名也、
玉 四声字苑に云はく、玉〈語欲反、白玉、和名は上に同じ〉は宝石なりといふ。兼名苑に云はく、球琳〈求林の二音〉、琅玕〈郎干の二音〉、琨瑤〈昆遥の二音〉、琬琰〈遠掩の二音〉は皆、美しき玉の名なりといふ。
璞 野王案、璞、〈普角反、阿良太萬、〉玉未理也、
璞 野王案ずるに、璞〈普角反、阿良太万あらたま〉は玉の未だをさめざるなりとす。
水精 兼名苑云、水玉、一名月珠、〈美豆止留太万、〉水精也、
水精 兼名苑に云はく、水玉、一名は月珠〈美豆止留太万みづとるたま〉、水精なりといふ。
火精 兼名苑云、火珠、一名瑒璲、〈陽燧二音、比止留太万、〉火精也、
火精 兼名苑に云はく、火珠、一名は瑒璲〈陽燧の二音、比止留太万ひとるたま〉、火精なりといふ。
瑠璃 野王案、瑠璃、〈流離二音、俗云留利、〉靑色而如玉者也、
瑠璃 野王案ずるに、瑠璃〈流離の二音、俗に云ふ留利るり〉は青色にして玉のごとき者なりとす。
雲母 本草云、雲母、〈歧良々、〉多赤謂之雲珠、五色具󠄁謂之雲華、多靑謂之雲英、多白謂之雲液、多黃謂之雲沙
雲母 本草に云はく、雲母〈岐良々きらら〉の、赤多きは之れを雲珠と謂ひ、五色を具ふるは之れを雲華と謂ひ、青多きは之れを雲英と謂ひ、白多きは之れを雲液と謂ひ、黄多きは之れを雲沙と謂ふといふ。
玫瑰 唐韵云、玫瑰、〈枚廻二音、今案和名與雲母同、見*原本于、文選󠄁讀翡翠火齊處、〉火齊珠也、
玫瑰 唐韻に云はく、玫瑰〈枚廻の二音、今案ふるに和名は雲母と同じならん、干に見ゆ、文選の読みの翡翠火斉の処〉は火斉珠なりといふ。
珊瑚 說文云、珊瑚、〈𦙱胡二音、〉色赤玉、出於海底山中也、
珊瑚 説文に云はく、珊瑚〈𦙱胡の二音〉は色赤き玉、海底の山中より出づるなりといふ。
琥珀 兼名苑云、琥珀、〈虎伯二音、俗音、久波久、〉一名江珠、
琥珀 兼名苑に云はく、琥珀〈虎伯の二音、俗音は久波久くはく〉、一名は江珠といふ。
硨磲 廣雅云、車渠、〈陸詞並從石、作硨磲也、俗音謝古、〉石之次玉也、
硨磲 広雅に云はく、車渠〈陸詞も並びに石に従ひ、硨磲に作るなり、俗音はしや〉は石の玉に次ぐなりといふ。
馬腦 廣雅云、馬腦、〈俗音女奈宇、〉石之次玉也、
馬脳 広雅に云はく、馬脳〈俗音は女奈宇めなう〉は石の玉に次ぐなりといふ。
鍮石 考聲切韵云、鍮〈他侯反、字亦作鋀、鍮石二音、俗云中尺、〉石似金、西域以銅䥫雜藥合爲之、
鍮石 考声切韻に云はく、鍮〈他侯反、字は亦、鋀に作る、鍮石の二音、俗に云ふちうじやく〉石は金に似、西域に銅鉄、雑薬を以て合して之れと為すといふ。

布帛部第九〈部類書有此部、盖綾羅錦綺絹布等惣名也、〉
布帛部第九〈部類書に此の部有り、蓋し綾羅、錦綺、絹布等の惣名なり〉
 錦綺類四十一 絹布類四十二
 錦綺類四十一 絹布類四十二

錦綺類四十一
錦綺類四十一
錦 釋名云、錦、〈居飮反、邇之歧、本朝式有暈𦅘錦高麗錦軟錦兩面錦等之名、𦅘字所󠄁出未詳、〉金也、作之用功重、其價如金、故製其字帛與金也、
錦 釈名に云はく、錦〈居飲反、邇之岐にしき、本朝式に暈繝錦、高麗錦、軟錦、両面錦等の名有り、繝の字、出づる所未だ詳かならず〉は金なり、之れを作るに功を用ゐること重く、其の価は金のごとし、故に其の字を製するに、帛に金をともにするなりといふ。
綺 蔣魴切韻云、綺、〈虛彼反、歧、一云於利毛能、又一訓加无波太、〉似錦而薄者也、釋名云、綺、棊也、謂方丈如棊也、
綺 蒋魴切韻に云はく、綺〈虚彼反、、一に云ふ於利毛能おりもの、又、一訓に加無波太かむはた〉は錦に似て薄き者なりといふ。釈名に云はく、綺は棊なりといふ。謂ふは方丈、棊のごときなればなり。
兎褐 蔣魴切韻云、兎褐、〈戶葛反、此間云、止加千、〉繒衣以兎毛和織也、
兎褐 蒋魴切韻に云はく、兎褐〈戸葛反、此間に云ふ止加千とかち〉は繒の衣、兎毛を以て和し織るなりといふ。
夾纈 東宮切韵云、釋氏曰、纈、〈胡結反、夾纈、此間云、加宇介知、〉結帛爲文綵也、孫愐曰、繒之有夾花
夾纈 東宮切韻に云はく、釈氏曰はく、纈〈胡結反、夾纈は此間に云ふ加宇介知かうけち〉は帛をひて文綵を為すなりといふといふ。孫愐曰はく、繒の夾花有りといふ。
繡 蔣魴切韻云、繡、〈息又反、訓沼无毛乃、〉以五色絲、刺万物形狀也、
繡 蒋魴切韻に云はく、繡〈息又反、訓は沼無毛乃ぬむもの〉は五色の糸を以て万物の形状を刺すなりといふ。
綾〈紋附〉 野王案、綾、〈音陵、阿夜、有熟線綾長連綾二足綾花文綾平󠄁綾等名、〉似綺而細者也、考聲切韻云、紋、〈音文、〉吳越謂小綾也、
綾〈紋付〉 野王案ずるに、綾〈音は陵、阿夜あや、熟線綾、長連綾、二足綾、花文綾、平綾等の名有り〉は綺に似て細かき者なりといふ。考声切韻に云はく、紋〈音は文〉は呉越に小綾を謂ふなりといふ。
羅 唐韵云、羅、〈魯何反、此間云、良、一云蟬翼、〉綺羅亦網羅也、
羅 唐韻に云はく、羅〈魯何反、此間に云ふ、一に云ふ蝉翼せんよく〉は綺羅、亦、網羅なりといふ。
縠〈縬附〉 釋名云、縠、〈胡谷反、古女、〉其形縬々、視之如粟也、唐韻云、縬、〈子六反、與叔同、此間云、之々良歧、〉繒文貌也、
縠〈縬付〉 釈名に云はく、縠〈胡谷反、古女こめ〉は其の形、縬々として之れを視るに粟のごときなりといふ。唐韻に云はく、縬〈子六反、叔と同じ、此間に云ふ之々良岐しじらき〉は繒の文の貌なりといふ。
縑 毛詩注󠄁云、綃、〈所󠄁交反、又音消󠄁、加止利、〉縑也、釋名云、縑、〈音兼、〉其絲細緻、數兼於絹也、漢書云、灌嬰販繒、〈疾陵反、師說上讀同、今案又布帛摠名也、見說文、〉
縑 毛詩注に云はく、綃〈所交反、又、音は消、加止利かとり〉は縑なりといふ。釈名に云はく、縑〈音は兼〉は其の糸の細緻なること、数、絹に兼ぬるなりといふ。漢書に云はく、灌嬰、繒〈疾陵反、師説に上と読み同じ、今案ふるに又、布帛の摠名なり、説文に見ゆ〉をひさぐといふ。

絹布類四十二
絹布類四十二
絹〈幅字附〉 陸詞切韻云、絹、〈吉椽反、歧沼、〉繒帛也、四聲字苑云、幅、〈音福、俗訓能、〉布絹之類闊狹也、
絹〈幅字付〉 陸詞切韻に云はく、絹〈吉椽反、岐沼きぬ〉は繒帛なりといふ。四声字苑に云はく、幅〈音は福、俗訓は〉は布絹の類の闊狭なりといふ。
練 蔣魴切韻云、練、〈郎甸反、禰利歧沼、〉熟絹也、
練 蒋魴切韻に云はく、練〈郎甸反、禰利岐沼ねりぎぬ〉は熟絹なりといふ。
絁〈紕字附〉 唐韻云、絁、〈式支反、與施同、阿之歧沼、〉繒似布也、紕、〈匹毗反、漢語抄云、萬與布、一云與流、〉繒欲壞也、
絁〈紕字付〉 唐韻に云はく、絁〈式支反、施と同じ、阿之岐沼あしぎぬ〉は繒の布に似るなり、紕〈匹毘反、漢語抄に云ふ万与布まよふ、一に云ふ与流よる〉は繒の壊れんと欲するなりといふ。
帛 說文云、帛、〈蒲角反、俗云波久乃歧奴、〉薄繒也、
帛 説文に云はく、帛〈蒲角反、俗に云ふ波久乃岐奴はくのきぬ〉は薄き繒なりといふ。
紗 四聲字苑云、紗、〈所󠄁加反、俗云射、〉似絹太輕薄也、
紗 四声字苑に云はく、紗〈所加反、俗に云ふしや〉は絹に似てはなはだ軽薄なりといふ。
布 四聲字苑云、布、〈博󠄁故反、沼能、〉織麻及紵帛也、
布 四声字苑に云はく、布〈博故反、沼能ぬの〉は麻及び紵を織りて帛と為すなりといふ。
白絲布 唐式云、白絲布、〈今案俗用手作布三字、云天豆久利乃沼乃是乎、〉
白糸布 唐式に云はく、白糸布〈今案ふるに、俗に手作布の三字を用ゐる、天豆久利乃沼乃てづくりのぬのと云ふは是れか〉といふ。
紵 唐式云、紵布三端、〈今案紵者麻紵之紵、俗用麻布二字、云阿佐沼乃是乎、〉
紵 唐式に云はく、紵布三端〈今案ふるに、紵は麻紵の紵、俗に麻布の二字を用ゐる、阿佐沼乃あさぬのと云ふは是れか〉といふ。
調布 唐式云、楊州庸調布、〈今案本朝式有庸布調布、讀豆歧乃沼乃、又有信濃望陁等名、望陁者上總國郡名也、其體與他國調布頗別異、故以所󠄁出國郡名名也、〉
調布 唐式に云はく、楊州の庸調布といふ。〈今案ふるに本朝式に庸布、調布有り、読みは豆岐乃沼乃つきのぬの。又、信濃、望陀等の名有り、望陀は上総国の郡名なり、其の体、他国の調布と頗る別異す、故に出づる所の国郡の名を以て名と為すなり〉
貲布 唐韻云、㠿、〈音與貲同、〉布名也、唐式云、貲布、〈楊氏漢語抄云、佐與美乃沼能、今案貲布宜㠿布乎、〉
貲布 唐韻に云はく、㠿〈音は貲と同じ〉は布の名なりといふ。唐式に云はく、貲布〈楊氏漢語抄に云ふ佐与美乃沼能さよみのぬの、今案ふるに貲布は宜しく㠿布に作るべきか〉といふ。
商布 本朝式云、商布、〈多邇、〉
商布 本朝式に云はく、商布〈多邇たに〉といふ。
綿絮〈屯字附〉 唐韵云、綿、〈武連反、和多、〉絮也、四聲字苑云、絮、〈息慮反、〉似綿而麁惡也、唐令云、綿六兩爲屯、〈屯聚也、俗一屯讀、飛止毛遲、〉
綿絮〈屯字付〉 唐韻に云はく、綿〈武連反、和多わた〉は絮なりといふ。四声字苑に云はく、絮〈息慮反〉は綿に似て麁悪なりといふ。唐令に云はく、綿六両を屯〈屯は聚るなり、俗に一屯を読みて飛止毛遅ひともぢ〉と為すといふ。

卷第四
巻第四
 裝束部第十 飮食部第十一 器皿部第十二 燈火部第十三
 装束部第十 飲食部第十一 器皿部第十二 灯火部第十三
裝束部第十
装束部第十
 冠帽類四十三 冠帽具󠄁󠄁四十四 衣服類四十五 衣服具󠄁󠄁四十六 腰帶類四十七 腰帶具󠄁󠄁四十八 履襪類四十九 履襪具󠄁󠄁五十
 冠帽類四十三 冠帽具四十四 衣服類四十五 衣服具四十六 腰帯類四十七 腰帯具四十八 履襪類四十九 履襪具五十

冠帽類四十三
冠帽類四十三
冠〈幞頭附〉 兼名苑注󠄁云、冠、〈音官、〉黃帝造󠄁也、辨色立成云、幞頭、〈賀宇布利、幞音僕、今按楊氏漢語抄說同、唐令等亦用之、〉
冠〈幞頭付〉 兼名苑注に云はく、冠〈音は官〉は黄帝が造るなりといふ。弁色立成に云ふ幞頭〈賀宇布利かうぶり、幞の音は僕、今按ふるに楊氏漢語抄の説同じ、唐令等に亦、之れを用ゐる〉。
冕 續漢書輿服志云、冕、〈音免、玉乃冠、〉冠之前󠄁後垂旒者也、
冕 続漢書輿服志に云はく、冕〈音は免、たまかうぶり〉は冠の前後にりうを垂るる者なりといふ。
雲冠 唐令云、景雲儛八人、五色雲冠、〈俗云万比乃加之良、〉
雲冠 唐令に云はく、景雲儛八人、五色の雲冠〈俗に云ふ万比乃加之良まひのかしら〉つけよといふ。
天冠 內典云、環釧釵鐺天冠臂印、〈𣵀槃經文、天冠、俗訛云天和、〉
天冠 内典に云はく、環釧、釵鐺、天冠、臂印といふ〈涅槃経の文に天冠は俗に訛りて云ふ天和てんくわ〉。
帞頟 方言云、頟巾、或謂之帞頟、〈帞音陌、〉或謂之絡頭、〈絡音落、〉唐令云、高昌伎一部、舞二人紅末頟、
帞頟 方言に云はく、頟巾は或に之れを帞頟〈帞の音は陌〉と謂ひ、或に之れを絡頭〈絡の音は落〉と謂ふといふ。唐令に云はく、高昌伎の一部舞二人、紅末頟つけよといふ。
烏帽〈帽子附〉 兼名苑云、帽一名頭衣、〈帽音耄、烏帽子、俗訛烏作焉、今案烏焉或通󠄁、見文選󠄁注󠄁玉篇等、〉唐式云、庶人帽子、皆寛大露面、不掩蔽
烏帽〈帽子付〉 兼名苑に云はく、帽、一名は頭衣といふ〈帽の音は耄、烏帽子、俗に烏を訛りて焉に作る。今案ふるに烏、焉は或に通ず、文選注、玉篇等に見ゆ〉。唐式に云はく、庶人の帽子は皆、寛大にして面をあらはにし、おほかくすこと有り得ずといふ。
頭巾 唐令云、諸給時服、冬則頭巾一枚、
頭巾 唐令に云はく、およそ時服を給するに、冬のときには頭巾一枚といふ。
幗 釋名云、幗、〈古誨反、去聲、又古獲反、知歧利加宇不利、今老嫗戴之、〉覆髻上者也、唐韵云、幗、婦󠄁人喪冠也、
幗 釈名に云はく、幗〈古誨反、去声、又、古獲反、知岐利加宇不利ちきりかうぶり、今、老嫗、之れをいただく〉は髻の上を覆ふ者なりといふ。唐韻に云はく、幗は婦人の喪冠なりといふ。

冠帽具󠄁󠄁四十四
冠帽具四十四
簪 四聲字苑云、簪、〈作含反、又則岑反、加无左之、〉挿冠釘也、蒼頡篇云、簪筓也、釋名云、筓、〈音鷄、此間云笄子、上音如才、〉係也、所󠄁󠄁以抅__使不墜也、
簪 四声字苑に云はく、簪〈作含反、又、則岑反、加無左之かむざし〉は冠に挿す釘なりといふ。蒼頡篇に云はく、簪は笄なりといふ。釈名に云はく、笄〈音は鶏、此間ここに云ふ笄子、上の音は才のごとし〉は係るなり、冠にかかはりて墜ちざらしむる所以なりといふ。
巾子 辨色立成云、巾子、〈此間巾音如渾、〉幞頭具󠄁󠄁、所󠄁󠄁以挿__髻者也、
巾子 弁色立成に云はく、巾子〈此間に巾の音は渾のごとし〉は幞頭の具、髻をさしはさむ所以の者なりといふ。
纓 唐韵云、纓、〈於盈反、俗云燕尾、〉冠纓、禮記云、玄纓紫緌、自魯桓公始焉、
纓 唐韻に云はく、纓〈於盈反、俗に云ふ燕尾〉は冠纓といふ。礼記に云はく、玄纓、紫緌は魯の桓公より始まりぬといふ。
緌 兼名苑云、緌、〈儒誰反、與蕤同、〉一名繫、〈和名冠乃乎、一云保々須介、又云於以加計、或說云、老人髻落、以此繫冠使墜、故名老繫也、今不老少、武官皆用之、〉
緌 兼名苑に云はく、緌〈儒誰反、蕤と同じ〉、一名は繋といふ。〈和名はかうぶり乃乎のを、一に云ふ保々須介ほほすけ、又云ふ於以加計おいかけ。或説に云はく、老人、髻落ち、此れを以て冠を繋げて墜ちざらしむ、故に老繋と名くるなりといふ。今、老少を論ぜず、武官は皆、之れを用ゐる〉
擽𩯭㕞 文選󠄁云、勁㕞理𩯭、〈李善曰、通󠄁俗文所󠄁󠄁以理__鬢謂之㕞也、音雪󠄁󠄁、〉釋名云、纛、〈音盜、〉導󠄁也、所󠄁󠄁以導󠄁擽𩯭髮也、或曰擽𩯭、〈擽音曆、加美加歧、〉
擽鬢刷 文選に云はく、勁刷理鬢といふ〈李善曰はく、通俗文に鬢ををさむる所以に之れをかきつくろふと謂ふなりといふ、音は雪〉。釈名に云はく、纛〈音は盗〉は導くなり、鬢髪を導擽する所以なりといふ。或は曰ふ擽鬢〈擽の音は暦、加美加岐かみかき〉。

衣服類四十五〈野王案、在上曰衣、在下曰裳、惣謂之服也、〉
衣服類四十五〈野王案ずるに、上に在るを衣と曰ひ、下に在るを裳と曰ひ、惣じて之れを服と謂ふなりとす〉
袍 楊氏漢語抄云、袍、〈薄交反、宇倍乃歧沼、一云朝服、〉着襴之袷衣也、
袍 楊氏漢語抄に云はく、袍〈薄交反、宇倍乃岐沼うへのきぬ、一に云ふ朝服〉は襴着きの袷衣なりといふ。
縫󠄁掖 考聲切韵云、䘸、〈盈迹反、縫󠄁掖、万都波之乃宇倍乃歧奴、〉縫䘸、衣名也、
縫掖 考声切韻に云はく、䘸〈盈迹反、縫掖、万都波之乃宇倍乃岐奴まつはしのうへのきぬ〉は縫䘸、衣の名なり。
〓〔𦈢偏に夬〕掖 楊氏漢語抄云、蜀衫、〈和歧阿介乃古路毛、〉本朝式云、〓〔𦈢偏に夬〕掖、〈一云、開掖、〉
缺掖 楊氏漢語抄に云ふ蜀衫〈和岐阿介乃古路毛わきあけのころも〉、本朝式に云ふ缺掖〈一に云ふ開掖〉。
半󠄁臂 蔣魴切韻云、半󠄁臂、〈此間名如字、但下音比、〉衣名也、
半臂 蒋魴切韻に云はく、半臂〈此間に名は字のごとし、但し下の音は比〉は衣の名なりといふ。
汗衫 唐令云、諸給時服、夏則汗衫一領、〈衫音所󠄁󠄁銜反、衣名也、〉
汗衫 唐令に云はく、およそ時服に給するに、夏のときには汗衫一領といふ〈衫の音は所銜反、衣の名なり〉。
襴衫 楊氏漢語抄云、襴衫、〈須曾豆介乃古路毛、一云奈保之能古路毛、〉
襴衫 楊氏漢語抄に云ふ襴衫〈須曽豆介乃古路毛すそづけのころも、一に云ふ奈保之能古路毛なほしのころも〉。
襖子 唐令云、諸給時服、冬則白襖子一領、〈襖、烏老反、襖子、阿乎之、〉
襖子 唐令に云はく、諸そ時服を給するに、冬のときには白襖子一領といふ〈襖は烏老反、襖子は阿乎之あをじ〉。
裲襠 唐韵云、襠、〈音當、〉兩襠、衣名也、釋名云、兩襠、〈今案兩或作裲、宇知加介、〉其一當胸、其一當背也、唐令云、慶善樂舞四人、碧綾𧛾襠、〈上音苦盍反、〉
裲襠 唐韻に云はく、襠〈音は当〉は両襠、衣の名なりといふ。釈名に云はく、両襠〈今案ふるに両は或に裲に作る、宇知加介うちかけ〉、其の一は胸に当り、其の一は背に当るなりといふ。唐令に云はく、慶善楽舞四人、碧綾の𧛾襠〈上の音は苦盍反〉つけよといふ。
背子〈領巾附〉 辨色立成云、背子、〈賀良歧沼、〉形如半󠄁臂、無𦝫襴之袷衣也、楊氏漢語抄云、背子、婦󠄁人表衣、以錦爲之、領巾、〈日本紀私記云、比禮、〉婦󠄁人項上飾󠄁也、
背子〈領巾付〉 弁色立成に云はく、背子〈賀良岐沼からぎぬ〉は形、半臂のごとし、腰襴の袷衣無きなりといふ。楊氏漢語抄に云はく、背子は婦人の表衣、錦を以て之れと為す、領巾〈日本紀私記に云ふ比礼ひれ〉は婦人の項上の飾りなりといふ。
裙裳〈裙帶附〉 釋名云、上曰裙、〈唐韵云、音與群同、字亦作裠、〉下曰裳、〈音常、毛、〉白氏文集云、靑羅裙帶、〈裙帶、此間云如字、〉
裙裳〈裙帯付〉 釈名に云はく、上を裙〈唐韻に云はく、音は群と同じ、字は亦、裠に作るといふ〉と曰ひ、下を裳〈音は常、〉と曰ふといふ。白氏文集に云はく、青羅の裙帯〈裙帯は此間に云ふは字のごとし〉といふ。
衵 唐韵云、衵、〈人質反、又尼質反、漢語抄云、阿古女歧沼、〉女人近󠄁身衣也、
衵 唐韻に云はく、衵〈人質反、又、尼質反、漢語抄に云ふ阿古女岐沼あこめぎぬ〉は女人の身に近き衣なりといふ。
袿 漢書音義云、諸于、〈今案于宜衧、見玉篇、〉大䘸衣、婦󠄁人袿衣也、釋名云、袿、〈音圭、漢語抄作褂、云宇知歧、〉婦󠄁人上衣也、
袿 漢書音義に云はく、諸于〈今案ふるに于は宜しく衧に作るべし、玉篇に見ゆ〉は大䘸衣、婦人の袿衣なりといふ。釈名に云はく、袿〈音は圭、漢語抄に褂に作り、宇知岐うちぎと云ふ〉は婦人の上衣なりといふ。
衾 說文云、衾、〈音金、布須万、〉大被也、四聲字苑云、衾、被、別名也、
衾 説文に云はく、衾〈音は金、布須万ふすま〉は大被なりといふ。四声字苑に云はく、衾、被、名をことにするなりといふ。
裘 說文云、裘、〈音求、加波古路毛、俗云加波歧奴、〉皮衣也、
裘 説文に云はく、裘〈音は求、加波古路毛かはごろも、俗に云ふ加波岐奴かはぎぬ〉は皮衣なりといふ。
單衣 釋名云、衣無裏曰單、〈單衣、比止閇歧奴、謂衣則袴可之、〉
単衣 釈名に云はく、衣の裏無きを単と曰ふといふ〈単衣は比止閉岐奴ひとへぎぬきぬと謂ふときには袴たること之れを知るべし〉。
袷衣 文選󠄁秋興賦云、御袷衣、〈袷音古洽反、袷衣、阿波世乃歧奴、〉李善曰、袷衣無絮也、
袷衣 文選秋興賦に云はく、袷衣〈袷の音は古洽反、袷衣は阿波世乃岐奴あはせのきぬ〉を御すといふ。李善曰はく、袷衣はわた無きなりといふ。
袴 蔣魴切韵云、袴、〈音故、八賀万、〉脛上衣名也、釋名云、褶、〈音邑、宇波美、見本朝令、〉襲也、覆袴上之言也、
袴 蒋魴切韻に云はく、袴〈音は故、八賀万はかま〉は脛上の衣の名なりといふ。釈名に云はく、褶〈音は邑、宇波美うはみ、本朝令に見ゆ〉は襲ふなり、袴の上を覆ふの言なりといふ。
大口袴 唐令云、慶善樂舞四人、白絲布大口袴、〈於保久知乃八賀万、一云表袴、〉
大口袴 唐令に云はく、慶善楽舞四人、白糸布の大口袴〈於保久知乃八賀万おほぐちのはかま、一に云ふ表袴〉にせよといふ。
袴奴 楊氏漢語抄云、袴奴、〈佐師奴歧乃波賀万、或俗語抄云、絹狩袴、或云歧奴乃加利八可万、〉
袴奴 楊氏漢語抄に云ふ袴奴〈佐師奴岐乃波賀万さしぬきのはかま、或は俗語抄に云ふ絹狩袴、或に云ふ岐奴乃加利八可万きぬのかりばかま〉。
布衣袴 文選󠄁云、振布衣、〈此間云、獦衣、加利歧奴、謂衣則袴可之、〉世說云、着靑布袴
布衣袴 文選に云はく、布衣〈此間に云ふ獦衣、加利岐奴かりぎぬきぬと謂ふときには袴たること之れを知るべし〉を振るといふ。世説に云はく、青布袴を着すといふ。
褌 方言注󠄁云、袴而無踦謂之褌、〈音昆、須万之毛乃、一云、知比佐歧毛能、〉史記云、司馬相如、着犢鼻褌、韋昭曰、今三尺布作之、形如牛鼻者也、唐韵云、衳、〈軄容反、與鍾同、楊氏漢語抄云、衳子、毛乃之太乃太不佐歧、一云水子、〉小褌也、
褌 方言注に云はく、袴にしてまた無きは之れを褌〈音は昆、須万之毛乃すましもの、一に云ふ知比佐岐毛能ちひさきもの〉と謂ふといふ。史記に云はく、司馬相如、犢鼻褌を着すといふ。韋昭曰はく、今、三尺の布にて之れを作り、形は牛鼻のごとき者なりといふ。唐韻に云はく、衳〈職容反、鍾と同じ、楊氏漢語抄に云ふ衳子、毛乃之太乃太不佐岐ものしたのたふさぎ、一に云ふ水子〉は小褌なりといふ。
繦褓 孫愐曰、繦褓、〈響保二音、无豆歧、〉小兒被也、
襁褓 孫愐曰はく、襁褓〈響保の二音、無豆岐むつき〉は小児の被なりといふ。

衣服具󠄁四十六
衣服具四十六
袊 釋名云、袊、〈音領、古呂毛乃久比、〉頸也、所󠄁󠄁以擁__頸也、襟、〈音金、〉禁也、交於前󠄁、所󠄁󠄁以禁禦風寒也、
衿 釈名に云はく、衿〈音は領、古呂毛乃久比ころものくび〉は頸なり、頸を擁する所以なり、襟〈音は金〉は禁なり、前に交へて風寒きを禁禦する所以なりといふ。
紐子 說文云、紐、〈女久反、楊氏漢語抄云、紐子、比毛、〉結而可解者也、
紐子 説文に云はく、紐〈女久反、楊氏漢語抄に云ふ紐子、比毛ひも〉は結びては解くべき者なりといふ。
袵 四聲字苑云、袵、〈如甚反、於保久比、〉衣前󠄁襟也、
袵 四声字苑に云はく、袵〈如甚反、於保久比おほくび〉は衣の前襟なりといふ。
袖 釋名云、袖、〈音岫、曾天、下二字同、〉所󠄁以受__手也、袂、〈音弊󠄁〉開張以臂受屈伸也、袪、〈音居、〉其中虛也、
袖 釈名に云はく、袖〈音は岫、曽天そで、下の二字は同じ〉は手を受くる所以なり、袂〈音は弊〉は開き張りて臂を以て屈め伸ぶるを受くるなり、袪〈音は居〉は其の中の虚なりといふ。
䘸 方言注󠄁云、䘸、〈音與掖同、古呂毛乃和歧、〉衣掖也、
䘸 方言注に云はく、䘸〈音は掖と同じ、古呂毛乃和岐ころものわき〉は衣の掖なりといふ。
襴 唐韵云、襴、〈音蘭、俗云如字、〉襴衫也、
襴 唐韻に云はく、襴〈音は蘭、俗に云ふ字のごとし〉は襴衫なりといふ。
裾 陸詞曰、裾、〈音居、古呂毛乃須曾、一云歧沼乃之利、〉衣下也、
裾 陸詞曰はく、裾〈音は居、古呂毛乃須曽ころものすそ、一に云ふ岐沼乃之利きぬのしり〉は衣の下なりといふ。
表裏 說文云、表、〈碑矯反、宇閇、〉衣外也、裏、〈音里、宇良、〉衣內也、
表裏 説文に云はく、表〈碑矯反、宇閉うへ〉は衣の外なり、裏〈音は里、宇良うら〉は衣の内なりといふ。
襲 史記音義云、衣之單複相具󠄁、謂之襲、〈辭立反、加左禰、〉尒雅注󠄁云、襲猶重也、
襲 史記音義に云はく、衣の単複を相具ふるは之れを襲〈辞立反、加左禰かさね〉と謂ふといふ。爾雅注に云はく、襲は猶ほ重ねのごときなりといふ。
襞襀 周󠄀禮注󠄁云、祭服朝服、襞襀無數、〈辟積二音、訓比多米、見文選󠄁、〉
襞襀 周礼注に云はく、祭服、朝服、襞襀無数といふ〈辟積の二音、訓は比多米ひだめ、文選に見ゆ〉。
襷襅 續齊諧記云、織成襷、〈本朝式用此字、云多須歧、今案所󠄁出音義未詳、〉日本紀私記云、手繦、〈訓上同、繦音響、〉本朝式云、襷襅各一條、〈襅讀知波夜、今案未詳、〉
襷襅 続斉諧記に云はく、織りて襷〈本朝式に此の字を用ゐ、多須岐たすきと云ふ、今案ふるに出づる所、音義、未だつばひらかならず〉を成すといふ。日本紀私記に云ふ手繦〈訓は上に同じ、襁の音は響〉。本朝式に云はく、襷、襅、各一条〈襅の読みは知波夜ちはや、今案ふるに未だ詳かならず〉といふ。

腰帶類四十七
腰帯類四十七
紳 論語注󠄁云、紳、〈音申、〉大帶也、唐令私記云、大帶、〈今案一名博󠄁󠄁帶、着禮服之時帶也、〉以繒爲之、
紳 論語注に云はく、紳〈音は申〉は大帯なりといふ。唐令私記に云はく、大帯〈今案ふるに一名は博帯、礼服を着るの時の帯なり〉は繒を以て之れと為すといふ。
革帶 唐衣服令云、革帶玉鈎、〈今案革帶以其所󠄁附金玉石角等名、故有白玉帶隱文帶馬腦帶波斯馬腦帶紀伊石帶出雲石帶越石帶斑犀帶烏犀帶散豆帶等之名、其體有純方丸鞆櫛上等之名、革帶是其惣名也、〉
革帯 唐衣服令に云はく、革帯に玉鈎つけよといふ〈今案ふるに革帯は其の付くる所、金、玉、石、角等を以て名と為す、故に白玉帯、隠文帯、馬脳帯、波斯馬脳帯、紀伊石帯、出雲石帯、越石帯、斑犀帯、烏犀帯、散豆帯等の名有り、其の体に、純方、丸鞆、櫛上等の名有り、革帯は是れ其の惣名なり〉。
金隱起󠄁帶 唐鹵簿令云、左右金吾大將軍各一人、紫裲襠金隱起󠄁帶、
金隠起帯 唐鹵簿令に云はく、左右の金吾大将軍は各一人、紫の裲襠に金の隠起せる帯つけよといふ。
金銅帶 唐樂令云、宴樂伎一部、儛廿人、金銅腰帶烏皮靴、
金銅帯 唐楽令に云はく、宴楽伎一部、儛二十人、金銅の腰帯に烏皮靴つけよといふ。
白犀帶 白氏詩云、通󠄁天白犀帶、照地紫麟袍、
白犀帯 白氏詩に云はく、天に通ずる白犀帯、地を照らす紫麟袍といふ。
䌟帶 唐韵云、䌟、〈〓〔草冠に補〕革反、與欂同、今案加良久美、〉織絲爲帶也、
䌟帯 唐韻に云はく、䌟〈蒲革反、欂と同じ、今案ふるに加良久美からくみ〉は糸を織りて帯と為すなりといふ。
接靿 唐樂令云、承天樂舞四人、紫綾袷袍紫接靿、〈唐韵於敎反、此間云接腰、〉
接靿 唐楽令に云はく、承天楽舞四人、紫の綾の袷袍に紫の接靿〈唐韻に於教反、此間に云ふ接腰〉つけよといふ。
白布帶 本朝式云、白布帶、〈沼能於比、〉
白布帯 本朝式に云ふ白き布帯〈沼能於比ぬのおび〉。
衿帶 陸詞曰、衿、〈音與襟同、比歧於比、〉小帶也、釋名云、衿、禁也、禁不開散也、
衿帯 陸詞曰はく、衿〈音は襟と同じ、比岐於比ひきおび〉は小帯なりといふ。釈名に云はく、衿は禁なり、禁じて開散すること得ざるなりといふ。
勒肚巾 楊氏漢語抄云、勒肚巾、〈波良万歧、一云腹帶、〉
勒肚巾 楊氏漢語抄に云ふ勒肚巾〈波良万岐はらまき、一に云ふ腹帯〉。

腰帶具󠄁四十八
腰帯具四十八
䩠 唐韵云、䩠、〈他丁反、字亦作鞓、於比加波、〉皮帶䩠也、楊氏漢語抄云、腰帶之革、未鉸具󠄁䩠也、
䩠 唐韻に云はく、䩠〈他丁反、字は亦、鞓に作る、於比加波おびかは〉は皮帯䩠なりといふ。楊氏漢語抄に云はく、腰帯の革、未だ鉸具を着けざるを䩠と為すなりといふ。
鉸具󠄁 楊氏漢語抄云、鉸具󠄁、〈上音古巧反、一音敎、此間云賀古、今案唐令所󠄁謂玉鉤是也、已見上文、〉腰帶及鞍具󠄁、以銅屬革也、
鉸具 楊氏漢語抄に云はく、鉸具〈上の音は古巧反、一音は教、此間に云ふ賀古かこ、今案ふるに唐令に所謂いはゆる玉鉤は是れなり、已に上文に見ゆ〉は腰帯、及び鞍具、銅を以て革をつなぐなりといふ。
鉉子 楊氏漢語抄云、鉉子、〈上音胡犬反、上聲之重、〉着鞓錢也、
鉉子 楊氏漢語抄に云はく、鉉子〈上の音は胡犬反、上声の重〉は鞓に着くる銭なりといふ。
瑇瑁 曹憲曰、瑇瑁、〈代昧二音、又毒冒、今案以爲帶具󠄁、故附出、〉如龜、出大海、大者如籧篨、背上有鱗、々大如扇󠄁、有文章、將器則煑其鱗柔皮意用之、
瑇瑁 曹憲曰はく、瑇瑁〈代昧の二音、又、毒冒、今案ふるに以て帯具と為す、故に付出す〉は亀のごとし、大海より出づ、大なる者は籧篨のごとし、背の上に鱗有り、鱗の大きさ扇のごとし、文章あや有り、将に器に作らむとするときには其の鱗を煮、柔皮のごとくして意のままに之れを用ゐるといふ。
魚袋 蔣魴切韵云、袋、〈音代、〉囊名、又金銀魚袋、唐令云、諸百官魚袋、並令中尙預造󠄁進󠄁也、
魚袋 蒋魴切韻に云はく、袋〈音は代〉は囊の名といふ。又、金銀魚袋。唐令に云はく、諸そ百官の袋は、並びに中尚をして予め造りたてまつらしむるなれといふ。

履襪類四十九
履襪類四十九
履 唐韵云、草曰屝、〈音翡、〉麻曰屨、〈音句、〉革曰履、〈音李、久豆、用鞜字、音沓、〉黃帝臣於則造󠄁也、
履 唐韻に云はく、草を屝〈音は翡〉と曰ひ、麻を屨〈音は句〉と曰ひ、革を履〈音は李、久豆くつ、鞜の字を用ゐる、音は沓〉と曰ふといふ。黄帝の臣が則ち造るなり。
襪 說文云、襪、〈音末、字亦作韈、之太久豆、〉足衣也、
襪 説文に云はく、襪〈音は末、字は亦、韈に作る、之太久豆したぐつ〉は足の衣なりといふ。
靴 唐令云、烏皮靴、赤皮靴、〈音戈、字亦作鞾、化󠄁乃久豆、〉胡履也、
靴 唐令に云はく、烏皮靴、赤皮靴〈音は戈、字は亦、鞾に作る、化乃久豆けのくつ〉は胡履なりといふ。
深頭履 釋名云、韋履深頭曰靸、〈先立反、又靸鞋、見下文、今案此間云深履、其頭短者謂之半󠄁靴、〉言其深襲覆足也、
深頭履 釈名に云はく、韋履の深頭を靸〈先立反、又、靸鞋、下文に見ゆ、今案ふるに此間に云ふ深履、其の頭の短き者は之れを半靴と謂ふ〉と曰ふといふ。言ふは其れ深襲して足を覆へばなり。
單皮履 唐令云、諸舄履並烏色、舄重皮底、履單皮底、〈舄音思積反、字亦作𩍆、和名與履同、今案野人以鹿皮半󠄁靴、名曰多鼻、宜此單皮二字乎、〉
単皮履 唐令に云はく、諸そ舄、履は並びに烏色、舄は重皮底、履は単皮底といふ〈舄の音は思積反、字は亦、𩍆に作る、和名は履と同じ。今案ふるに野人は鹿皮を以て半靴と為し、名けて多鼻たびと曰ふ、宜しく此れ単皮の二字を用ゐるべきか〉。
鼻高履 楊氏漢語抄云、突子、〈突音他骨反、已上本注󠄁、〉今僧侶所󠄁着鼻廣履是歟、〈今案鼻高履也、〉
鼻高履 楊氏漢語抄に云ふ突子〈突の音は他骨反、已上は本注〉。今、僧侶の着する所の鼻広履は是れか〈今案ふるに鼻高履なり〉。
線鞋 弁色立成云、線鞋、〈上仙戰反、字亦作綫、下戶佳反、又戶皆反、楊氏漢語抄云、千開乃久都、〉絁綫兼用、男女通󠄁着、
線鞋 弁色立成に云はく、線鞋〈上は仙戦反、字は亦、綫に作る、下は戸佳反、又、戸皆反、楊氏漢語抄に云ふ千開せんかい乃久都のくつ〉は絁綫を兼ねて用ゐ、男女通じて着すといふ。
絲鞋 弁色立成云、絲鞋、〈伊止乃久都、〈已上本注󠄁、〉今案俗云之賀伊、〉
糸鞋 弁色立成に云ふ糸鞋〈伊止乃久都いとのくつ〈已上は本注〉、今案ふるに俗に云ふ之賀伊しかい〉。
麻鞋 顔氏家訓云、麻鞋一屋、〈麻鞋、乎久豆、弁色立成云、麻鞋以麻爲之、〉
麻鞋 顔氏家訓に云はく、麻鞋一屋といふ〈麻鞋は乎久豆をぐつ、弁色立成に云はく、麻鞋は麻を以て之れと為すといふ〉。
錦鞋 弁色立成云、錦鞋、〈此間音今開、〉以綵爲之、形如皮履、〈綵音采󠄁、綾采󠄁也、〉
錦鞋 弁色立成に云はく、錦鞋〈此間に音は今開〉は綵を以て之れと為す、形は皮履のごとしといふ〈綵の音は采、綾采なり〉。
靸鞋 唐韵云、靸、〈蘇合反、字亦作𩎕、靸鞋、俗爲𢮿字、未詳、〉小兒履也、
靸鞋 唐韻に云はく、靸〈蘇合反、字は亦、𩎕に作る、靸鞋は俗に𢮿の字と為す、未だ詳かならず〉は小児の履なりといふ。
木履 續漢書云、袁宏著木履、〈楊氏漢語抄云、木履、紀具󠄁都、〉
木履 続漢書に云はく、袁宏、木履〈楊氏漢語抄に云ふ木履、紀具都きぐつ〉を著すといふ。
屐 兼名苑云、屐、〈音奇逆󠄁反、阿師太、〉一名足下、
屐 兼名苑に云はく、屐〈音は奇逆反、阿師太あしだ〉、一名は足下といふ。
屐屣 史記注󠄁云、屣、〈所󠄁綺反、與徙同、漢語抄云、屐屣、久都々計乃阿之太、一云屐子、〉履之屬也、
屐屣 史記注に云はく、屣〈所綺反、徙と同じ、漢語抄に云ふ屐屣、久都々計乃阿之太くつつけのあしだ、一に云ふ屐子〉は履の属なりといふ。
屩 史記注󠄁云、屩、〈居灼反、與脚同、字亦作𫵩、和良久豆、〉草屝也、
屩 史記注に云はく、屩〈居灼反、脚と同じ、字は亦、𫵩に作る、和良久豆わらぐつ〉は草屝なりといふ。
草履 楊氏漢語抄云、草履、〈和名與屩同、俗云佐宇利、〉
草履 楊氏漢語抄に云ふ草履〈和名は屩と同じ、俗に云ふ佐宇利ざうり〉。

履襪具󠄁五十
履襪具五十
履楦 唐韵云、楥、〈虛願反、一音運、字亦作楦、今案此間云久都加太、是歟、〉靴履楦、又法也、
履楦 唐韻に云はく、楥〈虚願反、一音に運、字は亦、楦に作る、今案ふるに此間に云ふ久都加太くつがたは是れか〉は靴履のきがた、又、のりなりといふ。
履屧 野王曰、屧、〈思協反、久都和良、一云、久都乃之歧、〉履中薦也、楊氏漢語抄云、履屧、一云履苴、〈七余反、又苞苴之苴、見厨膳具󠄁、〉
履屧 野王曰はく、屧〈思協反、久都和良くつわら、一に云ふ久都乃之岐くつのしき〉は履の中の薦なりといふ。楊氏漢語抄に云ふ履屧、一に云ふ履苴〈七余反、又、苞苴の苴、厨膳具に見ゆ〉。
靴氈 唐令云、諸給時服、春秋各給靴一兩幷氈、〈諸延反、楊氏漢語抄云、靴氈、靴裏氈也、〉
靴氈 唐令に云はく、諸そ時服を給するに、春秋には各、靴一両并びに氈〈諸延反、楊氏漢語抄に云ふ靴氈、靴裏氈なり〉を給せよといふ。
靴帶 楊氏漢語抄云、靴絛、〈吐刀反、與韜同、〉所󠄁以繫靴跟也、或以革爲之、喚云靴帶
靴帯 楊氏漢語抄に云はく、靴条〈吐刀反、韜と同じ〉は靴のくびすに繋くる所以なりといふ。或に革を以て之れと為す、喚びて靴帯と云ふ。
屐系〈鼻繩附〉 風俗通󠄁云、延熹年中、京師長者、皆着屐、婦󠄁女始嫁至、漆畫五綵爲系、〈今案唐韵胡計反、緖也、然則屐系阿之太乎、〉本草云、屐鼻繩灰󠄁、
屐系〈鼻縄付〉 風俗通に云はく、延熹年中に京師の長者は皆、屐を着し、婦女の始めて嫁ぐに至り、漆画の五綵を系〈今案ふるに唐韻に胡計反、緒なり、然らば則ち屐系は阿之太乎あしだを〉と為すといふ。本草に云はく、屐の鼻縄の灰といふ。
屩耳 唐令云、靑耳屩、〈今案屩耳者、俗人云屩之乳乎、〉
屩耳 唐令に云はく、青耳屩といふ〈今案ふるに屩耳は俗人の云ふわらぐつの乳か〉。
屩靪 唐韵云、靪、〈音丁、今案下賤人以牛皮着屩下、云大知波女、宜此字乎、〉補履下也、
屩靪 唐韻に云はく、靪〈音は丁、今案ふるに下賤の人、牛皮を以て屩の下に補着す、大知波女たちはめと云ふ。宜しく此の字を用ゐるべきか〉は履の下を補ふなりといふ。

飮食部第十一
飲食部第十一
 藥酒類五十一 水漿類五十二 飯餠類五十三 麴糱類五十四〈粮附出〉 酥蜜類五十五 果菜󠄁類五十六 魚鳥類五十七 𪉩梅類五十八〈薑椒橘皮等附出〉
 薬酒類五十一 水漿類五十二 飯餅類五十三 麴糵類五十四〈粮付出す〉 酥蜜類五十五 果菜類五十六 魚鳥類五十七 塩梅類五十八〈薑、椒、橘皮等付出す〉

藥酒類五十一
薬酒類五十一
藥 食療經云、充飢󠄁則謂之食、療疾則謂之藥、〈以灼反、久須利、〉
薬 食療経に云はく、飢を充すときには之れを食と謂ひ、疾を療すときには之れを薬〈以灼反、久須利くすり〉と謂ふといふ。
煎 考聲切韵云、煎、〈音箭、又如字、〉煑藥汁稠也、
煎 考声切韻に云はく、煎〈音は箭、又、字のごとし〉は薬汁を煮てととのはしむるなりといふ。
酒 食療經云、酒、〈佐介、〉五糓之華、味之至也、故能益人、亦能損
酒 食療経に云はく、酒〈佐介さけ〉は五穀の華にして味の至なり、故に能く人をたすけ、亦、能く人を損ふといふ。
醴 四聲字苑云、醴、〈音禮、古佐計、〉一日一宿酒也、
醴 四声字苑に云はく、醴〈音は礼、古佐計こさけ〉は一日一宿の酒なりといふ。
醪 玉篇云、醪、〈力刀反、漢語抄云、濁醪、毛呂美、〉汁滓酒也、
醪 玉篇に云はく、醪〈力刀反、漢語抄に云ふ濁醪、毛呂美もろみ〉は汁滓の酒なりといふ。
醅〈釃字附〉 說文云、醅、〈音與盃同、漢語抄云、加須古女、俗云糟米、〉醇未釃也、唐韵云、釃、〈所󠄁宜反、又上聲、釃酒、佐介之太无、俗云阿久、〉下酒也、
醅〈釃字付〉 説文に云はく、醅〈音は盃と同じ、漢語抄に云ふ加須古女かすごめ、俗に云ふ糟米〉は醇の未だしたまざるなりといふ。唐韻に云はく、釃〈所宜反、又、上声、釃酒は佐介之太無さけしたむ、俗に云ふ阿久あく〉は酒をしたむなりといふ。
醇酒 唐韵云、醇、〈音淳、日本紀私記云、醇酒、加太佐介、〉厚酒也、
醇酒 唐韻に云はく、醇〈音は淳、日本紀私記に云ふ醇酒、加太佐介かたさけ〉は厚酒なりといふ。
酎酒 說文云、酎、〈直祐反、漢語抄云、豆久利加倍世流佐介、〉三重釀酒也、西京雜記云、正月旦作酒、八月成、名曰酎酒、一名九醖、〈於運反、通󠄁俗文云、醞、酘酒也、蔣魴切韵云、酘於鬪反、酒再下麴也、俗云曾比、〉
酎酒 説文に云はく、酎〈直祐反、漢語抄に云ふ豆久利加倍世流佐介つくりかへせるさけ〉は三重に醸す酒なりといふ。西京雑記に云はく、正月旦に酒を作り八月に成る、名けて酎酒と曰ひ、一名は九醞〈於運反、通俗文に云ふ醞、酘酒なり。蒋魴切韻に云はく、酘は於闘反、酒に再び麹を下むなりといふ。俗語に云ふ曽比そひ〉といふ。
𨣌酒 陸詞曰、𨣌、〈音覃、一音湛、日本紀私記云甜酒、多无佐介、今案可此字、〉酒味長也、
𨣌酒 陸詞曰はく、𨣌〈音は覃、一音に湛、日本紀私記に云ふ甜酒、多無佐介たむさけ、今案ふるに此の字を用ゐるべし〉酒は味、長なりといふ。
酵 楊氏漢語抄云、酵、〈音敎、之良加須、〉白酒甘也、
酵 楊氏漢語抄に云はく、酵〈音は教、之良加須しらかす〉は白酒の甘きなりといふ。
醨 唐韵云、醨、〈音離、之流、一云毛曾呂、〉酒薄也、
醨 唐韻に云はく、醨〈音は離、之流しる、一に云ふ毛曽呂もそろ〉は酒薄きなりといふ。
糟 說文云、糟、〈子勞反、賀須、〉酒滓也、
糟 説文に云はく、糟〈子労反、賀須かす〉は酒滓なりといふ。
酒蟣 文選󠄁注󠄁云、浮󠄁蟣、〈師說云佐加歧佐々、〉酒蟣在上汎々然如萍者也、
酒蟣 文選注に云はく、浮蟣〈師説に云ふ佐加岐佐々さかきささ〉は酒蟣、上に在りて汎々然としてうきくさのごとき者なりといふ。
酒膏 文選󠄁注󠄁云、醪敷、〈佐加阿布良、〉酒膏也、
酒膏 文選注に云はく、醪敷〈佐加阿布良さかあぶら〉は酒膏なりといふ。
肴 野王案、凡非糓而食、謂之肴、〈胡交反、字亦作餚、佐加奈、一云布久之毛乃、見本朝令、〉
肴 野王案ずるに、凡そ穀に非ずして食なるは之れを肴〈胡交反、字は亦、餚に作る、佐加奈さかな、一に云ふ布久之毛乃ふくしもの、本朝令に見ゆ〉と謂ふとす。

水漿類五十二
水漿類五十二
漿 四時食制經云、春宜漿甘水、〈漿音即良反、豆久利美豆、俗云邇於毛比、〉食療經云、凡食𤍠膩物、勿冷酢漿、〈師說冷酢讀比伊須由禮流、〉
漿 四時食制経に云はく、春は宜しく漿甘水を食すべしといふ〈漿の音は即良反、豆久利美豆つくりみづ、俗に云ふ邇於毛比におもひ〉。食療経に云はく、凡そ熱膩物を食ひて冷酢漿を飲む勿れといふ〈師説に冷酢の読みは比伊須由礼流ひいすゆれる〉。
氷漿 四聲字苑云、氷、〈筆綾反、比、〉水寒凍結也、膳夫經云、立秋後不氷漿
氷漿 四声字苑に云はく、氷〈筆綾反、〉は水寒くして凍結するなりといふ。膳夫経に云はく、立秋の後、氷漿を飲むこと得ずといふ。
白飮 四時食制經云、冬宜白飮、〈古美豆、今案濃漿之名也、〉
白飲 四時食制経に云はく、冬は宜しく白飲〈古美豆こみづ、今案ふるに濃漿の名なり〉を食すべしといふ。
糄𥻨 唐韵云、糄𥻨、〈褊索二音、比女、或說云、非米、非粥之義也、〉煑米多水者也、
糄𥻨 唐韻に云はく、糄𥻨〈褊索の二音、比女ひめ、或説に云ふ非米、非粥の義なり〉は米を煮るに水多き者なりといふ。
粥 唐韵云、饘、〈諸延反、加太賀由、〉厚粥也、四聲字苑云、周󠄀人呼粥也、粥、〈之叔反、之留加由、〉薄糜也、
粥 唐韻に云はく、饘〈諸延反、加太賀由かたがゆ〉は厚粥なりといふ。四声字苑に云はく、周人は粥と呼ぶなり、粥〈之叔反、之留加由しるがゆ〉は薄き糜なりといふ。
署預粥 崔禹食經云、千歲虆汁、狀如薄蜜甘美、以署預粉、和汁作粥、食之補五臟、〈署預粥、以毛賀遊󠄁、〉
署預粥 崔禹食経に云はく、千歳虆の汁は状、薄蜜のごとくして甘く美し、署預を以て粉と為し、汁にへて粥に作り、之れを食せば五臓を補ふといふ〈署預粥は以毛賀遊いもがゆ〉。
茶茗 尒雅集注󠄁云、茶、〈宅加反、字亦作𣗪、〉小樹似支子其葉可煑爲__飮、今呼早採󠄁茶、晩採󠄁爲茗、〈音酩、〉茗、一名荈、〈音喘、〉風土記云、荈者茗老葉名也、
茶茗 爾雅集注に云はく、茶〈宅加反、字は亦、𣗪に作る〉は小樹にして支子に似、其の葉は煮て飲と為すべし、今、早採を呼びて茶と為し、晩採を茗〈音は酩〉と為す、茗の一名は荈〈音は喘〉といふ。風土記に云はく、荈は茗の老葉の名なりといふ。

飯餠類五十三

飯餅類五十三
𩝶饙 四聲字苑云、𩝶饙、〈修紛二音、漢語抄云、加太加之歧乃以比、〉半󠄁熟飯也、
𩝶饙 四声字苑に云はく、𩝶饙〈修紛の二音、漢語抄に云ふ加太加之岐乃以比かたかしきのいひ〉は半熟の飯なりといふ。
强飯 史記云、廉頗强飯斗酒、食宍十斤、〈飯音符万反、亦作飰𩚳、强飯、古八伊比、〉
強飯 史記に云はく、れんは強飯、斗酒に宍十斤を食らふといふ〈飯の音は符万反、亦、飰𩚳に作る、強飯は古八伊比こはいひ〉。
𩚖飯 唐韵云、𩚖、〈女救反、字亦作糅、加之歧可天、〉雜飯也、
𩚖飯 唐韻に云はく、𩚖〈女救反、字は亦、糅に作る、加之岐可天かしきかて〉は雑飯なりといふ。
油飯 楊氏漢語抄云、膏味、〈阿不良以比、〉麻油炊飯也、一云玄熟、
油飯 楊氏漢語抄に云はく、膏味〈阿不良以比あぶらいひ〉は麻油の炊飯なりといふ。一に云ふ玄熟。
糒 野王案、糒、〈孚秘反、與備同、保之以比、〉乾飯也、
糒 野王案ずるに、糒〈孚秘反、備と同じ、保之以比ほしいひ〉は乾飯なりとす。
餉 四聲字苑云、餉、〈式亮反、訓加禮比於久留、俗云加禮比、〉以食遺󠄁人也、
餉 四声字苑に云はく、餉〈式亮反、訓は加礼比於久留かれひおくる、俗に云ふ加礼比かれひ〉はいひを以て人に遺すなりといふ。
餠〈殕字附〉 釋名云、餠、〈音屛、毛知比、〉令穤麵合幷也、胡餠、以胡麻之、〈今案麵麥粉也、此間餠粉、阿禮、是也、〉四聲字苑云、殕、〈孚乳反、與撫同、今案訓賀布、〉食上生白者也、
餅〈殕字付〉 釈名に云はく、餅〈音は屏、毛知比もちひ〉は穤麺をして合并せしむるなり、胡餅は胡麻を以て之れに着くといふ〈今案ふるに麺麦粉なり、此間に餅粉の阿礼あれは是れなり〉。四声字苑に云はく、殕〈孚乳反、撫と同じ、今案ふるに訓は賀布かぶ〉は食の上に白くれる者なりといふ。
餠腅 楊氏漢語抄云、裹餠中納󠄁__󠄁煑合鵝鴨等子幷雜菜󠄁而方截、一名餠腅、〈玉篇、腅、達󠄁濫反、肴也、〉
餅腅 楊氏漢語抄に云はく、餅の中に鵝鴨等の子、并びに雑菜を煮合すをれ裹みてけだに截る、一名は餅腅〈玉篇に腅は達濫反、肴なり〉といふ。
糉 風土記云、糉、〈作弄反、字亦作粽、知末歧、〉以菰葉米、以灰汁之、令爛熟也、五月五日啖之、
糉 風土記に云はく、糉〈作弄反、字は亦、粽に作る、知末岐ちまき〉は菰葉を以て米を裹み、灰汁を以て之れを煮、爛熟せしむるなり、五月五日に之れをくらふといふ。
餻 考聲切韵云、餻、〈古勞反、字亦作𩝝、久佐毛知比、〉烝米屑之、文德實錄云、嘉祥三年訛言曰、今玆三日不造󠄁󠄁餻、以母子也、
餻 考声切韻に云はく、餻〈古労反、字は亦、𩝝に作る、久佐毛知比くさもちひ〉は米屑をして之れを為るといふ。文徳実録に云はく、嘉祥三年の訛言に、今玆ことし三日に餻を造るべからず、母子無きを以てなりと曰ふといふ。
餢飳 蔣魴切韵云、餢飳、〈部斗二音、亦作䴺𪌘、布止、俗云伏兎、〉油煎餠名也、
餢飳 蒋魴切韻に云はく、餢飳〈部斗の二音、亦、䴺𪌘に作る、布止ぶと、俗に云ふ伏兎ぶと〉は油煎餅の名なりといふ。
糫餠 文選󠄁云、膏糫粔籹、〈糫音還󠄁、粔籹見下文、〉楊氏漢語抄云、糫餠、〈形如藤葛者也、萬加利、〉
糫餅 文選に云はく、膏糫は粔籹といふ〈糫の音は還、粔籹は下文に見ゆ〉。楊氏漢語抄に云ふ糫餅〈形は藤葛のごとき者なり、万加利まがり〉。
結果 楊氏漢語抄云、結果、〈形如緖、此間亦有之、今案加久乃阿和、〉
結果 楊氏漢語抄に云ふ結果〈形は緒を結ぶがごとし、此間に亦、之れ有り、今案ふるに加久乃阿和かくのあわ〉。
捻頭 楊氏漢語抄云、捻頭、〈无歧加太、捻音奴恊反、一云麥子、〉
捻頭 楊氏漢語抄に云ふ捻頭〈無岐加太むぎかた、捻の音は奴協反、一に云ふ麦子〉。
索餠 釋名云、蝎餠、髓餠、金餠、索餠、〈无歧奈波、大膳式云手束索餠、多都賀、〉皆隨形而名之、
索餅 釈名に云はく、蝎餅、髄餅、金餅、索餅〈無岐奈波むぎなは、大膳式に云ふ手束索餅、多都賀たつか〉は皆、形に随ひて之れを名くといふ。
粉熟 辨色立成云、粉粥、〈以米粥之、今案粉粥即粉熟也、〉
粉熟 弁色立成に云ふ粉粥〈米粥を以て之れと為す、今案ふるに粉粥は即ち粉熟なり〉。
餛飩 四聲字苑云、餛飩、〈渾屯二音、上字亦作餫、見唐韵、〉餠、剉肉麵裹煑之、
餛飩 四声字苑に云はく、餛飩〈渾屯の二音、上の字は亦、餫に作る、唐韻に見ゆ〉は餅、肉をきざみ麺に裹みて之れを煮るといふ。
餺飥〈衦字附〉 楊氏漢語抄云、餺飥、〈博󠄁󠄁託二音、字亦作𪍡𪌂、見玉篇、〉衦麵方切名也、四聲字苑云、衦、〈古旱反、上聲之重、〉摩展衣也、
餺飥〈衦字付〉 楊氏漢語抄に云はく、餺飥〈博託の二音、字は亦、𪍡𪌂に作る、玉篇に見ゆ〉は麺をばし方に切る名なりといふ。四声字苑に云はく、衦〈古旱反、上声の重〉は衣を摩りひろぐるなりといふ。
煎餠 楊氏漢語抄云、煎餠、〈此間云如字、〉以油熬小麥麵之名也、
煎餅 楊氏漢語抄に云はく、煎餅〈此間に云ふは字のごとし〉は油を以て小麦の麺を熬るの名なりといふ。
餲餠 四聲字苑云、餲、〈音與蝎同、俗云餲餬、今案餬、寄食也、爲餠名、未詳、〉餠名、煎麵作蝎虫形也、
餲餅 四声字苑に云はく、餲〈音は蝎と同じ、俗に云ふ餲餬、今案ふるに餬は寄食なり、餅の名と為すこと未だ詳かならず〉は餅の名、麺を煎りて蝎虫の形に作るなりといふ。
黏臍 辨色立成云、黏臍、〈油餠名也、黏作似人膍臍也、上音女廉反、下音齊、〉
黏臍 弁色立成に云はく、黏臍といふ〈油餅の名なり、黏り作り人の膍臍に似るなり、上の音は女廉反、下の音は斉〉。
饆饠 唐韵云、饆饠、〈畢羅二音、字亦作〓〔麥偏に必〕𪎆、俗云比知良、〉餌名也、
饆饠 唐韻に云はく、饆饠〈畢羅の二音、字は亦、〓〔麥偏に必〕𪎆に作る、俗に云ふ比知良ひちら〉は餌の名なりといふ。
䭔子 唐韵云、䭔、〈都回反、又音與堆同、此間音都以之、〉䭔子也、
䭔子 唐韻に云はく、䭔〈都回反、又、音は堆と同じ、此間に音は都以之ついし〉は䭔子なりといふ。
歡喜團 楊氏漢語抄云、歡喜團、〈以品甘物之、或說云、一名團喜、今案俗說梅枝桃枝餲餬桂心黏臍饆饠䭔子團喜、謂之八種唐菓子、其所󠄁見者、已𦦙於上文、〉
歓喜団 楊氏漢語抄に云ふ歓喜団〈しなじなの甘物を以て之れと為す。或説に云はく、一名は団喜といふ。今案ふるに俗説に、梅枝、桃枝、餲餬、桂心、黏臍、饆饠、䭔子、団喜、之れを八種の唐菓子と謂ふ。其の見ゆる所の者は已に上文に挙ぐ〉。

麴糱類五十四
麴糵類五十四
麴 釋名云、麴、〈音菊、加无太知、〉朽也、欝之使衣朽敗也、
麹 釈名に云はく、麹〈音は菊、加無太知かむたち〉は朽つるなりといふ。之れを鬱し衣を生じ朽敗ならしむるなりといふ。
糱 說文云、糱、〈魚列反、與禰乃毛夜之、〉牙米也、本草云、糱米、味苦、無毒、又有麥糱矣、
糵 説文に云はく、糵〈魚列反、与禰乃毛夜之よねのもやし〉は牙米なりといふ。本草に云はく、糵米は味苦く毒無し、又、麦糵有りぬといふ。
粉 唐式云、幷州每󠄁年造󠄁粉五十石、以官驢駄、運送󠄁所󠄁司、〈粉、方吻反、古、〉
粉 唐式に云はく、并州は年毎に粉を造ること五十石、官驢を以て駄し、所司に運び送れといふ〈粉は方吻反、〉。
麵 說文云、麵、〈莫甸反、去聲之輕、无歧乃古、〉麥粉也、粖、〈音末、〉米麥細屑也、
麺 説文に云はく、麺〈莫甸反、去声の軽、無岐乃古むぎのこ〉は麦粉なりといふ。粖〈音は末〉は米麦の細屑なりといふ。
大豆麨 食療經云、大豆麨、〈尺紹反、字亦作𪍑、末女豆歧、〉勿一歲已上十歲已下小兒、食之氣壅而死、
大豆麨 食療経に云はく、大豆麨〈尺紹反、字は亦、𪍑に作る、末女豆岐まめつき〉は一歳已上、十歳已下の小児に与ふること勿れ、之れを食せば気ふさがりて死すといふ。
糄米 唐韵云、糄、〈音篇、夜歧古女、糄𥻨之處上聲、〉燒稻爲米也、
糄米 唐韻に云はく、糄〈音は篇、夜岐古女やきごめ、糄𥻨の処は上声〉は稲を焼きて米と為すなりといふ。
粔籹 文選󠄁注󠄁云、粔籹、〈巨女二音、於古之古女、〉以蜜和米煎作也、
粔籹 文選注に云はく、粔籹〈巨女の二音、於古之古女おこしごめ〉は、蜜を以て米に和へて煎り作るなりといふ。
粮 考聲切韵云、糧、〈音涼、字亦作粮、加天、〉行所󠄁賷米也、又云、儲食也、
粮 考声切韻に云はく、糧〈音は涼、字は亦、粮に作る、賀天かて〉はたびつ所の米なりといふ。又、まうけの食なりといふ。

酥蜜類五十五
酥蜜類五十五
醍醐 蘇敬曰、醍醐、〈啼胡二音、此間音內五、醐字、或又作𩚩餬、見唐韵、〉是酥之精液也、陶隱居曰、一名解酥、言蘇一斛之中得四升也、
醍醐 蘇敬曰はく、醍醐〈啼胡の二音、此間に音は内五、醐の字は或に又、𩚩、餬に作る、唐韻に見ゆ〉は是れ酥の精液なりといふ。陶隠居曰はく、一名は解酥といふ。言ふは蘇一斛の中より四升を得ればなり。
酥 陶隱居曰、酥、〈音與蘇同、俗音曾、〉牛羊乳所󠄁爲也、
酥 陶隠居曰はく、酥〈音は蘇と同じ、俗の音は曽〉は牛羊の乳にてつくる所なりといふ。
酪 通󠄁俗文云、温牛羊乳酪、〈盧各反、乳酪、邇宇能可遊󠄁、〉
酪 通俗文に云はく、牛羊の乳を温むるを酪〈盧各反、乳酪、邇宇能可遊にうのかゆ〉と曰ふといふ。
乳䴵 陶隱居曰、乳成酪、々成酥、々成醍醐、色黃白、作䴵甚甘肥、〈今案䴵、即餠字也、乳䴵、此間乳脯是、〉
乳䴵 陶隠居曰はく、乳を酪と成し、酪を酥と成し、酥を醍醐と成す、色、黄白にして䴵を作る、甚だ甘肥といふ〈今案ふるに䴵は即ち餅の字なり。乳䴵、此間に乳脯は是れ〉。
飴 說文云、飴、〈音怡、阿女、〉米糱爲之、
飴 説文に云はく、飴〈音は怡、阿女あめ〉、米糵を之れと為すといふ。
蜜 說文云、蜜、〈音密、此間云美知、〉甘飴也、野王案、蜂採󠄁百花、醖釀所󠄁成也、
蜜 説文に云はく、蜜〈音は密、此間に云ふ美知みち〉は甘飴なりといふ。野王案ずるに、蜂の、百花を採り醞醸して成す所なりとす。
千歲纍汁 本草云、千歲纍汁、味甘平󠄁無毒、續筋骨、長肌肉、一名虆蕪、〈纍無二音、〉蘇敬曰、即今之蘡薁藤汁是也、〈蘡薁二音嬰育、和名阿末都良、本朝式云甘葛煎、〉
千歳虆汁 本草に云はく、千歳虆汁は味甘し、平にして毒無し、筋骨を続し、肌肉を長ず、一名は虆蕪〈纍無の二音〉といふ。蘇敬曰はく、即ち今の蘡薁藤の汁は是れなりといふ。〈嬰奥の二音は嬰育、和名は阿末都良あまづら、本朝式に云ふ甘葛煎〉

菓菜󠄁類五十六
菓菜類五十六
笋 尒雅注󠄁云、筍、〈音隼、字亦作笋、太加无奈、〉竹初生也、本草云、竹筍、味甘平󠄁無毒、燒而服之、
笋 爾雅注に云はく、筍〈音は隼、字は亦、笋に作る、太加無奈たかむな〉は竹の初生なりといふ。本草に云はく、竹筍は味甘し、平にして毒無し、焼きて之れを服すといふ。
長間笋 兼名苑注󠄁云、長間笋、〈之乃米、〉笋靑最晩生、味大苦、
長間笋 兼名苑注に云はく、長間笋〈之乃米しのめ〉は笋の青く最も晩生、味はなはだ苦しといふ。
生菜󠄁 食療經云、生菜󠄁不食蟹足
生菜 食療経に云はく、生菜は蟹足と合はせ食ふべからずといふ。
烝 禮記注󠄁云、㵩、〈私列反、師說、无之毛乃、〉烝也、野王案、烝、〈之繩反、〉火氣上行也、
烝 礼記注に云はく、㵩〈私列反、師説に無之毛乃むしもの〉は烝なりといふ。野王案ずるに、烝〈之縄反、〉は火気の上り行くなりとす。
茹 文選󠄁傅玄詩云、厨人進󠄁藿茹、有酒不坏、〈茹音人恕反、由天毛乃、藿音霍、葵藿也、〉
茹 文選傅玄詩に云はく、厨人、藿茹をたてまつり、酒有りて坏に盈たずといふ〈茹の音は人恕反、由天毛乃ゆでもの、藿の音は霍、葵藿ふゆあふひなり〉。
葅 說文云、葅、〈側魚反、邇良歧、楊氏漢語抄云、楡末菜也、〉菜󠄁鮓也、
葅 説文に云はく、葅〈側魚反、邇良岐にらき、楊氏漢語抄に云ふ楡末菜なり〉は菜の鮓なりといふ。
黃菜󠄁 崔禹食經云、温菘、味辛、是人作黃菜󠄁、常所󠄁噉者也、〈黃菜󠄁、此間云王佐以、一云佐波夜介、〉
黄菜 崔禹食経に云はく、温菘は味辛し、是れ人の黄菜を作りて常に噉ふ所の者なりといふ〈黄菜は此間に云ふわう佐以ざい、一に云ふ佐波夜介さはやけ〉。
𱾧 唐韵云、𱾧、〈音豐、久々太知、俗用莖立二字、〉蔓菁苗也、
𱾧 唐韻に云はく、𱾧〈音は豊、久々太知くくたち、俗に茎立の二字を用ゐる〉は蔓菁の苗なりといふ。
菌茸 崔禹食經云、菌茸、〈而容反、上渠殞反、上聲之重、爾雅注󠄁云、菌有木菌土菌、皆多介、〉食之、温有小毒、狀如人著__笠者也、
菌茸 崔禹食経に云はく、菌茸〈而容反、上は渠殞反、上声の重。爾雅注に云はく、菌に木菌、土菌有り、皆、多介たけといふ〉は之れを食ふ、温にして小毒有り、状は人の笠を著るがごとき者なりといふ。
羹 楚辭注󠄁云、有菜󠄁曰羹、〈音庚、阿豆毛乃、〉無菜󠄁曰𦞦、〈呼各反、和名上同、今案是以魚鳥肉羹也、〉
羹 楚辞注に云はく、菜有るを羹〈音は庚、阿豆毛乃あつもの〉と曰ひ、菜無きを𦞦〈呼各反、和名は上に同じ、今案ふるに是れは魚鳥の肉を以て羹と為すなり〉と曰ふといふ。

魚鳥類五十七
魚鳥類五十七
鱠 唐韵云、鱠、〈音會、奈万須、〉細切完也、
鱠 唐韻に云はく、鱠〈音は会、奈万須なます〉は細切の宍なりといふ。
鮨 尒雅注󠄁云、鮨、〈渠脂反、與耆同、須之、〉鮓屬也、野王案、大魚曰𩺃、〈側下反、今案即鮓字也、〉小魚曰𩷒、〈音侵󠄁、一音蹔、〉
鮨 爾雅注に云はく、鮨〈渠脂反、耆と同じ、須之すし〉は鮓の属なりといふ。野王案ずるに大魚を𩺃〈側下反、今案ふるに即ち鮓の字なり〉と曰ひ、小魚を𩷒〈音は侵、一音に蹔〉と曰ふといふ。
䐿 四聲字苑云、䐿、〈烏到反、今案俗云加須毛美、〉糟藏肉也、
䐿 四声字苑に云はく、䐿〈烏到反、今案ふるに俗に云ふ加須毛美かすもみ〉は糟に肉ををさむるなりといふ。
䐹 禮記注󠄁云、䐹、〈音周、保之以乎、見本朝令、〉乾魚也、
䐹 礼記注に云はく、䐹〈音は周、保之以乎ほしいを、本朝令に見ゆ〉は乾魚なりといふ。
魚條 遊󠄁仙窟云、東海鯔條、〈魚條讀須波夜利、本朝式云楚割、〉
魚条 遊仙窟に云はく、東海の鯔条〈魚条の読みは須波夜利すはやり、本朝式に云ふ楚割〉といふ。
魥 唐韵云、魥、〈音怯、今案乎佐之、一云與知乎佐之、〉以竹貫魚、出復州界也、
魥 唐韻に云はく、魥〈音は怯、今案ふるに乎佐之をざし、一に云ふ与知乎佐之よちをざし〉は竹を以て魚を貫く、復州の界より出づるなりといふ。
炒𤏛 唐韵云、炒𤏛、〈早備二音、漢語抄云、炒𤏛魚、比保之乃以乎、俗云火干、〉火乾也、
炒㷶 唐韻に云はく、炒㷶〈早備の二音、漢語抄に云ふ炒㷶魚、比保之乃以乎ひぼしのいを、俗に云ふ火干〉は火乾なりといふ。
炙 唐韵云、炙、〈之夜反、又之石反、阿布利毛乃、〉炙完、說文字從月火
炙 唐韻に云はく、炙〈之夜反、又、之石反、阿布利毛乃あぶりもの〉は炙宍といふ。説文に字は月火に従ふ。
炰 禮記注󠄁云、炰、〈薄交反、豆々美夜歧、〉裹燒也、
炰 礼記注に云はく、炰〈薄交反、豆豆美夜岐つつみやき〉は裹焼なりといふ。
𦞦 楚辭云、煎𩺀𦞦雀、〈𦞦音呼各反、訓與羹同、已見上文、〉
𦞦 楚辞に云はく、𩺀ふなを煎り雀を𦞦にすといふ。〈𦞦の音は呼各反、訓は羹と同じ、已に上文に見ゆ〉
臇 玉篇云、臇、〈音雖、一音淺、以利毛乃、〉少汁𦞦也、
臇 玉篇に云はく、臇〈音は雖、一音に浅、以利毛乃いりもの〉は少なき汁の𦞦なりといふ。
寒 文選󠄁云、寒鶬烝麑、〈師說寒讀古與之毛乃、此間云邇古與春、〉
寒 文選に云はく、寒鶬、烝麑といふ〈師説に寒の読みは古与之毛乃こよしもの、此間に云ふ邇古与春にこよす〉。
魚頭 食療經云、婦󠄁人任身不魚頭、損胎、〈今案煑鯉魚頭之魚頭、故別𦦙之、〉
魚頭 食療経に云はく、婦人、任身して魚頭を食ふこと得ず、胎を損ふといふ〈今案ふるに鯉の魚頭を煮るは之れを魚頭と謂ふ、故に別に之れを挙ぐ〉。
氷頭〈背腸附〉 本朝式云、年魚、氷頭、背腸、〈年魚者鮭魚也、氷頭者比豆也、背腸者美奈和太也、或說云、謂、背爲皆訛也、〉
氷頭〈背腸付〉 本朝式に云はく、年魚、氷頭、背腸といふ〈年魚は鮭魚なり、氷頭は比豆ひづなり、背腸は美奈和太みなわたなり。或説に云はく、謂ふは背を皆と為し訛ればなり〉。
雉脯 遊󠄁仙窟云、西山鳳脯、〈音甫、師說保之止利、俗用干鳥二字、〉
雉脯 遊仙窟に云はく、西山の鳳脯〈音は甫、師説に保之止利ほしどり、俗に干鳥の二字を用ゐる〉といふ。
腊 唐韵云、腒腊、〈居昔二音、歧太比、〉乾肉也、方言云、鳥腊曰膴、〈音無、又武、〉
腊 唐韻に云はく、腒腊〈居昔の二音、岐太比きたひ〉は乾肉なりといふ。方言に云はく、鳥腊を膴〈音は無、又、武〉と曰ふといふ。
鹿脯 說文云、脯、〈音甫、保師々之、〉乾肉也、禮記云、牛脩鹿脯、〈脩亦脯也、音秋、〉
鹿脯 説文に云はく、脯〈音は甫、保師々之ほしじし〉は乾肉なりといふ。礼記に云はく、牛脩、鹿脯といふ〈脩は亦、脯なり、音は秋〉。
醢 爾雅注󠄁云、醢、〈乎改反、與海同、之々比之保、〉完醬也、陶隱居曰、肉醬魚醬皆呼爲醢、不藥用
醢 爾雅注に云はく、醢〈乎改反、海と同じ、之々比之保ししびしほ〉は宍醬なりといふ。陶隠居曰はく、肉醬、魚醬は皆、呼びて醢と為す、薬に入れて用ゐずといふ。
〓〔月偏に簫〕 唐韵云、〓〔月偏に簫〕、〈蘇弔反、與嘯同、今案鹿〓〔月偏に簫〕、俗云阿閇豆久利、是也、〉切完合糅也、
〓〔月偏に簫〕 唐韻に云はく、〓〔月偏に簫〕〈蘇弔反、嘯と同じ、今案ふるに鹿〓〔月偏に簫〕、俗に云ふ阿閉豆久利あへづくりは是れなり〉は宍を切りて合せ糅むなりといふ。
頭腦 崔禹食經云、鹿頭腦治內𤍠、〈今案煑鹿頭之名謂之頭腦、故別置之、〉
頭脳 崔禹食経に云はく、鹿頭脳は内熱を治すといふ〈今案ふるに鹿頭を煮るの名は之れを頭脳と謂ふ、故に別に之れを置く〉。
餗 周󠄀易注󠄁云、餗、〈音束、訓古奈加歧、〉鼎實也、
餗 周易注に云はく、餗〈音は束、訓は古奈加岐こなかき〉は鼎の実なりといふ。

鹽梅類五十八〈尙書注󠄁云、鹽、鹹也、梅、酢也、四聲字苑云、韲、〈即黎反、訓安不、[一云阿倍毛乃、]〉擣薑蒜醋和之、〉
塩梅類五十八〈尚書注に云はく、塩は鹹きなり、梅は酢きなりといふ。四声字苑に云はく、韲〈即黎反、訓は安不あふ、[一に云ふ阿倍毛乃あへもの]〉は薑蒜を擣き醋を以て之れに和すといふ。〉
鹽 陶隱居曰、鹽有九種、白鹽、[〈和名阿和之保、〉]人常所󠄁食也、崔禹食經云、石𪉩一名白鹽、又有黑鹽、〈余廉反、之保、日本紀私記云、堅鹽、歧多之、〉
塩 陶隠居曰はく、塩に九種有り、白塩[〈和名は阿和之保あわしほ〉]は人の常に食する所なりといふ。崔禹食経に云はく、石塩、一名は白塩、又、黒塩有りといふ〈余廉反、之保しほ、日本紀私記に云ふ堅塩、岐多之きたし〉。
酢 本草云、酢酒、味酸温無毒、〈酢音倉故反、字亦作醋、須、酸音素官反、〉陶隱居曰、俗呼爲苦酒、〈今案鄙語謂酢爲加良佐介、此類也、〉
酢 本草に云はく、酢酒は味し、温にして毒無しといふ〈酢の音は倉故反、字は亦、醋に作る、、酸の音は素官反〉。陶隠居曰はく、俗に呼びて苦酒と為すといふ〈今案ふるに鄙語に酢を謂ひて加良佐介からさけと為すは此の類なり〉。
醬 四聲字苑云、醬、〈即亮反、比之保、別有唐醬、〉豆醢也、
醤 四声字苑に云はく、醤〈即亮反、比之保ひしほ、別に唐醤有り〉は豆醢なりといふ。
煎汁 本朝式云、堅魚煎汁、〈加豆乎以路利、〉
煎汁 本朝式に云はく、堅魚の煎汁〈加豆乎以路利かつをいろり〉といふ。
末醬 楊氏漢語抄云、高麗醬、〈美蘇、今案弁色立成說同、但本義未詳、俗用味醬二字、味宜末、何則通󠄁俗文有末楡莢醬、末者搗末之義也、而末訛爲未、々轉爲味、又有志賀末醬飛驒末醬、志賀者近󠄁江國郡名、各以其所󠄁出國郡名名也、〉
末醤 楊氏漢語抄に云はく、高麗醤といふ。〈美蘇みそ、今案ふるに弁色立成の説同じ、但し本義は未だ詳かならず。俗に味醤の二字を用ゐる、味は宜しく末に作るべし。何となれば則ち通俗文に末楡莢醬有り、末は搗末の義なり。而して末は訛りて未と為り、未は転じて味と為る。又、志賀末醤、飛騨末醤有り。志賀は近江国郡の名、各、其の出づる所の国郡の名を以て名と為すなり〉
豉 釋名云、豉、〈是義反、久歧、〉五味調和者也、
豉 釈名に云はく、豉〈是義反、久岐くき〉は五味、調和する者なりといふ。
搗蒜 食療經云、搗蒜韲、〈比流都歧、〉
搗蒜 食療経に云ふ搗蒜韲〈比流都岐ひるつき〉。
薑〈乾薑附〉 膳夫經云、空腹勿生薑、〈居良反、久禮乃波之加美、俗云阿奈波之加美、〉養性要集云、乾薑一名定薑、〈保之波之加美、〉
薑〈乾薑付〉 膳夫経に云はく、空腹に生薑〈居良反、久礼乃波之加美くれのはじかみ、俗に云ふ阿奈波之加美あなはじかみ〉を食ふこと勿れといふ。養性要集に云はく、乾薑、一名は定薑といふ〈保之波之加美ほしはじかみ〉。
蜀椒 蘇敬本草注󠄁云、蜀椒、〈音蕭、奈留波之加美、一云不佐波之加美、〉生蜀郡、故以名之、
蜀椒 蘇敬本草注に云はく、蜀椒〈音は蕭、奈留波之加美なるはじかみ、一に云ふ不佐波之加美ふさはじかみ〉は蜀郡に生ず、故に以て之れを名くといふ。
辛夷 崔禹食經云、辛夷、〈夜万阿良々歧、一云古不之波之加美、〉其子可之、
辛夷 崔禹食経に云はく、辛夷〈夜万阿良々岐やまあららぎ、一に云ふ古不之波之加美こぶしはじかみ〉は其のは之れを噉ふべしといふ。
山葵 養生秘要云、山葵、〈和佐比、漢語抄云山薑、〉補益食也、
山葵 養生秘要に云はく、山葵〈和佐比わさび、漢語抄に云ふ山薑〉は食を補益するなりといふ。
蘭蒚 養生秘要云、蘭蒚草、〈蒚音隔、阿良々歧、〉
蘭蒚 養生秘要に云ふ蘭蒚草〈蒚の音は隔、阿良々岐あららぎ〉。
薄𦺞 養生秘要云、薄𦺞、〈波可、今案𦺞字所󠄁出未詳、〉
薄𦺞 養生秘要に云ふ薄𦺞〈波可はか、今案ふるに𦺞の字、出づる所未だ詳かならず〉。
胡荽 崔禹食經云、胡荽、〈息遺󠄁反、古邇之、〉味辛臭、一名香荽、魚鳥膾尤爲要、博󠄁󠄁物志云、張鶱入西域之、故曰胡荽也、
胡荽 崔禹食経に云はく、胡荽〈息遺反、古邇之こにし〉は味辛く臭し、一名に香荽、魚鳥の膾に最も要とといふ。博物志に云はく、張鶱、西域に入りて之れを得、故に胡荽と曰ふなりといふ。
芥 本草云、芥、味辛、歸鼻、〈芥音介、賀良之、〉
芥 本草に云はく、芥は味辛し、鼻に帰すといふ〈芥の音は介、賀良之からし〉。
蓼 崔禹食經云、靑蓼、〈力鳥反、多天、〉人家恒食之、又有紫蓼矣、
蓼 崔禹食経に云はく、青蓼〈力鳥反、多天たで〉は人家恒に之れを食ふといふ。又、紫蓼有るなり。
胡桃 七卷食經云、胡桃、味甘温、食之有油甚美、〈久留美、〉博󠄁物志云、張騫使西域還󠄁時得之、
胡桃 七巻食経に云はく、胡桃は味甘く、温にして、之れを食へば油有りて甚だうましといふ〈久留美くるみ〉。博物志に云はく、張騫、西域に使ひして還る時に之れを得といふ。
橘皮 本草注󠄁云、橘皮、一名甘皮、〈太知波奈乃加波、一云歧賀波、〉
橘皮 本草注に云はく、橘皮、一名は甘皮といふ〈太知波奈乃加波たちばなのかは、一に云ふ岐賀波きがは〉。

器皿部第十二〈四聲字苑云、皿、武永反、器惣名也、柄音筆病反、器物莖柯也、衣、一云賀良、〉
器皿部第十二〈四声字苑に云はく、皿は武永反、器の惣名なり。柄の音は筆病反、器物の茎柯なり、、一に云ふ賀良から
 金器五十九 漆器六十 木器六十一 瓦器六十二 竹器六十三
 金器五十九 漆器六十 木器六十一 瓦器六十二 竹器六十三

金器五十九
金器五十九
鼎 說文云、鼎、〈都梃反、與頂同、阿之加奈倍、〉三足兩耳、和五味寳器也、
鼎 説文に云はく、鼎〈都梃反、頂と同じ、阿之加奈倍あしがなへ〉は三足に両耳あり、五味を和する宝器なりといふ。
釜 古史考云、釜、〈扶雨反、上聲之重、與輔同、賀奈倍、[一云末路賀奈倍、]〉黃帝造󠄁也、
釜 古史考に云はく、釜〈扶雨反、上声の重、輔と同じ、賀奈倍かなへ[、一に云ふ末路賀奈倍まろかなへ]〉は黄帝が造るなりといふ。
鍑 四聲字苑云、鍑、〈音富、漢語抄云、佐加利、俗用懸釜二字、〉釜而大口、一云小釜也、
鍑 四声字苑に云はく、鍑〈音は富、漢語抄に云ふ佐加利さがり、俗に懸釜の二字を用ゐる〉は釜にして大口をいふ。一に云ふ小釜なり。
銚子 四聲字苑云、銚、〈徒弔反、辨色立成云、銚子、佐之奈閇、俗云佐須奈閇、〉燒器、似鎢錥而上有鐶也、唐韵云、鎢錥、〈烏育二音、〉温器也、
銚子 四声字苑に云はく、銚〈徒弔反、弁色立成に云ふ銚子、佐之奈閉さしなべ、俗に云ふ佐須奈閉さすなべ〉は焼器の、鎢錥に似て上に鐶有るなりといふ。唐韻に云はく、鎢錥〈烏育の二音〉は温器なりといふ。
鑊子 周󠄀禮注󠄁云、鑊、〈音獲、[方言要目云、比良賀奈倍、今案無和名、]此間鑊子以爲酒之器、〉煑肉器也、
鑊子 周礼注に云はく、鑊〈音は獲、[方言要目に云ふ比良賀奈倍ひらがなへ、今案ふるに和名無し、]此間に云ふ鑊子は、以て酒を煖むるの器と為す〉は肉を煮る器なりといふ。
鎗 唐韵云、鎗、〈音楚庚反、字亦作鐺、阿之奈倍、或說云、俗云非甑而所󠄁炊之飯、謂之鐺飯者、音訛也、〉小鼎也、鐎、〈即遙反、〉温器、三足有柄也、
鎗 唐韻に云はく、鎗〈音は楚庚反、字は亦、鐺に作る、阿之奈倍あしなべ、或説に云はく、俗に云ふ甑非ずて炊く所の飯、之れを鐺飯と謂ふ者の音の訛りなりといふ〉は小鼎なり、鐎〈即遥反〉は温器の三足にして柄有るなりといふ。
鍋 唐式云、䥫鍋食單各一、〈鍋音古禾反、䥫鍋、加奈々倍、〉
鍋 唐式に云はく、鉄鍋、食単、おのおの一つといふ〈鍋の音は古禾反、鉄鍋は加奈々倍かななべ〉。
鏊 四聲字苑云、鏊、〈五到反、今案此間云煎餠盤是也、〉炒餠䥫盤也、
鏊 四声字苑に云はく、鏊〈五到反、今案ふるに此間に云ふ煎餅盤は是れなり〉は餅をる鉄盤なりといふ。
鈔鑼 唐韵云、鈔鑼、〈沙羅二音、俗云沙不良、今案或說、新羅金椀、出新羅國、後人訛新爲雜、故云雜羅、是說未詳、〉
鈔鑼 唐韻に云はく、鈔鑼〈沙羅の二音、俗に云ふ沙不良さふら。今案ふるに、或説に新羅の金椀、新羅国より出づ、後の人、新をあやまりて雑と為す、故に雑羅と云ふ、是の説、未だ詳かならず〉といふ。
鉢 四聲字苑云、鉢、〈博󠄁󠄁末反、字亦作盋、見唐韵、俗云波知、〉學佛道󠄁󠄁者食器也、胡人謂之盂也、
鉢 四声字苑に云はく、鉢〈博末反、字は亦、盋に作る、唐韻に見ゆ、俗に云ふ波知はち〉は仏道を学ぶ者の食器なり、胡人は之れを盂と謂ふなりといふ。
鋺 日本靈異記云、其器皆鋺、〈俗云加奈万利、今案鋺字未詳、古語謂椀爲末利、宜金椀二字、〉
鋺 日本霊異記に云はく、其の器は皆、鋺〈俗に云ふ加奈万利かなまり、今案ふるに鋺の字、未だ詳かならず、古語に椀を謂ひて末利まりと為す、宜しく金椀の二字を用ゐるべし〉といふ。

漆器六十
漆器六十
樽〈酒海附〉 辨色立成云、樽、〈音尊󠄁、此間云去聲、字亦作罇、見說文、〉酒樽、有脚酒器也、蔣魴切韵云、樽、酒海也、〈今案此間所󠄁有樽與酒海各異、故以附出、〉
樽〈酒海付〉 弁色立成に云はく、樽〈音は尊、此間に云ふ去声、字は亦、罇に作る、説文に見ゆ〉は酒樽、脚有る酒器なりといふ。蒋魴切韻に云はく、樽は酒海なりといふ〈今案ふるに此間に有る所の樽と酒海と各異なる、故に以て付出す〉。
壺 周󠄀禮注󠄁云、壺、〈音胡、都保、〉所󠄁以盛__飮也、兼名苑云、壺一名𢀿、〈唐韵𢀿音謹、以瓢爲酒器也、〉
壺 周礼注に云はく、壺〈音は胡、都保つぼ〉は飲をるる所以なりといふ。兼名苑に云はく、壺、一名は𢀿〈唐韻に𢀿の音は謹、瓢を以て酒器と為すなり〉といふ。
酒臺〈臺子附〉 東宮舊事云、漆酒臺、辨色立成云、臺子、〈志利佐良、〉
酒台〈台子付〉 東宮旧事に云ふ漆の酒台、弁色立成に云ふ台子〈志利佐良しりざら〉。
大槃 唐式云、大槃、〈本朝式云、朱漆臺盤、黒漆臺盤、〉
大槃 唐式に云ふ大槃〈本朝式に云ふ朱漆の台盤、黒漆の台盤〉。
櫑子 唐韵云、櫑、〈音雷、字亦作罍、本朝式云、櫑子、〉酒器也、
櫑子 唐韻に云はく、櫑〈音は雷、字は亦、罍に作る、本朝式に云ふ櫑子〉は酒器なりといふ。
疊子 唐式云、飯椀、羹疊子、各一、〈楊氏漢語抄云、疊子、宇流之沼利乃佐良、〉[遊󠄁仙窟云、麟脯豹胎、粉綸於玉疊、〈今案以玉爲疊子也〉]
畳子 唐式に云はく、飯椀、羹畳子、各一つといふ〈楊氏漢語抄に云ふ畳子、宇流之沼利乃佐良うるしぬりのさら〉。[遊仙窟に云はく、麟脯豹胎、玉畳に粉綸すといふ〈今案ふるに玉を以て畳子と為すなり〉。]
合子 唐式云、尙食局、漆器三年一換、供每節料朱合等、五年一換、〈今案朱合、此間云朱漆合子也、〉
合子 唐式に云はく、尚食局、漆器は三年に一たび換へ、毎節料に供する朱合等は五年に一たび換へよといふ〈今案ふるに朱合は此間に云ふ朱漆の合子なり〉。
匜 說文云、匜、〈移尒反、一音移、俗用楾字、未詳、〉柄中有道󠄁󠄁、可以注󠄁__水之器也、
匜 説文に云はく、匜〈移爾反、一音は移、俗に楾の字を用ゐる、未だ詳かならず〉は柄の中に道有り、以て水を注ぐべきの器なりといふ。
盥 說文云、盥、〈古滿反、與管同、俗用手洗二字、已上二物具󠄁見下澡浴具󠄁也、〉澡手也、
盥 説文に云はく、盥〈古満反、管と同じ、俗に手洗の二字を用ゐる、已上の二物具は下の澡浴具に見ゆ〉は手をあらふなりといふ。

木器六十一
木器六十一
厨子 辨色立成云、竪櫃、〈竪、立也、臣庾反、上聲之重、〉厨子別名也、
厨子 弁色立成に云はく、竪櫃〈竪は立なり、臣庾反、上声の重〉は厨子の別名なりといふ。
櫃 蔣魴切韵云、櫃、〈音貴、比豆、俗有長櫃韓櫃明櫃折櫃小櫃等名、〉似厨向上開闔器也、
櫃 蒋魴切韻に云はく、櫃〈音は貴、比豆ひつ、俗に長櫃、韓櫃、明櫃、折櫃、小櫃等の名有り〉は厨に似て上を向き開闔する器なりといふ。
檈 四聲字苑云、檈、〈似泉反、與旋同、今案俗云臺、是、〉圓案也、
檈 四声字苑に云はく、檈〈似泉反、旋と同じ、今案ふるに俗に台と云ふは是れ〉は円き案なりといふ。
机〈牙脚附〉 唐韵云、机、〈音几、〉案屬也、史記云、持案進󠄁食、〈案音按、都久惠、〉唐式云、行床牙脚、〈今案牙脚、此間云牙象脚也、〉
机〈牙脚付〉 唐韻に云はく、机〈音は几〉は案の属なりといふ。史記に云はく、案を持して食を進むといふ〈案の音は按、都久恵つくゑ〉。唐式に云はく、行床の牙脚〈今案ふるに牙脚は此間に云ふ牙象脚なり〉といふ。
[食床 方言要目云、食床、〈盛食長床也、〉]
[食床 方言要目に云ふ食床〈食を盛る長床なり〉。]
𣝑 唐韵云、𣝑、〈音豫、今案俗云中取是也、〉舁食器也、
𣝑 唐韻に云はく、𣝑〈音は予、今案ふるに俗に云ふ中取なかどるは是れなり〉は食をになふ器なりといふ。
臼〈杵附〉 四聲字苑云、臼、〈巨久反、上聲之重、宇須、〉舂穀器也、杵、〈昌與反、岐禰、〉舂槌也、
臼〈杵付〉 四声字苑に云はく、臼〈巨久反、上声の重、宇須うす〉は穀をうすづく器なり、杵〈昌与反、岐禰きね〉は舂く槌なりといふ。
碓 祝尙丘曰、碓、〈音對、字亦作磓、賀良宇須、〉踏舂具󠄁也、兼名苑云、碓一名𥕐、〈音的、〉魯般造󠄁也、[孫愐云、桯、〈他丁反、戶經反、今案俗云保呂之歟、〉碓桯也、]
碓 祝尚丘曰はく、碓〈音は対、字は亦、磓に作る、賀良宇須からうす〉は踏み舂く具なりといふ。兼名苑に云はく、碓、一名は𥕐〈音は的〉、魯般が造るなりといふ。[孫愐云はく、桯〈他丁反、戸経反、今案ふるに俗に云ふ保呂之ほろしか〉は碓桯なりといふ。]
磑 兼名苑云、磑、〈五對反、〉一名䃀、〈音砌、〉磨礱也、唐韵云、磨礱、〈麻籠二音、又並去聲、須利宇須、〉磑也、
磑 兼名苑に云はく、磑〈五対反〉、一名は䃀〈音は砌〉、磨礱なりといふ。唐韻に云はく、磨礱〈麻籠の二音、又、並びに去声、須利宇須すりうす〉は磑なりといふ。
甑〈甑帶附〉 蔣魴切韵云、甑、〈音勝󠄁、古之歧、〉炊飯器也、本草云、甑帶灰、〈古之幾和良乃波飛、〉辨色立成云、炊單、[〈和名同上、〉]
甑〈甑帯付〉 蒋魴切韻に云はく、甑〈音は勝、古之岐こしき〉は飯をかしぐ器なりといふ。本草に云ふ甑帯灰〈古之幾和良乃波飛こしきわらのはひ〉、弁色立成に云ふ炊単[〈和名は上に同じ〉]。
酒槽 文選󠄁酒德頌注󠄁云、槽、〈音曹、佐加不禰、〉今之酒槽也、
酒槽 文選酒徳頌注に云はく、槽〈音は曹、佐加不禰さかふね〉は今の酒槽なりといふ。
桶 蔣魴切韵云、桶、〈徒總反、上聲之重、又他孔反、乎計、[俗有火桶水菜桶腰桶等之名、]〉汲水於井之器也、
桶 蒋魴切韻に云はく、桶〈徒総反、上声の重、又、他孔反、乎介をけ、[俗に火桶、水菜桶、腰桶等の名有り]〉は水を井に汲むの器なりといふ。
杓〈瓢附〉 唐韵云、杓、〈音酌、比佐古、〉斟水器也、瓢、〈符霄反、奈利比佐古、〉瓠也、瓠、〈音護、〉匏也、匏、〈薄交反、〉可飮器者也、
杓〈瓢付〉 唐韻に云はく、杓〈音は酌、比佐古ひさご〉は水を斟む器なり、瓢〈符霄反、奈利比佐古なりひさご〉は瓠なり、瓠〈音は護〉は匏なり、匏〈薄交反〉は飲器と為すべき者なりといふ。
棬 陸詞切韵云、棬、〈音拳、漢語抄云、佐須江、〉器似斗、屈木爲之、考聲切韵云、盃類也、
棬 陸詞切韻に云はく、棬〈音は拳、漢語抄に云ふ佐須江さすえ〉は器にして斗に似、木を屈めて之れを為るといふ。考声切韻に云ふ盃の類なり。
笥 禮記注󠄁云、笥、〈思吏反、介、〉盛食器也、
笥 礼記注に云はく、笥〈思吏反、〉は食を盛るる器なりといふ。
衦麵杖 辨色立成云、衦麵杖、〈牟歧於須紀、上音各旱反、〉
衦麺杖 弁色立成に云ふ衦麺杖〈牟岐於須紀むぎおすき、上の音は各旱反〉。
茶硏 章孝標集、有黃楊木茶碾子詩、〈碾音展、訓歧之流、[茶碾子、俗謂之茶研、々音加彥反、]〉
茶研 章孝標集に黄楊木茶碾子詩有り〈碾の音は展、訓は岐之流きしる、[茶碾子、俗に之れを茶研と謂ふ、研の音は加彦反]〉。

瓦器六十二〈瓦器、一云陶器、陶訓須惠毛能、〉
瓦器六十二〈瓦器は一に云ふ陶器、陶の訓は須恵毛能すゑもの
大甕 辨色立色云、大甕、〈美賀、〉本朝式云、𤭖、〈和名同上、音長、一音仗、見唐韵、〉
大甕 弁色立色に云ふ大甕〈美賀みか〉。本朝式に云ふ𤭖〈和名は上に同じ、音は長、一音に仗、唐韻に見ゆ〉。
淺甕 日本紀私記云、淺甕、〈佐良介、〉本朝式云、瓼、〈和名上同、今案所󠄁出未詳、〉
浅甕 日本紀私記に云ふ浅甕〈佐良介さらけ〉。本朝式に云ふ瓼〈和名は上に同じ、今案ふるに出づる所未だ詳かならず〉。
甕 方言云、自關而東甖、〈烏莖反、字亦作罌、〉謂之甕、〈烏貢反、字亦作瓮、毛太比、〉
甕 方言に云はく、関よりして東に甖〈烏茎反、字は亦、罌に作る〉は之れを甕〈烏貢反、字は亦、瓮に作る、毛太比もたひ〉と謂ふといふ。
坩 楊氏漢語抄云、坩、〈古甘反、都保、今案木謂之壷、瓦謂之坩、〉壺也、或曰甒甖、〈武鸎二音、〉垂拱留司格云、瓷坩廿口、一斗以下五升以上、故知坩者壺也、
坩 楊氏漢語抄に云はく、坩〈古甘反、都保つぼ。今案ふるに木は之れを壺と謂ひ、瓦は之れを坩と謂ふ〉は壺なりといふ。或の曰ふ甒甖〈武鸎の二音〉。垂拱留司格に云はく、瓷坩二十口、一斗以下五升以上といふ。故に坩は壺と知るなり。
瓶子 楊氏漢語抄云、瓶子、〈賀米、上薄經反、〉
瓶子 楊氏漢語抄に云ふ瓶子〈賀米かめ、上は薄経反〉。
游堈 唐韵云、堈、〈音剛、楊氏抄云游堈、由賀、〉甕也、〈今案俗人呼大桶由賀呼介是、辨色立成云於保美加、〉
游堈 唐韻に云はく、堈〈音は剛、楊氏抄に云ふ游堈、由賀ゆか〉は甕なりといふ〈今案ふるに俗人の大桶を呼びて由賀呼介ゆかをけと為すは是れ、弁色立成に云ふ於保美加おほみか〉。
盆 唐韵云、盆、〈蒲奔反、字亦作瓫、辨色立成云比良加、〉瓦器也、尒雅云、瓫謂之缶、〈音不、訓保度歧、〉兼名苑云、盆一名盂、〈音于、〉
盆 唐韻に云はく、盆〈蒲奔反、字は亦、瓫に作る、弁色立成に云ふ比良加ひらか〉は瓦器なりといふ。爾雅に云はく、瓫は之れを缶〈音は不、訓は保度岐ほとき〉と謂ふといふ。兼名苑に云はく、盆、一名は盂〈音は于〉といふ。
罐 唐韵云、罐、〈音貫、楊氏抄云、都流閇、〉汲水器也、
缶 唐韻に云はく、缶〈音は貫、楊氏抄に云ふ都流閉つるべ〉は水を汲む器なりといふ。
堝 辨色立成云、堝、〈奈閇、古禾反、今案金謂之鍋、瓦謂之堝、字或相通󠄁、〉
堝 弁色立成に云ふ堝〈奈閉なべ、古禾反、今案ふるに金は之れを鍋と謂ひ、瓦は之れを堝と謂ふ、字は或に相通ず〉。
瓷 唐韵云、瓷、〈疾資反、[俗云瓷器、之乃宇豆波毛乃、]〉瓦器也、
瓷 唐韻に云はく、瓷〈疾資反、[俗に云ふ瓷器、之乃宇豆波毛乃しのうつはもの]〉は瓦器なりといふ。
盌 說文云、盌、〈烏管反、字作椀、辨色立成云、末利、俗云毛比、〉小盂也、
盌 説文に云はく、盌〈烏管反、字は椀に作る、弁色立成に云ふ末利まり、俗に云ふ毛比もひ〉は小盂なりといふ。
盤 唐韵云、盤、〈薄官反、佐良、〉器名也、
盤 唐韻に云はく、盤〈薄官反、佐良さら〉は器の名なりといふ。
盃盞 兼名苑云、盃、〈字亦作坏、〉一名巵、〈音支、佐賀都歧、〉方言注󠄁云、盞、〈音產、〉盃之最小者也、
盃盞 兼名苑に云はく、盃〈字は亦、坏に作る〉、一名は巵〈音は支、佐賀都岐さかづき〉といふ。方言注に云はく、盞〈音は産〉は盃の最も小さき者なりといふ。
[𤮜 孫愐切韻云、𤮜、〈時戰反、俗語云都伎乃波太、〉器緣、謂口邊也、]
[𤮜 孫愐切韻に云はく、𤮜〈時戦反、俗語に云ふ都伎乃波太つきのはた〉は器の縁、口辺を謂ふなり。]

竹器六十三

竹器六十三
箱篋 楊氏漢語抄云、箱、〈音相、〉篋、〈苦恊反、〉筥、〈居許反、〉筐、〈音匡、〉篚、〈音匪、已上皆波古、〉唐韵云、竹器、方曰筐、圓曰篚也、
箱篋 楊氏漢語抄に、箱〈音は相〉、篋〈苦協反〉、筥〈居許反〉、筐〈音は匡〉、篚〈音は匪、已上は皆、波古はこ〉と云ふ。唐韻に云はく、竹器の方なるを筐と曰ひ、円なるを篚と曰ふなりといふ。
簏 考聲切韵云、簏、〈音祿、須利、〉箱類也、
簏 考声切韻に云はく、簏〈音は禄、須利すり〉は箱の類なりといふ。
籠 唐韵云、籠、〈盧紅反、一音龍、又力董反、古、〉竹器也、
籠 唐韻に云はく、籠〈盧紅反、一音は龍、又、力董反、〉は竹器なりといふ。
笭箐 四聲字苑云、笭箐、〈零靑二音、漢語抄云、加太美、〉小籠也、
笭箐 四声字苑に云はく、笭箐〈零青の二音、漢語抄に云ふ加太美かたみ〉は小籠なりといふ。
籮 考聲切韵云、江南人謂筐底方上圓者籮、〈音羅、之太美、〉
籮 考声切韻に云はく、江南の人、筐の底、けだなりて上、まろき者を謂ひて籮〈音は羅、之太美したみ〉と為すといふ。
䈪 方言注󠄁云、䈪形小而高、江東呼爲䈪、〈呼擊反、漢語抄云、阿自賀、今案又用簣字、見史記、〉
䈪 方言注に云はく、䈪は形小さくして高し、江東に呼びて䈪〈呼撃反、漢語抄に云ふ阿自賀あじか、今案ふるに又、簣の字を用ゐる、史記に見ゆ〉と為すといふ。
箄 四聲字苑云、箄、〈博󠄁繼反、漢語抄云、飯箄、以比之太美、〉𦽗甑底竹筐也、
箄 四声字苑に云はく、箄〈博継反、漢語抄に云ふ飯箄、以比之太美いひじたみ〉は甑の底を蔽ふ竹筐なりといふ。
篝 說文云、篝、〈古候反、加々利、〉竹器也、
篝 説文に云はく、篝〈古候反、加々利かがり〉は竹器なりといふ。
篩 說文云、篩、〈音師、字亦作簛、布流比、〉除麁去細之竹器也、
篩 説文に云はく、篩〈音は師、字は亦、簛に作る、布流比ふるひ〉は麁きを除き細かきを去るの竹器なりといふ。
笊籬 辨色立成云、笊籬、〈楊氏抄云、无歧須久比、唐韵上側敎反、去聲之輕、下音離、〉麥索煑籠也、以竹編󠄁󠄁爲之、
笊籬 弁色立成に云はく、笊籬〈楊氏抄に云ふ無岐須久比むぎすくひ、唐韻に上は側教反、去声の軽、下の音は離〉は麦索を煮る籠なりといふ。竹を以て編み之れと為す。
箕〈箒附〉 說文云、箕、〈音姬、美、〉除糞簸米之器也、兼名苑云、箒、〈音酒、〉一名篲、〈祥歲反、波々歧、〉
箕〈箒付〉 説文に云はく、箕〈音は姫、〉は糞を除き米をるの器なりといふ。兼名苑に云はく、箒〈音は酒〉、一名は篲〈祥歳反、波々岐ははき〉といふ。

燈火部第十三
灯火部第十三
 燈火類六十四 燈火具󠄁六十五 燈火器六十六
 灯火類六十四 灯火具六十五 灯火器六十六

燈火類六十四
灯火類六十四
燈燭 四聲字苑云、器照曰燈、〈音登、〉竪燒曰燭、〈音屬、和名並度毛師比、〉野王案、燈燭、蘭膏所󠄁燃之火也、
灯燭 四声字苑に云はく、器照を灯〈音は登〉と曰ひ、竪焼を燭〈音は属、和名は並びに度毛師比ともしび〉と曰ふといふ。野王案ずるに灯燭、蘭膏は燃やす所の火なりとす。
䗶燭 唐式云、少府監、每年供䗶燭七十挺
蝋燭 唐式に云はく、少府監、年毎に蝋燭七十挺を供せよといふ。
紙燭 雜題有紙燭詩、〈紙燭、俗音之曾久、〉
紙燭 雑題に紙燭詩有り〈紙燭は俗の音に之曽久〉。
炬火 唐韵云、爝、〈即略反、與雀同、〉炬火也、字書云、炬、〈其呂反、上聲之重、訓與燈同、俗云太天阿加之、〉束薪灼之、
炬火 唐韻に云はく、爝〈即略反、雀と同じ〉は炬火なりといふ。字書に云はく、炬〈其呂反、上声の重、訓は灯と同じ、俗に云ふ太天阿加之たてあかし〉は、薪を束ね之れを灼くといふ。
庭燎 四聲字苑云、燎、〈力照反、和名邇波比、毛詩有庭燎篇、〉庭火也、
庭燎 四声字苑に云はく、燎〈力照反、和名は邇波比にはび、毛詩に庭燎篇有り〉は庭火なりといふ。
烽燧〈火橛附〉 說文云、烽燧、〈峯遂󠄂二音、度布比、〉邊有警則擧之、唐式云、諸置燧之處置火臺、々上挿橛、〈音厥、俗云保久之、〉
烽燧〈火橛付〉 説文に云はく、烽燧〈峯遂の二音、度布比とぶひ〉は辺にいましめ有るときには之れを挙ぐといふ。唐式に云はく、諸そ燧を置くの処に火台を置き、台の上に橛〈音は厥、俗に云ふ保久之ほぐし〉を挿すといふ。
[篝火 漢書陳勝󠄁傳云、夜篝火、〈師說云比乎加々利邇須、今案漁者以䥫作篝盛火照水者名之、此類乎、〉]
[篝火 漢書陳勝伝に云はく、夜に火を篝にすといふ〈師説に云ふ比乎加々利邇須ひをかがりにす、今案ふるに漁者の、鉄を以て篝を作り、火を盛れて水を照らす者、之れを名くは此類か〉。]
[野火 字統云、𤐨〈蘇典反、又作燹、野人說云、保曾介、〉防野火也、孫愐切韻云、燹、〈音與銑同、〉逆󠄁燒也、]
[野火 字統に云はく、𤐨〈蘇典反、又、燹に作る、野人説に云ふ保曽介ほそげ〉は野火を防ぐなりといふ。孫愐切韻に云はく、燹〈音は銑と同じ〉は逆に焼くなりといふ。]
煻煨 唐韵云、熾、〈昌志反、漢語抄云、於歧比、〉猛火也、又盛也、四聲字苑云、煻煨、〈唐隈二音、和名上同、〉𤍠灰兼火也、
煻煨 唐韻に云はく、熾〈昌志反、漢語抄に云ふ於岐比おきび〉は猛火なり、又、盛りなりといふ。四声字苑に云はく、煻煨〈唐隈の二音、和名は上に同じ〉は熱灰、火を兼ぬるなりといふ。
燐火 文字集畧云、燐、〈音隣、一音𠫤、於邇比、〉鬼火也、人及牛馬兵死者血所󠄁化󠄁也、
燐火 文字集略に云はく、燐〈音は隣、一音に吝、於邇比おにび〉は鬼火なり、人及び牛馬兵の死する者の血の化する所なりといふ。
[蚊火 新撰萬葉集歌云、蚊遣󠄁火〈加夜利火、今案一云蚊火、所󠄁出未詳、但俗說蚊遇󠄁煙󠄁即去、仍夏日庭中熏火放煙󠄁、故以名之、蚊見虫豸部、〉]
[蚊火 新撰万葉集歌に云はく、蚊遣󠄁火〈加夜利火かやりび、今案ふるに一に云ふ蚊火、出づる所未だ詳かならず、但し俗説に蚊は煙に遇ひて即ち去る、仍りて夏日、庭中に火をくすべ煙を放つ、故に以て之れを名く、蚊は虫豸部に見ゆ〉]

燈火具󠄁六十五
灯火具六十五
火鑚 內典云、譬如燧因鑚、〈音贊、比歧利、〉而得__、〈𣵀槃經文也、〉
火鑚 内典に云はく、譬へば燧に因り鑚〈音は賛、比岐利ひきり〉に因りて火を生ずることを得るがごとしといふ〈涅槃経の文なり〉。
燧 古史考云、燧人氏造󠄁鑚燧、〈音遂󠄂、比宇知、〉始出火、
燧 古史考に云はく、燧人氏、鑚燧〈音は遂、比宇知ひうち〉を造り、始めて火を出すといふ。
油〈擣押附〉 四聲字苑云、油、〈以周反、阿布良、〉迮麻取脂也、〈迮、側陌反、字與窄通󠄁、迫󠄁也、狹也、〉內典云、胡麻熟已、收子熬之擣押、〈俗語云、之路无、〉然後乃得油、〈𣵀槃經文也、〉
油〈擣押付〉 四声字苑に云はく、油〈以周反、阿布良あぶら〉は麻をめて脂を取るなり、〈迮は側陌反、字は窄と通ず、迫るなり、狭しなり〉といふ。内典に云はく、胡麻熟し已り子を収め之れを熬りて擣き押す〈俗語に云ふ之路無しろむ〉、然る後、乃ち油を出づるを得といふ〈涅槃経の文なり〉。
燈心 考聲切韵云、炷、〈音主󠄁、又去聲、和名度宇之美、燈心音訛也、〉燈心也、
灯心 考声切韻に云はく、炷〈音は主、又、去声、和名は度宇之美とうしみ、灯心の音の訛れるなり〉は灯心なりといふ。
炭〈炭籠附〉 蔣魴切韵云、炭、〈他案反、須美、〉樹木以火燒之、仙人嚴靑造󠄁也、野王案、𤈩、〈乍下反、字亦作𥰭、〉炭籠也、
炭〈炭籠付〉 蒋魴切韻に云はく、炭〈他案反、須美すみ〉は樹木の、火を以て之れを焼く、仙人の厳青が造るなりといふ。野王案ずるに、𤈩〈乍下反、字は亦、𥰭に作る〉は炭籠なりとす。
松明 唐式云、每城油一斗、松明十斤、〈今案松明者今之續松乎、〉
松明 唐式に云はく、城毎に油一斗、松明十斤といふ〈今案ふるに松明は今の続松か〉。
薪 纂要云、火木曰薪、〈音新、多歧々、〉
薪 纂要に云はく、火木を薪〈音は新、多岐々たきぎ〉と曰ふといふ。
燼 左傳注󠄁云、燼、〈音晉、毛江久比、〉火餘木也、
燼 左伝注に云はく、燼〈音は晋、毛江久比もえくひ〉は火の余木なりといふ。
灰 陸詞切韵云、灰、〈呼恢反、波比、〉火燼滅也、
灰 陸詞切韻に云はく、灰〈呼恢反、波比はひ〉は火の燼滅なりといふ。
炲煤 唐韵云、炲煤、〈臺梅二音、須々、〉灰集屋也、
炲煤 唐韻に云はく、炲煤〈台梅の二音、須々すす〉は灰の、屋に集むるなりといふ。
煙〈𤓭附〉 四聲字苑云、煙、〈於賢反、字亦作烟、介不利、〉火燒草木黑氣也、唐韵云、𤓭、〈音欝、俗語云介布太之、〉煙氣也、
煙〈爩付〉 四声字苑に云はく、煙〈於賢反、字は亦、烟に作る、介不利けぶり〉は火の、草木を焼く黒気なりといふ。唐韻に云はく、爩〈音は鬱、俗語に云ふ介布太之けぶたし〉は煙気なりといふ。
㸅 四聲字苑云、㸅、〈子結反、保曾久豆、〉燭餘灰也、
㸅 四声字苑に云はく、㸅〈子結反、保曽久豆ほそくづ〉は燭の余灰なりといふ。

燈火器六十六
灯火器六十六
燈籠 內典云、燈爐、〈見涅槃經、〉唐式云、燈籠、〈見開元式、〉本朝式云、燈樓、〈見主󠄁殿寮式、今案三名皆通󠄁稱也、〉
灯籠 内典に云ふ灯炉〈涅槃経に見ゆ〉、唐式に云ふ灯籠〈開元式に見ゆ〉、本朝式に云ふ灯楼〈主殿寮式に見ゆ。今案ふるに三つの名、皆、通称なり〉。
燈械 楊氏漢語抄云、燈械、〈音戒、〉所󠄁以居燈盞也、
灯械 楊氏漢語抄に云はく、灯械〈音は戒〉は灯盞をく所以なりといふ。
燈臺 本朝式云、主󠄁殿寮燈臺、
灯台 本朝式に云はく、主殿寮に灯台といふ。
燈盞 唐式云、每城、燈盞七枚、〈燈盞、阿布良都歧、〉
灯盞 唐式に云はく、城毎に灯盞七枚〈灯盞は阿布良都岐あぶらつき〉といふ。
油瓶 內典云、尒時復有諸沙門等、手自作食、執持油瓶、〈阿布良賀米、〉
油瓶 内典に云はく、爾の時に、また、諸の沙門等有りて、手自ら食をし、油瓶〈阿布良賀米あぶらがめ〉を執持すといふ。
火爐 聲類云、爐、〈音盧、楊氏漢語抄云、火爐、比多歧、〉火爐、火所󠄁居也、
火炉 声類に云はく、炉〈音は盧、楊氏漢語抄に云ふ火炉、比多岐ひたき〉は火炉、火を居く所なりといふ。
火筯 弁色立成云、火筯、〈比波之、下治據反、〉
火筯 弁色立成に云ふ火筯〈比波之ひばし、下は治拠反〉。
竈〈䆫附〉 四聲字苑云、竈、〈則到反、與躁同、加万、〉炊㸑處也、文字集略云、䆫、〈七紅反、久度、〉竃後穿也、
竃〈窓付〉 四声字苑に云はく、竃〈則到反、躁と同じ、加万かま〉は炊㸑の処なりといふ。文字集略に云はく、窓〈七紅反、久度くど〉は竃の後の穿あななりといふ。

卷第五
巻第五
調度部第十四
調度部第十四
 佛塔具󠄁六十七 伽藍具󠄁六十八 僧房󠄁具󠄁六十九 祭祀具󠄁七十 文書具󠄁七十一 圖繪具󠄁七十二 征戰具󠄁七十三 弓劔具󠄁七十四 刑罸具󠄁七十五 鞍馬具󠄁七十六 鷹犬具󠄁七十七 畋獵具󠄁七十八 漁釣具󠄁七十九 農耕󠄁具󠄁八十 造󠄁作具󠄁八十一 木工具󠄁八十二 細工具󠄁八十三 鍛冶具󠄁八十四
 仏塔具六十七 伽藍具六十八 僧房具六十九 祭祀具七十 文書具七十一 図絵具七十二 征戦具七十三 弓剣具七十四 刑罰具七十五 鞍馬具七十六 鷹犬具七十七 畋猟具七十八 漁釣具七十九 農耕具八十 造作具八十一 木工具八十二 細工具八十三 鍛冶具八十四

佛塔具󠄁六十七
仏塔具六十七
塔 孫愐切韻云、齊楚曰塔、〈吐盍反、內典有多寳佛塔石塔沙塔泥塔等、〉楊越曰𪚕、〈口含反、字亦作龕、〉一云、塔下室也、
塔 孫愐切韻に云はく、斉楚は塔〈吐盍反、内典に多宝仏塔、石塔、沙塔、泥塔等有り〉と曰ひ、楊越は𪚕〈口含反、字は亦、龕に作る〉と曰ふといふ。一に云はく、塔の下の室なりといふ。
舍利 法華經云、以佛舍利起󠄁七寳塔
舎利 法華経に云はく、仏舎利を以て七宝塔を起つといふ。
檫 四聲字苑云、檫、〈初鎋反、俗云、心乃波之良、〉佛塔中心柱也、
檫 四声字苑に云はく、檫〈初鎋反、俗に云ふしん乃波之良のはしら〉は仏塔の中の心柱なりといふ。
層 梁簡文帝大愛敬寺刹下銘序云、普通󠄁三年二月建七層靈塔、〈唐韵、層音昨稜反、一音曾、重屋也、塔乃古之、〉
層 梁簡文帝大愛敬寺刹下銘序に云はく、普通三年二月に七層霊塔を建つといふ〈唐韻に層の音は昨稜反、一音に曽、重屋なり、たふ乃古之のこし〉。
露盤 梁孝元帝、有靈夢寺露盤銘
露盤 梁孝元帝に霊夢寺露盤銘有り。
火珠 楊氏漢語抄云、火珠、〈塔乃比散久賀太、〉
火珠 楊氏漢語抄に云はく、火珠〈たふ乃比散久賀太のひさくがた〉といふ。
寳鐸 四聲字苑云、鐸、〈徒落反、〉大鈴也、李德林幷州西山塔銘云、寳鐸交音、梵聲凝韻、
宝鐸 四声字苑に云はく、鐸〈徒落反〉は大鈴なりといふ。李徳林并州西山塔銘に云はく、宝鐸は音をまじへ、梵声は韻をらすといふ。
箜篌 法華經云、起󠄁七寳塔、懸諸幡盖、又云、簫笛箜篌種々儛戲、以妙音聲、歌唄讚頌、〈箜篌二音、俗云空古、〉
箜篌 法華経に云はく、七宝塔を起て、諸の幡蓋を懸くといふ。又云はく、簫笛、箜篌、種々の儛戯あり、妙音声を以て歌唄讚頌すといふ。〈箜篌の二音、俗に云ふ空古くこ

伽藍具󠄁六十八
伽藍具六十八
金堂 梁元帝入佛日殿禮拜詩云、玳瑁金堂柱、檀欒紺篠䕺、〈楊氏云、佛殿金堂也、禮堂金堂前󠄁名、〉
金堂 梁元帝仏日殿に入り礼拝する詩に云はく、玳瑁の金堂柱、檀欒の紺篠䕺といふ〈楊氏云はく、仏殿は金堂なり、礼堂は金堂の前名なりといふ〉。
講堂 金光明經云、大講堂衆會之中、
講堂 金光明経に云はく、大講堂、衆会の中といふ。
食堂 內典云、舍衞國祗陁園、食堂浴室、無備足、〈楊氏云、食堂僧食處也、寺炊爨處謂之大衆屋、本文未詳、〉
食堂 内典に云はく、舎衛国の祗陀園、食堂、浴室備へ足らずといふこと無し。〈楊氏に云はく、食堂は僧の食する処なり、寺の炊爨する処は之れを大衆屋と謂ふといふ、本文は未だつばひらかならず〉
經藏 後周󠄀王褒、有經藏願文、〈白氏文集云、東林寺經藏、〉
経蔵 後周王褒に経蔵の願文有り〈白氏文集に云ふ東林寺の経蔵〉。
寳藏 內典云、有寳藏者、心无憂慼、〈𣵀槃經文也、〉
宝蔵 内典に云はく、宝蔵有る者は心に憂慼無しといふ〈涅槃経の文なり〉。
鐘樓 褚亮鐘樓銘云、菴園寳地、李苑珠臺、形如涌出、𫝑似飛來
鐘樓 褚亮鐘楼銘に云はく、菴園の宝地、李苑の珠台、形は涌き出づるがごとく、勢ひは飛び来るに似たりといふ。
僧坊 法華經云、起󠄁塔寺、及造󠄁僧坊、〈他經等或云、僧房󠄁、〉供養衆僧、其德最勝󠄁󠄁、無量無邊、
僧坊 法華経に云はく、塔寺を起て、また僧坊〈他経等に或は云ふ僧房〉を造り、衆僧を供養するは、其の徳、最も勝れて無量無辺といふ。
浴室 內典有温室經、〈今案温室即浴室也、俗云由夜、〉
浴室 内典に温室経有り〈今案ふるに温室は即ち浴室なり、俗に云ふ由夜ゆや〉。
寳幢 華嚴經偈云、寳幢諸幡盖、〈訓波多保古、〉
宝幢 華厳経の偈に云はく、宝幢、諸幡蓋といふ〈訓は波多保古はたほこ〉。
窣堵婆 俱舍論云、破壞窣堵婆、是無間同類、〈窣音蘇骨反、〉
窣堵婆 倶舎論に云はく、窣堵婆を破壊するは是れ無間と同類といふ〈窣の音は蘇骨反〉。
幡 涅槃經云、諸香木上懸五色幡、〈波太、又見征戰具󠄁、〉
幡 涅槃経に云はく、諸香木の上に五色の幡を懸くといふ〈波太はた、又、征戦具に見ゆ〉。
盖 涅槃經云、幢幡寳盖、〈歧沼加散、又有白盖、高座上具󠄁也、〉
蓋 涅槃経に云はく、幢幡宝蓋といふ〈岐沼加散きぬがさ、又、白蓋有り、高座の上具なり〉。
花鬘 涅槃經云、種々花鬘、
花鬘 涅槃経に云はく、種々の花鬘といふ。
鐘 虞󠄁世南禪林寺鐘銘序云、乃與淸信有緣道󠄁俗四衆、共造󠄁洪鐘一口、〈洪鐘、俗云、於保加禰、〉
鐘 虞世南禅林寺鐘銘序に云はく、乃ち清信有縁の道俗四衆と共に洪鐘一口を造るといふ〈洪鐘は俗に云ふ於保加禰おほがね〉。
磬 僧淸閑題寺詩云、五色雲中鳴玉磬、千花臺上禮金佛、〈磬苦定反、宇知奈良之、又見音樂門、〉
磬 僧清閑、寺に題する詩に云はく、五色の雲中に玉磬を鳴し、千花の台上に金仏を礼すといふ〈磬は苦定反、宇知奈良之うちならし、又、音楽門に見ゆ〉。
金皷 最勝󠄁󠄁王經云、妙幢菩薩、於夜夢中大金皷、〈比良加禰、〉
金皷 最勝王経に云はく、妙幢菩薩、夜の夢中に於いて大金皷〈比良加禰ひらがね〉を見るといふ。
匳 唐韵云、匳、〈音廉、俗音輪、〉香匳、盛香器也、
匳 唐韻に云はく、匳〈音は廉、俗音は輪〉は香匳、香を盛る器なりといふ。
火舍 內典云、火舍、〈俗音化赭、〉
火舎 内典に云はく、火舎〈俗の音は化赭〉といふ。
閼伽 內典云、閼伽、〈上音遏、〉梵語也、漢言欝勃、烝煑雜香、以其汁養佛也、
閼伽 内典に云はく、閼伽〈上の音は遏〉は梵語なりといふ。漢に鬱勃と言ふは、雑香を烝煮し、其の汁を以て仏に供養すればなり。
燈明 大般若經云、上妙花鬘、乃至燈明、〈於保美阿賀之、〉
灯明 大般若経に云はく、上妙花鬘、乃至灯明〈於保美阿賀之おほみあかし〉といふ。
高座 仁王經云、建百高座
高座 仁王経に云はく、百の高座を建つといふ。

僧坊具󠄁六十九
僧坊具六十九
香炉 小品經云、以白銀香爐、燒黑沈水、供養般若
香炉 小品経に云はく、白銀の香炉を以て黒き沈水じむを焼き、般若に供養すといふ。
錫杖 錫杖經云、錫杖、亦名智杖、彰顯聖智也、亦名德杖、行功德本故也、
錫杖 錫杖経に云はく、鍚杖は亦、智杖と名く、聖智を彰顕するなり、亦、徳杖と名く、功徳を行ふ本故なりといふ。
如意 梁劉孺有如意銘
如意 梁の劉孺に如意銘有り。
三鈷 大日経䟽云、獨鈷三鈷五鈷、〈音古、俗云上聲之輕、〉
三鈷 大日経疏に云はく、独鈷、三鈷、五鈷〈音は古、俗に上声の軽と云ふ〉といふ。
金鎞 大日経䟽云、金鎞、〈邊奚反、〉
金鎞 大日経疏に云はく、金鎞〈辺奚反〉といふ。
念珠 內典有念珠經、〈今案念珠、一云數珠、見千手經、〉
念珠 内典に念珠経有り〈今案ふるに念珠は一に云ふ数珠、千手経に見ゆ〉。
跋折羅 千手經云、若爲伏一切大魔神者、當跋折羅手
跋折羅 千手経に云はく、若し一切の大魔神を降伏せんがためならば、まさに跋折羅の手に於いてすべしといふ。
白拂 千手經云、若爲身上惡障難者、當白拂手、〈白拂、波閇波良飛、〉
白払 千手経に云はく、若し身上の悪障難を除かんが為ならば、当に白払の手に於いてすべしといふ〈白払は波閉波良飛はへはらひ〉。
鉢 四聲字苑云、鉢、〈博󠄁󠄁末反、俗云波智、〉學佛道󠄁者食器也、
鉢 四声字苑に云はく、鉢〈博末反、俗に云ふ波智はち〉は仏道を学ぶ者の食器なりといふ。
漉水囊 𣵀槃經云、漉水囊、〈美豆布流比、漉音盧谷反、楊氏漢語抄云、漉取、須久比度流、〉
漉水囊 涅槃経に云はく、漉水囊〈美豆布流比みづふるひ、漉の音は盧谷反、楊氏漢語抄に云ふ漉取、須久比度流すくひとる〉といふ。
寳螺 千手經云、若爲呼一切諸天善神者、當寳螺手
宝螺 千手経に云はく、若し一切の諸天、善神を召呼せんが為ならば、当に宝螺の手に於いてすべしといふ。
水瓶 因果經云、善慧仙人、被鹿皮、執水瓶、〈美豆賀米、〉
水瓶 因果経に云はく、善慧仙人は鹿皮を被り、水瓶〈美豆賀米みづかめ〉を執るといふ。
三衣匣 金玉義林云、僧六物、其一曰三衣匣、〈俗云、佐无江乃波古、〉三衣者、一僧伽梨云大衣、二欝多羅層云中衣、三安陁會云下衣
三衣匣 金玉義林に云はく、僧の六物、其の一を三衣匣〈俗に云ふ佐無江乃波古さむえのはこ〉と曰ふといふ。三衣は、一に僧伽そうぎやを大衣と云ひ、二にうつ多羅たらそうを中衣と云ひ、三にあむ陀会だゑを下衣と云ふ。
剃刀 玄奘三藏表云、䥫剃刀一口、〈剃音他計反、去聲之輕、與涕同、剃刀加美曾利、〉
剃刀 玄奘三蔵表に云はく、鉄の剃刀一口〈剃の音は他計反、去声の軽、涕と同じ、剃刀は加美曽利かみそり〉といふ。
頭巾 內典云、世尊新剃頭髮、以衣覆頭、々巾之緣是也、
頭巾 内典に云はく、世尊、新たに頭髪を剃り、衣を以て頭を覆ふといふ。頭巾のことのもとは是れなり。
袈裟 東宮切韻云、釋氏曰、袈裟、〈加沙二音、俗云介佐、〉天竺語也、此云無垢衣、又云功德衣、孫愐曰、傳法衣、即沙門之服也、
袈裟 東宮切韻に云はく、釈氏曰はく、袈裟〈加沙の二音、俗に云ふ介佐けさ〉は天竺の語なりといふ。此に云ふ無垢衣、又云ふ功徳衣。孫愐曰はく、伝法衣は即ち沙門の服なりといふ。
橫被 內典云、昔有婬女、見阿難端正、發欲想、尒時阿難、爲藏其身、始有橫被、又名覆肩衣
横被 内典に云はく、昔、婬女有り、阿難の端正なるを見、欲想を発す、爾の時に、阿難、其の身を覆ひ蔵さんが為に始めて横被有り、又、覆肩衣と名くといふ。
衲 玄弉三藏表云、衲袈裟一領、〈衲音奴答反、字亦作納󠄁、俗云能不、一云太比、〉
衲 玄奘三蔵表に云はく、衲袈裟一領〈衲の音は奴答反、字は亦、納に作る。俗に云ふ能不のふ、一に云ふ太比だひ〉といふ。
裳 內典抄云、慈悲一切衆生慈母、故服裳、又名慈悲衣
裳 内典抄に云はく、一切の衆生を慈悲すること慈母のごとし、故に裳を服すといひ、又、慈悲衣と名く。
座具󠄁 金玉義林云、僧六物、其三曰座具󠄁
座具 金玉義林に云はく、僧の六物の其の三を座具と曰ふといふ。
草座 因果經云、於是菩薩、以草爲座、
草座 因果経に云はく、是に菩薩、草を以て座と為すといふ。
鹿杖 漢語抄云、鹿杖、〈加勢都惠、〉
鹿杖 漢語抄に云はく、鹿杖〈加勢都恵かせづゑ〉といふ。

祭祀具󠄁七十
祭祀具七十
木綿 本草經注󠄁云、木綿、〈由布、〉折之多白絲者也、
木綿 本草経注に云はく、木綿〈由布ゆふ〉は、之れを折れば白糸多き者なりといふ。
龍眼木 楊氏漢語抄云、龍眼木、〈佐賀歧、今案龍眼木者、其子名也、見本草、〉日本紀私記云、坂樹刺立、以爲神之木、〈今案、本朝式用賢木二字、漢語抄用榊字、並未詳、〉
龍眼木 楊氏漢語抄に云はく、龍眼木〈佐賀岐さかき、今案ふるに龍眼木は其のの名なり、本草に見ゆ〉といふ。日本紀私記に云はく、坂樹を刺し立て、以て神を祭るの木と為すといふ〈今案ふるに本朝の式に賢木の二字を用ゐ、漢語抄に榊の字を用ゐる、並びに未だ詳かならず〉。
蘿鬘 日本紀私記云、爲鬘以蘿、〈比加介加都良、〉
蘿鬘 日本紀私記に云はく、鬘を為すに蘿〈比加介加都良ひかげかづら〉を以てすといふ。
幣󠄁帛 禮記注󠄁云、幣󠄁、〈音弊󠄁、美天久良、〉今江東云幣󠄁帛、
幣帛 礼記注に云はく、幣〈音は弊、美天久良みてぐら〉は今、江東に云ふ幣帛といふ。
偶人 史記云、土偶人、木偶人、〈偶音五狗反、俗云比度加太、〉野王案、凡刻削󠄁物、爲人像、皆曰偶人
偶人 史記に云はく、土偶人、木偶人といふ〈偶の音は五狗反、俗に云ふ比度加太ひとがた〉。野王案ずるに、凡そ物を刻み削り人像と為すは皆、偶人と曰ふとす。
蒭靈 日本紀私記云、蒭靈、〈久散比度賀太、〉
蒭霊 日本紀私記に云はく、蒭霊〈久散比度賀太くさひとがた〉といふ。
紙錢 新樂府云、神之來兮風飄々、紙錢動兮錦繖搖、〈紙錢、俗云加美勢邇、一云勢邇賀太、〉
紙銭 新楽府に云はく、神の来たるや風飄々たり、紙銭動くや錦繖も揺るといふ〈紙銭は俗に云ふ加美勢邇かみぜに、一に云ふ勢邇賀太ぜにがた〉。
玉籤 日本紀云、玉籤、〈下音七廉反、多万久之、〉
玉籤 日本紀に云ふ玉籤〈下の音は七廉反、多万久之たまぐし〉。
神籬 日本紀私記云、神籬、〈俗云比保路歧、〉
神籬 日本紀私記に云ふ神籬〈俗に云ふ比保路岐ひぼろき〉。
葦索 蔡邕獨斷云、懸葦索、〈阿之乃奈波、〉於門戶、以禦凶也、
葦索 蔡邕独断に云はく、葦索〈阿之乃奈波あしのなは〉を門戸に懸け、以て凶を禦ぐなりといふ。
注󠄁連 顔氏家訓云、注󠄁連章斷、〈師說、注󠄁連、之梨久倍奈波、章斷、之度太智、〉日本紀私記云、端出之繩、〈讀與注󠄁連同、〉
注連 顔氏家訓に云はく、注連して章断すといふ〈師説に注連は之梨久倍奈波しりくべなは、章断は之度太智しとだち〉といふ。日本紀私記に云ふ端出之縄〈読みて注連と同じ〉。
葉椀 本朝式云、十一月辰日宴會、其飯器、參議以上朱漆椀、五位以上葉椀、〈久保天、〉
葉椀 本朝式に云はく、十一月辰日の宴会に其の飯器、参議以上は朱漆椀、五位以上は葉椀〈久保天くぼて〉にせよといふ。
葉手 漢語抄云、葉手、〈比良天、〉
葉手 漢語抄に云ふ葉手〈比良天ひらで〉。
粢餠 陸詞切韻云、粢、〈音姿、又疾脂反、漢語抄云、粢餠、之度歧、〉祭餠也、
粢餅 陸詞切韻に云はく、粢〈音は姿、又、疾脂反、漢語抄に云ふ粢餅、之度岐しとぎ〉は祭の餅なりといふ。
粿米 唐韵云、粿、〈音果、漢語抄云、粿米、加之與禰、〉淨米也、
粿米 唐韻に云はく、粿〈音は果、漢語抄に云ふ粿米、加之与禰かしよね〉は浄米なりといふ。
神酒 日本紀私記云、神酒、〈美和、〉
神酒 日本紀私記に云ふ神酒〈美和みわ〉。
糈米 離騷經注󠄁云、糈、〈私呂反、久万之禰、〉精米所󠄁以享__神也、
糈米 離騒経注に云はく、糈〈私呂反、久万之禰くましね〉は精米を神に享する所以なりといふ。
犧牲 禮記云、祭禮供犧牲、〈二音羲生、論語注、󠄁牲生曰餼、餼音氣、訓伊介邇倍、〉
犠牲 礼記に云はく、祭礼に犧牲〈二音で羲生、論語注に牲の生けるを餼と曰ひ、餼の音は気、訓は伊介邇倍いけにへ〉を供すといふ。
寳倉 漢語抄云、寳倉、〈保久良、一云神殿、〉
宝倉 漢語抄に云ふ宝倉〈保久良ほくら、一に云ふ神殿〉。
瑞籬 日本紀私記云、瑞籬、〈俗云美豆加歧、一云以賀歧、〉
瑞籬 日本紀私記に云ふ瑞籬〈俗に云ふ美豆加岐みづかき、一に云ふ以賀岐いがき〉。

文書具󠄁七十一
文書具七十一
筆 張華博󠄁󠄁物志云、蒙恬造󠄁筆、〈古文作笔、布美天、〉
筆 張華博物志に云はく、蒙恬、筆〈古文に笔に作る、布美天ふみて〉を造るといふ。
稾筆 郭知玄云、古者以稾爲筆、〈稾筆、和良不美手、〉書訖、以刀刻於板也、
稾筆 郭知玄云はく、古は稾を以て筆〈稾筆、和良不美手わらふみて〉と為し、書し訖りて刀を以て板に刻むなりといふ。
墨〈挺字附〉 蔣魴曰、墨、〈音目、須美、〉以松栢煙膠合成也、唐秘書省式云、寫書料每月大墨一挺、〈今案俗用廷字、未詳、〉
墨〈挺字付〉 蒋魴曰はく、墨〈音は目、須美すみ〉は松栢の煙を以て膠に和し合成するなりといふ。唐秘書省式に云はく、写書料は毎月、大墨一挺とせよといふ〈今案ふるに俗に廷の字を用ゐる、未だ詳かならず〉。
硯 書譜云、用硯之法、石爲第一、瓦爲第二、〈硯音五甸反、須美須利、〉
硯 書譜に云はく、硯を用ゐるの法は、石を第一と為し、瓦を第二と為す〈硯の音は五甸反、須美須利すみすり〉。
水滴器 御覽等目錄云、水滴器、〈今案、須美須理賀米、〉
水滴器 御覧等目録に云ふ水滴器〈今案ふるに須美須理賀米すみすりがめ〉。
筆臺 漢語抄云、筆臺、〈比知太伊、〉
筆台 漢語抄に云ふ筆台〈比知太伊ひちだい〉。
紙 兼名苑注󠄁云、紙、〈古文作帋、賀美、紙有色紙檀紙榖紙紙屋紙松紙河苔紙斐紙薄用紙等名、〉後漢和帝時、蔡倫所󠄁造󠄁也、
紙 兼名苑注に云はく、紙〈古文に帋に作る、賀美かみ。紙に色紙、檀紙、穀紙、紙屋紙、松紙、河苔紙、斐紙、薄用紙等の名有り〉、後漢の和帝の時、蔡倫が造る所なりといふ。
反故 齊春秋云、沈麟士字雲禎、少淸貧無紙、以飜故書寫數千卷、
反故 斉春秋に云はく、沈麟士、あざなは雲禎、をさなきより清貧にして紙無し、飜故を以て書写すること数千巻といふ。
褾帋 唐式云、染麻紙廿五張、穀紙五十張、褾帋廿張、〈褾音方小反、袖端也、見唐韵、〉
褾帋 唐式に云はく、染麻紙二十五張、穀紙五十張、褾帋二十張〈褾の音は方小反、袖の端なり、唐韻に見ゆ〉といふ。
軸 要覽云、二王暮年書勝󠄁於少、其縑素書、以珊瑚軸、紙書以金爲軸、次瑇瑁栴檀爲軸、〈直六反、見車具󠄁、〉
軸 要覧に云はく、二王の暮年の書はわかきより勝れり、其の縑素の書には珊瑚を以て軸と為し、紙書には金を以て軸と為し、次には瑇瑁、栴檀を軸〈直六反、車具に見ゆ〉と為すといふ。
帙 四聲字苑云、帙、〈直質反、字亦作袠、〉所󠄁以裹__書也、兼名苑云、一名書衣、
帙 四声字苑に云はく、帙〈直質反、字は亦、袠に作る〉は書を裹む所以なりといふ。兼名苑に云はく、一名は書衣といふ。
籖 玉篇云、籖、〈曹廉反、俗人云去聲、〉驗也、一曰銳貫也、
籖 玉篇に云はく、籖〈曹廉反、俗人に云ふ去声〉は験すなり、一は曰ふ鋭貫なりといふ。
笈 唐韻云、笈、〈音挿、又其輙反、不美波古、又用凾字、音咸、〉𧴥書箱也、風土記云、學士所󠄁以𧴥__書、狀如冠箱而卑、
笈 唐韻に云はく、笈〈音は挿、又、其輙反、不美波古ふみはこ、又、凾の字を用ゐる、音は咸〉は書を負ふ箱なりといふ。風土記に云はく、学士の書を負ふ所以はかたち、冠箱のごとくしてひきといふ。
書櫃 白氏文集云、破栢作書櫃、〈布美比都、〉
書櫃 白氏文集に云はく、栢を破り書櫃〈布美比都ふみひつ〉を作るといふ。
書案 梁簡文帝有書案銘、〈書案、俗云不美都久惠、〉
書案 梁の簡文帝に書案銘有り〈書案は俗に云ふ不美都久恵ふみづくゑ〉。
簡札 野王案、簡、〈古限反、不美太、〉所󠄁以寫書記__事者也、兼名苑云、牘、〈音讀、〉一名札、〈音察、〉簡也、
簡札 野王案ずるに、簡〈古限反、不美太ふみた〉は書を写し事を記す所以の者なりとす。兼名苑に云はく、牘〈音は読〉、一名は札〈音は察〉、簡なりといふ。
牒〈帖附〉 說文云、牒、〈徒協反、〉札長一尺二寸也、文字集略云、帖、〈音同上、〉請物䟽也、唐韻云、䟽、〈去聲、〉記䟽也、
牒〈帖付〉 説文に云はく、牒〈徒協反〉は札、長さ一尺二寸なりといふ。文字集略に云はく、帖〈音は上に同じ〉は物を請ふ疏なりといふ。唐韻に云はく、疏〈去声〉は記疏なりといふ。
牓示 孫愐切韵云、牓、〈博󠄁󠄁朗反、〉題示也、
牓示 孫愐切韻に云はく、牓〈博朗反〉は題示なりといふ
戶籍 文字集略云、籍、〈音席、和名與簡札同、〉民戶之書、古以版、今黃帋、野王案、凡書於簡札、皆謂之籍也、
戸籍 文字集略に云はく、籍〈音は席、和名は簡札と同じ〉は民戸の書、古は版を以てす、今の黄帋といふ。野王案ずるに、凡そ簡札に書するは皆、之れを籍と謂ふなりとす。
版位 唐儀制令云、諸版位、〈俗云變爲二音、〉百官一品以下、各方七寸厚一寸半󠄁、〈版字、亦作板字也、野王案、以木爲書籍、是也、〉
版位 唐儀制令に云はく、諸の版位〈俗に云ふ変為の二音〉は百官の一品以下、各方七寸、厚さ一寸半といふ〈版の字は亦、板の字に作るなり。野王案ずるに、木を以て書籍と為すは是れなりとす〉。
筭 說文云、筭、〈蘇貫反、俗音殘、〉長六寸、以計曆數也、
筭 説文に云はく、筭〈蘇貫反、俗に音は残〉は長さ六寸、以て暦数を計るなりといふ。
曆 漢書律曆志云、黃帝造󠄁曆、〈音曆、古與美、〉
暦 漢書律暦志に云はく、黄帝、暦〈音は暦、古与美こよみ〉を造るといふ。

圖繪具󠄁七十二〈野王案、圖、〈音徒、〉畫物像也、郭知玄云、畫、〈音卦、〉丹靑所󠄁圖也、釋名云、繪會五采也、〉
図絵具七十二〈野王案ずるに、図〈音は徒〉は物の像を画くなりとす。郭知玄に云はく、画〈音は卦〉は丹青にてえがく所なりといふ。釈名に云はく、絵は五采に会ふなりといふ〉
丹砂 考聲切韻云、丹砂、〈丹音都寒反、邇、〉似朱砂而不鮮明者也、
丹砂 考声切韻に云はく、丹砂〈丹の音は都寒反、〉は朱砂に似て鮮明ならざる者なりといふ。
朱砂 本草云、朱砂㝡上者謂之光明沙
朱砂 本草に云はく、朱砂の最も上なる者は之れを光明沙と謂ふといふ。
燕支 西河舊事云、焉支山出丹、〈今案、以所󠄁出山名名也、焉支煙󠄁支燕支燕脂、皆通󠄁用之、〉
燕支 西河旧事に云はく、焉支山より丹を出だすといふ〈今案ふるに、出づる所の山の名を以て名と為すなり、焉支、煙支、燕支、燕脂、皆、通じて之れを用ゐる〉。
靑黛 漢語抄云、靑黛、
青黛 漢語抄に云ふ青黛。
空靑 丹口决云、空靑、一名曾靑、
空青 丹口决に云はく、空青、一名は曽青といふ。
金靑 本草稽疑云、金靑者、空靑之㝡上也、
金青 本草稽疑に云はく、金青は空青の最上なりといふ。
白靑 蘇敬本草注󠄁云、白靑、一名魚目靑、形似魚目、故以名之、
白青 蘇敬本草注に云はく、白青、一名は魚目青、形、魚の目に似る、故に以て之れを名くといふ。
綠靑 本草云、緣靑、一名碧靑、〈綠靑、俗云祿省、〉
緑青 本草に云はく、縁青、一名は碧青といふ〈緑青は俗に云ふ禄省〉。
雌黃 兼名苑云、雌黃、一名金液、〈雌黃、俗云之王、〉山有金、其精熏則生雌黃耳、
雌黄 兼名苑に云はく、雌黄、一名は金液といふ〈雌黄は俗に云ふ之王〉。山に金有り、其の精を熏するときには雌黄を生ずるのみ。
銅黃 漢語抄云、同黃、
銅黄 漢語抄に云ふ同黄。
胡粉 張華博󠄁󠄁物志云、燒錫成胡粉
胡粉 張華博物志に云はく、錫を焼き胡粉と成すといふ。

征戰具󠄁七十三
征戦具七十三
幡〈旒附〉 考工記云、幡、〈音翻󠄁、波太、〉旌旗、〈精期二音、〉之惣名也、唐韻云、旒、〈音流、波太阿之、〉旌旗之末垂者也、
幡〈旒付〉 考工記に云はく、幡〈音は翻、波太はた〉は旌旗〈精期の二音〉の惣名なりといふ。唐韻に云はく、旒〈音は流、波太阿之はたあし〉は旌旗の末の垂るる者なりといふ。
甲 唐韻云、鎧、〈苦蓋反、與路比、〉甲也、釋名云、甲、似物之有鱗甲也、
甲 唐韻に云はく、鎧〈苦蓋反、与路比よろひ〉は甲なりといふ。釈名に云はく、甲は物の鱗甲有るに似るなりといふ。
胄 說文云、胄、〈音宙、賀布度、〉首鎧也、
胄 説文に云はく、胄〈音は宙、賀布度かぶと〉は首鎧なりといふ。
楯 兼名苑云、楯、〈食尹反、上聲之重、太天、〉一名樐、〈音魯、〉蚩尤造󠄁也、
楯 兼名苑に云はく、楯〈食尹反、上声の重、太天たて〉、一名は樐〈音は魯〉、蚩尤が造るなりといふ。
步楯 釋名云、狹而長曰步楯、〈天太天、〉步兵所󠄁持也、
歩楯 釈名に云はく、狭くして長きを歩楯〈天太天てだて〉と曰ひ、歩兵の持つ所なりといふ。
弓 四聲字苑云、弓、〈音宮、由美、〉所以遣󠄁__箭之器也、釋名云、弓末曰彇、〈音蕭、由美波數、〉中央曰弣、〈音撫、由美都賀、〉
弓 四声字苑に云はく、弓〈音は宮、由美ゆみ〉は箭を遣る所以の器なりといふ。釈名に云はく、弓の末を彇〈音は蕭、由美波数ゆみはず〉と曰ひ、中央を弣〈音は撫、由美都賀ゆみつか〉と曰ふといふ。
弩 兼名苑注󠄁云、弩、〈音怒、於保由美、〉黃帝造󠄁也、
弩 兼名苑注に云はく、弩〈音は怒、於保由美おほゆみ〉は黄帝が造るなりといふ。
角弓 尒雅注󠄁云、弭、〈亡耳反、都能由美、〉今之角弓也、
角弓 爾雅注に云はく、弭〈亡耳反、都能由美つのゆみ〉は今の角弓なりといふ。
彈弓 唐韻云、彈*原本ナシ、〈徒丹反、去聲、俗音暖󠄁宮、〉放丸弓也、文字集略云、竹弦弓、
弾弓 唐韻に云はく、弾弓〈徒丹反、去声、俗の音は暖宮〉は丸を放つ弓なりといふ。文字集略に云ふ竹弦の弓。
靫 釋名云、步人所󠄁帶曰靫、〈初牙反、由歧、〉以箭叉其中也、
靫 釈名に云はく、歩人の帯する所を靫〈初牙反、由岐ゆぎ〉と曰ひ、箭を以て其の中にすなりといふ。
箙 周󠄀禮注󠄁云、箙、〈音服、夜奈久比、唐令用胡籙二字、〉盛矢器也、唐韵云、箶簏、〈胡鹿二音、〉箭室也、
箙 周礼注に云はく、箙〈音は服、夜奈久比やなぐひ、唐令に胡籙の二字を用ゐる〉は矢をるる器なりといふ。唐韻に云はく、箶簏〈胡鹿の二音〉は箭の室なりといふ。
箭 釋名云、笶、〈音矢、夜、〉其體曰簳、〈音幹、夜賀良、〉其旁曰羽、〈去聲、〉其足曰鏑、〈音的、〉或謂之鏃、〈子毒楚角才木三反、訓夜佐岐、俗云夜之利、〉唐韵云、筈、〈古活反、夜波須、〉箭受弦處也、
箭 釈名に云はく、笶〈音は矢、〉は其の体を簳〈音は幹、夜賀良やがら〉と曰ひ、其の旁を羽〈去声〉と曰ひ、其の足を鏑〈音は的〉と曰ひ、或に之れを鏃〈子毒、楚角、才木の三反、訓は夜佐岐やさき、俗に云ふ夜之利やじり〉と謂ふといふ。唐韻に云はく、筈〈古活反、夜波須やはず〉は箭の弦を受くる処なりといふ。
征箭 唐式云、諸府衞士、人別弓一張、征箭卅隻、〈征箭、曾夜、〉
征箭 唐式に云はく、諸府の衛士は人別に弓一張、征箭三十隻といふ〈征箭は曽夜そや〉。
鳴箭 漢書音義云、鳴鏑、〈日本紀私記云、八目鏑、夜豆女加布良、〉如今之鳴箭也、
鳴箭 漢書音義に云はく、鳴鏑〈日本紀私記に云ふ八目鏑、夜豆女加布良やつめかぶら〉は今の鳴箭のごときなりといふ。
平󠄁題箭 楊雄方言云、鏃不鋭者謂之平󠄁題、〈以太都歧、〉郭璞曰、題猶頭也、今之戱射箭也、
平題箭 楊雄方言に云はく、鏃の鋭かざる者は之れを平題〈以太都岐いたづき〉と謂ふといふ。郭璞曰はく、題は猶ほ頭のごときなり、今の戯射の箭なりといふ。
刀 四聲字苑云、似劔而一刃󠄁曰刀、〈都窂反、大刀太知、小刀賀太奈、〉
刀 四声字苑に云はく、剣に似て一刃なるを刀〈都窂反、大刀は太知たち、小刀は賀太奈かたな〉と曰ふといふ。
長刀 唐令云、銀裝長刀、又云、細刀、〈之路加禰都久利乃奈加太知、細刀、保曾太知、〉
長刀 唐令に云ふ銀装の長刀、又云ふ細刀〈之路加禰都久利乃奈加太知しろかねづくりのながたち、細刀は保曽太知ほそだち〉。
短刀 兼名苑云、刺刀、〈能太知、〉短刀也、
短刀 兼名苑に云はく、刺刀〈能太知のだち〉は短刀なりといふ。
劔 四聲字苑云、似刀而兩刃󠄁曰劔、〈𦦙欠反、今案僧家所󠄁持是也、〉
剣 四声字苑に云はく、刀に似て両刃なるを剣〈挙欠反、今案ふるに僧家の持つ所は是れなり〉と曰ふといふ。
屬鏤 廣雅云、屬鏤、〈力朱反、文選󠄁讀、豆流歧、〉劔也、
属鏤 広雅に云はく、属鏤〈力朱反、文選の読みは豆流岐つるぎ〉は剣なりといふ。
鈇鉞 唐韻云、干鏚、〈音戚、〉鈇鉞、〈府越二音、万佐賀利、鈇、亦作斧、〉
鈇鉞 唐韻に云はく、干鏚〈音は戚〉は鈇鉞〈府越の二音、万佐賀利まさかり、鈇は亦、斧に作る〉といふ。
叉 六韜云、叉、〈初牙反、文選󠄁叉簇讀比之、今案、簇即鏃字也、〉兩歧䥫柄、長六尺、
叉 六韜に云はく、叉〈初牙反、文選に叉簇を比之ひしと読む。今案ふるに簇は即ち鏃の字なり〉は両岐の鉄柄、長さ六尺といふ。
戟 楊雄方言云、戟、〈几劇反、保古、〉或謂之干、或謂之戈、〈古禾反、〉
戟 楊雄方言に云はく、戟〈几劇反、保古ほこ〉は或に之れを干と謂ひ、或に之れを戈〈古禾反〉と謂ふといふ。
矛 釋名云、手戟曰矛、〈音謀、字亦作鉾、天保古、〉人所󠄁持也、
矛 釈名に云はく、手戟を矛〈音は謀、字は亦、鉾に作る、天保古てぼこ〉と曰ひ、人の持つ所なりといふ。
旝 四聲字苑云、旝、〈音膾、以之波之歧、〉建大木、置石其上、發機以投敵也、
旝 四声字苑に云はく、旝〈音は膾、以之波之岐いしはじき〉は、大木を建て、石を其の上に置き、機を発し以て敵に投ぐるなりといふ。
角 兼名苑注󠄁云、角、〈楊氏漢語抄云、大角、波良乃布江、小角、久太乃布江、〉本出胡中、或云、出吳越、以𧰼龍吟也、
角 兼名苑注に云はく、角〈楊氏漢語抄に云ふ大角は波良乃布江はらのふえ、小角は久太乃布江くだのふえ〉はもと、胡中より出づといふ。或に云はく、呉越より出で、以て龍吟に象るなりといふ。

弓劔具󠄁七十四
弓剣具七十四
檠〈揉字附〉 野王案、㯳、〈音敬、又音鯨、由美多女、〉所󠄁以正弓弩也、四聲字苑云、揉、〈人久反、字亦作煣、訓太无、〉以火屈申木也、
檠〈揉字付〉 野王案ずるに、㯳〈音は敬、又の音は鯨、由美多女ゆみだめ〉は弓弩を正す所以なりとす。四声字苑に云はく、揉〈人久反、字は亦、煣に作る、訓は太無たむ〉は火を以て木を屈めぶるなりといふ。
弦 說文云、弦、〈音與絃同、由美都流、〉弓弩弦也、
弦 説文に云はく、弦〈音は絃と同じ、由美都流ゆみづる〉は弓弩の弦なりといふ。
弓袋 說文云、韔、〈音悵、由美布久路、〉弓袋也、唐式云、弓袋、
弓袋 説文に云はく、韔〈音は悵、由美布久路ゆみぶくろ〉は弓袋なりといふ。唐式に云ふ弓袋。
弦袋 唐式云、諸府衞士弦袋、〈由美都流布久路、〉
弦袋 唐式に云はく、諸府の衛士に弦袋〈由美都流布久路ゆみづるぶくろ〉といふ。
欛 唐韻云、欛、〈音覇、太知乃都加、〉劔柄也、考工記云、劔莖、〈今案即欛也、〉人所󠄁握鐔以上也、
欛 唐韻に云はく、欛〈音は覇、太知乃都加たちのつか〉は剣の柄なりといふ。考工記に云はく、剣茎〈今案ふるに即ち欛なり〉は人の握る所、鐔以上なりといふ。
鮫皮 仁𧩑本草音義云、鮫魚皮、〈鮫音交、佐女乃加波、〉裝刀欛者也、
鮫皮 仁諝本草音義に云はく、鮫魚皮〈鮫の音は交、佐女乃加波さめのかは〉は刀欛を装ふ者なりといふ。
鐔 唐韻云、鐔、〈音尋󠄁、一音潭、都美波、〉劔鼻也、
鐔 唐韻に云はく、鐔〈音は尋、一音に潭、都美波つみは〉は剣の鼻なりといふ。
𩏪䪝 唐韻云、𩏪䪝、〈宅護二音、下音又濩、於比度利、〉佩刀把中皮也、
𩏪䪝 唐韻に云はく、𩏪䪝〈宅護の二音、下の音は又、濩、於比度利おびとり〉は佩刀の把の中皮なりといふ。
劔鞘  郭璞方言注󠄁云、鞞、〈音卑、〉劔鞘也、唐韻云、鞘、〈私妙反、佐夜、〉刀室也、
剣鞘  郭璞方言注に云はく、鞞〈音は卑〉は剣の鞘なりといふ。唐韻に云はく、鞘〈私妙反、佐夜さや〉は刀室なりといふ。
劔韜 說文云、韜、〈土刀反、太知不久路、〉劔衣也、
剣韜 説文に云はく、韜〈土刀反、太知不久路たちぶくろ〉は剣衣なりといふ。

刑罰具󠄁七十五
刑罰具七十五
笞 唐令云、笞、〈音知、之毛度、〉大頭二分、小頭一分半󠄁、
笞 唐令に云はく、笞〈音は知、之毛度しもと〉、大頭は二分、小頭は一分半といふ。
杖 唐令云、諸杖、〈音仗、都惠、〉皆削󠄁去節目、長三尺五寸許、
杖 唐令に云はく、諸杖〈音は仗、都恵つゑ〉は皆、節目を削り去り、長さは三尺五寸許といふ。
棒 蔣魴切韻云、棒、〈音蚌、字亦作㭋、俗音方、〉杖名也、
棒 蒋魴切韻に云はく、棒〈音は蚌、字は亦、㭋に作る、俗の音は方〉は杖の名なりといふ。
盤枷 唐令云、若無鉗者著盤枷、〈音加、日本紀私記云、久比加之、〉
盤枷 唐令に云はく、若し鉗無き者は盤枷〈音は加、日本紀私記に云ふ久比加之くびかし〉を著けよといふ。
鉗 漢書注󠄁云、鉗、〈奇炎反、加奈歧、〉以䥫束頸也、野王案、釱、〈徒盖反、和名同上、〉脰沓也、
鉗 漢書注に云はく、鉗〈奇炎反、加奈岐かなき〉は鉄を以て頸を束ぬるなりといふ。野王案ずるに、釱〈徒盖反、和名は上に同じ〉は脰沓なりとす。
杻 玉篇云、杻、〈漢語抄云、天加之、今案、又木名也、以音可分、杻械之杻、勑久反、杻橿之杻、女久反、〉械也、說文云、梏、〈音酷、〉手械也、
杻 玉篇に云はく、杻〈漢語抄に云ふ天加之てかし、今案ふるに、又、木の名なり。音を以て分つべし、杻械の杻は勅久反、杻橿の杻は女久反〉は械なりといふ。説文に云はく、梏〈音は酷〉は手械なりといふ。
械 四聲字苑云、械、〈胡界反、阿之賀之、〉穿木加足也、說文云、桎、〈音質、〉足械也、
械 四声字苑に云はく、械〈胡界反、阿之賀之あしかし〉は木を穿ちて足に加ふるなりといふ。説文に云はく、桎〈音は質〉は足械なりといふ。
鋜 蔣魴切韻云、鋜、〈士角反、加奈保太之、〉鏁足具󠄁也、
鋜 蒋魴切韻に云はく、鋜〈士角反、加奈保太之かなほだし〉は足をつなぐ具なりといふ。
鏁 唐韻云、鏁、〈蘇果反、日本紀私記云、加奈都賀利、〉䥫鏁也、
鏁 唐韻に云はく、鏁〈蘇果反、日本紀私記に云ふ加奈都賀利かなつがり〉は鉄鏁なりといふ。
箯輿 漢書注󠄁云、箯輿、〈上音鞭、阿美以太、〉編󠄁竹木輿也、
箯輿 漢書注に云はく、箯輿〈上の音は鞭、阿美以太あみいた〉は竹木を編み輿と為すなりといふ。
獄 四聲字苑云、獄、〈語欲反、比度夜、〉窂、罪人所󠄁也、唐韻云、囹圄、〈靈語二音、〉獄名也、
獄 四声字苑に云はく、獄〈語欲反、比度夜ひとや〉は窂、人を罪する所なりといふ。唐韻に云はく、囹圄〈霊語の二音〉は獄の名なりといふ。

鞍馬具󠄁七十六
鞍馬具七十六
鞍〈鞁鞍附〉 說文云、鞍、〈音安、字或作鞌、久良、俗云、有唐鞍移鞍結鞍等名、〉馬鞁也、蔣魴切韻云、鞁、〈音被、楊氏漢語抄云、鞁鞍、久良於久、〉以鞍駕馬也、卸、〈司夜反、楊氏曰、缷鞍、久良於路須、〉除鞍也、
鞍〈鞁鞍付〉 説文に云はく、鞍〈音は安、字は或に鞌に作る、久良くら、俗に云はく、唐鞍、移鞍、結鞍等の名有りといふ〉は馬鞁なりといふ。蒋魴切韻に云はく、鞁〈音は被、楊氏漢語抄に云ふ鞁鞍、久良於久くらおく〉は鞍を以て馬にるなり、卸〈司夜反、楊氏の曰ふ卸鞍、久良於路須くらおろす〉は鞍を除くなりといふ。
鞍橋 楊氏漢語抄云、鞍橋、〈久良保禰、〉一云、鞍瓦、
鞍橋 楊氏漢語抄に云ふ鞍橋〈久良保禰くらぼね〉、一に云ふ鞍瓦。
鞍褥 楊氏漢語抄云、鞍褥、〈久良之歧、俗云、宇波之歧、〉
鞍褥 楊氏漢語抄に云ふ鞍褥〈久良之岐くらじき、俗に云ふ宇波之岐うはじき〉。
屟脊 蔣魴切韻云、屟、〈思協反、屟脊、奈女、〉鞍下屟脊也、
屟脊 蒋魴切韻に云はく、屟〈思協反、屟脊は奈女なめ〉は鞍下の屟脊なりといふ。
韉〈〓〔革偏に免+免〕附〉 唐韻云、韉、〈則前反、之太久良、〉鞍韉也、〓〔革偏に免+免〕、〈仕陷反、今案、俗云、駒韉歟、〉韉之短也、
韉〈䪌付〉 唐韻に云はく、韉〈則前反、之太久良したぐら〉は鞍韉なり、䪌〈仕陥反、今案ふるに俗に云ふ駒韉か〉は韉の短きなりといふ。
[接鞦 楊氏云、接鞦、〈四里加歧豆介、一云鞦根、云師利手戶加木津介、又志保天、〉]
[接鞦 楊氏の云ふ接鞦〈四里加歧豆介しりがきつけ、一に云ふ鞦根、云はく、師利保手戸加木津介しりほでへかきつけ、又、志保天しほでといふ〉]
鞖 考聲切韻云、鞖、〈碎回反、之保天、〉穿鞍橋皮也、
鞖 考声切韻に云はく、鞖〈砕回反、之保天しほで〉は鞍橋を穿つ皮なりといふ。
鞦 唐式云、諸蕃入朝調度、帳幕鞍韉鞦轡、量事供給、〈鞦音秋、之利賀歧、〉
鞦 唐式に云はく、諸蕃、入朝の調度に帳、幕、鞍、韉、鞦、轡、事を量り供給せよといふ。〈鞦の音は秋、之利賀岐しりがき
當胷 後漢書云、拔佩刀、截馬當胷、〈楊氏漢語抄云班胷、无奈賀歧、〉
当胸 後漢書に云はく、佩刀を抜き、馬の当胸〈楊氏漢語抄に云ふ班胸、無奈賀岐むながき〉を截るといふ。
杏葉 辨色立成云、杏葉、〈和名俾良、〈已上本注󠄁、〉俗云行衣布、〉
杏葉 弁色立成に云ふ杏葉〈和名は俾良ひら〈已上は本注〉、俗に云ふぎやう衣布えふ〉。
𩍺 唐韵云、𩍺、〈音吹、〉鞍鞘也、楊氏漢語抄云、鞍鞘、〈加禮比都氣、〉
𩍺 唐韻に云はく、𩍺〈音は吹〉は鞍鞘なりといふ。楊氏漢語抄に云ふ鞍鞘〈加礼比都気かれひつけ〉。
雲珠 辨色立成云、雲珠、〈宇須、今案雲母一名也、爲馬飾󠄁、未詳、〉
雲珠 弁色立成に云ふ雲珠〈宇須うず、今案ふるに雲母の一名なり、馬の飾りと為すは未だ詳かならず〉。
腹帶 唐韻云、纕、〈息良反、波良於比、〉馬腹帶也、
腹帯 唐韻に云はく、纕〈息良反、波良於比はらおび〉は馬の腹帯なりといふ。
鞶 周󠄀禮注󠄁云、鞶、〈音盤、宇波々良於比、〉馬大帶也、
鞶 周礼注に云はく、鞶〈音は盤、宇波波良於比うははらおび〉は馬の大帯なりといふ。
鐙 蔣魴切韻云、鐙、〈都鄧反、阿布美、〉鞍兩邊承脚具󠄁也、
鐙 蒋魴切韻に云はく、鐙〈都鄧反、阿布美あぶみ〉は鞍の両辺に脚を承くる具なりといふ。
鐙靻 楊氏漢語抄云、鎧靻、〈美豆乎、下音祖、〉一云、鐙靳、〈音斤、去聲、〉
鐙靻 楊氏漢語抄に云ふ鎧靻〈美豆乎みづを、下の音は祖〉、一に云ふ鐙靳〈音は斤、去声〉。
逆󠄁靻 楊氏漢語抄云、逆󠄁靻、〈知賀良加波、〉一云、逆󠄁靳、
逆靻 楊氏漢語抄に云ふ逆靻〈知賀良加波ちからがは〉、一に云ふ逆靳。
障泥 唐韻云、𩌬、〈音章、〉障泥、〈阿布利、〉鞍飾󠄁也、西京雜記云、玫瑰鞍、以綠地錦蔽泥、〈今案即泥障也、〉後稍以熊羆皮之、
障泥 唐韻に云はく、𩌬〈音は章〉は障泥〈阿布利あふり〉、鞍の飾りなりといふ。西京雑記に云はく、玫瑰鞍は緑地の錦を以て蔽泥〈今案ふるに即ち泥障なり〉と為し、後に稍く熊、羆の皮を以て之れと為すといふ。
鞍帊 楊氏漢語抄云、鞍帊、〈久良於保比、下芳覇反、〉
鞍帊 楊氏漢語抄に云ふ鞍帊〈久良於保比くらおほひ、下は芳覇反〉。
金𲋸 蔡邕獨斷云、金𲋸、〈下亡犯反、字亦作鋄、今案俗云銀面之昌蒲形、是、〉馬冠也、高廣各五寸、上如三華形者也、
金𲋸 蔡邕独断に云はく、金𲋸〈下は亡犯反、字は亦、鋄に作る。今案ふるに、俗に云ふ銀面の昌蒲形は是れ〉は馬の冠なり、高さ広さ各五寸、上は三華の形のごとき者なりといふ。
尾韜 考聲切韻云、紛、〈音分、俗云尾袋、〉所以韜馬尾也、
尾韜 考声切韻に云はく、紛〈音は分、俗に云ふ尾袋〉は馬の尾をつつむ所以なりといふ。
鑣 說文云、鑣、〈音飄、訓久都波美、一云久々美、〉馬銜也、兼名苑云、鑣一名勒、野王案、勒、〈盧則反、〉馬口中䥫也、
鑣 説文に云はく、鑣〈音は飄、訓は久都波美くつばみ、一に云ふ久々美くくみ〉は馬銜なりといふ。兼名苑に云はく、鑣、一名は勒といふ。野王案ずるに、勒〈盧則反〉は馬の口の中の鉄なりとす。
蒺䔧銜 辨色立成云、蒺䔧銜、〈宇波良具󠄁都和、〉
蒺䔧銜 弁色立成に云ふ蒺䔧銜〈宇波良具都和うばらぐつわ〉。
轡 兼名苑云、轡、〈音秘、訓久豆和都良、俗云久都和、〉一名钀、〈魚列反、〉楊氏漢語抄云、韁鞚、〈薑貢二音、和名同上、〉一名馬鞚、
轡 兼名苑云はく、轡〈音は秘、訓は久豆和都良くつわづら、俗に云ふ久都和くつわ〉、一名は钀〈魚列反〉といふ。楊氏漢語抄に云はく、韁鞚〈薑貢の二音、和名は上に同じ〉、一名は馬鞚といふ。
承鞚 辨色立成云、承鞚、〈美豆歧、俗云三都々歧、〉一云七寸、
承鞚 弁色立成に云ふ承鞚〈美豆岐みづき、俗に云ふ三都々岐みづつき〉、一に云ふ七寸。
䪊頭 唐韻云、䪊、〈音籠、楊氏漢語抄云、䪊頭、於毛都良、〉䪊頭也、羈、〈音基、〉馬絡頭也、〈今案、馬絡頭即䪊頭也、〉
䪊頭 唐韻に云はく、䪊〈音は籠、楊氏漢語抄に云ふ䪊頭、於毛都良おもづら〉は䪊頭なり、羈〈音は基〉は馬絡頭なりといふ〈今案ふるに馬絡頭は即ち䪊頭なり〉。
樓額 辨色立成云、樓額、〈沼賀々既、〉
楼額 弁色立成に云ふ楼額〈沼賀々既ぬかがき〉。
鞗 唐韵云、鞗、〈音迢、久佐利、今案、俗用鏈字、未詳、鏈、鉛朴也、〉革轡也、毛詩注󠄁云、鞗以金爲小環、往々纒搤者也、
鞗 唐韻に云はく、鞗〈音は迢、久佐利くさり、今案ふるに俗に鏈の字を用ゐる、未だ詳かならず、鏈は鉛朴なり〉は革轡なりといふ。毛詩注に云はく、鞗は金を以て小環と為し、往往に纒搤する者なりといふ。
馬衣 左傳注󠄁云、馬褐、〈无麻歧沼、〉馬被也、
馬衣 左伝注に云はく、馬褐〈無麻岐沼むまぎぬ〉は馬被なりといふ。
馬㕞 楊氏漢語抄云、馬㕞、〈于麻波太氣、下所󠄁劣反、〉
馬刷 楊氏漢語抄に云ふ馬刷〈于麻波太気うまはたけ、下は所劣反〉。
枊 唐韵云、枊、〈吾浪反、與勢波之良、〉繫馬柱也、
枊 唐韻に云はく、枊〈吾浪反、与勢波之良よせばしら〉は馬を繋ぐ柱なりといふ。
櫪 唐韵云、櫪、〈音歷、之歧以太、〉馬櫪也、
櫪 唐韻に云はく、櫪〈音は歴、之岐以太しきいた〉は馬櫪なりといふ。
槽 唐韵云、槽、〈音曹、馬舟也、〉馬槽也、
槽 唐韻に云はく、槽〈音は曹、馬舟なり〉は馬槽なりといふ。
剉碓 唐式云、剉碓一具󠄁、〈漢語抄云、久散歧利、剉、麁臥反、〉
剉碓 唐式に云はく、剉碓一具といふ〈漢語抄に云ふ久散岐利くさきり、剉は麁臥反〉。
蒭 說文云、蒭、〈音雛、字亦作芻、加良久佐、〉乾草也、
蒭 説文に云はく、蒭〈音は雛、字は亦、芻に作る、加良久佐からくさ〉は乾草なりといふ。
秣 漢書注󠄁云、秣、〈音末、万久佐、〉謂粟米也、
秣 漢書注に云はく、秣〈音は末、万久佐まぐさ〉、謂ふは粟米を以て飼へばなりといふ。
鞭 野王案、鞭、〈音篇、无知、俗云无遲、〉馬策也、策、〈音冊、字亦作筞、〉馬檛也、檛、〈音花、〉所󠄁以箠驅__遲也、
鞭 野王案ずるに、鞭〈音は篇、無知むち、俗に云ふ無遅むぢ〉は馬の策なり、策〈音は冊、字は亦、筞に作る〉は馬の檛なり、檛〈音は花〉はむちうちて遅きを駆る所以なりとす。
罥索 辨色立成云、罥索、〈加介奈波、上音古縣反、〉取馬繩也、
罥索 弁色立成に云はく、罥索〈加介奈波かけなは、上の音は古県反〉は馬を取る縄なりといふ。
絆 釋名云、絆、〈音半󠄁、保太之、〉半󠄁也、拘使󠄁行不__自縱也、
絆 釈名に云はく、絆〈音は半、保太之ほだし〉は半なり、かかづらひて行くこと半ばに自らほしきままにすること得ざらしむるなりといふ。

鷹犬具󠄁七十七
鷹犬具七十七
攣 唐韵云、攣、〈音聯、今案一字兩訓、在鷹阿之乎、在犬岐豆奈、〉所以綴攣狗也、
攣 唐韻に云はく、攣〈音は聯、今案ふるに一字に両つの訓、鷹に在りては阿之乎あしを、犬に在りては岐豆奈きづな〉は狗を綴攣する所以なりといふ。
絛 唐韵云、絛、〈音刀、於保乎、〉絲繩也、章孝標飢鷹詩云、縱令啄斷紅絛結、未君呼敢飛
絛 唐韻に云はく、絛〈音は刀、於保乎おほを〉は糸縄なりといふ。章孝標飢鷹詩に云はく、縦令たとひ紅絛の結びを啄ひ断つとも、未だ君の呼を得ざれば敢へて飛ばずといふ。
旋子 楊氏漢語抄云、旋子、〈毛度保利、上似泉反、〉
旋子 楊氏漢語抄に云ふ旋子〈毛度保利もとほり、上は似泉反〉。
韝 文選󠄁西京賦云、靑骹、摯於韝下、〈韝音溝、訓太加太沼歧、又見射藝具󠄁、〉薩琮曰、韝、臂衣也、
韝 文選西京賦に云はく、青骹せいかう、韝のもとに摯るといふ〈韝の音は溝、訓は太加太沼岐たかたぬき、又、射芸具に見ゆ〉。薩琮曰はく、韝は臂衣なりといふ。
䚨 唐韵云、䚨、〈音癈、漢語抄云、閇麻歧、〉弋射收繳具󠄁也、
䚨 唐韻に云はく、䚨〈音は癈、漢語抄に云ふ閉麻岐へまき〉は弋射の繳を収むる具なりといふ。
紲 文選󠄁西京賦云、韓獹、噬於紲末、〈紲音思列反、訓歧都奈、〉薩琮曰、紲、攣也、
紲 文選西京賦に云はく、韓獹、紲の末を噬ふといふ〈紲の音は思列反、訓は岐都奈きづな〉。薩琮曰はく、紲は攣なりといふ。
鋂 野王案、鋂、〈音梅、久佐利、〉犬繅也、
鋂 野王案ずるに、鋂〈音は梅、久佐利くさり〉は犬の繅なりとす。
大枷 內典云、譬如犬繫之於柱、終日繞柱、不離、〈𣵀槃經文也、枷讀師說久比都奈、〉
大枷 内典に云はく、譬へば犬を枷して之れを柱に繋ぎ、終日柱を繞り離るること得能はざるがごとしといふ〈涅槃経の文なり、枷の読みは師説に久比都奈くびづな〉。

畋獵具󠄁七十八〈畋音田、唐韵云、取禽獸也、〉
畋猟具七十八〈畋の音は田、唐韻に云はく、禽獣を取るなりといふ〉
罘網〈紭附〉 纂要云、獸網曰罘、〈音浮󠄁、〉麋網曰罠、〈武巾反、〉兎網曰罝、〈子耶反、已上訓皆阿美、〉文選󠄁注󠄁云、紭、〈戶萌反、訓呼、又與綱同、〉罘之綱也、
罘網〈紭付〉 纂要に云はく、獣網を罘〈音は浮〉と曰ひ、麋網を罠〈武巾反〉と曰ひ、兎網を罝〈子耶反、已上の訓は皆、阿美あみ〉と曰ふといふ。文選注に云はく、紭〈戸萌反、訓は、又、綱と同じ〉は罘の綱なりといふ。
蹄 周󠄀易云、蹄者所󠄁以得__兔也、故得兔忘蹄、〈師說和奈、今案、牛馬蹄字也、見玉篇、〉
蹄 周易に云はく、蹄は兎を得る所以なり、故に兎を得て蹄を忘るといふ〈師説に和奈わな、今案ふるに牛馬の蹄の字なり、玉篇に見ゆ〉。
弶 四聲字苑云、弶、〈其亮反、漢語抄云、久比知、〉取獸械也、
弶 四声字苑に云はく、弶〈其亮反、漢語抄に云ふ久比知くびち〉は獣を取る械なりといふ。
棝 唐韵云、棝、〈音固、漢語抄云、奈由美、〉射鼠斗也、
棝 唐韵に云はく、棝〈音は固、漢語抄に云ふ奈由美なゆみ〉は鼠を射る斗なりといふ。
鼠弩 楊氏漢語抄云、鼠弩、〈於之、〉一云、鼠弓、
鼠弩 楊氏漢語抄に云ふ鼠弩〈於之おし〉、一に云ふ鼠弓。
鳥羅 爾雅云、鳥罟曰羅、〈度利阿美、〉
鳥羅 爾雅に云はく、鳥罟を羅〈度利阿美とりあみ〉と曰ふといふ。
囮 唐韵云、囮、〈音訛、漢語抄云、天々禮、〉網鳥者媒也、
囮 唐韻に云はく、囮〈音は訛、漢語抄に云ふ天々礼ててれ〉は鳥を網する者の媒なりといふ。
鳥籠 說文云、笯、〈音奴、一音那、度利古、〉鳥籠也、
鳥籠 説文に云はく、笯〈音は奴、一音に那、度利古とりこ〉は鳥籠なりといふ。
媒鳥 文選󠄁射雉賦注󠄁云、少養雉子、至長狎人、能招引野雉者、謂之媒、〈師說乎度利、〉
媒鳥 文選射雉賦注に云はく、をさなきとき雉の子を養ひ、長ずるに至れば人に狎れ、能く野雉を招き引く、之れを媒〈師説に乎度利をとり〉と謂ふといふ。
黐〈擌附〉 唐韵云、黐、〈丑知反、毛知、〉所󠄁以黏__鳥也、黐擌、〈所󠄁責反、漢語抄云、波賀、〉所󠄁以捕__鳥也、
黐〈擌付〉 唐韻に云はく、黐〈丑知反、毛知もち〉は鳥を黏する所以なり、黐擌〈所責反、漢語抄に云ふ波賀はが〉は鳥を捕ふる所以なりといふ。
矪 唐韵云、矪、〈張留反、漢語抄云、久流利、〉射鳥矢名也、
矪 唐韻に云はく、矪〈張留反、漢語抄に云ふ久流利くるり〉は鳥を射る矢の名なりといふ。
餌 四聲字苑云、餌、〈乃吏反、惠、〉以食誘魚鳥也、
餌 四声字苑に云はく、餌〈乃吏反、〉は食を以て魚鳥を誘ふなりといふ。

漁釣具󠄁七十九〈漁音魚、說文云、捕魚也、訓須奈度利、〉
漁釣具七十九〈漁の音は魚、説文に云はく、魚を捕るなりといふ、訓は須奈度利すなどり
網罟 廣雅云、罟、〈音古、阿美、〉魚網也、
網罟 広雅に云はく、罟〈音は古、阿美あみ〉は魚網なりといふ。
纚 文選󠄁注󠄁云、纚、〈所󠄁買反、師說佐天、〉網如箕形、狹後廣前󠄁者也、
纚 文選注に云はく、纚〈所買反、師説に佐天さで〉網は箕の形のごとし、後ろを狭く前を広くする者なりといふ。
魚梁 毛詩注󠄁云、梁、〈音良、夜奈、〉魚梁也、唐韵云、簎、〈士角反、漢語抄云、夜奈須、〉取魚箔也、
魚梁 毛詩注に云はく、梁〈音は良、夜奈やな〉は魚梁なりといふ。唐韻に云はく、簎〈士角反、漢語抄に云ふ夜奈須やなす〉は魚を取るすだれなりといふ。
筌 野王案、筌、〈且沿反、宇倍、〉捕魚竹笱也、笱、〈古厚反、〉取魚竹器也、
筌 野王案ずるに、筌〈且沿反、宇倍うへ〉は魚を捕る竹笱なり、笱〈古厚反〉は魚を取る竹器なりとす。
籞 唐韵云、籞、〈音語、以介須、〉池水中編󠄁竹籬魚也、
籞 唐韻に云はく、籞〈音は語、以介須いけす〉は池水の中に竹籬を編み魚を養ふなりといふ。
罧 尒雅云、罧、〈蘇蔭反、字亦作槮、〉謂之涔、〈字廉反、又音岑、布之都介、〉郭璞曰、積柴於水中、魚寒入其裏、因以簿圍、捕取也、
罧 爾雅に云はく、罧〈蘇蔭反、字は亦、槮に作る〉は之れを涔〈字廉反、又の音は岑、布之都介ふしづけ〉と謂ふといふ。郭璞曰はく、柴を水中に積み、魚寒くして其のうちに入り、因りて簿を以て囲み捕取するなりといふ。
籗 纂要云、籗、〈虎郭反、又士角反、漢語抄云、比之、〉以䥫施棹頭、因以取魚也、
籗 纂要に云はく、籗〈虎郭反、又、士角反、漢語抄に云ふ比之ひし〉は鉄を以て棹頭に施し、因りて以て魚を取るなりといふ。
釣 聲類云、釣、〈都叫反、都利、〉設鉤餌魚也、
釣 声類に云はく、釣〈都叫反、都利つり〉は鉤に餌をまうけて魚を取るなりといふ。
泛子 蔣魴切韻云、泛子、〈漢語抄云、宇介、今案、網具󠄁又有此名、故別置之、〉釣別名也、
泛子 蒋魴切韻に云はく、泛子〈漢語抄に云ふ宇介うけ。今案ふるに、網具に又、此の名有り、故に別して之れを置く〉は釣の別名なりといふ。

農耕󠄁具󠄁八十〈日本紀私記云、農、奈利波比、〉
農耕具八十〈日本紀私記に云ふ農、奈利波比なりはひ
犂 唐韵云、犂、〈音黎、加良須歧、〉墾田器也、鐴、〈必益反、閇良、〉犂耳也、楊氏漢語抄云、耒底、〈爲佐利、上音賴、〉耒骨、〈爲佐利乃江、〉耒𣓻、〈等利久比、下音表、〉耒箭、〈太々利賀太、〉耒鑱、〈佐歧、下字見造󠄁作具󠄁、〉
犂 唐韻に云はく、犂〈音は黎、加良須岐からすき〉は田を墾く器なり、鐴〈必益反、閉良へら〉は犂の耳なりといふ。楊氏漢語抄に云はく、耒底〈為佐利ゐさり、上の音は頼〉、耒骨〈為佐利乃江ゐさりのえ〉、耒𣓻〈等利久比とりくび、下の音は表〉、耒箭〈太々利賀太たたりがた〉、耒鑱〈佐岐さき、下の字は造作具に見ゆ〉といふ。
鋤 唐韻云、鎡錤、〈孜期二音、〉鋤別名也、釋名云、鋤、〈士魚反、湏歧、〉去穢助苗也、鍤、〈音插、和名同上、〉插地起󠄁土也、
鋤 唐韻に云はく、鎡錤〈孜期の二音〉は鋤の別名なりといふ。釈名に云はく、鋤〈士魚反、須岐すき〉は穢を去り苗を助くるなり、鍤〈音は挿、和名は上に同じ〉は地に挿して土を起すなりといふ。
鍫 兼名苑云、鍫、〈七遙反、字亦作鐰、久波、〉一名鏵、〈音華、〉說文云、钁、〈補各反、楊氏漢語抄云、和名同上、〉大鋤也、
鍫 兼名苑に云はく、鍫〈七遥反、字は亦、鐰に作る、久波くは〉、一名は鏵〈音は華〉といふ。説文に云はく、钁〈補各反、楊氏漢語抄に云はく、和名は上に同じといふ〉は大鋤なりといふ。
鎛 國語注󠄁云、鎛、〈音博󠄁、漢語抄云、佐比都惠、〉鋤屬也、釋名云、鎛、迫󠄁地去草也、
鎛 国語注に云はく、鎛〈音は博、漢語抄に云ふ佐比都恵さひづゑ〉は鋤の属なりといふ。釈名に云はく、鎛は地をめて草を去るなりといふ。
釽 麻果切韻云、釽、〈普麥反、又普狄反、漢語抄云、加奈賀歧、一云久之路、〉鈎釽也、
釽 麻果切韻に云はく、釽〈普麦反、又、普狄反、漢語抄に云ふ加奈賀岐かながき、一に云ふ久之路くしろ〉は鈎釽なりといふ。
馬杷 唐韵云、杷、〈白賀反、一音琶、弁色立成云、馬杷、宇麻久波、一云、馬齒、〉作田具󠄁也、𨫒楱、〈漏奏二音、漢語抄云、和名同上、〉䥫齒杷名也、
馬杷 唐韻に云はく、杷〈白賀反、一音に琶、弁色立成に云ふ馬杷、宇麻久波うまぐは、一に云ふ馬歯〉は田を作る具なり、𨫒楱〈漏奏の二音、漢語抄に云はく、和名は上に同じといふ〉は鉄歯の杷の名なりといふ。
欋 楊雄方言云、齊魯謂四齒杷欋、〈音衢、漢語抄云、佐良比、〉
欋 楊雄方言に云はく、斉魯に四歯杷を謂ひて欋〈音は衢、漢語抄に云ふ佐良比さらひ〉と為すといふ。
朳 郭璞方言注󠄁云、江東杷之無齒者爲朳、〈音拜、楊氏漢語抄云、江布利、〉
朳 郭璞方言注に云はく、江東に杷の歯無き者を朳〈音は拝、楊氏漢語抄に云ふ江布利えぶり〉と為すといふ。
杴 唐韵云、杴、〈虛嚴反、漢語抄云、古須歧、〉鍬属也、
杴 唐韻に云はく、杴〈虚厳反、漢語抄に云ふ古須岐こすき〉は鍬の属なりといふ。
鎌 兼名苑云、鎌、〈音廉、〉一名鍥、〈音結、賀末、〉方言云、刈𠛎、〈艾鉤二音、〉野王案、柌、〈音祠、賀末都加、〉鎌柄也、
鎌 兼名苑に云はく、鎌〈音は廉〉、一名は鍥〈音は結、賀末かま〉といふ。方言に云ふ刈𠛎〈艾鉤の二音〉。野王案ずるに、柌〈音は祠、賀末都加かまつか〉は鎌の柄なりとす。
連枷 陸詞切韻云、連枷、〈下音加、賀良佐乎、〉打穀具󠄁也、釋名云、枷、加也、加於柄頭、所󠄁以檛〈陟瓜反、打也、〉穗出__穀也、或曰、羅枷三杖而用之、
連枷 陸詞切韻に云はく、連枷〈下の音は加、賀良佐乎からさを〉は穀を打つ具なりといふ。釈名に云はく、枷は加なり、柄頭に加へ、穂を檛〈陟瓜反、打つなり〉ち穀を出だす所以なりといふ。或は曰はく、羅枷三杖にして之れを用ゐるといふ。
口籠 蔣魴切韻云、〓〔竹冠に兒〕、〈音鯢、久都古、〉牛馬口上籠也、
口籠 蒋魴切韻に云はく、〓〔竹冠に兒〕〈音は鯢、久都古くつこ〉は牛馬の口の上の籠なりといふ。

造󠄁作具󠄁八十一
造作具八十一
轆轤 四聲字苑云、轆轤、〈鹿廬二音、俗云六路、〉圓轉木機也、
轆轤 四声字苑に云はく、轆轤〈鹿廬の二音、俗に云ふ六路〉は円転の木機なりといふ。
鋋 楊氏漢語抄云、鋋、〈辭戀反、又市連反、路久魯賀奈、〉轆轤之裁刀也、
鋋 楊氏漢語抄に云はく、鋋〈辞恋反、又、市連反、路久魯賀奈ろくろがな〉は轆轤の裁刀なりといふ。
釘 陸詞切韵云、釘、〈音丁、久歧、〉䥫杙也、
釘 陸詞切韻に云はく、釘〈音は丁、久岐くぎ〉は鉄の杙なりといふ。
鐟 唐韻云、鐟、〈作含反、岐利久歧、〉無蓋釘也、
鐟 唐韻に云はく、鐟〈作含反、岐利久岐きりくぎ〉は蓋無き釘なりといふ。
鉜鏂 楊氏漢語抄云、鉜鏂、〈浮󠄁謳二音、和名乃之加太乃久木、〉頭高大釘也、
鉜鏂 楊氏漢語抄に云はく、鉜鏂〈浮謳の二音、和名は乃之加太乃久木のしがたのくぎ〉は頭の高き大釘なりといふ。
栓󠄁 四聲字苑云、栓󠄁、〈山員反、歧久歧、〉木釘也、
栓 四声字苑に云はく、栓〈山員反、岐久岐きくぎ〉は木の釘なりといふ。
繩 兼名苑云、繩、〈食陵反、〉一名索、〈蘇各反、奈波、〉
縄 兼名苑に云はく、縄〈食陵反〉、一名は索〈蘇各反、奈波なは〉といふ。
准繩 漢語抄云、准繩、〈美豆波賀利、〉
准縄 漢語抄に云ふ准縄〈美豆波賀利みづはかり〉。
〓〔金偏に免+免〕 唐韻云、〓〔金偏に免+免〕、〈音讒、一音暫、漢語抄云、加奈布久之、〉犁䥫、又土具󠄁也、
鑱 唐韻に云はく、鑱〈音は讒、一音に暫、漢語抄に云ふ加奈布久之かなぶくし〉は犁鉄、又、土具なりといふ。
杙〈椓字附〉 文選󠄁云、椓嶻〓〔山冠に𠂤+辛〕而爲杙、〈余織反、訓久比、椓音琢、訓久比宇都、今案、俗以杬爲杙、非也、杬音元、木名也、見唐韵、〉
杙〈椓字付〉 文選に云はく、嶻〓〔山冠に𠂤+辛〕にくひうちて杙〈餘織反、訓は久比くひ、椓の音は琢、訓は久比宇都くひうつ、今案ふるに俗に杬を以て杙と為すは非なり。杬の音は元、木の名なり、唐韻に見ゆ〉と為すといふ。
椓擊 纂文云、齊人以大槌椓擊、〈漢語抄云、阿比、〉
椓擊 纂文に云はく、斉人、大槌を以て椓擊と為すといふ〈漢語抄に云ふ阿比あひ〉。
泥鏝 尒雅云、鏝、〈音蠻、〉謂之圬、〈音烏、字亦作釫、〉郭璞曰、泥鏝也、野王案、䥫釫、〈古天、〉塗土具󠄁也、
泥鏝 爾雅に云はく、鏝〈音は蛮〉は之れを圬〈音は烏、字は亦、釫に作る〉と謂ふといふ。郭璞の曰ふ泥鏝なり。野王案ずるに、鉄釫〈古天こて〉は土を塗る具なりとす。
榰柱 唐韻云、榰、〈音支、〉柱、〈今案須介、〉支屋攲也、
榰柱 唐韻に云はく、榰〈音は支〉柱〈今案ふるに須介すけ〉は屋のそばたつを支ふるなりといふ。
麻柱 辨色立成云、麻柱、〈阿奈々比、〉
麻柱 弁色立成に云ふ麻柱〈阿奈々比あななひ〉。
檜楚 漢語抄云、檜楚、〈比曾、俗用檜曾二字、今案、楚字是也、〉
桧楚 漢語抄に云ふ桧楚〈比曽ひそ、俗に桧曽の二字を用ゐる。今案ふるに楚の字は是れなり〉。
榑 說文云、榑、〈補各反、久禮、功程式有檜榑椙榑、〉壁柱也、
榑 説文に云はく、榑〈補各反、久礼くれ、功程式に桧榑、椙榑有り〉は壁柱なりといふ。
板 唐韻云、板、〈步綰反、伊太、功程式有波多板、步板、〉薄木也、
板 唐韻に云はく、板〈歩綰反、伊太いた、功程式に波多はたいたあゆみいた有り〉は薄木なりといふ。
材木〈杮附〉 唐韻云、材、〈音才、〉衆木也、韓知十曰、杮、〈音廢、古介良、〉削󠄁朴也、謂、削󠄁木之朴所󠄁出細片曰杮也、
材木〈杮付〉 唐韻に云はく、材〈音は才〉は衆の木なりといふ。韓知十曰はく、杮〈音は廃、古介良こけら〉は削朴なりといふ。謂ふは木の朴を削り、出づる所の細片を杮と曰へればなり。

木工具󠄁八十二〈四聲字苑云、工、匠也、匠者工巧人也、〉
木工具八十二〈四声字苑に云はく、工は匠なり、匠者は工巧の人なりといふ〉
鐇 唐韵云、鐇、〈音繁、漢語抄云、多都歧、〉廣刃󠄁斧也、
鐇 唐韻に云はく、鐇〈音は繁、漢語抄に云ふ多都岐たつぎ〉は広き刃の斧なりといふ。
斧〈柲附〉 兼名苑注󠄁云、斧、〈音府、乎能、一云與歧、〉神農造󠄁也、柲、〈音秘、一音必、乎乃々江、一云布流、〉斧柄名也、
斧〈柲付〉 兼名苑注に云はく、斧〈音は府、乎能をの、一に云ふ与岐よき〉は神農が造るなりといふ。柲〈音は秘、一音に必、乎乃々江をののえ、一に云ふ布流ふる〉は斧の柄の名なりといふ。
釿〈欘附〉 釋名云、釿、〈音斤、天乎乃、〉所󠄁󠄁以平󠄁滅斧迹也、唐韵云、斸欘、〈並音勅、〉上釿也、下釿柄名也、
釿〈欘付〉 釈名に云はく、釿〈音は斤、天乎乃てをの〉は斧の迹を平滅する所以なりといふ。唐韻に云はく、斸欘〈並びに音は勅〉の上は釿なり、下は釿の柄の名なりといふ。
鐁 唐韻云、鐁、〈音斯、加奈、弁色立成用曲刀二字、新撰萬葉集用鉇字、今案鉇字、所󠄁出未詳、但唐韻有鍦字、視遮󠄁反、一音夷、短矛名也、可工具󠄁、其義未詳、〉平󠄁木器也、釋名云、釿有高下之跡、鉇以此平󠄁其上也、
鐁 唐韻に云はく、鐁〈音は斯、加奈かな、弁色立成に曲刀の二字を用ゐる。新撰万葉集に鉇の字を用ゐる、今案ふるに、鉇の字の出づる所未だ詳かならず。但し、唐韻に鍦の字有り、視遮反、一音は夷、短き矛の名なり、工具と為すべし、其の義は未だ詳かならず〉は木を平らにする器なりといふ。釈名に云はく、釿に高下の跡有り、鉇は此れを以て其の上を平らにするなりといふ。
鋸 四聲字苑云、鋸、〈音據、能保木利、〉似刀有齒者也、
鋸 四声字苑に云はく、鋸〈音は拠、能保木利のほぎり〉は刀に似て歯有る者なりといふ。
鑿〈樈附〉 野王案、鑿、〈音昨、能美、〉所󠄁以穿__木之器也、通󠄁俗文云、樈、〈音刑、〉鑿柄名也、
鑿〈樈付〉 野王案ずるに、鑿〈音は昨、能美のみ〉は木を穿つ所以の器なりとす。通俗文に云はく、樈〈音は刑〉は鑿の柄の名なりといふ。
錑 考聲切韻云、錑、〈雷內反、又音戾、漢語抄云、錑毛遲、〉鑚也、
錑 考声切韻に云はく、錑〈雷内反、又、音は戻、漢語抄に云ふ錑、毛遅もぢ〉は鑚なりといふ。
䥫槌 廣雅云、䤶、〈於却反、加奈都知、〉䥫槌也、
鉄槌 広雅に云はく、䤶〈於却反、加奈都知かなづち〉は鉄槌なりといふ。
柊楑 纂文云、方椎、〈直追󠄁反、字亦作槌、〉謂之柊楑、〈終葵二音、漢語抄云、散伊都遲、〉
柊楑 纂文に云はく、方椎〈直追反、字は亦、槌に作る〉は之れを柊楑〈終葵の二音、漢語抄に云ふ散伊都遅さいづち〉と謂ふといふ。
墨斗 楊氏漢語抄云、墨斗、〈湏美都保、〉
墨斗 楊氏漢語抄に云ふ墨斗〈須美都保すみつぼ〉。
繩墨 內典云、端直不曲、喩如繩墨、〈𣵀槃經文也、繩墨、湏美奈波、〉
縄墨 内典に云はく、端直にして曲らず、喩へば縄墨のごとしといふ〈涅槃経の文なり、縄墨は須美奈波すみなは〉。
墨芯 蔣魴切韻云、以𥯣爲筆曰芯、〈音浸󠄁、須美佐之、〉周󠄀〓〔赤偏に𠬝〕王時、史臣公田檀造󠄁也、時人以竹芯文字、今工匠墨芯、是、
墨芯 蒋魴切韻に云はく、𥯣を以て筆と為すを芯〈音は浸、須美佐之すみさし〉と曰ふといふ。周の赧王の時、史臣の公田檀が造るなり。時の人、竹の芯を以て文字を画く、今、工匠の墨芯は是れ。
曲尺 弁色立成云、曲尺、〈麻賀利賀禰、〉
曲尺 弁色立成に云ふ曲尺〈麻賀利賀禰まがりがね〉。

細工具󠄁八十三
細工具八十三
刀子 楊氏漢語抄云、刀子、〈賀太奈、上都牢反、〉
刀子 楊氏漢語抄に云ふ刀子〈賀太奈かたな、上は都牢反〉。
錐 毛詩云、童子佩錐、〈職追󠄁反、歧利、〉
錐 毛詩に云はく、童子、錐〈職追反、岐利きり〉をぶといふ。
觿 唐韻云、觿、〈許規反、久之利、〉角錐、童子佩觿、說文云、角銳端、可以解__結者也、
觿 唐韻に云はく、觿〈許規反、久之利くじり〉は角錐、童子、觿を佩ぶといふ。説文に云はく、角は鋭端にして以て結を解くべき者なりといふ。
鈐 辨色立成云、鈐、〈加布良惠利、巨淹反、〉曲刀鑿也、
鈐 弁色立成に云はく、鈐〈加布良恵利かぶらゑり、巨淹反〉は曲刀の鑿なりといふ。
膠 野王案、膠、〈音交、邇賀波、〉所󠄁綴物相黏著者也、本草云、煑牛皮之、出東阿、故曰阿膠也、
膠 野王案ずるに、膠〈音は交、邇賀波にかは〉は物に連綴してあひ黏著せしむる所の者なりとす。本草に云はく、牛皮を煮て之れを作る、東阿より出づ、故に阿膠と曰ふなりといふ。
漆 野王案云、漆、〈音七、宇流之、〉木汁、可以塗__物也、
漆 野王案ずるに云はく、漆〈音は七、宇流之うるし〉は木の汁にして以て物に塗るべきなりといふ。
朱漆 荆州記云、金銀朱漆之器、
朱漆 荆州記に云はく、金、銀、朱漆の器といふ。
金漆 開元式云、台州有金漆樹、〈金漆、古之阿布良、〉
金漆 開元式に云はく、台州に金漆樹有りといふ〈金漆は古之阿布良こしあぶら〉。
掃󠄁墨 功程式云、掃󠄁墨一斗合酒二升膠二兩、〈波伊須美、〉
掃墨 功程式に云はく、掃墨一斗、合酒二升、膠二両といふ〈波伊須美はいずみ〉。
䰍筆 陸詞切韻云、䰍、〈音次、漢語抄云、䰍筆、波介、〉以漆塗物也、
䰍筆 陸詞切韻に云はく、䰍〈音は次、漢語抄に云ふ䰍筆、波介はけ〉は漆を以て物に塗るなりといふ。
錯子 唐韵云、錯、〈倉各反、漢語抄云、錯子、古須利、〉鑪別名、又摩也、
錯子 唐韻に云はく、錯〈倉各反、漢語抄に云ふ錯子、古須利こすり〉は鑪の別名、又、摩くなりといふ。
木賊 弁色立成云、木賊、〈度久佐、〉
木賊 弁色立成に云ふ木賊〈度久佐とくさ〉。
椋葉 本草云、椋葉、〈无久乃波、具󠄁見木類、〉
椋葉 本草に云ふ椋葉〈無久乃波むくのは、具に木類に見ゆ〉。
金銀薄 外國志云、長者作金薄銀薄承塵
金銀薄 外国志に云はく、長者は金薄、銀薄の承塵を作るといふ。
竹刀 日本紀私記云、竹刀、〈阿乎比衣、〉言以竹刀金銀薄也、
竹刀 日本紀私記に云はく、竹刀〈阿乎比衣あをひえ〉といふ。言ふは竹刀を以て金銀薄を剪ればなり。
韋 唐韵云、韋、〈音闈、乎之賀波、〉柔皮也、
韋 唐韻に云はく、韋〈音は闈、乎之賀波をしかは〉は柔皮なりといふ。
革 說文云、革、〈古核反、都久利加波、今案有蘇枋革黃櫨革紫革褐革緋纈革等名、纈讀由波太、即是夾纈之纈字也、〉獸皮去毛也、
革 説文に云はく、革〈古核反、都久利加波つくりがは、今案ふるに、蘇枋革、黄櫨革、紫革、褐革、緋纈革等の名有り、纈の読みは由波太ゆはた、即ち是れ夾纈の纈の字なり〉は獣皮の毛を去るなりといふ。
蠟 考聲切韻云、蠟、〈藍盍反、字亦作䗶、〉銷蜜蜂窠所󠄁以爲也、
蝋 考声切韻に云はく、蝋〈藍盍反、字は亦、䗶に作る〉は蜜蜂の窠をとかして為る所以なりといふ。

鍛冶具󠄁八十四〈段野二音、四聲字苑云、鍛、打金鐵器也、冶、燒䥫銷鑠也、〉
鍛冶具八十四〈段野の二音、四声字苑に云はく、鍛は、金鉄を打ち器と為すなり、冶は、鉄を焼き銷鑠するなりといふ〉
𮧟 唐韻云、𮧟、〈蒲拜反、楊氏漢語抄云、皮袋、布歧賀波、〉韋囊吹火也、野王案、𮧟所󠄁以吹冶火熾之囊也、
鞴 唐韻に云はく、鞴〈蒲拝反、楊氏漢語抄に云ふ皮袋、布岐賀波ふきがは〉は、韋囊の火を吹くなりといふ。野王案ずるに、鞴は冶火を吹きておこさしむる所以の囊なりとす。
蹈𮧟 日本紀私記云、蹈𮧟、〈太々良、今案、漢語抄用錧字、非也、唐韻、錧音貫、一音管、車軸頭䥫也、〉
蹈鞴 日本紀私記に云はく、蹈鞴〈太々良たたら、今案ふるに、漢語抄に錧の字を用ゐるは非なり。唐韻に錧の音は貫、一音に管、車軸の頭鉄なり〉といふ。
鎔 漢書注󠄁云、鎔、〈音容、伊賀太、〉鑄䥫形也、
鎔 漢書注に云はく、鎔〈音は容、伊賀太いがた〉は鉄を鋳る形なりといふ。
炭鉤 陸詞切韻云、鋊、〈音欲、須美賀歧、〉炭鉤也、
炭鉤 陸詞切韻に云はく、鋊〈音は欲、須美賀岐すみかぎ〉は炭鉤なりといふ。
和炭 楊氏漢語抄云、和炭、〈邇古須美、今案、一云賀知須美、〉
和炭 楊氏漢語抄に云ふ和炭〈邇古須美にこすみ、今案ふるに一に云ふ賀知須美かぢすみ〉。
䥫槌 廣雅云、䤶、〈於却反、加奈都知、〉䥫槌也、四聲字苑云、鎚、〈直追󠄁反、今案即䥫槌也、〉打䥫器也、
鉄槌 広雅に云はく、䤶〈於却反、加奈都知かなづち〉は鉄槌なりといふ。四声字苑に云はく、鎚〈直追反、今案ふるに即ち鉄槌なり〉は鉄を打つ器なりといふ。
䥫鉗 楊氏漢語抄云、䥫鉗、〈加奈波之、下奇炎反、〉
鉄鉗 楊氏漢語抄に云ふ鉄鉗〈加奈波之かなばし、下は奇炎反〉。
䥫碪 楊氏漢語抄云、䥫碪、〈加奈之歧、〉
鉄碪 楊氏漢語抄に云ふ鉄碪〈加奈之岐かなしき〉。
鉸刀 楊氏漢語抄云、鉸刀、〈波佐美、上古效反、〉所󠄁以切銅䥫也、
鉸刀 楊氏漢語抄に云はく、鉸刀〈波佐美はさみ、上は古効反〉は銅鉄を切る所以なりといふ。
鏟 唐韻云、鏟剗、〈並初限反、辨色立成云、鏟、奈良之、一云剗刀、〉上平󠄁木器也、下削󠄁也、
鏟 唐韻に云はく、鏟剗〈並びに初限反、弁色立成に云ふ鏟、奈良之ならし、一に云ふ剗刀〉、上は木を平らにする器なり、下は削るなりといふ。
鑢 四聲字苑云、鑢、〈音慮、字亦作鋁、漢語抄云、鑢子、夜須利、〉所󠄁以利鋸齒也、
鑢 四声字苑に云はく、鑢〈音は慮、字は亦、鋁に作る、漢語抄に云ふ鑢子、夜須利やすり〉は鋸の歯をぐ所以なりといふ。
鐟 陸詞切韵云、鐟、〈徐感反、上聲之重、漢語抄云、太加禰、〉剪䥫器也、
鐟 陸詞切韻に云はく、鐟〈徐感反、上声の重、漢語抄に云ふ太加禰たがね〉は鉄を剪る器なりといふ。
砥 兼名苑云、砥、〈音旨、〉一名䃤、〈音篠、末度、〉細礪石也、
砥 兼名苑に云はく、砥〈音は旨〉、一名は䃤〈音は篠、末度まと〉、細礪の石なりといふ。
磺 兼名苑云、磑、〈音豈、〉一名磺、〈音黃、阿良度、〉麁礪石也、四聲字苑云、礪、〈力制反、今案惣名也、〉磨䥫石也、
磺 兼名苑に云はく、磑〈音は豈〉、一名は磺〈音は黄、阿良度あらと〉、麁礪の石なりといふ。四声字苑に云はく、礪〈力制反、今案ふるに惣名なり〉は鉄を磨く石なりといふ。
靑礪 唐韻云、礛䃴、〈監諸二音、阿乎度、〉靑礪石也、
青礪 唐韻に云はく、礛䃴〈監諸の二音、阿乎度あをと〉は青礪の石なりといふ。

卷第六
巻第六
調度部下
調度部下
 音樂具󠄁八十五 服玩具󠄁八十六 稱量具󠄁八十七 容飾󠄁具󠄁八十八 澡浴具󠄁八十九 厨膳具󠄁九十 薰香具󠄁九十一 裁縫󠄁具󠄁九十二 染色具󠄁九十三 機織具󠄁九十四 蠶絲具󠄁九十五 屛障具󠄁九十六 坐臥具󠄁九十七 行旅具󠄁九十八 葬送󠄁具󠄁九十九
 音楽具八十五 服玩具八十六 称量具八十七 容飾具八十八 澡浴具八十九 厨膳具九十 薫香具九十一 裁縫具九十二 染色具九十三 機織具九十四 蚕糸具九十五 屏障具九十六 坐臥具九十七 行旅具九十八 葬送具九十九

音樂具󠄁八十五〈四聲字苑云、音聲和曰樂、五角反、哀樂之樂、盧各反、〉
音楽具八十五〈四声字苑に云はく、音声和するを楽と曰ふ、五角反、哀楽の楽は盧各反〉
鉦鼓 後漢書云、鉦鼓之聲、〈鉦音征、俗云常古、〉兼名苑云、鉦、一名鐃、〈女交反、〉金鼓也、越王句踐造󠄁也、
鉦鼓 後漢書に云はく、鉦鼓の声〈鉦の音は征、俗に云ふ常古〉といふ。兼名苑に云はく、鉦、一名は鐃〈女交反〉、金鼓なり、越王の勾践が造るなりといふ。
方磬 律書樂圖云、磬、〈苦定反、俗云方磬、磬音强、〉懸廿四、唐令云、玉磬方響各一架、〈今案磬與方響似而非也、〉
方磬 律書楽図に云はく、磬〈苦定反、俗に云ふ方磬、磬の音は強〉は二十四懸くといふ。唐令に云はく、玉磬、方響、おのおの一架といふ。〈今案ふるに磬は方響と似て非なり〉
銅鈸子 律書樂圖云、銅鈸子、〈今案鈸即鉢字也、〉出西域、無柄、以皮爲紐、相擊以應節、今夷樂多用之、
銅鈸子 律書楽図に云はく、銅鈸子〈今案ふるに鈸は即ち鉢の字なり〉は西域より出づ、柄無く皮を以て紐と為し、相撃ちて以て節に応ず、今、夷楽に多く之れを用ゐるといふ。
琴 唐韻云、琴、〈巨金反、〉樂器、神農作之、本五絃、周󠄀文王加二絃、〈音與弦同、古度乃乎、樂有絃者皆用之、〉[帝王世記云、炎帝作五絃琴、世本云、神農作之、琴操云、伏犠作之、以具󠄁宮商角徵羽、至周󠄀文王、增二絃、一說云、文王武王各加一絃、文選󠄁琴賦云、徽以鍾山之玉、〈今案俗說、琴體有龍池、鳳池、龍舌、龍尾、蜂腰、鳳足、絃門、絃納󠄁、古人肩等名、〉]
琴 唐韻に云はく、琴〈巨金反〉は楽器、神農、之れを作り、もとは五絃、周の文王、二絃〈音は弦と同じ、古度乃乎ことのを、楽に絃有る者は皆、之れを用ゐる〉を加ふといふ。[帝王世記に云はく、炎帝、五絃琴を作るといふ。世本に云はく、神農、之れを作るといふ。琴操に云はく、伏犠、之を作り、以て宮、商、角、徴、羽を具へ、周の文王に至りて二絃増すといふ。一説に云はく、文王、武王、各一絃を加ふといふ。文選琴賦に云はく、ことぢに鍾山の玉を以てすといふ。〈今案ふるに俗説に、琴体に龍池、鳳池、龍舌、龍尾、蜂腰、鳳足、絃門、絃納、古人肩等の名有り〉]
[瑟 孫愐切韻云、瑟、〈所󠄁櫛反、〉樂器、似箏而大、三十六絃、]
[瑟 孫愐切韻に云はく、瑟〈所櫛反〉は楽器、箏に似て大、三十六絃といふ。]
箏〈柱附〉  [風俗通󠄁云、神農造󠄁箏、或曰、蒙恬所󠄁造󠄁、秦聲也、]蒼頡篇云、箏、〈爼耕󠄁反、俗云、象乃古度、〉形似瑟而短、有十三絃、[〈今案箏譜云、一二三四五六七八九十斗爲巾、是十三絃名也、〉]阮禹箏譜云、柱高三寸謂天地人也、〈柱、古度知、〉
箏〈柱付〉  [風俗通に云はく、神農、箏を造る。或曰はく、蒙恬の造る所、秦声なりといふ。]蒼頡篇に云はく、箏〈俎耕反、俗に云ふしやう乃古度のこと〉は形、瑟に似て短く、十三絃有りといふ。[〈今案ふるに、箏譜に云はく、一二三四五六七八九十斗為巾といふ、是れ十三絃の名なり、〉]阮禹箏譜に云はく、柱の高さ三寸なるは天地人を謂ふなりといふ〈柱は古度知ことぢ〉。
琵琶〈撥附〉 兼名苑云、琵琶、〈毗婆二音、[俗云微波二音、]〉本出於胡也、馬上鼓之、一云、魏武造󠄁也、今之所󠄁󠄁󠄁用是、蔣魴切韵云、棙、〈音麗、俗用撥字、〉琵琶撥名也、[敷水記云、以龍柏木之、羅威爲太守、進󠄁十侯琵琶撥、〈音如磨遲二音、今案琵琶頸有四柱、又琵琶體有反首、轉手、覆手、承弦、撥面、落帶、滿月、半󠄁月等之名、所󠄁出未詳、俗云首者名也、轉手者如琴軫者也、覆手者在腹如掌者也、承絃者所󠄁󠄁以承絃之末者也、琴箏等皆有之、撥面者當於用撥處革爲之、滿月半󠄁月者、在腹之孔名也、各自其體名也、〉]
琵琶〈撥付〉 兼名苑に云はく、琵琶〈毘婆の二音[、俗に云ふ微波の二音]〉は本、胡より出づるなり、馬上に之れを鼓すといふ。一に云はく、魏の武、造るなり、今の用ゐる所は是れといふ。蒋魴切韻に云はく、棙〈音は麗、俗に撥の字を用ゐる〉は琵琶の撥の名なりといふ。[敷水記に云はく、龍柏木を以て之れと為し、羅威、太守りて十侯の琵琶撥をたてまつるといふ。〈音は磨遅の二音のごとし、今案ふるに、琵琶の頸に四柱有り、又、琵琶の体に反首、転手、覆手、承弦、撥面、落帯、満月、半月等の名有り、出づる所未だ詳かならず、俗に云はく、首は名なり、転手は琴軫のごとき者なり、覆手は腹に在り掌をかがむるがごとき者なり、承絃は絃の末を承くる所以の者なり、琴箏等に皆、之れ有り、撥面は撥を用ゐる処に当り、革を以て之れをつくる、満月、半月は、腹に在るの孔の名なり、各、其体による名なりといふ〉]
阮咸 [樂家有阮咸圖一卷、〈今案云、樂器中無此噐名、晋竹林七賢中、有阮咸、字仲容、疑仲容因琵琶體造歟、〉案圖一决、]阮咸譜云、淸風調與琵琶風香調同音、〈今案、琵琶之其頸不曲也、〉
阮咸 [楽家に阮咸図一巻〈今案ふるに云はく、楽器の中に此の器の名無し、晋の竹林七賢の中に阮咸、字は仲容有り、疑ふらくは、仲容、琵琶の体に因りて造る所か〉、案図一决有り。]阮咸譜に云はく、清風調は琵琶風香調と同音といふ。〈今案ふるに琵琶の其の頸、曲らざるなり〉
箜篌 [唐韻云、箜篌、樂器也、]兼名苑注󠄁云、箜篌、〈空侯二音、[俗云如江湖二音、]楊氏漢語抄云、箜篌、百濟琴也、[和名久太良古度、]〉漢武時人、依琴製之、
箜篌 [唐韻に云はく、箜篌は楽器なりといふ。]兼名苑注に云はく、箜篌〈空侯の二音[俗に云ふ江湖の二音のごとし。]楊氏漢語抄に云ふ箜篌は百済琴なり、[和名は久太良古度くだらごと]〉は、漢の武の時の人、琴に依りて之れを製すといふ。
𥰃篌 本朝格云、𥰃篌師一人、〈[𥰃篌、俗云空古、]今案𥰃字未詳、〉
𥰃篌 本朝格に云はく、𥰃篌師一人といふ。〈[𥰃篌、俗に云ふ空古くご、]今案ふるに𥰃の字、未だ詳かならず〉
新羅琴 本朝格云、新羅琴師一人、〈新羅琴、之良歧古度、[今案所󠄁出未詳、疑自新羅國來歟、有十二絃、其名、甲乙丙丁戊己庚辛壬癸天地、見譜、]〉
新羅琴 本朝格に云はく、新羅琴師一人といふ。〈新羅琴は之良岐古度しらきごと[、今案ふるに出づる所、未だ詳かならず、疑ふらくは新羅国より来たるか、十二絃有り、其の名、甲乙丙丁戊己庚辛壬癸天地、譜に見ゆ]〉
日本琴 万葉集云、日本琴、〈[天平󠄁元年十月七日大伴󠄁淡等附使監贈中將衞督房前󠄁卿之書所󠄁記也、體似箏而短小、有六絃、]俗用倭琴二字、夜万度古度、[大歌所󠄁有鴟尾琴、止比乃乎古止、倭琴首造󠄁鴟尾之形也、]〉
日本琴 万葉集に云はく、日本琴といふ。〈[天平元年十月七日、大伴淡等附使監、中将衛督房前卿に贈るの書に記す所なり、体は筝に似て短小、六絃有り、]俗に倭琴の二字を用ゐる、夜万度古度やまとごと。[大歌所に鴟尾琴有り、止比乃乎古止とびのをこと、倭琴の首を鴟尾の形に造るなり]〉
橫笛 律書樂圖云、橫笛、〈音敵、與古不江、[今人唐樂所󠄁用、謂之橫笛、伎一部、橫笛腰鼓各一、則不唐狛、是橫吹之總名也、]〉本出於羌也、漢張騫使西域、首傳一曲、李延年造󠄁新聲二十八曲
横笛 律書楽図に云はく、横笛〈音は敵、与古不江よこぶえ[、今の人の唐楽に用ゐる所は之れを横笛と謂ふ。伎一部に横笛、腰鼓各一、則ち唐狛を論ぜず、是れ横吹の総名なり]〉は本、羌より出づるなり、漢の張騫、西域に使ひし、はじめて一曲を伝ふ、李延年、新声二十八曲を造るといふ。
長笛 律書樂圖云、馬融善吹者、爲長笛、[〈奈加布江、〉]
長笛 律書樂図に云はく、馬融の善く吹く者を長笛[〈奈加布江ながぶえ〉]と為すといふ。
高麗笛 唐令云、高麗伎橫笛、〈高麗笛、俗云古末布江、〉[兼名苑注󠄁云、籥、〈以灼反、今案所󠄁謂高麗用此字歟、和名古萬布江、〉除吹處而六孔之笛也、]
高麗笛 唐令に云はく、高麗伎の横笛といふ〈高麗笛は俗に云ふ古末布江こまぶえ〉。[兼名苑注に云はく、籥〈以灼反、今案ふるに所謂る高麗は此の字を用ゐるか、和名は古万布江こまぶえ〉は吹く処を除きて六孔の笛なりといふ。]
笙 釋名云、笙、〈音生、俗云象乃布江、〉竹之母曰匏、〈薄交反、俗云都保、〉以瓢爲之、竽亦是、〈竽音于、〉其中受簧、〈音黃、俗云之太、〉於管頭、橫施於其中也、
笙 釈名に云はく、笙〈音は生、俗に云ふしやう乃布江のふえ〉、竹の母を匏〈薄交反、俗に云ふ都保つぼ〉と曰ひ、瓢を以て之れと為す、竽は亦、是れ〈竽の音は于〉、其の中に簧〈音は黄、俗に云ふ之太した〉を受く、管の頭に於いて横に其の中に施すなりといふ。
篳篥 律書樂圖云、大篳篥、小篳篥、〈畢栗二音、俗云、比知利歧、〉
篳篥 律書楽図に云はく、大篳篥、小篳篥〈畢栗の二音、俗に云ふ比知利岐ひちりき〉といふ。
簫 蔡邕月令章句云、簫、〈音蕭、俗云、去聲、〉編󠄁竹吹之、長則濁、短則淸、以蜜䗶其底、而增减則知之、[風俗通󠄁云、舜作簫〈先堯反、和名世宇乃布江、〉其形參差、𧰼鳳翼󠄂也、一云籟、〈音賴、〉一云筊、〈胡交反、簫者編󠄁管而吹也、但其長短不同、參差之義是歟、一云、簫十六管、今案數諸說不同、五經通󠄁義云、大者二十三管、小者十三管、一云、舜所󠄁造󠄁十四管也、〉]
簫 蔡邕月令章句に云はく、簫〈音は蕭、俗に云ふ去声〉は竹を編みて之れを吹く、長きときには濁り、短きときには清し、蜜蝋を以て其の底にみたして増減するときに之れを知るといふ。[風俗通に云はく、舜、簫〈先尭反、和名は世宇乃布江せうのふえ〉を作る、其の形は参差、鳳の翼を象るなり、一に云ふ籟〈音は頼〉、一に云ふ筊〈胡交反、簫は管を編みて吹くなり、但し其の長短同じからず、参差の義は是れか。一に云はく、簫は十六管といふ、今案ふるに数の諸説同じからず、五経通義に云はく、大は二十三管、小は十三管といふ、一に云はく、舜の造る所は十四管なりといふ〉]
莫目 本朝格云、莫牟師一人、〈牟、或作目、俗云万玖毛、〉
莫目 本朝格に云はく、莫牟師一人〈牟は或は目に作る、俗に云ふ万玖毛まくも〉といふ。
尺八 律書樂圖云、尺八爲短笛、[縱向吹者也、]
尺八 律書楽図に云はく、尺八を短笛と為すといふ。[縦向きに吹く者なり。]
中管 律書樂圖云、長笛短笛之間、謂之中管
中管 律書楽図に云はく、長笛、短笛の間、之れを中管と謂ふといふ。
鼓 蔡邕獨斷云、鼓、〈公戶反、都々美、〉黃帝臣岐伯所󠄁󠄁作也、
鼓 蔡邕独断に云はく、鼓〈公戸反、都々美つづみ〉は黄帝の臣、岐伯が作る所なりといふ。
大鼓〈枹附〉 律書樂圖云、爾雅云、大鼓、〈今案俗或謂之四鼓、又小鼓有一二三之名、皆以應節次第名也、〉謂之〓〔鼓冠に賁〕、〈音墳、〉即建鼓也、兼名苑云、槌一名枹、〈音浮󠄁、字亦作桴、俗云、豆々美乃波知、〉所󠄁󠄁以擊大鼓也、
大鼓〈枹付〉 律書楽図に云はく、爾雅に云ふ大鼓〈今案ふるに、俗に或は之れを四鼓と謂ひ、又、小鼓に一二三の名有り、皆、応節の次第を以て名を取るなり〉は之れを〓〔鼓冠に賁〕〈音は墳〉と謂ひ、即ち建鼓なりといふ。兼名苑に云はく、槌、一名は枹〈音は浮、字は亦、桴に作る、俗に云ふ豆々美乃波知つづみのばち〉は大鼓を撃つ所以なりといふ。
揩鼓 律書樂圖云、揩鼓、〈揩、摩也、俗云須利都々美、〉
揩鼓 律書楽図に云はく、揩鼓〈揩は摩るなり、俗に云ふ須利都々美すりつづみ〉といふ。
鞨鼓 律書樂圖云、答臘鼓者今之鞨侯提鼓、〈鞨音曷、俗用楬字、未詳、〉即鞨鼓也、
鞨鼓 律書楽図に云はく、答臈鼓は今の鞨侯提鼓〈鞨の音は曷、俗に楬の字を用ゐる、未だ詳かならず〉、即ち鞨鼓なりといふ。
鼗鼓 周󠄀禮注󠄁云、鼗、〈徒刀反、字亦作鞉、不利豆々美、〉如鼓而小、持其柄之、則旁耳還󠄁自擊之、
鼗鼓 周礼注に云はく、鼗〈徒刀反、字は亦、鞉に作る、不利豆々美ふりつづみ〉は鼓のごとくして小、其の柄を持ち之れを揺るときにはかたはらの耳還りて自ら之れを擊つといふ。
腰鼓 唐令云、髙麗伎一部、橫笛、腰鼓、各一、〈腰鼓、俗云三鼓、〉本朝令云、腰鼓師一人、〈腰鼓讀久禮豆々美、今吳樂所󠄁󠄁用、是也、〉
腰鼓 唐令に云はく、高麗伎一部に横笛、腰鼓、各一といふ〈腰鼓は俗に云ふ三鼓〉。本朝令に云はく、腰鼓師一人といふ。〈腰鼓の読みは久礼豆々美くれつづみ、今、呉楽の用ゐる所は是れなり〉
拍子 蔣魴切韻云、拍、〈普伯反、[拍子、俗云百師、]〉打也、拍板樂器名也、
拍子 蒋魴切韻に云はく、拍〈普伯反[、拍子、俗に云ふ百師]〉は打つなり、拍板は楽器の名なりといふ。

服玩具󠄁八十六
服玩具八十六
笏 四聲字苑云、笏、〈音忽、俗云尺、〉手板、長一尺六寸、闊三寸、厚五分也、〈唐笏品、天子玉、諸侯象、大夫魚鬚文、士竹木、〉
笏 四声字苑に云はく、笏〈音は忽、俗に云ふ尺〉は手板、長さ一尺六寸、闊さ三寸、厚さ五分なりといふ。〈唐笏品に天子は玉、諸侯は象、大夫は魚鬚文、士は竹木とす〉
玉珮 唐韻云、珮、〈音與佩同、於无毛乃、〉玉珮也、古之君子、必佩玉、以比德、佩帶也、
玉珮 唐韻に云はく、珮〈音は佩と同じ、於無毛乃おむもの〉は玉珮なり、古の君子は必ず玉を佩きて以て徳に比する佩帯なりといふ。
瑱 唐韵云、瑱、〈音鎭、美々不太歧、〉玉充耳也、
瑱 唐韻に云はく、瑱〈音は鎮、美々不太岐みみふたぎ〉は玉の耳に充つるなりといふ。
璫 釋名云、穿耳施珠曰璫、〈音當、美々久佐利、〉本出於蠻夷、蠻夷婦󠄁女、輕浮好走、故以此爲錘、〈音垂、見權衡具󠄁、〉今中國效之、
璫 釈名に云はく、耳を穿ち珠を施すを璫〈音は当、美々久佐利みみくさり〉と曰ひ、もと、蛮夷より出づ、蛮夷の婦女、軽浮にして好く走る、故に此れを以て錘〈音は垂、権衡具に見ゆ〉と為す、今に中国、之れにならふといふ。
鐶 唐韵云、鐶、〈音與環同、由比万歧、〉指鐶也、環、玉環也、
鐶 唐韻に云はく、鐶〈音は環と同じ、由比万岐ゆびまき〉は指鐶なり、環は玉環なりといふ。
釧 內典云、在指上者、名之曰鐶、在臂上者、名之爲釧、〈𣵀槃經文也、釧音食倫反、比知万歧、〉
釧 内典に云はく、指の上に在る者は之れを名けて鐶と曰ひ、臂の上に在る者は之れを名けて釧と為すといふ〈涅槃経の文なり、釧の音は食倫反、比知万岐ひぢまき〉。
綬 禮記注󠄁云、綬、〈音受、久美、又用組字、音祖、〉所󠄁󠄁以貫珮玉相承受也、四聲字苑云、緂、〈吐敢反、俗音奴含反、〉靑而黃也、
綬 礼記注に云はく、綬〈音は受、久美くみ、又、組の字を用ゐる、音は祖〉は珮玉を貫き相承受する所以なりといふ。四声字苑に云はく、緂〈吐敢反、俗の音は奴含反〉は青くして黄なるなりといふ。
總 蔣魴切韻云、總、〈作孔反、布散、〉聚絲成束也、
総 蒋魴切韻に云はく、総〈作孔反、布散ふさ〉は糸を聚め束を成すなりといふ。
鈴 陸詞切韻云、鈴、〈音靈、楊氏漢語抄云、鈴子、須々、〉似鐘而小、三禮圖云、鐸、〈音澤、〉今之鈴、其匡以銅爲之、
鈴 陸詞切韻に云はく、鈴〈音は霊、楊氏漢語抄に云ふ鈴子、須々すず〉は鐘に似て小なりといふ。三礼図に云はく、鐸〈音は沢〉は今の鈴、其のただしきは銅を以て之れを為るといふ。
華蓋 兼名苑注󠄁云、華蓋、〈歧沼加散、〉黃帝征蚩尤時、當帝頭上、有五色雲、因其形所󠄁󠄁造󠄁也、
華蓋 兼名苑注に云はく、華蓋〈岐沼加散きぬがさ〉、黄帝、蚩尤をつ時、帝の頭上に当りて五色の雲有り、其の形に因りて造る所なりといふ。
翳 本朝式云、齊王行具󠄁、翳二枚、〈翳音於計反、波、〉
翳 本朝式に云はく、斎王の行具に翳二枚〈翳の音は於計反、〉といふ。
屛繖 唐令云、腰輿一、次大繖四、〈繖音散、本朝式云、屛繖、〉
屏繖 唐令に云はく、腰輿一、次に大繖四〈繖の音は散、本朝式に云ふ屏繖〉といふ。
麈尾 卅國春秋云、王夷甫常把玉柄麈尾、〈麈音主󠄁、俗音朱美、〉
麈尾 三十国春秋に云はく、王夷甫は常に玉柄の麈尾を把るといふ〈麈の音は主、俗の音は朱美〉。
扇󠄁 四聲字苑云、扇󠄁、〈式戰反、玉篇作𥰢、在竹部、阿布歧、〉所以取__風也、兼名苑云、扇󠄁、一名箑、〈音接、字亦作䈉〉
扇 四声字苑に云はく、扇〈式戦反、玉篇に𥰢に作る、竹部に在り、阿布岐あふぎ〉は風を取る所以なりといふ。兼名苑に云はく、扇、一名は箑〈音は接、字は亦、䈉に作る〉といふ。
團扇󠄁 唐令云、團扇󠄁方扇󠄁、〈團扇󠄁、宇知波、〉
団扇 唐令に云はく、団扇、方扇といふ〈団扇は宇知波うちは〉。
蒲葵扇󠄁 晉書云、蒲葵扇󠄁、〈今案蒲葵者、或木別名也、今稱蒲扇󠄁者、以蒲作之、〉

蒲葵扇 晋書に云はく、蒲葵扇といふ〈今案ふるに蒲葵は或に木の別名なり。今、蒲扇と称する者は蒲を以て之れを作る〉。

稱量具󠄁八十七〈今案知長短之度、知輕重之稱、知多少之量、並見算經、〉
称量具八十七〈今案ふるに長短を知るは之れを度と謂ひ、軽重を知るは之れを称と謂ひ、多少を知るは之れを量と謂ふ、並びに算経に見ゆ〉
權衡 廣雅云、錘、〈音垂、〉謂之權、〈波加利乃於毛之、〉兼名苑云、銓、〈音全󠄁、〉一名衡、〈楊氏漢語抄云、權衡、加良波可利、〉稱也、
権衡 広雅に云はく、錘〈音は垂〉は之れを権〈波加利乃於毛之はかりのおもし〉と謂ふといふ。兼名苑に云はく、銓〈音は全〉、一名は衡〈楊氏漢語抄に云ふ権衡、加良波可利からばかり〉、称なりといふ。
龠 唐韻云、龠、〈音藥、〉量器名也、
龠 唐韻に云はく、龠〈音は薬〉は量器の名なりといふ。
合 唐韻云、合、〈侯閤反、又與閤同、〉合同、又器名也、
合 唐韻に云はく、合〈侯閤反、又、閤と同じ〉は合同、又、器の名なりといふ。
升 陸詞切韻云、升、〈音昇、麻須、〉十合器也、
升 陸詞切韻に云はく、升〈音は昇、麻須ます〉は十合の器なりといふ。
斗〈槪附〉 陸詞切韻云、斗、〈當口反、俗音度、字亦作㪷、見唐韵、〉十升器也、禮記注󠄁云、槪、〈古礙反、俗云度加歧、〉平󠄁斗斛者也、
斗〈概付〉 陸詞切韻に云はく、斗〈当口反、俗に音は度、字は亦、㪷に作る、唐韻に見ゆ〉は十升の器なりといふ。礼記注に云はく、概〈古礙反、俗に云ふ度加岐とかき〉は斗斛を平にする者なりといふ。
半󠄁石 唐令私記云、大倉署函斛、〈今案函者、俗稱半󠄁石者是、又案半󠄁宜㪵、見四聲字苑、〉函者、受五斗、形如此間酒槽耳、
半石 唐令私記に云はく、大倉署の函斛といふ〈今案ふるに函は俗に半石と称する者は是れ。又案ふるに半は宜しく㪵に作るべし、四声字苑に見ゆ〉。函は五斗を受け、形は此間ここに酒槽のごときのみ。
斛 漢書律曆志云、龠合升斗斛、〈胡谷反、〉所󠄁󠄁以量多少也、野王案、說文云、十斗爲石、石猶斛也、
斛 漢書律暦志に云はく、龠、合、升、斗、斛〈胡谷反〉は多少を量る所以なりといふ。野王案ずるに、説文に、十斗を石と為し、石は猶ほ斛のごときなりと云ふとす。

容飾󠄁具󠄁八十八
容飾具八十八
鏡 孫愐切韻云、鏡、〈居命反、加々美、〉照人面者也、
鏡 孫愐切韻に云はく、鏡〈居命反、加々美かがみ〉は人の面を照らす者なりといふ。
鏡臺 魏武䟽云、純銀參帶鏡臺、〈辨色立成云、加々美加介、〉
鏡台 魏武疏に云はく、純銀参帯の鏡台〈弁色立成に云ふ加々美加介かがみかけ〉といふ。
髲 釋名云、髲、〈音被、加都良、俗用鬘字、非也、鬘者花鬘、花鬘見伽藍具󠄁、〉髮少者、所󠄁󠄁以被助其髮也、
髲 釈名に云はく、髲〈音は被、加都良かつら、俗に鬘の字を用ゐるは非なり、鬘は花鬘、花鬘は伽藍具に見ゆ〉は髪の少き者の其の髪をかがふり助くる所以なりといふ。
假髻 釋名云、假髻、〈湏惠、〉以此假覆髮上也、
仮髻 釈名に云はく、仮髻〈須恵すゑ〉は此れを以て仮に髪の上を覆ふなりといふ。
蔽髮 釋名云、蔽髮、〈比太飛、〉蔽髮前󠄁飾󠄁、
蔽髪 釈名に云はく、蔽髪〈比太飛ひたひ〉は髪の前を蔽ひ飾りと為すといふ。
鬠 孫愐切韻云、鬠、〈音活、毛度由比、〉以組束髮也、
鬠 孫愐切韻に云はく、鬠〈音は活、毛度由比もとゆひ〉は組を以て髪を束ぬるなりといふ。
䞓粉 釋名云、䞓粉、〈今案䞓即赬字也、䞓粉、閇邇、〉䞓赤也、染粉使赤、所󠄁󠄁以着__頰也、
䞓粉 釈名に云はく、䞓粉〈今案ふるに䞓は即ち赬の字なり、䞓粉は閉邇べに〉、䞓は赤なり、粉を染め赤に使ふ、頬に着くる所以なりといふ。
粉 文選󠄁好色賦云、着粉則大白、〈粉、之路歧毛能、〉
粉 文選好色賦に云はく、粉を着くるときにははなはだ白しといふ〈粉は之路岐毛能しろきもの〉。
白粉 開元式云、白粉卅斤、〈白粉、俗云波布邇、〉
白粉 開元式に云はく、白粉三十斤といふ〈白粉は俗に云ふ波布邇はふに〉。
黛 說文云、黛、〈音代、万由須美、〉畫眉墨也、
黛 説文に云はく、黛〈音は代、万由須美まゆずみ〉は眉を画く墨なりといふ。
澤 釋名云、澤、〈俗用脂綿二字、阿布良和太、〉人髮恒枯悴、以此令濡澤也、
沢 釈名に云はく、沢〈俗に脂綿の二字を用ゐる、阿布良和太あぶらわた〉、人髪、恒に枯悴す、此れを以て濡沢ならしむるなりといふ。
黑齒 文選󠄁注󠄁云、黑齒國在東海中、其土俗以草染齒、故曰黑齒、〈俗云、波久路女、今婦󠄁人有黑齒具󠄁、故取之、〉
黒歯 文選注に云はく、黒歯国は東海の中に在り、其の土俗くにぶり、草を以て歯を染む、故に黒歯といふ〈俗に云ふ波久路女はぐろめ、今の婦人に黒歯の具有り、故に之れを取る〉。
鉸刀 楊氏漢語抄云、鉸子、〈波佐美、上古巧反、一音敎、〉
鉸刀 楊氏漢語抄に云はく、鉸子〈波佐美はさみ、上は古巧反、一音に教〉といふ。
鑷子 釋名云、鑷、〈尼輒反、楊氏漢語抄云、波奈介沼歧、俗云、計沼歧、〉攝也、拔取毛髮也、
鑷子 釈名に云はく、鑷〈尼輒反、楊氏漢語抄に云ふ波奈介沼岐はなげぬき、俗に云ふ計沼岐けぬき〉は摂なり、毛髪を抜き取るなりといふ。
櫛 說文云、櫛、〈阻瑟反、久之、〉梳枇惣名也、
櫛 説文に云はく、櫛〈阻瑟反、久之くし〉は梳枇の惣名なりといふ。
細櫛 唐韻云、梳、〈音踈、一訓介都留、〉櫛也、枇、〈毗至反、保曾歧久之、一云、刺櫛、佐之久之、〉細櫛也、
細櫛 唐韻に云はく、梳〈音は疎、一訓に介都留けづる〉は櫛なり、枇〈毘至反、保曽岐久之ほそきくし、一に云ふ刺櫛、佐之久之さしぐし〉は細き櫛なりといふ。
嚴器 魏武䟽云、桼畫嚴器、〈俗用唐櫛匣三字、云賀良玖師介、〉
厳器 魏武疏に云はく、桼画の厳器といふ。〈俗に唐櫛匣の三字を用ゐ、賀良玖師介からくしげと云ふ〉

澡浴具󠄁八十九〈澡音早、洒手也、浴音欲、洗身也、洒與洗古字通󠄁、〉
澡浴具八十九〈澡の音は早、手をすすぐなり、浴の音は欲、身を洗ふなり、洒は洗と古字通ず〉
澡豆 温室經云、澡浴之法、用七物、其三曰澡豆
澡豆 温室経に云はく、澡浴の法に七物を用ゐる、其の三を澡豆と曰ふといふ。
楊枝 温室經云、七物、其六曰楊枝
楊枝 温室経に云はく、七物、其の六を楊枝と曰ふといふ。
手巾 修復山陵故事云、白紵手巾廿枚、〈手巾、太乃古比、〉
手巾 修復山陵故事に云はく、白紵の手巾二十枚といふ〈手巾は太乃古比たのごひ〉。
巾箱 雜題猪髮㕞子詩云、委質巾箱裏、〈巾箱者盛手巾之器名也、俗云打亂匣、〉
巾箱 雑題猪髪刷子詩に云はく、を巾箱のうちすといふ〈巾箱は手巾を盛るるの器の名なり、俗に云ふ打乱匣〉。
匜 說文云、匜、〈移爾反、一音移、波邇佐布、俗用楾字、所󠄁出未詳、但和名之義、或說云、有柄半󠄁挿其內、半󠄁在其外、故呼爲半󠄁挿也、〉柄中有道󠄁、可以注󠄁__水之器也、
匜 説文に云はく、匜〈移爾反、一音に移、波邇佐布はにさふ、俗に楾の字を用ゐる、出づる所、未だ詳かならず。但し、和名の義、或る説に云はく、柄有りて半ば其の内に挿し、半ば其の外に在り、故に呼びて半挿と為すなりといふ〉は柄の中に道有り、以て水を注ぐべきの器なりといふ。
盥 說文云、盥、〈音管、一音貫、楊氏漢語抄云、澡手、多良比、俗用手洗二字、〉澡手也、字從臼水臨__皿也、
盥 説文に云はく、盥〈音は管、一音に貫、楊氏漢語抄に云ふ澡手、多良比たらひ、俗に手洗の二字を用ゐる〉は手を澡ふなり、字は臼に水、皿に臨むに従ふなりといふ。
唾壷 外國傳云、佛唾壷色似文石
唾壺 外国伝に云はく、仏唾壺の色、文石に似るといふ。
浴斛 楊氏漢語抄云、浴斛、〈由布禰、下胡谷反、〉
浴斛 楊氏漢語抄に云はく、浴斛〈由布禰ゆぶね、下は胡谷反〉といふ。
內衣 温室經云、澡浴之法、用七物、其七曰內衣、〈由加太比良、〉論語注󠄁云、明衣、以布爲沐浴衣也、
内衣 温室経に云はく、澡浴の法、七物を用ゐる、其の七を内衣〈由加太比良ゆかたびら〉と曰ふといふ。論語注に云はく、明衣、布を以て沐浴の衣と為すなりといふ。

厨膳具󠄁九十
厨膳具九十
箸 唐韻云、筯、〈遲倨反、字亦作箸、波之、〉匙筯也、兼名苑云、一名梜提、
箸 唐韻に云はく、筯〈遅倨反、字は亦、箸に作る、波之はし〉は匙筯なりといふ。兼名苑に云はく、一名は梜提といふ。
匙 說文云、匕、〈卑履反、賀比、〉所󠄁󠄁以取__飯也、兼名苑云、匕一名匙、〈是支反、與疵同、又音提、見唐韵、〉
匙 説文に云はく、匕〈卑履反、賀比かひ〉は飯を取る所以なりといふ。兼名苑に云はく、匕、一名は匙〈是支反、疵と同じ、又、音は提、唐韻に見ゆ〉といふ。
俎 史記云、人爲刀俎、我爲魚肉、〈俎音阻、末奈以太、〉開元式云、食刀切机各一、〈今案切机即俎也、〉
俎 史記に云はく、人は刀俎り、我は魚肉為りといふ〈俎の音は阻、末奈以太まないた〉。開元式に云はく、食刀、切机、各一といふ〈今案ふるに切机は即ち俎なり〉。
炙函 東宮舊事云、漆炙函、〈今案、宇流之奴利乃夜歧之留乃都奉、〉
炙函 東宮旧事に云はく、漆の炙函〈今案ふるに宇流之奴利乃夜岐之留乃都奉うるしぬりのやきじるのつぼ〉といふ。
串𦠁 唐韻云、串、〈初限反、與剗同、夜伊久之、〉炙宍串也、𦠁、〈音束、〉串𦠁、炙具󠄁也、
串𦠁 唐韻に云はく、串〈初限反、剗と同じ、夜伊久之やいぐし〉はししを炙る串なり、𦠁〈音は束〉は串𦠁、炙具なりといふ。
虃 唐韵云、〓〔竹冠に擮〕、〈昨先反、與前同、太介乃久之、〉細削󠄁竹也、
〓〔竹冠に瀸〕 唐韻に云はく、〓〔竹冠に擮〕〈昨先反、前と同じ、太介乃久之たけのくし〉は細く竹を削るなりといふ。
柈 風土記云、越俗飮宴、皷柈爲樂、〈今案柈即槃字也、亦作盤、俗云、朱漆柈黑漆柈、是也、又盃盤之柈、〉取其廣尺五六寸者、抱以着腹、以右手五指之、舞者應節而舞、
柈 風土記に云はく、越の俗に飲宴するとき柈を鼓し楽と為すといふ。〈今案ふるに、柈は即ち槃の字なり、亦、盤に作る。俗に云ふ朱漆柈、黒漆柈は是れなり。又、盃盤の柈あり〉其の広さ尺五六寸の者を取り、抱きて以て腹に着け、右手の五指を以て之れを弾き、舞ふ者は節に応じて舞ふ。
油單 唐式云、鴻臚蕃客等器皿、油單、及雜物、並令少府監支造󠄁
油単 唐式に云はく、鴻臚蕃客等の器皿、油単及び雑物、並びに少府監の支にて造らしむといふ。
食單 唐式云、鐵鍋食單各一、〈漢語抄云、食單、須古毛、〉
食単 唐式に云はく、鉄鍋、食単、各一といふ〈漢語抄に云ふ食単、須古毛すごも〉。
苞苴 唐韵云、苞苴、〈包書二音、日本紀私記云、於保邇倍、俗云阿良万歧、〉裹魚肉也、
苞苴 唐韻に云はく、苞苴〈包書の二音、日本紀私記に云ふ於保邇倍おほにへ、俗に云ふ阿良万岐あらまき〉は魚肉を裹むなりといふ。

薰香具󠄁九十一
薫香具九十一
香 樓炭經云、凡雜香、有𠦌二種
香 楼炭経に云はく、凡そ雑香に四十二種有りといふ。
沈香 本草云、沈香、〈沈、俗音女林反、〉節堅而沈水者也、兼名苑云、一名堅黑、
沈香 本草に云はく、沈香〈沈は俗の音に女林反〉は節堅くして水に沈む者なりといふ。兼名苑に云はく、一名は堅黒といふ。
淺香 南州異物志云、沈香其次在心白間、不甚堅者、置之水中、不浮󠄁不沈、與水平󠄁者、名曰淺香
浅香 南州異物志に云はく、沈香の其の次は心の白き間に在りて甚だしくは堅からざる者、之れを水中に置けば浮ばず、沈まず、水と平らなる者、名けて浅香と曰ふといふ。
麝香 爾雅注󠄁云、麝、〈食夜反、〉脚似麞而有香、
麝香 爾雅注に云はく、麝〈食夜反〉は脚、麞に似て香り有りといふ。
裛衣香 文字集略云、裛、〈於業反、又於及反、〉裛衣香、〈俗云、衣比、〉
裛衣香 文字集略に云はく、裛〈於業反、又、於及反〉は裛衣香といふ〈俗に云ふ衣比えひ〉。
丁子香 內典云、丁子欝金婆律膏、〈七言偈也、欝金見下文、〉
丁子香 内典に云はく、丁子、鬱金、婆律膏といふ〈七言の偈なり、鬱金は下文に見ゆ〉。
薰陸香 兼名苑注󠄁云、薰陸香、〈俗音君祿、〉出中天竺也、
薫陸香 兼名苑注に云はく、薫陸香〈俗の音は君禄〉は中天竺より出づるなりといふ。
牛頭香 兼名苑注󠄁云、牛頭香、〈俗音五豆、〉出大秦國、氣似麝香
牛頭香 兼名苑注に云はく、牛頭香〈俗の音は五豆〉は大秦国より出づ、気は麝香に似るといふ。
鷄舌香 南州異物志云、鷄舌香、是草花、可含香__口、
鶏舌香 南州異物志に云はく、鶏舌香は是れ草花、ふふみて口を香らすべしといふ。
雀頭香 江表傳云、魏文帝遣󠄁使於吳、求雀頭香
雀頭香 江表伝に云はく、魏の文帝、使を呉に遣して雀頭香を求むといふ。
龍腦香 蘇敬本草注󠄁云、龍腦香者、樹根中乾脂也、
龍脳香 蘇敬本草注に云はく、龍脳香は樹根の中の乾脂なりといふ。
靑木香 南州異物志云、靑木香、〈俗音象目、〉出天竺、是草根狀似甘草
青木香 南州異物志に云はく、青木香〈俗の音は象目〉は天竺より出づ、是の草の根の状は甘草に似るといふ。
零陵香 南州異物志云、零陵香、土人謂爲燕草
零陵香 南州異物志に云はく、零陵香は、土人謂ひて燕草と為すといふ。
都梁香 荊州記云、都梁縣有小山、山上有水淸淺、其中生蘭草、俗謂蘭爲都梁
都梁香 荊州記に云はく、都梁県に小山有り、山上に水有りて清く浅し、其の中に蘭草生じ、俗に蘭を謂ひて都梁と為すといふ。
兜納󠄁香 魏略云、兜納󠄁香、出大秦國
兜納香 魏略に云はく、兜納香は大秦国より出づといふ。
兜末香 漢武故事云、兜末香、西王毋燒之、本是兜渠國所󠄁󠄁獻、
兜末香 漢武故事に云はく、兜末香は西王母、之れを焼く、もと是れ兜渠国の献ずる所といふ。
流黃香 吳時外國志云、流黃香出都昆國
流黄香 呉時外国志に云はく、流黄香は都昆国より出づといふ。
艾納󠄁香 廣志云、艾納󠄁出剽國
艾納香 広志に云はく、艾納は剽国より出づといふ。
迷󠄁迭󠄁香 魏略云、迷󠄁迭󠄁香、出大秦國
迷迭香 魏略に云はく、迷迭香は大秦国より出づといふ。
詹糖香 本草云、詹糖香、〈詹糖二音占唐、〉
詹糖香 本草に云はく、詹糖香〈詹糖の二音は占唐〉といふ。
白芷香 本草云、白芷香、〈芷音止、〉味辛、生河東
白芷香 本草に云はく、白芷香〈芷の音は止〉は味辛し、河東に生ずといふ。
蘇合香 廣志云、蘇合香、出蘇合國、〈今案、一說諸香草煎汁名也、見本草䟽、〉
蘇合香 広志に云はく、蘇合香は蘇合国より出づといふ〈今案ふるに一説に諸の香草の煎汁の名なり、本草疏に見ゆ〉。
甲香 南州異物志云、甲香、〈俗云、甲音合、〉螺屬也、可衆香之、皆使芳、獨燒則臭、
甲香 南州異物志に云はく、甲香〈俗に云ふ、甲の音は合〉は螺の属なり、衆香に合せ之れを焼くべし、皆、芳を益さしむ、独り焼くときは臭しといふ。
百和香 神仙傳云、淮南王、張錦繡之帳、燔百和之香
百和香 神仙伝に云はく、淮南王は錦繡の帳を張り、百和の香を燔くといふ。
芸香 禮記注󠄁云、芸、〈音雲、俗云久佐乃香、〉香草也、
芸香 礼記注に云はく、芸〈音は雲、俗に云ふ久佐乃くさのかう〉は香草なりといふ。
薰爐 漢劉向有薰爐銘、〈薰爐、比度利、〉
薫爐 漢の劉向に薫炉銘有り。〈薫炉は比度利ひとり
薰籠 方言注󠄁云、火籠、〈多歧毛乃々古、〉今薰籠也、
薫籠 方言注に云はく、火籠〈多岐毛乃々古たきもののこ〉は今の薫籠なりといふ。
香囊 唐韵云、幃、〈音圍、又許歸反、〉香囊也、
香囊 唐韻に云はく、幃〈音は囲、又、許帰反〉は香囊なりといふ。

裁縫󠄁具󠄁九十二
裁縫具九十二
碓 祝尙丘曰、碓、〈都隊󠄁反、與對同、加良宇須、〉踏舂具󠄁也、
碓 祝尚丘曰はく、碓〈都隊反、対と同じ、加良宇須からうす〉は踏み舂く具なりといふ。
砧 唐韵云、碪、〈知林反、字亦作砧、歧沼伊太、〉擣衣石也、
砧 唐韻に云はく、碪〈知林反、字は亦、砧に作る、岐沼伊太きぬいた〉は衣を擣つ石なりといふ。
擣衣杵 東宮舊事云、擣衣杵、〈下昌與反、都知、〉
擣衣杵 東宮旧事に云はく、擣衣杵〈下は昌与反、都知つち〉といふ。
硟 陸詞切韵云、硟、〈尺戰反、與扇󠄁同、漢語抄云、歧奴以太、〉展繒石也、
硟 陸詞切韻に云はく、硟〈尺戦反、扇と同じ、漢語抄に云ふ岐奴以太きぬいた〉は繒をぶる石なりといふ。
模 唐韵云、模、〈莫胡反、俗語加太歧、〉法也、形也、
模 唐韻に云はく、模〈莫胡反、俗語に加太岐かたぎ〉は法なり、形なりといふ。
剪刀 楊氏漢語抄云、剪刀、〈剪音即淺反、俗云、毛能多知加太奈、〉所以裁衣裳也、
剪刀 楊氏漢語抄に云はく、剪刀〈剪の音は即浅反、俗に云ふ毛能多知加太奈ものたちがたな〉は衣裳を裁つ所以なりといふ。
[尺 魏武上雜物䟽云、𧰼牙尺、〈齒亦反、辨色立成云、尺竹量也、太加波可利、〉]
[尺 魏武の雑物をたてまつる疏に云はく、象牙尺〈歯亦反、弁色立成に云はく、尺は竹量なり、太加波可利たかばかり〉といふ。]
鍼 陸詞切韻云、鍼、〈職深反、字亦作針、波利、〉縫󠄁衣具󠄁也、
鍼 陸詞切韻に云はく、鍼〈職深反、字は亦、針に作る、波利はり〉は衣を縫ふ具なりといふ。
針管 魏武䟽云、針管一枚、〈針管、波利都々、〉
針管 魏武疏に云はく、針管一枚といふ〈針管は波利都々はりづつ〉。
錔 野王案、錔、〈他合反、與踏同、於與比奴木、〉指沓、所󠄁以縫󠄁__衣具󠄁也、
錔 野王案ずるに、錔〈他合反、踏と同じ、於与比奴木およびぬき〉は指沓、衣を縫ふ所以の具なりとす。
熨斗 蔣魴切韻云、熨、〈音尉、熨斗、乃之、今案一音欝、見唐韻、〉熨斗、所以熨衣裳也、
熨斗 蒋魴切韻に云はく、熨〈音は尉、熨斗は乃之のし、今案ふるに一音は鬱、唐韻に見ゆ〉は熨斗、衣裳を熨す所以なりといふ。

染色具󠄁九十三〈四聲字苑云、染、以物取彩󠄁色也、色者五綵之總名也、〉
染色具九十三〈四声字苑に云はく、染は物を以て彩色を取るなりといふ。色は五綵の総名なり〉
蘇枋 蘇敬本草注󠄁云、蘇枋、〈音方、俗音須方、〉人用色、
蘇枋 蘇敬本草注に云はく、蘇枋〈音は方、俗の音は須方〉は人、色を染むるに用ゐるといふ。
黃櫨 文選󠄁注󠄁云、櫨、〈落胡反、波邇之、〉今之黃櫨木也、
黄櫨 文選注に云はく、櫨〈落胡反、波邇之はにし〉は今の黄櫨の木なりといふ。
蘗 兼名苑云、黃蘗、〈補麥反、〉一名黃木、〈歧波太、〉
蘗 兼名苑に云はく、黄蘗〈補麦反〉、一名は黄木といふ〈岐波太きはだ〉。
梔子 唐韻云、梔、〈音支、今案、醫家書等用支子二字、久知奈之、〉梔子、木實、可黃色者也、
梔子 唐韻に云はく、梔〈音は支、今案ふるに、医家書等に支子の二字を用ゐる、久知奈之くちなし〉は梔子、木の実にして黄色に染むべき者なりといふ。
橡 唐韻云、橡、〈徐兩反、上聲之重、都流波美、〉櫟實也、
橡 唐韻に云はく、橡〈徐両反、上声の重、都流波美つるばみ〉は櫟の実なりといふ。
茜 兼名苑注󠄁云、茜、〈蘇見反、阿加禰、〉可以染__緋者也、
茜 兼名苑注に云はく、茜〈蘇見反、阿加禰あかね〉は以て緋に染むべき者なりといふ。
紫草 本草云、紫草、〈无良佐歧、〉兼名苑云、一名茈䓞、〈紫戾二音、今案玉篇等、茈即古紫字也、〉
紫草 本草に云はく、紫草〈無良佐岐むらさき〉といふ。兼名苑に云はく、一名は茈䓞〈紫戻の二音、今案ふるに玉篇等、茈は即ち古の紫の字なり〉といふ。
紅藍 辨色立成云、紅藍、〈久禮乃阿井、〉吳藍、〈同上、〉本朝式云、紅花、〈俗用之、〉
紅藍 弁色立成に云はく、紅藍〈久礼乃阿井くれのあゐ〉は呉藍〈上に同じ〉といふ。本朝式に云ふ紅花〈俗に之れを用ゐる〉。
藍〈澱附〉 唐韵云、藍、〈魯甘反、木藍、都波歧阿井、蓼藍、多天阿井、見本草、〉染著也、澱、〈音殿、阿井之流、〉藍澱也、本草云、菘藍、堪澱、
藍〈澱付〉 唐韻に云はく、藍〈魯甘反、木藍は都波岐阿井つばきあゐ、蓼藍は多天阿井たであゐ、本草に見ゆ〉は染著そめつけなり、澱〈音は殿、阿井之流あゐじる〉は藍澱なりといふ。本草に云はく、菘藍は澱を作るに堪ふといふ。
黃草 辨色立成云、黃草、〈加伊奈、本朝式云、刈安草、〉
黄草 弁色立成に云ふ黄草〈加伊奈かいな、本朝式に云ふ刈安草〉。
鴨頭草 楊氏漢語抄云、鴨頭草、〈都歧久佐、辨色立成云、押赤草、〉
鴨頭草 楊氏漢語抄に云ふ鴨頭草〈都岐久佐つきくさ、弁色立成に云ふ押赤草〉。
赤莧 本草注󠄁云、莧又有赤莧、〈阿加比由、〉莖葉純紫、不之、
赤莧 本草注に云はく、莧に又、赤莧〈阿加比由あかひゆ〉有り、茎葉は純紫にして之れを食するに堪へずといふ。
黃灰 本草云、冬灰、一名藜灰、〈阿加佐乃波比、〉陶隱居曰、此浣衣黃灰也、燒諸蒿藜、練作之、
黄灰 本草に云はく、冬灰、一名は藜灰といふ〈阿加佐乃波比あかざのはひ〉。陶隠居曰はく、此れ衣をあらふ黄灰なり、諸の蒿藜を焼き、練りて之れを作るといふ。
柃灰 蘇敬曰、又有柃灰、〈柃音靈、今案俗所󠄁󠄁謂椿灰󠄁等是、〉燒木葉之、並入染用
柃灰 蘇敬曰はく、又、柃灰〈柃の音は霊、今案ふるに俗に所謂る椿灰等は是れ〉有り、木葉を焼きて之れを作り、ともに染用に入るといふ。
灰汁 辨色立成云、灰汁、〈阿久、〉淋灰、〈阿久太流、上音林、〉
灰汁 弁色立成に云はく、灰汁〈阿久あく〉、淋灰〈阿久太流あくたる、上の音は林〉といふ。

織機具󠄁九十四
織機具九十四
機〈經緯附〉 國語注󠄁云、織設經緯機、〈居衣反、楊氏漢語抄云、高機、多加波太、今案機巧之處、和加豆利、〉成繒布也、說文云、緯、〈音尉、沼歧、謂緯則經可知、〉橫織絲也、
機〈経緯付〉 国語注に云はく、織は経緯をまうけ機〈居衣反、楊氏漢語抄に云ふ高機、多加波太たかはた、今案ふるに、機巧の処は和加豆利わかつり〉を以てし、繒布を成すなりといふ。説文に云はく、緯〈音は尉、沼岐ぬきぬきいとを謂ふときにはたていとあるを知るべし〉は横に織る糸なりといふ。
杼 通󠄁俗文云、受緯曰䇡、〈今案即杼字也、比、〉亦謂之梭、〈蘇禾反、與莎同、〉說文云、杼者機之持緯者也、
杼 通俗文に云はく、緯を受くるを䇡〈今案ふるに即ち杼の字なり、〉と曰ひ、亦、之れを梭〈蘇禾反、莎と同じ〉と謂ふといふ。説文に云はく、杼は機の緯を持つ者なりといふ。
筬 唐韵云、筬、〈音成、楊氏漢語抄云、乎佐、〉織具󠄁也、
筬 唐韻に云はく、筬〈音は成、楊氏漢語抄に云ふ乎佐をさ〉は織具なりといふ。
榺 四聲字苑云、榺、〈音勝󠄁𧴥之勝󠄁、楊氏漢語抄云、織榺、知歧利、〉織機卷經之木也、
榺 四声字苑に云はく、榺〈音は勝負の勝、楊氏漢語抄に云ふ織榺、知岐利ちきり〉は織機の経を巻くの木なりといふ。
綜 野王案、綜、〈蘇統反、閇、〉機縷持絲交者也、
綜 野王案ずるに、綜〈蘇統反、〉は機縷の糸を持ちまじふる者なりとす。
臥機 楊氏漢語抄云、臥機、〈久豆比歧、弁色立成說同、〉
臥機 楊氏漢語抄に云ふ臥機〈久豆比岐くつひき、弁色立成の説同じ〉。
機躡 辨色立成云、機躡、〈萬禰歧、〈已上本注󠄁、〉躡、踏也、尼輙反、〉
機躡 弁色立成に云ふ機躡〈万禰岐まねき〈已上は本注〉、躡は踏むなり、尼輒反〉。
繀車 說文云、繀、〈蘇對反、楊氏漢語抄云、繀車、沼歧加不利、〉着絲於__筟也、
繀車 説文に云はく、繀〈蘇対反、楊氏漢語抄に云ふ繀車、沼岐加不利ぬきかぶり〉は糸をくだに着くるなりといふ。
繀筟 說文云、筟、〈芳無反、與敷同、楊氏漢語抄云、筟、久太、〉繀絲管也、弁色立成云、管子、〈和名同上、新撰万葉集亦用之、〉
繀筟 説文に云はく、筟〈芳無反、敷と同じ、楊氏漢語抄に云ふ筟、久太くだ〉は繀糸の管なりといふ。弁色立成に云ふ管子〈和名は上に同じ、新撰万葉集に亦、之れを用ゐる〉。
織椱 孫愐曰、織椱、〈音服、漢語抄云、井乃阿之、〉機之卷繒者也、
織椱 孫愐曰はく、織椱〈音は服、漢語抄に云ふ井乃阿之ゐのあし〉は機の繒を巻く者なりといふ。
麻苧 說文云、麻、〈音磨、乎、一云阿佐、〉枲属也、尒雅注󠄁云、枲、〈司里反、介无之、〉麻之有子名也、周󠄀禮注󠄁云、苧、〈直呂反、上聲之重、加良无之、〉麻屬、白而細者也、
麻苧 説文に云はく、麻〈音は磨、、一に云ふ阿佐あさ〉は枲の属なりといふ。爾雅注に云はく、枲〈司里反、介無之けむし〉は麻の子有る名なりといふ。周礼注に云はく、苧〈直呂反、上声の重、加良無之からむし〉は麻の属、白くして細き者なりといふ。
卷子 楊氏漢語抄云、卷子、〈閇蘇、今案本文未詳、但閭巷所󠄁󠄁傳續麻圓卷名也、〉
巻子 楊氏漢語抄に云はく、巻子〈閉蘇へそ、今案ふるに本文は未だ詳かならず、但し閭巷の伝ふる所に、うみを円く巻く名なりといふ〉といふ。

蠶絲具󠄁九十五
蚕糸具九十五
蠺 說文云、蠺、〈昨含反、俗爲蝅字、加比古、一訓古賀比須、〉虫吐絲也、
蚕 説文に云はく、蚕〈昨含反、俗に蝅の字と為す、加比古かひこ、一訓に古賀比須こがひす〉は虫の糸吐くなりといふ。
繭〈獨繭附〉 說文云、繭、〈音顯、万由、〉蠶衣也、列子云、詹何者善釣人也、以獨繭絲綸、〈獨繭、比歧万由、〉
繭〈独繭付〉 説文に云はく、繭〈音は顕、万由まゆ〉は蚕の衣なりといふ。列子に云はく、詹何は釣りを善くする人なり、独繭糸を以て綸と為すといふ〈独繭は比岐万由ひきまゆ〉。
桑繭 唐韻云、蟓、〈音象、久波万由、〉桑上繭、〈即桑蠶也、〉
桑繭 唐韻に云はく、蟓〈音は象、久波万由くはまゆ〉は桑の上の繭といふ〈即ち桑蚕なり〉。
蠶沙 本草云、蠶沙、〈古久曾、〉蠶矢名也、
蚕沙 本草に云はく、蚕沙〈古久曽こくそ〉は蚕のくその名なりといふ。
蠶簿 兼名苑云、簿、〈音薄、衣比良、〉一名筁、〈音曲、〉養蠶器、施蠶於其上、令繭者也、
蚕簿 兼名苑に云はく、簿〈音は薄、衣比良えびら〉、一名は筁〈音は曲〉、蚕を養ふ器にして蚕を其の上に施し繭を作らしむる者なりといふ。
桑柘 禮記注󠄁云、桑柘、〈莊射二音、和名久波、一名都美、〉蠶所󠄁󠄁食也、
桑柘 礼記注に云はく、桑柘〈荘射の二音、和名は久波くは、一名は都美つみ〉は蚕の食ふ所なりといふ。
絲 文字集略云、絲、〈音司、伊度、〉蠶所󠄁󠄁吐也、說文云、線、〈思翦反、字亦作綫、訓與縷同、以度須知、〉絲縷也、纇、〈盧對反、伊度乃布之、〉絲節也、
糸 文字集略に云はく、糸〈音は司、伊度いと〉は蚕の吐く所なりといふ。説文に云はく、線〈思翦反、字は亦、綫に作る、訓は縷と同じ、以度須知いとすぢ〉は糸の縷なり、纇〈盧対反、伊度乃布之いとのふし〉は糸の節なりといふ。
絓絲 說文云、絓、〈口蝸反、漢語抄云、絓絲、之介以度、〉惡絲也、
絓絲 説文に云はく、絓〈口蝸反、漢語抄に云ふ絓糸、之介以度しけいと〉は悪糸なりといふ。
籰 說文云、籰、〈王縛󠄁反、字亦作篗、俗云本音之重、〉收絲者也、唐韵云、柅、〈女履反、和久乃江、〉籰柄也、
籰 説文に云はく、籰〈王縛反、字は亦、篗に作る、俗に本音の重と云ふ〉は糸を収むる者なりといふ。唐韻に云はく、柅〈女履反、和久乃江わくのえ〉は籰の柄なりといふ。
反轉 辨色立成云、反轉、〈久流閇枳、楊氏漢語抄說同、〉
反転 弁色立成に云はく、反転〈久流閉枳くるべき、楊氏漢語抄の説同じ〉といふ。
縿車 唐韻云、縿、〈蘇遭󠄁反、又所󠄁銜反、訓久流、漢語抄云、縿車、於保賀、〉絡繭取絲也、
縿車 唐韻に云はく、縿〈蘇遭反、又、所銜反、訓は久流くる、漢語抄に云ふ縿車、於保賀おほが〉は繭を絡めて糸を取るなりといふ。
鍋〈紡續附〉 字書云、鍋、〈音戈、字亦作楇、漢語抄云、都美、〉紡車收絲者也、唐韻云、紡、〈芳兩反、豆无久、〉續也、蔣魴切韻云、績、〈則歷反、宇无、〉續麻苧名也、
鍋〈紡続付〉 字書に云はく、鍋〈音は戈、字は亦、楇に作る、漢語抄に云ふ都美つみ〉は紡車、糸を収むる者なりといふ。唐韻に云はく、紡〈芳両反、豆無久つむぐ〉はむなりといふ。蒋魴切韻に云はく、績〈則歴反、宇無うむ〉は麻苧を続む名なりといふ。
絡垛 楊氏漢語抄云、絡垛、〈多々理、下他果反、〉
絡垜 楊氏漢語抄に云はく、絡垜〈多々理たたり、下は他果反〉といふ。

屛障具󠄁九十六
屏障具九十六
帷 釋名云、帷、〈音維、加太比良、〉圍也、以自障圍也、
帷 釈名に云はく、帷〈音は維、加太比良かたびら〉は囲むなり、以て自ら障囲するなりといふ。
幕 唐式云、衞尉寺、六幅幕、八幅幕、〈音莫、万久、〉
幕 唐式に云はく、衛尉寺に六幅幕、八幅幕〈音は莫、万久まく〉といふ。
帟 周󠄀禮注󠄁云、平󠄁帳曰帟、〈羊益反、比良波利、〉
帟 周礼注に云はく、平帳を帟〈羊益反、比良波利ひらばり〉と曰ふといふ。
幄 四聲字苑云、幄、〈於角反、阿計波利、〉大帳也、
幄 四声字苑に云はく、幄〈於角反、阿計波利あげはり〉は大帳なりといふ。
幔 唐韵云、幔、〈莫半󠄁反、俗名如字、本朝式、斑幔讀万太良万久、〉帷幔也、
幔 唐韻に云はく、幔〈莫半反、俗の名は字のごとし、本朝式に斑幔の読みは万太良万久まだらまく〉は帷幔なりといふ。
幌 唐韵云、幌、〈胡廣反、上聲之重、止波利、〉帷幔也、
幌 唐韻に云はく、幌〈胡広反、上声の重、止波利とばり〉は帷幔なりといふ。
帳〈几帳附〉 釋名云、帳、〈猪亮反、俗音長、今案帳屬有几帳之名、所󠄁出未詳、〉張也、施張於床上也、小帳曰斗、〈俗云斗帳、一云屛風帳、〉形如覆斗也、
帳〈几帳付〉 釈名に云はく、帳〈猪亮反、俗の音は長、今案ふるに、帳の属に几帳の名有り、出づる所未だ詳かならず〉は張るなり、床の上に施張するなり、小帳を斗〈俗に云ふ斗帳、一に云ふ屏風帳〉と曰ひ、形は覆斗のごときなりといふ。
簾 野王案、簾、〈音廉、須太禮、〉編󠄁竹帳也、
簾 野王案ずるに、簾〈音は廉、須太礼すだれ〉は編竹の帳なりとす。
軟障 本朝式云、軟障一條、
軟障 本朝式に云はく、軟障一条といふ。
行障 唐鹵簿令云、行障六具󠄁、
行障 唐鹵簿令に云はく、行障六具といふ。
屛風 西京雜記云、七尺屛風、〈屛音薄經反、〉
屏風 西京雑記に云はく、七尺の屏風〈屏の音は薄経反〉といふ。
承麈 釋名云、承塵、〈此間名如字、〉施於上、承塵土也、
承麈 釈名に云はく、承塵〈此間ここに名は字のごとし〉は上に施し塵土を承くるなりといふ。
傅壁 釋名云、傅壁、〈漢語抄云、防壁、多都古毛、〉以席傅着於壁也、
傅壁 釈名に云はく、傅壁〈漢語抄に云ふ防壁、多都古毛たつこも〉はむしろを以て壁に傅着するなりといふ。
籧篨 說文云、籚𥳊、〈蘆癈二音、〉麁竹席也、方言曰、江東謂之籧篨、〈渠除二音、阿无師路、〉
籧篨 説文に云はく、籚𥳊〈蘆癈の二音〉は麁竹の席なりといふ。方言曰はく、江東に之れを籧篨〈渠除の二音、阿無師路あむしろ〉と謂ふといふ。
障子 楊氏漢語抄云、障子、〈屛風之屬也、〉
障子 楊氏漢語抄に云はく、障子といふ〈屏風の属なり〉。

坐臥具󠄁九十七
坐臥具九十七
衣架 爾雅注󠄁云、箷、〈音移、字亦作椸、美曾加介、〉懸衣架也、
衣架 爾雅注に云はく、箷〈音は移、字は亦、椸に作る、美曽加介みそかけ〉は衣を懸くる架なりといふ。
几〈脇息附〉 西京雜記云、漢制、天子玉几、公侯、皆以竹木几、〈居履反、於之万都歧、今案、几屬、又有脇息之名、所󠄁󠄁出未詳、〉
几〈脇息付〉 西京雑記に云はく、漢制に、天子は玉几、公侯は皆、竹木を以て几〈居履反、於之万都岐おしまづき、今案ふるに、几の属は又、脇息の名有り、出づる所、未だ詳かならず〉と為すといふ。
牙床 遊󠄁仙窟云、六尺𧰼牙床、〈楊氏漢語抄云、牙床、久禮度古、〉
牙床 遊仙窟に云はく、六尺の象牙床といふ〈楊氏漢語抄に云ふ牙床、久礼度古くれどこ〉。
倚子 本朝式云、紫宸殿設黑柹倚子
倚子 本朝式に云はく、紫宸殿に黒柿の倚子を設くといふ。
床子 本朝式云、行幸用赤漆床子
床子 本朝式に云はく、行幸に赤漆の床子を用ゐるといふ。
草墩 本朝式云、淸凉殿設草墩
草墩 本朝式に云はく、清涼殿に草墩を設くといふ。
胡床 風俗通󠄁云、靈帝好胡服、京師皆作胡床、〈阿久良、〉
胡床 風俗通に云はく、霊帝は胡服を好み、京師は皆、胡床〈阿久良あぐら〉を作るといふ。
毯 蔣魴切韻云、毯、〈他敢反、此間名如字、〉毛席、以五色絲之、
毯 蒋魴切韻に云はく、毯〈他敢反、此間に名は字のごとし〉は毛の席、五色の糸を以て之れと為すといふ。
氈 野王案、氈、〈諸延反、賀毛、〉毛席、撚毛爲席也、
氈 野王案ずるに、氈〈諸延反、賀毛かも〉は毛の席、毛を撚りて席と為すなりといふ。
茵〈褥附〉 野王案、茵、〈音因、之止禰、〉茵褥、又以虎豹皮之、唐韻云、褥、〈而蜀反、與辱同、俗音邇久、今案毛席名也、〉氈褥也、
茵〈褥付〉 野王案ずるに、茵〈音は因、之止禰しとね〉は茵褥、又、虎豹の皮を以て之れと為すといふ。唐韻に云はく、褥〈而蜀反、辱と同じ、俗の音は邇久にく、今案ふるに毛の席の名なり〉は氈褥なりといふ。
簟 蔣魴切韻云、簟、〈徒玷反、上聲之重、〉織篾爲席、暑月鋪之、
簟 蒋魴切韻に云はく、簟〈徒玷反、上声の重〉は篾を織りて席と為し、暑月に之れをくといふ。
圓座 孫愐曰、䕆、〈徒口反、上聲之重、俗云圓座、一云和良布太、〉圓草褥也、
円座 孫愐曰はく、䕆〈徒口反、上声の重、俗に云ふ円座、一に云ふ和良布太わらふだ〉は円き草の褥なりといふ。
疊 本朝式云、掃󠄁部寮、長疊、短疊、〈唐韵、徒協反、重疊也、太々美、〉
畳 本朝式に云はく、掃部寮に長畳、短畳といふ〈唐韻に徒協反、重畳なり、太々美たたみ〉。
筵 說文云、筵、〈音延、无之路、〉竹席也、遊󠄁仙窟云、五綵龍𩯭筵、〈今案俗又有九蝶筵、依文名之、〉唐韻云、席、〈音與藉同、訓同上、〉薦席也、
筵 説文に云はく、筵〈音は延、無之路むしろ〉は竹席なりといふ。遊仙窟に云はく、五綵龍の鬢筵といふ〈今案ふるに俗に又、九蝶筵有り、あやに依りて之れを名く〉。唐韻に云はく、席〈音は藉と同じ、訓は上に同じ〉は薦席なりといふ。
薦 唐韻云、薦、〈作甸反、古毛、〉席也、
薦 唐韻に云はく、薦〈作甸反、古毛こも〉は席なりといふ。
鎭子 西京雜記云、昭陽殿有綠羆席、々毛長尺餘、座則沒膝、有四玉鎭、〈陟刃󠄁反、鎭子、俗音陳之、〉
鎮子 西京雑記に云はく、昭陽殿に緑羆席有り、席の毛の長さ尺余り、座るときには膝を没す、四つの玉鎮〈陟刃反、鎮子、俗の音は陳之〉有りといふ。
枕 陸詞切韵云、枕、〈之稔反、万久良、枕物之處、去聲、〉承頭木也、
枕 陸詞切韻に云はく、枕〈之稔反、万久良まくら、物を枕にするの処は去声〉は頭を承くる木なりといふ。
楲㢏 說文云、楲、〈音威、比、〉㢏也、國語注󠄁云、㢏、〈音投、〉行淸也、
楲㢏 説文に云はく、楲〈音は威、〉は㢏なりといふ。国語注に云はく、㢏〈音は投〉は行清なりといふ。
褻器 周󠄀禮注󠄁云、褻器、〈褻音思烈反、〉謂淸器虎子之屬也、〈今案俗語、虎子、於保都保、淸器、師乃波古、〉
褻器 周礼注に云はく、褻器〈褻の音は思烈反〉は清器や虎子の属を謂ふなりといふ。〈今案ふるに俗語に虎子は於保都保おほつぼ、清器は師乃波古しのはこ

行旅具󠄁九十八
行旅具九十八
簏 說文云、簏、〈音鹿、楊氏漢語抄云、簏子、須利、〉竹篋也、
簏 説文に云はく、簏〈音は鹿、楊氏漢語抄に云ふ簏子、須利すり〉は竹篋なりといふ。
篼 唐韻云、篼、〈當侯反、漢語抄云、波太古、俗用旅籠二字、〉飼馬籠也、
篼 唐韻に云はく、篼〈当侯反、漢語抄に云ふ波太古はたご、俗に旅籠の二字を用ゐる〉は馬を飼ふ籠なりといふ。
樏〈餉附〉 蔣魴切韻云、樏、〈力委反、楊氏漢語抄云、樏子、加禮比計、今案俗所󠄁󠄁謂破子、是、破子讀和利古、〉樏子、中有隔之器也、四聲字苑云、餉、〈式亮反、字亦作𩜋、訓加禮比於久留、〉以食送󠄁人也、
樏〈餉付〉 蒋魴切韻に云はく、樏〈力委反、楊氏漢語抄に云ふ樏子、加禮比計かれひけ、今案ふるに俗に所謂いはゆる破子は是れ、破子の読みは和利古わりこ〉は樏子、隔て有るの器なりといふ。四声字苑に云はく、餉〈式亮反、字は亦、𩜋に作る、訓は加礼比於久留かれひおくる〉は食を以て人に送るなりといふ。
蓑 說文云、蓑、〈蘇和反、美乃、〉雨衣也、
蓑 説文に云はく、蓑〈蘇和反、美乃みの〉は雨衣なりといふ。
笠 毛詩注󠄁云、笠、〈力執反、賀佐、〉所󠄁󠄁以禦__雨也、
笠 毛詩注に云はく、笠〈力執反、賀佐かさ〉は雨を禦ぐ所以なりといふ。
簦 史記音義云、簦、〈音登、俗云大笠、於保賀佐、〉笠有柄也、
簦 史記音義に云はく、簦〈音は登、俗に云ふ大笠、於保賀佐おほがさ〉は笠に柄有るなりといふ。
雨衣 唐式云、三品以上、若遇󠄁雨、聽雨衣氈帽殿門前󠄁、〈雨衣、阿万歧奴、今案一云、油衣、隋書云、煬帝遇󠄁雨、左右進󠄁油衣、是、〉
雨衣 唐式に云はく、三品以上、若し雨に遇はば、雨衣、氈帽を着し、殿門の前に至るをゆるすといふ〈雨衣は阿万岐奴あまぎぬ、今案ふるに一に云ふ油衣、隋書に云はく、煬帝、雨に遇ひ、左右、油衣を進るといふは是れ〉。
行縢 釋名云、行縢、〈音與騰同、行縢、无加波歧、〉騰也、言裹脚可以跳騰輕便也、
行縢 釈名に云はく、行縢〈音は騰と同じ、行縢は無加波岐むかばき〉は騰なりといふ。言ふは脚を裹み以て跳騰し軽便とすべきなればなり。
行纒〈𦯶附〉 唐式云、諸府衞士、人別行纒一具󠄁、〈纒音直連反、〉本朝式云、脛巾、〈俗云波々歧、〉新抄本草云、𦯶、〈傾井反、以知比、今案俗編󠄁之爲行纒也、故附出、〉
行纏〈𦯶付〉 唐式に云はく、諸府の衛士、人ごとに行纏一具といふ〈纏の音は直連反〉。本朝式に云ふ脛巾〈俗に云ふ波々岐はばき〉、新抄本草に云ふ𦯶〈傾井反、以知比いちひ、今案ふるに俗に之れを編みて行纏と為すなり、故に付出す〉。
杖 四聲字苑云、杖、〈直兩反、上聲之重、都惠、〉以竹木之、所󠄁󠄁老人也、
杖 四声字苑に云はく、杖〈直両反、上声の重、都恵つゑ〉は竹木を以て之れと為し、老人を輔くる所なりといふ。
橫首杖 唐韵云、〓〔是+𠀋〕、〈他禮反、與躰同、漢語抄云、伽世都惠、一云、鹿杖、〉橫首杖也、
横首杖 唐韻に云はく、〓〔是+𠀋〕〈他礼反、体と同じ、漢語抄に云ふ伽世都恵かせづゑ、一に云ふ鹿杖〉は横首杖なりといふ。
䥫杖 唐韵云、䥯、〈音與罷同、加奈都惠、〉大䥫杖也、
鉄杖 唐韻に云はく、䥯〈音は罷と同じ、加奈都恵かなづゑ〉は大鉄杖なりといふ。
朸 聲類云、朸、〈音力、阿布古、〉杖名也、
朸 声類に云はく、朸〈音は力、阿布古あふこ〉は杖の名なりといふ。
帊幞 通󠄁俗文云、帛三幅曰帊、〈普駕反、去聲之重、〉帊衣曰幞、〈音僕、〉楊氏漢語抄云、衣幞、〈古路毛都々美、〉
帊幞 通俗文に云はく、帛三幅を帊〈普駕反、去声の重〉と曰ひ、帊衣を幞〈音は僕〉と曰ふといふ。楊氏漢語抄に云ふ衣幞〈古路毛都々美ころもづつみ〉。
囊 蔣魴切韻云、袋、〈音代、字亦作帒、布久路、〉囊名、又魚帒、
囊 蒋魴切韻に云はく、袋〈音は代、字は亦、帒に作る、布久路ふくろ〉は囊の名、又、魚帒といふ。
幐 唐韻云、幐、〈音騰、於比不久路、〉囊之可帶也、
幐 唐韻に云はく、幐〈音は騰、於比不久路おびぶくろ〉は囊の帯ぶべきなりといふ。

葬送󠄁具󠄁九十九
葬送具九十九
棺 四聲字苑云、棺、〈音官、一音貫、比度歧、〉所󠄁󠄁以盛__屍也、屍、〈音與尸同、訓或通󠄁、〉死人形體曰屍也、
棺 四声字苑に云はく、棺〈音は官、一音は貫、比度岐ひとき〉は屍をるる所以なり、屍〈音は尸と同じ、訓は或に通ず〉、死人の形体を屍と曰ふなりといふ。
槨 野王案、槨、〈古博󠄁反、與郭同、於保止古、〉周󠄀棺者也、
槨 野王案ずるに、槨〈古博反、郭と同じ、於保止古おほどこ〉は棺を周る者なりといふ。
琀 唐韻云、琀、〈胡紺反、〉琀玉、送󠄁終口中玉也、
琀 唐韻に云はく、琀〈胡紺反〉は琀玉、終に送る口中の玉なりといふ。
香輿 喪禮圖云、香輿、〈俗云、香乃古之、〉
香輿 喪礼図に云ふ香輿〈俗に云ふかう乃古之のこし〉。
火輿 喪禮圖云、蠟燭輿、〈今案、俗云火輿、是、〉
火輿 喪礼図に云ふ蝋燭輿〈今案ふるに俗に云ふ火輿は是れ〉。
縗衣 唐韻云、縗、〈倉回反、與催同、不知古路毛、〉喪衣也、
縗衣 唐韻に云はく、縗〈倉回反、催と同じ、不知古路毛ふぢごろも〉は喪衣なりといふ。
步障 喪禮圖云、白布帷、以障婦󠄁人、〈今案俗用步障、是、〉
歩障 喪礼図に云はく、白布帷は以て婦人を障るといふ。〈今案ふるに俗に用ゐる歩障は是れ〉
門燎 周󠄀禮云、喪設門燎、〈力弔反、俗云門火、〉顔氏家訓云、喪出之日、門前󠄁燃火、
門燎 周礼に云はく、喪に門燎〈力弔反、俗に云ふ門火〉を設くといふ。顔氏家訓に云はく、喪に出づるの日、門前に火を燃すといふ。
山陵〈埴輪附〉 日本紀私記云、山陵、〈美佐々歧、〉埴輪、〈波邇和、〉山陵緣邊作埴人形立、如車輪者也、
山陵〈埴輪付〉 日本紀私記に云はく、山陵〈美佐々岐みさざき〉といふ。埴輪〈波邇和はにわ〉は山陵の縁辺に埴の人形を作り立つ、車輪のごとき者なりといふ。
墳墓 周󠄀禮注󠄁云、墓、〈莫故反、與暮同、豆賀、〉塚塋地也、廣雅云、塚塋、〈寵營二音、〉葬地也、方言云、墳、〈扶云反、〉壟、〈力腫反、〉並塚名也、
墳墓 周礼注に云はく、墓〈莫故反、暮と同じ、豆賀つか〉は塚塋の地なりといふ。広雅に云はく、塚塋〈寵営の二音〉は葬地なりといふ。方言に云はく、墳〈扶云反〉、壟〈力腫反〉は並びに塚の名なりといふ。

卷第七
巻第七  
 羽族部第十五 毛群部第十六 牛馬部第十七
 羽族部第十五 毛群部第十六 牛馬部第十七
羽族部第十五〈文選󠄁注󠄁云、羽族謂鳥也、〉
羽族部第十五〈文選注に云はく、羽族は鳥を謂ふなりといふ〉
 鳥名百 鳥體百一
 鳥名百 鳥体百一

鳥名百
鳥名百
鳥 尒雅注󠄁云、二足而羽者曰禽、〈音琴、和名與鳥同、〉一說、飛曰鳥、走曰獸、惣謂之禽、〈訓與獸同、〉毛詩注󠄁云、鳥之雌雄、〈熊斯二音、和名上乎度利、下米度利、〉不分別者、以翼󠄂知之、右掩左雄、左掩右雌、陰陽相下之義也、
鳥 爾雅注に云はく、二足にして羽ある者を禽〈音は琴、和名は鳥と同じ〉と曰ふといふ。一説に飛ぶを鳥と曰ひ、走るを獣と曰ひ、惣じて之れを禽〈訓は獣と同じ〉と謂ふ。毛詩注に云はく、鳥の雌雄〈熊斯の二音、和名は上は乎度利をとり、下に米度利めとり〉は分別せざる者は翼を以て之れを知る、右の左を掩ふは雄、左の右を掩ふは雌、陰陽相下るの義なりといふ。
鳳凰 尒雅云、雄曰鳳、雌曰凰、〈俸皇二音、〉羽蟲之長也、
鳳凰 爾雅に云はく、雄を鳳と曰ひ、雌を凰〈俸皇の二音〉と曰ふ、羽虫の長なりといふ。
孔雀 兼名苑注󠄁云、孔雀、〈俗云音宮尺、〉毛端圓一寸者謂之珠毛、毛文如畫、此鳥或以音響相接、或見雄則有子矣、
孔雀 兼名苑注に云はく、孔雀〈俗に云ふ音は宮尺〉は毛端、円なること一寸の者は之れを珠毛と謂ひ、毛の文は画くがごとし、此の鳥は或に音響を以て相まじはり、或に雄を見るときには子有らんといふ。
鸚鵡 山海經云、靑羽赤啄能言、名曰鸚䳇、〈櫻毋二音、〉郭璞注󠄁曰、今之鸚鵡、〈音武、〉脚指前󠄁後各兩者也、
鸚鵡 山海経に云はく、青き羽、赤き啄にして能くものいふ、名けて鸚䳇〈桜母の二音〉と曰ふといふ。郭璞曰はく、今の鸚鵡〈音は武〉は脚の指、前後に各、ふたつある者なりといふ。
鶴 四聲字苑云、鶴、〈何各反、都流、〉似鵠、長喙高脚、唐韵云、䴇、〈音零、楊氏抄漢語抄云、太豆、〉䴇鳥、鸖別名也、
鶴 四声字苑に云はく、鶴〈何各反、都流つる〉は鵠に似て長喙、高脚なりといふ。唐韻に云はく、䴇〈音は零、楊氏抄漢語抄に云ふ太豆たづ〉は䴇鳥、鸖の別名なりといふ。
鵰鷲 唐韵云、鵰、〈音凋、和之、〉鶚別名也、鶚、〈音萼、〉大鵰也、山海經注󠄁云、鷲、〈音就、〉小鵰也、
鵰鷲 唐韻に云はく、鵰〈音は凋、和之わし〉は鶚の別名なり、鶚〈音は咢〉は大鵰なりといふ。山海経注に云はく、鷲〈音は就〉は小鵰なりといふ。
角鷹 辨色立成云、角鷹、〈久万太加、今案角者毛角之義也、〉
角鷹 弁色立成に云はく、角鷹〈久万太加くまたか、今案ふるに角は毛角の義なり〉といふ。
鷙〈鴘字附〉 蔣魴切韵云、鷙、〈音四、多賀、〉鷹鷂總名也、日本紀私記云、俱知、〈兩字急讀屈、百濟俗號鷹曰俱知也、〉唐韻云、鴘、〈方免反、又符蹇反、俗云、賀閇流波美、〉鷹鷂二年色也、
鷙〈鴘字付〉 蒋魴切韻に云はく、鷙〈音は四、太賀たか〉は鷹鷂の総名なりといふ。日本紀私記に云はく、倶知〈両字を急ぎ読み屈、百済の俗に鷹をなづけて倶知くちと曰ふなり〉といふ。唐韻に云はく、鴘〈方免反、又、符蹇反、俗に云ふ賀閉流波美かへるはみ〉は鷹鷂、二年の色なりといふ。
鷹 廣雅云、一歲名之黃鷹、〈音膺、和賀多加、〉二歲名之撫鷹、〈加太加閇利、〉三歲名之靑鷹白鷹、〈漢語抄云、大鷹、於保太加、兄鷹、勢宇、今案俗說雄鷹謂之兄鷹、雌鷹謂之大鷹也、〉
鷹 広雅に云はく、一歳は之れを黄鷹〈音は膺、和賀多加わかたか〉と名け、二歳は之れを撫鷹〈加太加閉利かたかへり〉と名け、三歳は之れを青鷹、白鷹と名くといふ。〈漢語抄に云はく、大鷹は於保太加おほたか、兄鷹は勢宇せうといふ。今案ふるに俗説に雄鷹は之れを兄鷹と謂ひ、雌鷹は之れを大鷹と謂ふなり〉
鷂 兼名苑云、鷣、〈音淫、〉一名鸇、〈諸延反、〉鷂也、野王案、鷂、〈音遙、又去聲、漢語抄云、波之太加、又兄鷂、古能利、〉似鷹而小也、
鷂 兼名苑に云はく、鷣〈音は淫〉、一名は鸇〈諸延反〉、鷂なりといふ。野王案ずるに、鷂〈音は遥、又、去声、漢語抄に云ふ波之太加はしたか、又、兄鷂、古能利このりとといふ〉は鷹に似て小なりとす。
鶙鵳〈鷸子附〉 廣雅云、鶙鵳、〈帝肩二音、漢語抄云、能勢、〉鷸子、〈鷸音聿、訓豆布利、〉皆鷂属也、
鶙鵳〈鷸子付〉 広雅に云はく、鶙鵳〈帝肩の二音、漢語抄に云ふ能勢のせ〉、鷸子〈鷸の音は聿、訓は豆布利つぶり〉は皆、鷂のたぐひなりといふ。
雀鷂 兼名苑注󠄁云、雀鷂、〈漢語抄云、須須美多加、一云都美、〉善捉雀者也、唐韵云、𪀚、〈音戎、漢語抄云、悅哉、〉雀𪀚小鷹也、
雀鷂 兼名苑注に云はく、雀鷂〈漢語抄に云ふ須々美多加すずみたか、一に云ふ都美つみ〉は善く雀を捉ふる者なりといふ。唐韻に云はく、𪀚〈音は戎、漢語抄に云ふ悦哉〉は雀𪀚の小鷹なりといふ。
鶻 斐務齊切韻云、鶻、〈音骨、波夜布佐、〉鷹属也、隼、〈音笋、和名同上、〉鷙鳥也、大名祝鳩
鶻 斐務斉切韻に云はく、鶻〈音は骨、波夜布佐はやぶさ〉は鷹の属なり、隼〈音は笋、和名は上に同じ〉は鷙鳥なり、大は祝鳩と名くといふ。
雎鳩 爾雅集注󠄁云、雎鳩、〈上七余反、美佐古、〉雕屬也、好在江邊山中、亦食魚者也、日本紀私記云、覺賀鳥、〈賀久加乃止利、公望案高橋氏文云水佐古、〉
雎鳩 爾雅集注に云はく、雎鳩〈上は七余反、美佐古みさご〉は雕の属なり、好みて江辺、山中に在り、亦、魚を食ふ者なりといふ。日本紀私記に云はく、覚賀鳥〈賀久加乃止利かくかのとり、公望案ずるに高橋氏文に云ふ水佐古みさご〉といふ。
山鷄 七卷食經云、山鷄、一名鵕䴊、〈峻儀二音、夜末止利、今案山鷄鵕䴊種類各異、見漢書注󠄁、〉地理志云、山鷄形如家鷄、〈雄斑、雌黑、〉
山鶏 七巻食経に云はく、山鶏、一名は鵕䴊〈峻儀の二音、夜末止利やまどり、今案ふるに山鶏、鵕䴊の種類、おのおの異なる、漢書注に見ゆ〉といふ。地理志に云はく、山鶏は形、家鶏のごとしといふ〈雄は斑、雌は黒し〉。
木兎 爾雅注󠄁云、木兎、〈豆久、〉似鴟而小、兎頭毛角、
木兎 爾雅注に云はく、木兎〈豆久つく〉は鴟に似て小、兎頭の毛角ありといふ。
鴟 本草云、鴟一名鳶、〈上音祗、下音鉛、字亦作𪀝、度比、〉爾雅云、一名鵟、〈音狂、[漢語抄云、久曾止比、]〉喜食鼠而大目者也、
鴟 本草に云はく、鴟、一名は鳶といふ〈上の音は祗、下の音は鉛、字は亦、𪀝に作る、度比とび〉。爾雅に云はく、一名は鵟〈音は狂[、漢語抄に云ふ久曽止比くそとび]〉、喜びて鼠を食ひて大目の者なりといふ。
梟 說文云、梟、〈古堯反、布久呂布、辨色立成云、佐計、〉食父母不孝鳥也、爾雅注󠄁云、鴟梟分別大小之名也、
梟 説文に云はく、梟〈古堯反、布久呂布ふくろふ、弁色立成に云ふ佐計さけ〉は父母を食ふ不孝の鳥なりといふ。爾雅注に云はく、鴟梟は大小を分別するの名なりといふ。
恠鴟 爾雅注󠄁云、恠鴟、〈與多賀、〉晝伏夜行、鳴以爲怪者也、
恠鴟 爾雅注に云はく、恠鴟〈与多賀よたか〉は昼は伏し夜は行く、鳴きて以て怪を為す者なりといふ。
烏 唐韻云、烏、〈哀都反、加良須、〉孝鳥也、爾雅云、純黑而反哺者、謂之烏、〈哺音薄故反、食在口也、〉兼名苑云、一名鵶、〈音䃁、字亦作鴉、見唐韻、〉
烏 唐韻に云はく、烏〈哀都反、加良須からす〉は孝鳥なりといふ。爾雅に云はく、純黒にして反哺する者は之れを烏〈哺の音は薄故反、食の口に在るなり〉と謂ふといふ。兼名苑に云はく、一名は鵶〈音は䃁、字は亦、鴉に作る、唐韻に見ゆ〉といふ。
鳩 野王案、鳩、〈音丘、夜末波止、〉此鳥種類甚多、鳩其總名也、
鳩 野王案ずるに、鳩〈音は丘、夜末波止やまばと〉、此の鳥は種類、甚だ多く、鳩は其の総名なりといふ。
鴿 本草云、鴿、〈古沓反、與頜同、伊閇波止、〉頸短灰色、
鴿 本草に云はく、鴿〈古沓反、頜と同じ、伊閉波止いへばと〉は頸短く灰色といふ。
鵤 崔禹食經云、鵤、〈胡岳反、以加流賀、〉貌似鴿而白喙、兼名苑云、斑鳩、〈日本紀私記云、和名同上、〉觜大尾短者也、
鵤 崔禹食経に云はく、鵤〈胡岳反、以加流賀いかるが〉は貌、鴿に似て白き喙といふ。兼名苑に云はく、斑鳩〈日本紀私記に云はく、和名は上に同じといふ〉は觜大きに尾短き者なりといふ。
鳹 陸詞曰、鳹、〈音黔、又音琴、漢語抄云、比米、〉白喙鳥也、
鳹 陸詞曰はく、鳹〈音は黔、又の音は琴、漢語抄に云ふ比米ひめ〉は白き喙の鳥といふ。
鴲 孫愐曰、鴲〈音脂、漢語抄云、之米、〉小靑雀也、
鴲 孫愐曰はく、鴲〈音は脂、漢語抄に云ふ之米しめ〉は小青雀なりといふ。
獦子鳥 楊氏漢語抄云、獦子鳥、〈俗云阿止利、〉辨色立成云、臈觜鳥、〈和名同上、一云胡雀、今案本文未詳、但或說云、此鳥群飛如列卒之滿山林、故名獦子鳥也、〉
獦子鳥 楊氏漢語抄に云ふ獦子鳥〈俗に云ふ阿止利あとり〉、弁色立成に云ふ臈觜鳥〈和名は上に同じ、一に云ふ胡雀、今案ふるに本文は未だ詳かならず。但し或説に云はく、此の鳥は群れ飛びて列卒の山林に満つるがごとし、故に獦子鳥と名くるなりといふ〉。
鵯 崔禹食經云、鵯、〈音卑、一音疋、比衣止利、〉貌似烏而色蒼白也、爾雅注󠄁云、鸄、〈音激、〉一名鵯鶋、〈疋居二音、〉一名鸒𪆗、〈譽斯二音、〉飛而多群、腹下白者、江東呼爲鵯烏
鵯 崔禹食経に云はく、鵯〈音は卑、一音に疋、比衣止利ひえどり〉は貌、烏に似て色は蒼白きなりといふ。爾雅注に云はく、鸄〈音は激〉、一名は鵯鶋〈疋居の二音〉、一名は鸒𪆗〈誉斯の二音〉、飛びて多く群れ、腹の下の白き者、江東に呼びて鵯烏と為すといふ。
鵐鳥 唐韻云、鵐、〈音巫、漢語抄云、巫鳥、之止止、〉鳥名也、
鵐鳥 唐韻に云はく、鵐〈音は巫、漢語抄に云ふ巫鳥、之止止しとど〉は鳥の名なりといふ。
鶇鳥 唐韻云、鶇、〈音東、漢語抄云、鶇鳥、都久美、辨色立成云、馬鳥、〉鳥名也、
鶇鳥 唐韻に云はく、鶇〈音は東、漢語抄に云ふ鶇鳥、都久美つぐみ、弁色立成に云ふ馬鳥〉は鳥の名なりといふ。
鵽鳥 陸詞曰、鵽、〈古活反、多止利、〉小鳥似雉也、
鵽鳥 陸詞曰はく、鵽〈古活反、多止利たどり〉は小鳥、雉に似るなりといふ。
胡鷰 兼名苑注󠄁云、鷰有胡越二種、〈楊氏漢語抄云、胡鷰子、阿万止利、〉
胡鷰 兼名苑注に云はく、鷰に胡、越の二種有りといふ〈楊氏漢語抄に云ふ胡鷰子、阿万止利あまどり〉。
𪇆𪄻 四聲字苑云、𪇆𪄻、〈獨舂二音、漢語抄云、獨舂鳥、佐夜豆歧止利、〉鳥黃色、聲似舂者相杵也、
𪇆𪄻 四声字苑に云はく、𪇆𪄻〈独舂の二音、漢語抄に云ふ独舂鳥、佐夜豆岐止利さやつきどり〉は鳥、黄色く、声は舂く者の相杵に似るなりといふ。
喚子鳥 万葉集云、喚子鳥、〈其讀與布古止利、〉
喚子鳥 万葉集に云ふ喚子鳥〈其の読みは与布古止利よぶこどり〉。
稻負󠄁鳥 万葉集云、稻負󠄁鳥、〈其読伊奈於保勢度利、〉
稲負鳥 万葉集に云ふ稲負鳥〈其の読みは伊奈於保勢度利いなおほせどり〉。
鶪 兼名苑云、鶪一名鷭、〈上音覔、下音煩、漢語抄云、伯勞、毛受、〉伯勞也、日本紀私記云、百舌鳥、
鶪 兼名苑に云はく、鶪、一名は鷭〈上の音は覔、下の音は煩、漢語抄に云ふ伯労、毛受もず〉、伯労なりといふ。日本紀私記に云ふ百舌鳥。
斵木 尒雅集注󠄁云、斵木、一名鴷、〈音列、天良豆豆歧、〉好食樹中蠹者也、
斵木 爾雅集注に云はく、斵木、一名は鴷〈音は列、天良豆々岐てらつつき〉、好みて樹中の蠹を食ふ者なりといふ。
布糓鳥 兼名苑云、鸕𪆰、一名鴶鵴、〈盧葛吉菊四音、布々止利、〉布糓也、
布穀鳥 兼名苑に云はく、鸕𪆰、一名は鴶鵴〈盧、葛、吉、菊の四音、布々止利ふふどり〉、布穀なりといふ。
鵼 唐韵云、鵼、〈音空、漢語抄云、沼江、〉恠鳥也、
鵼 唐韻に云はく、鵼〈音は空、漢語抄に云ふ沼江ぬえ〉は怪鳥なりといふ。
鵂鶹 張華博󠄁󠄁󠄁物志云、鵂鶹鳥、〈休留二音、漢語抄云、伊比止與、〉人截手足爪地、則入其家拾取之、
鵂鶹 張華博物志に云はく、鵂鶹鳥〈休留の二音、漢語抄に云ふ伊比止与いひどよ〉は人、手足の爪を截りて地に棄つるときには其の家に入り、拾ひて之れを取るといふ。
鵁〓〔青偏に鳥〕 唐韵云、鵁〓〔青偏に鳥〕、〈交靑二音、〉鳥名也、辨色立成云、鵁〓〔青偏に鳥〕、〈伊微、〉住海邊、其鳴極喧者也、
鵁鶄 唐韻に云はく、鵁鶄〈交青の二音〉は鳥の名なりといふ。弁色立成に云はく、鵁鶄〈伊微いひ〉は海辺に住み、其の鳴くこと極めてかまびすしき者なりといふ。
鸎 陸詞曰、鸎、〈烏莖反、漢語抄云、春鳥子、宇久比須、〉春鳥也、
鸎 陸詞曰はく、鸎〈烏茎反、漢語抄に云ふ春鳥子、宇久比須うぐひす〉は春鳥なりといふ。
𪇖𪈜鳥 唐韵云、𪇖𪈜、〈藍縷二音、保度々歧須、〉今之郭公也、
𪇖𪈜鳥 唐韻に云はく、𪇖𪈜〈藍縷の二音、保度々岐須ほととぎす〉は今の郭公なりといふ。
雉 廣雅云、雉、〈音智、上聲之重、歧々湏、一云歧之、〉野鷄也、
雉 広雅に云はく、雉〈音は智、上声の重、岐々須きぎす、一に云ふ岐之きじ〉は野鶏なりといふ。
鶉 淮南子云、蝦蟇化󠄁爲鶉、〈市倫反、宇豆良、〉
鶉 淮南子に云はく、蝦蟇は化して鶉〈市倫反、宇豆良うづら〉と為るといふ。
鸗 玉篇云、鸗、〈音籠、漢語抄云、之歧、一云田鳥、〉野鳥也、
鸗 玉篇に云はく、鸗〈音は籠、漢語抄に云ふ之岐しぎ、一に云ふ田鳥〉は野鳥なりといふ。
雲雀 崔禹食經云、雲雀似雀而大、〈比波利、〉楊氏漢語抄云、鶬鶊、〈倉庚二音、訓上同、〉
雲雀 崔禹食経に云はく、雲雀は雀に似て大といふ〈比波利ひばり〉。楊氏漢語抄に云ふ鶬鶊〈倉庚の二音、訓は上に同じ〉。
鸅鸆鳥 唐韵云、鸅鸆、〈澤虞󠄁二音、漢語抄云、護田鳥、於須賣止利、〉護田也、尒雅集注󠄁云、鴋、〈音紡、〉一名澤虞󠄁、即護田鳥也、常在澤中、見人輙鳴、有主󠄁守官、故以名之、
鸅鸆鳥 唐韻に云はく、鸅鸆〈澤虞の二音、漢語抄に云ふ護田鳥、於須売止利おすめどり〉は田を護るなりといふ。爾雅集注に云はく、鴋〈音は紡〉、一名は沢虞、即ち護田鳥なり、常に沢中に在り、人を見ては輙ち鳴く、主守官に似ること有り、故に以て之れを名くといふ。
鼃鳥 崔禹食經云、鼃鳥、〈久比奈、漢語抄云、水鷄、〉貌似水鷄、能食鼃、故以名之、
鼃鳥 崔禹食経に云はく、鼃鳥〈久比奈くひな、漢語抄に云ふ水鶏〉は貌、水鶏に似て能く鼃を食ふ、故に以て之れを名くといふ。
鷰 爾雅集注󠄁云、鷰、〈烏見反、豆波久良米、〉白脰小烏也、
鷰 爾雅集注に云はく、鷰〈烏見反、豆波久良米つばくらめ〉は白きうなじの小烏なりといふ。
雀〈連雀附〉 楊氏漢語抄云、雀、〈且略反、須々米、〉連雀、〈唐雀也、辨色立成說同、〉
雀〈連雀付〉 楊氏漢語抄に云はく、雀〈且略反、須々米すずめ〉、連雀〈唐雀なり、弁色立成の説同じ〉といふ。
𪃹〓〔令冠に鳥〕 崔禹食經云、𪃹〓〔令冠に鳥〕、〈積靈二音、字或作鶺鴒、邇波久奈布利、日本紀私記云、止都歧乎之倍止利、〉貌似鷰、而高飛作聲、
𪃹〓〔令冠に鳥〕 崔禹食経に云はく、𪃹〓〔令冠に鳥〕〈積霊の二音、字は或に鶺鴒に作る、邇波久奈布利にはくなぶり、日本紀私記に云ふ止都岐乎之倍止利とつぎをしへどり〉は貌、鷰に似て高く飛び声を作すといふ。
巧婦󠄁 兼名苑注󠄁云、巧婦󠄁、〈太久美止利、〉好剖葦皮、食中蟲、故亦名蘆虎
巧婦 兼名苑注に云はく、巧婦〈太久美止利たくみどり〉は好く葦皮をき中の虫を食ふ、故に亦、蘆虎と名くといふ。
鷦鷯 文選󠄁鷦鷯賦云、鷦鷯、〈焦遼二音、佐々歧、〉小鳥也、生於蒿萊之間於藩籬之下
鷦鷯 文選鷦鷯賦に云はく、鷦鷯〈焦遼の二音、佐々岐さざき〉は小鳥なり、蒿萊の間に生じ、藩籬のもとに長ずといふ。
鷃 唐韵云、鷃、〈音晏、加夜久歧、〉雀鷃、小鳥也、
鷃 唐韻に云はく、鷃〈音は晏、加夜久岐かやくき〉は雀鷃、小鳥なりといふ。
鴻鴈 毛詩鴻鴈篇注󠄁云、大曰鴻、小曰鴈、〈洪岸二音、加利、〉
鴻鴈 毛詩鴻鴈篇注に云はく、大なるを鴻と曰ひ、小なるを鴈と曰ふといふ〈洪岸の二音、加利かり〉。
鴨 爾雅集注󠄁云、鴨、〈音押、〉野名曰鳬、〈音扶、〉家名曰鶩、〈音木、〉楊氏漢語抄云、鳬鷖、〈加毛、下字音烏嵆反、〉
鴨 爾雅集注に云はく、鴨〈音は押〉は野に名けて鳬〈音は扶〉と曰ひ、家に名けて鶩〈音は木〉と曰ふといふ。楊氏漢語抄に云ふ鳬鷖〈加毛かも、下の字の音は烏嵆反、〉。
鴛鴦 崔豹古今注󠄁云、鴛鴦、〈𡨚鸎二音、乎之、漢語抄云、〓〔溪冠に鳥〕𪃠、其音溪勅、〉雌雄未嘗相離、人得其一則其一思而死、故名匹鳥也、
鴛鴦 崔豹古今注に云はく、鴛鴦〈𡨚鸎の二音、乎之をし、漢語抄に云ふ〓〔溪冠に鳥〕𪃠、其の音は渓勅〉は雌雄、未だ嘗て相離れず、人、其の一を得るときには其の一は思ひて死す、故に匹鳥と名くるなりといふ。
鸍 尒雅集注󠄁云、鸍、〈音彌、一音施、漢語抄云、多加倍、〉一名沈鳬、貌似鴨而小、背上有文、
鸍 爾雅集注に云はく、鸍〈音は彌、一音に施、漢語抄に云ふ多加倍たかべ〉、一名は沈鳬、貌、鴨に似て小さく、背の上に文有りといふ。
鵝 兼名苑注󠄁云、鵝、〈音峨、〉形如鴈、人家所󠄁󠄁畜也、
鵝 兼名苑注に云はく、鵝〈音は峨〉は形、鴈のごとくして人家にふ所なりといふ。
鵠 野王案、鵠、〈胡篤反、漢語抄云、古布、日本紀私記云、久々比、〉大鳥也、
鵠 野王案ずるに、鵠〈胡篤反、漢語抄に云ふ古布こふ、日本紀私記に云ふ久々比くぐひ〉は大鳥なりとす。
鸛 本草云、鸛、〈音館、於保止利、〉水鳥似鵠而巢樹者也、
鸛 本草に云はく、鸛〈音は館、於保止利おほとり〉は水鳥、鵠に似て樹にすくふ者なりといふ。
鷺 唐韵云、𪅖〓〔鋤偏に鳥〕、〈舂鋤二音、〉白鷺也、崔禹食經云、鷺、〈音路、佐歧、〉色純白、其聲似人呼喚者也、
鷺 唐韻に云はく、𪅖〓〔鋤偏に鳥〕〈舂鋤の二音〉は白鷺なりといふ。崔禹食経に云はく、鷺〈音は路、佐岐さぎ〉は色、純白、其の声は人の呼喚するに似る者なりといふ。
蒼鷺 崔禹食經云、鷺又有一種、相似而小、色蒼黑、並在水湖間、〈漢語抄云、蒼鷺、美止佐歧、〉
蒼鷺 崔禹食経に云はく、鷺に又、一種有り、相似て小さく、色は蒼黒く、並びに水湖の間に在りといふ〈漢語抄に云ふ蒼鷺、美止佐岐みとさぎ〉。
鵲 本草云、鵲、〈且略反、加佐々歧、〉飛駮、馬泥、鵲腦名也、
鵲 本草に云はく、鵲〈且略反、加佐々岐かささぎ〉といふ。飛駮、馬泥は鵲の脳の名なり。
鳭 玉篇云、鳭、〈音嘲、都歧、〉赤喙自呼之鳥也、楊氏漢語抄云、紅鶴、〈同上、俗用鵇字、今案所󠄁󠄁出未詳、〉日本紀私記云、桃花鳥、
鳭 玉篇に云はく、鳭〈音は嘲、都岐つき〉は赤き喙にして自ら呼ぶの鳥なりといふ。楊氏漢語抄に云ふ紅鶴〈上に同じ、俗に鵇の字を用ゐること、今案ふるに出づる所未だ詳かならず。〉、日本紀私記に云ふ桃花鳥。
鸕鷀 辨色立成云、大曰鸕鷀、〈盧兹二音、日本紀私記云、志麻都止利、〉小曰鵜鶘、〈啼胡二音、俗云宇、〉尒雅注󠄁云、鸕鶿 水鳥也、觜頭如鈎、好食魚也、
鸕鷀 弁色立成に云はく、大を鸕鷀〈盧兹の二音、日本紀私記に云ふ志麻都止利しまつとり〉と曰ひ、小を鵜鶘〈啼胡の二音、俗に云ふ〉と曰ふといふ。爾雅注に云はく、鸕鷀は水鳥なり、觜頭は鈎のごとし、好く魚を食ふなりといふ。
𩿢 唐韵云、𩿢、〈他口反、漢語抄云、久呂止利、〉黑色水鳥名也、
𩿢 唐韻に云はく、𩿢〈他口反、漢語抄に云ふ久呂止利くろどり〉は黒色の水鳥の名なりといふ。
魚虎 尒雅集注󠄁云、鴗、〈音立、曾比、見日本紀私記、[文德天皇、錄魚虎鳥三字、]〉小鳥也、色靑翆、而食魚、江東呼爲水狗、兼名苑云、魚虎、
魚虎 爾雅集注に云はく、鴗〈音は立、曽比そび、日本紀私記に見ゆ[、文徳天皇、魚虎鳥の三字を録す]〉は小鳥なり、色は青翠にして魚を食ひ、江東に呼びて水狗と為すといふ。兼名苑に云ふ魚虎。
鸊鶙 方言注󠄁云、鸊鶙、〈辟低二音、辨色立色云、邇保、〉野鳬小而好沒水中也、玉篇云、鸊鶙其膏可以瑩刀劔
鸊鶙 方言注に云はく、鸊鶙〈辟低の二音、弁色立色に云ふ邇保にほ〉は野鳬の、小さくして好く水中に没むなりといふ。玉篇に云はく、鸊鶙、其の膏を以て刀剣をみがくべしといふ。
鷗 唐韵云、鷗、〈烏侯反、加毛米、〉水鳥也、兼名苑云、一名江鷰、
鴎 唐韻に云はく、鴎〈烏侯反、加毛米かもめ〉は水鳥なりといふ。兼名苑に云はく、一名は江鷰といふ。
鶵 爾雅云、鳥子生、須其毋而食、謂之鷇、〈音鴝、一云音顧、〉鳥子生、能噣食謂之雛、〈音芻、字亦作𪀫、訓並比奈、〉
鶵 爾雅に云はく、鳥子生れて其の母をちて食ふ、之れを鷇〈音は鴝、一に云ふ音は顧〉と謂ひ、鳥子生れて能くついはみ食ふ、之れを雛〈音は芻、字は亦、𪀫に作る、訓は並びに比奈ひな〉と謂ふといふ。
卵 陸詞曰、卵、〈音嬾、加比古、〉鳥胎也、呂氏春秋云、鷄卵多毈、〈音段、須毛利、〉野王案、毈卵不孵也、孵、〈音孚、俗云賀閇流、〉卵化󠄁也、
卵 陸詞曰はく、卵〈音は嬾、加比古かひご〉は鳥胎なりといふ。呂氏春秋に云はく、鶏卵、毈〈音は段、須毛利すもり〉すること多しといふ。野王案ずるに、毈卵は孵らざるなり、孵〈音は孚、俗に云ふ賀閉流かへる〉は卵の化するなりとす。

鳥體百一
鳥体百一
冠 野王案、〓〔溪冠に鳥〕𪃠頭上有毛冠、〈冠讀佐賀、文選󠄁射雉賦朱冠是、〉鳥冠也、尒雅注󠄁云、木兎似鴟而毛角、〈今案此間名同上、但獨立謂之毛冠、双立謂之毛角耳、〉
冠 野王案ずるに、〓〔溪冠に鳥〕𪃠、頭上に毛冠〈冠の読みは佐賀さか、文選射雉賦の朱冠は是れ〉有り、鳥冠なりとす。爾雅注に云はく、木兎は鴟に似て毛角といふ。〈今案ふるに此間の名は上に同じ。但し独立は之れを毛冠と謂ひ、双立は之れを毛角と謂ふのみ〉
觜〈喙附〉 說文云、觜、〈音斯、久知波之、〉鳥喙也、喙、〈音衞、久知佐歧良、文選󠄁飢鷹礪喙、是也、〉鳥口也、
觜〈喙付〉 説文に云はく、觜〈音は斯、久知波之くちばし〉は鳥の喙なり、喙〈音は衛、久知佐岐良くちさきら、文選に飢えたる鷹、喙をぐといふは是なり〉は鳥の口なりといふ。
毳 考聲切韻云、毳、〈川芮反、爾古介、〉細弱󠄁毛也、
毳 考声切韻に云はく、毳〈川芮反、爾古介にこげ〉は細弱の毛なりといふ。
䙰𥛨 文選󠄁海賦云、鳬雛䙰𥛨、〈離徙二音、師說、布久介、〉
䙰𥛨 文選海賦に云はく、かもめの雛、䙰𥛨〈離徙の二音、師説に布久介ふくげ〉にすといふ。
淋滲 文選󠄁海賦云、鶴子淋滲、〈林深二音、師說都々介、〉李善曰、䙰𥛨、淋滲、皆毛羽始生貌也、
淋渗 文選海賦に云はく、鶴の子、淋渗〈林深の二音、師説に都々介つつげ〉なりといふ。李善曰はく、䙰𥛨、淋渗、皆、毛羽の始めて生ずる貌なりといふ。
羽 唐韵云、羽、〈音禹、波、〉鳥翅也、
羽 唐韻に云はく、羽〈音は禹、〉は鳥の翅なりといふ。
翼󠄂 唐韵云、翅、〈施智反、去聲之輕、豆波佐、〉鳥翼󠄂也、翼󠄂、〈與軄反、〉羽翼󠄂、又助也、翎、〈音零、和名並同上、〉鳥羽也、
翼 唐韻に云はく、翅〈施智反、去声の軽、豆波佐つばさ〉は鳥の翼なり、翼〈与職反〉は羽翼、又、助くるなり、翎〈音は零、和名は並びに上に同じ〉は鳥の羽なりといふ。
翮 爾雅集注󠄁云、羽本曰翮、〈下革反、字亦作𦑜、波禰、〉一云羽根也、
翮 爾雅集注に云はく、羽の本を翮〈下革反、字は亦、𦑜に作る、波禰はね〉と曰ふといふ。一に云ふ羽根なり。
翈 唐韵云、翈、〈胡甲反、與匣同、加佐歧利、〉翮上短羽也、
翈 唐韻に云はく、翈〈胡甲反、匣と同じ、加佐岐利かざきり〉は翮の上の短羽なりといふ。
倍羅麽 日本紀私記云、倍羅麽、〈師說鳥乃和歧乃之多乃介乎爲倍羅麽也、麽謂眞實也、言鳥掖羽乃古止掩藏之國也、案奥區也、今俗謂保呂羽、訛也、〉
倍羅麽 日本紀私記に云はく、倍羅麽〈師説にとり乃和岐乃之多乃介のわきのしたのけを倍羅麽と為すなり、麽は真実を謂ふなり、言ふは鳥の掖羽のごと掩ひ蔵すの国なればなり、案ふるに奥区なり、今、俗に保呂羽ほろばと謂ふは訛りなり〉といふ。
翹 四聲字苑云、翹、〈渠遙反、今案俗云翡翠、是、〉鳥尾上長毛也、
翹 四声字苑に云はく、翹〈渠遥反、今案ふるに俗に云ふ翡翠は是〉は鳥の尾の上の長毛なりといふ。
尾 野王案云、尾、〈漠鬼反、乎、〉鳥獸尻長毛也、
尾 野王案ずるに云はく、尾〈漠鬼反、〉は鳥獣の尻の長毛なりといふ。
鞦 文選󠄁射雉賦云、靑鞦、〈音秋、師說乎布佐、〉李善曰、鞦、夾尾之間也、
鞦 文選射雉賦に云はく、青き鞦〈音は秋、師説に乎布佐をぶさ〉といふ。李善曰はく、鞦は尾を夾むの間なりといふ。
臎 遊󠄁仙窟云、雉臎、〈音翠、師說比多禮、〉說文云、臎、〈今案如許愼說者、俗所󠄁󠄁謂阿布良之利、是也、〉鳥尾肉也、
臎 遊仙窟に云はく、雉臎〈音は翠、師説に比多礼ひたれ〉といふ。説文に云はく、臎〈今案ふるに許慎の説のごとき者は俗に所謂いはゆ阿布良之利あぶらしり、是なり〉は鳥の尾の肉なりといふ。
吭 唐韵云、吭、〈胡郎反、又去聲、鳥乃布江、〉鳥吭嚨也、
吭 唐韻に云はく、吭〈胡郎反、又、去声、とり乃布江のふえ〉は鳥の吭嚨なりといふ。
膍胵 本草云、膍胵、〈毗𧈪二音、鳥乃和多、〉鳥胃也、
膍胵 本草に云はく、膍胵〈毘𧈪の二音、とり乃和多のわた〉は鳥の胃なりといふ。
肫 唐韵云、肫、〈章倫反、與春同、漢語抄云、无々歧、〉鳥藏也、
肫 唐韻に云はく、肫〈章倫反、春と同じ、漢語抄に云ふ無々岐むむき〉は鳥の蔵なりといふ。
膆 文選󠄁射雉賦注󠄁云、膆、〈音素、師說毛乃波美、〉鳥受食處也、
膆 文選射雉賦注に云はく、膆〈音は素、師説に毛乃波美ものはみ〉は鳥の、食を受くる処なりといふ。
𠷏 唐韵云、𠷏、〈音委、又音毀、曾々呂、〉說文、鷙鳥食已吐其皮毛如__丸也、
𠷏 唐韻に云はく、𠷏〈音は委、又の音は毀、曽々呂そそろ〉といふ。説文に、鷙鳥、食ひ已りて其の皮毛をまりのごとく吐くなりとあり。
*原本ナシ󠄁 本草云、鴨通󠄁、〈加毛乃久曾、〉鴨屎名也、
鴨通 本草に云はく、鴨通〈加毛乃久曽かものくそ〉は鴨の屎の名なりといふ。
蜀水華 本草云、蜀水華、〈宇乃久曾、〉鸕鷀矢名也、
蜀水華 本草に云はく、蜀水華〈宇乃久曽うのくそ〉は鸕鷀のくその名なりといふ。
蹼 尒雅集注󠄁云、蹼、〈音卜、美豆加歧、〉鳬鴈足指間有幕相連著者也、
蹼 爾雅集注に云はく、蹼〈音は卜、美豆加岐みづかき〉は鳬鴈の足指の間に幕有りて相連なり著くる者なりといふ。
距 蔣魴切韻云、距、〈音巨、訓阿古江、〉鷄雉脛有歧也、
距 蒋魴切韻に云はく、距〈音は巨、訓は阿古江あごえ〉は鶏雉の脛に岐有るなりといふ。
飛翥 唐韵云、翥、〈音恕、字亦作䬡、文選󠄁射雉賦云、軒翥、波布流、俗云波都々、〉飛𦦙也、
飛翥 唐韻に云はく、翥〈音は恕、字は亦、䬡に作る、文選射雉賦に云ふ軒翥、波布流はふる、俗に云ふ波都々はつつ〉は飛び挙ぐるなりといふ。
啄 四聲字苑云、啄、〈丁角反、都伊波无、又用噣字、音鬪、〉鳥口取食也、
啄 四声字苑に云はく、啄〈丁角反、都伊波無ついばむ、又、噣の字を用ゐる、音は闘〉は鳥の口、食を取るなりといふ。
嚇 唐韻云、鳴、〈音名、奈久、〉鳥啼也、囀、〈音轉、佐閇都流、〉鳥吟也、文選󠄁蕪城賦云、寒鴟嚇鶵、〈嚇音呼格反、師說賀々奈久、〉
嚇 唐韻に云はく、鳴〈音は名、奈久なく〉は鳥の啼くなり、囀〈音は転、佐閉都流さへづる〉は鳥のうたふなりといふ。文選蕪城賦に云はく、こごしたるとび、鶵にかかなくといふ。〈嚇の音は呼格反、師説に賀々奈久かかなく
㕞毛 四聲字苑云、㕞、〈所󠄁劣反、文選󠄁云、㕞蕩、波豆久路比須、漢語抄云、㕞毛、阿布良比歧、〉鳥理毛也、
刷毛 四声字苑に云はく、刷〈所劣反、文選に云ふ刷蕩、波豆久路比須はづくろひす、漢語抄に云ふ阿布良比岐あぶらびき〉は鳥の、毛ををさむるなりといふ。
孳尾 尙書云、鳥獸孳尾、〈孳音疾置反、與字同、〉孔安國曰、乳化󠄁曰孳、交接曰尾、〈鳥交接、俗人云、豆流比須、〉
孳尾 尚書に云はく、鳥獣は孳尾〈孳の音は疾置反、字と同じ〉すといふ。孔安国曰はく、乳化を孳と曰ひ、交接を尾〈鳥の交接は俗人の云ふ豆流比須つるびす〉と曰ふといふ。
巢 孫愐曰、鳥巢在穴曰窠〈音科〉、在樹曰巢、〈音曹、訓須、一云須久布、〉
巣 孫愐曰はく、鳥の巣、穴に在るを窠〈音は科〉と曰ひ、樹に在るを巣〈音は曹、訓は、一に云ふ須久布すくふ〉と曰ふといふ。
塒 毛詩云、雞栖于塒、注󠄁云、鑿墻而棲曰塒、〈音時、訓止久良、〉
塒 毛詩に云はく、鶏は塒に栖むといふ。注に云はく、墻をうがちて棲むを塒〈音は時、訓は止久良とぐら〉と曰ふといふ。

毛群部第十六〈文選󠄁注󠄁云、毛群謂獸也、〉
毛群部第十六〈文選注に云はく、毛群は獣を謂ふなりといふ〉
 獸名百二 獸體百三
 獣名百二 獣体百三

獸名百二
獣名百二
獸 爾雅注󠄁云、四足而毛曰獸、〈音狩、介毛乃、〉野王案、六畜、〈音宙、一音救、介多毛乃、〉牛馬羊犬鷄豕也、說文云、牝、〈音臏、米介毛能、〉畜毋也、牡、〈音母、乎介毛乃、〉畜父也、
獣 爾雅注に云はく、四足にして毛あるを獣〈音は狩、介毛乃けもの〉と曰ふといふ。野王案ずるに、六畜〈音は宙、一音に救、介多毛乃けだもの〉は牛、馬、羊、犬、鶏、豕なりとす。説文に云はく、牝〈音は臏、米介毛能めけもの〉は畜母なり、牡〈音は母、乎介毛乃をけもの〉は畜父なりといふ。
師子 兼名苑云、師子一名狻猊、〈酸蜺二音、〉穆天子傳云、狻猊、日行五百里、以虎豹粮、
師子 兼名苑に云はく、師子、一名は狻猊〈酸蜺の二音〉といふ。穆天子伝に云はく、狻猊は日に五百里行き、虎豹を以て粮と為すといふ。
𧰼 四聲字苑云、𤉢、〈祥兩反、上聲之重、字亦作象、歧佐、〉獸名、似水牛、大耳、長鼻、眼細、牙長者也、
象 四声字苑に云はく、𤉢〈祥両反、上声の重、字は亦、象に作る、岐佐きさ〉は獣の名、水牛に似て大耳、長鼻、眼細く、牙長き者なりといふ。
犀〈雌犀附〉 爾雅集注󠄁云、犀、〈音西、此間音在、〉形似水牛、猪頭大腹、有三角、一在頂上、一在額上、一在鼻上、脚有三蹄、黑色、本草云、雌犀、一名兕犀、〈楊玄操曰、兕、音似、〉
犀〈雌犀付〉 爾雅集注に云はく、犀〈音は西、此間に音は在〉は形、水牛に似、猪頭、大腹、三つの角有り、一は頂の上に在り、一は額の上に在り、一は鼻の上に在り、脚に三つの蹄有り、黒色といふ。本草に云はく、雌犀、一名は兕犀といふ〈楊玄操の曰ふ兕、音は似〉。
麒麟 瑞應圖云、麒麟、〈其隣二音、又作騏驎、〉仁獸也、牡曰麒、牝曰麟也、
麒麟 瑞応図に云はく、麒麟〈其隣の二音、又、騏驎に作る〉は仁獣なり、牡を麒と曰ひ、牝を麟と曰ふなりといふ。
猩々 爾雅注󠄁云、猩々、〈音星、此間云象章、〉能言獸也、孫愐曰、獸身人面、好飮酒者也、
猩々 爾雅注に云はく、猩々〈音は星、此間に云ふ象章〉は能くものいふ獣なりといふ。孫愐曰はく、獣身にして人面、好みて酒を飲む者なりといふ。
虎 說文云、虎、〈乎古反、止良、〉山獸之君也、
虎 説文に云はく、虎〈乎古反、止良とら〉は山獣の君なりといふ。
豹 說文云、豹、〈補敎反、日本紀私記云、奈加豆加美、〉似虎而圓文者也、
豹 説文に云はく、豹〈補教反、日本紀私記に云ふ奈加豆加美なかつかみ〉は虎に似て円なる文の者なりといふ。
熊 陸詞切韵云、熊、〈音雄、久万、〉獸之似羆而小也、
熊 陸詞切韻に云はく、熊〈音は雄、久万くま〉は獣の、羆に似て小さきなりといふ。
[羆 尒雅集注󠄁云、羆〈音碑、和名之久万、〉似熊而黃白文、猛烈多力、能拔樹木者也、]
[羆 爾雅集注に云はく、羆〈音は碑、和名は之久万しぐま〉は熊に似て黄白の文、猛烈に多力、能く樹木を抜く者なりといふ。]
犲狼〈獥附〉 兼名苑云、狼、一名犲、〈音才、〉說文云、狼、〈音郎、於保加美、〉似犬而鋭頭白頰者也、尒雅注󠄁云、獥、〈音叫、〉狼子也、
犲狼〈獥付〉 兼名苑に云はく、狼、一名は犲〈音は才〉といふ。説文に云はく、狼〈音は郎、於保加美おほかみ〉は犬に似て鋭き頭、白き頬の者なりといふ。爾雅注に云はく、獥〈音は叫〉は狼の子なりといふ。
猫 野王案、猫、〈音苗、禰古麻、〉似虎而小、能捕鼠爲粮、
猫 野王案ずるに、猫〈音は苗、禰古麻ねこま〉は虎に似て小さく、能く鼠を捕り粮と為すとす。
葦鹿 本朝式云、葦鹿皮、〈阿之賀、見于陸奥出羽交易雜物中矣、本文未詳、〉
葦鹿 本朝式に云はく、葦鹿皮といふ〈阿之賀あしか、陸奥、出羽の交易雑物の中に見ゆる、本文は未だ詳かならず〉。
獨犴 唐韵云、犴、〈俄寒反、又音岸、今案和名未詳、但本朝式云、葦鹿皮獨犴皮云々、犴音如蕳、此名所󠄁出亦未詳、〉胡地野犬名也、
独犴 唐韻に云はく、犴〈俄寒反、又、音は岸、今案ふるに和名は未だ詳かならず。但し本朝式に云はく、葦鹿皮、独犴皮云々、犴の音は蕳のごとしといふ。此の名出づる所、亦、未だ詳かならず〉は胡地の野犬の名なりといふ。
水豹 文選󠄁西京賦云、搤水豹、〈阿左良之、〉
水豹 文選西京賦に云はく、水豹〈阿左良之あざらし〉をくびるといふ。
獺 兼名苑注󠄁云、獺、〈音脫、乎曾、〉水獸、恒居水中、食魚爲粮者也、唐韵云、獱、〈音賓、〉獺之別名也、
獺 兼名苑注に云はく、獺〈音は脱、乎曽をそ〉は水獣、恒に水中に居り、魚を食ひ粮と為す者なりといふ。唐韻に云はく、獱〈音は賓〉は獺の別名なりといふ。
麋 四聲字苑云、麋、〈音眉、漢語抄云、於保之可、〉似鹿而大、毛不斑、以冬至角者也、
麋 四声字苑に云はく、麋〈音は眉、漢語抄に云ふ於保之可おほじか〉は鹿に似て大きく、毛に斑ならず、冬至を以て角を解く者なりといふ。
鹿 陸詞切韻云、鹿、〈音祿、賀、〉斑獸也、爾雅集注󠄁󠄁云、牡鹿曰麚、〈音家、日本紀私記云、牡鹿、佐乎之加、〉牝鹿曰麀、〈音憂、米賀、〉其子曰麑、〈音迷󠄁、字亦作麛、加吳、〉
鹿 陸詞切韻に云はく、鹿〈音は禄、〉は斑の獣なりといふ。爾雅集注に云はく、牡鹿を麚〈音は家、日本紀私記に云ふ牡鹿、佐乎之加さをしか〉と曰ひ、牝鹿を麀〈音は憂、米賀めか〉と曰ひ、其の子を麑〈音は迷、字は亦、麛に作る、加呉かこ〉と曰ふといふ。
麞 唐韵云、麏、〈居筠反、字亦作麕、〉鹿屬也、本草音義云、麞、〈音章、〉一名麕、〈久之可、〉
麞 唐韻に云はく、麏〈居筠反、字は亦、麕に作る〉は鹿の属なりといふ。本草音義に云はく、麞〈音は章〉、一名は麕といふ。〈久之可くじか
麢羊 爾雅注󠄁󠄁云、麢羊、〈力丁反、字亦作𦏪、加万之師、〉大於羊、而大角、
麢羊 爾雅注に云はく、麢羊〈力丁反、字は亦、𦏪に作る、加万之師かましし〉は羊より大きく大角といふ。
玃 抱朴子云、猨壽五百歲、則變爲玃、〈音攫、漢語抄云、夜末古、〉
玃 抱朴子に云はく、猨は寿、五百歳になるときには変じて玃〈音は攫、漢語抄に云ふ夜末古やまこ〉と為るといふ。
猱㹶 文選󠄁注󠄁󠄁云、猱㹶、〈上乃交反、下音庭、漢語抄云、麻多、〉猨屬也、
猱㹶 文選注に云はく、猱㹶〈上は乃交反、下の音は庭、漢語抄に云ふ麻多また〉は猨の属なりといふ。
猨 風土記云、猨、〈音園、字亦作猿、佐流、〉善負󠄁子乘危而投、至倒而還󠄁者也、兼名苑云、一名獼猴、〈彌侯二音、〉文選󠄁云、猿狖、〈音友、〉唐韻云、猴猻、〈音孫、漢語抄云、猢猻、〉
猨 風土記に云はく、猨〈音は園、字は亦、猿に作る、佐流さる〉は善く子を負ひ、危きに乗じて投げ、倒るるに至りて還る者なりといふ。兼名苑に云ふ一名は獼猴〈弥侯の二音〉、文選に云ふ猿狖〈音は友〉、唐韻に云ふ猴猻〈音は孫、漢語抄に云ふ猢猻〉。
狐 考聲切韻云、狐、〈音胡、歧豆禰、〉獸名、射干也、關中呼爲野干、語訛也、孫愐曰、狐能爲妖怪、至百歲化󠄁爲女者也、
狐 考声切韻に云はく、狐〈音は胡、岐豆禰きつね〉は獣の名、射干なり、関中に呼びて野干と為すは語の訛りなりといふ。孫愐曰はく、狐は能く妖怪を為し、百歳に至りて化して女と為る者なりといふ。
狢 說文云、狢、〈音鶴、漢語抄云、无之奈、〉似狐而善睡者也、
狢 説文に云はく、狢〈音は鶴、漢語抄に云ふ無之奈むじな〉は狐に似て善くねぶる者なりといふ。
野猪 本草云、野猪、〈久佐爲奈歧、〉
野猪 本草に云はく、野猪〈久佐為奈岐くさゐなぎ〉といふ。
狸 兼名苑注󠄁󠄁云、狸、〈音𨤲、多奴歧、〉搏鳥爲粮者也、
狸 兼名苑注に云はく、狸〈音は𨤲、多奴岐たぬき〉は鳥をり粮と為す者なりといふ。
猯 唐韻云、猯、〈音端、又音旦、美、〉似豕而肥者也、本草云、一名獾㹠、〈歡屯二音、〉
猯 唐韻に云はく、猯〈音は端、又の音は旦、〉は豕に似て肥ゆる者なりといふ。本草に云はく、一名は獾㹠〈歓屯の二音〉といふ。
兔 四聲字苑云、兔、〈音度、宇佐歧、〉似小犬而長耳〓〔草冠に𦈢+夬〕脣者也、
兎 四声字苑に云はく、兎〈音は度、宇佐岐うさぎ〉は小犬に似て長耳、欠脣の者なりといふ。
貂 四聲字苑云、貂、〈音凋、天、〉似鼠黃色、皮堪裘、
貂 四声字苑に云はく、貂〈音は凋、〉は鼠に似て黄色、皮は裘を作るに堪ふといふ。
黑貂 唐韵云、貂有黃貂黑貂、出東北夷、〈黑貂、布流歧、〉
黒貂 唐韻に云はく、貂に黄貂、黒貂有り、東北夷に出づといふ〈黒貂は布流岐ふるき〉。
鼠 四聲字苑云、鼠、〈昌與反、禰須美、〉穴居小獸、種類多者也、
鼠 四声字苑に云はく、鼠〈昌与反、禰須美ねずみ〉は穴に居る小獣、種類多き者なりといふ。
火鼠 神異記云、火鼠、〈比禰須美、〉取其毛織爲布、若汙以火燒之、更令淸潔矣、
火鼠 神異記に云はく、火鼠〈比禰須美ひねずみ〉は其の毛を取り、織りて布と為し、若し汚るれば火を以て之れを焼き、更び清潔なら令むめんといふ。
鼷鼠 說文云、鼷鼠、〈音奚、阿末久知禰須美、〉小鼠也、食人及鳥獸、雖盡不痛、今謂之甘口鼠
鼷鼠 説文に云はく、鼷鼠〈音は奚、阿末久知禰須美あまくちねずみ〉は小鼠なり、人及び鳥獣を食ひ、尽きるに至ると雖も痛まずといふ。今、之れを甘口鼠と謂ふ。
〓〔鼠偏に青〕鼩 文選󠄁注󠄁󠄁云、〓〔鼠偏に青〕鼩、〈精劬二音、漢語抄云、能良禰、〉小鼠也、
鼱鼩 文選注に云はく、鼱鼩〈精劬の二音、漢語抄に云ふ能良禰のらね〉は小鼠なりといふ。
𪕭𪖂 玉篇云、𪕭𪖂、〈藹離二音、豆良禰古、〉小鼠相銜而行也、
𪕭𪖂 玉篇に云はく、𪕭𪖂〈藹離の二音、豆良禰古つらねこ〉は小鼠の相銜みて行くなりといふ。
鼯鼠 本草云、鼺鼠、〈上音力水反、又音力追󠄁反、〉一名鼯鼠、〈上音吾、毛美、俗云、无佐々比、〉兼名苑注󠄁󠄁云、狀如猨、而肉翼󠄂似蝙蝠、能從高而下、不下而上、常食火煙、聲如小兒者也、
鼯鼠 本草に云はく、鼺鼠〈上の音は力水反、又の音は力追反、〉、一名は鼯鼠〈上の音は吾、毛美もみ、俗に云ふ無佐々比むささび〉といふ。兼名苑注に云はく、状は猨のごとくして肉翼は蝙蝠に似、能く高きより下り、下よりして上ること能はず、常に火煙を食ひ、声は小児わくごのごとき者なりといふ。
鼬鼠 爾雅集注󠄁󠄁云、鼬鼠、〈上音酉、〉狀如鼠赤黃、而大尾、能食鼠、今江東呼爲鼪、〈音性、以太知、漢語抄云、鼠狼、〉
鼬鼠 爾雅集注に云はく、鼬鼠〈上の音は酉〉は状、鼠のごとく赤黄にして大尾、能く鼠を食ふといふ。今、江東に呼びて鼪〈音は性、以太知いたち、漢語抄に云ふ鼠狼〉と為すといふ。
鼴鼠 本草云、鼴鼠、〈上音偃、〉一名鼢鼠、〈上扶粉反、上聲之重、字亦作𪖅、宇古路毛知、〉通󠄁俗文云、糞鼠一名𤣘、〈音冥、〉兼名苑注󠄁󠄁云、恒在土中行、若見三光即死、
鼴鼠 本草に云はく、鼴鼠〈上の音は偃〉、一名は鼢鼠〈上は扶粉反、上声の重、字は亦、𪖅に作る、宇古路毛知うごろもち〉といふ。通俗文に云はく、糞鼠、一名は𤣘〈音は冥〉といふ。兼名苑注に云はく、恒に土中に在りて行く、若し三光を見ば即ち死すといふ。
猪〈猪子附〉 爾雅集注󠄁󠄁云、猪、〈徴居反、〉一名〓〔𥏰の尹の代わりに⺕〕、〈音弟、井、〉兼名苑云、一名豕、〈音子、〉方言注󠄁󠄁云、豚、〈徒昆反、字亦作㹠、〉豕子也、
猪〈猪子付〉 爾雅集注に云はく、猪〈徴居反〉、一名は彘〈音は弟、〉といふ。兼名苑に云はく、一名は豕〈音は子〉といふ。方言注に云はく、豚〈徒昆反、字は亦、㹠に作る〉は豕子なりといふ。
羊〈羊子附〉 兼名苑云、羝、〈音低、〉一名〓〔羊偏に歴〕、〈音歷、比都之、〉羊也、羔、〈音高、〉一名羜、〈音宁、〉羊子也、
羊〈羊子付〉 兼名苑に云はく、羝〈音は低〉、一名は䍽〈音は歴、比都之ひつじ〉、羊なり、羔〈音は高〉、一名は羜〈音は宁〉、羊の子なりといふ。
犬〈犬子附〉 兼名苑云、犬、一名尨、〈莫江反、〉爾雅集注󠄁󠄁云、狗、〈音句、惠沼、又與犬同、〉犬子也、
犬〈犬子付〉 兼名苑に云はく、犬、一名は尨〈莫江反〉といふ。爾雅集注に云はく、狗〈音は句、恵沼ゑぬ、又、犬と同じ〉は犬の子なりといふ。
㺜 唐韵云、㺜、〈奴刀反、无久介以沼、〉深毛犬也、
㺜 唐韻に云はく、㺜〈奴刀反、無久介以沼むくげいぬ〉は深き毛の犬なりといふ。

獸體百三
獣体百三
牙 山海經云、𧰼牙、大者長一丈、
牙 山海経に云はく、象牙の大なる者は長さ一丈といふ。
角〈觘附〉 野王案、角、〈古岳反、豆能、〉獸頭上出骨也、有枝曰觡、〈居額反、〉無枝曰角、唐韵云、觘、〈初敎反、去聲之輕、沼多波太、又用皽字、音旨善反、上聲、〉角上浪也、
角〈觘付〉 野王案ずるに、角〈古岳反、豆能つの〉は獣の頭上に出づる骨なり、枝有るを觡〈居額反〉と曰ひ、枝無きを角と曰ふとす。唐韻に云はく、觘〈初教反、去声の軽、沼多波太ぬたはだ、又、皽の字を用ゐる、音は旨善反、上声〉は角上の浪なりといふ。
䚡 說文云、䚡、〈先來反、本草云、牛角䚡、古豆乃、〉角中骨也、
䚡 説文に云はく、䚡〈先来反、本草に云ふ牛角䚡、古豆乃こづの〉は角の中の骨なりといふ。
奴角 本草云、奴角、一名食角、〈犀乃波奈都能、〉犀鼻上角之名也、
奴角 本草に云はく、奴角、一名は食角、〈さい乃波奈都能のはなづの〉、犀の鼻の上の角の名なりといふ。
鹿茸 雜要决云、鹿茸、〈賀乃和加豆乃、〉鹿角初生也、
鹿茸 雑要决に云はく、鹿茸〈賀乃和加豆乃かのわかづの〉は鹿の角の初めて生ずるなりといふ。
熊白 本草云、熊脂、一名熊白、〈久万乃阿布良、〉熊背上膏、
熊白 本草に云はく、熊脂、一名は熊白、〈久万乃阿布良くまのあぶら〉、熊の背の上の膏なりといふ。
蹯 唐韻云、蹯、〈音繁、〉熊掌也、
蹯 唐韻に云はく、蹯〈音は繁〉は熊の掌なりといふ。
猨〓〔口偏に兼〕 爾雅注󠄁󠄁云、猨〓〔口偏に兼󠄁〕、〈苦簟反、佐流保々、〉猿頰內藏食處也、
猨嗛 爾雅注に云はく、猨嗛〈苦簟反、佐流保々さるぼほ〉は猿の頬の内に食ををさむる処なりといふ。
豚卵 本草云、豚卵、一名豚顚、〈爲乃布久利、〉
豚卵 本草に云はく、豚卵、一名は豚顚といふ〈為乃布久利ゐのふぐり〉。
氄毛 尙書云、中冬鳥獸氄毛、〈上音如勇反、布由介、〉孔安國曰、鳥獸皆生細毛自温也、
氄毛 尚書に云はく、中冬に鳥獣は氄毛〈上の音は如勇反、布由介ふゆげ〉おふといふ。孔安国曰はく、鳥獣は皆、細毛を生じ、自らあたたまるなりといふ。
蹄 毛詩注󠄁云、蹢、〈音滴、〉蹄也、蒼頡篇云、蹄、〈音啼、比都米、又筌蹄之蹄、見畋獦具󠄁、〉畜足下也、[孫愐切韻云、畜足、圓曰蹄、〈杜奚反、和名比都米、〉歧曰甲、〈今案爪甲也、和名豆米〉]
蹄 毛詩注に云はく、蹢〈音は滴〉は蹄なりといふ。蒼頡篇に云はく、蹄〈音は啼、比都米ひづめ、又、筌蹄の蹄、畋猟具に見ゆ〉は畜の足の下なりといふ。[孫愐切韻に云はく、畜の足、円きを蹄〈杜奚反、和名は比都米ひづめ、〉と曰ひ、岐あるを甲〈今案ふるに爪甲なり、和名は豆米つめ〉と曰ふといふ。]
齝 尒雅集注󠄁云、獸呑蒭噬、反出而嚼、牛曰齝、〈音台、唐音有笞詩二音、字亦作𪗪、〉羊曰齛、〈音泄、〉麋鹿曰齸、〈音益、已上三字、皆邇介加无、今案俗人謂麋鹿屎味氣是、〉
齝 爾雅集注に云はく、獣の、蒭を呑みむ、反り出してかみくだくは、牛を齝〈音は台、唐音に笞詩の二音有り、字は亦、𪗪に作る〉と曰ひ、羊を齛〈音は泄〉と曰ひ、麋鹿を齸〈音は益、已上の三字は皆、邇介加無にげかむ、今案ふるに俗人の麋鹿の屎を謂ひて味気と為すは是れ〉と曰ふといふ。
犬吣 唐韻云、吣、〈七鴆反、以奴乃太末比、〉犬吐也、
犬吣 唐韻に云はく、吣〈七鴆反、以奴乃太末比いぬのたまひ〉は犬の吐くなりといふ。
嘷 玉篇云、嘷、〈胡刀反、與豪同、〉虎狼聲也、唐韵云、吼、〈呼后反、字亦作吽呴、〉牛鳴也、吠、〈符廢反、已上三字、訓並保由、〉犬之鳴聲也、
嘷 玉篇に云はく、嘷〈胡刀反、豪と同じ〉は虎、狼の声なりといふ。唐韻に云はく、吼〈呼后反、字は亦、吽、呴に作る〉は牛の鳴くなり、吠〈符廃反、已上の三字、訓は並びに保由ほゆ〉は犬の鳴声なりといふ。
觝 說文云、觝、〈丁禮反、漢語抄云、豆歧之良比、〉以角觸物也、
觝 説文に云はく、觝〈丁礼反、漢語抄に云ふ豆岐之良比つきしらひ〉は角を以て物に触るるなりといふ。
鼿 說文云、鼿、〈五忽反、宇世流、〉以鼻動物也、
鼿 説文に云はく、鼿〈五忽反、宇世流うせる〉は鼻を以て物を動かすなりといふ。
遊󠄁牝 禮記云、遊󠄁牝于__野、〈遊󠄁牝、此間云、由比、日本紀私記云、豆流比、〉唐厩牧令云、諸牧馬每年三月遊󠄁牝、
遊牝 礼記に云はく、牝を野に遊ばしむといふ〈遊牝は此間に云ふ由比ゆひ、日本紀私記に云ふ豆流比つるび〉。唐厩牧令に云はく、諸の牧の馬、年毎に三月に遊牝せよといふ。
生益 春秋說題辭云、馬十二月而生、淮南子云、犬三月而生、豕四月而生、猨五月而生、鹿六月而生、虎七月而生、
生益 春秋説題辞に云はく、馬は十二月して生るといふ。淮南子に云はく、犬は三月して生れ、豕は四月して生れ、猨は五月して生れ、鹿は六月して生れ、虎は七月して生るといふ。
[㱴 禮記云、四足死曰㱴〈前󠄁智反、與漬同、〉]
[㱴 礼記に云はく、四足の死を㱴〈前智反、漬と同じ〉と曰ふといふ。]

牛馬部第十七
牛馬部第十七
 牛馬類百四 牛馬毛百五 牛馬體百六 牛馬病百七
 牛馬類百四 牛馬毛百五 牛馬体百六 牛馬病百七

牛馬類百四
牛馬類百四
牛〈犢附〉 四聲字苑云、牛、〈語丘反、宇之、〉土畜也、爾雅注󠄁云、犢、〈音讀、古宇之、〉牛子也、
牛〈犢付〉 四声字苑に云はく、牛〈語丘反、宇之うし〉は土畜なりといふ。爾雅注に云はく、犢〈音は読、古宇之こうし〉は牛の子なりといふ。
特牛 弁色立成云、特牛、〈俗語云、古止比、〉頭大牛也、
特牛 弁色立成に云はく、特牛〈俗語に云ふ古止比ことひ〉は頭の大なる牛なりといふ。
乳牛 唐厩牧令云、乳牛、犢十頭、給丁一人牧飼、〈乳牛者、牝牛有子之名也、知宇之、〉
乳牛 唐厩牧令に云はく、乳牛、犢十頭に丁一人を牧飼に給すといふ〈乳牛は牝の牛の子有るの名なり。知宇之ちうし〉。
水牛 文選󠄁上林賦注󠄁云、沈牛、〈今案又一名潜牛也、見南越志、〉即水牛也、能沈沒於水中者也、
水牛 文選上林賦注に云はく、沈牛〈今案ふるに、又、一名は潜牛なり、南越志に見ゆ〉は即ち水牛なり、能く水中に沈没する者なりといふ。
馬〈駒附〉 四聲字苑云、馬、〈麻之上聲、无万、〉南方火畜也、爾雅注󠄁云、牝馬一名騲馬、〈上音草、米万、〉牡馬一名䭸馬、〈上音父、乎万、〉王仁煦曰、駒、〈音俱、古萬、〉馬子也、
馬〈駒付〉 四声字苑に云はく、馬〈麻の上声、無万むま〉は南方の火畜なりといふ。爾雅注に云はく、牝馬、一名は騲馬〈上の音は草、米万めま〉、牡馬、一名は䭸馬〈上の音は父、乎万をま〉といふ。王仁煦曰はく、駒〈音は倶、古万こま〉は馬の子なりといふ。
駿馬 穆天子傳云、駿馬、〈上音俊、漢語抄云、止歧宇万、日本紀私記云、須久禮多流宇末、〉馬之美稱也、
駿馬 穆天子伝に云はく、駿馬〈上の音は俊、漢語抄に云ふ止岐宇万ときうま、日本紀私記に云ふ須久礼多流宇末すぐれたるうま〉は馬の美称なりといふ。
駑馬〈駄附〉 唐韵云、駘、〈音臺、〉駑馬也、野王案、駑、〈音奴、漢語抄云、於曾歧馬、〉馬之最下也、郭知玄曰、駄、〈唐佐反、〉負󠄁物者也、
駑馬〈駄付〉 唐韻に云はく、駘〈音は台〉は駑馬なりといふ。野王案ずるに、駑〈音は奴、漢語抄に云ふ於曽岐おそきむま〉は馬の最も下なりといふ。郭知玄曰はく、駄〈唐佐反〉は物を負ふ者なりといふ。
駻馬 孫愐曰、駻、〈音旱、今案此間云、波禰无末、〉突惡馬也、
駻馬 孫愐曰はく、駻〈音は旱、今案ふるに此間に云ふ波禰無末はねむま〉は突悪の馬なりといふ。
驢騾 說文云、驢、〈力居反、與閭同、宇佐歧无末、〉似馬長耳、騾、〈音螺、〉驢父馬毋所󠄁生也、
驢騾 説文に云はく、驢〈力居反、閭と同じ、宇佐岐無末うさぎむま〉は馬に似て長耳、騾〈音は螺〉は驢の父、馬の母より生まるる所なりといふ。
駱駞 本草云、駱駞、〈洛陁二音、良久太乃宇末、〉周󠄀書云、𩧐駝、〈駝即駞字也、𩧐音卓、字亦作馲、即駱駞也、〉有肉鞍、能負󠄁重致遠󠄁者也、
駱駞 本草に云はく、駱駞〈洛陁の二音、良久太乃宇末らくだのうま〉といふ。周書に云はく、𩧐駝〈駝は即ち駞の字なり、𩧐の音は卓、字は亦、馲に作る、即ち駱駞なり〉は肉の鞍有りて能く重きを負ひて遠くへ致す者なりといふ。

牛馬毛百五
牛馬毛百五
黃牛 宜都記云、黃牛灘、有人牽黃牛、〈辨色立成云、阿女宇之、〉
黄牛 宜都記に云はく、黄牛灘に人有りて黄牛を牽くといふ〈弁色立成に云ふ阿女宇之あめうじ〉。
烏牛 辨色立成云、烏牛、〈漢語抄云、麻伊、〉黑牛也、
烏牛 弁色立成に云はく、烏牛〈漢語抄に云ふ麻伊まい〉は黒牛なりといふ。
〓〔牜偏に平󠄁〕牛 唐韵云、〓〔牜偏に平󠄁〕、〈普耕󠄁反、今案此間云、保之*原本未多良、〉牛色駮如星也、
𤘾牛 唐韻に云はく、𤘾〈普耕反、今案ふるに此間に云ふ保之末多良ほしまだら〉牛は色、ぶちにして星のごときなりといふ。
驄馬 說文云、驄、〈音聰󠄃、漢語抄云驄、靑馬也、黃驄馬、葦花毛馬也、日本紀私記云、驄馬、美多良乎乃宇末、〉靑白雜毛馬也、
驄馬 説文に云はく、驄〈音は聡、漢語抄に云はく、驄は青馬なり、黄驄馬は葦花毛の馬なりといふ。日本紀私記に云ふ驄馬、美多良乎乃宇末みだらをのうま〉は青白雑毛の馬なりといふ。
桃花馬 辨色立成云、桃花馬、〈葦花毛馬紅色者也、〉
桃花馬 弁色立成に云はく、桃花馬〈葦花毛の馬の紅色なる者なり〉といふ。
靑驪馬 唐韵云、駽、〈火玄反、漢語抄云、䥫驄馬、久呂美止利乃无万、〉靑驪馬、今之䥫驄馬也、
青驪馬 唐韻に云はく、駽〈火玄反、漢語抄に云ふ鉄驄馬、久呂美止利乃無万くろみどりのむま〉は青驪馬といふ。今の鉄驄馬なり。
連錢驄 尒雅注󠄁云、色有深淺斑駮、謂之連錢驄、〈漢語抄云、連錢驄、虎毛馬也、一云駼馬、駼音余、又云薄漢馬、今案俗云、連錢葦毛、是、〉
連銭驄 爾雅注に云はく、色に深浅の斑駮有るは之れを連銭驄と謂ふといふ。〈漢語抄に云はく、連銭驄は虎毛の馬なりといふ。一に云ふ駼馬、駼の音は余、又云ふ薄漢馬。今案ふるに俗に云ふ連銭葦毛は是れ〉
驃馬〈赤驃附〉 說文云、驃、〈毗召反、漢語抄云、驃馬、白鹿毛馬也、赤驃馬、赤鹿毛也、黃馬、同上、〉黃白馬也、
驃馬〈赤驃付〉 説文に云はく、驃〈毘召反、漢語抄に云はく、驃馬は白鹿毛馬なり、赤驃馬は赤鹿毛なり、黄馬も上に同じといふ〉は黄白馬なりといふ。
騧馬 尒雅注󠄁云、騧、〈音花、漢語抄云、騧馬、鹿毛馬也、〉淺黃色馬也、
騧馬 爾雅注に云はく、騧〈音は花、漢語抄に云はく、騧馬は鹿毛馬なりといふ〉は浅黄色の馬なりといふ。
騮馬〈紫馬附〉 毛詩注󠄁云、騮、〈音留、漢語抄云、騮馬、鹿毛也、烏騮、黑鹿毛也、黃騮、赤栗毛也、紫騮、黑栗毛也、〉赤身黑鬣馬也、唐韻云、騟、〈羊朱反、辨色立成云、紫馬、栗毛馬也、〉紫馬也、
騮馬〈紫馬付〉 毛詩注に云はく、騮〈音は留、漢語抄に云はく、騮馬は鹿毛なり、烏騮は黒鹿毛なり、黄騮は赤栗毛なり、紫騮は黒栗毛なりといふ〉は赤身に黒鬣の馬なりといふ。唐韻に云はく、騟〈羊朱反、弁色立成に云はく、紫馬は栗毛の馬なりといふ〉は紫馬なりといふ。
驪馬 毛詩注󠄁云、驪、〈音離、漢語抄云、驪馬、黑毛馬也、〉純黑馬也、
驪馬 毛詩注に云はく、驪〈音は離、漢語抄に云はく、驪馬は黒毛の馬なりといふ〉は純黒の馬なりといふ。
騅 毛詩注󠄁云、騅、〈音錐、漢語抄云、騅馬、鼠毛馬也、〉蒼白雜毛馬也、尒雅注󠄁云、菼騅、〈今案菼者蘆初生也、吐敢反、俗云葦毛、是、〉靑白如菼色也、
騅 毛詩注に云はく、騅〈音は錐、漢語抄に云はく、騅馬は鼠毛の馬なりといふ〉は蒼白雑毛の馬なりといふ。爾雅注に云はく、菼騅〈今案ふるに菼は蘆の初めに生ずるなり、吐敢反、俗に云ふ葦毛は是れ〉は青白く菼の色のごときなりといふ。
赭白馬 毛詩注󠄁云、騢、〈音遐、漢語抄云、赭白馬、鵇毛也、赭黃馬、赤鵇毛也、今案鵇字未詳、〉彤白雜毛馬也、爾雅注󠄁云、騢、今之赭白馬也、
赭白馬 毛詩注に云はく、騢〈音は遐、漢語抄に云はく、赭白馬は鵇毛なり、赭黄馬は赤鵇毛なりといふ。今案ふるに鵇の字は未だ詳かならず〉は彤白雑毛の馬なりといふ。爾雅注に云はく、騢は今の赭白馬なりといふ。
駱馬 毛詩注󠄁云、駱、〈音落、漢語抄云、駱馬、川原毛、沙駱馬、黑川原毛馬也、〉白馬黑髦之馬也、
駱馬 毛詩注に云はく、駱〈音は落、漢語抄に云はく、駱馬は川原毛、沙駱馬は黒川原毛の馬なりといふ〉は白馬黒髦の馬なりといふ。
[油馬 辨色立成云、油馬、〈糟毛馬也、〉]
[油馬 弁色立成に云はく、油馬〈糟毛の馬なり〉といふ。]
騂馬〈赤驊附〉 唐韵云、騂、〈音征、漢語抄云、驊、赤毛馬也、赤驊、山鳥赤毛馬也、驊音華、〉馬赤色也、
騂馬〈赤驊付〉 唐韻に云はく、騂〈音は征、漢語抄に云はく、驊は赤毛馬なり、赤驊は山鳥赤毛の馬なりといふ、驊の音は華〉馬は赤色なりといふ。
戴星馬 爾雅注󠄁云、白顚、一名的顙、俗呼爲戴星馬、〈和名宇比多非能无末、〉
戴星馬 爾雅注に云はく、白顚、一名は的顙、俗に呼びて戴星馬と為すといふ〈和名は宇比多非能無末うびたひのむま〉。
落星馬 楊氏漢語抄云、落星馬、〈保之都歧乃宇末、〉
落星馬 楊氏漢語抄に云はく、落星馬〈保之都岐乃宇末ほしづきのうま〉といふ。
駺馬 唐韵云、駺、〈音狼、漢語抄云、乎之路乃无麻、〉馬尾白也、
駺馬 唐韻に云はく、駺〈音は狼、漢語抄に云ふ乎之路乃無麻をじろのむま〉馬は尾白きなりといふ。
駮馬 說文云、駮、〈補卓反、駮馬、俗人云布知无万、〉不純色馬也、
駮馬 説文に云はく、駮〈補卓反、駮馬、俗人の云ふ布知無万ぶちむま〉は純色ならざる馬なりといふ。
〓〔馬偏に曾〕馬 爾雅注󠄁云、四骹皆白曰〓〔馬偏に曾〕、〈音曾、俗云阿之布知、〉骹謂膝以下也、四蹢皆白曰騚、〈音前󠄁、〉蹢、蹄也、俗呼爲踏雪󠄁馬
驓馬 爾雅注に云はく、四骹の皆白きを驓〈音は曽、俗に云ふ阿之布知あしぶち〉と曰ひ、骹は膝以下を謂ふなり、四蹢の皆白きを騚〈音は前〉と曰ひ、蹢は蹄なりといふ。俗に呼びて踏雪馬と為す。

牛馬體百六
牛馬体百六
牛角 本草云、牛角䚡、〈先來反、古都能、角等已見上文、〉
牛角 本草に云はく、牛角䚡〈先来反、古都能こづの。角等は已に上の文に見ゆ〉といふ。
耳筒 李緖相馬經云、耳筒、又云耳管、
耳筒 李緒相馬経に云ふ耳筒、又云ふ耳管。
鬣 唐韵云、鬐、〈音耆、今案鬐鬣、俗云宇奈加美、又魚之鬐鬣、見魚體、〉馬項上長毛也、文選󠄁軍馬弭髦而仰秣、〈髦音毛、訓師說髦多知賀美、鬣之稱也、〉
鬣 唐韻に云はく、鬐〈音は耆、今案ふるに、鬐鬣は俗に云ふ宇奈加美うなかみ、又、魚の鬐鬣は魚体に見ゆ〉は馬の項上の長毛なりといふ。文選に、軍馬は髦をなびかせて仰ぎまぐさかふといふ〈髦の音は毛、訓は師説に髦は多知賀美たちがみ、鬣の称なり〉。
鼻梁 辨色立成云、鼻梁、〈俗云波奈美禰、〉
鼻梁 弁色立成に云ふ鼻梁〈俗に云ふ波奈美禰はなみね〉。
食槽 李緖相馬經云、食槽欲寛、〈食槽、馬乃歧保禰、〉
食槽 李緒相馬経に云はく、食槽はひろきを欲すといふ〈食槽はむま乃岐保禰のきぼね〉。
廻毛 爾雅注󠄁云、廻毛、一云旋毛、〈都无之、〉
廻毛 爾雅注に云ふ廻毛、一に云ふ旋毛。〈都無之つむじ
排鞍肉 李緖相馬經云、排鞍肉欲成、成猶平󠄁也、〈俗云、久良於歧止古呂、〉
排鞍肉 李緒相馬経に云はく、排鞍肉、たひらぐを欲す、成は猶ほ平のごときなりといふ〈俗に云ふ久良於岐止古呂くらおきどころ〉。
脊梁 辨色立成云、脊梁、〈世都賀、俗云世美禰、〉
脊梁 弁色立成に云ふ脊梁〈世都賀せつか、俗に云ふ世美禰せみね〉。
承鐙肉 李緖相馬經云、承鐙肉、欲垂、〈俗云、阿布彌須利、〉
承鐙肉 李緒相馬経に云はく、承鐙肉、垂るるを欲すといふ〈俗に云ふ阿布彌須利あぶみすり〉。
三封 李緖相馬經云、三封欲齊如__一、
三封 李緒相馬経に云はく、三封はひとしく一の如きを欲すといふ。
汗溝 李緖相馬經云、汗溝欲深、〈俗人云、阿勢美蘇、〉
汗溝 李緒相馬経に云はく、汗溝は深きを欲すといふ〈俗人の云ふ阿勢美蘇あせみぞ〉。
歷草 辨色立成云、歷草、〈曾保歧、俗云、曾布歧、〉
歴草 弁色立成に云ふ歴草〈曽保岐そほき、俗に云ふ曽布岐そふき〉。
尾株 李緖相馬經云、尾株欲麁、々、猶大也、辨色立成云、尾株、一名尾根、〈俗人云、乎保禰、〉
尾株 李緒相馬経に云はく、尾株はおほひなるを欲す、麁は猶、大のごときなりといふ。弁色立成に云はく、尾株、一名は尾根といふ〈俗人の云ふ乎保禰をぼね〉。
烏頭 李緖相馬經云、烏頭欲舉、〈辨色立成云、曲肘、俗云、久波由歧、〉
烏頭 李緒相馬経に云はく、烏頭は挙がるを欲すといふ〈弁色立成に云ふ曲肘、俗に云ふ久波由岐くはゆき〉。
夜眼 辨色立成云、夜眼、〈與米、漢語抄說同、〉
夜眼 弁色立成に云ふ夜眼〈与米よめ、漢語抄の説同じ〉。
蹄〈護杵附〉 玉篇云、蹄、〈徒奚反、訓比都米、辨色立成云、護杵、和名同上、〉牛馬蹄也、
蹄〈護杵付〉 玉篇に云はく、蹄〈徒奚反、訓は比都米ひづめ、弁色立成に云ふ護杵、和名は上に同じ〉は牛馬の蹄なりといふ。
陰脉 伯樂相馬經云、陰脉、〈俗云、麻良佐夜、〉
陰脈 伯楽相馬経に云ふ陰脈〈俗に云ふ麻良佐夜まらざや〉。
糞門〈糞附〉 伯楽相馬經云、糞門、〈今案謂馬𡱰也、𡱰音禿、見形體部、〉李緖相馬經云、糞欲八方
糞門 伯楽相馬経に云はく、糞門〈今案ふるに、馬のしりを謂ふなり、㞘の音は禿、形体部に見ゆ〉といふ。李緒相馬経に云はく、糞は八方なるを欲すといふ。
嘶〈䮸附〉 玉篇云、嘶、〈音西、訓以波由、俗云、以奈々久、〉馬鳴也、唐韵云、䮸、〈音渥、俗云、布久利豆歧、〉馬腹下聲也、
嘶〈䮸付〉 玉篇に云はく、嘶〈音は西、訓は以波由いばゆ、俗に云ふ以奈々久いななく〉は馬の鳴くなりといふ。唐韻に云はく、䮸〈音は渥、俗に云ふ布久利豆岐ふぐりづき〉は馬の腹の下の声なりといふ。

牛馬病百七
牛馬病百七
螉䗥 說文云、螉䗥、〈翁從二音、久比、〉在牛馬皮中虫也、
螉䗥 説文に云はく、螉䗥〈翁従の二音、久比くひ〉は牛馬の皮の中に在る虫なりといふ。
蹄漏 四聲字苑云、〓〔疒垂に夹〕、〈古叶反、與頰同、俗云、豆万以利、〉牛蹄漏病也、
蹄漏 四声字苑に云はく、㾜〈古叶反、頬と同じ、俗に云ふ豆万以利つまいり〉は牛の蹄の漏する病なりといふ。
脊瘡 陶隱居云、鹽有九種、柔鹽、療馬脊瘡、〈俗云、多胡、〉
脊瘡 陶隠居云はく、塩に九種有り、柔塩は馬の脊の瘡〈俗に云ふ多胡たこ〉をいやすといふ。
腹瘇 伯樂相馬經云、馬腹瘇、〈今案瘇即腫字也、俗人云、多知波禮、〉無病直立腹下腫、是也、遣󠄁人騎行、則汗出即差、
腹瘇 伯楽相馬経に云はく、馬腹瘇〈今案ふるに瘇は即ち腫の字なり、俗人の云ふ多知波礼たちはれ〉は病無し、直に立ち腹の下腫るるは是なり、人をしてり行かしむれば則ち汗出でて即ちゆといふ。
脚病 伯樂相馬經云、脚病、〈俗云、知阿奈歧、〉馬有此病、則咳𠲿衣毛焦折、前󠄁足重不行、
脚病 伯楽相馬経に云はく、脚病〈俗に云ふ知阿奈岐ちあなぎ〉、馬に此の病有るときは咳嗽し衣毛は焦折す、前足は重なりて行くこと能はずといふ。
腹轉病 伯樂相馬經云、腹轉病、〈俗云、波良夜无、〉馬有此病、則廻顧聞腹、又有腹結病、馬有此病、則臥起󠄁腹痮出汗、
腹転病 伯楽相馬経に云はく、腹転病〈俗に云ふ波良夜無はらやむ〉、馬に此の病有るときは廻顧するに腹におときこゆ、又、腹結病有り、馬に此の病有るときは臥起するに腹ふくれ汗を出だすといふ。
騺 唐韵云、騺、〈陟利反、與致同、俗人云、騺、多利、〉馬脚屈重也、
騺 唐韻に云はく、騺〈陟利反、致と同じ、俗人の云ふ騺、多利たり〉は馬の脚、屈り重なるなりといふ。
斃 四聲字苑云、斃、〈毗祭反、訓多布流、〉死也、
斃 四声字苑に云はく、斃〈毘祭反、訓は多布流たふる〉は死するなりといふ。

卷第八
巻第八
 龍魚部第十八 龜貝部第十九 虫豸部第二十
 龍魚部第十八 亀貝部第十九 虫豸部第二十
龍魚部第十八
龍魚部第十八
 龍魚類百八 龍魚體百九
 龍魚類百八 龍魚体百九

龍魚類百八
龍魚類百八
龍 文字集畧云、龍、〈力鍾反、太都、〉四足五采、甚有神靈也、白虎通󠄁云、鱗虫三百六十六、而龍爲之長也、
龍 文字集略に云はく、龍〈力鍾反、太都たつ〉は四足、五采にして甚だ神霊有るなりといふ。白虎通に云はく、鱗虫は三百六十六にして、龍は之れの長りといふ。
虯龍 文字集略云、虯、〈音球、〉龍之無角靑色也、
虬龍 文字集略に云はく、虬〈音は球〉は龍の角無く青色なりといふ。
螭龍 文字集畧云、螭、〈音知、〉龍之無角赤白蒼色也、
螭龍 文字集略に云はく、螭〈音は知〉龍の角無く赤、白、蒼色なりといふ。
蛟 說文云、蛟、〈音交、美都知、日本紀私記用大虯二字、〉龍之屬也、山海經云、蛟似虵而四脚、池魚滿二千六百、則蛟來爲之長
蛟 説文に云はく、蛟〈音は交、美都知みづち、日本紀私記に大虬の二字を用ゐる〉は龍の属なりといふ。山海経に云はく、蛟は蛇に似て四つ脚、池の魚、二千六百に満つるときは蛟来りて之れが長為りといふ。
魚 文字集略云、魚、〈語居反、宇乎、俗云伊乎、〉水中連行蟲之惣名也、
魚 文字集略に云はく、魚〈語居反、宇乎うを、俗に云ふ伊乎いを〉は水中に連行する虫の惣名なりといふ。
鯨鯢 唐韻云、大魚、雄曰鯨、〈渠京反、〉雌曰鯢、〈音蜺、久知良、〉淮南子云、鯨鯢、魚之王也、
鯨鯢 唐韻に云はく、大魚、雄を鯨〈渠京反〉と曰ひ、雌を鯢〈音は蜺、久知良くぢら〉と曰ふといふ。淮南子に云はく、鯨、鯢は魚の王なりといふ。
䱐𩶉 臨海異物志云、䱐𩶉、〈浮󠄁布二音、伊流賀、〉大魚色黑一浮󠄁一沒也、兼名苑云、䱐𩶉一名鯆𩺷、〈甫畢二音、〉一名〓〔魚偏に敷〕〓〔魚偏に常〕、〈敷常二音、〉野王案、一名江豚、
䱐𩶉 臨海異物志に云はく、䱐𩶉〈浮布の二音、伊流賀いるか〉は大魚の色黒く一に浮き一にしづむなりといふ。兼名苑に云はく、䱐𩶉、一名は鯆𩺷〈甫畢の二音〉、一名は〓〔魚偏に敷〕〓〔魚偏に常〕〈敷常の二音〉といふ。野王案ずるに、一名は江豚とす。
鰐 麻果切韵云、鰐、〈音萼、和邇、〉似鱉有四足、喙長三尺、甚利齒、虎及大鹿渡水、鰐擊之皆中斷、
鰐 麻果切韻に云はく、鰐〈音は萼、和邇わに〉は鱉に似て四足有り、喙の長さ三尺、甚だ利き歯もち、虎及び大鹿の水を渡るに鰐、之れを撃ち、皆、中断すといふ。
鮝魚 辨色立成云、鮝魚、〈居媛反、布加、今案未詳、〉
鯗魚 弁色立成に云はく、鯗魚といふ〈居媛反、布加ふか、今案ふるに未だ詳かならず〉。
人魚 兼名苑云、人魚、一名鯪魚、〈上音陵、〉魚身人面者也、山海經注󠄁云、聲如少兒啼、故名之、
人魚 兼名苑に云はく、人魚、一名は鯪魚〈上の音は陵〉、魚身に人面の者なりといふ。山海経注に云はく、声は少児の啼くがごとし、故に之れを名くといふ。
鮪 食療經云、鮪、〈音委、〉一名黃頰魚、〈之比、〉爾雅注󠄁云、大爲王鮪、小爲𡭫鮪
鮪 食療経に云はく、鮪〈音は委〉、一名は黄頬魚といふ〈之比しび〉。爾雅注に云はく、大なるを王鮪と為し、小なるを叔鮪と為すといふ。
鰹魚 唐韵云、鰹、〈音堅、漢語抄云、加豆乎、式文用堅魚二字、〉大鮦也、大曰鰹、小曰〓〔魚偏に兌〕、〈音奪、野王案、鮦音同、 䗍魚也、 䗍魚見下文、今案可堅魚之義未詳〉
鰹魚 唐韻に云はく、鰹〈音は堅、漢語抄に云ふ加豆乎かつを、式の文に堅魚の二字を用ゐる〉は大鮦なり、大なるを鰹と曰ひ、小なるを鮵〈音は奪、野王案ずるに、鮦の音は同、蠡魚なりとす。蠡魚は下文に見ゆ。今案ふるに、堅魚と為すべきの義、未だ詳かならず〉と曰ふといふ。
䰴魚 玉篇云、䰴、〈居迄反、漢語抄云、古都乎、式文用乞魚二字、〉魚名也、
䰴魚 玉篇に云はく、䰴〈居迄反、漢語抄に云ふ古都乎こつを、式の文に乞魚の二字を用ゐる〉は魚の名なりといふ。
鮫 陸詞切韻云、鮫、〈音交、佐米、〉魚皮有文、可以飾󠄁刀劔者也、兼名苑云、一名𩶅〓〔弥冠に魚〕、〈低迷󠄁二音、〉本草云、一名䱜魚、〈上倉各反、〉拾遺󠄁云、一名鯊魚、〈上音沙、字亦作魦、〉
鮫 陸詞切韻に云はく、鮫〈音は交、佐米さめ〉は魚の皮にして文有り、以て刀剣を飾るべき者なりといふ。兼名苑に云はく、一名は𩶅〓〔弥冠に魚〕〈低迷の二音〉といふ。本草に云はく、一名は䱜魚〈上は倉各反、〉といふ。拾遺に云はく、一名は鯊魚〈上の音は沙、字は亦、魦に作る〉といふ。
鰚魚 辨色立成云、鰚、〈音宣、波良可、今案所󠄁出未詳、式文用腹赤二字、〉
鰚魚 弁色立成に云はく、鰚〈音は宣、波良可はらか、今案ふるに出づる所、未だ詳かならず、式の文に腹赤の二字を用ゐる〉といふ。
鰩 陸詞切韵云、鰩、〈音遥、度比乎、〉魚之鳥翼󠄂能飛也、
鰩 陸詞切韻に云はく、鰩〈音は遥、度比乎とびを〉は魚の鳥翼ありて能く飛ぶなりといふ。
鯛 崔禹食經云、鯛、〈都條反、多比、〉味甘冷無毒、貌似鯽而紅鰭者也、
鯛 崔禹食経に云はく、鯛〈都条反、多比たひ〉は味甘く冷にして毒無し、貌は鯽に似て紅の鰭ある者なりといふ。
尨魚 崔禹食經云、尨魚、〈久侶太比、〉與鯛相似而灰色、
尨魚 崔禹食経に云はく、尨魚〈久侶太比くろだひ〉は鯛と相似て灰色といふ。
海鯽 辨色立成云、海鯽魚、〈知沼、鯽見下文、〉
海鯽 弁色立成に云はく、海鯽魚〈知沼ちぬ、鯽は下文に見ゆ〉といふ。
王餘魚 朱厓記云、南海有王餘魚、〈加良衣比、俗云加禮比、〉昔越王作鱠、不盡餘半󠄁棄水、因以半󠄁身魚、故名曰王餘也、
王余魚 朱厓記に云はく、南海に王余魚〈加良衣比からえひ、俗に云ふ加礼比かれひ〉有り、昔、越王、鱠を作り、尽くずして半ばを余し水に棄つ、因りて半身を以て魚と為す、故に名けて王余と曰ふなりといふ。
𩹶魚 唐韵云、𩹶、〈音唐、漢語抄云、𩹶子、太古之、〉魚名也、
𩹶魚 唐韻に云はく、𩹶〈音は唐、漢語抄に云ふ𩹶子、太古之たごし〉は魚の名なりといふ。
鯼 字指云、鯼、〈音聰、伊之毛知、〉其頭中有石、故亦名石𩠐魚也、
鯼 字指に云はく、鯼〈音は聡、伊之毛知いしもち〉は其の頭に中に石有り、故に亦、石首魚と名くなりといふ。
梳齒魚 辨色立成云、梳齒魚、〈東人云、阿波我良、〉
梳歯魚 弁色立成に云はく、梳歯魚〈東人の云ふ阿波我良あはがら〉といふ。
針魚 七卷食經云針魚、〈波利乎、一云與路豆、〉口長四寸如針、故以名之、
針魚 七巻食経に云はく、針魚〈波利乎はりを、一に云ふ与路豆よろづ〉は口の長さ四寸にして針のごとし、故に以て之れを名くといふ。
𫠎魚 文字集略云、𫠎、〈音尋󠄁、一音淫、衣比、〉似鱣而靑、長鼻骨者也、
𫠎魚 文字集略に云はく、𫠎〈音は尋、一音に淫、衣比えひ〉は鱣に似て青く、長き鼻骨の者なりといふ。
鱣魚 文字集略云、鱣、〈音天、无奈歧、〉黃魚銳頭、口在頷下也、本草云、䱇魚、〈上音善、〉一名鰌䱇、〈上音秋、〉一名鯆魮、〈甫毗二音、〉一名䱀䰲、〈鴦軋二音、〉尒雅注󠄁云、鱓魚似蛇、〈今案鱓即䱇字也、〉
鱣魚 文字集略に云はく、鱣〈音は天、無奈岐むなぎ〉は黄魚、鋭頭にして口、頷の下に在るなりといふ。本草に云はく、䱇魚〈上の音は善〉、一名は鰌魚〈上の音は秋〉、一名は鯆魮〈甫毘の二音〉、一名は䱀䰲〈鴦軋の二音〉といふ。爾雅注に云はく、鱓魚は蛇に似るといふ。〈今案ふるに、鱓は即ち䱇の字なり〉
鰕 七卷食經云、鰕、〈音遐、衣比、俗用海老二字、〉味甘平󠄁無毒者也、
鰕 七巻食経に云はく、鰕〈音は遐、衣比えび、俗に海老の二字を用ゐる〉は味甘く平にして毒無き者なりといふ。
鰧 唐韵云、鰧、〈直稔反、與朕同、漢語抄云、乎古之、〉魚名、似鰕而赤文、
鰧 唐韻に云はく、鰧〈直稔反、朕と同じ、漢語抄に云ふ乎古之をこじ〉は魚の名、鰕に似て赤き文ありといふ。
鱢 崔禹食經云、鱢、〈蘇遭󠄁反、與騷同、阿知、〉味甘温無毒、貌似鯼、而尾白刺相次者也、
鱢 崔禹食経に云はく、鱢〈蘇遭反、騒と同じ、阿知あぢ〉は味甘く温にして毒無し、貌は鯼に似て尾に白きとげ、相次ぐ者なりといふ。
鯖 崔禹食經云、鯖、〈音靑、阿乎佐波、〉味鹹無毒、口尖背蒼、
鯖 崔禹食経に云はく、鯖〈音は青、阿乎佐波あをさば〉は味しほからく毒無し、口尖り背蒼しといふ。
鱕魚 唐韵云、鱕、〈音番、漢語抄云、加勢佐波、〉魚有橫骨在鼻前󠄁、如斤斧者也、御覽鱗介部云、新婦󠄁魚、〈辨色立成和名同上、〉
鱕魚 唐韻に云はく、鱕〈音は番、漢語抄に云ふ加勢佐波かせさば〉魚は横骨、鼻前に有りて斤斧のごとき者なりといふ。御覧鱗介部に云ふ新婦魚〈弁色立成に和名は上に同じ〉。
鯆魚 唐韵云、鯆、〈音甫、辨色立成云、奈波左波、〉大魚名也、
鯆魚 唐韻に云はく、鯆〈音は甫、弁色立成に云ふ奈波左波なはさば〉は大魚の名なりといふ。
鮬 唐韵云、鮬、〈音枯、漢語抄云、世比、今案訛婢妾妾婢、〉婢妾魚也、
鮬 唐韻に云はく、鮬〈音は枯、漢語抄に云ふ世比せひ、今案ふるに、婢妾をあやまりて妾婢と謂ふ〉は婢妾魚なりといふ。
鰯 楊氏漢語抄云、鰯、〈伊和之、今案本文未詳、〉
鰯 楊氏漢語抄に云はく、鰯〈伊和之いわし、今案ふるに本文は未だ詳かならず〉といふ。
鯔 [孫愐切韻云、鯔、〈側持反、〉魚名也、]遊󠄁仙窟云、東海鯔條、〈鯔讀奈與之、音緇、條讀見飮食部、〉
鯔 [孫愐切韻に云はく、鯔〈側持反〉は魚の名なりといふ。]遊仙窟に云はく、東海鯔条〈鯔の読みは奈与之なよし、音は緇、条の読みは飲食部に見ゆ〉といふ。
鰢 唐韵云、鰢、〈音馬、弁色立成云、都久良、〉魚名也、
鰢 唐韻に云はく、鰢〈音は馬、弁色立成に云ふ都久良つくら〉は魚の名なりといふ。
鱧魚 本草云、𩽵魚、〈上音禮、和名波无、〉味甘寒無毒者也、陶隱居注󠄁云、𩽵今作鱧字也、
鱧魚 本草に云はく、𩽵魚〈上の音は礼、和名は波無はむ〉は味甘く寒にして毒無き者なりといふ。陶隠居注に云はく、𩽵は今、鱧の字に作るなりといふ。
鯯 四聲字苑云、鰶、〈子例反、字亦作鯯、和名古乃之侶、〉魚名、似𩺀而薄、細鱗也、
鯯 四声字苑に云はく、鰶〈子例反、字は亦、鯯に作る、和名は古乃之侶このしろ〉は魚の名、𩺀に似て薄く、細き鱗なりといふ。
魬魚 唐韻云、魬、〈扶板反、上聲之重、又輕音、漢語抄云、波利末知、〉魚名也、
魬魚 唐韻に云はく、魬〈扶板反、上声の重、又は軽音、漢語抄に云ふ波利末知はりまち〉は魚の名なりといふ。
鯸䱌魚 崔禹食經云、鯸䱌、〈侯怡二音、布久、一云布久倍、〉犯之則怒、々則腹脹、浮󠄁出水上者、
鯸䱌魚 崔禹食経に云はく、鯸䱌〈侯怡の二音、布久ふく、一に云ふ布久倍ふくべ〉、之れを犯せば則ち怒り、怒れば則ち腹脹れ、水上に浮き出づる者といふ。
鰻鱺魚 本草云、鰻鱺魚、〈蠻縲二音、波之加美伊乎、〉
鰻鱺魚 本草に云はく、鰻鱺魚〈蛮縲の二音、波之加美伊乎はじかみいを〉といふ。
韶陽魚 崔禹食經云、韶陽魚、〈古米、〉味甘小冷、貌似鱉而無甲、口在腹下者也、
韶陽魚 崔禹食経に云はく、韶陽魚〈古米こめ〉は味甘く小冷にして、貌は鱉に似て甲無く、口は腹の下に在る者なりといふ。
鮏魚 崔禹食經云、鮏、〈折靑反、佐介、今案俗用鮭字、非也、鮭音圭、鯸䱌魚一名也、〉其子似苺、〈音茂、苺子即是覆盆也、見唐韵、〉赤光、一名年魚、春生年中死、故名之、
鮏魚 崔禹食経に云はく、鮏〈折青反、佐介さけ、今案ふるに俗に鮭の字を用ゐるは非なり。鮭の音は圭、鯸䱌魚の一名なり〉、其の子は苺〈音は茂、苺子は即ち是れ覆盆なり、唐韻に見ゆ〉に似る、赤光、一名は年魚、春に生れ年の中に死す、故に之れを名くといふ。
鯉魚 七卷食經云、鯉魚、〈上音里、古比、〉野王案、鮜、〈胡鬪反、〉說文云、𩸄、〈胡瓦反、上聲之重、〉廣雅云、〓〔魚偏に度〕、〈音度、〉皆鯉魚也、
鯉魚 七巻食経に云はく、鯉魚〈上の音は里、古比こひ〉といふ。野王の案ずる鮜〈胡闘反〉、説文に云ふ𩸄〈胡瓦反、上声の重〉、廣雅に云ふ〓〔魚偏に度〕〈音は度〉は皆、鯉魚なり。
鮒 本草云、鯽魚、〈上音即、〉一名鮒魚、〈上音付、布奈、〉四聲字苑云、𩺀鯽鰿、〈音積、今案三字通󠄁用、〉鮒也、
本草に云はく、鯽魚〈上の音は即〉、一名は鮒魚〈上の音は付、布奈ふな〉といふ。四声字苑に云はく、𩺀、鯽、鰿〈音は積、今案ふるに三字は通用す〉は鮒なりといふ。
〓〔魚偏に蚤〕 文字集略云、〓〔魚偏に蚤〕、〈音騷、漢語抄云、美、〉鯉屬也、
鰠 文字集略に云はく、鰠〈音は騒、漢語抄に云ふ〉は鯉の属なりといふ。
鰣 唐韵云、鰣、〈音時、漢語抄云、波曾、〉魚名也、似魴肥美、江東四月有之、
鰣 唐韻に云はく、鰣〈音は時、漢語抄に云ふ波曽はそ〉は魚の名なり、魴に似て肥え美し、江東、四月に之れ有りといふ。
鱸 崔禹食經云、鱸、〈音盧、須々歧、〉貌似鯉、而鰓大開者也、四聲字苑云、似鱖而大、靑色、
鱸 崔禹食経に云はく、鱸〈音は盧、須々岐すずき〉、貌は鯉に似てあぎと大きく開く者なりといふ。四声字苑に云はく、鱖に似て大きく、青色といふ。
鯇 尒雅集注󠄁云、鯇、〈胡本反、上聲之重、字亦作鯶、阿米、〉似鱒者也、楊氏漢語抄云、水鮏、〈一云江鮏、今案本文未詳、〉
鯇 爾雅集注に云はく、鯇〈胡本反、上声の重、字は亦、鯶に作る、阿米あめ〉は鱒に似る者なりといふ。楊氏漢語抄に云ふ水鮏〈一に云ふ江鮏、今案ふるに本文は未だ詳かならず〉。
鱒 七卷食經云、鱒、〈慈損反、字亦作𩻝、〉一名赤目魚、〈万須、〉兼名苑云、一名鮅、〈音必、〉似鯶而赤目者也、
鱒 七巻食経に云はく、鱒〈慈損反、字は亦、𩻝に作る〉、一名は赤目魚といふ〈万須ます〉。兼名苑に云はく、一名は鮅〈音は必〉、鯶に似て赤目の者なりといふ。
鮸 唐韻云、鮸、〈音免、辨色立成云、鮸、邇倍、一云久知、〉魚名也、
鮸 唐韻に云はく、鮸〈音は免、弁色立成に云ふ鮸、邇倍にべ、一に云ふ久知ぐち〉は魚の名なりといふ。
鯰 崔禹食經云、鯰、〈奴霑反、奈末豆、漢語抄用〓〔魚偏に斥〕字、所󠄁出未詳、〉貌似䱌而大頭者也、
鯰 崔禹食経に云はく、鯰〈奴霑反、奈末豆なまづ。漢語抄に〓〔魚偏に斥〕の字を用ゐる、出づる所未だ詳かならず〉、貌は䱌に似て大頭なる者なりといふ。
〓〔魚偏に𱼧〕 崔禹食經云、〓〔魚偏に𱼧〕、〈音夷、伊之布之、〉性伏沈在石間者也、
䱌 崔禹食経に云はく、䱌〈音は夷、伊之布之いしぶし〉は性、伏し沈み石の間に在る者なりといふ。
鱅 崔禹食經云、鱅、〈音容、知々加布利、〉似〓〔魚偏に𱼧〕魚而有黑點
鱅 崔禹食経に云はく、鱅〈音は容、知々加布利ちちかぶり〉は䱌魚に似て黒点有りといふ。
𫙑魚 崔禹食經云、𫙑、〈莫徃反、與𠕀同、加良加古、〉似〓〔魚偏に𱼧〕魚、而頰着鉤者也、
𫙑魚 崔禹食経に云はく、𫙑〈莫往反、𠕀と同じ、加良加古からかご〉は䱌魚に似て頬に鉤を着くる者なりといふ。
鱖魚 唐韵云、鱖、〈居衞反、漢語抄云、阿散知、〉魚名、大口細鱗、有斑文者也、
鱖魚 唐韻に云はく、鱖〈居衛反、漢語抄に云ふ阿散知あさぢ〉は魚の名、大口に細鱗にして斑文有る者なりといふ。
鮎 本草云、鮧魚、〈上音夷、〉蘇敬注󠄁云、一名鮎魚、〈上奴兼󠄁反、阿由、漢語抄云、銀口魚、又云細鱗魚、〉崔禹食經云、貌似鱒而小、有白皮、無鱗、春生夏長秋衰冬死、故名年魚也、
鮎 本草に云はく、鮧魚〈上の音は夷〉といふ。蘇敬注に云はく、一名は鮎魚〈上は奴兼反、阿由あゆ、漢語抄に云ふ銀口魚、又云ふ細鱗魚〉といふ。崔禹食経に云はく、貌は鱒に似て小さく、白皮有りて鱗無く、春に生れ夏に長じ秋に衰へ冬に死す、故に年魚と名くるなりといふ。
鯷魚 陶隱居曰、鮧魚、今之鯷也、四聲字苑云、鯷、〈音題、漢語抄云、比之古伊和之、〉小鮎魚黑而少味也、
鯷魚 陶隠居曰はく、鮧魚は今の鯷なりといふ。四声字苑に云はく、鯷〈音は題、漢語抄に云ふ比之古伊和之ひしこいわし〉は小鮎魚の黒くして味少なきなりといふ。
鮠 四聲字苑云、鮠、〈五灰󠄁反、漢語抄云、波江、又用𫚄字、所󠄁󠄁出未詳、〉魚似鮎白色、
鮠 四声字苑に云はく、鮠〈五灰反、漢語抄に云ふ波江はえ、又、𫚄の字を用ゐる、出づる所未だ詳かならず〉魚は、鮎に似て白色といふ。
䱅 玉篇云、䱅、〈音末、一音蔑、漢語抄云、加末豆賀、〉小魚名也、
䱅 玉篇に云はく、䱅〈音は末、一音に蔑、漢語抄に云ふ加末豆賀かまつか〉は小魚の名なりといふ。
鮊魚 文字集略云、鮊、〈音白、漢語抄云、之侶乎、〉魚薄身白色也、
鮊魚 文字集略に云はく、鮊〈音は白、漢語抄に云ふ之侶乎しろを〉魚は、薄身、白色なりといふ。
𩵖 考聲切韻云、𩵖、〈音小、今案俗云氷魚、是也、初學記冬事對、雖氷魚霜鶴之文、而尋󠄁其義非也、〉白小魚名也、似鮊魚長一二寸者也、
𩵖 考声切韻に云はく、𩵖〈音は小、今案ふるに俗に云ふ氷魚ひをは是なり。初学記の冬事の対に氷魚、霜鶴の文有りと雖も其の義を尋ぬれば非なり〉は白く小さき魚の名なり、鮊魚に似て長さ一二寸の者なりといふ。
細魚〈海糠附〉 漢語抄云、細魚、〈宇流理古、〉海糠魚、〈阿美、今案未詳、〉
細魚〈海糠付〉 漢語抄に云はく、細魚〈宇流理古うるりこ〉は海糠魚〈阿美あみ、今案ふるに未だ詳かならず〉といふ。

龍魚體百九
龍魚体百九
鱗 唐韵云、鱗、〈音隣、伊路久都、俗云伊侶古、〉魚甲也、文字集略云、龍魚屬之衣曰鱗也、
鱗 唐韻に云はく、鱗〈音は隣、伊路久都いろくづ、俗に云ふ伊侶古いろこ〉は魚の甲なりといふ。文字集略に云はく、龍魚の属の衣を鱗と曰ふなりといふ。
鰓 唐韵云、鰓、〈蘇來反、阿歧度、〉魚頰也、
鰓 唐韻に云はく、鰓〈蘇来反、阿岐度あぎと〉は魚の頬なりといふ。
魚丁 爾雅云、魚枕曰丁、〈伊乎乃加之良乃保禰、〉郭璞曰、枕在魚頭中、形似*原本蒙丁字者也、
魚丁 爾雅に云はく、魚枕を丁〈伊乎乃加之良乃保禰いをのかしらのほね〉と曰ふといふ。郭璞曰はく、枕、魚の頭の中に在り、形は篆の丁の字に似る者なりといふ。
脬 考聲切韵云、脬、〈疋交反、漢語抄云、以乎乃布衣、〉魚腹中脬也、又人膀胱肉也、
脬 考声切韻に云はく、脬〈疋交反、漢語抄に云ふ以乎乃布衣いをのふえ〉は魚の腹の中の脬なり、又、人の膀胱の肉なりといふ。
鰭 文選󠄁注󠄁云、鰭、〈音耆、波太、俗云比禮、〉魚背上鬣也、唐韵云、鬣、〈音獦、又見馬體、〉鬚鬣也、
鰭 文選注に云はく、鰭〈音は耆、波太はた、俗に云ふ比礼ひれ〉は魚の背の上の鬣なりといふ。唐韻に云はく、鬣〈音は獦、又、馬体に見ゆ〉は鬚鬣なりといふ。
鰾 文字集略云、鰾、〈防眇反、上聲之重、漢語抄云、保波良、〉魚膘也、唐韵云、膘、〈敷沼反、〉脅前󠄁也、
鰾 文字集略に云はく、鰾〈防眇反、上声の重、漢語抄に云ふ保波良ほはら〉は魚の膘なりといふ。唐韻に云はく、膘〈敷沼反〉は脇の前なりといふ。
腴 野王案、腴、〈音臾、豆知須利、〉魚腹下肥也、
腴 野王案ずるに、腴〈音は臾、豆知須利つちすり〉は魚の腹の下の肥ゆるなりとす。
鯁 唐韵云、鯁、〈音耿、乃歧、〉魚刺在喉、又骨鯁也、
鯁 唐韻に云はく、鯁〈音は耿、乃岐のぎ〉は魚のとげ、喉に在り、又、骨鯁なりといふ。
鮾鯹 野王案、〓〔委偏に魚〕、〈音乃、和語云、阿佐流、〉魚肉爛也、鯹、〈音星、亦作腥、奈万久佐之、〉魚肉臭也、
鮾鯹 野王案ずるに、〓〔委偏に魚〕〈音は乃、和語に云ふ阿佐流あざる〉は魚肉の爛るなり、鯹〈音は星、亦、腥に作る、奈万久佐之なまぐさし〉は魚肉臭きなりとす。

龜貝部第十九
亀貝部第十九
 龜貝類百十 龜貝體百十一
 亀貝類百十 亀貝体百十一

龜貝類百十
亀貝類百十
龜 大戴禮云、甲虫三百六十四、神龜、〈居追󠄁反、加米、〉爲之長也、兼名苑云、龜、一名鼇、〈音敖、漢語抄云、宇美加米、〉
亀 大戴礼に云はく、甲虫三百六十四、神亀〈居追反、加米かめ〉は之れの長るなりといふ。兼名苑に云はく、亀、一名は鼇〈音は敖、漢語抄に云ふ宇美加米うみがめ〉といふ。
黿鼉 玉篇云、黿鼉、〈元陁二音、於保加米、〉大龜也、
黿鼉 玉篇に云はく、黿鼉〈元陀の二音、於保加米おほがめ〉は大亀なりといふ。
攝龜 爾雅集注󠄁云、攝龜、一名陵龜、〈古賀米、〉小龜也、
摂亀 爾雅集注に云はく、摂亀、一名は陵亀〈古賀米こがめ〉、小亀なりといふ。
秦龜 本草云、秦龜、一名蟕蠵、〈衰維二音、伊之加米、〉陶隱居曰、此山中龜也、
秦亀 本草に云はく、秦亀、一名は蟕蠵〈衰維の二音、伊之加米いしがめ〉といふ。陶隠居曰はく、此れ山中の亀なりといふ。
鼈 本草云、鼈、〈唐韵云、幷列反、魚鼈字或作鱉、加波可女、〉
鼈 本草に云はく、鼈〈唐韻に云はく、并列反、魚鼈の字は或に鱉に作る、加波可女かはかめ〉といふ。
甲蠃子 本草云、甲蠃子、〈今案蠃即螺字也、音羅、楊氏漢語抄云、海蠃、都比、〉貌似辛螺、而中有角蓋者也、
甲蠃子 本草に云はく、甲蠃子〈今案ふるに蠃は即ち螺の字なり、音は羅、楊氏漢語抄に云ふ海蠃、都比つび〉は貌、辛螺に似て中に角蓋有る者なりといふ。
榮螺子 崔禹食經云、榮螺子、〈佐左江、〉似蛤而圓者也、
栄螺子 崔禹食経に云はく、栄螺子〈佐左江さざえ〉は蛤に似て円き者なりといふ。
石陰子 本草云、石陰子、〈漢語抄云、甲蠃、加世、〉此物生海中陰精、故以名之、
石陰子 本草に云はく、石陰子〈漢語抄に云ふ甲蠃、加世かせ〉、此の物、海中に生じ陰精なり、故に以て之れを名くといふ。
靈蠃子 本草云、靈蠃子、〈漢語抄云、𣗥甲蠃、宇邇、〉貌似橘而圓、其甲紫色、生芒角者也、
霊蠃子 本草に云はく、霊蠃子〈漢語抄に云ふ棘甲蠃、宇邇うに〉は貌、橘に似て円く、其の甲は紫色、芒角を生ずる者なりといふ。
尨蹄子 崔禹食經云、尨蹄子、〈勢、〉貌似犬蹄、而附石生者也、兼名苑注󠄁云、石花、〈或作華、〉二三月皆舒紫花、附石而生、故以名之、
尨蹄子 崔禹食経に云はく、尨蹄子〈〉は貌、犬の蹄に似て石に付き生ずる者なりといふ。兼名苑注に云はく、石花〈或は華に作る〉は二三月に皆、紫の花をばし、石に付きて生ず、故に以て名くといふ。
小蠃子 崔禹食經云、小蠃子、〈漢語抄云、細螺、之太々美、〉貌似甲蠃而細小、口有白玉盖者也、
小蠃子 崔禹食経に云はく、小蠃子〈漢語抄に云ふ細螺、之太々美しただみ〉は貌、甲蠃に似て細く小さく、口に白玉の盖有る者なりといふ。
河貝子 崔禹食經云、河貝子、〈美奈、俗用蜷字、非也、音拳、連蜷虫屈貌也、〉殻上黑小狹長似人身者也、
河貝子 崔禹食経に云はく、河貝子〈美奈みな、俗に蜷の字を用ゐるは非なり、音は拳、連蜷虫の屈まる貌なり〉は、殻の上、黒く小さく狭く長く、人の身に似る者なりといふ。
寄居子 本草云、寄居子、〈加美奈、俗假用蟹蜷二字、〉貌似蜘蛛者也、
寄居子 本草に云はく、寄居子〈加美奈かみな、俗に仮に蟹蜷の二字を用ゐる〉は貌、蜘蛛に似る者なりといふ。
石炎螺 弁色立成云、石炎螺、〈麻與和、漢語抄說同之、〉
石炎螺 弁色立成に云はく、石炎螺〈麻与和まよわ、漢語抄の説は之れと同じ〉といふ。
大辛螺 七卷食經云、大辛螺、〈阿歧、〉漢語抄云、蓼螺、一名赤口螺、〈和名同上、弁色立成說亦同之、〉
大辛螺 七巻食経に云はく、大辛螺〈阿岐あき〉といふ。漢語抄に云はく、蓼螺、一名は赤口螺といふ〈和名は上に同じ。弁色立成の説、亦、之れに同じ〉。
小辛螺 七卷食經云、小辛螺、〈邇之、漢語抄云、蓼螺子、〉
小辛螺 七巻食経に云はく、小辛螺〈邇之にし、漢語抄に云ふ蓼螺子〉といふ。
田中螺 拾遺󠄁本草云、田中螺、其有稜者謂之螭螺、〈太都比、螭音知、見龍類、〉
田中螺 拾遺本草に云はく、田中螺、其の稜有る者は之れを螭螺〈太都比たつび、螭の音は知、龍類に見ゆ〉と謂ふといふ。
蚶 唐韻云、蚶、〈乎談反、弁色立成云、歧佐、〉蚌屬、狀如蛤、圓而厚外有理縱橫、即今之魽也、
蚶 唐韻に云はく、蚶〈乎談反、弁色立成に云ふ岐佐きさ〉は蚌のたぐひかたちは蛤のごとく円くて厚く、外にすぢめ縦横に有り、即ち今の魽なりといふ。
蚌蛤 兼名苑云、蚌蛤、〈放甲二音、蚌或作蜯、波末久利、〉一名含漿、
蚌蛤 兼名苑に云はく、蚌蛤〈放甲の二音、蚌は或に蜯に作る、波末久利はまぐり〉、一名は含漿といふ。
海蛤 本草云、海蛤、一名魁蛤、〈宇无歧乃加比、〉蘇敬曰、亦謂之㹠耳蛤
海蛤 本草に云はく、海蛤、一名は魁蛤といふ〈宇無岐乃加比うむきのかひ〉。蘇敬曰はく、亦、之れを㹠耳蛤と謂ふといふ。
文蛤 新抄本草云、文蛤、〈伊太夜加比、〉表有文者也、
文蛤 新抄本草に云はく、文蛤〈伊太夜加比いたやがひ〉は表に文有る者なりといふ。
馬蛤 唐韵云、蟶、〈音檉、辨色立成云、蟶、麻天、〉蚌屬也、本草云、馬刀、一名馬蛤、〈和名同上、〉
馬蛤 唐韻に云はく、蟶〈音は檉、弁色立成に云ふ蟶、麻天まて〉は蚌の属なりといふ。本草に云はく、馬刀、一名は馬蛤といふ〈和名は上に同じ〉。
蜆貝 文字集略云、蜆、〈音顯、字亦作𧖙、之々美加比、〉似蛤而小黑也、
蜆貝 文字集略に云はく、蜆〈音は顕、字は亦、𧖙に作る。之々美加比しじみがひ〉は蛤に似て小さく黒きなりといふ。
白貝 唐韵云、蛿、〈古三反、一音含、辨色立成云、蛿、於富、本朝式用白貝二字、〉爾雅云、貝在水曰蛿也、
白貝 唐韻に云はく、蛿〈古三反、一音に含、弁色立成に云ふ蛿、於富おふ、本朝式に白貝の二字を用ゐる〉といふ。爾雅に云はく、貝の水に在るを蛿と曰ふなりといふ。
貽貝 爾雅注󠄁云、貽貝、一名黑貝、〈貽音怡、伊加比、〉
貽貝 爾雅注に云はく、貽貝、一名は黒貝といふ〈貽の音は怡、伊加比いがひ〉。
紫貝 兼名苑云、紫貝、一名文貝、〈宇末乃久保加比、見本草、〉
紫貝 兼名苑に云はく、紫貝、一名は文貝といふ〈宇末乃久保加比うまのくぼがひ、本草に見ゆ〉。
錦貝 弁色立成云、錦貝、〈夜久乃斑貝、今案俗說云、紅螺杯出西海益救嶋、故俗呼爲益救貝、〉
錦貝 弁色立成に云はく、錦貝といふ〈夜久乃やくのまだらがひ、今案ふるに、俗説に云ふ紅螺杯は西海の益救島より出づ、故に俗に呼びて益救やくがひと為す〉。
海髑子 崔禹食經云、海髑子、〈夜之、〉此物含神靈、見人即沒海中、似髑髏而有鼻目、故以名之、
海髑子 崔禹食経に云はく、海髑子〈夜之やし〉、此の物、神霊を含み、人を見ては即ち海中に没す、髑髏に似て鼻目有り、故に以て之れを名くといふ。
鰒 四聲字苑云、鰒、〈蒲角反、與雹同、今案一音伏、見本草音義、〉魚名、似蛤、偏着石、肉乾可食、出靑州海中矣、本草云、鮑、一名鰒、〈鮑音抱、阿波比、〉崔禹食經云、石决明、〈和名同上、〉食之心目聰了、亦附石生、故以名之、
鰒 四声字苑に云はく、鰒〈蒲角反、雹と同じ。今案ふるに一音は伏、本草音義に見ゆ〉は魚の名なり、蛤に似てひとへに石に着く、肉は乾して食すべし、青州の海中より出づといふ。本草に云はく、鮑、一名は鰒といふ〈鮑の音は抱、阿波比あはび〉。崔禹食経に云はく、石决明〈和名は上に同じ〉、之れを食へば心目は聡了す、亦、石に付き生ず、故に以て之れを名くといふ。
蠣 四聲字苑云、蠣、〈力制反、本草云、蠣蛤、賀歧、〉相着虫殻石者也、
蠣 四声字苑に云はく、蠣〈力制反、本草に云ふ蠣蛤、賀岐かき〉、虫殻を相着き石に似る者なりといふ。
烏賊 南越志云、烏賊、〈今案烏賊並從魚作鯿鱡、上音烏、下疾得反、亦作鰂、見玉篇、伊賀、〉常自浮󠄁󠄁水上、烏見󠄁以爲__󠄁死啄之、乃卷取之、故以名之、
烏賊 南越志に云はく、烏賊〈今案ふるに烏賊は並びに魚に従ひ鯿鱡に作る、上の音は烏、下は疾得反、亦、鰂に作る、玉篇に見ゆ、伊賀いか〉は常に自ら水上に浮かび、烏は以て死にりと見て之れをついばめば乃ち巻きて之れを取る、故に以て名くといふ。
擁劔 本草云、擁劔、〈加佐米、〉似蟹色黃、其一螯偏長三寸者也、
擁剣 本草に云はく、擁剣〈加佐米がざめ〉は蟹に似て色は黄、其の一のはさみかたより、長さ三寸の者なりといふ。
海蛸子 本草云、海蛸子、〈今案蛸正作鮹、所󠄁交反、見唐韵、太古、俗用䖣字、所󠄁󠄁出未詳、〉貌似人裸而圓頭者也、長丈餘者、謂之海肌子
海蛸子 本草に云はく、海蛸子〈今案ふるに蛸は正しくは鮹に作り、所交反、唐韻に見ゆ、太古たこ、俗に䖣の字を用ゐる、出づる所未だ詳かならず〉は貌、人の裸にして円き頭に似る者なり、長さ丈余の者は之れを海肌子と謂ふといふ。
小蛸魚 崔禹食經云、小蛸魚、〈知比佐歧太古、一云須流米、〉
小蛸魚 崔禹食経に云ふ小蛸魚〈知比佐岐太古ちひさきたこ、一に云ふ須流米するめ〉。
貝鮹 日本紀私記云、貝鮹、〈加比太古、〉
貝鮹 日本紀私記に云ふ貝鮹〈加比太古かひだこ〉。
海鼠 崔禹食經云、海鼠、〈和名古、本朝式等加熬字伊利古、〉似蛭而大者、
海鼠 崔禹食経に云はく、海鼠〈和名は、本朝式等に熬の字を加へ伊利古いりこと云ふ〉は蛭に似て大なる者といふ。
老海鼠 本草云、寄生、寄生託根之處、其躰與此相似、故實異名同耳、一說、大海鼠極老時之名也、楊氏漢語抄云、老海鼠、〈保夜、俗用此注󠄁二字、〉
老海鼠 本草に云ふ寄生。寄生は根を託するの処、其の体、此れと相似る、故に実は異にして名は同じのみ。一説に、大海鼠は極く老いし時の名なりとす。楊氏漢語抄に云ふ老海鼠〈保夜ほや、俗に此の注の二字を用ゐる〉。
海月 崔禹食經云、海月、一名水毋、〈久良介、〉貌似月在海中、故以名之、
海月 崔禹食経に云はく、海月、一名は水母〈久良介くらげ〉は貌、月に似て海中に在り、故に以て之れを名くといふ。
蝙𧍗 七卷食經云、蝙𧍗、〈偏若二音、爲、俗用蝛蛦二字、本文未詳、〉其貌似蚓而大者也、
蝙𧍗 七巻食経に云はく、蝙𧍗〈偏若の二音、、俗に蝛蛦の二字を用ゐる、本文は未だ詳かならず〉、其の貌は蚓に似て大なる者なりといふ。
蟹〈蟹黃附〉 野王案、蟹、〈核買反、字亦作䲒、加邇、〉八足虫也、食療經云、蜜餠不蟹黃之、〈蟹黃者子名也、〉
蟹〈蟹黄付〉 野王案ずるに、蟹〈核買反、字は亦、䲒に作る、加邇かに〉は八足の虫なりとす。食療経に云はく、蜜餅は宜しく蟹黄に合せて之れを食ふべからずといふ〈蟹黄は子の名なり〉。
蟛螖 兼名苑云、蟛螖、〈彭越二音、漢語抄云、葦原蟹、〉形似蟹而小也、
蟛螖 兼名苑に云はく、蟛螖〈彭越の二音、漢語抄に云ふ葦原蟹あしはらがに〉は形、蟹に似て小なるなりといふ。
蟛蜞 楊氏漢語抄云、蟛蜞、〈彭其二音、海濱稻舂蟹之類也、〉
蟛蜞 楊氏漢語抄に云はく、蟛蜞〈彭其の二音、海浜の稲舂蟹いなつきがにの類なり〉といふ。
石蟹 兼名苑注󠄁云、石蟹、〈以之加邇、〉生海際石下、故以名之、
石蟹 兼名苑注に云はく、石蟹〈以之加邇いしがに〉は海際の石の下に生ず、故に以て之れを名くといふ。


龜貝體百十一
亀貝体百十一
甲 文字集略云、龜蚌之属、甲曰介、〈甲音俗云古不、〉
甲 文字集略に云はく、亀蚌の属、甲を介と曰ふといふ〈甲の音は俗に古不こふと云ふ〉。
貝 尙書注󠄁云、貝、〈音拜、加比、〉水物也、
貝 尚書注に云はく、貝〈音は拝、加比かひ〉は水物なりといふ。
㱿 唐韵云、㱿、〈音角、與貝同、〉虫之皮甲也、崔禹食經云、河貝子、其㱿上黑、是、
殻 唐韻に云はく、殻〈音は角、貝と同じ〉は虫の皮甲なりといふ。崔禹食経に云はく、河貝子、其の殻の上黒きは是れといふ。
角盖 本草云、甲蠃子、中有角盖、〈都比乃布多、〉盖上錯似鮫魚皮、〈鮫魚已見上文、〉
角盖 本草に云はく、甲蠃子、中に角盖〈都比乃布多つびのふた〉有り、盖の上まじへて鮫魚皮に似るといふ〈鮫魚は已に上文に見ゆ〉。
玉盖 崔禹食經云、小蠃子、口有白玉之盖、〈之太々美乃布多、〉
玉盖 崔禹食経に云はく、小蠃子、口に白玉の盖有りといふ〈之太々美乃布多しただみのふた〉。
芒角 本草云、靈蠃子、其甲紫色芒角、〈宇邇乃介、〉
芒角 本草に云はく、霊蠃子は其の甲に紫色の芒角〈宇邇乃介うにのけ〉といふ。
螯 野王案、𩪋、〈音敖、字亦作螯、於保豆米、〉蟹大脚也、本草云、擁劔、其一螯長者也、
螯 野王案ずるに、𩪋〈音は敖、字は亦、螯に作る、於保豆米おほづめ〉は蟹の大脚なりとす。本草に云はく、擁剣、其の一は螯の長き者なりといふ。
烏賊墨 野王案、鷠鰂魚、背有一大骨、腹中有墨、〈背骨與甲同、墨以加乃久呂美、〉
烏賊墨 野王案ずるに、鷠鰂魚は背に一大骨有り、腹の中に墨有りとす。〈背骨は甲と同じ、墨は以加乃久呂美いかのくろみ
沙囊 食療經云、食蟹不沙囊之、沙囊、〈加邇乃毛乃波美、〉在蟹腹內者也、
沙囊 食療経に云はく、蟹を食ふに沙囊を并せ之れを食ふこと得ず、沙囊〈加邇乃毛乃波美かにのものはみ〉は蟹の腹の内に在る者なりといふ。

蟲豸部第二十
虫豸部第二十
 蟲名百十二 蟲體百十三
 虫名百十二 虫体百十三

蟲名百十二
虫名百十二
蟲 爾雅云、有足曰蟲、〈直弓反、〉無足曰豸、〈池爾反、上聲之重、〉唐韵云、虫、〈與蟲通󠄁用、和名无之、〉鱗介惣名也、
虫 爾雅に云はく、足有るを虫〈直弓反〉と曰ひ、足無きを豸〈池爾反、上声の重〉と曰ふといふ。唐韻に云はく、虫〈蟲と通用す、和名は無之むし〉は鱗介の惣名なりといふ。
虵 孫愐曰、虵、〈食遮󠄁反、倍美、一名久知奈波、日本紀私記云、虵、乎路知、〉毒虫也、
蛇 孫愐曰はく、蛇〈食遮反、倍美へみ、一名は久知奈波くちなは、日本紀私記に云ふ蛇、乎路知をろち〉は毒虫なりといふ。
蚖虵 崔豹古今注󠄁云、玄蚖、〈音元、字亦作螈、內典云蚖虵、加良須倍美、〉一名綠虵、各隨其色之、
蚖蛇 崔豹古今注に云はく、玄蚖〈音は元、字は亦、螈に作る、内典に云ふ蚖蛇、加良須倍美からすへみ〉、一名は緑蛇、おのおの其の色に随ひて之れを名くといふ。
蚺虵 文字集畧云、蚺、〈音髯、邇之歧倍美、〉虵文如連錢錦也、
蚺蛇 文字集略に云はく、蚺〈音は髯、邇之岐倍美にしきへみ〉は蛇の文、連銭錦の如きなりといふ。
蟒虵 兼名苑云、蟒、〈音莽、夜万加々知、見內典、〉虵之最大也、
蟒蛇 兼名苑に云はく、蟒〈音は莽、夜万加々知やまかがち、内典に見ゆ〉は蛇の最も大なりといふ。
蝮 本草䟽云、蝮虵、〈蝮音覆、〉一名䗱𧐖、〈僕連二音、〉兼名苑云、一名反鼻、〈蝮、波美、俗或呼虵爲反鼻、其音片尾、〉
蝮 本草疏に云はく、蝮蛇〈蝮の音は覆〉、一名は䗱𧐖〈僕連の二音〉といふ。兼名苑に云はく、一名は反鼻といふ〈蝮、波美はみ、俗に或は蛇を呼びて反鼻と為す、其の音は片尾〉。
蝘蜒 兼名苑云、蝘蜒、〈偃殄二音、〉一名蜥蜴、〈析易二音、〉釋藥性云、一名蠑螈、〈榮原二音、〉本草云、龍子、一名守宮、〈度加介、〉蘇敬曰、常在屋壁、故名守宮也、
蝘蜒 兼名苑に云はく、蝘蜒〈偃殄の二音〉、一名は蜥蜴〈析易の二音〉といふ。釈薬性に云はく、一名は蠑螈〈栄原の二音〉といふ。本草に云はく、龍子、一名は守宮といふ〈度加介とかげ〉。蘇敬曰はく、常に屋の壁に在り、故に守宮と名くるなりといふ。
蝙蝠〈天鼠矢附〉 本草云、蝙蝠、〈邊福二音、〉一名伏翼󠄂、〈加波保利、〉方言云、蟙䘃、〈織墨二音、〉蘇敬曰、天鼠矢、〈伏翼󠄂矢名也、〉
蝙蝠〈天鼠矢付〉 本草に云はく、蝙蝠〈辺福の二音〉、一名は伏翼といふ〈加波保利かはほり〉。方言に云ふ蟙䘃〈織墨の二音〉、蘇敬の曰ふ天鼠矢〈伏翼の矢の名なり〉。
蜚蠊 本草云、蜚蠊、〈菲廉二音、〉一名蠦蜰、〈音肥、都乃无之、〉
蜚蠊 本草に云はく、蜚蠊〈菲廉の二音〉、一名は蠦蜰〈音は肥、都乃無之つのむし〉といふ。
蟷蜋〈螵蛸附〉 兼名苑云、蟷蜋、〈當郎二音、〉一名蟷蠰、〈當餉二音、以保无之利、〉螵蛸、〈飄霄二音、〉一名䗚蟭、〈博󠄁焦二音、於保知加不久利、〉螳蜋子也、
蟷蜋〈螵蛸付〉 兼名苑に云はく、蟷蜋〈当郎の二音〉、一名は蟷蠰〈当餉の二音、以保無之利いぼむしり〉、螵蛸〈飄霄の二音〉、一名は䗚蟭〈博焦の二音、於保知加不久利おほぢがふぐり〉は螳蜋の子なりといふ。
蜻蛉 本草云、蜻蛉、〈精靈二音、〉一名胡〓〔勑冠に虫〕、〈音勑、加介呂布、〉釋藥性云、一名蝍蛉、〈上音即、〉兼名苑云、虰蛵、〈丁馨二音、〉一名胡蝶、蜻蛉也、
蜻蛉 本草に云はく、蜻蛉〈精霊の二音〉、一名は胡〓〔勑冠に虫〕〈音は勑、加介呂布かげろふ〉といふ。釈薬性に云はく、一名は蝍蛉〈上の音は即〉といふ。兼名苑に云はく、虰蛵〈丁香の二音〉、一名は胡蝶、蜻蛉なりといふ。
胡黎 崔豹古今注󠄁云、胡黎、一名胡離、〈歧惠无波、〉蜻蛉之小而黃也、
胡黎 崔豹古今注に云はく、胡黎、一名は胡離〈岐恵無波きゑむば〉、蜻蛉の小にして黄なりといふ。
赤卒 崔豹古今注󠄁云、赤卒、一名絳騮、〈阿加惠无波、〉蜻蛉之小而赤也、
赤卒 崔豹古今注に云はく、赤卒、一名は絳騮〈阿加恵無波あかゑむば〉、蜻蛉の小にして赤きなりといふ。
促織 兼名苑云、絡緯、一名促織、〈波太於利米、〉鳴聲如急織__機、故以名之、
促織 兼名苑に云はく、絡緯、一名は促織〈波太於利米はたおりめ〉、鳴く声は急ぎ機を織るがごとし、故に以て之れを名くといふ。
地膽 本草云、地膽、一名芫靑、〈上音元、邇波都々、〉
地胆 本草に云はく、地胆、一名は芫青〈上の音は元、邇波都々にはつつ〉といふ。
蜻蛚 文字集略云、蜻蛚、〈精列二音、古保呂歧、〉
蜻蛚 文字集略に云はく、蜻蛚〈精列の二音、古保呂岐こほろぎ〉といふ。
螽蟴 兼名苑云、螽蟴、〈終斯二音、〉一名蚣蝑、〈縱黍二音、〉一名礬螽、〈煩終二音、〉舂黍也、〈漢語抄云、舂黍讀伊禰都歧古万侶、〉
螽蟴 兼名苑に云はく、螽蟴〈終斯の二音〉、一名は蚣蝑〈縦黍の二音〉、一名は礬螽〈煩終の二音〉、舂黍なりといふ〈漢語抄に云はく、舂黍は伊禰都岐古万侶いねつきこまろと読むといふ〉。
蚱蜢 本草云、蚱蜢、〈作猛二音、伊奈古万侶、〉貌似螇蚸而色小蒼、在田野間者也、
蚱蜢 本草に云はく、蚱蜢〈作猛の二音、伊奈古万侶いなごまろ〉は貌、螇蚸に似て色は小し蒼く、田野の間に在る者なりといふ。
螇蚸 本草云、螇蚸、〈奚赤二音、波太波太、〉貌似蚱蜢而長細、色黃、飛時作聲、在荒田野者也、
螇蚸 本草に云はく、螇蚸〈奚赤の二音、波太波太はたはた〉は貌、蚱蜢に似て長細く、色は黄、飛ぶ時に声をし、荒れたる田野に在る者なりといふ。
蟋蟀 兼名苑云、蟋蟀、〈悉率二音、〉一名蛬、〈渠容反、又音拱、歧利々々須、〉
蟋蟀 兼名苑に云はく、蟋蟀〈悉率の二音〉、一名は蛬〈渠容反、又、音は拱、岐利きり々々ぎり〉といふ。
螢 兼名苑云、螢、〈胡丁反、〉一名熠燿、〈上一入反、保太流、〉
蛍 兼名苑に云はく、蛍〈胡丁反、〉、一名は熠燿〈上は一入反、保太流ほたる〉といふ。
叩頭虫 傅咸叩頭虫賦云、虫之細微者、觸之輒叩頭、〈叩頭虫、沼加豆歧无之、〉
叩頭虫 傅咸叩頭虫賦に云はく、虫の細微なる者、之れに触れば輙ち頭を叩くといふ〈叩頭虫は沼加豆岐無之ぬかづきむし〉といふ。
齧髮虫 玉篇云、蠰、〈相亮反、漢語抄云、加美歧利无之、〉齧髮虫也、
齧髪虫 玉篇に云はく、蠰〈相亮反、漢語抄に云ふ加美岐利無之かみきりむし〉は髪を齧む虫なりといふ。
蝟 說文云、蝟、〈音謂、久左布、〉虫似豪猪而小者也、
蝟 説文に云はく、蝟〈音は謂、久左布くさぶ〉は虫、豪猪に似て小さき者なりといふ。
烏毛虫 兼名苑云、髯虫、一名烏毛虫、〈加波牟之、〉
烏毛虫 兼名苑に云はく、髯虫、一名は烏毛虫といふ〈加波牟之かはむし〉。
蜈蚣 兼名苑云、蜈蚣、〈吳公二音、〉一名螏蟍、〈疾梨二音、〉一名百足、〈无加天、〉唐韵云、蝍蛆、〈上子力反、下子魚反、〉食虵虫、蜈蚣是也、
蜈蚣 兼名苑に云はく、蜈蚣〈呉公の二音〉、一名は螏蟍〈疾梨の二音〉、一名は百足といふ〈無加天むかで〉。唐韻に云はく、蝍蛆〈上は子力反、下は子魚反、〉は蛇を食ふ虫、蜈蚣は是れなりといふ。
馬陸 本草云、馬陸、一名百足、〈阿末比古、〉
馬陸 本草に云はく、馬陸、一名は百足といふ〈阿末比古あまびこ〉。
蚰蜒 兼名苑云、蚰蜒、〈由延二音、〉一名蚹蠃、〈上音付、〉本草云、螔蝓、〈移臾二音、奈女久知、〉方言云、北燕謂之䖡蚭、〈上女陸反、下音尼、〉
蚰蜒 兼名苑に云はく、蚰蜒〈由延の二音〉、一名は蚹蠃〈上の音は付〉といふ。本草に云はく、螔蝓〈移臾の二音、奈女久知なめくぢ〉といふ。方言に云はく、北燕に之れを䖡蚭〈上は女陸反、下の音は尼〉と謂ふといふ。
蝸牛 山海經注󠄁云、䗱螺、〈上音僕、〉蝸牛也、本草云、蝸牛、〈上古華反、加太豆不利、〉貌似螔蝓、背𧴥󠄁殻耳、
蝸牛 山海経注に云はく、䗱螺〈上の音は僕〉は蝸牛なりといふ。本草に云はく、蝸牛〈上は古華反、加太豆不利かたつぶり〉は貌、螔蝓に似て背に殻を負ふのみといふ。
蜣蜋 本草云、蜣蜋、〈羌郎二音、〉一名蛣蜣、〈吉羌二音、久曾牟之、一云末呂牟之、〉[兼名苑注󠄁云、食糞虫也、]
蜣蜋 本草に云はく、蜣蜋〈羌郎の二音〉、一名は蛣蜣〈吉羌の二音、久曽牟之くそむし、一に云ふ末呂牟之まろむし〉といふ。[兼名苑注に云はく、糞を食ふ虫なりといふ。]
蠐螬 本草云、蠐螬、〈齊曹二音、〉一名蛣𧌑、〈吉屈二音、湏久毛牟之、〉尒雅注󠄁云、一名蝤蠐、〈上才尤反、〉
蠐螬 本草に云はく、蠐螬〈斉曹の二音〉、一名は蛣𧌑〈吉屈の二音、須久毛牟之すくもむし〉といふ。爾雅注に云はく、一名は蝤蠐〈上は才尤反〉といふ。
䗪虫 本草云、䗪虫、〈上音父祖之祖、〉一名蛜蝛、〈伊威二音、於米无之、〉
䗪虫 本草に云はく、䗪虫〈上の音は父祖の祖〉、一名は蛜蝛〈伊威の二音、於米無之おめむし〉といふ。
蚇蠖 兼名苑云、蚇蠖、〈尺郭二音、〉一名蝍䗩、〈即戚二音、〉尒雅注󠄁云、一名蝍𧑙、〈子六反、〉說文云、蠖、〈乎歧牟之、〉屈伸虫也、
蚇蠖 兼名苑に云はく、蚇蠖〈尺郭の二音〉、一名は蝍䗩〈即戚の二音〉といふ。爾雅注に云はく、一名は蝍𧑙〈子六反〉といふ。説文に云はく、蠖〈乎歧牟之をぎむし〉は屈伸する虫なりといふ。
螟蛉 毛詩注󠄁云、螟蛉、〈冥靈二音、阿乎牟之、〉蒼虫也、
螟蛉 毛詩注に云はく、螟蛉〈冥霊の二音、阿乎牟之あをむし〉は蒼虫なりといふ。
蠹 說文云、蠹、〈音妬、乃牟之、〉木中虫也、
蠧 説文に云はく、蠧〈音は妬、乃牟之のむし〉は木中の虫なりといふ。
桃蠧 本草云、桃蠧、一名山龍蠧、〈毛々乃牟之、〉食桃樹虫也、
桃蠹 本草に云はく、桃蠹、一名は山龍蠹〈毛々乃牟之もものむし〉、桃の樹を食ふ虫なりといふ。
衣魚 本草云、衣魚、一名白魚、一名鱏、〈音滛󠄁、一音覃、之美、〉尒雅注󠄁云、一名蛃魚、〈上音柄、〉衣書中自生虫也、
衣魚 本草に云はく、衣魚、一名は白魚、一名は鱏〈音は滛󠄀、一音に覃、之美しみ〉といふ。爾雅注に云はく、一名は蛃魚〈上の音は柄〉、衣書の中に自生する虫なりといふ。
蟬 尒雅集注󠄁云、良蜩、〈徒貂反、〉蝘螗、〈偃唐二音、〉蟪蛄、〈惠古二音、〉螗𧋘、〈唐啼二音、〉蚻蜻、〈札請二音、〉螇螰、〈奚祿二音、〉皆蟬類也、五采具󠄁謂之良蜩、小而有文謂之蚻蜻也、
蝉 爾雅集注に云はく、良蜩〈徒貂反〉、蝘螗〈偃唐の二音〉、蟪蛄〈恵古の二音〉、螗𧋘〈唐啼の二音〉、蚻蜻〈札請の二音〉、螇螰〈奚禄の二音〉は皆、蝉の類なり、五采そなふるは之れを良蜩と謂ひ、小さくして文有るは之れを蚻蜻と謂ふなりといふ。
蚱蟬 本草云、蚱蟬、〈作禪二音、奈波世美、〉雌蟬不鳴者也、
蚱蝉 本草に云はく、蚱蝉〈作禅の二音、奈波世美なはせみ〉は雌蝉にして鳴くこと能はざる者なりといふ。
馬蜩 爾雅注󠄁云、馬蜩、一名蝒、〈音綿、无末世美、〉蟬中最大者也、
馬蜩 爾雅注に云はく、馬蜩、一名は蝒〈音は綿、無末世美むまぜみ〉、蝉の中の最も大なる者なりといふ。
寒蜩 兼名苑云、寒蜩、一名寒螿、〈音漿、〉一名𧕄、〈音鷹、俗云加牟世美、〉似蟬而小靑者、月令寒蟬是、
寒蟬 兼名苑に云はく、寒蜩、一名は寒螿〈音は漿〉、一名は𧕄〈音は鷹、俗に云ふ加牟世美かむせみ〉、蝉に似て小さく青き者といふ。月令の寒蝉は是れ。
蛁蟟 陶隱居本草注󠄁云、蛁蟟、〈凋遼二音、字亦作虭蟧、久都々々保宇之、〉八月鳴者是、
蛁蟟 陶隠居本草注に云はく、蛁蟟〈凋遼の二音、字は亦、虭蟧に作る、久都くつ々々くつ保宇之ぼうし〉、八月に鳴く者は是れといふ。
茅蜩 爾雅注󠄁云、茅蜩、一名䘁、〈子烈反、比久良之、〉小靑蟬也、
茅蜩 爾雅注に云はく、茅蜩、一名は䘁〈子烈反、比久良之ひぐらし〉、小さく青き蝉なりといふ。
夏蟲 莊子云、夏蟲、〈俗用此二字、云奈都牟之、〉不以語於氷
夏虫 荘子に云はく、夏虫〈俗に此の二字を用ゐる、云はくふ奈都牟之なつむし〉は以て氷に語るべからずといふ。
蝶 兼名苑云、蛺蝶、〈頰牒二音、〉一名野蛾、〈形似蛾而色白者也、〉
蝶 兼名苑に云はく、蛺蝶〈頬牒の二音〉、一名は野蛾といふ〈形は蛾に似て色白き者なり〉。
綠𧋝 兼名苑云、綠女、一名姥𧋝、〈綠𧋝也、〉
緑蝶 兼名苑に云はく、緑女、一名は姥蝶といふ〈緑蝶なり〉。
紺蝶 兼名苑云、紺幡、一名童幡、〈紺蝶也、〉
紺蝶 兼名苑に云はく、紺幡、一名は童幡といふ〈紺蝶なり〉。
鳳車 崔豹古今注󠄁云、鳳車、一名鬼車、〈保々天布、〉形似蝶而大、或有斑文者也、
鳳車 崔豹古今注に云はく、鳳車、一名は鬼車〈保々天布ほほてふ〉、形は蝶に似て大きく、或に斑文有る者なりといふ。
蛾 說文云、蛾、〈音峩、比々流、〉蠶作飛虫也、
蛾 説文に云はく、蛾〈音は峨、比々流ひひる〉は、蚕の飛虫とるなりといふ。
蠶 說文云、蠶、〈昨含反、俗爲蝅、加比古、〉虫吐絲也、玉篇云、䖢、〈亡消󠄁反、與蛾同、〉蠶初生也、
蚕 説文に云はく、蠶〈昨含反、俗に蝅と為す、加比古かひご〉は、虫の糸を吐くなりといふ。玉篇に云はく、䖢〈亡消反、蛾と同じ〉は蚕の初めて生ずるなりといふ。
𧔞 玉篇云、𧔞、〈音元、奈都古、〉晩蠶也、
𧔞 玉篇に云はく、𧔞〈音は元、奈都古なつご〉は晩蚕なりといふ。
蝱 文字集畧云、蝱、〈今案即是蚊虻之虻字也、見下文、比々流、〉繭內老蠶也、
蝱 文字集略に云はく、蝱〈今案ふるに即ち是れ蚊虻の虻の字なり、下文に見ゆ、比々流ひひる〉は繭内の老蚕なりといふ。
水蛭 本草云、水蛭、〈音質、比流、〉
水蛭 本草に云はく、水蛭〈音は質、比流ひる〉といふ。
馬蛭 本草云、馬蛭、一名馬蟥、〈音黃、无末比流、〉蛭之大也、
馬蛭 本草に云はく、馬蛭、一名は馬蟥〈音は黄、無末比流むまびる〉、蛭の大なるなりといふ。
草蛭 本草云、草蛭、〈賀佐比流、〉蛭之在草上也、
草蛭 本草に云はく、草蛭〈賀佐比流かさびる〉は、蛭の草の上に在るなりといふ。
蚯蚓 唐韵云、蜿蟮、〈苑善二音、〉蚯蚓也、本草云、蚯蚓、〈丘引二音、美々湏、〉兼名苑云、蜸𧉕、〈犬典二音、〉一名螼蚓、〈蚯螾也、螼音謹、今案螾即蚓字也、見漢書注󠄁、〉[崔豹古今注󠄁云、江東謂爲歌女、或謂鳴砌、]
蚯蚓 唐韻に云はく、蜿蟮〈苑善の二音〉は蚯蚓なりといふ。本草に云はく、蚯蚓〈丘引の二音、美々須みみず〉といふ。兼名苑に云はく、蜸蚕〈犬典の二音〉、一名は螼蚓〈蚯螾なり、螼の音は謹、今案ふるに螾は即ち蚓の字なり、漢書注に見ゆ〉といふ。[崔豹古今注に云はく、江東に謂ひて歌女と為し、或に鳴砌と謂ふ。]
白頸蚯蚓 本草云、白頸蚯蚓、一名土龍、〈可不良美々湏、〉
白頸蚯蚓 本草に云はく、白頸蚯蚓、一名は土龍といふ〈可不良美々須かぶらみみず〉。
蝦蟇〈科斗附〉 唐韵云、蛙、〈烏蝸反、古文作鼃、加閇流、〉蝦蟇也、兼名苑云、蝦蟇、〈遐麻二音、〉一名螻蟈、〈婁國二音、〉唐韵云、蛞𧓕、〈活東二音、〉科斗也、蝌蚪、〈科斗二音、〉蝦蟇子也、
蝦蟇〈科斗付〉 唐韻に云はく、蛙〈烏蝸反、古文に鼃に作る、加閉流かへる〉は蝦蟇なりといふ。兼名苑に云はく、蝦蟇〈遐麻の二音〉、一名は螻蟈〈婁国の二音〉といふ。唐韻に云はく、蛞𧓕〈活東の二音〉は科斗なり、蝌蚪〈科斗の二音〉は蝦蟇子なりといふ。
靑蝦蟇 陶隱居曰、蝦蟇大而靑脊、謂之土鴨、〈阿乎加閇流、〉
青蝦蟇 陶隠居曰はく、蝦蟇の大にして青き脊は之れを土鴨と謂ふといふ〈阿乎加閉流あをがへる〉。
黑蝦蟇 陶隱居注󠄁云、蝦蟇黑色、謂之蛤子、〈都知加倍流、〉
黒蝦蟇 陶隱居注に云はく、蝦蟇の黒色は之れを蛤子と謂ふといふ〈都知加倍流つちがへる〉。
蛙黽 本草云、蛙黽、〈莫耿反、阿末加倍流、〉形小如蝦蟇而靑色者也、
蛙黽 本草に云はく、蛙黽〈莫耿反、阿末加倍流あまがへる〉は形小さく、蝦蟇のごとくして青色の者なりといふ。
蟾蜍 兼名苑注󠄁云、蟾蜍、〈占徐二音、蜍或作蠩、一音余、比歧、〉形似蝦蟇而大、陸居者也、
蟾蜍 兼名苑注に云はく、蟾蜍〈占徐二音、蜍は或に蠩に作る、一音に余、比岐ひき〉は形、蝦蟇に似て大きく、陸に居る者なりといふ。
蜘蛛 本草云、蜘蛛、〈知誅二音、〉一名䖦〓〔虫偏に舞〕、〈拙牟二音、久毛、〉兼名苑云、鼅鼄、〈今案即蜘蛛二字也、〉一名蝳蜍、〈毒余二音、〉
蜘蛛 本草に云はく、蜘蛛〈知誅の二音〉、一名は䖦〓〔虫偏に舞〕〈拙牟の二音、久毛くも〉といふ。兼名苑に云はく、鼅鼄〈今案ふるに即ち蜘蛛の二字なり〉、一名は蝳蜍〈毒余の二音〉といふ。
蟰蛸 爾雅注󠄁云、蟰蛸、〈蕭梢二音、〉一名蟢子、〈上音喜、阿之太加乃久毛、〉小蜘蛛之長脚者也、
蟰蛸 爾雅注に云はく、蟰蛸〈蕭梢の二音〉、一名は蟢子〈上の音は喜、阿之太加乃久毛あしたかのくも〉は小さき蜘蛛の長脚なる者なりといふ。
蠅虎 兼名菀注󠄁云、蠅虎、〈波倍止利、〉此虫似蜘蛛、恒捕蠅爲粮者也、[崔豹古今注󠄁云、蠅虎、蠅䖣也、一名蠅蝗、一名蠅豹子、]
蠅虎 兼名苑注に云はく、蠅虎〈波倍止利はへとり〉、此の虫は蜘蛛に似て恒に蠅を捕りて粮と為す者なりといふ。[崔豹古今注に云はく、蠅虎は蠅䖣なり、一名は蠅蝗、一名は蠅豹子といふ。]
蜂〈𧍙附〉 說文云、蜂蠆、〈峯帶二音、波知、〉螫人虫也、四聲字苑云、𧍙、〈音范、〉蜂子也、
蜂〈𧍙付〉 説文に云はく、蜂蠆〈峯帯の二音、波知はち〉は人をす虫なりといふ。四声字苑に云はく、𧍙〈音は范〉は蜂の子なりといふ。
土蜂 爾雅注󠄁云、土蜂、〈由湏留波遲、〉大蜂之在地中房󠄁者也、
土蜂 爾雅注に云はく、土蜂〈由須留波遅ゆするばち〉は大蜂の地中に在りて房を作る者なりといふ。
木蜂 爾雅集注󠄁云、木蜂、〈美加波知、〉似土蜂而小、在樹上房󠄁者也、
木蜂 爾雅集注に云はく、木蜂〈美加波知みかばち〉は土蜂に似て小さく、樹上に在りて房を作る者なりといふ。
蜜蜂〈蜚零附〉 方言注󠄁云、蜜蜂、〈美知波知、蜜見飮食部、〉黑蜂在竹木孔、又有室者也、本草云蜂子、一名大黃蜂子、一名蜚零、〈今案蜚者古飛字也、〉
蜜蜂〈蜚零付〉 方言注に云はく、蜜蜂〈美知波知みちばち、蜜は飲食部に見ゆ〉は黒き蜂、竹木に在りて孔と為し、又、室有る者なりといふ。本草に云はく、蜂子、一名は大黄蜂子、一名は蜚零といふ〈今案ふるに蜚は古の飛の字なり〉。
蠮螉 爾雅注󠄁云、蠮螉、〈悅翁二音、佐曾利、〉似蜂而細𦝫者也、兼名苑云、一名蜾蠃、〈果裸二音、〉
蠮螉 爾雅注に云はく、蠮螉〈悦翁の二音、佐曽利さそり〉は蜂に似て細腰の者なりといふ。兼名苑に云はく、一名は蜾蠃〈果裸の二音〉といふ。
蚊 四聲字苑云、蚊、〈音文、賀、〉小飛蟲、夏月夜噬人也、
蚊 四声字苑に云はく、蚊〈音は文、〉は小さき飛虫、夏月の夜に人をふなりといふ。
䖟 說文云、䖟、〈莫衡反、與亡同、字亦作蝱、阿夫、〉齧人飛虫也、
䖟 説文に云はく、䖟〈莫衡反、亡と同じ、字は亦、蝱に作る、阿夫あぶ〉は人を齧む飛虫なりといふ。
蠅〈胆附〉 方言云、陳楚之間、謂之蠅、〈音膺、波倍、〉東齊之間謂之羊、〈郭璞曰、蠅羊此轉語耳、〉聲類云、胆、〈音旦、又去聲、波閇乃古、〉蠅子也、說文云、蠅乳肉中也、
蝿〈胆付〉 方言に云はく、陳楚の間に之れを蝿〈音は膺、波倍はへ〉と謂ひ、東斉の間に之れを羊〈郭璞の曰ふ蝿羊は此の転語なるのみ〉と謂ふといふ。声類に云はく、胆〈音は旦、又、去声、波閉乃古はへのこ〉は蝿子なりといふ。説文に云はく、蝿は肉中に乳するなりといふ。
狗蠅 兼名苑云、狗蠅、一名犬蠅、着於犬者也、
狗蠅 兼名苑に云はく、狗蝿、一名は犬蝿、犬に着く者なりといふ。
守瓜 尒雅注󠄁云、蠸、一名守瓜、〈蠸音權、宇利波閇、〉食瓜葉者也、
守瓜 爾雅注に云はく、蠸、一名は守瓜〈蠸の音は権、宇利波閉うりばへ〉、瓜の葉を食ふ者なりといふ。
蝗〈蝮蜪附〉 爾雅集注󠄁云、蝗、〈古孟反、一音皇、於保禰无之、〉食苗心螟、〈音冥、〉食葉曰𧊇、〈音貸、〉食節曰𧒿、〈音賊、〉食根曰蝥、〈音謀、〉、兼名苑注󠄁云、蝮蜪、〈覆陶二音、〉蝗子未翅也、
蝗〈蝮蜪附〉 爾雅集注に云はく、蝗〈古孟反、一音は皇、於保禰無之おほねむし〉は、苗心を食ふを螟〈音は冥〉と曰ひ、葉を食ふを𧊇〈音は貸〉と曰ひ、節を食ふを𧒿〈音は賊〉と曰ひ、根を食ふを蝥〈音は謀〉と曰ふといふ。兼名苑注に云はく、蝮蜪〈覆陶の二音〉は蝗子の、未だ翅有らざるなりといふ。
螻蛄 本草云、螻蛄、〈婁姑二音、〉一名〓〔穀冠に虫〕、〈胡木反、字亦作𧏚、介良、〉方言云、螻𧍱、〈音室、〉蔣魴切韵云、鼫鼠、〈上音石、〉有五能、能飛不過󠄁屋、能啼不囀聲、能泅、〈浮󠄁行也、音囚、又音游、〉不瀆、能緣不木、能耕󠄁不身、喩人之短藝、即螻蛄也、
螻蛄 本草に云はく、螻蛄〈婁姑の二音〉、一名は〓〔穀冠に虫〕〈胡木反、字は亦、𧏚に作る、介良けら〉といふ。方言に云はく、螻𧍱〈音は室〉といふ。蒋魴切韻に云はく、鼫鼠〈上の音は石〉に五能有り、能く飛びて屋を過ぐること能はず、能く啼きて囀声すること能はず、能くおよ〈浮き行くなり。音は囚、又、音は游〉ぎてみぞを渡ること能はず、能く縁りて木を窮むること能はず、能く耕して身をおほひかくすこと能はず、人の短芸に喩ふ、即ち螻蛄なりといふ。
大蟻〈蚳蝝附〉 爾雅集注󠄁云、蚍蜉、〈毗浮󠄁二音、〉一名馬螘、〈宜倚反、今案即蟻字也、見玉篇、於保阿利、〉大蟻也、野王案、蚳蝝、〈遲鉛二音、〉蟻子也、兼名苑云、一名玄駒、〈上音兼󠄁猗反、又作螘、阿利、〉
大蟻〈蚳蝝付〉 爾雅集注に云はく、蚍蜉〈毘浮の二音〉、一名は馬螘〈宜倚反、今案ふるに即ち蟻の字なり、玉篇に見ゆ、於保阿利おほあり〉、大蟻なりといふ。野王案ずるに、蚳蝝〈遅鉛の二音〉は蟻の子なりとす。兼名苑に云はく、一名は玄駒〈上の音は兼猗反、又、螘に作る、阿利あり〉といふ。
赤蟻 尒雅集注󠄁云、赤駮、蚍蜉、一名蠪虰、〈龍偵二音、伊比阿利、〉赤蟻也、
赤蟻 爾雅集注に云はく、赤駮、蚍蜉、一名は蠪虰〈龍偵の二音、伊比阿利いひあり〉、赤蟻なりといふ。
飛蟻 尒雅集注󠄁云、螱、〈音尉、〉一名飛蟻、〈波阿利、〉蟻有翼󠄂而能飛者也、
飛蟻 爾雅集注に云はく、螱〈音は尉〉、一名は飛蟻〈波阿利はあり〉、蟻の翼有りて能く飛ぶ者なりといふ。
蟣虱 說文云、蟣、〈音幾、歧佐々、〉虱子也、虱、〈所󠄁乙反、之良美、〉齧人虫也、
蟣虱 説文に云はく、蟣〈音は幾、岐佐々きささ〉は虱の子なり、虱〈所乙反、之良美しらみ〉は人を齧む虫なりといふ。
𮔇 說文云、𮔇、〈音早、乃美、〉齧人跳虫也、
蚤 説文に云はく、蚤〈音は早、乃美のみ〉は、人を齧み跳ぶ虫なりといふ。
蜹 野王案、蜹、〈如稅反、與芮同、太邇、〉今有小虫善齧人、謂之含毒、即是、
蜹 野王案ずるに、蜹〈如税反、芮と同じ、太邇だに〉とす、今に小虫有りて善く人を齧む、之れを含毒と謂ふは即ち是れ。
𧔎 蔣魴切韵云、𧔎、〈音魯、美加良、〉井水中小虫也、
𧔎 蒋魴切韻に云はく、𧔎〈音は魯、美加良みがら〉は井水の中の小虫なりといふ。
蠁子 蔣魴切韵云、蠁子、〈上音饗、佐之、〉酒醋上小飛虫也、
蠁子 蒋魴切韻に云はく、蠁子〈上の音は饗、佐之さし〉は、酒醋の上の小さき飛虫なりといふ。
蛄䗐 尒雅集注󠄁云、蛄䗐、〈姑翅二音、與奈牟之、〉今米穀中蠹小黑虫也、
蛄䗐 爾雅集注に云はく、蛄䗐〈姑翅の二音、与奈牟之よなむし〉は今、米穀の中にする小さき黒虫なりといふ。
蜏 唐韵云、蜏、〈音誘、漢語抄云、比乎牟之、〉朝生暮死虫名也、
蜏 唐韻に云はく、蜏〈音は誘、漢語抄に云ふ比乎牟之ひをむし〉はあしたに生じ暮に死する虫の名なりといふ。
蠛蠓 尒雅集注󠄁云、蠛蠓、〈上亡結反、下亡孔反、漢語抄云、加豆乎无之、日本紀私記云、蠛、末久奈歧、〉小虫亂飛也、磑則天風、舂則天雨、
蠛蠓 爾雅集注に云はく、蠛蠓〈上は亡結反、下は亡孔反、漢語抄に云ふ加豆乎無之かつをむし、日本紀私記に云ふ蠛、末久奈岐まぐなき〉は小さき虫にして乱れ飛ぶなりといふ。くときは天の風のごとし、くときは天の雨のごとし。

蟲體百十三
虫体百十三
蟠 野王案、蟠、〈音煩、訓和太加末流、〉龍虵臥貌也、
蟠 野王案ずるに、蟠〈音は煩、訓は和太加末流わだかまる〉は龍蛇の臥す貌なりといふ。
蚑行 唐韵云、蚑、〈音歧、訓波布、〉蟲行也、
蚑行 唐韻に云はく、蚑〈音は岐、訓は波布はふ〉は虫の行くなりといふ。
蠢動 野王案、蠢、〈音准、訓牟久米久、〉虫動搖貌也、
蠢動 野王案ずるに、蠢〈音は准、訓は牟久米久むぐめく〉は虫の動き揺ぐ貌なりといふ。
螫 應劭漢書注󠄁云、蠚、〈丑略反、又呵各反、〉螫也、野王案、螫、〈音釋、訓佐湏、〉蜂蠆行毒也、
螫 応劭漢書注に云はく、蠚〈丑略反、又、呵各反、〉は螫なりといふ。野王案ずるに、螫〈音は釈、訓は佐須さす〉は蜂蠆の毒を行ふなりとす。
蛻〈虵蛻附〉 野王案云、蛻、〈如說反、一音稅、訓毛奴久、〉蟬虵之解皮也、本草云、虵蛻、一名龍子衣、〈倍美乃毛沼介、〉
蛻〈蛇蛻付〉 野王案ずるに云はく、蛻〈如説反、一音に税、訓は毛奴久もぬく〉は蝉蛇の皮を解くなりといふ。本草に云はく、蛇蛻、一名は龍子衣といふ〈倍美乃毛沼介へみのもぬけ〉。
蟄 野王案、蟄、〈除立反、訓湏古毛流、〉虫至冬隱不出也、
蟄 野王案ずるに、蟄〈除立反、訓は須古毛流すごもる〉は、虫、冬に至り隠れて出でざるなりとす。
化󠄁 淮南子云、虫八日而化󠄁、
化 淮南子に云はく、虫、八日にして化すといふ。

卷第九
巻第九
 稻穀部第廿一 菜󠄁蔬部第廿二 果蓏部第廿三
 稲穀部第二十一 菜蔬部第二十二 果蓏部第二十三
稻穀部第廿一
稲穀部第二十一  
 稻穀類百十四 稻穀具󠄁百十五
 稲穀類百十四 稲穀具百十五

稻穀類百十四
稲穀類百十四
稻 唐韵云、稻、〈徒皓反、以禰、早稻和世、晩稻比禰、〉秔稻也、𥻧、〈音兼󠄁、漢語抄云、美之侶乃以禰、〉靑稻白米也、
稲 唐韻に云はく、稲〈徒皓反、以禰いね、早稲は和世わせ、晩稲は比禰ひね〉は粳稲なり、𥻧〈音は兼、漢語抄に云ふ美之侶乃以禰みしろのいね〉は青稲白米なりといふ。
穀 周󠄀禮注󠄁云、五穀、〈古祿反、日本紀私記云、伊豆々乃太奈都毛乃、〉黍稷菽麥稻也、禮記月令注󠄁云、稷麻豆麥黍也、
穀 周礼注に云はく、五穀〈古禄反、日本紀私記に云ふ伊豆々乃太奈都毛乃いつつのたなつもの〉は黍、稷、菽、麦、稲なりといふ。礼記月令注に云はく、稷、麻、豆、麦、黍なりといふ。
穭 唐韵云、穭、〈音呂、於路加於比、俗云比豆知、〉自生稻也、
穭 唐韻に云はく、穭〈音は呂、於路加於比おろかおひ、俗に云ふ比豆知ひづち〉はおのづから生ずる稲なりといふ。
米 陸詞切韵云、米、〈莫禮反、與禰、〉穀實也、
米 陸詞切韻に云はく、米〈莫礼反、与禰よね〉は穀実なりといふ。
𥻟 蒼頡篇云、𥻟、〈奴亂反、𥻟米、毛知乃與禰、〉米之黏也、
𥻟 蒼頡篇に云はく、𥻟〈奴乱反、𥻟米、毛知乃与禰もちのよね〉は米の黏るなりといふ。
秔米 本草云、秔米、〈上音庚、字亦作粳、〉一名〓〔米偏に匕〕米、〈上音匕、宇流之禰、〉
秔米 本草に云はく、秔米〈上の音は庚、字は亦、粳に作る〉、一名は〓〔米偏に匕〕米〈上の音は匕、宇流之禰うるしね〉といふ。
𥽦米 唐韵云、𥽦、〈臧洛反、與作同、漢語抄云、𥽦米、末之良介乃與禰、〉精細米也、
𥽦米 唐韻に云はく、𥽦〈臧洛反、作と同じ、漢語抄に云ふ𥽦米、末之良介乃与禰ましらげのよね〉は精細米なりといふ。
粺米 楊氏漢語抄云、粺米、〈之良介與禰、上音傍卦反、去聲之輕、與杷同、〉精米也、
粺米 楊氏漢語抄に云はく、粺米〈之良介与禰しらげよね、上の音は傍卦反、去声の軽、杷と同じ〉は精米なりといふ。
糲米 崔禹食經云、烏米、一名糲米、〈上音剌、比良之良介乃與禰、〉烏米謂一斛之糲八斗之米也、
糲米 崔禹食経に云はく、烏米、一名は糲米〈上の音は剌、比良之良介乃与禰ひらしらげのよね〉、烏米は一斛の糲を舂きて八斗の米を成すを謂ふなりといふ。
糙米 唐韵云、糙、〈音造󠄁、󠄁漢語抄云糙米、毛美與禰、一云加知之禰、[今案本朝式等所󠄁謂爲糙者、舂稻成穀之名也、]〉米穀雜也、
糙米 唐韻に云はく、糙〈上の音は造、漢語抄に云ふ糙米、毛美与禰もみよね、一に云ふ加知之禰かちしね[、今案ふるに本朝式等に所謂る糙と為す者は、稲を舂き穀を成すの名なり]〉は米穀雑るなりといふ。
糄米 唐韵云、糄、〈音篇、今案糄米、也歧古米、〉燒稻爲米也、
糄米 唐韻に云はく、糄〈音は篇、今案ふるに糄米は也岐古米やきごめ〉は稲を焼きて米と為すなりといふ。
大麥 陶隱居曰、麥、〈莫革反、〉五穀之長也、蘇敬曰、大麥、一名靑科麥、〈布度牟歧、一云加知加太、〉
大麦 陶隠居曰はく、麦〈莫革反〉は五穀の長なりといふ。蘇敬曰はく、大麦、一名は青科麦といふ。〈布度牟岐ふとむぎ、一に云ふ加知加太かちがた
小麥 周󠄀禮注󠄁云、九穀者稷黍稻*原本梁苽麻大豆小豆小麦、〈古无歧、一云万牟歧、〉
小麦 周礼注に云はく、九穀は稷、黍、稲、粱、苽、麻、大豆、小豆、小麦〈古無岐こむぎ、一に万牟岐まむぎと云ふ〉といふ。
蕎麥 孟詵食經云、蕎麥、〈上音喬、一音驕、曾波牟歧、[一云久呂無木、]〉[性寒者也]
蕎麦 孟詵食経に云はく、蕎麦〈上の音は喬、一音に驕、曽波牟岐そばむぎ[、一に云ふ久呂無木くろむぎ]〉[、性は寒なる者なり]といふ。
粟 唐韵云、粟、〈相玉反、阿波、〉禾子也、崔禹曰、禾、〈音和、〉是穗名、被含稃米也、
粟 唐韻に云はく、粟〈相玉反、阿波あは〉は禾子なりといふ。崔禹曰はく、禾〈音は和〉は是れ穂の名、含稃を被ひて未だ米に成らざるなりといふ。
丹黍 本草云、丹黍、〈音鼠、〉一名赤黍、一名黃黍、〈阿賀歧々比、〉
丹黍 本草に云はく、丹黍〈音は鼠〉、一名は赤黍、一名は黄黍といふ〈阿賀岐々比あかききび〉。
秬黍 本草云、秬黍、〈上音巨、〉一名黑黍、〈久呂歧比、〉
秬黍 本草に云はく、秬黍〈上の音は巨〉、一名は黒黍〈久呂岐比くろきび〉といふ。
秫 爾雅注󠄁云、秫、〈音述󠄁、阿波乃毛知、〉黏粟也、
秫 爾雅注に云はく、秫〈音は述、阿波乃毛知あはのもち〉は黏る粟なりといふ。
稷米 本草云、稷米、〈上子力反、〉一名稌、〈歧比乃毛知、〉蘇敬曰、一名穄、〈音祭、〉[一名黃米、]
稷米 本草に云はく、稷米〈上は子力反〉、一名は稌〈岐比乃毛知きびのもち〉といふ。蘇敬曰はく、一名は穄〈音は祭〉[、一名は黄米]といふ。
粱米 崔禹曰、粱米、〈上音梁、〉一名𦬊粟、〈上音起󠄁、〉一名𥢶米、〈上音㑹、阿波乃宇留之禰、〉白粱米、一名圓米、
粱米 崔禹曰はく、粱米〈上の音は梁〉、一名は𦬊粟〈上の音は起〉、一名は糩米〈上の音は会、阿波乃宇留之禰あはのうるしね〉は白粱米、一名は円米といふ。
大豆 本草云、大豆、〈徒鬪反、〉一名菽、〈音叔、末米、〉
大豆 本草に云はく、大豆〈徒闘反〉、一名は菽〈音は叔、末米まめ〉といふ。
烏豆 崔禹曰、烏豆、一名雄豆、〈久呂末女、〉圓而黑者也、
烏豆 崔禹曰はく、烏豆、一名は雄豆〈久呂末女くろまめ〉は円くして黒き者なりといふ。
䴏豆 崔禹食經云、䴏豆、〈曾比末米、〉紫赤色者也、
䴏豆 崔禹食経に云はく、䴏豆〈曽比末米そびまめ〉は紫赤色の者なりといふ。
珂孚豆 崔禹食經云、珂孚豆、〈井知古末女、〉狀圓々如玉而可愛、故以名之、
珂孚豆 崔禹食経に云はく、珂孚豆〈井知古末女ゐちこまめ〉、かたち円々と玉のごとくしてづべし、故に以て之れを名くといふ。
大角豆 崔禹食經云、大角豆、一名白角豆、〈佐々介、〉色如牙角、故以名之、其一殻含數十粒、離々結房󠄁、〈離々讀布佐奈流、見文選󠄁、〉
大角豆 崔禹食経に云はく、大角豆、一名は白角豆〈佐々介ささげ〉、色は牙角のごとし、故に以て之れを名く、其の一殻に数十粒を含み、離々として房を結ぶといふ〈離々は布佐奈流ふさなると読む、文選に見ゆ〉。
小豆 本草云、赤小豆、〈阿加安豆歧、〉崔禹經云、黑小豆、紫小豆、黃小豆、綠小豆、皆同類也、
小豆 本草に云はく、赤小豆〈阿加安豆岐あかあづき〉といふ。崔禹経に云はく、黒小豆、紫小豆、黄小豆、緑小豆は皆、同じ類なりといふ。
野豆 本草疏云、豌豆、〈上於丸反、〉一名野豆、〈乃良万女、〉
野豆 本草疏に云はく、豌豆〈上は於丸反、〉、一名は野豆〈乃良万女のらまめ〉といふ。
〓〔艹冠に偏󠄁〕豆 弁色立成云、〓〔艹+偏󠄁〕豆、〈阿知万米、上音邊、又比顯反、〉籬上豆也、
〓〔艹冠に偏󠄁〕豆 弁色立成に云はく、〓〔艹+偏󠄁〕豆〈阿知万米あぢまめ、上の音は辺、又、比顕反〉は籬の上の豆なりといふ。
胡麻 陶隱居曰、胡麻、〈此間音五末、訛云宇古万、〉本出大宛、故以名之、
胡麻 陶隠居曰はく、胡麻〈此間ここに音は五末ごま、訛りて云ふ宇古万うごま〉はもと、大宛より出づ、故に以て之れを名くといふ。
荏 野王案、葉細而香、其實黑者曰蘇、〈新撰本草云、乃良江、一云奴加江、〉葉大而有毛、其實白者曰荏、〈而枕反、衣、〉此二物、雖一類其狀不同耳、
荏 野王案ずるに、葉、細くして香り、其の実黒き者を蘇〈新撰本草に云ふ乃良江のらえ、一に云ふ奴加江ぬかえ〉と曰ひ、葉、大にして毛有り、其の実の白き者を荏〈而枕反、〉と曰ふとす。此の二物、一類と雖も其の状、同じからざるのみ。
香葇 楊氏漢語抄云、香葇、〈音柔、以奴江、〉一云水蘇、
香葇 楊氏漢語抄に云ふ香葇〈音は柔、以奴江いぬえ〉、一に云ふ水蘇。
薭 左傳注󠄁云、薭、〈音俾、比衣、〉草之似穀者也、
薭 左伝注に云はく、薭〈音は俾、比衣ひえ〉は草の穀に似る者なりといふ。
葟子 本朝式云、葟子、〈上音皇、美能、〉
葟子 本朝式に云ふ葟子〈上の音は皇、美能みの〉。

稻穀具󠄁百十五
稲穀具百十五
種子 日本紀私記云、水田種子、〈太奈都毛乃、〉陸田種子、〈波多介豆毛乃、種之隴反、太禰、〉
種子 日本紀私記に云はく、水田種子〈太奈都毛乃たなつもの〉、陸田種子〈波多介豆毛乃はたけつもの、種は之隴反、太禰たね〉といふ。
粒 說文云、粒、〈音立、伊奈豆比、〉米實也、
粒 説文に云はく、粒〈音は立、伊奈豆比いなつび〉は米の実なりといふ。
粰 爾雅云、秬者黑黍、一粰二米、〈秬黍也、見上文、〉說文云、稃、〈音孚、字亦作𥞂、以禰乃加比、〉米甲也、
粰 爾雅に云はく、秬は黒黍、一粰に二米といふ〈秬は黍なり、上文に見ゆ〉。説文に云はく、稃〈音は孚、字は亦、𥞂に作る、以禰乃加比いねのかひ〉は米のよろひなりといふ。
糠 尒雅注󠄁云、糠、〈音康、沼賀、〉米皮也、唐韵云、糩、〈音㑹、阿良奴加、〉麁糠也、
糠 爾雅注に云はく、糠〈音は康、沼賀ぬか〉は米の皮なりといふ。唐韻に云はく、糩〈音は会、阿良奴加あらぬか〉は麁糠なりといふ。
𥝖𬓹 唐韵云、𥝖、〈下沒反、字亦作麧、古女佐歧、一云阿良毛度、〉𥝖𬓹、漢書食穅𥝖、是、糏、〈先結反、〉米麥破也、
𥝖𬓹 唐韻に云はく、𥝖〈下没反、字は亦、麧に作る、古女佐岐こめさき、一に云ふ阿良毛度あらもと〉は𥝖𬓹といふ。漢書に穅𥝖を食ふとは是れ。糏〈先結反〉は、米麦の破るるなり。
粃 野王案云、粃、〈比之去聲、之比奈世、〉穀實但有皮而無米也、
粃 野王案ずるに云はく、粃〈比の去声、之比奈世しひなせ〉は穀実、但皮有りて米無きなりといふ。
秳 唐韵云、秳、〈音活、乃古利之禰、〉舂穀不*原本漬者也、
秳 唐韻に云はく、秳〈音は活、乃古利之禰のこりしね〉は穀を舂きてつひえざる者なりといふ。
穗 唐韵云、穎、〈餘頃反、訓加尾、〉穗也、穗、〈音遂󠄂、󠄂訓保、〉禾穀末也、
穂 唐韻に云はく、穎〈余頃反、訓は加尾かび〉は穂なり、穂〈音は遂、訓は〉は禾穀末なりといふ。
芒 薩珣曰、芒、〈音亡、乃歧、〉禾穗芒也、廣志云、稻有紫芒稻赤穬稻、〈今案穬亦芒也、音古猛反、具󠄁見唐韵、〉
芒 薩珣曰はく、芒〈音は亡、乃岐のぎ〉は禾穂の芒なりといふ。広志に云はく、稲に紫芒稲、赤穬稲〈今案ふるに穬は亦、芒なり、音は古猛反、ともに唐韻に見ゆ〉有りといふ。
秉 薩珣曰、秉、〈音丙、訓以奈太波利、見毛詩、〉禾束也、四聲字苑云、穧、〈在詣反、今案田野人云、揀稻之揀、是、〉刈把數也、
秉 薩珣曰はく、秉〈音は丙、訓は以奈太波利いなたばり、毛詩に見ゆ〉は禾束なりといふ。四声字苑に云はく、穧〈在詣反、今案ふるに、田野の人の云ふ揀稲の揀は是れ〉は刈把の数なりといふ。
稾 麻果曰、稾、〈古老反、訓和良、〉禾莖也、
藁 麻果曰はく、藁〈古老反、訓は和良わら〉は禾の茎なりといふ。
麥奴 新錄單要云、麥奴、〈牟歧乃久呂美、〉
麦奴 新録単要に云はく、麦奴〈牟岐乃久呂美むぎのくろみ〉といふ。
麩 說文云、麩、〈音扶、字亦作麱、无歧加湏、〉小麥皮屑也、
麩 説文に云はく、麩〈音は扶、字は亦、麱に作る、無岐加須むぎかす〉は小麦の皮屑なりといふ。
䅌 野王案云、䅌、〈音涓、无歧加良、〉麥莖也、
䅌 野王案ずるに云はく、䅌〈音は涓、無岐加良むぎがら〉は麦の茎なりといふ。
萁 野王案云、𧯯、〈音其、字亦作萁、末女加良、〉豆莖也、
萁 野王案ずるに云はく、𧯯〈音は其、字は亦、萁に作る、末女加良まめがら〉は豆の茎なりといふ。
腐婢 蘇敬本草注󠄁云、腐婢、〈阿豆歧乃波奈、〉小豆花名也、
腐婢 蘇敬本草注に云はく、腐婢〈阿豆岐乃波奈あづきのはな〉は小豆の花の名なりといふ。

菜󠄁蔬部第廿二
菜蔬部第二十二  
 蒜類百十六 藻類百十七 菜󠄁類百十八
 蒜類百十六 藻類百十七 菜類百十八

蒜類百十六
蒜類百十六
蒜〈蒜顆附〉 唐韵云、蒜、〈音算、比流、〉葷菜󠄁也、葷、〈音軍、今案大小蒜惣名也、〉臭菜󠄁也、楊氏漢語抄云、蒜顆、〈比流佐歧、今案顆小頭也、音果、見玉篇、〉
蒜〈蒜顆付〉 唐韻に云はく、蒜〈音は算、比流ひる〉は葷菜なり、葷〈音は軍、今案ふるに大小蒜の惣名なり〉は臭菜なりといふ。楊氏漢語抄に云はく、蒜顆〈比流佐岐ひるさき、今案ふるに顆は小頭なり、音は果、玉篇に見ゆ〉といふ。
大蒜 本草云、葫、〈音胡、於保比流、〉味辛温、除風者也、兼名苑云、葫、一名𩐏、〈大蒜也、下音煩、〉
大蒜 本草に云はく、葫〈音は胡、於保比流おほびる〉は味辛し、温にして風を除く者なりといふ。兼名苑に云はく、葫、一名は𩐏といふ〈大蒜なり、下の音は煩〉。
小蒜 陶隱居曰、小蒜、〈古比流、一名米比流、〉生葉時可煑和食__之、至五月葉枯、取根噉之、甚薰臭、性辛𤍠、
小蒜 陶隠居曰はく、小蒜〈古比流こびる、一名は米比流めびる〉は葉を生ずる時、煮へて之れを食ふべし、五月に至りて葉枯る、根を取りて之れを噉ふ、甚だ薫り臭し、性は辛し、熱なりといふ。
獨子蒜 崔禹食經云、獨子蒜、〈比度豆比流、〉一云獨子葫、孟詵食經云、獨頭蒜、
独子蒜 崔禹食経に云ふ独子蒜〈比度豆比流ひとつびる〉、一に云ふ独子葫、孟詵食経に云ふ独頭蒜。
澤蒜 兼名苑云、澤蒜、一名〓〔䕾の攵が殳〕、〈音嚴、禰比流、〉水蒜也、生水中葉形氣味、不家蒜
沢蒜 兼名苑に云はく、沢蒜、一名は〓〔䕾の攵が殳〕〈音は厳、禰比流ねびる〉、水蒜なり、水中に生じ、葉の形、気味は家蒜と異ならずといふ。
島蒜 楊氏漢語抄云、島蒜、〈阿佐豆歧、式文用之、〉
島蒜 楊氏漢語抄に云はく、島蒜〈阿佐豆岐あさつき、式の文に之れを用ゐる〉といふ。
䓗 [唐韻云、䓗、葷菜󠄁也、]本草云、䓗、〈音聰、歧、〉莖冷葉𤍠者也、蘇敬曰、䓗有數種、山䓗曰茖、〈古百反、〉[要抄云、生䓗不食鯉魚、成病、]
葱 [唐韻に云はく、葱は葷菜なりといふ。]本草に云はく、葱〈音は聡、〉、茎は冷にして葉は熱なる者なりといふ。蘇敬曰はく、葱に数種有り、山葱を茖〈古百反〉と曰ふといふ。[要抄に云はく、生葱、鯉魚と合せ食ふべからず、病に成るといふ。]
冬䓗 廣志云、䓗有冬春二種、蘇敬曰、䓗又有凍䓗、凌冬不死、充食、〈今案、凍䓗即冬䓗也、訓不由歧、〉
冬葱 広志に云はく、葱に冬春の二種有りといふ。蘇敬曰はく、葱は又、凍葱有り、冬を凌ぎてれず、食に充つといふ。〈今案ふるに凍葱は即ち冬葱なり、訓は不由岐ふゆき
薤 [唐韻云、薤、葷菜󠄁也、]本草云、薤、〈胡介反、與械同、於保美良、〉味辛苦無毒者也、蘇敬曰、是韮類也、
薤 [唐韻に云はく、薤は葷菜なりといふ。]本草に云はく、薤〈胡介反、械と同じ、於保美良おほみら〉は味辛く苦くして毒無き者なりといふ。蘇敬曰はく、是れ韮の類なりといふ。
韮 本草云、韮、〈音玖、古美良、〉味辛酸温無毒者也、[崔禹錫食經云、韮食之除病、]
韮 本草に云はく、韮〈音は玖、古美良こみら〉は味辛く酸し、温にして毒無き者なりといふ。[崔禹錫食経に云はく、韮は之れを食へば病を除くといふ。]

藻類百十七
藻類百十七
藻 毛詩注󠄁云、藻、〈音早、毛、一云毛波、〉水中菜󠄁也、文選󠄁云、海苔之屬、〈海苔即海藻也、〉崔禹食經云、沈者曰藻、浮󠄁者曰蘋、〈音頻、今案蘋又大萍名也、〉
藻 毛詩注に云はく、藻〈音は早、、一に云ふ毛波もは〉は水中の菜なりといふ。文選に云はく、海苔の属〈海苔は即ち海藻なり〉といふ。崔禹食経に云はく、沈む者を藻と曰ひ、浮く者を蘋〈音は頻、今案ふるに蘋は又、大萍の名なり〉と曰ふといふ。
昆布 本草云、昆布、〈比呂米、一云衣比須女、〉味鹹寒無毒、生東海、陶隱居曰、黃黑色柔細、可之、
昆布 本草に云はく、昆布〈比呂米ひろめ、一に云ふ衣比須女えびすめ〉は味鹹く寒にして毒無し、東海に生ずといふ。陶隠居曰はく、黄黒き色の柔細なるは之れを食すべしといふ。
海藻 本草云、海藻、〈邇歧米、俗用和布字、〉味苦鹹寒無毒者也、本朝令云、滑海藻、〈阿良米、俗用荒布、〉末滑海藻、〈加知女、俗用搗布、搗者搗末之義也、〉
海藻 本草に云はく、海藻〈邇岐米にきめ、俗に和布の字を用ゐる〉は味苦く鹹く寒にして毒無き者なりといふ。本朝令に云はく、滑海藻〈阿良米あらめ、俗に荒布を用ゐる〉は末滑海藻〈加知女かぢめ、俗に搗布を用ゐる、搗は搗末の義なり〉といふ。
海松 崔禹食經云、水松、〈美流、楊氏漢語抄云、海松、式文用之、〉狀如松、而無葉者也、
海松 崔禹食経に云はく、水松〈美流みる、楊氏漢語抄に云ふ海松、式の文に之れを用ゐる〉、状は松のごとくして葉無き者なりといふ。
陟厘 本草云、陟厘、〈音緾、一本作〓〔来+刀+厘〕、阿乎乃利、俗用靑苔、〉
陟厘 本草に云はく、陟厘〈音は緾、一本に〓〔来+刀+厘〕に作る、阿乎乃利あをのり、俗に青苔を用ゐる〉といふ。
神仙菜󠄁 崔禹食經云、紫菜󠄁、〈楊氏漢語抄云、阿末乃利、俗用甘苔、〉狀如紫帛、凝生石上、是物有三四種、以紫色勝󠄁、俗呼曰神仙菜󠄁
神仙菜 崔禹食経に云はく、紫菜〈楊氏漢語抄に云ふ阿末乃利あまのり、俗に甘苔を用ゐる〉、状、紫帛のごとくして石の上に凝り生ず、是の物に三四種有り、紫色を以てすぐれりと為し、俗に呼びて神仙菜と曰ふ。
紫菜󠄁 兼名苑云、紫菜󠄁、一名石薺、〈牟良佐歧乃利、俗用紫苔、〉
紫菜 兼名苑に云はく、紫菜、一名は石薺といふ〈牟良佐岐乃利むらさきのり、俗に紫苔を用ゐる〉。
海蘿 崔禹食經云、海蘿、〈不能利、俗用布苔、〉味澁鹹大冷無毒、其性滑々然、主󠄁九竅
海蘿 崔禹食経に云はく、海蘿〈不能利ふのり、俗に布苔を用ゐる〉は味渋く鹹く大冷にして毒無し、其の性は滑々然として九竅をつかさどるといふ。
雞冠菜󠄁 楊氏漢語抄云、雞冠菜󠄁、〈度理佐加乃利、式文用鳥坂苔、〉
鶏冠菜 楊氏漢語抄に云ふ鶏冠菜〈度理佐加乃利とりさかのり、式の文に鳥坂苔を用ゐる〉。
於期菜󠄁 本朝式云、於期菜󠄁、
於期菜 本朝式に云ふ於期菜。
海髮 崔禹食經云、海髮、〈伊歧須、楊氏抄云、小凝菜󠄁、〉味鹹小冷、其色黑、狀如亂髮者也、
海髪 崔禹食経に云はく、海髪〈伊岐須いぎす、楊氏抄に云ふ小凝菜〉は味鹹く小冷にして其の色は黒く、状は乱れ髪のごとき者なりといふ。
大凝菜󠄁 楊氏漢語抄云、大凝菜󠄁、〈古々呂布度、〉本朝式云、凝海藻、〈古流毛波、俗用心太、讀與大凝菜󠄁同、〉
大凝菜 楊氏漢語抄に云はく、大凝菜〈古々呂布度こころぶと〉といふ。本朝式に云はく、凝海藻〈古流毛波こるもは、俗に心太を用ゐる、読みは大凝菜と同じ〉といふ。
莫鳴菜󠄁 本朝式云、莫鳴菜󠄁、〈奈々利曾、〉楊氏漢語抄云、神馬藻、〈奈能利曾、今案本文未詳、但神馬莫騎之義也、〉
莫鳴菜 本朝式に云ふ莫鳴菜〈奈々利曽ななりそ〉、楊氏漢語抄に云ふ神馬藻〈奈能利曽なのりそ、今案ふるに本文は未だ詳かならず、但し神馬はりその義なり〉。
鹿角菜󠄁 崔禹食經云、鹿茸、〈都乃万太、〉狀似水松者也、文選󠄁江賦注󠄁云、鹿角菜󠄁、〈楊氏抄云和名同上、〉
鹿角菜 崔禹食経に云はく、鹿茸〈都乃万太つのまた〉、状、水松に似る者なりといふ。文選江賦注に云ふ鹿角菜〈楊氏抄に云ふ和名は上に同じ〉。
鹿尾菜󠄁 楊氏漢語抄云、鹿尾菜󠄁、〈比須歧毛、辨色立成云、六味菜󠄁、〉
鹿尾菜 楊氏漢語抄云ふ鹿尾菜〈比須岐毛ひずきも、弁色立成に云ふ六味菜〉。
石蒓 唐韵云、蒓、〈常倫反、楊氏漢語抄云、石蒓、古毛、一云水葵菜、󠄁辨色立成云、海蓴〉水葵也、
石蒓 唐韻に云はく、蒓〈常倫反、楊氏漢語抄に云ふ石蒓、古毛こも、一に云ふ水葵菜、弁色立成に云ふ海蓴〉は水葵なりといふ。
水雲 楊氏漢語抄云、水雲、〈毛都久、今案本文未詳、〉
水雲 楊氏漢語抄に云ふ水雲〈毛都久もづく、今案ふるに本文は未だ詳かならず〉。
紫苔 養生秘要云、補益食胡䕑紫苔、〈須无能利、胡䕑見飮食部鹽梅類、〉
紫苔 養生秘要に云はく、補益に胡䕑、紫苔を食すといふ。〈須無能利すむのり、胡䕑は飲食部の塩梅類に見ゆ〉
水苔 弁色立成云、水苔、〈加波奈、一名河苔、〉
水苔 弁色立成に云ふ水苔〈加波奈かはな、一名は河苔〉。
芹 [陸詞切韻云、芹菜、生水中也、]本草云、水芹、〈音勤、勢利、〉味甘平󠄁無毒、一名水英、
芹 [陸詞切韻に云はく、芹菜は水中に生ずるなりといふ。]本草に云はく、水芹〈音は勤、勢利せり〉は味甘し、平にして毒無し、一名は水英といふ。
水䓗 唐韵云、𧂔、〈胡谷反、楊氏抄云、水䓗、奈歧、一云𧂔菜󠄁、〉水菜󠄁可食、
水葱 唐韻に云はく、𧂔〈胡谷反、楊氏抄に云ふ水葱、奈岐なぎ、一に云ふ𧂔菜〉は水菜、食すべしといふ。
荇 爾雅注󠄁云、荇菜󠄁、〈上音杏、字亦作莕、阿佐々、〉叢生水中、葉圓在端、長短隨水深淺者也、
荇 爾雅注に云はく、荇菜〈上の音は杏、字は亦、莕に作る、阿佐々あざさ〉は水中に叢生し、葉は円く端在り、長短は水の深浅に随ふ者なりといふ。
芡 爾雅注󠄁云、芡、〈音儉、美豆布々歧、〉一名雞頭、其實似鳥頭、故以名之、
芡 爾雅注に云はく、芡〈音は倹、美豆布々岐みづふふき〉、一名は鶏頭、其の実は鳥頭に似る、故に以て之れを名くといふ。
蓴 [野王案云、蓴、水菜󠄁也、]蘇敬曰、蓴、〈視倫反、奴奈波、別有根、々不食、〉自三四月七八月、通󠄁名絲蓴、味甜躰軟、霜降以後至二月、名環蓴、味苦躰澁者也、
蓴 [野王案に云はく、蓴は水菜なりといふ。]蘇敬曰はく、蓴〈視倫反、奴奈波ぬなは、別に根有り、根は食に充てず〉は、三四月より七八月に至るまでを通して糸蓴と名け、味甜く体軟か、霜降りて以後のち二月に至るまでを環蓴と名け、味苦く体渋き者なりといふ。
骨蓬 崔禹食經云、骨蓬、〈加波保禰、〉味鹹大冷無毒、根如腐骨、花黃色、莖頭着葉者也、
骨蓬 崔禹食経に云はく、骨蓬〈加波保禰かはほね〉は味鹹く大冷にして毒無し、根は腐骨のごとく、花は黄色く、茎の頭に葉を着くる者なりといふ。
江浦草 辨色立成云、江浦草、〈都久毛、一云多久万毛、〉
江浦草 弁色立成に云ふ江浦草〈都久毛つくも、一に云ふ多久万毛たくまも〉。
蕺 唐韵云、蕺、〈阻立反、養生秘要云、之不歧、〉菜󠄁名也、
蕺 唐韻に云はく、蕺〈阻立反、養生秘要に云ふ之不岐しふき〉は菜の名なりといふ。

菜󠄁類百十八
菜類百十八
菜󠄁蔬 兼名苑注󠄁云、草可食曰菜󠄁蔬、〈在疏二音、和名上奈、下久佐比良、〉說文云、韭、〈𦦙有反、字亦作韮、〉菜󠄁也、
菜蔬 兼名苑注に云はく、草の食すべきを菜蔬〈在疏の二音、和名は上は、下は久佐比良くさびら〉と曰ふといふ。説文に云はく、韭〈挙有反、字は亦、韮に作る〉は菜なりといふ。
菌 尒雅注󠄁云、菌、〈音窘、太介、今案有數種、木菌土菌石菌、並見兼󠄁名苑、〉形似蓋者也、
菌 爾雅注に云はく、菌〈音は窘、太介たけ、今案ふるに数種有り、木菌、土菌、石菌、並びに兼名苑に見ゆ〉は形、きぬがさに似る者なりといふ。
䓴 四聲字苑云、䓴、〈音軟、歧乃美々、〉木耳、即木菌也、狀似人耳、而黑也、
䓴 四声字苑に云はく、䓴〈音は軟、岐乃美々きのみみ〉は木耳、即ち木菌なり、状、人の耳に似て黒きなりといふ。
蔓菁〈下體附〉 蘇敬本草注󠄁云、蕪菁、〈無靑二音、〉北人名之蔓菁、〈上音蠻、阿乎奈、〉楊雄方言云、陳宋之間蔓菁曰葑、〈音封、〉毛詩云、采󠄁葑采菲、〈音斐、〉無下體、〈加布良、〉下體、根莖也、此二菜󠄁者、蔓菁與葍之類也、
蔓菁〈下体付〉 蘇敬本草注に云はく、蕪菁〈無青の二音〉、北人は之れを蔓菁〈上の音は蛮、阿乎奈あをな〉と名くといふ。楊雄方言に云はく、陳宋の間に蔓菁を葑〈音は封〉と曰ふといふ。毛詩に云はく、葑を采り菲〈音は斐〉を采る、下体〈加布良かぶら〉を以てすること無かれ、下体は根茎なり、此の二つの菜は蔓菁と葍との類なりといふ。
辛芥 方言云、趙魏之間謂蕪菁大芥、小者謂之辛芥、〈音介、太加奈、〉
辛芥 方言に、趙魏の間に蕪菁を謂ひて大芥と為し、小さき者は之れを辛芥〈音は介、太加奈たかな〉と謂ふといふ。
温菘 崔禹食經云、温菘、〈音終、古保禰、〉味辛大温無毒者也、
温菘 崔禹食経に云はく、温菘〈音は終、古保禰こほね〉は味辛く大温にして毒無き者なりといふ。
辛菜󠄁 崔禹食經云、又有辛菜󠄁、〈加良之、俗用芥子、〉根細而甚辛薰、好通󠄁口鼻之氣
辛菜 崔禹食経に云はく、又、辛菜〈加良之からし、俗に芥子を用ゐる〉有り、根は細くして甚だ辛く薫り、好く口鼻の気を通すといふ。
葍 爾雅注󠄁云、葍、〈音福、於保禰、俗用大根二字、〉根正白而可之、兼名苑云、萊菔、〈上音來、〉本草云、蘆菔、〈音服、〉孟詵食經云、蘿菔、〈上音羅、今案萊菔、蘆菔、蘿菔、皆並葍之通󠄁稱也、〉
葍 爾雅注に云はく、葍〈音は福、於保禰おほね、俗に大根の二字を用ゐる〉は根、正に白くして之れを食すべしといふ。兼名苑に云ふ萊菔〈上の音は来〉、本草に云ふ蘆菔〈音は服〉、孟詵食経に云ふ蘿菔〈上の音は羅、今案ふるに萊菔、蘆菔、蘿菔は皆、並びに葍の通称なり〉。
蘘荷 馬琬食經云、蘘荷、〈孃何二音、米加、〉赤色者爲佳矣、兼名苑云、一名蕧苴、〈伏且二音、〉唐韻云、蒪苴、〈上音粕、〉大蘘荷名也、
蘘荷 馬琬食経に云はく、蘘荷〈嬢何の二音、米加めが〉は赤色の者を佳しと為せりといふ。兼名苑に云はく、一名は蕧苴〈伏且の二音〉といふ。唐韻に云はく、蒪苴〈上の音は粕〉は大蘘荷の名なりといふ。
薑 兼名苑云、薑、〈居良反、〉一名𧄕、〈音織、久禮乃波之加美、〉
薑 兼名苑に云はく、薑〈居良反、〉、一名は𧄕〈音は織、久礼乃波之加美くれのはじかみ〉といふ。
蒟蒻 文選󠄁蜀都賦注󠄁云、蒟蒻、〈栩弱󠄁二音、古邇夜久、〉其根肥白、以灰汁煑則凝成、以苦酒淹食之、蜀人珍焉、
蒟蒻 文選蜀都賦注に云はく、蒟蒻〈栩弱の二音、古邇夜久こにやく〉、其の根は肥え白し、灰汁を以て煮れば則ち凝り成る、苦酒を以てひたして之れを食ふ、蜀人、れを珍とすといふ。
苣 孟詵食經曰、白苣、〈其呂反、上聲之重、知作、楊氏抄用萵苣二字、上烏和反、今案本文未詳、〉寒、補筋力者也、
苣 孟詵食経に曰はく、白苣〈其呂反、上声の重、知作ちさ、楊氏抄に萵苣の二字を用ゐる、上は烏和反、今案ふるに本文は未だ詳かならず〉は寒にして、筋力を補ふ者なりといふ。
葪 本草云、葪、〈音計、阿佐美、〉味甘温、令人肥健、陶隱居曰、大小葪、葉並多刺、
葪 本草に云はく、葪〈音は計、阿佐美あざみ〉は味甘く温にして、人をして肥健ならしむといふ。陶隠居曰はく、大小の葪、葉は並びにとげ多しといふ。
大葪 蘇敬曰、大葪、〈夜万阿佐美、〉生山谷者也、
大葪 蘇敬曰はく、大葪〈夜万阿佐美やまあざみ〉は山谷に生ずる者なりといふ。
蕗 崔禹食經云、蕗、〈音路、訓布々歧、〉葉似葵而圓廣、其莖煑可之、
蕗 崔禹食経に云はく、蕗〈音は路、訓は布々岐ふふき〉は葉、葵に似て円く広く、其の茎は煮て之れを噉ふべしといふ。
葵 本草云、葵、〈音逵、阿布比、〉味甘寒無毒者也、
葵 本草に云はく、葵〈音は逵、阿布比あふひ〉は味甘く寒にして毒無き者なりといふ。
龍葵 本草云、龍葵、〈古奈須比、〉味苦寒無毒者也、
龍葵 本草に云はく、龍葵〈古奈須比こなすび〉は味苦く寒にして毒無き者なりといふ。
兔葵 本草云、兔葵、〈以倍邇禮、〉味甘寒無毒者也、
兎葵 本草に云はく、兎葵〈以倍邇礼いへにれ〉は味甘く寒にして毒無き者なりといふ。
莧 本草云、莧、〈音寛、去聲、比由、〉味甘寒無毒者也、
莧 本草に云はく、莧〈音は寛、去声、比由ひゆ〉は味甘く寒にして毒無き者なりといふ。
馬莧 陶隱居曰、今馬莧、別有一種布地而生、葉至細微、俗呼爲馬齒莧、〈漢語抄云、馬齒草、无万比由、〉
馬莧 陶隠居曰はく、今に馬莧は別に一種、地にきて生ずる有り、葉は至りて細微、俗に呼びて馬歯莧と為すといふ〈漢語抄に云ふ馬歯草、無波比由むばひゆ〉。
堇菜󠄁 本草云、堇菜󠄁俗謂之堇葵、〈上音謹、湏美禮、〉
菫菜 本草に云はく、菫菜、俗に之れを菫葵〈上の音は謹、須美礼すみれ〉と謂ふといふ。
芸䑓 本草云、芸薹、〈雲臺二音、乎知、〉味辛温無毒、蘇敬曰、此人間所󠄁󠄁噉菜󠄁也、[七卷食經云、芸薹宜煑噉__之、]
蕓薹 本草に云はく、蕓薹〈雲台の二音、乎知をち〉は味辛く温にして毒無しといふ。蘇敬曰はく、此れ人間の噉ふ所の菜なりといふ。[七巻食経に云はく、芸薹は宜しく煑て之れを噉ふべしといふ。]
薇蕨 尒雅注󠄁云、薇蕨、〈微厥二音、和良比、〉初生無葉、而可之、崔禹食經云、白者名曰𧆊、〈音鱉、〉黑者名曰蕨、紫者名曰藄、〈音期、〉置𤍠湯中熟、然後可之、
薇蕨 爾雅注に云はく、薇蕨〈微厥の二音、和良比わらび〉は初め生ずるに葉無し、之れを食すべしといふ。崔禹食経に云はく、白き者を名けて𧆊〈音は鱉〉と曰ひ、黒き者を名けて蕨と曰ひ、紫の者を名けて藄〈音は期〉と曰ふ、熱湯の中に置きて熟せしめ、然る後に之れを噉ふべしといふ。
荼 爾雅注󠄁云、荼、〈音途、於保都知、〉苦菜󠄁之可食也、
荼 爾雅注に云はく、荼〈音は途、於保都知おほつち〉、苦菜の食すべきなりといふ。
苜蓿 蘇敬曰、苜蓿、〈目宿二音、於保比、〉莖葉根並寒者也、
苜蓿 蘇敬曰はく、苜蓿〈目宿の二音、於保比おほひ〉、茎、葉、根、並びに寒なる者なりといふ。
苻蔰 釋藥性云、苻蔰、〈音戶、乎加度々歧、〉
苻蔰 釈薬性に云はく、苻蔰〈音は戸、乎加度々岐をかととき〉といふ。
牛蒡 本草云、惡實、一名牛蒡、〈博󠄁郎反、歧太歧須、一云宇末不々歧、今案俗作房者、非也、〉
牛蒡 本草に云はく、悪実、一名は牛蒡〈博郎反、岐太岐須きたきす、一に云ふ宇末不々岐うまふふき、今案ふるに俗に房に作るは非なり〉といふ。
鬼皂莢 楊氏漢語抄云、鬼皂莢、〈造󠄁恊二音、久々佐、〉一云欝茂草、〈弁色立成云、欝萌草、今案本文未詳、〉
鬼皂莢 楊氏漢語抄に云はく、鬼皂莢〈造協の二音、久々佐くくさ〉、一に云ふ鬱茂草〈弁色立成に云ふ鬱萌草、今案ふるに本文は未だ詳かならず〉といふ。
薺 崔禹食經云、薺、〈辭啓反、上聲之重、奈豆奈、〉烝煑噉之、
薺 崔禹食経に云はく、薺〈辞啓反、上声の重、奈豆奈なづな〉、し煮て之れを噉ふといふ。
薺蒿 七卷食經云、薺蒿菜󠄁、一名莪蒿、〈上音鵝、於波歧、〉崔禹曰、狀似艾草而香、作羹食之、
薺蒿 七巻食経に云はく、薺蒿菜、一名は莪蒿〈上の音は鵝、於波岐おはぎ〉といふ。崔禹曰はく、状、艾草に似て香り、羹に作り之れを食すといふ。
〓〔草冠に繁の攵が殳〕蔞 本草云、〓〔草冠に繁の攵が殳〕蔞、〈繁婁二音、波久倍良、〉味酸平󠄁無毒、陶隱居曰、即鷄腸草也、
蘩蔞 本草に云はく、蘩蔞〈繁婁の二音、波久倍良はくべら〉は味酸く平にして毒無しといふ。陶隠居曰はく、即ち鶏腸草なりといふ。
羊蹄菜󠄁 唐韻云、荲、〈丑六反、字亦作蓫、之不久佐、一云之、〉羊蹄菜󠄁也、
羊蹄菜 唐韻に云はく、荲〈丑六反、字は亦、蓫に作る、之布久佐しぶくさ、一に云ふ〉は羊蹄菜なりといふ。
藜 野王案云、藜、〈音黎、阿加佐、〉蓬蒿之類也、
藜 野王案ずるに云はく、藜〈音は黎、阿加佐あかざ〉は蓬蒿の類なりといふ。

果蓏部第廿三
果蓏部第二十三  
 果蓏類百十九 果蓏具百二十
 果蓏類百十九 果蓏具百二十

果蓏類百十九
果蓏類百十九
果蓏 唐韵云、說文、木上曰果、〈古火反、字亦作菓、日本紀私記云、古能美、俗云久多毛乃、〉地上曰蓏、〈力果反、久佐久太毛能、〉張晏曰、有核曰菓、無核曰蓏、〈核見果蓏具󠄁、〉應劭曰、木實曰菓、草實曰蓏、
果蓏 唐韻に云はく、説文に木の上を果〈古火反、字は亦、菓に作る、日本紀私記に云ふ古能美このみ、俗に云ふ久多毛乃くだもの〉と曰ひ、地の上を蓏〈力果反、久佐久太毛能くさくだもの〉と曰ふといふ。張晏曰はく、核有るを菓と曰ひ、核無きを蓏と曰ふといふ〈核は果蓏具に見ゆ〉。応劭曰はく、木の実を菓と曰ひ、草の実を蓏と曰ふといふ。
石榴 兼名苑云、若榴、〈音留、佐久路、今案若正作楉、見四聲字苑、〉石榴也、
石榴 兼名苑に云はく、若榴〈音は留、佐久路ざくろ、今案ふるに若は正しくは楉に作る、四声字苑に見ゆ〉は石榴なりといふ。
棃子 唐韵曰、棃、〈力脂反、奈之、〉果名也、兼名苑云、一名含消󠄁、
梨子 唐韻に曰はく、梨〈力脂反、奈之なし〉は果の名なりといふ。兼名苑に云はく、一名は含消といふ。
樆子 陸詞切韵云、樆、〈音離、夜末奈之、〉山梨也、
樆子 陸詞切韻に云はく、樆〈音は離、夜末奈之やまなし〉は山梨なりといふ。
柑子 馬琬食經云、柑子、〈上音甘、加无之、〉
柑子 馬琬食経に云はく、柑子〈上の音は甘、加無之かむじ〉といふ。
木蓮子 崔禹食經云、木蓮子、〈以太比、〉本草云、折傷木、
木蓮子 崔禹食経に云はく、木蓮子〈以太比いたび〉といふ。本草に云ふ折傷木。
獼猴桃 七卷食經云、獼猴桃、〈之良久知、一云古久波、〉
獼猴桃 七巻食経に云はく、獼猴桃〈之良久知しらくち、一に云ふ古久波こくは〉といふ。
榛 唐韵云、榛、〈秦之輕、字亦作樼、波之波美、〉榛栗也、
榛 唐韻に云はく、榛〈秦の軽、字は亦、樼に作る、波之波美はしばみ〉は榛栗なりといふ。
栗 兼名苑云、栗、〈力質反、久利、〉一名撰子、
栗 兼名苑に云はく、栗〈力質反、久利くり〉、一名は撰子といふ。
杬子 崔禹食經云、杬子、〈上音元、〉一名䴏栗、〈佐々久利、〉栗相似而細小者也、
杬子 崔禹食経に云はく、杬子〈上の音は元〉、一名は䴏栗〈佐々久利ささぐり〉、栗と相似て細く小さき者なりといふ。
椎子 本草云、椎子、〈上直追󠄁反、之比、〉
椎子 本草に云はく、椎子〈上は直追反、之比しひ〉といふ。
櫟子 崔禹食經云、櫟子、〈上音歷、伊知比、〉相似大於椎子者也、
櫟子 崔禹食経に云はく、櫟子〈上の音は歴、伊知比いちひ〉は相似て椎子より大なる者なりといふ。
榧子 本草云、栢實、〈上音百、〉一名榧子、〈上音匪、加閇、〉
榧子 本草に云はく、栢実〈上の音は百〉、一名は榧子〈上の音は匪、加閉かへ〉といふ。
五粒松子 [脚氣論獨活酒方云、獨活一斤、五葉松五兩、〈合藥七種之內也、餘不具󠄁載、〉]楊氏漢語抄云、五粒松子、〈五粒、五葉也、松子、末都乃美、〉
五粒松子 [脚氣論独活酒方に云はく、独活一斤、五葉松五両といふ〈合薬七種の内なり、余は具載せず〉。]楊氏漢語抄に云はく、五粒の松子といふ〈五粒は五葉なり、松子は末都乃美まつのみ〉。
胡頽子 馬琬食經云、胡頽子、〈毛侶奈利、養生秘要云、久美、〉本朝式云、諸生子、
胡頽子 馬琬食経に云はく、胡頽子〈毛侶奈利もろなり、養生秘要に云ふ久美ぐみ〉といふ。本朝式に云ふ諸生子。
鸎實 漢語抄云、鸎實、〈宇久比湏乃歧乃美、今案本文未詳、〉
鸎実 漢語抄に云ふ鸎実〈宇久比須乃岐乃美うぐいすのきのみ、今案ふるに本文は未だ詳かならず〉。
杏子 本草云、杏子、〈上音荇、加良毛々、〉
杏子 本草に云はく、杏子〈上の音は荇、加良毛々からもも〉といふ。
㮈子 本草云、㮈子、〈上音內、字亦作柰、奈以、一云加良奈之、〉兼名苑云、㯈、〈音速󠄁、〉一名㭺、〈音掩、〉柰也、
㮈子 本草に云はく、㮈子〈上の音は内、字は亦、柰に作る、奈以ない、一に云ふ加良奈之からなし〉といふ。兼名苑に云はく、㯈〈音は速〉、一名は㭺〈音は掩〉、柰なりといふ。
林檎子 本草云、林檎、〈音禽、利宇古宇、〉與柰相似而小者也、
林檎子 本草に云はく、林檎〈音は禽、利宇古宇りうこう〉は柰と相似て小さき者なりといふ。
楊梅 爾雅注󠄁云、楊梅、〈夜末毛々、〉狀如苺子赤色、味酸甜、可之、七卷食經云、山櫻桃有二種、黑櫻子、〈和名同上、〉味甜美、可食矣、
楊梅 爾雅注に云はく、楊梅〈夜末毛々やまもも〉は、状、苺子のごとくして赤色、味酸く甜し、之れを食すべしといふ。七巻食経に云はく、山桜桃に二種有り、黒桜子〈和名は上に同じ〉は味甜くうまし、食すべかりといふ。
桃子 漢武內傳云、西王毋桃、三千年一生實、〈西王毋者仙人名也、桃音陶、毛々、楊氏漢語抄云、錦桃、〉
桃子 漢武内伝に云はく、西王母の桃、三千年に一たび実を生ずといふ〈西王母は仙人の名なり。桃の音は陶、毛々もも。楊氏漢語抄に云ふ錦桃〉。
冬桃 傅玄桃賦云、亦有冬桃、〈今案俗云霜桃、是也、〉冷侔氷霜、和神適󠄁意、恣口所󠄁__嘗、
冬桃 傅玄桃賦に云はく、亦、冬桃〈今案ふるに俗に云ふ霜桃は是なり〉有り、冷して氷霜にひとし、神に和し意に適ひ、口の嘗むる所をほしいままにすといふ。
李子 兼名苑云、李子、〈音里、〉一名黃吉、〈須毛々、〉
李子 兼名苑に云はく、李子〈音は里〉、一名は黄吉といふ〈須毛々すもも〉。
麥李 陶隱居曰、麥李、〈漢語抄云、佐毛々、〉麥秀時熟、故以名之、兼名苑注󠄁云、靑房󠄁、〈今案是麥李也、〉五月熟李也、
麦李 陶隠居曰はく、麦李〈漢語抄に云ふ佐毛々さもも〉は麦の秀づる時に熟す、故に以て名くといふ。兼名苑注に云はく、青房〈今案ふるに是れ麦李なり〉は五月に熟する李なりといふ。
李桃 辨色立成云、李桃、〈豆波歧毛々、〉
李桃 弁色立成に云はく、李桃〈豆波岐毛々つばきもも〉といふ。
棗 本草云、大棗、一名美棗、〈音早、字亦作𠐇、奈都米、〉
棗 本草に云はく、大棗、一名は美棗といふ〈音は早、字は亦、𠐇に作る、奈都米なつめ〉。
酸棗 蘇敬曰、酸棗、一名樲棗、〈音貳、佐禰布度、〉大棗之中味酸者也、
酸棗 蘇敬曰はく、酸棗、一名は樲棗〈音は弐、佐禰布度さねぶと〉、大棗の中の味酸き者なりといふ。
橘 兼名苑云、橘、〈居蜜反、〉一名金衣、〈太知波奈、〉
橘 兼名苑に云はく、橘〈居蜜反〉、一名は金衣といふ〈太知波奈たちばな〉。
橙 七卷食經云、橙、〈宅耕󠄁反、安倍太知波奈、〉似柚而小者也、
橙 七巻食経に云はく、橙〈宅耕反、安倍太知波奈あへたちばな〉は柚に似て小さき者なりといふ。
柚 尒雅注󠄁云、柚、〈音由、又以臭反、〉一名樤、〈音條、訓由、〉似橙而酢、出江南矣、音義、柚或作櫾、山海經字相通󠄁、
柚 爾雅注に云はく、柚〈音は由、又、以臭反〉、一名は樤〈音は条、訓は〉、橙に似て酢し、江南より出づるといふ。音義に、柚は或に櫾に作る。山海経に字、相通ず。
櫠椵 尒雅注󠄁云、櫠椵、〈廢加二音、漢語抄云、柚柑、〉柚屬也、
櫠椵 爾雅注に云はく、櫠椵〈廃加の二音、漢語抄に云ふ柚柑〉は柚の属なりといふ。
梅 尒雅注󠄁云、梅、〈莫杯反、无女、〉似杏而酢者也、
梅 爾雅注に云はく、梅〈莫杯反、無女むめ〉は杏に似て酢き者なりといふ。
柹 說文云、柹、〈音市、加歧、〉赤實果也、
柿 説文に云はく、柿〈音は市、加岐かき〉は赤き実の果なりといふ。
鹿心柹 兼名苑注󠄁云、鹿心柹、〈夜末加歧、〉柹之小而長也、
鹿心柿 兼名苑注に云はく、鹿心柿〈夜末加岐やまがき〉は柿の小さくして長きなりといふ。
杼 尒雅集注󠄁云、栩、〈音羽、又香羽反、〉一名杼、〈音杵、又當旅反、與苧同、度知、莊子狙公、賦杼、是、〉
杼 爾雅集注に云はく、栩〈音は羽、又、香羽反、〉、一名は杼〈音は杵、又、当旅反、苧と同じ、度知とち、荘子に狙公の杼を賦するは是れ〉といふ。
枇杷 唐韵云、枇杷、〈琵琶二音、俗云味把、〉菓木、冬花而夏實也、
枇杷 唐韻に云はく、枇杷〈琵琶の二音、俗に云ふ味把〉は菓木、冬に花さきて夏に実るなりといふ。
椋子 尒雅注󠄁云、椋、〈音良、〉一名即棶、〈音來、无久、〉
椋子 爾雅注に云はく、椋〈音は良〉、一名は即棶〈音は来、無久むく〉といふ。
靑瓜 兼名苑云、龍蹄、一名靑登、〈阿乎宇利、〉靑㼉瓜也、唐韵云、㼉、〈直禁反、與鴆同、〉靑皮瓜名也、
青瓜 兼名苑に云はく、龍蹄、一名は青登〈阿乎宇利あをうり〉、青㼉瓜なりといふ。唐韻に云はく、㼉〈直禁反、鴆と同じ〉は青皮の瓜の名なりといふ。
斑瓜 兼名苑云、虎蹯、一名貍首、〈末太良宇利、〉黃斑文瓜也、
斑瓜 兼名苑に云はく、虎蹯、一名は狸首〈末太良宇利まだらうり〉、黄斑文の瓜なりといふ。
白瓜 兼名苑云、女臂、一名羊角、〈之呂宇利、〉白瓜名也、
白瓜 兼名苑に云はく、女臂、一名は羊角〈之呂宇利しろうり〉、白瓜の名なりといふ。
黃瓜 陸機瓜賦云、黃㼐白〓〔瓜偏に專〕、〈音摶、〉陸詞切韵云、㼐、〈蒲田反、歧宇利、〉黃瓜也、
黄㼐 陸機瓜賦に云はく、黄㼐、白〓〔瓜偏に專〕〈音は摶〉といふ。陸詞切韻に云はく、㼐〈蒲田反、岐宇利きうり〉は黄瓜なりといふ。
熟瓜 廣雅云、虎掌、羊骹、小靑、大斑、〈保曾知、俗用熟瓜二字、或說、極熟蔕落之義也、〉皆熟瓜名也、
熟瓜 広雅に云はく、虎掌、羊骹、小青、大斑〈保曽知ほぞち、俗に熟瓜の二字を用ゐる。或説に極く熟せる蔕落つるの義なりとす〉は皆、熟瓜の名なりといふ。
寒瓜 兼名苑注󠄁云、寒瓜、〈加豆宇利、〉至冬方熟者也、
寒瓜 兼名苑注に云はく、寒瓜〈加豆宇利かつうり〉は冬に至りて方に熟する者なりといふ。
冬瓜 神農食經云、冬瓜、〈加毛宇利、〉味甘寒無毒、止渇除𤍠者也、
冬瓜 神農食経に云はく、冬瓜〈加毛宇利かもうり〉は味甘く寒にして毒無く、渇きを止め熱を除く者なりといふ。
胡瓜 孟詵食經云、胡瓜、〈曾波宇利、俗用歧宇利、〉寒、不多食、動寒𤍠瘧病
胡瓜 孟詵食経に云はく、胡瓜〈曽波宇利そばうり、俗に岐宇利きうりを用ゐる〉は寒にして多く食すべからず、寒熱を動し瘧病を発すといふ。
瓞瓝 爾雅注󠄁云、瓞瓝、〈姪雹二音、太知布宇利、〉小瓜名也、
瓞瓝 爾雅注に云はく、瓞瓝〈姪雹の二音、太知布宇利たちぶうり〉は小瓜の名なりといふ。
茄子 釋氏切韵云、茄子、〈上音荷、〉一名紫瓜子、崔禹食經云、茄、〈奈須比、〉味甘醶、〈唐韵、力减反、醶䤘醋味也、䤘音初减反、酢味也、俗云鹼惠久之、〉温小毒、烝煑、及以水釀之、食爲快菜󠄁
茄子 釈氏切韻に云はく、茄子〈上の音は荷〉、一名は紫瓜子といふ。崔禹食経に云はく、茄〈奈須比なすび〉は味甘くゑぐし〈唐韻に力減反、醶は䤘醋味なり、䤘の音は初感反、酢味なり。俗に醶を恵久之ゑぐしと云ふ〉、温にして小毒、烝し煮、また、水を以て之れをかもし食ふに快き菜と為すといふ。
郁子 本草云、郁子、〈今案郁宜㮋、於六反、見唐韵、〉一名棣、〈都計反、无倍、〉
郁子 本草に云はく、郁子〈今案ふるに、郁は宜しく㮋に作るべし、於六反、唐韻に見ゆ〉、一名は棣〈都計反、無倍むべ〉といふ。
蔔子 本草云、蔔藤、〈上音福、〉一名烏𧄏、〈音伏、阿介比、〉崔禹食經云、附通󠄁子、
蔔子 本草に云はく、蔔藤〈上の音は福〉、一名は烏𧄏〈音は伏、阿介比あけび〉といふ。崔禹食経に云はく、付通子といふ。
菱子 說文云、菱、〈音陵、比之、〉秦謂之薢茩、〈皆后二音、〉楚謂之茤、〈音歧、字亦作芰、〉
菱子 説文に云はく、菱〈音は陵、比之ひし〉は秦に之れを薢茩〈皆后の二音〉と謂ひ、楚に之れを茤〈音は岐、字は亦、芰に作る〉と謂ふといふ。
蓮子 爾雅云、荷、芙蕖、其子蓮、〈波知須乃美、〉
蓮子 爾雅に云はく、荷は芙蕖、其の子は蓮〈波知須乃美はちすのみ〉といふ。
覆盆子 爾雅注󠄁云、〓〔草冠に𦈢+夬〕葐、〈缺盆二音、〉覆盆也、本草云、覆盆子、〈伊知古、今案覆宜作蕧、芳福反、見唐韵、〉
覆盆子 爾雅注に云はく、蒛葐〈欠盆の二音〉は覆盆なりといふ。本草に云ふ覆盆子〈伊知古いちご、今案ふるに、覆は宜しく蕧に作るべし、芳福反、唐韻に見ゆ〉。
薯蕷 本草云、薯蕷、一名山芋、〈夜万乃伊毛、〉兼名苑云、藷藇、〈音與署預同、〉
薯蕷 本草に云はく、薯蕷、一名は山芋といふ〈夜万乃伊毛やまのいも〉。兼名苑に云ふ藷藇〈音は署預と同じ〉。
[零餘子 拾遺󠄁本草云、零餘子、〈和名沼加子、〉署預子也、]
[零余子 拾遺本草に云はく、零余子〈和名は沼加子ぬかご〉は署預の子なりといふ。]
芋 四聲字苑云、芋、〈于遇󠄁反、以倍乃伊毛、〉葉似荷、其根可之、唐韵云、𦵸、〈音耿、以毛之、俗用芋柄二字、〉芋莖也、
芋 四声字苑に云はく、芋〈于遇反、以倍乃伊毛いへのいも〉は葉、荷に似て其の根は之れを食すべしといふ。唐韻に云はく、𦵸〈音は耿、以毛之いもじ、俗に芋柄の二字を用ゐる〉は芋の茎なりといふ。
澤舄 本草云、澤舄、一名芒芋、〈奈末爲、〉
沢舄 本草に云はく、沢舄、一名は芒芋といふ〈奈末為なまゐ〉。
烏芋 蘇敬本草注󠄁云、烏芋、〈久和爲、〉生水中、澤舄之類也、
烏芋 蘇敬本草注に云はく、烏芋〈久和為くわゐ〉は水中に生ず、沢舄の類なりといふ。
薢 崔禹食經云、薢、〈音解、度古侶、俗用〓〔艹冠に宅〕字、漢語抄用野老二字、今案並未詳、〉味苦少甘無毒、燒烝充粮、兼名苑注󠄁云、黃薢、其根黃白而味苦者也、
薢 崔禹食経に云はく、薢〈音は解、度古侶ところ、俗に〓〔艹冠に宅〕の字を用ゐ、漢語抄に野老の二字を用ゐる、今案ふるに並びに未だ詳かならず〉は味苦く少し甘く毒無し、焼き烝し粮に充つといふ。兼名苑注に云はく、黄薢、其の根、黄白くして味苦き者なりといふ。

果蓏具󠄁百廿
果蓏具百二十

核 尒雅云、桃李之類、皆有核、〈僞革反、佐禰、今案一名人、醫家書云、桃人杏人等、是、〉蔣魴切韵云、核者子中之骨也、
核 爾雅に云はく、桃李の類は皆、核〈偽革反、佐禰さね、今案ふるに一名は人、医家書に云ふ桃人、杏人等は是れ〉有りといふ。蒋魴切韻に云はく、核は子の中の骨なりといふ。
李衡 馬琬食經云、李衡、〈加无之乃佐禰、〉柑子人名也、
李衡 馬琬食経に云はく、李衡〈加無之乃佐禰かむじのさね〉は柑子人の名なりといふ。
桃奴 本草云、桃人、一名桃奴、〈毛々乃佐禰、〉
桃奴 本草に云はく、桃人、一名は桃奴といふ〈毛々乃佐禰もものさね〉。
甘皮 本草云、橘皮、一名甘皮、〈歧加波、其色黃之義也、〉
甘皮 本草に云はく、橘皮、一名は甘皮といふ〈岐加波きかは、其の色の黄なるの義なり〉。
疐 尒雅云、棗李之類、皆有疐、〈都計反、保曾、今案與蔕字通󠄁、〉
疐 爾雅に云はく、棗李の類は皆、疐〈都計反、保曽ほぞ、今案ふるに蔕の字と通ず〉有りといふ。
櫟梂 尒雅云、櫟其實梂、〈音求、伊知比乃加佐、〉孫炎曰、菓之自裹者也、
櫟梂 爾雅に云はく、櫟、其の実は梂〈音は求、伊知比乃加佐いちひのかさ〉といふ。孫炎曰はく、菓の自ら裹む者なりといふ。
栗扶 本草云、栗扶、〈久利乃之布、其味澁之義也、〉
栗扶 本草に云はく、栗扶〈久利乃之布くりのしぶ、其の味渋しの義なり〉といふ。
栗刺〈罅發附〉 神異經云、北方有栗、徑三尺二寸、刺長一尺、〈刺、伊賀、〉文選󠄁蜀都賦云、榛栗罅發、〈上音呼亞反、師說惠米利、〉李善曰、栗皮坼罅而發也、
栗刺〈罅発付〉 神異経に云はく、北方に栗有り、わたり三尺二寸、とげの長さ一尺〈刺は伊賀いが〉といふ。文選蜀都賦に云はく、はしばみと栗、罅発〈上の音は呼亜反、師説に恵米利ゑめり〉すといふ。李善曰はく、栗皮、坼罅して発つなりといふ。
桃脂 神仙服餌方云、桃脂、一名桃膠、〈毛々乃夜邇、〉
桃脂 神仙服餌方に云はく、桃脂、一名は桃膠といふ〈毛々乃夜邇もものやに〉。
瓣 唐韵云、瓣、〈音辨、宇利乃佐禰、〉瓜瓠瓣也、
瓣 唐韻に云はく、瓣〈音は辨、宇利乃佐禰うりのさね〉は瓜瓠の瓣なりといふ。

卷第十
巻第十

草木部第廿四
草木部第二十四
草類百廿一 苔類百廿二 蓮類百廿三 葛類百廿四
草類百二十一 苔類百二十二 蓮類百二十三 葛類百二十四

草類百廿一
草類百二十一
草 孫愐曰、草、〈音早、久佐、〉百卉惣名也、文字集略云、𦳝、〈音娘、佐歧久佐、日本紀私記云、福草、〉草枝枝相値、葉葉相當也、
草 孫愐曰はく、草〈音は早、久佐くさ〉は百卉の惣名なりといふ。文字集略に云はく、𦳝〈音は娘、佐岐久佐さきくさ、日本紀私記に云ふ福草〉は草の枝々相値ひて葉々相当るなりといふ。
蘭 兼名苑云、蘭、[〈音闌、〉]一名蕙、〈音惠、本草布知波加麻、新撰万葉集別用藤袴二字、〉
蘭 兼名苑に云はく、蘭[〈音は䦨〉]、一名は蕙〈音は恵、本草に布知波加麻ふぢばかま、新撰万葉集に別に藤袴の二字を用ゐる〉といふ。
菊 四聲字苑云、菊、〈𦦙竹反、本草經云、菊有白菊紫菊黃菊、加波良與毛歧、一云可波良於波歧、[俗云本音之重、]〉日精草也、
菊 四声字苑に云はく、菊〈挙竹反、本草経に云はく、菊に白菊、紫菊、黄菊有り、加波良与毛岐かはらよもぎといふ。一に云ふ可波良於波岐かはらおはぎ〉は日精草なりといふ。
芸 禮記注󠄁云、芸、〈音雲、久佐乃香、〉香草也、
芸 礼記注に云はく、芸〈音は雲、久佐乃くさのかう〉は香草なりといふ。
紫菀 本草云、紫菀、一名紫蒨、〈七見反、能之、〉
紫苑 本草に云はく、紫苑、一名は紫蒨〈七見反、能之のし〉といふ。
桔梗 本草云、桔梗、〈結鯁二音、阿利乃比布歧、〉
桔梗 本草に云はく、桔梗〈結鯁の二音、阿利乃比布岐ありのひふき〉といふ。
龍膽 陶隱居本草注󠄁云、龍膽、〈衣夜美久佐、一云邇可奈、〉味甚苦、故以膽爲名也、
龍胆 陶隠居本草注に云はく、龍胆〈衣夜美久佐えやみぐさ、一に云ふ邇可奈にがな〉は味甚だ苦し、故に胆を以て名と為すなりといふ。
女郎花 新撰萬葉集詩云、女郎花、和歌云、女倍芝、
女郎花 新撰万葉集詩に云ふ女郎花、和歌に云ふをみな倍芝へし
瞿麥 本草云、瞿麥、一名大蘭、〈奈天之古、一云度古奈都、〉
瞿麦 本草に云はく、瞿麦、一名は大蘭といふ。〈奈天之古なでしこ、一に云ふ度古奈都とこなつ
牡丹 本草云、牡丹、一名鹿韮、〈𦦙有反、布加美久佐、〉
牡丹 本草に云はく、牡丹、一名は鹿韮〈挙有反、布加美久佐ふかみぐさ〉といふ。
金錢花 梁簡文帝有金錢花賦、[金錢、俗云古无軟、]
金銭花 梁の簡文帝に金銭花賦有り。[金銭は俗に云ふ古無こむなん。]
萓草 兼名苑云、萓草、一名忘憂、〈萓音喧、漢語抄云、和須禮久佐、[俗云如環藻二音、]〉
萓草 兼名苑に云はく、萓草、一名は忘憂といふ〈萓の音は喧、漢語抄に云ふ和須礼久佐わすれぐさ[、俗に云ふ環藻の二音のごとし]〉。
麥門冬 本草云、麥門冬、〈夜末須介、〉
麦門冬 本草に云はく、麦門冬〈夜末須介やますげ〉といふ。
欵冬 本草云、欵冬、一名虎鬚、〈一本冬作東、夜末布布歧、一云夜末布歧、〉萬葉集云、山吹花、
欵冬 本草に云はく、欵冬、一名は虎鬚といふ〈一本は冬を東に作る、夜末布布岐やまぶふき、一に云ふ夜末布岐やまぶき〉。万葉集に云ふ山吹花。
芭蕉 唐韻云、芭蕉、〈巴焦二音、波勢乎波、〉其葉如席者也、兼名苑云、一名甘蕉、
芭蕉 唐韻に云はく、芭蕉〈巴焦の二音、波勢乎波はせをば〉、其の葉、むしろのごとき者なりといふ。兼名苑に云はく、一名は甘蕉といふ。
鹿鳴草 爾雅集注󠄁云、萩、〈音秋、一音蕉、〉一名蕭、〈音霄、波歧、今案牧名用萩字、萩倉是也、辨色立成、新撰万葉集等用〓〔草冠に㸦〕字、唐韵〓〔草冠に㸦〕音胡誤󠄁反、草名也、國史用芳宜草、楊氏漢語抄又用鹿鳴草、並本文未詳、〉
鹿鳴草 爾雅集注に云はく、萩〈音は秋、一音は蕉〉、一名は蕭〈音は霄、波岐はぎ、今案ふるに牧の名に萩の字を用ゐる、萩倉は是れなり。弁色立成、新撰万葉集等、芽の字を用ゐる。唐韻に、芽の音は胡誤反、草の名なりとす。国史に芳宜草を用ゐる。楊氏漢語抄に又、鹿鳴草を用ゐる。並びに本文は未だ詳かならず〉といふ。
薄 爾雅云、草藂生曰薄、〈新撰萬葉集和歌云、花薄、波奈須須歧、今案即厚薄之薄字也、見玉篇、〉辨色立成云、芊、〈和名同上、今案芊音千、草盛也、見玉篇、〉
薄 爾雅に云はく、草の藂生するを薄と曰ふといふ〈新撰万葉集の和歌に云ふ花薄、波奈須々岐はなすすき、今案ふるに即ち厚薄の薄の字なり、玉篇に見ゆ〉。弁色立成に云ふ芊〈和名は上に同じ、今案ふるに芊の音は千、草盛んなり、玉篇に見ゆ〉。
[紫陽花 白氏文集律詩云、紫陽花、〈和名阿豆佐爲、〉]
[紫陽花 白氏文集律詩に云はく、紫陽花〈和名は阿豆佐爲あづさゐ〉といふ。]
荻 野王案云、荻、〈音狄、字亦作藡、乎歧、〉與薍相似、而非一種
荻 野王案ずるに云はく、荻〈音は狄、字は亦、藡に作る、乎岐をぎ〉は薍と相似て一種に非ずといふ。
蘆葦〈菼等附〉 兼名苑云、葭、〈音家、〉一名葦、〈音煒、阿之、〉爾雅注󠄁云、一名蘆、〈音盧、〉玉篇云、薍、〈音亂、〉菼也、菼、〈音毯、阿之豆乃、〉蘆之初生也、蘇敬曰、蓬蕽、〈逢仍二音、〉葦花名也、
蘆葦〈菼等付〉 兼名苑に云はく、葭〈音は家〉、一名は葦〈音は煒、阿之あし〉といふ。爾雅注に云はく、一名は蘆〈音は盧〉といふ。玉篇に云はく、薍〈音は乱〉は菼なり、菼〈音は毯、阿之豆乃あしづの〉は蘆の初めて生ずるなりといふ。蘇敬曰はく、蓬蕽〈逢仍の二音〉は葦花の名なりといふ。
薔薇 本草云、薔薇、〈牆微二音、〉一名墻𧃲、〈今案與薇字通󠄁、〉陶隱居曰、營實、〈无波良乃美、〉薔薇子也、
薔薇 本草に云はく、薔薇〈牆微の二音〉、一名は墻𧃲〈今案ふるに薇の字と通ず〉といふ。陶隠居曰はく、営実〈無波良乃美むばらのみ〉は薔薇の子なりといふ。
芍藥 唐韵云、芍藥、〈上張約反、新抄本草、衣比須久須利、又沼美久須利、〉藥草、可和食也、
芍薬 唐韻に云はく、芍薬〈上は張約反、新抄本草に衣比須久須利えびすぐすり、又、沼美久須利ぬみぐすり〉は薬草、和して食すべきなりといふ。
赤箭 蘇敬本草注󠄁云、赤箭、〈乎止乎止之、一云加美乃夜加良、〉遠󠄁看似箭有羽、故以名之、
赤箭 蘇敬本草注に云はく、赤箭〈乎止乎止之をとをとし、一に云ふ加美乃夜加良かみのやがら〉は遠く看れば箭に似て羽有り、故に以て之れを名くといふ。
天門冬 本草云、天門冬、〈須末路久佐、今案楊玄操音義、冬作東、〉
天門冬 本草に云はく、天門冬〈須末路久佐すまろぐさ、今案ふるに楊玄操音義に冬を東に作る〉といふ。
朮 尒雅注󠄁云、朮、〈儲律反、乎介良、〉似葪生山中、故亦名山葪也、
朮 爾雅注に云はく、朮〈儲律反、乎介良をけら〉は葪に似て山中に生ず、故に亦、山葪と名くるなりといふ。
女葳蕤 拾遺󠄁本草云、女葳蕤、〈中音威、下汝誰反、〉一名黃芝、〈惠美久佐、一云安麻奈、〉
女葳蕤 拾遺本草に云はく、女葳蕤〈中の音は威、下は汝誰反、〉、一名は黄芝といふ〈恵美久佐ゑみぐさ、一に云ふ安麻奈あまな〉。
黃精 本草云、黃精、〈於保惠美、一云夜末惠美、〉
黄精 本草に云はく、黄精〈於保恵美おほゑみ、一に云ふ夜末恵美やまゑみ〉といふ。
地黃 本草云、地黃、一名地髓、
地黄 本草に云はく、地黄、一名は地髄といふ。
甘草 本草云、甘草、一名蜜草、〈阿末歧、〉
甘草 本草に云はく、甘草、一名は蜜草といふ〈阿末岐あまき〉。
黃連 本草云、黃連、一名王連、〈加久末久佐、〉
黄連 本草に云はく、黄連、一名は王連といふ〈加久末久佐かくまぐさ〉。
人參 本草云、人參、一名神草、〈加乃邇介久散、一云久万能伊、〉
人参 本草に云はく、人参、一名は神草といふ〈加乃邇介久散かのにけくさ、一に云ふ久万能伊くまのい〉。
石蔛 本草云、石蔛、〈胡谷反、須久奈比古乃久湏禰、一云伊波久須利、〉
石蔛 本草に云はく、石蔛〈胡谷反、須久奈比古乃久須禰すくなびこのくすね、一に云ふ伊波久須利いはぐすり〉といふ。
卷柏 本草云、卷柏、〈以波久美、一云伊波古介、〉
巻柏 本草に云はく、巻柏〈以波久美いはぐみ、一に云ふ伊波古介いはごけ〉といふ。
細辛 釋藥性云、細辛、一名小辛、〈美良乃禰久散、一云比歧乃比多比久散、〉
細辛 釈薬性に云はく、細辛、一名は小辛といふ〈美良乃禰久散みらのねぐさ、一に云ふ比岐乃比多比久散ひきのひたひぐさ〉。
獨活 本草云、獨活、一名獨搖草、〈宇止、一云豆知太良、〉陶隱居曰、無風自搖、故以名之、
独活 本草に云はく、独活、一名は独揺草といふ〈宇止うど、一に云ふ豆知太良つちたら〉。陶隠居曰はく、風無くして自づから揺る、故に以て之れを名くといふ。
升麻 本草云、升麻、〈止利乃阿之久佐、一云宇多加久散、〉
升麻 本草に云はく、升麻〈止利乃阿之久佐とりのあしぐさ、一に云ふ宇多加久散うたかくさ〉といふ。
茈胡 本草云、茈胡、〈乃世利、一云阿末安加奈、〉蘇敬曰、茈、古紫字也、
茈胡 本草に云はく、茈胡〈乃世利のせり、一に云ふ阿末安加奈あまあかな〉といふ。蘇敬曰はく、茈は古の紫の字なりといふ。
女靑 本草云、女靑、一名雀瓢、〈加波禰久散、〉蘇敬曰、子似瓢形、故以名之、
女青 本草に云はく、女青、一名は雀瓢といふ〈加波禰久散かばねぐさ〉。蘇敬曰はく、子は瓢の形に似る、故に以て之れを名くといふ。
萆麻 本草云、萆麻、〈上釜示反、加良加之波、一云加良衣、〉
萆麻 本草に云はく、萆麻〈上は釜示反、加良加之波からかしは、一に云ふ加良衣からえ〉といふ。
巴戟天 本草云、巴戟天、〈夜末比々良歧、〉
巴戟天 本草に云はく、巴戟天〈夜末比々良岐やまひひらぎ〉といふ。
牽牛子 陶隱居曰、牽牛子、〈阿佐加保、〉此出於田舍凡人、取之牽牛易藥、故以名之、
牽牛子 陶隠居曰はく、牽牛子〈阿佐加保あさがほ〉、此れ田舎凡人より出づ、之れ取り牛を牽き薬に易ふ、故に以て之れを名くといふ。
地膚 本草云、地膚、一名地葵、〈邇波久佐、一云末歧久散、〉
地膚 本草に云はく、地膚、一名は地葵といふ〈邇波久佐にはくさ、一に云ふ末岐久散まきくさ〉。
蒺䔧 本草云、蒺䔧、〈疾梨二音、波末比之、〉
蒺䔧 本草に云はく、蒺䔧〈疾梨の二音、波末比之はまびし〉といふ。
狼毒 本草云、狼毒、〈夜万久佐、〉
狼毒 本草に云はく、狼毒〈夜万久佐やまくさ〉といふ。
防葵 蘇敬本草注󠄁云、防葵、〈夜末奈須比、〉葉似葵、味似防風、故名防葵也、
防葵 蘇敬本草注に云はく、防葵〈夜末奈須比やまなすび〉、葉は葵に似、味は防風に似る、故に防葵と名くるなりといふ。
防風 兼名苑云、防風、一名屛風、〈波末須加奈、一云波万邇賀那、〉
防風 兼名苑に云はく、防風、一名は屏風といふ〈波末須加奈はますがな、一に云ふ波万邇賀那はまにがな〉。
苦芺 本草云、苦芺、〈烏老反、加万那、一云可美於古之那、〉
苦芺 本草に云はく、苦芺〈烏老反、加万那かまな、一に云ふ可美於古之那かみおこしな〉といふ。
䕡茹 本草云、䕡茹、〈閭如二音、禰阿佐美、一云邇比麻久佐、〉
䕡茹 本草に云はく、䕡茹〈閭如の二音、禰阿佐美ねあざみ、一に云ふ邇比麻久佐にひまぐさ〉といふ。
羊桃 唐韵云、𦾺芅、〈遙翼󠄂二音、本草云、伊良良久散、〉似桃而花白、今之羊桃也、
羊桃 唐韻に云はく、𦾺芅〈遥翼の二音、本草に云ふ伊良々久散いららぐさ〉、桃に似て花白し、今の羊桃なりといふ。
天名精 本草云、天名精、一名麥句薑、〈波末太加奈、一名波麻不久良、〉蘇敬注󠄁云、味甘辛、故有薑稱矣、
天名精 本草に云はく、天名精、一名は麦句薑といふ〈波末太加奈はまたかな、一名は波麻不久良はまふくら〉。蘇敬注に云はく、味甘辛し、故に薑の称有めりといふ。
澤蘭 陶隱居云、澤蘭、〈佐波阿良良歧、一云阿加末久佐、〉生澤傍、故以名之、
沢蘭 陶隠居云はく、沢蘭〈佐波阿良良岐さはあららぎ、一に云ふ阿加末久佐あかまぐさ〉は沢の傍に生ず、故に以て之れを名くといふ。
續斷 拾遺󠄁本草云、續斷、〈去聲、波美、一云於邇乃夜加良、〉中有水者、謂之含水藤
続断 拾遺本草に云はく、続断〈去声、波美はみ、一に云ふ於邇乃夜加良おにのやがら〉、中に水有る者、之れを含水藤と謂ふといふ。
雲實 蘇敬曰、雲實、一名天豆、〈波万佐佐介、〉色黃黑似豆、故以名之、
雲実 蘇敬曰はく、雲実、一名は天豆〈波万佐々介はまささげ〉、色、黄黒く豆に似る、故に以て之れを名くといふ。
蒲公草 本草云、蒲公草、〈布知奈、一云多那、〉一名耩耨草、〈上江項反、下奴豆反、〉
蒲公草 本草に云はく、蒲公草〈布知奈ふぢな、一に云ふ多那たな〉、一名は耩耨〈上は江項反、下は奴豆反〉といふ。
黃耆 本草云、黃耆、〈夜波良久散、〉
黄耆 本草に云はく、黄耆〈夜波良久散やはらぐさ〉といふ。
漏蘆 本草云、漏蘆、一名野蘭、〈久呂久佐、一云安利久散、〉
漏蘆 本草に云はく、漏蘆、一名は野蘭といふ〈久呂久佐くろくさ、一に云ふ安利久散ありくさ〉。
飛廉草 本草云、飛廉草、〈曾曾歧、一云布保保天久佐、〉
飛廉草 本草に云はく、飛廉草〈曽曽岐そそき、一に云ふ布保保天久佐ふほほてぐさ〉とふ。
夏枯草 蘇敬曰、夏枯草、〈宇流歧、〉五月枯、故以名之、
夏枯草 蘇敬曰はく、夏枯草〈宇流岐うるき〉は五月に枯る、故に以て之れを名くといふ。
當歸 本草云、當歸、〈夜末世里、一云於保勢利、又云宇萬世利、〉
当帰 本草に云はく、当帰〈夜末世里やまぜり、一に云ふ於保勢利おほぜり、又云ふ宇万世利うまぜり〉といふ。
秦〓〔艹冠に儿〕 本草云、秦〓〔艹冠に儿〕、〈音交、都加利久佐、一云波可利久散、〉
秦艽 本草に云はく、秦艽〈音は交、都加利久佐つかりぐさ、一に云ふ波可利久散はかりぐさ〉といふ。
白頭公 陶隱居曰、白頭公、〈於歧奈久佐、一云那可久散、〉近󠄁根処有白茸、似人白頭、故以名之、
白頭公 陶隠居曰はく、白頭公〈於岐奈久佐おきなぐさ、一に云ふ那可久散ながくさ〉、根に近き処に白茸有り、人の白頭に似る、故に以て之れを名くといふ。
藎草 本草云、藎草、〈上音疾胤反、加歧奈、一云阿之井、〉
藎草 本草に云はく、藎草〈上の音は疾胤反、加岐奈かきな、一に云ふ阿之井あしゐ〉といふ。
麻黃 本草云、麻黃、〈加豆禰久佐、一云阿末奈、〉
麻黄 本草に云はく、麻黄〈加豆禰久佐かつねぐさ、一に云ふ阿末奈あまな〉といふ。
知毋 本草云、知毋、一名兒草、〈夜末之、〉
知母 本草に云はく、知母、一名は児草といふ〈夜末之やまし〉。
大靑 本草云、大靑、〈波止久散、一云久流久佐、〉
大青 本草に云はく、大青〈波止久散はとくさ、一に云ふ久流久佐くるくさ〉といふ。
决明 陶隱居曰、决明、〈衣比須久佐、〉石决明、是蚌蛤類、皆主󠄁明目、故並有决明之名
决明 陶隠居曰はく、决明〈衣比須久佐えびすぐさ〉、石决明、是れ蚌蛤の類、皆、明目を主る、故に並びに决明の名有りといふ。
狗尾草 辨色立成云、狗尾草、〈惠奴乃古久散、〉
狗尾草 弁色立成に云はく、狗尾草〈恵奴乃古久散ゑぬのこぐさ〉といふ。
貝毋 陶隱居曰、貝毋、〈波々久利、〉形似貝、故以名之、
貝母 陶隠居曰はく、貝母〈波々久利ははくり〉、形、貝を聚むるに似る、故に以て之れを名くといふ。
連翹 本草云、連翹、一名三廉草、〈伊多知久散、一云以太知波勢、〉
連翹 本草に云はく、連翹、一名は三廉草といふ〈伊多知久散いたちぐさ、一に云ふ以太知波勢いたちはぜ〉。
石韋 陶隱居曰、石韋、〈以波乃加波、一云伊波久美、〉其葉如皮、故以名之、生瓦屋上、謂之瓦韋
石韋 陶隠居曰はく、石韋〈以波乃加波いはのかは、一に云ふ伊波久美いはぐみ〉、其の葉、皮のごとし、故に以て之れを名く、瓦屋の上に生ずるは之れを瓦韋と謂ふといふ。
牛扁 蘇敬曰、牛扁、〈甫典反、太知末知久散、〉治牛病、故名牛扁也、
牛扁 蘇敬曰はく、牛扁〈甫典反、太知末知久散たちまちぐさ〉、牛の病を治す、故に牛扁と名くるなりといふ。
萹蓄 本草云、萹蓄、〈宇之久散、〉
萹蓄 本草に云はく、萹蓄〈宇之久散うしくさ〉といふ。
三白草 蘇敬曰、三白草、〈加多之路久散、〉葉上有三黑點、古人秘之、隱黑爲白耳、
三白草 蘇敬曰はく、三白草〈加多之路久散かたしろぐさ〉は葉の上に三黒点有り、古の人、之れを秘すに黒をしのび白と為すのみといふ。
旋花 本草云、旋花、一名美草、〈旋音賤、波夜比止久佐、〉
旋花 本草に云はく、旋花、一名は美草といふ〈旋の音は賎、波夜比止久佐はやひとぐさ〉。
敗醬 陶隱居曰、敗醬、〈知女久佐、〉氣似敗豆醬、故以名之、
敗醤 陶隠居曰はく、敗醤〈知女久佐ちめぐさ〉、気、敗せる豆醤に似る、故に以て之れを名くといふ。
白芷 雜要决云、白芷、一名白芝、〈加佐毛知、一云與呂比久散、〉
白芷 雑要决に云はく、白芷、一名は白芝といふ〈加佐毛知かさもち、一に云ふ与呂比久散よろひぐさ〉。
靑葙 本草云、靑葙、〈私羊反、宇末久散、一云阿末久佐、〉
青葙 本草に云はく、青葙〈私羊反、宇末久散うまくさ、一に云ふ阿末久佐あまくさ〉といふ。
杜蘅 蘇敬曰、杜蘅、一名馬蹄香、〈蘅音衡、布太末加美、一云豆布禰久散、〉形似馬蹄、故以名之、
杜蘅 蘇敬曰はく、杜蘅、一名は馬蹄香〈蘅の音は衡、布太末加美ふたまかみ、一に云ふ豆布禰久散つぶねぐさ〉、形は馬蹄に似る、故に以て之れを名くといふ。
白鮮 陶隱居曰、白鮮、一名羊羶、〈比豆之久佐、式連反、羊臭也、〉氣似羊羶、故以名之、
白鮮 陶隠居曰はく、白鮮、一名は羊羶〈比豆之久佐ひつじぐさ、式連反、羊臭なり〉、気、羊羶に似る、故に以て之れを名くといふ。
白薇 釋藥性云、白薇、〈美奈之古久佐、一云久路久散、又云阿末那、〉
白薇 釈薬性に云はく、白薇〈美奈之古久佐みなしこぐさ、一に云ふ久路久散くろくさ、又云ふ阿末那あまな〉といふ。
紫參 本草云、紫參、〈知々乃波久散、〉
紫参 本草に云はく、紫参〈知々乃波久散ちちのはぐさ〉といふ。
地榆 陶隱居曰、地榆、一名玉豉、〈阿夜女太无、一云衣比須禰、〉子黑似豉、故以名之、
地楡 陶隠居曰はく、地楡、一名は玉豉〈阿夜女太無あやめたむ、一に衣比須禰えびすねと云ふ〉、子黒く豉に似る、故に以て之れを名くといふ。
仙靈毗草 陶隱居曰、〓〔氵+䍃〕羊藿、〈宇无歧奈、一云夜末止利久佐、〉羊食此藿、一日百遍󠄁、故以名之、一名剛前󠄁、蘇敬曰、俗名仙靈毗草、是、〈漢語抄云、仙靈毗草、万良多介利久佐、〉
仙霊毗草 陶隠居曰はく、淫羊藿〈宇無岐奈うむきな、一に云ふ夜末止利久佐やまとりぐさ〉、羊、此の藿を食へば一日に百遍す、故に以て之れを名け、一名は剛前といふ。蘇敬曰はく、俗名に仙霊毗草は是れといふ。〈漢語抄に云ふ仙霊毗草、万良多介利久佐まらたけりぐさ
茸蓎子 本草云、茸蓎子、〈於保美流久佐、〉
茸蓎子 本草に云はく、茸蓎子〈於保美流久佐おほみるぐさ〉といふ。
薺〓〔艹+尸+ユ〕 本草云、薺〓〔艹+尸+ユ〕、〈臍禰二音、佐歧久佐奈、一云美乃波、〉
薺苨 本草に云はく、薺苨〈臍禰の二音、佐岐久佐奈さきくさな、一に云ふ美乃波みのは〉といふ。
大黃 本草云、大黃、一名黃良、〈於保之、〉
大黄 本草に云はく、大黄、一名は黄良といふ〈於保之おほし〉。
鱧腸草 本草云、鱧腸草、〈上音禮、宇末歧多之、〉
鱧腸草 本草に云はく、鱧腸草〈上の音は礼、宇末岐多之うまきたし〉といふ。
半󠄁夏 本草云、半󠄁夏、〈保曾久美、〉
半夏 本草に云はく、半夏〈保曽久美ほそくみ〉といふ。
蒟醬 本草云、蒟醬、一名蓽蕟、〈必發二音、和太々非、〉
蒟醤 本草に云はく、蒟醤、一名は蓽蕟〈必発の二音、和太々非わたたび〉といふ。
甘遂󠄂󠄂󠄂 本草云、甘遂󠄂󠄂󠄂、〈邇波曾、一云邇比曾、〉
甘遂 本草に云はく、甘遂〈邇波曽にはそ、一に云ふ邇比曽にひそ〉といふ。
虎掌 陶隱居曰、虎掌、〈於保々曾美、〉四畔󠄁有圓牙、如虎掌、故以名之、
虎掌 陶隠居曰はく、虎掌〈於保々曽美おほほそみ〉、四畔に円き牙有ありて虎の掌を看るがごとし、故に以て之れを名くといふ。
蕘華 本草云、蕘華、〈上音饒、波末邇禮、〉
蕘華 本草に云はく、蕘華〈上の音は饒、波末邇礼はまにれ〉といふ。
䔧蘆 本草云、䔧蘆、〈上音黎、夜末宇波良、一云之々乃久比能歧、〉
蔾蘆 本草に云はく、蔾蘆〈上の音は黎、夜末宇波良やまうばら、一に云ふ之々乃久比能岐ししのくびのき〉といふ。
兎葵 本草云、兎葵、〈以倍邇禮、〉
兎葵 本草に云はく、兎葵〈以倍邇礼いへにれ〉といふ。
亭歷子 本草云、亭歷子、〈波末太加奈、一云阿之奈豆那、又云波末世利、〉
亭歴子 本草に云はく、亭歴子〈波末太加奈はまたかな、一に云ふ阿之奈豆那あしなづな、又云ふ波末世利はまぜり〉といふ。
赭魁 本草云、赭魁、〈爲乃止々歧、〉
赭魁 本草に云はく、赭魁〈為乃止々岐ゐのととき〉といふ。
及巳 本草云、及巳、〈仁諝音義巳音以、豆歧禰久佐、〉
及巳 本草に云はく、及巳〈仁諝音義に巳の音は以、豆岐禰久佐つきねぐさ〉といふ。
大戟 本草云、大戟、〈波夜比止久佐、〉
大戟 本草に云はく、大戟〈波夜比止久佐はやひとぐさ〉といふ。
鳶尾 本草云、鳶尾、一名烏園、〈古夜須久佐、〉
鳶尾 本草に云はく、鳶尾、一名は烏園といふ〈古夜須久佐こやすぐさ〉。
牛膝 陶隱居曰、牛膝、〈爲乃久豆知、〉節似牛膝、故以名之、
牛膝 陶隠居曰はく、牛膝〈為乃久豆知ゐのくづち〉は節、牛の膝に似る、故に以て之れを名くといふ。
蓍 蘇敬曰、蓍、〈音尸、女止、〉以其莖、爲筮者也、
蓍 蘇敬曰はく、蓍〈音は尸、女止めど〉、其の茎を以て筮と為す者なりといふ。
虎杖 本草疏云、虎杖、一名武杖、〈伊多止利、〉
虎杖 本草疏に云はく、虎杖、一名は武杖といふ〈伊多止利いたどり〉。
葎草 本草云、葎草、〈上音律、毛久良、〉
葎草 本草に云はく、葎草〈上の音は律、毛久良もぐら〉といふ。
菴蘆子 本草云、菴蘆子、〈上音淹、波々古、〉
菴蘆子 本草に云はく、菴蘆子〈上の音は淹、波々古ははこ〉といふ。
馬先蒿 陶隱居曰、馬先蒿、一名爛石草、〈比歧與毛歧、〉
馬先蒿 陶隠居曰はく、馬先蒿、一名は爛石草といふ〈比岐与毛岐ひきよもぎ〉。
薏苡 兼名苑云、薏苡、〈億以二音、〉一名芉珠、〈豆之太万、〉
薏苡 兼名苑に云はく、薏苡〈億以の二音〉、一名は芉珠といふ〈豆之太万つしだま〉。
商陸 本草云、商陸、〈伊乎須歧、〉
商陸 本草に云はく、商陸〈伊乎須岐いをすき〉といふ。
車前󠄁子 本草云、車前󠄁子、一名芣苡、〈浮󠄁以二音、於保波古、〉
車前子 本草に云はく、車前子、一名は芣苡〈浮以の二音、於保波古おほばこ〉といふ。
茺蔚 本草云、茺蔚、〈充尉二音、女波之歧、〉
茺蔚 本草に云はく、茺蔚〈充尉の二音、女波之岐めはじき〉といふ。
白英 蘇敬曰、白英、一名鬼目草、〈保曾之、一云豆久美乃伊比禰、〉
白英 蘇敬曰はく、白英、一名は鬼目草といふ〈保曽之ほそし、一に云ふ豆久美つくみ伊比禰いひね〉。
石龍蒭 本草云、石龍蒭、〈宇之乃比多比、〉[崔豹古今注󠄁云、縉雲草、]
石龍蒭 本草に云はく、石龍蒭〈宇之乃比多比うしのひたひ〉といふ。[崔豹古今注に云ふ縉雲草。]
石龍芮 本草云、石龍芮、〈如銳反、不加豆美、〉
石龍芮 本草に云はく、石龍芮〈如鋭反、不加豆美ふかつみ〉といふ。
穬麥 新抄本草云、穬麥、〈上音廣、加良須牟歧、〉[以作糵、小麥以作麵]
穬麦 新抄本草に云はく、穬麦〈上の音は広、加良須牟岐からすむぎ〉といふ。[以て糵を作り、小麦を以て麺を作る。]
栝樓 兼名苑云、栝樓、一名𤬉㼋、〈圭姑二音、加良須宇利、〉
栝楼 兼名苑に云はく、栝楼、一名は𤬉㼋〈圭姑の二音、加良須宇利からすうり〉といふ。
射干 本草云、射干、一名烏扇、〈射音夜、加良須安符歧、〉
射干 本草に云はく、射干、一名は烏扇といふ。〈射の音は夜、加良須安符岐からすあふぎ
玄參 本草云、玄參、一名重臺、〈於之久佐、〉
玄参 本草に云はく、玄参、一名は重台といふ〈於之久佐おしくさ〉。
苦參 本草云、苦參、一名苦𧄹、〈音識、久良々、一云末比利久佐、〉
苦参 本草に云はく、苦参、一名は苦𧄹〈音は識、久良々くらら、一に云ふ末比利久佐まひりぐさ〉といふ。
藁本 蘇敬曰、藁本、〈佐々波曾良之、一云曾良之、〉根上苗下似藁、故以名之、
藁本 蘇敬曰はく、藁本〈佐々波曽良之ささはそらし、一に云ふ曽良之そらし〉は根の上、苗の下の藁に似る、故に以て之れを名くといふ。
酢漿 本草云、酢漿草、〈加太波美、〉
酢漿 本草に云はく、酢漿草〈加太波美かたばみ〉といふ。
酸漿 兼名苑云、酸漿、一名洛神珠、〈保々豆歧、〉
酸漿 兼名苑に云はく、酸漿、一名は洛神珠といふ〈保々豆岐ほほづき〉。
艾 本草云、艾、一名醫草、〈與毛歧、〉兼名苑云、蓬、〈音逢、〉一名蓽、〈音畢、〉艾也、
艾 本草に云はく、艾、一名は醫草といふ〈与毛岐よもぎ〉。兼名苑に云はく、蓬〈音は逢〉、一名は蓽〈音は畢〉、艾なりといふ。
茵陳蒿 釋藥性云、茵陳蒿、〈比歧與毛歧、〉
茵陳蒿 釈薬性に云はく、茵陳蒿〈比岐与毛岐ひきよもぎ〉といふ。
白蒿 本草云、白蒿、一名蘩皤蒿、〈上中二音繁波、之呂與毛歧、一云加波良與毛歧、今案菊又有此和名、見上文、〉
白蒿 本草に云はく、白蒿、一名は蘩皤蒿〈上中の二音は繁波、之呂与毛岐しろよもぎ、一に云ふ加波良与毛岐かはらよもぎ、今案ふるに菊に又、此の和名有り、上文に見ゆ〉といふ。
芄蘭 本草云、蘿摩子、一名芄蘭、〈上音丸、加々美、〉
芄蘭 本草に云はく、蘿摩子、一名は芄蘭〈上の音は丸、加々美かがみ〉といふ。
徐長卿 本草云、徐長卿、〈比女加々美、〉
徐長卿 本草に云はく、徐長卿〈比女加々美ひめかがみ〉といふ。
白前󠄁 本草云、白前󠄁、一名石藍、〈能可々美、〉
白前 本草に云はく、白前、一名は石藍といふ〈能可々美のかがみ〉。
白蘝 本草云、白蘝、〈力撿反、夜末加々美、〉
白蘝 本草に云はく、白蘝〈力撿反、夜末加々美やまかがみ〉といふ。
王不留行 釋藥性云、王不留行、〈今案一本留作流、加佐久散、〉
王不留行 釈薬性に云はく、王不留行といふ〈今案ふるに一本に留を流に作る、加佐久散かさくさ〉。
景天 陶隱居曰、景天、一名愼火、〈伊歧久佐、〉避󠄁火故以名之、
景天 陶隠居曰はく、景天、一名は慎火〈伊岐久佐いきくさ〉、火を避くが故に以て之れを名くといふ。
拔葜 本草云、拔葜、〈上方八反、佐流止利、一云於保宇波良、〉
抜葜 本草に云はく、抜葜〈上は方八反、佐流止利さるとり、一に云ふ於保宇波良おほうばら〉といふ。
枲耳 陶隱居曰、枲耳、一名羊負󠄁來、〈枲音子、奈毛美、〉昔中國無此草、從外國逐󠄁羊毛中而來、故以名之、
枲耳 陶隠居曰はく、枲耳、一名は羊負来〈枲の音は子、奈毛美なもみ〉、昔、中国に此の草無し、外国より羊の毛の中に逐ひて来れり、故に以て之れを名くといふ。
王孫 本草云、王孫、一名黃孫、〈沼波利久佐、此間云都知波利、〉
王孫 本草に云はく、王孫、一名は黄孫といふ〈沼波利久佐ぬはりぐさ此間ここに云ふ都知波利つちはり〉。
積雪󠄁草 陶隱居曰、積雪󠄁草、〈豆保久佐、〉寒冷故以名之、蘇敬曰、其葉如錢、故亦名連錢草
積雪草 陶隠居曰はく、積雪草〈豆保久佐つぼくさ〉、寒にして冷なるが故に以て之れを名くといふ。蘇敬曰はく、其の葉は銭のごとし、故に亦、連銭草と名くといふ。
菅 唐韻云、菅、〈音姧、字亦作蕑、須計、〉草名也、
菅 唐韻に云はく、菅〈音は姧、字は亦、蕑に作る、須計すげ〉は草の名なりといふ。
茅 大淸經云、茅、一名白羽草、〈茅音莫交反、知、〉
茅 大清経に云はく、茅、一名は白羽草といふ〈茅の音は莫交反、〉。
萓 廣益玉篇云、萓、〈魚飢反、與宜同、加夜、〉
萓 広益玉篇に云はく、萓〈魚飢反、宜と同じ、加夜かや〉といふ。
萊草 辨色立成云、萊草、〈上音來、之波、〉一名類草、
萊草 弁色立成に云はく、萊草〈上の音は来、之波しば〉、一名は類草といふ。
百合 本草云、百合、一名磨藣、〈音罷、由里、〉
百合 本草に云はく、百合、一名は磨藣〈音は罷、由里ゆり〉といふ。
懷香 兼名苑注󠄁云、懷香、一名懷芸、〈久禮乃於毛、〉
懐香 兼名苑注に云はく、懐香、一名は懐芸といふ〈久礼乃於毛くれのおも〉。
白慈草 辨色立成云、白慈草、〈末太布利久佐、〉
白慈草 弁色立成に云はく、白慈草〈末太布利久佐またぶりぐさ〉といふ。
狼牙 陶隱居曰、狼牙、一名犬牙、〈古末豆那歧、〉根牙似獸牙齒、故以名之、
狼牙 陶隠居曰はく、狼牙、一名は犬牙〈古末豆那岐こまつなぎ〉、根牙は獣の牙歯に似る、故に以て之れを名くといふ。
莨蓎子 本草云、莨蓎、〈狼唐二音、於保美留久佐、〉
莨蓎子 本草に云はく、莨蓎〈狼唐の二音、於保美留久佐おほみるくさ〉といふ。
貫衆 本草云、貫衆、〈於邇和良比、〉
貫衆 本草に云はく、貫衆〈於邇和良比おにわらび〉といふ。
蒴藋 蘇敬曰、蒴藋、〈朔濁二音、俗云曾久止*原本久、〉即陸英也、
蒴藋 蘇敬曰はく、蒴藋〈朔濁の二音、俗に云ふ曽久止宇そくとう〉、即ち陸英なりといふ。
葒草 陶隱居曰、葒草、〈上音紅、〉一名遊󠄁龍、〈伊奴太天、〉
葒草 陶隠居曰はく、葒草〈上の音は紅〉、一名は遊龍といふ〈伊奴太天いぬたで〉。
苛 玉篇云、苛、〈音何、以良、〉小草生刺也、
苛 玉篇に云はく、苛〈音は何、以良いら〉、小草に刺を生ずるなりといふ。
〓〔艹冠に冫+食〕蕪 爾雅注󠄁云、〓〔艹冠に冫+食〕蕪、〈飡無二音、須之、〉似羊蹄葉細、味酢者也、
𦻂蕪 爾雅注に云はく、𦻂蕪〈飡無の二音、須之すし〉、羊蹄に似て葉は細く、味酢き者なりといふ。
由跋 本草云、由跋、〈薄葛反、加歧都波那、〉
由跋 本草に云はく、由跋〈薄葛反、加岐都波那かなつばな〉といふ。
蓱 說文云、蓱、〈薄經反、字亦作萍、宇歧久佐、〉無根浮󠄁水上者也、
蓱 説文に云はく、蓱〈薄経反、字は亦、萍に作る、宇岐久佐うきくさ〉は根無く水上に浮く者なりといふ。
蒲〈蒲黃附〉 唐韵云、蒲、〈薄胡反、可末、〉草名、似藺、可以爲__席也、陶隱居曰、蒲黃、〈加萬乃波奈、〉花上黃者也、
蒲〈蒲黄付〉 唐韻に云はく、蒲〈薄胡反、可末かま〉は草の名、藺に似る、以て席につくるべきなりといふ。陶隠居曰はく、蒲黄〈加万乃波奈かまのはな〉は花上の黄なる者なりといふ。
菰〈菰首附〉 本草云、菰、一名蔣、〈上音孤、下音將、古毛、〉弁色立成云、茭草、〈一云菰蔣草、上音穀肴反、〉七卷食經云、菰首味甘冷、〈古毛不豆路、一名古毛都乃、〉
菰〈菰首付〉 本草に云はく、菰、一名は蒋といふ〈上の音は孤、下の音は将、古毛こも〉。弁色立成に云ふ茭草〈一に云ふ菰蒋草、上の音は穀肴反、〉。七巻食経に云はく、菰首は味甘く冷といふ〈古毛不豆路こもぶつろ、一名は古毛都乃こもづの〉。
昌蒲 養性要集云、昌蒲、一名臭蒲、〈阿夜米久散、〉
昌蒲 養性要集に云はく、昌蒲、一名は臭蒲といふ〈阿夜米久散あやめぐさ〉。
劇草 蘇敬曰、劇草、一名馬藺、〈加歧豆波太、〉
劇草 蘇敬曰はく、劇草、一名は馬藺といふ〈加岐豆波太かきつばた〉。
蛇床子 本草云、蛇床子、〈比流牟之侶、〉
蛇床子 本草に云はく、蛇床子〈比流牟之侶ひるむしろ〉といふ。
三稜草 本草云、三稜草、〈稜音魯登反、美久利、〉
三稜草 本草に云はく、三稜草〈稜の音は魯登反、美久利みくり〉といふ。
莎草 唐韵云、莎草、〈蘇禾反、漢語抄云、久具󠄁、〉草名也、
莎草 唐韻に云はく、莎草〈蘇禾反、漢語抄に云ふ久具くぐ〉、草の名なりといふ。
莞 唐韵云、莞、〈音完、一音丸、漢語抄云、於保井、〉可以爲__席者也、
莞 唐韻に云はく、莞〈音は完、一音に丸、漢語抄に云ふ於保井おほゐ〉は以て席を為るべき者なりといふ。
藺 玉篇云、藺、〈音𠫤、爲、弁色立成云、鷺尻刺、〉似莞而細堅、宜席者也、
藺 玉篇に云はく、藺〈音は吝、、弁色立成に云ふさぎの尻刺しりさし〉は莞に似て細く堅く、宜しく席を為るべき者なりといふ。
鼠尾草 本草云、鼠尾草、〈美曾波歧、〉
鼠尾草 本草に云はく、鼠尾草〈美曽波岐みそはぎ〉といふ。
烏頭附子 本草注󠄁云、似烏鳥頭、謂之烏頭、似口者謂之烏喙、三寸以上謂之天雄、八月採󠄁者爲附子、其邊角大者、謂之側子
烏頭附子 本草注に云はく、烏鳥の頭に似るは之れを烏頭と謂ひ、口に似るは之れを烏喙と謂ひ、三寸以上は之れを天雄と謂ふz_、八月に採る者を附子と為し、其の辺角の大なる者は之れを側子と謂ふといふ。

苔類百廿二
苔類百二十二
苔 陸詞切韵云、*原本ナシ、〈音臺、古介、〉水衣也、
苔 陸詞切韻に云はく、苔〈音は台、古介こけ〉は水衣なりといふ。
屋遊󠄁 蘇敬本草注󠄁云、屋遊󠄁、〈夜乃倍乃古計、〉屋瓦上靑苔衣也、
屋遊 蘇敬本草注に云はく、屋遊〈夜乃倍乃古計やのへのこけ〉は屋の瓦の上の青苔衣なりといふ。
石衣 本草云、石衣、一名石髮、〈形髮同、知比佐歧古介、〉
石衣 本草に云はく、石衣、一名は石髪といふ〈形は髪に同じ、知比佐岐古介ちひさきこけ〉。
垣衣 本草云、垣衣、一名烏韮、〈之乃不久佐、〉
垣衣 本草に云はく、垣衣、一名は烏韮といふ〈之乃不久佐しのふくさ〉。
蘿 唐韵云、蘿、〈魯何反、日本紀私記云、蘿、比加介、〉女蘿也、雜要决云、松蘿、一名女蘿、〈萬豆乃古介、一云佐流乎加世、〉
蘿 唐韻に云はく、蘿〈魯何反、日本紀私記に云ふ蘿、比加介ひかげ〉は女蘿なりといふ。雑要决に云はく、松蘿、一名は女蘿といふ〈万豆乃古介まつのこけ、一に云ふ佐流乎加世さるをかせ〉。

蓮類百廿三
蓮類百二十三
芙蕖 爾雅云、荷、芙蕖、〈符芙音同、蕖音渠、〉郭璞曰、芙蓉、〈音容、〉江東呼爲荷也、
芙蕖 爾雅に云はく、荷は芙蕖〈符、芙、音同じ、蕖の音は渠〉といふ。郭璞曰はく、芙蓉〈音は容〉は江東に呼びて荷と為すなりといふ。
藕 爾雅云、其根藕、〈音偶、波知須乃禰、〉
藕 爾雅に云はく、其の根は藕〈音は偶、波知須乃禰はちすのね〉といふ。
蔤 爾雅云、其本蔤、〈音密、波知須乃波比、〉郭璞曰、莖下白蒻、〈音弱󠄁、〉在泥中者也、
蔤 爾雅に云はく、其の本は蔤〈音は密、波知須乃波比はちすのはひ〉といふ。郭璞曰はく、茎の下の白蒻〈音は弱〉、泥の中に在る者なりといふ。
茄 爾雅云、其莖茄、〈音加、波知須乃久歧、〉
茄 爾雅に云はく、其の茎は茄〈音は加、波知須乃久岐はちすのくき〉といふ。
蕸 爾雅云、其葉蕸、〈胡歌反、〉郭璞曰、蕸亦荷字也、
蕸 爾雅に云はく、其の葉は蕸〈胡歌反〉といふ。郭璞曰はく、蕸は亦、荷の字なりといふ。
菡萏 爾雅云、其華菡萏、〈上胡感反、下徒感反、並上聲之重、〉兼名苑注󠄁云、蓮花已開曰芙蕖、未舒曰菡萏也、
菡萏 爾雅に云はく、其の華は菡萏〈上は胡感反、下は徒感反、並びに上声の重〉といふ。兼名苑注に云はく、蓮の花、已に開くを芙蕖と曰ひ、未だ舒びざるを菡萏と曰ふなりといふ。
蓮 爾雅云、其子蓮、〈音連、〉其中菂、〈音漁釣之釣、又音的、〉郭璞曰、蓮、謂房󠄁也、菂、蓮中子也、
蓮 爾雅に云はく、其の子は蓮〈音は連〉、其の中は菂〈音は漁釣の釣、又の音は的〉といふ。郭璞曰はく、蓮は房を謂ふなり、菂は蓮の中の子なりといふ。
蕣 文字集略云、蕣、〈音舜、歧波知須、〉地蓮華、朝生夕落者也、
蕣 文字集略に云はく、蕣〈音は舜、岐波知須きはちす〉は地蓮華、朝に生じて夕に落つる者なりといふ。

葛類百廿四
葛類百二十四
葛 蘇敬曰、葛穀、一名鹿豆、〈葛音割、久須加豆良乃美、〉葛實名也、葛脰、〈音豆、久須加都良乃禰、〉葛根入地五六寸名也、
葛 蘇敬曰はく、葛穀、一名は鹿豆〈葛の音は割、久須加豆良乃美くずかづらのみ〉、葛の実の名なり、葛脰〈音は豆、久須加都良乃禰くずかづらのね〉は葛の根、地に入ること五六寸の名なりといふ。
藤〈狼跋子附〉 爾雅注󠄁云、藟〈力軌反、字亦作虆、布知、〉藤也、似葛而大、蘇敬曰、其子狼跋子、
藤〈狼跋子付〉 爾雅注に云はく、藟〈力軌反、字は亦、虆に作る、布知ふぢ〉は藤なり、葛に似て大といふ。蘇敬曰はく、其の子は狼跋子といふ。
皂莢 本草云、皂莢、〈造󠄁夾二音、加波良不知、俗云虵結、〉
皂莢 本草に云はく、皂莢〈造󠄁夾の二音、加波良不知かはらふぢ、俗に云ふ蛇結じやけつ〉といふ。
馬鞭草 蘇敬曰、馬鞭草、〈久末豆々良、〉其穗類鞭鞘、故以名之、
馬鞭草 蘇敬曰はく、馬鞭草〈久末豆々良くまつづら〉、其の穂、鞭鞘にたぐひす、故に以て之れを名くといふ。
芎藭 唐韵云、芎藭、〈弓窮二音、本草於无奈加豆良、〉香草也、根曰芎藭、苗曰蘪蕪、〈微無二音、蘪又作薇、〉
芎藭 唐韻に云はく、芎藭〈弓窮の二音、本草に於無奈加豆良おむなかづら〉は香草なり、根を芎藭と曰ひ、苗を蘪蕪〈微無の二音、蘪は又、薇に作る〉と曰ふといふ。
五味 蘇敬曰、五味、〈佐禰加豆良、〉皮完甘酸、核中辛苦、都有鹹味、故名五味也、
五味 蘇敬曰はく、五味〈佐禰加豆良さねかづら〉、皮のしし甘く酸し、核の中辛く苦し、都て鹹味有り、故に五味と名くるなりといふ。
紫葛 本草云、紫葛、〈衣比加豆良、〉文選󠄁蜀都賦云、蒲萄亂潰、〈萄音陶、漢語抄云、蒲萄、衣比加豆良乃美、〉
紫萄 本草に云はく、紫葛〈衣比加豆良えびかづら〉といふ。文選蜀都賦に云はく、蒲萄乱れつひゆといふ。〈萄の音は陶、漢語抄に云ふ蒲萄、衣比加豆良乃美えびかづらのみ
防己 本草云、防己、一名解離、〈阿乎加都良、〉
防己 本草に云はく、防己、一名は解離といふ〈阿乎加都良あをかづら〉。
忍󠄁冬 陶隱居曰、忍󠄁冬、〈湏比可豆良、〉凌冬不凋、故以名之、
忍冬 陶隠居曰はく、忍冬〈須比加豆良すひかづら〉は冬を凌ぎしぼまず、故に以て之れを名くといふ。
千歲虆 蘇敬曰、千歲虆、一名蘡薁藤、〈上中二音嬰育、阿末都良、此間甘葛、〉得千歲者、莖大如梡、
千歳虆 蘇敬曰はく、千歳虆、一名は蘡薁藤〈上中の二音は嬰育、阿末都良あまづら、此間には甘葛〉、千歳を得る者、茎ふときことたきぎのごとしといふ。
絡石 本草云、絡石、一名領石、〈都太、〉蘇敬云、此草苞石木而生、故以名之、
絡石 本草に云はく、絡石、一名は領石といふ〈都太つた〉。蘇敬に云はく、此の草は石木を苞みて生ず、故に以て之れを名くといふ。
百部 陶隱居曰、百部、〈保度豆良、〉一種以有百部、故以名之、
百部 陶隠居曰はく、百部〈保度豆良ほどづら〉は一種を以て百部有り、故に以て之れを名くといふ。
細子草 辨色立成云、細子草、〈久曾可都良、〉
細子草 弁色立成に云ふ細子草〈久曽可都良くそかづら〉。
[通󠄁草 和名本草云、通󠄁草、陶弘景注󠄁云、莖有細孔、兩頭相通󠄁、〈和名阿介比加都良、〉]
[通草 和名本草に云はく、通草といふ。陶弘景注に云はく、茎に細孔有り、両頭相通ずといふ。〈和名は阿介比加都良あけびかづら〉]

草木部
草木部
竹類百廿五 竹具󠄁百廿六 木類百廿七 木具󠄁百廿八〈草具󠄁附出〉
竹類百二十五 竹具百二十六 木類百二十七 木具百二十八〈草具付出す〉

竹類百廿五
竹類百二十五
竹 四聲字苑云、竹、〈陟六反、多介、〉草也、一云、非草非木、兼名苑注󠄁云、筠、〈王麏反、〉竹惣名也、
竹 四声字苑に云はく、竹〈陟六反、多介たけ〉は草なりといふ。一に云はく、草に非ず木に非ずといふ。兼名苑注に云はく、筠〈王麏反〉は竹の惣名なりといふ。
筨竹 唐韵云、䈄、〈音含、字亦作筨、〉竹名也、
筨竹 唐韻に云はく、䈄〈音は含、字は亦、筨に作る〉は竹の名なりといふ。
𥯶竹 四聲字苑云、𥯶、〈音苦、辨色立成云、苦竹、加波多介、〉竹名也、
𥯶竹 四声字苑に云はく、𥯶〈音は苦、弁色立成に云ふ苦竹、加波多介かはたけ〉は竹の名なりといふ。
𥲄竹 唐韵云、𥲄、〈徒敢反、上聲之重、漢語抄云、淡竹、於保太介、〉竹名也、
𥲄竹 唐韻に云はく、𥲄〈徒敢反、上声の重、漢語抄に云ふ淡竹、於保太介おほたけ〉は竹の名なりといふ。
䇞竹 文字集略云、䇞、〈音甘、漢語抄云、吳竹也、和語云、久禮太計、〉似䈽而下節茂葉者也、
䇞竹 文字集略に云はく、䇞〈音は甘、漢語抄に云ふ呉竹なり、和語に云ふ久礼くれ太計たけ〉は䈽に似て下節に葉茂き者なりといふ。
斑竹 兼名苑云、斑竹、一名淚竹、〈此間斑竹、音篇知久、〉[戀淚所󠄁染也、]
斑竹 兼名苑に云はく、斑竹、一名は涙竹といふ〈此間に斑竹、音は篇知久〉。[恋涙の染むる所なり。]
筒 唐韵云、筒、〈音同、又棟、俗用去聲、〉竹名也、
筒 唐韻に云はく、筒〈音は同、又は棟、俗に去声に用ゐる〉は竹の名なりといふ。
箟 唐韵云、箟、〈音昆、能、〉箭竹名也、
箟 唐韻に云はく、箟〈音は昆、〉は箭竹の名なりといふ。
篠 蔣魴切韵云、篠、〈先鳥反、之乃、小竹、散々、〉細々小竹也、
篠 蒋魴切韻に云はく、篠〈先鳥反、之乃しの、小竹は散々ささ〉は細々の小竹なりといふ。

竹具󠄁百廿六
竹具百二十六
笋 尒雅注󠄁云、筍、〈音隼、字亦作笋、太加无奈、〉竹初生也、
笋 爾雅注に云はく、筍〈音は隼、字は亦、笋に作る、太加無奈たかむな〉は竹の初めて生ずるなりといふ。
長間笋 兼名苑注󠄁云、長間笋、〈今案之乃米、〉笋靑最晩生、味太苦也、
長間笋 兼名苑注に云はく、長間笋〈今案ふるに之乃米しのめ〉は笋の青く最も晩く生じ、味太だ苦きなりといふ。
籜 蔣魴切韵云、籜、〈音擇、笋乃宇波加波、〉笋上大皮也、
籜 蒋魴切韻に云はく、籜〈音は択、たかむな乃宇波加波のうはかは〉は笋の上の大皮なりといふ。
𥯣 孫愐切韵云、𥯣、〈莫結反、竹乃加波、〉竹皮也、
篾 孫愐切韻に云はく、篾〈莫結反、たけ乃加波のかは〉は竹皮なりといふ。
節 野王案、節、〈音切、布之、〉竹中隔󠄁而不通󠄁者也、
節 野王案ずるに、節〈音は切、布之ふし〉は竹の中を隔てて通ぜざる者なりとす。
[兩節間 文選󠄁笙賦注󠄁云、黃帝使伶倫、〈靈隣二音、樂人也、〉取竹、斷兩節間而吹之、〈兩節間、俗云與、故以𦦙之、〉]
[両節間 文選笙賦注に云はく、黄帝、伶倫〈霊隣の二音、楽人なり〉をして竹を取らし、両節間を断たして之れを吹かしむといふ。〈両節間は俗に云ふ、故に以て之れを挙ぐ〉]
篁 孫愐曰、篁、〈音皇、太加无良、俗云多可波良、〉竹叢也、
篁 孫愐曰はく、篁〈音は皇、太加無良たかむら、俗に云ふ多可波良たかはら〉は竹の叢なりといふ。

木類百廿七
木類百二十七
旃𣞀 唐韵云、旃𣞀、〈仙壇二音、此間云善短、〉香木也、內典云、赤者謂之牛頭栴𣞀
旃檀 唐韻に云はく、旃檀〈仙壇の二音、此間に云ふ善短〉は香木なりといふ。内典に云はく、赤き者は之れを牛頭栴檀と謂ふといふ。
紫檀 內典云、旃檀黑者謂之紫檀、兼名苑云、一名紫栴、
紫檀 内典に云はく、旃檀の黒き者は之れを紫檀と謂ふといふ。兼名苑に云はく、一名は紫栴といふ。
白檀 內典云、旃檀白者謂之白檀
白檀 内典に云はく、旃檀の白き者は之れを白檀と謂ふといふ。
蘇枋 蘇敬本草注󠄁云、蘇枋、〈唐韵作芳、音與方同、此間音須房、〉人用染色者也、
蘇枋 蘇敬本草注に云はく、蘇枋〈唐韻に芳に作る、音は方と同じ、此間に音は須房〉は人の染色に用ゐる者なりといふ。
黑柹 楊氏漢語抄云、柹心、〈久侶加歧、俗用黑柹、或說是柹木心黑處也、爲近󠄁於俗、別以置之、〉
黒柿 楊氏漢語抄に云はく、柿心〈久侶加岐くろがき、俗に黒柿を用ゐる。或説に是れは柿木の心の黒き処なり、俗に近きと為す、別に以て之れを置く〉といふ。
黃楊 兼名苑注󠄁云、黃楊、〈都介、〉色黃白、材堅者也、
黄楊 兼名苑注に云はく、黄楊〈都介つげ〉は色、黄白く、材にして堅なる者なりといふ。
橒 唐韵云、橒、〈音雲、漢語抄云、歧佐、或說、歧佐者蚶之和名也、此木文與蚶貝文相似、故取名焉、今案取和名者、義相近󠄁矣、以此字木名、未詳、〉木文也、
橒 唐韻に云はく、橒〈音は雲、漢語抄に云ふ岐佐きさ。或説に、岐佐きさは蚶の和名なり、此の木の文は蚶貝の文と相似る、故に名を取れり。今案ふるに、和名を取るは義の相近ければか、此の字を以て木の名と為すこと未だ詳かならず〉は木の文なりといふ。
栐 唐韵云、栐、〈音永、漢語抄云、佐久歧、〉木可笏也、
栐 唐韻に云はく、栐〈音は永、漢語抄に云ふ佐久岐さくき〉は木、笏に為るべきなりといふ。
松 漢書云、樹以靑松、〈祥容反、末都、〉
松 漢書に云はく、樹うるに青松を以てすといふ。〈祥容反、末都まつ
栢 兼名苑云、栢、〈音百、〉一名椈、〈音菊、加閇、〉
栢 兼名苑に云はく、栢〈音は百〉、一名は椈〈音は菊、加閉かへ〉といふ。
楓 兼名苑云、楓、〈音風、〉一名欇、〈音攝、乎加豆良、〉爾雅云、有脂而香、謂之楓
楓 兼名苑に云はく、楓〈音は風〉、一名は欇〈音は摂、乎加豆良をかつら〉といふ。爾雅に云はく、脂有りて香しきは之れを楓と謂ふといふ。
桂 兼名苑云、桂、〈音計、〉一名梫、〈音寑、女加都良、〉
桂 兼名苑に云はく、桂〈音は計〉、一名は梫〈音は寑、女加都良めかつら〉といふ。
檉 爾雅注󠄁云、檉、〈勑貞反、〉一名河柳、〈牟呂乃歧、〉
檉 爾雅注に云はく、檉〈勅貞反〉、一名は河柳といふ〈牟呂乃岐むろのき〉。
楊 唐韵云、楊、〈音陽、夜那歧、〉赤莖栁也、兼名苑云、靑楊、一名蒲栁、
楊 唐韻に云はく、楊〈音は陽、夜那岐やなぎ〉は赤茎柳なりといふ。兼名苑に云はく、青楊、一名は蒲柳といふ。
栁 兼名苑云、栁、〈力久反、〉一名小楊、〈之太利夜奈歧、〉崔豹古今注󠄁云、一名獨搖、微風大搖、故以名之、
柳 兼名苑に云はく、柳〈力久反〉、一名は小楊といふ〈之太利夜奈岐しだりやなぎ〉。崔豹古今注に云はく、一名は独揺、微風ふきて大いに揺る、故に以て之れを名くといふ。
水楊 本草云、水楊、〈加波夜那歧、〉
水楊 本草に云はく、水楊〈加波夜那岐かはやなぎ〉といふ。
櫻 文字集略云、櫻、〈烏莖反、佐久良、〉子大如指端、有赤白黑者也、
桜 文字集略に云はく、桜〈烏茎反、佐久良さくら〉、子の大きさ指の端のごとくして、赤、白、黒の者有るなりといふ。
朱櫻 本草云、櫻桃、一名朱櫻、〈波々加、一云加邇波佐久良、〉
朱桜 本草に云はく、桜桃、一名は朱桜といふ〈波々加ははか、一に云ふ加邇波佐久良かにはざくら〉。
柞 四聲字苑云、柞、〈音作、一音昨、由之、漢語抄云、波々曾、〉木名、堪梳也、
柞 四声字苑に云はく、柞〈音は作、一音に昨、由之ゆし、漢語抄に云ふ波々曽ははそ〉は木の名、くしに作るに堪ふるなりといふ。
椐 玉篇云、椐、〈音居、一音踞、漢語抄云、倍美、〉木、腫節中杖也、
椐 玉篇に云はく、椐〈音は居、一音に踞、漢語抄に云ふ倍美へみ〉は木、腫節を杖と為すにつといふ。
櫁 唐韵云、櫁、〈音蜜、漢語抄云、之歧美、〉香木也、
櫁 唐韻に云はく、櫁〈音は蜜、漢語抄に云ふ之岐美しきみ〉は香木なりといふ。
桒 玉篇云、桒、〈音莊、字亦作桑、久波、〉蠶所󠄁食也、
桒 玉篇に云はく、桒〈音は荘、字は亦、桑に作る、久波くは〉は蚕の食する所なりといふ。
柘 毛詩注󠄁云、桑柘、〈音射、漢語抄云、豆美、〉蠶所󠄁食也、
柘 毛詩注に云はく、桑柘〈音は射、漢語抄に云ふ豆美つみ〉は蚕の食する所なりといふ。
枸𣏌 本草云、枸𣏌、根下洞黃泉、其精靈多爲大子、或爲小兒、〈枸𣏌二音、苟起󠄁、沼美久須利、此間音久古、〉抱朴子云、一名杔櫨、〈託盧二音、〉一名却老、
枸𣏌 本草に云はく、枸𣏌、根の下は黄泉に洞し、其の精霊は多く大子と為し、或に小児と為すといふ〈枸𣏌の二音、苟起、沼美久須利ぬみぐすり、此間に音は久古くこ〉。抱朴子に云はく、一名は杔櫨〈託盧の二音〉、一名は却老といふ。
合歡木 唐韵云、棔、〈音昏、禰布利乃歧、〉合歡木、其葉朝舒暮歛者也、
合歓木 唐韻に云はく、棔〈音は昏、禰布利乃岐ねぶりのき〉は合歓木、其の葉は朝にび暮にをさまる者なりといふ。
蔓椒 本草云、蔓椒、〈伊多知波之加美、一云保曾歧、〉
蔓椒 本草に云はく、蔓椒〈伊多知波之加美いたちはじかみ、一に云ふ保曽岐ほそき〉といふ。
吳茱茰 本草云、吳茱茰、〈朱臾二音、加波々之加美、〉
呉茱萸 本草に云はく、呉茱萸〈朱臾の二音、加波々之加美かははじかみ〉といふ。
食茱萸 馬琬食經云、食茱萸、〈於保太良、〉
食茱萸 馬琬食経に云はく、食茱萸〈於保太良おほたら〉といふ。
杉 尒雅音義云、杉、〈音衫、一音纎、須歧、見日本紀私記、今案俗用榅字非也、榅於粉反、柱也、見唐韵、〉似松、生江南、可以爲船材矣、
杉 爾雅音義云はく、杉〈音は衫、一音に纎、須岐すぎ、日本紀私記に見ゆ。今案ふるに俗に榲の字を用ゐるは非なり。榲は於粉反、柱なり、唐韻に見ゆ〉は松に似て江南に生ず、以て船の材とぞ為すべきといふ。
檜 尒雅云、栢葉松身曰檜、〈音㑹、又入聲、古活反、飛、〉
檜 爾雅に云はく、栢の葉にして松の身なるを檜〈音は会、又、入声、古活反、〉と曰ふといふ。
樅 尒雅云、松葉栢身曰樅、〈七容反、毛美、〉
樅 爾雅に云はく、松の葉にして栢の身なるを樅〈七容反、毛美もみ〉と曰ふといふ。
梧桐 陶隱居曰、桐有四種、靑桐、〈音同、〉梧桐、〈上音吾、〉崗桐、椅桐、〈椅音猗、皆歧利、〉梧桐者、色白、有子者、〈今案俗訛呼爲靑桐、是二音讓土、〉椅桐者白桐也、三月花紫、亦堪琴瑟者是、
梧桐 陶隠居曰はく、桐に四種有り、青桐〈音は同〉、梧桐〈上の音は吾〉、崗桐、椅桐〈椅の音は猗、皆、岐利きり〉、梧桐は色白くして子有る者〈今案ふるに俗に訛りて呼び青桐と為す、是の二音は譲土〉、椅桐は白桐なり、三月に花紫、亦、琴瑟を作るに堪ふる者、是れといふ。
厚朴〈重皮附〉 本草云、厚朴、一名厚皮、〈漢語抄云、厚木、保々加之波乃歧、〉釋藥性云、重皮、〈保々乃可波、〉厚朴皮名也、
厚朴〈重皮付〉 本草に云はく、厚朴、一名は厚皮〈漢語抄に云ふ厚木、保々加之波乃岐ほほがしはのき〉といふ。釈薬性に云はく、重皮〈保々乃可波ほほのかは〉は厚朴の皮の名なりといふ。
椶櫚 唐韵云、椶櫚、〈忩閭二音、〉一名蒲葵、說文云、栟櫚、可以爲__萆、〈栟音幷、今案即椶櫚也、俗云種路、〉
椶櫚 唐韻に云はく、椶櫚〈忩閭の二音〉、一名は蒲葵といふ。説文に云はく、栟櫚は以て萆と為すべしといふ。〈栟の音は并、今案ふるに即ち椶櫚なり、俗に云ふしゆ
欒 蘇敬本草注󠄁云、欒、〈魯官反、漢語抄云、木欒子、无久禮邇之乃歧、〉其子堪數珠者也、
欒 蘇敬本草注に云はく、欒〈魯官反、漢語抄に云ふ木欒子、無久礼邇之乃岐むくれにじのき〉、其の子は数珠と為すに堪ふる者なりといふ。
槻 唐韵云、槻、〈音規、都歧乃歧、〉木名、堪弓者也、
槻 唐韻に云はく、槻〈音は規、都岐乃岐つきのき〉は木の名、弓を作るに堪ふる者なりといふ。
榎 尒雅注󠄁云、榎、〈古雅反、字亦作檟、〉一名槄、〈音瑫、衣、〉
榎 爾雅注に云はく、榎〈古雅反、字は亦、檟に作る〉、一名は槄〈音は瑫、〉といふ。
椋 尒雅注󠄁云、椋、〈音良、〉一名即棶、〈音來、牟久、〉
椋 爾雅注に云はく、椋〈音は良〉、一名は即棶〈音は来、牟久むく〉といふ。
木瓜 尒雅注󠄁云、木瓜、一名楙、〈音茂、本草木瓜、毛介、〉其子如小瓜者也、
木瓜 爾雅注に云はく、木瓜、一名は楙〈音は茂、本草に木瓜、毛介もけ〉、其の子は小瓜のごとき者なりといふ。
釣樟 本草云、釣樟、一名鳥樟、〈音章、久沼歧、〉
釣樟 本草に云はく、釣樟、一名は鳥樟といふ〈音は章、久沼岐くぬぎ〉。
羊躑躅 陶隱居曰、羊躑躅、〈擲直二音、伊波都々之、一云毛知豆々之、〉羊誤󠄁食之、躑躅而死、故以名之、
羊躑躅 陶隠居曰はく、羊躑躅〈擲直の二音、伊波都々之いはつつじ、一に云ふ毛知豆々之もちつつじ〉、羊、誤りて之れを食ひ、躑躅して死す、故に以て之れを名くといふ。
茵芋 本草云、茵芋、〈因于二音、邇豆々之、一云乎加豆々之、〉
茵芋 本草に云はく、茵芋〈因于の二音、邇豆々之につつじ、一に云ふ乎加豆々之をかつつじ〉といふ。
山榴 兼名苑云、山榴、〈阿伊豆々之、〉即山石榴也、花與羊躑躅相似矣、
山榴 兼名苑に云はく、山榴〈阿伊豆々之あいつつじ〉は即ち山石榴なり、花、羊躑躅と相似たればかといふ。
槐 尒雅集注󠄁云、葉小而靑曰槐、〈音迴、惠邇須、〉葉大而黑曰櫰、〈音懷、〉葉晝合夜開、謂之守宮槐
槐 爾雅集注に云はく、葉小にして青きを槐〈音は廻、恵邇須ゑにす〉と曰ひ、葉大にして黒きを櫰〈音は懐〉と曰ひ、葉の昼合ひ夜開くは之れを守宮槐と謂ふといふ。
㯉 陸詞切韻云、㯉、〈勅居反、本草云、沼天、〉惡木也、辨色立成云、白膠木、〈和名上同、〉
㯉 陸詞切韻に云はく、㯉〈勅居反、本草に云ふ沼天ぬて〉は悪木なりといふ。弁色立成に云ふ白膠木〈和名は上に同じ〉。
檍 說文云、檍、〈音億、日本紀私記云、阿波歧、今案又橿木一名也、見爾雅、〉梓之屬也、
檍 説文に云はく、檍〈音は億、日本紀私記に云ふ阿波岐あはき、今案ふるに又、橿の木の一名なり、爾雅に見ゆ〉は梓の属なりといふ。
*原本枛棱 唐韵云、*原本枛棱、〈孤稜二音、曾波乃歧、〉四方木也、
柧棱 唐韻に云はく、柧棱〈孤稜の二音、曽波乃岐そばのき〉は四方木なりといふ。
橿 唐韵云、橿、〈音畺、加之、〉萬年木也、尒雅集注󠄁云、一名杻、一名檍、〈杻音紐、今案又杻械之杻、見刑獄具󠄁、〉
橿 唐韻に云はく、橿〈音は畺、加之かし〉は万年木なりといふ。爾雅集注に云はく、一名は杻、一名は檍といふ〈杻の音は紐、今案ふるに又、杻械の杻、刑獄具に見ゆ〉。
柀 玉篇云、柀、〈音彼、日本紀私記云、末歧、今案又杉一名也、見爾雅注󠄁、〉木名也、作柱埋之、能不腐者也、
柀 玉篇に云はく、柀〈音は彼、日本紀私記に云ふ末岐まき、今案ふるに又、杉の一名なり、爾雅注に見ゆ〉は木の名なり、柱に作り之れを埋む、能く腐らざる者なりといふ。
梓 孫愐曰、梓、〈音子、阿都佐、〉木名、楸之屬也、
梓 孫愐曰はく、梓〈音は子、阿都佐あづさ〉は木の名、楸の属なりといふ。
穀 玉篇云、楮、〈都古反、〉穀木也、唐韵云、穀、〈音糓、加知、〉木名也、
穀 玉篇に云はく、楮〈都古反〉は穀木なりといふ。唐韻に云はく、穀〈音は糓、加知かぢ〉は木の名なりといふ。
檀 唐韵云、檀、〈音彈、末由美、〉木名也、
檀 唐韻に云はく、檀〈音は弾、末由美まゆみ〉は木の名なりといふ。
杜仲 陶隱居曰、杜仲、一名木綿、〈杜音度、波比末由美、〉折之多白絲者也、
杜仲 陶隠居曰はく、杜仲、一名は木綿〈杜の音は度、波比末由美はひまゆみ〉、之れを折れば白糸多き者なりといふ。
衞矛 本草云、衞矛、〈久曾末由美、一云加波久末都々良、〉
衛矛 本草に云はく、衛矛〈久曽末由美くそまゆみ、一に云ふ加波久末都々良かはくまつづら〉といふ。
蕪夷 本草云、蕪夷、一名𦽄䕋、〈殿肫二音、比歧佐久良、〉
蕪夷 本草に云はく、蕪夷、一名は𦽄䕋〈殿肫の二音、比岐佐久良ひきざくら〉といふ。
榆 爾雅注󠄁云、榆、〈音臾、〉白者名曰枌、〈音紛、夜邇禮、〉
楡 爾雅注に云はく、楡〈音は臾〉、白き者を名けて枌〈音は紛、夜邇礼やにれ〉と曰ふといふ。
石檀 蘇敬本草注󠄁云、秦皮、一名石檀、〈止禰利古乃歧、一云太无歧、〉葉似檀、故以名之、
石檀 蘇敬本草注に云はく、秦皮、一名は石檀〈止禰利古乃岐とねりこのき、一に云ふ太無岐たむき〉、葉は檀に似る、故に以て之れを名くといふ。
陵苕 本草云、紫葳、〈音威、〉一名陵苕、〈音條、末加夜歧、一云農世宇、〉蘇敬曰、一名陵霄、
陵苕 本草に云はく、紫葳〈音は威〉、一名は陵苕〈音は条、末加夜岐まかやき、一に云ふのう世宇ぜう〉といふ。蘇敬曰はく、一名は陵霄といふ。
五茄 神仙服餌方云、五茄、〈无古歧、〉或茄作家、言同本而五家、如五家爲相隣也、
五茄 神仙服餌方に云はく、五茄〈無古岐むこぎ〉は或に茄を家に作るといふ。言ふは本を同じくして五家あり、五家、相隣りるがごときなればなり。
賣子木 本草云、賣子木、〈加波知佐乃歧、〉
売子木 本草に云はく、売子木〈加波知佐乃岐かはちさのき〉といふ。
雞冠木 楊氏漢語抄云、雞冠木、〈賀倍天乃歧、辨色立成云、雞頭樹、加比流提乃歧、今案是一木名也、〉
鶏冠木 楊氏漢語抄に云はく、鶏冠木〈賀倍天乃岐かへでのき、弁色立成に云ふ鶏頭樹、加比流提乃岐かひるでのき、今案ふるに是れ一つの木の名なり〉といふ。
接骨木 本草云、接骨木、〈美夜都古歧、〉
接骨木 本草に云はく、接骨木〈美夜都古岐みやつこぎ〉といふ。
金漆樹 楊氏漢語抄云、金漆樹、〈許師阿夫良乃歧、〉
金漆樹 楊氏漢語抄に云ふ金漆樹〈許師阿夫良乃岐こしあぶらのき〉。
烏草樹 楊氏漢語抄云、烏草樹、〈佐之夫乃歧、弁色立成說同、〉
烏草樹 楊氏漢語抄に云ふ烏草樹〈佐之夫乃岐さしぶのき、弁色立成の説同じ〉。
女貞 拾遺󠄁本草云、女貞、一名冬靑、〈太豆乃歧、楊氏抄云、比女都波歧、〉冬月靑翠、故以名之、
女貞 拾遺本草に云はく、女貞、一名は冬青〈太豆乃岐たづのき、楊氏抄に云ふ比女都波岐ひめつばき〉、冬月に青翠、故に以て之れを名くといふ。
莽草 山海經注󠄁云、莽草、〈本草云、之歧美、〉可以毒__魚者也、
莽草 山海経注に云はく、莽草〈本草に云ふ之岐美しきみ〉は以て魚を毒すべき者なりといふ。
黃芩 本草云、黃芩、〈音琴、比々良歧、〉楊氏漢語抄云、杠谷樹、〈杠音江、和名同上、〉一云巴戟天、
黄芩 本草に云はく、黄芩〈音は琴、比々良岐ひひらぎ〉といふ。楊氏漢語抄に云ふ杠谷樹〈杠の音は江、和名は上に同じ〉、一に云ふ巴戟天。
石楠草 本草云、石楠草、〈楠音南、止比良乃歧、俗云佐久奈无佐、〉
石楠草 本草に云はく、石楠草〈楠の音は南、止比良乃岐とびらのき、俗に云ふ佐久奈無佐さくなむざ〉といふ。
木蘭 本草云、木蘭、一名林蘭、〈毛久良邇、〉
木蘭 本草に云はく、木蘭、一名は林蘭といふ〈毛久良邇もくらに〉。
蔓荊 蘇敬曰、蔓荊、一名小荆、〈波万波比、〉
蔓荊 蘇敬曰はく、蔓荊、一名は小荊といふ〈波万波比はまはひ〉。
荊 唐韵云、荊、〈音京、漢語抄云、奈萬衣乃歧、〉木名也、
荊 唐韻に云はく、荊〈音は京、漢語抄に云ふ奈万衣乃岐なまえのき〉は木の名なりといふ。
柃 玉篇云、柃、〈音令、一音冷、漢語抄云、比佐加歧、〉似荊可染灰者也、
柃 玉篇に云はく、柃〈音は令、一音に冷、漢語抄に云ふ比佐加岐ひさかき〉は荊に似て染灰に作るべき者なりといふ。
椿 唐韵云、椿、〈勑倫反、豆波歧、〉木名也、楊氏漢語抄云、海石榴、〈和名同上、式文用之、〉
椿 唐韻に云はく、椿〈勅倫反、豆波岐つばき〉は木の名なりといふ。楊氏漢語抄に云ふ海石榴〈和名は上に同じ、式の文に之れを用ゐる〉。
楸 唐韵云、楸、〈音秋、漢語抄云、比佐歧、〉木名也、
楸 唐韻に云はく、楸〈音は秋、漢語抄に云ふ比佐岐ひさぎ〉は木の名なりといふ。
蜀漆〈恒山附〉 新抄本草云、蜀漆、〈久佐歧、一云夜末宇豆歧乃禰、〉恒山苗也、恒山、〈宇久比須乃伊比禰、一云久佐歧乃禰、〉
蜀漆〈恒山付〉 新抄本草に云はく、蜀漆〈久佐岐くさぎ、一に云ふ夜末宇豆岐乃禰やまうつぎのね〉は恒山の苗なりといふ。恒山〈宇久比須乃伊比禰うぐいすのいひね、一に云ふ久佐岐乃禰くさぎのね〉。
楝 玉篇云、楝、〈音練、本草云、阿不知、〉其子如指頭、白而黏、可以浣__衣者也、
楝 玉篇に云はく、楝〈音は練、本草に云ふ阿不知あふち〉、其の子、指頭のごとし、白くして黏る、以て衣をあらふべき者なりといふ。
楢 唐韵云、楢、〈音秋、漢語抄云、奈良、〉堅木也、
楢 唐韻に云はく、楢〈音は秋、漢語抄に云ふ奈良なら〉は堅木なりといふ。
[坂樹 日本紀私記云、天香山之眞坂樹、〈佐加木、漢語抄榊字、本朝式用賢木二字、本草云、龍眼、一名益智、佐賀岐乃美、〉]
[坂樹 日本紀私記に云はく、天香山の真坂樹〈佐加木さかき、漢語抄に榊の字、本朝式に賢木の二字を用ゐる、本草に云ふ龍眼、一名は益智、佐賀岐乃美さかきのみ〉といふ。]
桵 爾雅注󠄁云、桵、〈音蕤、太良、〉小木叢生、有刺也、
桵 爾雅注に云はく、桵〈音は蕤、太良たら〉は小木の叢り生じ、刺有るなりといふ。
溲䟽 本草云、溲䟽、〈上音所󠄁流反、〉一名楊櫨、〈宇都歧、〉
溲疏 本草に云はく、溲疏〈上の音は所流反、〉、一名は楊櫨といふ〈宇都岐うつぎ〉。
木天蓼 删繁論云、木天蓼、〈和太々比、〉
木天蓼 刪繁論に云はく、木天蓼〈和太々比わたたび〉といふ。
檳榔〈子附〉 兼名苑注󠄁云、檳榔、〈賓郎二音、此間音旻朗、〉葉聚樹端、有十餘房󠄁、一房數百子者也、本草云、檳榔子、一名蒳子、〈上音納󠄁、〉
檳榔〈子付〉 兼名苑注に云はく、檳榔〈賓郎の二音、此間に音は旻朗〉、葉は樹の端に聚り、十余の房有り、一房に数百の子ある者なりといふ。本草に云はく、檳榔子、一名は蒳子〈上の音は納〉といふ。
槲 本草云、槲、〈音斛、可之波、〉唐韻云、柏、〈音帛、和名同上、〉木名也、
槲 本草に云はく、槲〈音は斛、可之波かしは〉といふ。唐韻に云はく、柏〈音は帛、和名は上に同じ〉は木の名なりといふ。
楠 唐韻云、楠、〈音南、字亦作柟、本草、久須乃歧、〉木名也、櫲樟、〈豫章二音、日本紀讀同上、〉木名、生而七年始知矣、
楠 唐韻に云はく、楠〈音は南、字は亦、柟に作る、本草に久須乃岐くすのき〉は木の名なり、櫲樟〈予章の二音、日本紀に読みて上に同じ〉は木の名、生じて七年して始めて知れりといふ。
舉樹 本草云、舉樹、〈久奴歧、〉日本紀私記云、歷木、
挙樹 本草に云ふ挙樹〈久奴岐くぬぎ〉、日本紀私記に云ふ歴木。
枳椇 本草云、枳椇、〈只矩二音、加良太知、〉玉篇云、枳似橘而屈曲者也、七卷食經云、枸櫞、〈枸、即椇字也、櫞音緣、加布知、〉
枳椇 本草に云はく、枳椇〈只矩の二音、加良太知からたち〉といふ。玉篇に云はく、枳は橘に似て屈曲する者なりといふ。七巻食経に云はく、枸櫞〈枸は即ち椇の字なり、櫞の音は縁、加布知かぶち〉。
楰 四聲字苑云、楰、〈音臾、漢語抄云、禰須美毛知乃歧、〉鼠梓木也、
楰 四声字苑に云はく、楰〈音は臾、漢語抄に云ふ禰須美毛知乃岐ねずみもちのき〉は鼠梓木なりといふ。
寄生 本草云、寄生、一名寓木、〈寓亦寄也、音遇󠄁、󠄁夜度利歧、一云保夜、〉
寄生 本草に云はく、寄生、一名は寓生〈寓は亦、寄するなり、音は遇、夜度利岐やどりぎ、一に云ふ保夜ほや〉といふ。

木具󠄁百廿八〈草具󠄁附出〉
木具百二十八〈草具付出す〉
根株 東宮切韻云、根株、〈痕誅二音、訓上禰、下久比世、〉草木本也、唐韻云、荄、〈音皆、〉草根也、
根株 東宮切韻に云はく、根株〈痕誅の二音、訓は上は、下は久比世くひぜ〉は草木の本なりといふ。唐韻に云はく、荄〈音は皆〉は草の根なりといふ。
櫱 纂要云、斬而復生曰櫱、〈魚列反、比古波衣、〉
櫱 纂要に云はく、斬りてまた生ずるを櫱〈魚列反、比古波衣ひこばえ〉と曰ふといふ。
枝條 玉篇云、枝柯、〈支哥二音、衣太、〉木之別也、纂要云、大枝曰幹、〈音翰、加良、〉細枝曰條、〈音迢、訓與枝同、〉唐韵云、葼、〈音聰、之毛止、〉木細枝也、
枝条 玉篇に云はく、枝柯〈支歌の二音、衣太えだ〉は木の別るるなりといふ。纂要に云はく、大枝を幹〈音は翰、加良から〉と曰ひ、細枝を条〈音は迢、訓は枝と同じ〉と曰ふといふ。唐韻に云はく、葼〈音は聡、之毛止しもと〉は木の細枝なりといふ。
莖 玉篇云、莖、〈戶耕󠄁反、久歧、〉枝之主󠄁也、
茎 玉篇に云はく、茎〈戸耕反、久岐くき〉は枝の主なりといふ。
葉 陸詞曰、葉、〈與渉反、波、万葉集黃葉、紅葉、讀皆並毛美知波、〉草木之敷於莖枝者也、
葉 陸詞曰はく、葉〈与渉反、、万葉集に黄葉、紅葉を読むに皆、並びに毛美知波もみちば〉は草木の茎枝に敷く者なりといふ。
樹梢 唐韵云、梢、〈所󠄁交反、古須惠、〉枝梢也、
樹梢 唐韻に云はく、梢〈所交反、古須恵こずゑ〉は枝梢なりといふ。
樾 纂要云、木枝相交、下陰曰樾、〈音越、古牟良、〉
樾 纂要に云はく、木の枝相交はる下陰を樾〈音は越、古牟良こむら〉と曰ふといふ。
杈椏 方言云、江東謂*原本枝杈椏、〈砂鵶二音、末太不利、〉
杈椏 方言に云はく、江東に樹岐を謂ひて杈椏〈砂鵶の二音、末太不利またふり〉と曰ふといふ。
樸 玉篇云、樸、〈音璞、字亦作朴、古波太、〉木皮也、
樸 玉篇に云はく、樸〈音は璞、字は亦、朴に作る、古波太こはだ〉は木の皮なりといふ。
樺 玉篇云、樺、〈戶花胡化󠄁二反、迦邇波、今櫻皮有之、〉木名、皮可以爲__炬者也、
樺 玉篇に云はく、樺〈戸花、胡化の二反、迦邇波かには、今の桜皮に之れ有り〉は木の名、皮は以てたいまつと為すべき者なりといふ。
花 爾雅云、木花謂之華、〈戶花反、〉草花謂之榮、〈永兵反、〉榮而不實、謂之英、〈於驚反、阿太波奈、〉
花 爾雅に云はく、木の花は之れを華〈戸花反〉と謂ひ、草の花は之れを栄〈永兵反〉と謂ひ、栄にして実らざるは之れを英〈於驚反、阿太波奈あだばな〉と謂ふといふ。
葩 東宮切韵云、葩、〈音巴、波奈比良、〉草木花片也、
葩 東宮切韻に云はく、葩〈音は巴、波奈比良はなびら〉は草木の花片なりといふ。
蕚 東宮切韵云、萼、〈五各反、波奈布佐、一云花房、〉承花跗也、
萼 東宮切韻に云はく、萼〈五各反、波奈布佐はなぶさ、一に云ふ花房〉は花を承くる跗なりといふ。
蘃 東宮切韵云、蘃、〈而髓反、之倍、〉花心也、
蕊 東宮切韻に云はく、蕊〈而髄反、之倍しべ〉は花の心なりといふ。
莭 四聲字苑云、莭、〈子結反、不之、今案從竹者竹節、從草者草木莭、見玉篇、〉草木擁腫處也、
莭 四声字苑に云はく、莭〈子結反、不之ふし、今案ふるに竹に従ふ者は竹節、草に従ふ者は草木莭、玉篇に見ゆ〉は草木擁腫の処なりといふ。
心 周󠄀易云、其於木也、爲堅多心、〈師說多心讀奈加古可知、〉
心 周易に云はく、其の木に於けるや堅くして心多きと為すといふ。〈師説に多心の読みは奈加古可知なかごがち
樹汁 蘇敬本草注󠄁云、松㶆、〈音猪、松乃之流、〉取松枝、燒其上、承取汁之名也、
樹汁 蘇敬本草注に云はく、松㶆〈音は猪、まつ乃之流のしる〉は松の枝を取り、其の上に焼き、汁を承取するの名なりといふ。
松脂〈伏苓附〉 玄中記云、松脂淪入地、千歲則爲伏苓、〈郎丁反、松脂、万豆夜邇、伏苓、末都保度、〉
松脂〈伏苓付〉 玄中記に云はく、松脂ちて地に入り、千歳へるときには伏苓と為るといふ〈郎丁反、松脂は万豆夜邇まつやに、伏苓は末都保度まつほど〉。
半󠄁天河 本草云、半󠄁天河、〈歧乃宇豆保能美都、〉陶隱居曰、竹籬頭水也、
半天河 本草に云はく、半天河〈岐乃宇豆保能美都きのうつほのみづ〉といふ。陶隠居曰はく、竹籬頭の水なりといふ。

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